商 品 市 場 化 の 進 展 と 環
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境
片 岡
目次
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.商品の市場化の社会的意義
Ⅲ.環境の範囲と商品の関係性
Ⅳ.環境に優しい商品とは
Ⅴ.調和価値社会の構築に向けて(結びに変えて)
Ⅰ.はじめに
環境に関わる諸問題が地球規模で起こっていることは誰しもが理解し,ゆゆしき問題 であるとの認識を持ってはいる。しかもこれらの問題はそのよって来る要因が,産業革 命以来のこれまでのあらゆる産業の誕生からその発展による経済の活性化と拡大に伴っ て生じてきたものであるとの認識も近年強くなってきている。
すべての国にとって,その国民がより豊かな生活を享受するためには,経済発展は欠 かすことの出来ない最大の課題である。この経済発展と地球環境の再生維持の問題が提 起されてすでに久しい。しかし解決への道のりは遙かに遠い感がある。
一言で述べれば,環境問題の発生が経済の成り立ちとその発展に要因があるとすれ ば,経済の仕組みが,物財であれサービス財であれ経済財の生産とその市場での交換に よる財の購買・消費によって生活の豊かさを高めていったその結果であるということが 出来る。
すなわち多くの環境問題はあらゆる商品の生産から消費そして廃棄に至る経済活動の 一環としてのプロセスから生じてしまっていると考えられるのである。
今回同志社大学商学部教授岩下正弘先生の古稀祝賀記念号への寄稿を要請され,岩下 先生を目標に研究生活を過ごしてきたつもりの筆者にとって大変光栄に思い,是非とも 先生の記念号にその末席を汚させて頂くこととした次第である。その為に本小論を執筆 するに当たり,同じ商品を研究対象にしている一人として商品と環境の問題を広くとら えた枠組みの中で,商品の生活内での有用性や効用の実現以外に及ぶ影響に踏み込んだ
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1 本小論は2002年9月21日香川大学にて開催された「商品と環境を考えるシンポジウム」における基調 講演「商品研究者の視点から見た商品と環境」で筆者が発表した内容を基にして大幅に書き換えたもの である。
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議論をしてみたいと考える。
本小論は,商品と環境について商品に焦点を置いて環境を見直すことからいろいろな 問題を多角的に捉えることを試みたいと考えているが,浅学非才な筆者にとってはあま りにも大きな課題ではあるため,問題の所在の指摘,問題解決のための研究アプローチ の枠組や論点の提示などを主眼にしたものになることをお断りしておきたい。
また本小論では商品に焦点を当てて環境に関する諸問題を検討する際,
(1)商品の市場取引の活発化が,富の生産の効率化を進め,社会の豊かさ構築の原点 となってきたことおよび今後もそうであると社会的に信じられていること。
(2)商品の市場化の進化に伴い,経済活動の変化と環境との関係がどのように質的・
量的に関わってきたのかを見据えること。
(3)その際,注目すべき環境には,自然環境だけではなく,生活環境や社会環境など より広い範囲での環境にまで議論を広げ,その中で商品との関係を検討すること も必要であること。
(4)今後,一層商品の範囲の拡大や市場化の速度が早まる中で,環境と商品との関係 はどのようになり,またそれによる社会的影響はどうなるかが大きな課題となる と考えられること。
などを踏まえて以下若干の検討を行うことで今回の責を果たしたい。
Ⅱ.商品の市場化の社会的意義
1.商品とは何か
この命題についてはこれまでにも様々な議論がなされてきたが,ここでは単純に,
「貨幣を交換手段として市場を通じて,他の経済主体から入手する「モノ」,「サー ビス」など提供者には利益を,受容者には満足という効用を同時にもたらす経済的 客体」
と定義しておく。
2.利益の獲得と効用の実現
