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― 日本の室内空気質の現状

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国立医薬品食品衛生研究所生活衛生化学部(〒158 8501 東京都世田谷区上用賀1181)

現所属:名城大学薬学部(〒4688503 名古屋市天白 区八事山150)

e-mail: jinno@meijo-u.ac.jp

本総説は,日本薬学会第135年会シンポジウムS58で 発表した内容を中心に記述したものである.

791 YAKUGAKU ZASSHI136(6) 791―793 (2016)2016 The Pharmaceutical Society of Japan

―Symposium Review―

日本の室内空気質の現状 神 野 透 人

Current Indoor Air Quality in Japan

Hideto Jinno

Division of Environmental Chemistry, National Institute of Health Sciences;

1181 Kamiyoga, Setagaya-ku, Tokyo 1588501, Japan.

(Received November 10, 2015)

People spend more than two thirds of their daily time indoors. Hence, maintaining a healthy indoor environment is indispensable for the prevention of building related illness. In Japan, guidelines for indoor air quality have been estab- lished for 13 volatile/semi-volatile organic compounds(VOCs/SVOCs). These guidelines are now under revision by the Committee on Sick House Syndrome: Indoor Air Pollution. In order to gain information on the current indoor air pol- lutants and their levels, we carried out a nation-wide survey of VOCs and aldehydes in indoor residential air during 20122013. In this review, I concisely summarized the current indoor air quality of Japan.

Key words―indoor air quality guideline; volatile organic compound; risk assessment

1. はじめに

「室内」は人が1日の2/3以上を過ごす空間であ り , 揮 発 性 有 機 化 合 物 (volatile organic com- pounds; VOC)への曝露という観点から,室内空 気は食品・飲料水や大気に匹敵する,極めて重要な 曝露媒体であると言える.わが国では,1990年代 に住宅の断熱性及び気密性の向上と相まって,建 材,家具や家庭用品に由来する化学物質による健康 障害が顕在化した.そこで,厚生省(現在の厚生労 働省)では2000年に「シックハウス(室内空気汚 染)問題に関する検討会」(以下,シックハウス検 討会と略す)を立ち上げ,VOC及び準揮発性有機 化 合 物semi-volatile organic compounds(SVOC) と総称される,沸点が240ないし260°C380ないし 400°Cの範囲の比較的沸点の高い化合物,計13物 質について室内濃度指針値を設定した.さらに,総 体的に室内空気質を向上させて居住者の健康を確保 するという観点から,総揮発性有機化合物(total

VOC; TVOC,ガスクロマトグラフによる分析にお

いてn-ヘキサンからn-ヘキサデカンの間に溶出す

るVOCの総和)について,400mg/m3の暫定目標 値を設けた.室内濃度指針値は,その後,「住宅の 品質確保の促進等に関する法律」や「学校環境衛生 基準」の典拠としてわが国における健全な室内空気 質の確保に重要な貢献をしてきた.しかし,室内濃 度指針値・暫定目標値が設定されてから既に10年 以上が経過しており,この間に代替溶剤等の使用に 伴う新たな室内環境汚染が生じているおそれがある ものの,室内空気質の変遷に関して,その実態はか ならずしも十分に把握されているとは言い難い.さ らに,WHOの室内空気質ガイドライン1)が提示さ れた未規制物質による室内空気汚染実態の把握も急 務となっている.このような背景から,厚生労働省 ではシックハウス検討会を約10年ぶりに2012年9 月に開催し,室内濃度指針値の見直しあるいは対象 物質の追加に関する議論を開始した.また,これに 呼応して,国立医薬品食品衛生研究所生活衛生化学 部第一室では,厚生労働省の支出委任事業として地 方衛生研究所との協働による「室内空気環境汚染化 学物質調査:全国実態調査」を2011年から実施し てきた.本誌上シンポジウムでは,全国実態調査の 結果,明らかになった日本の室内空気質の現状につ

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いて概説する.

2. 室内空気質の現状

2012年度夏季及び冬季の2回,全国の111家屋 を対象にして,室内濃度指針値が設定されているア ルデヒド類(ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒ ド)と揮発性有機化合物(トルエン,キシレン,エ チルベンゼン,スチレン,1,4-ジクロロベンゼン及 びテトラデカン),並びに暫定目標値が設けられて いるTVOCに加えて,WHOでガイドライン値が 示されているVOCとして,ベンゼン,ナフタレ ン,トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレン の4物質について,室内濃度の調査を行った.

