九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
Paired Comparison-based Interactive
Differential Evolution for Cochlear Implant Fitting
船木, 亮平
九州大学大学院システム情報科学府
高木, 英行
九州大学大学院芸術工学研究院
中川, 尚志
福岡大学医学部
永田, 里恵
福岡大学医学部
他
http://hdl.handle.net/2324/1434438
出版情報:進化計算研究会. 第6回, pp.179-181, 2014-03. The Japanese Society for Evolutionary Computation
バージョン:
権利関係:
人工内耳パラメータフィッティングへの対比較ベース対話型差分進化の適用
船木亮平
†, 高木英行††, 中川尚志 ‡, 永田里恵 ‡ 松本希
‡‡
, 永田里恵 ‡ 松本希
‡‡
九州大学大学院システム情報科学府†
,
九州大学大学院芸術工学研究院††,
福岡大学医学部‡九州大 学大学院医学研究院‡‡1
はじめに対話型進化計算(
IEC
)は人間の主観的評価を 適合度として最適化を行う進化計算手法である.IEC
を用いることで,定量的な基準を持たず適合 度の計算が困難な対象の最適化を行うことが可能 となる.例えば,人間の味の好み,デザインの良 し 悪 し ,音 の 聞 こ え な ど の 最 適 化 で は ,適 合 度 は人間の主観的な評価基準でしか与えられない.更に,探索データを解析することで人間の好み や 感 性 ,身 体 的 な 特 性 な ど の 解 明 が 期 待 で き , アート,デザイン,信号処理,ロボット,データ ベース検索など多くの分野で応用されている1) .
代表的な
IEC
として,対話型遺伝的アルゴリズ ム(IGA)
,対話型遺伝的プログラミング(IGP)
, 対話型差分進化(IDE)
などが挙げられる.IGA
やIGP
は遺伝的アルゴリズムの演算をベースとして おり,全個体の適合度を基に選択演算を行う.そ のため,これらのユーザは提示された全個体を比 較 し 各々の 個 体 に 評 価 点 を 与 え な け れ ば な ら な い.しかし,同時比較ができない動画や音へIGA
やIGP
を 応 用 す る 場 合 ,記 憶 を 頼 り に 全 個 体 を 比較評価点せねばならず,ユーザ疲労は大きい.対比較ベース
IDE
2, 3)は,差分進化演算(DE)
4, 5) の対比較特性を積極的に用いるIEC
である.IDE
ユーザは提示された2
個体の比較を繰り返すこと で探索を行うことができるので,全個体比較が 困難な動画や音の最適化では,IGA
やIGP
に比べ て ユ ー ザ 疲 労 が 格 段 に 軽 減 さ れ る .Paired Comparison-based Interactive Differential Evolution for Cochlear Implant Fitting
† Ryohei Funaki([email protected])
†† Hideyuki Takagi([email protected] u.ac.jp)
†† Takashi Nakagawa([email protected])
‡ Rie Nagata([email protected])
‡‡ Nozomu Matsumoto([email protected]) Graduate School of Information Science and Electrical Engi- neering, Kyushu University (†)
Faculty of Design, Kyushu University (††) Faculty of Medicine, Fukuoka University (‡) Faculty of Medical Sciences, Kyushu University (‡‡)
本 研 究 で は ,こ の 対 比 較 ベ ー ス
IDE
を 人 工 内 耳フィッティングに適用し,その実用性を評価す る.これまでIGA
を用いた人工内耳フィッティン グ6) はあったが,上述の疲労問題のため8
個体で の 探 索 を 行 わ ざ る を 得 ず,そ れ で も 疲 労 が 大 き かった で あ ろ う と 推 察 さ れ る .IDE
で人工内耳フィッティングを行う利点とし て,(1
)言語聴覚士が経験に基づいて病院等でパ ラ メ ー タ を マ ニュア ル 調 整 す る 従 来 法 に 対 し , 装用者の日常音環境下で手軽にフィッティングす ることができるようになる.ただし,フィッティ ン グ は 医 療 行 為 で あ る た め 現 状 で は 言 語 聴 覚 士の同伴が必要であるが,原理上は装用者自ら フィッティングすることも可能となる.(2
)探索 データを解析することで,装用者の聞こえの特 性を解析できる可能性がある.(3
)全個体比較を 強 い ら れ る 他 のIEC
手 法 よ り も 装 用 者 の 疲 労 軽 減 が 期 待 で き る .等 が あ げ ら れ る .こ れ ら の 点 を 基 に 考 察 し ,そ の 実 用 性 を 評 価 す る .2
従来技術2.1 対比較ベース対話型差分進化
差 分 進 化 は ,個 体 間 差 分 ベ ク ト ル か ら 得 ら れ る 個 体 の 分 布 情 報 を 用 い て 探 索 を 行 う.個 体 集 団が探索領域に広く分布している場合は,個体 間差分ベクトルは大きくなり大域的探索を行う.