人類は,遙か昔から今日まで自給自足経済,物々交換経済を経て貨幣経済社会にまで 経済の仕組みを変えてきた歴史を持っている。そしてつい最近,資本主義と対立してき た社会主義経済が崩壊し,資本主義的市場経済を世界全体をグローバルな経済の仕組み とするに至った。この経済的枠組みにおいては明らかに市場で効果的に取り引きされる
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「商品」が重要とならざるを得ない。
そもそも人類が経済活動を行う目的は,単純にいえば,「モノ」の獲得とその利用に よる生活の維持,高度化を達成することにある。そのための諸活動が経済活動である。
経済の初期段階では,もっぱらすべての財の獲得と使用を自分自身で行わなければなら ない「自給自足」経済であった。この仕組みの大きな特徴は,生産と消費の一致にあ り,消費にあわせた生産がなされることにその本質がある。すなわち,財は自分の生活 の成り立ちに必要な財のみを獲得すればよく,それ以上の獲得は経済的には不合理にな ること(不要,質の低下,過剰な労働投下,など)もしばしばであったと思われる。
この仕組みは,自然環境における財の存在が豊富で獲得も容易で,経済社会の規模が 比較的小さくしかも一定で変化が少なければ問題は生じない。しかし,自然の状況や社 会の拡大などに応じて当然財の獲得を増大させたり,高度化したりする必要が生ずる。
このことへの対応が物々交換経済社会を経て貨幣を交換の仲介物とする経済社会を編み 出してきた力となったのである。ここに至り,生産と消費の分離が一般的な社会的仕組 みとして定着し,他の経済主体の生産物(商品)を交換によって手に入れることで効用 を実現させる仕組みが確立することとなった。
3.市場化,商品化の社会的意義
生産と消費の分離が進展するに従い,分業と専業を徹底することで商品の市場化を効 率的に行える仕組みが一層進化した。この仕組みが付加価値の高い商品を次々と市場化 することを可能にし,富の生産を効果的に増大できるようになった。そしてその総和が 社会全体の富となるのである。
産業社会全体で生産された富は,どの様にそれぞれの経済主体に分配され,どの程度 の富を社会に蓄積するのが望ましいのか。利益の配分,税金の課税比率,社会的インフ ラ整備のあり方等々何時の時代においても問題となる点である。現在の市場経済の仕組 みでは競争の結果によって得られた利益はその勝者に多くの成果を配分することで競争 へのインセンティブを高める仕組みを取っている。
このように生産された富が普く全ての経済主体に分配され,さらにより多くの富が生 産されるために制度,システム,社会資本などの広い意味でのインフラストラクチャー へ配分されることが社会的には重要である。そのためには,商品として生産され,市場 で売買され,消費されることを通して「富」に変換されることが重要である。そのため には生産された商品が確実に顧客に価値あるものとの評価を得て購買消費されるもので なければならない。市場で求められ,その顧客の満足する商品市場化が第一になる。常 に顧客の求める満足にフィットする商品を市場に送り出す姿勢が求められる所以であ る。
商品市場化の進展と環境(片岡) (637)23
このように,経済社会における富の生産・分配・蓄積のメカニズムの中核的な要素と しての役割を担って商品は市場化されているのである。
自給自足の経済から市場経済までの進化は,消費の立場から見れば,消費の外部化の 進展と見ることが出きる。われわれ人間は,すべての消費活動を自分の力のみで行って いた時代から他の経済主体による財を市場から調達することで実現する消費に変えてき た。経済活動の進展は見方によっては消費の限りない外部化(アウトソーシング)の歩 みであったのかも知れない。この歩みは現在もスピードを上げて進行中のように見え る。この動きこそ富の生産の持続的増大を進める力となっていたと考えることが出来る しかし,この市場経済におけるより多くの富の生産と配分がわれわれの生活を限りな く豊かにしようとする目標は,一面では実現したように思われるが,その反面,家庭環 境や社会環境,そして自然環境に対する影響は富の享受のマイナス面としての問題とし て受け止めるべきものとなっている。ここに商品と環境についての問題を改めて議論す る必要性が存在するのである。
Ⅲ.環境の範囲と商品の関係性
1.環境の捉え方
