博士論文審査報告書
論 文 題 目
Study on Energy Consumption and Reliability Issues in Multi-hop Wireless Sensor Networks
マルチホップ無線センサネットワークにおける 電力消費と信頼性に関する研究
申 請 者
タリク モハマド Muhammad Tariq
国際情報通信学専攻 ワイヤレスシステム研究 II
2012 年 5 月
専攻およびプロ ジェクト研究名 (課程内のみ)
無線センサネットワークは災害監視システム、スマートグリッドなどの今後の発展が 期待されている。無線センサネットワークの実用化のためには、低消費電力化に関する研 究は重要である。しかし、今まで無線環境条件を想定した上での厳密な定式化がなされて いなかった。本論文は、無線センサネットワークの正確な電力消費を定式化することを目 的として、分散型コミュニケーションモデル(Distributed Communication Model:DCM) を導入し、無線センサネットワークに用いるセンサノードの消費電力と無線通信品質と関 連づけながら厳密な無線センサネットワーク全体の消費電力の評価方法を明らかにした。
無線センサネットワークを構成するセンサノードは、無線環境により動的に変動する。
動的な変動がセンサノード間での CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance)アクセス制御やデータ伝送の通信品質に影響を与え、特にマルチホップ無線セ ンサネットワークの消費電力が増大する。低消費電力無線センサネットワークを実現する ためには、動的な無線環境下におけるセンサノード間通信でのパケット損失などの通信品 質と、センサノードの電力消費の関係を明確にする必要がある。
本論文では、無線センサネットワークとして近距離通信と低消費電力として知られて いるIEEE802.15.4(Zigbee)を用いて解析を行った。IEEE802.15.4は変復調機能の物理 チャネル制御、MAC(Media Access Control)機能の論理チャネル制御に分けられる。従 来の消費電力の解析では、物理チャネル制御の消費電力、MACの論理チャネル制御の消費 電力を個別に評価する静的な評価方法が明らかにされてきた。しかし、無線センサネット ワークは動的な無線環境下で物理チャネル制御と論理チャネル制御は相互に関連しながら 機能していることから、動的に変化する電力消費モデルの構築が必要である。本論文では、
最初にセンサノード間の消費電力解析モデルとして分散型コミュニケーションモデルを提 案し、ノード間の消費電力を明らかにした。次に分散型コミュニケーションモデルを基礎 として、動的無線環境下での CSMA/CA プロトコルの消費電力を評価できるスロット CSMA/CAプロトコルを提案し、IEEE802.15.4のシミュレーションを通してCSMA/CAア クセス制御の消費電力を明らかにした。最後にハイブリッド適応チャネル品質推定法
(Adaptive Hybrid Channel Quality Estimation Method)を提案し、動的無線環境下にお ける物理チャネル制御、論理チャネル制御とのクロスレイヤ制御を用いた正確な伝搬路推 定法を明らかにし、無線センサネットワークの消費電力の削減も可能とした。
すなわち、本論文では、動的無線環境下での無線センサネットワークの消費電力解析 モデルである分散型コミュニケーションモデルを明らかにし、スロット CSMA/CAプロト コルとハイブリッド適応チャネル品質推定法を提案し、無線センサネットワーク全体の厳 密な消費電力モデルを明らかにしている。
本論文は英語で執筆されている。以下、各章ごとに概要を述べ評価を加える。
第1章「Wireless Sensor Networks: An Overview」では、無線センサネットワークの応用 について述べるとともに、代表的な無線センサネットワークのIEEE802.15.4の物理層のチ ャネル制御、MAC層の論理チャネル制御の特徴と信頼性について述べている。また、無線
環境下におけるIEEE802.15.4の消費電力とIEEE802.15.4をマルチホップ無線センサネッ トワークへ適用した場合の消費電力と回線品質の関係について述べている。
第2章「A Realistic Communication Model for Distributed Error Prone Wireless Sensor Networks」では、無線センサネットワークの消費電力解析法として分散型コミュニケーシ ョンモデルを提案し、センサノード間の通信における消費電力の厳密な解析方法を示して いる。従来の無線センサネットワークの消費電力解析は、センサノードが固定し静的な環 境で評価が行われた。しかし、実際の無線センサネットワークはノード間の干渉信号や減 衰特性、反射特性、回折特性、マルチパス特性、フェージング環境を考慮して解析する必 要がある。また、センサノードは周りの環境によって、パケット損失、再送回数、センサ 密度、隣接ノード数、マルチホップ数など動的に変化する。本章で提案した分散型コミュ ニケーションモデルは動的無線環境下での消費電力を示すことのできるモデルとして定式 化を行った。定式化された結果とシミュレーションによる評価結果と合わせて、結果の妥 当性について示している。さらに、回線品質が無線センサネットワークの寿命に与える影 響についても明らかにしている。