一 方 ,集 団 の 収 束 に 従って ,個 体 間 差 分 ベ ク ト ル は 小 さ く な り 局 所 的 探 索 に 移 行 し て い く.次 世 代 候 補 個 体 で あ る
trial vector
は 主 に こ の 差 分 ベ ク ト ル に よ る 集 団 分 布 情 報 を 指 標 に 作 成 し ,GA
の よ う に 適 合 度 を 指 標 と し な い .差 分 進 化 の選択演算は,親個体(target vector
)と子個体(
trial vector
)の 対 比 較 に よって 優 良 個 体 を 次 世 代に継承するという操作のみであり,1
つの親個 体 か ら1
つ の 子 個 体 を 生 成 す る .対 比 較 ベ ー スIDE
2, 3) は こ の 対 比 較 評 価 を 人 間 が 行 う 手 法 で あり,ユーザ疲労や記憶の観点からこれまでIEC
の適用が難しいとされた動画や音などの最適化問 題 で あって も 適 用 可 能 と な る .
対 比 較 ベ ー ス
IDE
の 全 体 の ア ル ゴ リ ズ ム を 示 す.まず,進化の対象となる個体をtarget vector
と す る .次 に ,target vector
と は 異 な る3
個 体 XR1,XR2,XR3をランダムに選択し,次式からmutant vector
Uを 作 成 す る .XR1はbase vector
と 呼 ば れ ,探 索 の 基 準 と な る 個 体 で あ る .DE/rand
:
U=
XR1+
F×(
XR2−XR3)
Fは ,個 体XR2と 個 体XR3の 差 分 ベ ク ト ル の 大 き さ を 調 整 す る
0
よ り 大 き な 定 数 で あ る .そ し て,target vector
とmutant vector
を交叉し,trial vector
を 作 成 す る .IDE
ユ ー ザ はtarget vector
とtrial vector
を 比 較 し ,評 価 値 の 高 い 方 をtarget
vector
に上書きする.以上の操作を全ての個体に対して行うことで
1
世代とし,目的解が見つかる か 指 定 世 代 数 と な る ま で 繰 り 返 す.2.2 Opposition-based Learning
Opposition-based learning (OBL)
7) は ,探 索 領 域中心を対称点とした鏡面座標に個体を作成し,集団に加える手法である.
IEC
では探索領域の大 きさに対し非常に少ない個体数で探索を行わざ るを得ないことが多々あり,そのような条件下で ランダム生成された初期個体の分布は偏る恐れ がある.本論文では,初期化直後の1
世代目にお けるtrial vector
をOBL
によって作成されたtarget
vector
の鏡面座標個体とすることで,初期化個体の偏りを軽減する.