環境とは広辞苑によれ
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ば,「①めぐり囲む区域,②四囲の外界。周囲の事物。特に,
人間または生物を取り巻き,それと相互作用を及ぼし合うものとして見た外界。自然的 環境と社会的環境とがある。」とされている。この定義をさらに解釈し直せば,「何かを 中心にしたその周囲に存在するお互いに影響を及ぼし合う範囲,広がり,及びそこに存 在する事物」と言い表すことが出来る。このときその中心にあると想定されるものが,
人や生物とされている考え方が広辞苑の表現になっているのであろう。
経済学や経営学などをはじめマーケティングや商品学ではこの中心に企業や市場ある いは商品を想定して環境を考える場合がある。市場環境,経済環境,経営環境,商品環 境などの表現はこの現れである。
そのほか社会学あるいは消費論などの分野では,個人あるいは家族の生活に関わるそ の周辺状況を家庭環境,社会環境と表して議論することが多い。
この事実は,環境を考えるとき,何を中心に据えた環境かを明確にすることが議論を かみ合わせる第一番のポイントであるという事であろう。その上でその中心においたも のに変化や影響を及ぼす周辺の範囲をどのように見るかが重要となろう。
我々は,多種多様な市場で売買されているモノやサービスなど商品を消費することで 生活を成り立たせ,豊かさを拡大することを追求してきた。商品と人をめぐる経済的な
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2 新村出編『広辞苑 第三版』岩波書店,1990年,531ページ。
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活動がその活動を取り巻く社会環境との間に相互作用を生じさせ,その社会の秩序や考 え方,文化にまで影響を与えることとなる。
一方,人間の活動を取り巻く環境に自然がある。自然に対して我々は,遠い昔は恐 れ,畏敬の対象であったものが,次第に利用し,コントロールする対象に変わってき た。そして経済発展のためには,自然はその経済活動に無尽蔵の資源を提供してくれる 対象であり,利用するべきものであるとしてきた。しかし経済活動が拡大し,しかも急 速な発展が自然に対して大きなダメージをもたらす相互作用の対象であることも明確に なってきた。この事は我々の経済活動を社会環境はもとより自然環境を含めた両環境と の相互作用の枠組みで理解し,考えていくことが肝要であることを示している。
もっぱら自然科学的なアプローチで研究されてきた自然環境の問題は近年になり環境 経済
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学や環境会
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計の導入など社会科学の他の分野の視点や枠組みによるアプローチがな されてきていることは重要な歩みであると思われる。社会科学と自然科学の融合による 大きな枠組みの中での環境学のより一層の発展が待たれる所である。
2.自然環境と社会環境の中での経済・消費活動
農業を中心とする社会においてなされていた半自給自足的経済が工業型社会に変化 し,それに伴って都市化が急速に進展した
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世紀後半以降の我が国では,生活に使用 するほとんどすべての財は商品として売買される形でしか入手,消費することが出来な い状況となっている。この様にほとんどすべての財を市場で取り引きする市場経済化した社会が,モノの生 産だけではなくサービスや情報,権利などをも含むあらゆる面に進展してきた。このこ とが既存の分野においては企業活動のさらなる革新を生み出し,新しい市場分野を創造 する新産業分野の形成を押し進める企業活動に繋がってきた。