すなわち、本章では、動的無線環境下における無線センサネットワークの消費電力のモデ ル化のために、分散型コミュニケーションモデルを提案し、実際の無線センサネットワー クに適用できることを明らかにしたことは評価できる。
第3章「Power Dissipation Analysis of IEEE 802.15.4 Distributed Multi-hop Wireless Sensor Networks」では、第2章で示した分散型コミュニケーションモデルをIEEE802.15.4 に適用して、マルチホップ無線通信回線下において通信品質と無線センサネットワークの 消費電力の関係について述べている。さらに本章では、マルチホップ通信において用いる
CSMA/CAプロトコルに関して、今まで動的無線環境下では示されてこなかった消費電力評
価法として、新たにスロットCSMA/CAプロトコルを提案している。スロットCSMA/CA プロトコルはセンサ密度、隣接ノード数、マルチホップ数を用いてCSMA/CA アクセス制 御での消費電力を求める方法を明らかにしている。
すなわち、本章では、マルチホップ無線通信環境下において、スロット CSMA/CAプロト コルを示し、今まで示されてこなかった動的無線環境下における、センサ密度、隣接ノー ド数、マルチホップ数に対するCSMA/CA アクセス制御の消費電力を明らかにしたことは 評価できる。
第 4 章「Adaptive Hybrid Channel Quality Estimation in IEEE 802.15.4 Multi-hop Wireless Sensor Networks in Error Prone Environment」では、ハイブリッド適応チャネ ル品質推定法を提案し、物理チャネル制御、論理チャネル制御を無線環境下に対して適応 的かつ最適に制御を行いながら無線センサネットワークの特性を推定する方法について述 べている。従来は、物理チャネル制御を用いて、センサノードの信号対雑音比、受信電力、
CCI(Chip Correlation Indicator)などのパラメータを用いて通信回線の評価を行ってきた。
また、マルチホップ通信回線のホップ数、パケット損失などの評価を行ってきた。無線セ
ンサネットワークは動的に変化することから、物理チャネル制御では、受信電力とCCIに よる受信パケットの信号強度情報と用いて逐次チャネル推定を行い,さらに論理チャネル 制御ではEXT (Expected Transmission Count)によるパケット損失とを複合的に評価し、
精度の高い無線チャネル推定を実現した。提案したハイブリッド適応チャネル品質推定法
をIEEE802.15.4のシステムへ適用することで正確なチャネル品質の評価が可能となり、無
線センサネットワークの消費電力を半分まで削減することができることを示した。
すなわち、本章では無線センサネットワークのノード間でのデータ転送方式としてハイ ブリッド適応チャネル品質推定法を提案し、実際のシステムへ適用することで無線セン サネットワークの消費電力を減少できることを明らかにした成果は大きい。
第5章「Conclusions and Directions towards Future Work」では、まとめと今後の課題に ついて述べている。
以上要するに、本論文は無線センサネットワークの消費電力を動的な無線環境下に おいて評価する解析手法について明らかにしている。
すなわち本論文では、無線センサネットワークの消費電力解析方法としてマルチ分散 型コミュニケーションモデルを提案し、無線環境下においてCSMA/CA アクセス制御の消 費電力を明らかにするスロットCSMA/CA プロトコルとマルチホップ無線センサネットワ ークの消費電力を予測するハイブリッド適応チャネル品質推定法について明らかにした。 以上の成果により、無線センサネットワークの厳密な消費電力モデルと解析方法を明らか にしたばかりでなく、無線センサネットワークの消費電力の削減も可能とした。よって、
国際情報通信学の発展に寄与するところ極めて大であり、本論文は博士(国際情報通信 学)の学位論文として価値あるものと認める。
2012 年 5 月 23 日 審査員
主任 早稲田大学教授 工学博士(新潟大学) 佐藤 拓朗 早稲田大学教授 工学博士(東北大学) 嶋本 薫 早稲田大学教授 工学博士(早稲田大学) Yong Jin Park 早稲田大学教授 博士(工学)(早稲田大学) 松本 充司