2
世代目以降は通常通りIDE
の 進 化 演 算 に よってtrial vector
の 作 成 を 行 う.3
実験 3.1 実験条件本研究では,対比較ベース
IDE
を22
チャンネル のコクレア社の人工内耳フィッティングに適用す る.IDE
フィッティングは各チャネルパラメータ レンジの下限(T
値)と上限(C
値)の計44
パラ メータ値を[0, 255]
の整数値で調整することであ る(T
値<C
値).実際のIDE
探索は実数値空間で 行い,小数点以下切り捨てることで整数値のT
値 とC
値 を 得 る .個 体 数 は
16
,差 分 ベ ク ト ル の 大 き さ を 調 整 す るscale factor
Fは0.7
,交叉は交叉率0.5
の一様交 差 と す る .被 験 者 は 実 際 に 治 療 を 行って い る 装 用 者1
名 で あ る .3.2 実験結果と考察
本実験の被験者
1
名が普段使用していたマップ データの語音明瞭度は80%
であったが,本実験のIDE
フィッティングの11
世代目での語音明瞭度は90%
に到達した.このことより,言語聴覚士の経 験に基づく従来法でなくてもIDE
フィッティング に よって 高 い 語 音 明 瞭 度 を 得 る 可 能 性 が 示 さ れ た( た だ し 実 験 者 は 言 語 聴 覚 士 で あ る ).しかし,
16
個体で11
世代まで探索を行うには176
回の音比較が必要であり,対比較といえども ユ ー ザ へ の 負 担 が 大 き く,語 音 明 瞭 度 試 験 を 行 う場合は1
世代/日,行わない場合は2
〜3
世代/日 を か け て 最 適 化 を 行 う 必 要 が あった .現 状 で はユーザの音環境下で簡単にフィッティングを行 うにはまだ実用上の課題が大きく,
IDE
探索の高 速 化 な ど の 工 夫 が 必 要 で あ る .例 え ば ,従 来 手 法 に よって 言 語 聴 覚 士 が 作 成 し た マップ デ ー タ を 初 期 個 体 に 混 ぜ た 状 態 で 探 索 を 開 始 し た り,周辺環境による微調整の場合は現在使用してい る マップ デ ー タ を
base vector
と し て 周 辺 探 索 し た り す る な ど の 対 策 が 考 え ら れ る .Fig. 1(a)
に,11
世代目におけるチャンネル毎の パ ラ メ ー タ と 言 語 聴 覚 士 に よ る マ ニュア ル マッ ピ ン グ に よって 作 成 さ れ た パ ラ メ ー タ 比 較 を 示 す.横軸はチャンネル数,縦軸はT
値,C
値であ る .言 語 聴 覚 士 は 隣 接 チャネ ル 間 の 連 続 性 を 考 慮したフィッティングを行っているが,IDE
探索 ではこの制約を入れていないため,得られたT
値 やC
値は様々である.チャンネル間のパラメータ 値 に 大 き な 差 が あ る こ と が 語 音 明 瞭 度 を10%
向 上させた本質なのか,それともある程度の連続 性の制約を導入することで更なる向上を見込ま れ る か な ど は ,今 後 の 実 験 を 待 つ 必 要 が あ る . しかし,実験結果は,マニュアルマッピングでは 実 現 で き な かった 複 雑 で よ り 良 い マップ デ ー タ 発 見 の 可 能 性 を 示 し て い る .Fig. 1(b)
とFig. 1(c)
は ,第5
世 代 と 第6
世 代 , お よ び ,第10
世 代 と 第11
世 代 の 最 優 良 個 体 の マップデータの比較である.第5
世代と第6
世代 の6
チャンネルのT
値や15
チャンネルのT
値,C
値 の 幅 が 大 き く 異 なって い る が ,語 音 明 瞭 度 は 共 に70%
で あ る .一 方 ,第10
世 代 と 第11
世 代 の 最 優 良 個 体 の マップ デ ー タ は チャン ネ ル3
,8
,11
,13
,15
に 微々た る 差 で あ る が ,両 者 の 語 音 明 瞭 度はそれぞれ80%
と90%
と大きな差がある.これ ら の こ と か ら ,語 音 明 瞭 度 に 影 響 を 及 ぼ す チャ(a)
マニュアルマッピングと11
世代におけるマッ プ デ ー タ の 比 較 .(b) 5
世 代 目 と6
世 代 の マップ デ ー タ の 比 較 .(c) 10
世 代 目 と11
世 代 の マップ デ ー タ の 比 較 .Fig. 1
マップデータの比較.コクレア社のチャネル番号は高域から低域にかけて付与されてい る た め ,チャネ ル 軸 の 右 か ら 左 方 向 に 周 波 数 帯 域 が 高 く な る .
