事例に学ぶ
マンション建替え成功の方程式
2012年10月15日
旭化成不動産レジデンス株式会社 マンション建替え研究所主任研究員
大木祐悟
マンション建替えに失敗する原因は?
1.合意形成に失敗すること
2.訴訟になった場合に建替え決議が否認されてしまうこと
3.建替えの合意ができたものの事業の実現の目途が立たない場合
合意形成に失敗するケース
失敗の内容 失敗の原因
元の推進者と現在の推進者の対立
合意形成の過程におけるボタンの掛け違い 拙速な合意形成や説明不足等
建替えを自らの利益にしようとする人物の存在 建替え反対者による扇動
情報発信の少なさ
修繕・改修と建替えの比較検討が不十分 環境が変化することへの不安等
その他の不安(引越し・仮住まい等)への不安等
経済条件に翻弄されるケース その他
4.夢と現実の大きなギャップ
3.建替えのメリットが実感できない
2.推進者や事業者に対する不信感
1.区分所有者間の深刻な対立
区分所有者間の対立を防ぐには・・・
前提条件(一戸建て住宅建替えの資金計画)
1.一般的なケース
建築資金
手持ち金 借入金
一般的には、手持ち金と借入金で建替えを実 現している。
2.レアケースとして
建築資金
土地売却益 手持ち金等 一部売却
余剰地を売却して住宅の建築資金の一部もしくは全部を まかなうケースもある。
土 地
新築建物
土 地
旧建物
土 地
旧建物
土 地
旧建物
マンション建替えの資金計画の考え方
1.これまで一般に行われた手法
保留床の売却による建替え資金の捻出
(現状が容積率を半分しか消化していないケース)
再建前 再建後
従後土地の持分と保留床を売却することで、
再建建物の建築資金を捻出している。
2.当面の方向性
①自己資金の準備
・各人に応分負担能力があれば問題ありません
が、区分所有者の数も多い中、すべての区分
所有者に応分な資金負担能力があるとは限り
ません。
・こうしたことから、中期的には、管理組合の内部
留保(修繕積立金等)を厚くする必要があると思
われます。
②融資について
・住宅金融支援機構の高齢者特別融資の活用
③その他
・補助金を有効に活用できないか?
土 地 建 物
土地
(持分は一部譲渡)
従前所有 者取得分 外部販売 分住戸
「マンション建替えの仕組み」についての前提
区分所有法の規定
62条 ・・・ 建替え決議の招集から建替え決議までの項目
63条 ・・・ 建替え非賛成者に対する催告と売渡請求にかかる項目
64条 ・・・ 催告による建替え参加者は建替え賛成者と同じであることを規定
以上が、単棟型マンションにかかる規定
69条 ・・・ 団地の一部建替えにかかる承認決議
70条 ・・・ 団地一括建替え決議
ベースは単棟型のマンション建替えであるが、団地の場合には団地独特の
留意点があるため、特に団地の建替えについてはプラス α の理解が必要。
建替えの基本形
単棟型マンションの場合
ケーススタディ(1)
単棟型マンションの建替えについて
建替えに失敗する主たる要因
1.計画時点で実現不可能な夢を見せること
→ 特に経済条件について、実際よりも有利に見える計画で初期段階の合意形成を進めると、話が具体
化した時点で現実の数字が出てくると、条件が下がる可能性が高い(この時点で、区分所有者の気持
が挫けてしまう可能性がある。)。
2.区分所有者間で修復困難な対立関係を作ること
→ 最終的には、このケースは訴訟等となる可能性が高く、合意形成後の建替えにも大きな障害となる可
能性がある。
3.リーダーが私益に走ること
→ 建替えを中心で進める人が、自分の利益に走ると、合意形成に大きな支障をきたす(区分所有者が
設計や、工事関係の従事者で、相見積を取得せずに、自分の仕事にしてしまうケース(勿論、相見積
等の結果、同じレベルの仕事も一番安く受けてくれるような場合は別である。
建替え決議までのスケジュールの概要
2月以上前に発送
1月以上前に開催 区分所有法の規定
速やかに
賛成 非賛成
2月以内に回答
建替え参加の回答者 左記以外の区分所有者
建替え決議
法定説明会 建替え決議の招集