一方このことは,個々の消費生活の多くの場面においてその生活環境や労働環境に大 きな変化をもたらしてきた。そして更にこれらの環境変化に対応した市場対応・市場創 造が繰り返し行われてきたのがこれまでの経済社会なのである。そこでは社会の変化に 対応する新しい社会的意味を持つ商品が次々と市場化され,その新しい商品の持つ社会 への適合性が価値あるものとして評価されて来た。この様な商品を生活の変化に適合さ せる絶え間のないビジネス革新の努力と,新しい生活に適合する商品購買の仕組みの提 供が新小売り業態の進化として展開されてきたことによって消費生活自体は大きく改善
・高度化されて来たといえよう。業種別商店街での小売りから,デパートメントスト
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3 たとえば寺西俊一(1992年),同(1991年),石弘之(2002年)などを参照のこと。
4 企業活動の成果に環境への取り組みを含め会計的に評価を加える考え方がこの所多く行われて来てい る。このことは企業活動に直接利益に結びつかない活動であっても社会的に有効な貢献活動と見なす活 動としての意識が強まってきたことと関係がありそうである。
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ア,スーパーマーケット,コンビニエンスストア,ショッピングセンター,ショッピン グモールなどへの小売業態の革新は社会環境によりフィットした購買の仕組みを提供す る価値を具体化したものといえる。
この様に見ると労働活動の範囲,消費活動の範囲など生活活動の範囲が一層拡大する 一方,活動時間も個々人によって多様になり画一的な時間消費が崩れてきた。この変化 がその活動の範囲拡大と多様な時間消費に適合する新たな商品(財やサービス)の市場 化やあらゆる面での業態革新を促す動機・原動力となっている。その市場の要請に近年 発展が著しい技術革新の成果が結合することで,市場の革新が進み,特に
IT
化,グロ ーバル化,モバイル化・パーソナル化などの傾向が著しく進展し,それに伴い新たな市 場が形成されてきている。文明の一層の進化とグローバル化に対して国や地域の歴史的な生活文化や地域特性の 相互理解や尊重が希薄となりつつあることは経済的効率性の追求による社会環境に及ぼ すマイナス面の一つであるとの指摘も出来よう。このことは経済発展に寄与する商品市 場化のもたらす陰の面として指摘できる。
3.社会的豊かさと環境
富の増大が経済社会の豊かさを実現する基本であるとしてきた市場経済活動が,確か に生活面での豊かさを提供してはきたが,一方では社会的な問題や自然環境への負荷を も増大させてきたことも事実である。
豊かさとは何か,この大きなテーマをここで充分議論しつくすことは出来ないが,若 干の検討だけはしておきたい。
個人の豊かさの総和が社会の豊かさとなるのか,社会的豊かさは何によって決まるの か,難しい問題ではある。
先ず,個人的豊かさは「モノの豊かさ」であろう。われわれの生活に必要な財が豊富 に存在し,それらを自由に消費できる状態は正に豊かさの第一歩ではある。
モノの豊かさを決める要素には,量,種類,および質の充実が考えられる。生活にお けるモノの消費で高い満足を感じるのは,生活のそれぞれの場面で使用するモノが量的 に充分あり,さまざまな種類のモノの中から一番フィットしたモノを選んで使用でき,
合わせて高い効用が発揮できるモノの質が備わっている場合であり,この実感が豊かな 消費感に繋がるものと捉えることが出来る。これまでの市場で企業は,このような豊か さを感じられる物財の提供を,需要に見合った量,多様な場面にあった種類,より良い 機能を発揮できる質と言ったように,それぞれを一層充実させ,市場競争に打ち勝つこ とで市場優位を得る努力をしてきた。
モノの豊かさは上で述べたように,単にモノのもつ機能による満足だけではなく,機
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能の良さを前提にして,それぞれの生活における消費シーンでの満足最大化に資するモ ノの消費の仕方が重要なのである。モノに裏打ちされたコトの質が次のステージの豊か さを決めるポイントとなっているのである。「コトの豊かさ」と言っても良
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い。