ンネルの感度は大きく異なることが推測される.
4
結論本研究では,対比較ベース
IDE
を実際に人工内 耳フィッティングに適用し,その実用性を考察し た.第1
に,被験者実験ができる範囲のIDE
試行 回数内で,従来手法である言語聴覚士のマニュア ル マッピ ン グ の 語 音 明 瞭 度 を 上 回 る 性 能 の マッ プ デ ー タ を 得 る こ と が で き 得 る こ と を 示 し た . し か し ,実 用 性 の 観 点 か ら は ,高 速 化 の 工 夫 が必要であることも明らかになった.第
2
に,実験 で得られたデータから以下の2
つの知見が得られ た.まず従来のマッピングでは隣接チャンネル間 で劇的に変化するようなフィッティングは考えに くかったが,チャンネル毎にT
値とC
値が大きく 異 な る マップ デ ー タ で も よ り 良 い 語 音 明 瞭 度 を 示 し 得 る こ と が 明 ら か に な り,こ れ ま で の フィ ティン グ 方 法 を 見 直 す 知 見 に 成 り 得 る こ と ,ま た,語音明瞭度感度はチャネルパラメータによっ て 大 き く 異 な り 得 る こ と ,が 明 ら か に なった .今後も更に解析を進めることで装用者の聴覚 特 性 を 理 解 し ,よ り 効 果 的 な マップ デ ー タ の 発 見や効率的な探索を行うことができるようにな る か も し れ な い .
謝辞
本研究は
JSPS
科学研究費(課題番号23592503
お よ び23500279
)の 助 成 を 受 け た も の で あ る .参考文献
1) Hideyuki Takagi, “Interactive Evolutionary Compu- tation: Fusion of the Capabilities of EC Optimiza- tion and Human Evaluation,” Proceedings of the IEEE, vol.89, no.9, pp.1275–1296 (2001).
2) H. Takagi and D. Pallez, “Paired Comparison- based Interactive Differential Evolution,” 1st World Congress on Nature and Biologically Inspired Com- puting (NaBIC2009), Coimbatore, India, pp.375–
480 (Dec., 2009).
3) 高木英行, D. Pallez,「対比較ベース対話型差分進 化」第3回進化計算シンポジウム,那覇,pp.245–251 (2009年12月 ).
4) R. Storn and K. Price, “Minimizing the real func- tions of the ICEC’96 contest by differential evo- lution,” Int. Conf. on Evolutionary Computation (ICEC1996), Nagoya, Japan, pp.842–844 (May, 1996).
5) R. Storn and K. Price, “Differential evolution — a simple and efficient heuristic for global optimiza- tion over continuous spaces,” Journal of Global Op- timization, vol. 11, pp.341–359 (1997).
6) P. Legrand, C. Bourgeois-Republique, V. P´ean, et al., “ Interactive evolution for cochlear implants fit- ting,” J. of Genetic Programming and Evolvable Machines, vol. 8, no.4, pp.319–354 (2007).
7) H. R. Tizhoosh, “Opposition-Based Learning: A New Scheme for Machine Intelligence,” Computa- tional Intelligence for Modelling, Control and Au- tomation, vo. 1, pp.695–701 (2005).