建替え決議のための諸準備
建替えを進めることについての同意
修繕改修か建替えかの検討
売渡請求権行使対象者
建替え参加者
法63条の催告
売渡請求権の行使の効果について
売買契約を締結した状況となる
(建替えに賛成)
催告による未賛成者 催告による賛成者
建替え決議賛成者
建替え合意者
売 渡 請 求
結果的に全員合意状態となる。
売渡請求権行使後の問題点
売買契約は成立している状況であるが、登記移転と明渡しは任意の問題
相手方が応じてくれない場合は、原則として訴訟による手続きの必要がある。
(時間と費用がかかってしまう。)
円滑化法の組合施行の場合 場合によっては仮処分で対応は可能
適切に売渡請求権を行使した 場合には、権利変換計画で登 記名義は移転することは可能
所有権移転登記の問題 明渡しの問題
円滑化法を利用しない場合は、「登記移転」は確定判決がないと対応できません。
また、円滑化法を利用した場合でも、仮処分で明渡しができない場合には、確定
判決がないと明渡しを強制することはできません(円満な合意形成が必要です)。
万が一の訴訟への準備
建替え非賛成者から建替え決議の有効性に関して争う訴訟リスク
1.前述のとおり、時間や費用が発生すること
2.裁判で「建替え決議が無効」となるリスク こちらが怖い
必要な対応は
①規約のチェック(規約や法律通りに運営ができていないケースも少なくない。)
②区分所有者のチェック(相続未登記等の問題や、特に高齢者の場合は認知症の有無)
③区分所有者に対しての十分な説明を行っているか否か?
④建替え決議の議案の精査
⑤その他
余談ですが・・・こんなケースも
1.子供がいず、兄弟姉妹もいない高齢者の方のケース
→ 建替え決議前に、逝去されてしまった・・・相続人が誰なのか確定するにも時間が・・・。
2.ご主人が区分所有者であるが、7年前に失踪されていた
→ 失踪宣告を受けないと相続登記ができない(区分所有者の意思決定ができない。)
区分所有法第35条3項「(総会の)通知は、区分所有者が管理者に対して通知を受けるべき場 所を通知したときはその場所に、これを通知しなかったときは区分所有者の所有する専有部分 が所在する場所にあててすれば足りる」とされているため、とりあえず住戸に対して発送をすると
共に、弁護士を通じて相続を確定する作業を行った。このケースでは決議までに確定できた。
建替え決議の招集の検討をしている時点で、失踪から7年を迎えたため、失踪宣告をしたが、失 踪宣告の申し立てから宣告がされるまでに10月程度の時間がかかったことから、建替え決議に は賛成をすることができなかった。ただし、催告後の回答期間には間に合ったため、催告による
建替えの参加という取扱とさせてもらった(権利者の方には手続きは予め説明をしておいた。)
マンションは多数の区分所有者で構成されることから、実際には様々な事態が発
生しますし、そうしたことに臨機応変に対応することも必要な作業となります。
等価交換方式での決議後のスケジュール
建替え参加者確定
(全部が終了すると・・・)
解体工事着手 施工期間 完成・明渡し
建築確認許可の取得等
等価交換契約 ゼネコン選定 実施設計
基本設計の確定 住戸選定
区分所有者の数が 多いと時間がかか るケースもある。
建替えの応用系
団地型マンションの場合
団地の建替え
建替え前の状況
再建後の建物
団地の建替え決議について
法69条(建替え承認決議) 法70条(団地一括建替え決議)
現状では、決議の制度はあるが、実 務に落として対応をする場合には解 決すべき問題は多いように思われる。
実際にはかなり利用されているが、
要件が比較的厳格であるため注意 点等も多いことに留意する必要が。
どちらにも乗らない建替えが存在することも事実である。
団地の中の一部の棟の建替えをする場合
団地全体の建替えを行う場合
法70条1項の決議の要件
以下の要件を満たす場合には、団地一括建替え決議を行うことができる。
①団地内の建物の全部が専有部分のある建物であること
②団地内建物の敷地が、団地内建物の区分所有者と同一であること