消費の質的な豊かさの次のステージは消費における「意味的な豊かさ」において実現 される。この豊かさは正に社会環境との相互作用の中でその価値が確認され豊かさの実 感が実現するものである。従ってここでの意味的豊かさは,消費することにおける社会 的意味に価値を見いだし,その価値に対して社会の構成者間で共通評価に立った優越性 や共有意識などに基づく社会的実感なのである。
このように,豊かさは,個人の物的な消費の充実感を出発点に,その都度異なる消費 のシーンでのコト消費の満足に至り,そしてさらには社会環境との関係の中で決まる価 値としての社会的意味の実感までを包含するものとなってきた。豊かさは次第に生活の 成り立ちから成り立たせ方,そして成り立たせる意味にまで関わる対象になってしまっ た。日々の生活の中での自分らしさを目一杯確認できる消費に,自分のアイデンティテ ィについてのはっきりとした確認,さらには他者に対する優越感や選ばれた自分を感じ る消費などに大きな満足を感じるのである。消費における個々人の感動を作り出し,そ の感動を更新する市場の仕組みが目下進行中であると捉えることが出来る。
消費における豊かさの追求は市場経済による富の増大をサポートする力となる一方 で,上で示した豊かさ追及の流れは個々の消費における限りない我が侭の助長でもあ る。このことが以下に示すような大きな社会的な問題を生み出すことにも繋がっている と思われる。
すなわち,近年,少子・高齢化社会の進展の中で指摘されている高齢者に対する介護 の問題をはじめ,家庭内での団欒の欠如,対人関係の希薄化や個別化・孤独化の進行,
さらには道徳観や倫理の希薄化などがあげられよう。
このような豊かさの追求が社会環境に対して大きな影響を与える結果になっている見 方が可能であるが,さらに自然環境にも影響すると考えられる。以下でこの点について 考察することにしたい。
4.商品と環境との関係のフレーム
これまでの議論から,われわれの消費生活は,第
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図に示すように市場から商品を購 入する市場環境,市場における経済活動がもたらす商品消費生活によって生ずる社会環 境,さらにそれらの社会・経済活動が影響を与える自然環境との関係の中で成立してい────────────
5 「モノ」から「コト」に関する消費の進化については,片岡 (1987年)「産業のソフト化における 商品の情報性」,片岡 (1984年)「商品コンセプトの創造と商品特性」,片岡 ・見目洋子(1990 年)「ソフト化社会を進展させる商品創造」,片岡 ・見目洋子(1986年)「商品コンセプトシグナル 論に向けて」に詳しく議論されている。参照してほしい。
商品市場化の進展と環境(片岡) (641)27
る。さらにこの市場環境の中での生産・消費活動が社会環境との相互作用を通じて社会 的な動きや考え方に影響を与えることとなる。
商品の生産とその消費によって先に述べたそれぞれの環境が相互作用によって変質し ていく枠組みとその構成要素,それが変質するメカニズムの解明と解決手段の創造が今 後の課題となる。特に対自然環境との関係での問題である地球環境,生活圏の自然環 境,大気・土壌・室内など物理的サラウンデイングスをめぐる安全性の回復,持続性の 保証,生態バランスの維持・強化等などが対社会,対人との関係の中で議論されなけれ ばならない。
Ⅳ.環境に優しい商品とは
1.環境に優しいとはどの様なことなのか
本論では,環境に関する議論を商品の生産・消費との関係の中で検討するスタンスを 取っているので,環境にやさしいという場合の視点を商品との関係に絞って見ていくこ とにしたい。
環境に優しい商品を考える時,前章で示した第
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図 商品と環境に関する関係枠組に 従えば,(1)人に対する優しさ
(2)社会に対する優しさ
(3)自然に対する優しさ についての検討が必要である。
(1)人に対する優しさ
第1図 経済活動における商品と環境に関する関係枠組 同志社商学 第54巻 第5・6号(2003年3月)
