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アカエリヒレアシシギの舌表面の走査型電子顕微鏡による観察

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Academic year: 2021

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(1)

【原著】

(受付:平成221020日)

(受理:平成2211 1 日)

緒 言

鳥類の舌の構造についての報告は少なく、そ のほとんどが最近の著者らによるものである。

鳥類においても哺乳類の舌の場合と同様、主食 とする食物の違いと咀嚼方法により舌の構造は 異なる。すなわち、草の葉、種子、昆虫、水草、

魚および鳥などの肉、水辺ないしは水中の動物 など食物によって舌の構造は異なる。そこで、

今回水生昆虫や大型の動物プランクトンなどを 集めてつまみとるアカエリヒレアシシギの舌を 走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、主食の 異なる他の鳥の舌と比較検討したので報告す る。

材料と方法

チ ド リ 目

Charadriiformes

ヒ レ ア シ シ ギ 科

Phalaropodidae

アカエリヒレアシシギ Phalaropus

lobatus 若鳥、成鳥各 1

羽の舌を観察に用いた。

舌は

10%ホルマリンにより固定、肉眼による観

察後、組織を採取した。舌表面観察のための

SEM

用試料は、水洗後

1% OsO

4

1

時間浸漬

し、アセトンで脱水、酢酸イソアミルを経て、

臨界点乾燥装置で乾燥された。乾燥試料は白金 パラジウムで蒸着し、加速電圧

15kV

にて

SEM

(Hitachi S-3500N)で観察した。

結 果

肉眼所見では全体として舌は細長い爪楊枝状 を呈し、その先端を拡大して観察すると非常に 多くの針状構造物が観察された(Fig.1a)。舌尖 の表面は平滑で、所々上皮細胞の剥離が見られ た(Fig.1b)。舌体と舌根の境界部には

4

個の大 型の円錐乳頭が観察され、その内両外側にある

2

個の大型の円錐乳頭には小型の二次乳頭が存 在した(Fig.2a)。舌体の両外側面は平滑であっ たが、中央部は低倍では毛玉状で、拡大すると 枯葉状を呈した(Fig.2a,b)。また、舌根の表面 には突起などは見られず平滑であった(Fig.2a)。

声門の下方には多数の長短の円錐乳頭が観察さ れ、それらの表面も声門周囲の表面と同様平滑 であった(Fig.3)。

要 旨

アカエリヒレアシシギ(Phalaropus lobatus)の舌表面を走査型電子顕微鏡(SEM)

にて

観察した。肉眼所見では全体として舌は細長い爪楊枝状を呈し、その先端を拡大して観 察すると非常に多くの針状構造物が観察された。舌尖の表面は平滑で上皮細胞の剥離が 見られた。舌体と舌根の境界部には

4

個の大型の円錐乳頭が観察され、その内両外側 にある

2

個の大型の円錐乳頭には小型の二次乳頭が存在した。舌体の両外側面は平滑 であったが、中央部は低倍では毛玉状で、拡大すると枯葉状を呈した。舌根の表面には 突起などは見られず平滑であった。声門の下方には多数の長短の円錐乳頭が観察され、

それらの表面も声門周囲の表面と同様平滑であった。全体的舌の形態はコゲラに、舌尖 の先端はヒヨドリに類似した。

キーワード:アカエリヒレアシシギ、舌表面、SEM

岐阜大学医学部看護学科

江村 正一

アカエリヒレアシシギの舌表面の走査型電子顕微鏡による観察

(2)

Fig. 1 (a) The tip of the tongue of the red-necked phalarope. Note many processes of the tip of the tongue.

(b) The dorsal surface of the lingual apex. Note exfoliation of the epithelial cells.

Fig 2 (a) Large conical papillae were observed on the border region between the lingual body and root.

(b) High magnification of the dorsal surface of the lingual body.