③団地管理組合規約で各棟の管理をしていること
当社がこれまで対応したケースでも、団地内に一棟だけ普通建物が存在 したために、70条1項の団地一括建替え決議ができないケースがあった。
昭和58年の区分所有法改正以前の団地の場合は、土地と建物が別々に処分 できたことから、相続等で名義が変わっているようなケースも散見される。
規約の効力に問題があるケースもある。
事例の概況
1.昭和31年に日本住宅公団から分譲された最初期の団地
2.従前は5棟、120戸で構成
約半分が空住戸
居住住戸の中で、区分所有者本人居住は24戸
3.規約で、管理組合の理事は「居住区分所有者」となっていたことから、理
事会の構成にも苦労する状況であった。
当社が相談を受ける 10 年位年前に、「全員合意」で建替えを目指したが破綻し
てしまったことから区分所有者の流出が激しく上記の様な状況となっていた。
建替えに際しての課題
①区分所有者の中のあきらめ・・・この団地は、もう建替えはできない
→ 区分所有者の中の数名が、コツコツと合意形成にチャレンジを始めていた。
②この状況でも「ゆっくり検討すべきだ」という声もあった。
→ よくよく聞いてみると、数年前に500万円くらいかけて、リノベーションをした人物だった。
③総合設計案と建築基準法案での二つの考え方があった
→ 超高層建築のできる総合設計案が必ずしも有利でもなかった(擁壁の保存の話)。
④高齢区分所有者が多かった
→ 説明会や個別相談等で、それぞれの区分所有者に理解をしてもらいながら進めた。
⑤借家人の退去や抵当権者との交渉の必要性
→ 原則として各所有者に対応してもらったが、側面からサポートをした。
最後まで問題となったケース
1.相続が二回発生したケースで、相続人が二つに分かれて紛争となっていたケース
共有住戸の場合には、議決権行使者を1名選定して、その者が賛否をする必要がある(区
分所有法第40条)が、相続人間で紛争があったため、議決権行使者を決定できなかった。
売渡請求権行使後に、裁判所に関与してもらい、和解で対応した。
2.前述のリノベーションで500万円をかけていた人物
マンション建替えの場合は、一部の個人に発生した費用を何らかの形で面倒を見る場合に
は、結果的に他の区分所有者の評価を削ることになってしまう。
建替え決議で圧倒的多数の賛成の結果、催告で建替えに参加してもらった
(もっとも、完成後は非常に喜んでもらえた。)
古くからの帰属を残しつつ、最新のマンションに
完成した建物の写真
文化財指定の擁壁資金計画について
諸事情から、事業によって従前区分所有者が無償で取得できる割合
・・・ 概ね65%程度 従前建物面積40㎡の場合 → 26㎡程度
従前建物面積45㎡の場合 → 28.5㎡程度
対応策
①東向きや西向き住戸の居住性の確保(低層階であれば、取得できる面積は広くなる。)
②世帯人数の減少から、35㎡程度でも十分に居住できるケースも少なくなかった。
③修繕をする場合でも、「バリアフリー」「耐震性の確保」等を行うと、相当な負担が生じる状
況であったため、ある程度の資金を準備していた区分所有者も少なくなかった。
これから建替えを始めるマンションに対して
基本的な提案
すぐに建替えが必要ではないマンションの場合でも、将来的な建替えの時期を見据えて、タイ ムスケジュールを逆にして、「今必要なことは何か?」という観点からマンション管理を行う。
①資金計画面では、建替えに必要な資金の一部を内部留保で確保しておく
②また、大規模修繕等も、必要な範囲で行うようにすれば、無駄な支出がなくなる。
③借家人問題についても、想定建て替え時期が10年以上前から明示されていれば、定期
借家契約で対応することが可能となる。
④加えて、かなり以前から建替えをすることが明らかなマンションの場合は、立ち退き交渉も
比較的楽なケースが多い。
⑤最後に、個人でリフォームをする人物に対しても、無駄な資金投下をしないようアラームと
もなる(もっとも、転売をする区分所有者については、不動産会社にどこまでこうした内容
を説明してもらえるか・・・という点はリスクとしては残る。)。