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商品が人に対して優しいという事は,商品が提供者と需要者の取引関係の中で成立す る社会的存在であることを考えれば,顧客に対する優しさが結局は人に優しいことに結 びついて行くこととなる。
すなわち,商品の顧客に対する優しさは顧客一人一人の消費満足を最大化する効用を どれだけ提供できるかにかかっている。現在の市場で求められる顧客満足は
・消費シーンにきめ細かく対応する機能性能のフィット感(機能・性能のよさ)
・顧客一人一人に対応する使い勝手の良さ(バリアフリー性,ユニバーサル性の実 現)
・心を癒してくれる心配り(精神的安心や暖かさ)
・健康対応や安全性への配慮 に裏打ちされた消費実現にある。
以上のように商品は消費者との関係の中で,消費に対する満足が高いほど「優しい」
商品として評価され,市場での競争優位も実現できてきた。しかし,商品は購買した個 人としての顧客だけに優先的に効用を発揮させることが市場においては望まれている が,個人の効用発揮の集合がある種の社会的・文化的影響を強く与えることになる。流 行や消費スタイル,話題などへの同化意識は,少なからずある種の商品の普及・消費の 結果としての社会的作用として出現する。したがって,次には商品と社会との関係の中 で社会にとっての優しさを実現するメカニズムを考察することが求められる。
(2)社会に対する優しさ
商品と社会環境との関係は一人一人の消費者の豊かさが社会全体の豊かさに纏められ ることで意義が大きくなる。商品の社会に対する優しさは様々な社会システムがより効 果的に機能する形になることである。
いくつかの 優しさ に関係する内容を挙げるとすれば,
・社会のハードシステムがより効果的に機能する社会資本の充実
・人と人とのつながりが強化され,お互いの間に思いやりの気持ちが強まる社会的コ ミュニケーションの活発化
・社会倫理や道徳観の醸成
・スポーツ,芸術,文化,学問の一層の深化
・不正や犯罪の減少に繋がる社会的正義の強化
・異文化や異質の理解による共存・協栄
などを示すことが出来る。これらの内容が強化される方向に進むことがまさに社会に対 する優しさとなる。
しかし,これまでの消費者個人の豊かさの進展の中では,社会に対する優しさに反す る現象が種々見られてきている。交通渋滞の日常化の一方では利用者の少ない高速道路
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の建設の矛盾,交通事故の多発,携帯電話をはじめとする車内での迷惑行為,自動販売 機の浸透や屋外飲食スタイルの一般化による容器やゴミのポイ捨て行為の多発,携帯電 話でのワンきりビジネスや出会い系サイトによる反倫理的行為の社会的助長などなど,
社会に対する優しさに反する現象は,個人のわがままの実現が社会に対する優しさの増 大に繋がらない,場合によってはそれに反することをも意味しているといえる。個人と 社会の調和を実現する社会的仕組みが求められるのである。
(3)自然に対する優しさ
我われは,自分たち人間の生活をより良いものにするために経済活動を高めてきた。
その際,自然の営みが提供する資源をあらゆる形で利用して来た。その利用は自然の営 みを損なわない範囲での利用であれば問題ではなかった。自然に対する優しさは,自然 の営みを崩さず,常に自然と一体になった経済活動になっていることであり,このバラ ンスが大きく揺らいできたことに自然環境の問題が今や地球規模で発生して来ている要 因であろう。
大気汚染,オゾンホールの拡大,二酸化炭素の増大に伴う地球温暖化,エルニーニョ 現象,旱魃や森林後退,酸性雨,資源枯渇や廃棄物の増大,海洋汚染などなどの地球規 模での問題多発を考えるに,これまでの経済活動の進展が自然環境の中での生物の相互 依存関係のバランスを保つ生態系の維持,気象,大気,海洋を包む自然現象のバランス など自然の営みを歪める活動に繋がってしまっていたと思える。
人間が行うどのような活動も自然の営みの中での活動でしかあり得ない。人間の活動 と自然の営みは自然の摂理の中で相互に影響しあっていく関係にある。どんなことを人 間がしても自然はすべてを包含し,自然の営みの中で良い方に解決してくれるとは限ら ないことをわれわれに示し始めたと考えるべき時なのであろう。