考 察

鳥類における舌表面の観察例は少なく、肉眼 所見ではニワトリ1)やキジ2)の舌の先端は尖っ ており、大型の円錐乳頭により舌体と舌根は分 けられている。オオヒシクイ3)、ハクチョウ4)

およびカルガモ5)では先端は円状ないしはヘラ

状を呈し、大型の円錐乳頭により舌体と舌根は 分けられ、大型の円錐乳頭の前方に隆起が存在 する。オジロワシ6)、トビ7)およびオオタカ8)

ではほぼ先端は円く、正中溝が認められ、大型 の円錐乳頭により舌体と舌根は分けられている が、隆起は存在しない。しかし、同じ猛禽類で

(3)

もハヤブサとチョウゲンボウ9)の舌の先端は

2

つに分離し、舌尖と舌体との境界が明瞭で、舌 体には多くの粒状構造物が見られた。カワウ10)

では舌の先端は鋭く尖り、大型の円錐乳頭は観 察されないが、舌体の中央に逆三角状の隆起が 見られる。ツミとミサゴ11)の舌は、ハヤブサや チョウゲンボウ9)と同様、先端は

2

分され、舌 尖、舌体および舌根の

3

部位からなり、舌体の 後端は大型の円錐乳頭に移行する。また、舌尖 から舌体にかけて幅の違いはあるものの正中溝 が見られたが、舌隆起は観察されなかった。ス ズメ12)では先端は

2

つに分離し、舌尖から舌 体にかけて左右両側は隆起し正中溝が存在す る。ツグミとシロハラ13)の舌は、舌の先端はス ズメ12)と同様

2

分され、大型の円錐乳頭によ り舌体と舌根は分けられたが、舌尖外側にスズ メ12)では見られない針状構造物が存在する。ま た、スズメ12)における舌体正中溝とは異なり、

舟状構造を呈する。花の蜜を食べるヒヨドリ14)

やメジロ15)の舌尖は非常に多くの突起に分離 し、それらの突起は互いに重なった状態として 観察される。本研究において観察したアカエリ ヒレアシシギの舌の先端は、ヒヨドリ14)やメ

ジロ15)と同様非常に多くの突起に分離し、分 離しないニワトリ1)やキジ2)とは異なった。

草の葉、種子、昆虫を食べるニワトリ1)やキ ジ2)の舌の

SEM

による観察では、舌尖および 舌体の表面は細かい板状構造を呈する上皮から なり、舌根の表面は比較的平らで所々に分泌腺 の開口部が観察される。スズメ12)では、舌体の 左右隆起部表面は成鳥ではほぼ平坦で、幼鳥で は円錐乳頭の表面を除き上皮細胞の剥離が見ら れる。ツグミとシロハラ13)では、舌体の表面は 突起がなく平坦で、舌体と舌根の境界には大小 の円錐乳頭が見られ、中央部ほど乳頭は小型で ある。また、舌根および喉頭丘には多数の分泌 腺の開口部が見られる。

水草を食べるオオヒシクイ3)、ハクチョウ4)

およびカルガモ5)では、舌尖の表面は平らで円 形ないしはヘラ状で、舌体と舌根との境界に大 型の円錐乳頭が見られ、舌体の両外側には毛状 構造物が存在する。

魚類、鳥類などの肉を食べるオジロワシ6)で は、舌体の正中溝の表面は平滑で、その左右の 舌表面は細かい糸状の突起を呈する。舌体後端 の大型の円錐乳頭の前方および舌根の表面は平 坦で、舌根の表面に多くの分泌腺の開口部が見 られるが、円錐乳頭の前方ではこの開口部は観 察されていない。また、舌根の両外側にも分泌 腺の開口部が存在した。トビ7)では、舌体の上 皮には管状の構造を呈するものがあり、円錐乳 頭前後の表面構造は平坦で、舌根に多くの分泌 腺の開口部が観察される。オオタカ8)では、舌 体後端の大型の円錐乳頭の前方および舌根の表 面は平坦であるが、舌根のみならず円錐乳頭の 前方においても多くの分泌腺の開口部が観察さ れる。ハヤブサとチョウゲンボウ9)では、舌尖 の上皮はカーペット状構造を呈し、オオタカ8)

と同様舌根のみならず円錐乳頭の前方において も多くの分泌腺の開口部が観察される。ツミ11)

では分泌腺の開口部は円錐乳頭前方および舌根 に、ミサゴ11)では舌根にのみ見られる。

昆虫、魚、カエルなど水辺ないしは水中の動物 を食べるコサギ、ゴイサギおよびササゴイ16)、 アマサギとアオサギ17)の舌尖および舌体の表

Fig. 3 The periphery of the glottis (G). Note conical

papillae of various sizes in the posterior region of

the glottis.