アルデヒド類では,気温の上昇に伴って放散速度 が増加すると考えられる夏季に,居間及び寝室のホ ルムアルデヒド濃度が室内濃度指針値(100mg/m3) を超える家屋がそれぞれ4%,7%の割合で存在し た.これに対して,冬季には居間及び寝室のいずれ においても指針値を超える家屋はなかった.一方,

アセトアルデヒドについては,指針値(48mg/m3) を超える家屋が45%(夏季)あるいは23%(冬 季)存在した.また,室内濃度指針値が定められて いるVOCの中で,トルエン(指針値260mg/m3),

キシレン(870mg/m3),エチルベンゼン(3800mg/

m3),ス チレン (220mg/m3)及 びテト ラデカ ン

(330mg/m3)については夏季,冬季のいずれも室内 濃度指針値を超える家屋はなかった.これに対して,

1,4-ジクロロベンゼンでは指針値(240mg/m3)を 超過する家屋が夏季に48%,冬季には57%存在 し,中には室内濃度指針値の5倍を超える濃度で検 出される例もみられた.このように,室内濃度指針 値設定物質については概ね良好な状態に保たれてい るものの,主として防虫剤に由来する1,4-ジクロロ ベンゼンのように,過度の室内空気汚染がみられる VOCもあることから,なんらかの対応が必要であ ると考えられる.

次に,WHOガイドライン値設定物質についてみ ると,ベンゼンでは日本の大気環境基準に相当する 濃度(3mg/m3)を超える家屋が夏季の居間及び寝 室でそれぞれ3%,6%,冬季にはそれぞれ22%,

24%あり,最高で10ないし20mg/m3の濃度でベン ゼンが検出される例が存在した.外気に由来する汚 染のみではこのような高濃度のベンゼンを説明する ことは不可能であり,なんらかの室内の発生源を疑

う必要があると考えられる.また,ナフタレンにつ いても,夏季に4ないし6%の家屋でWHOガイド ライン値(10mg/m3)を超えており,最高濃度も 320mg/m3という極めて高い値であった.これらの VOCについては,わが国においても,室内濃度指 針値の設定を含む行政的な施策が必要であろう.

これらの化合物のほかに,テルペン類[リモネン

(410)及びピネン(560)],直鎖脂肪族炭化水素類

[n-ノナン(510)及びn-デカン(490)],メチルシ クロヘキサン(480),デカメチルシクロペンタシロ キサン(490),2-エチルヘキサノール(120),プロ ピレングリコールモノメチルエーテル(135),トリ メチルベンゼン(110)などが比較的高い濃度で検 出された(括弧内に示した濃度はいずれもmgトル エン相当量/m3である).

一方,新築家屋を対象にした調査では,アセトア ルデヒドの指針値超過が39家屋中の3(居間)な

いし7(寝室)家屋,トルエンの指針値超過が2家

屋(寝室)でみられた.また,入居後3ヵ月以内の

1家屋で1,4-ジクロロベンゼン濃度が指針値を超過

していた.これら以外の室内濃度指針値設定物質,

WHOガイドライン値設定物質についてはいずれも 室内濃度は指針値/ガイドライン値未満であった.

また,興味深い結果として,入居前後に測定を行っ た6家屋の中で,入居前には10mg/m3未満であっ たホルムアルデヒド濃度が入居後に2030mg/m3ま で増加する例が複数存在した.トルエン,キシレ ン,エチルベンゼン及びスチレンについても同様の 挙動を示す家屋があり,これは入居後に居住者が持 ち込む家財道具が室内空気の主要な汚染源となる可 能性を示唆するものであると考えられる.

なお,ここで紹介した調査結果の詳細について は,厚生労働省のホームページで公開されているシ ックハウス検討会の議事録並び配布資料2)を参照し て頂きたい.

3. 健全な室内空気質を維持するために

新たに室内濃度指針値が設定される化学物質につ いては,なんらかの「代替物質」が使用されるよう になることが予想される.したがって,将来にわ たって健全な室内空気質を維持するためには,定期 的に室内空気質の状況を調査し,そこで新たに検出 された化学物質についてリスク評価を進め,必要に 応じて指針値を設定する,という「枠組み」の確立

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が不可欠である.これに関しては,第17回シック ハウス検討会において「室内空気中化学物質の指針 値の見直しの仕方等について(案)」が事務局から 提示されており,その中で測定方法及び曝露評価に 資する情報の入手先として日本薬学会環境・衛生部 会の衛生試験法委員会が例示されている.わが国の 室内空気質向上のために,本学会,並びに同部会の 一層の貢献が期待されているといっても過言ではな いであろう.

利益相反 開示すべき利益相反はない.

REFERENCES

1) World Health Organization, ``WHO guide- lines for indoor air quality: selected pol- lutants,'' WHO, Geneva, 2010.

2) Committee on Sick House Syndrome: Indoor Air Pollution, Ministry of Health, Labour and Welfare:〈http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi /2r9852000000ax9a.html#shingi128714〉, cited 7 September, 2015.

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