(4)

面は上皮の突起はなく平滑であり、舌体の後端 部両側にマント状の

1

対の大型円錐乳頭が見ら れ、分泌腺の開口部は舌根に存在する。魚やイ カなどを食べるオオミズナギドリ18)の舌はコサ ギ、ゴイサギおよびササゴイ16)、アマサギとア オサギ17)の場合と同様、舌尖および舌体の表 面には上皮の突起はなく平滑である。

昆虫やクモなどを食べるキツツキ科のコゲ ラ19)の舌は爪楊枝状で細長く、舌体と舌根を分 ける大型の円錐乳頭は見られない。本研究にお いて観察したアカエリヒレアシシギの舌も全体 として爪楊枝状で細く、コゲラ19)に極めて類似 する。

鳥類におけるこうした円錐乳頭の存在は、口 腔内に入った食物が確実に食道に流れ込み、口 腔外に押し出されないための装置と考えられ る。哺乳類においても、これまでに観察された すべての動物において、舌表面に数多く分布す る糸状乳頭の先端は咽頭に向いており、咀嚼中 に食物が外に出されないように機能している。

鳥類では哺乳類に比し歯はなく舌の運動能力は 低く口腔内で咀嚼が行われないため、舌表面に 哺乳類のような糸状乳頭は不必要であり、その かわり確実に飲み込めるように円錐乳頭が発達 したものと考えられる。先に述べたように、同 じ鳥類でも食べ物により舌表面の構造は大きく 異なる。すなわち、草の葉や種子を主食とする 鳥、水草あるいは肉などそのどれを主食とする かにより舌表面の構造は異なる。さらに、草の 葉や種子を主食とする鳥でもニワトリ1)やキ ジ2)の舌の先端は分離しないが、スズメ12)や ツグミとシロハラ13)では分離し、ヒヨドリ14)

やメジロ15)では非常に多くの分離が観察され る。水草を主食とするオオヒシクイ3)、ハクチョ ウ4)およびカルガモ5)には舌体外側面の毛状 および鱗状の突起および隆起部が存在し、肉類 を主食とするオジロワシ6)、トビ7)、オオタカ8)、 ハヤブサとチョウゲンボウ9)およびツミとミサ ゴ11)には舌尖から舌体にかけての幅の広い正中 溝が観察される。コサギ、ゴイサギおよびササ ゴイ16)、アマサギとアオサギ17)の舌尖および 舌体の表面は上皮の突起はなく平滑であり、舌

体の後端部両側にマント状の

1

対の大型円錐乳 頭が存在する。これらのことから、アカエリヒ レアシシギの全体的舌の形態はコゲラ19)に、舌 尖の先端はヒヨドリ14)やメジロ15)に類似した。

今後さらに食性を異にする多くの鳥類の舌を 観察し、形態的変異が何を意味するのか解明し たい。

謝 辞

本研究の遂行にあたり、動物の試料を提供し ていただきました岐阜大学野生動物管理学研究 センター野生動物救護室の岡野 司氏および

SEM

使用に対し技術指導をいただきました当大 学医学部技術室奥村年彦氏に心より感謝申し上 げます。

文 献

1) Iwasaki S and Kobayashi K: Scanning and transmission electron microscopical studies on the lingual dorsal epithelium of chickens. Acta Anat Nippon 61: 83-96 1986

2)

江村正一:キジの舌乳頭とその結合織芯の 走査型電子顕微鏡による観察

.

医学と生物 学 152: 129-133 2008

3) Iwasaki S, Asami T, et al.: Ultrastructural study of the keratinisation of the dorsal epithelium of the tongue Middendorff' s bean goose, Anser fabalis middendorfii (Anseres, Antidae). Anat Rec 247: 147-163 1997

4)

江村正一:ハクチョウの舌乳頭とその結合 織芯の走査型電子顕微鏡による観察.医学 と生物学 152: 379-385 2008

5)

江村正一:カルガモの舌乳頭とその結合織 芯の走査型電子顕微鏡による観察.医学と 生物学 153: 63-69 2009

6) Jackowiak H and Godynicki S: Light and scanning electron microscopic study of the tongue in the white tailed eagle (Haliaeetus albicilla, Accipitridae, Aves ). Ann Anat 187: 197- 205 2005

7)

江村正一:トビの舌乳頭とその結合織芯の 走査型電子顕微鏡による観察.医学と生物

(5)

学 152: 43-47 2008

8)

江村正一、奥村年彦、他:オオタカの舌乳 頭とその結合織芯の走査型電子顕微鏡によ る観察

. 解剖学雑誌 83: 77-80 2008

9) Emura S, Okumura T, et al.: Scanning electron microscopic study of the tongue in the peregrine falcon and common kestrel. Okajimas Folia Anat Jpn 85: 11-15 2008

10) Jackowiak H, Andrzejewski W, et al.: Light and scanning electron microscopic study of the tongue in the cormorant Phalacrocorax carbo (Phalacrocoracidae, Aves). Zoological Science 23: 161-167 2006

11)

江村正一:ツミおよびミサゴの舌乳頭とそ の結合織芯の走査型電子顕微鏡による観察.

医学と生物学 152: 523-528 2008

12)

江村正一、奥村年彦、他:スズメの舌乳頭 とその結合織芯の走査型電子顕微鏡による 観察.形態・機能 7: 7-12 2008

13)

江村正一:ツグミとシロハラの舌表面の走 査型電子顕微鏡による観察.医学と生物学  153: 101-106 2009

14)

江村正一:ヒヨドリの舌の走査型電子顕微 鏡による観察.医学と生物学 153: 243-248

2009

15) Emura S, Okumura T, et al.: Comparative study of the dorsal surface of the tongue in three avian species by electron microscopy. Okajimas Folia Anat Jpn 86: 111-115 2010

16)

江村正一:3 種類のサギ舌表面の走査型電 子顕微鏡による観察.医学と生物学 153:

423-430 2009

17)

江村正一:アマサギとアオサギの舌の走査 型電子顕微鏡による観察

.

医学と生物学 

154: 20-27 2010

18)

江村正一:オオミズナギドリの舌の走査型 電子顕微鏡による観察.医学と生物学 

154: 441-446 2010

19) Emura S, Okumura T, et al.: Scanning electron microscopic study of the tongue in the Japanese pygmy woodpecker (Dendrocopos kizuki).

Okajimas Folia Anat Jpn 86: 31-35 2009

連絡先:江村正一 岐阜大学医学部看護学科 岐阜市柳戸1-1(〒501-1193)

Tel(058)293-3226 Fax(058)293-3219 E-mail [email protected]

(6)

Summary

The tongue of the red-necked phalarope was examined by scanning electron microscopy (SEM).

The tongue of the red-necked phalarope, which feeds on large plankton was toothpick shaped. Many processes were observed in the tip of the tongue. The lingual apex had a smooth surface, but the surface of the central region of the lingual body was rough. Large conical papillae were observed in the border region between the lingual body and root. The lingual shape of the red-necked phalarope resembles that of the Japanese pygmy woodpecker and the tip of the tongue resembles that of the brown-eared bulbul and Japanese white-eye.

(Med Biol 155: 1-6 2011)

Key words: red-necked phalarope, lingual dorsal surface, SEM

Correspondence address: Shoichi EMURA Nursing Course, School of Medicine, Gifu University 1-1 Yanagido, Gifu 501-1193, Japan

E-mail: [email protected]

Shoichi EMURA

Nursing Course, School of Medicine, Gifu University

SEM Studies on the Lingual Dorsal Surface of the Red-necked Phalarope

Fig.  1  (a) The tip of the tongue of the red-necked phalarope. Note many processes of the tip of the tongue

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