我々人類は,個人生活の満足・豊かさの実現が社会環境や自然環境との相互作用の中 で作り上げられている仕組みを今こそ理解し直さなければならない。そして社会環境を より優しさに対応したものとする方向に作り替え,自然環境も自然の営みが維持・再生
・強化される方向になるような,市場経済活動と社会環境,自然環境とが新しい調和す ることを第一の価値として機能する社会を構築していかなければならないと考える。
2.環境対応と経済発展の狭間で
市場経済の進展と環境問題の深刻化の関係は大きな解決課題である。
自然の恵みとしての資源利用は人類が生きていくためにこれまで行ってきた基本的行 為である。われわれは自然から得られる資源の利用無しでは生存していくことは出来な い。従って自然の資源をどれだけの量,どのように利用すれば自然との関係をそこなわ ずに済むのかを経済の活性化と調和させながら可能にする仕組みを早急に作り上げなけ
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ればならない。そのためには,自然資源をすべて開発利用の対象とみなし,市場化だけ を目標とする考え方から,循環,育成,再生がなされる利用の仕方に変更することが求 められよう。
環境保護第一主義とするのか経済発展を優先すべきか,世界レベルでの富の生産が経 済発展の程度の異なる国々での富のアンバランスとなっている現状で,これをどう調整 するかという問題ともからみ,経済発展と環境とを調和させる仕組みの構築が早急の課 題となっている。
Ⅴ.調和価値社会の構築に向けて(結びに変えて)
モノによる消費満足を越えて個人のトータルなコトとしての生活満足を手にした現在 の消費社会は,社会環境や自然環境に大きな問題を生じさせる結果ともなってきた。前 章で指摘したように,これらの解決のためには,社会的富の生産に欠かすことの出来な い市場経済の仕組みを社会環境の正常化と自然環境の維持・強化へのエネルギーへと向 かえる仕組みに組み替えることが緊急の課題になる。調和価値社会を実現させるための 社会システムの再構築を早急に進めることが必要である。
調和価値社会構築に向けての方向性についてここで詳しく議論する余裕はない
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が,い くつかのポイントを示しておきたい。
調和価値社会構築に際しての基本的なスタンスとして
・経済発展と環境との調和の確立
・個の生き方や消費を尊重しつつ,地域や社会など全体とのバランスの調和
・社会的弱者と強者・健常者との相互信頼による共生
・経済的貧者と富者の共栄のための経済的富の再分配のあり方
・地域・地方と中央との新しい分担・協調関係の構築
・社会倫理の再構築
・人と人・機械・組織とのインターフェイスの柔軟さの構築 などが考えられる。
これらの課題を解決するためにはこれまでの生産・消費形態を変更することや自然に 対する働きかけの仕組みを変えていくことが求められよう。その為に必要となる一番の ポイントは一人一人の消費生活の意識改革と,企業活動における社会・自然環境への貢
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6 筆者らの議論をふまえて調和価値社会への市場変化については,筆者がすでに,1996年9月ポツナン 経済大学におけるポツナン国際商品学会シンポジウムで「調和価値社会の進展の中での商品開発Ⅰ」と して,また1997年9月にウィーン経済大学で開催された第11回国際商品学シンポジウムで「調和価値 社会の進展の中での商品開発Ⅱ」として発表した。さらにこの考え方に基づいた発展的な研究は,見目 洋子『「生活福祉」を実現する市場創造』(1997年)中央経済社 においてもなされている。
商品市場化の進展と環境(片岡) (645)31
献活動に対する意識改革かもしれない。この意識改革が効果的に進行していくインセン ティブが発揮できる仕組みが必要となろう。商品市場化とその消費にあたってもこのメ カニズムが機能するような配慮がなされる必要がある。
今回本小論では商品と環境の関係を消費市場の高度化の流れの中で検討することを試 みたつもりである。多くの論点を含むこの問題の議論を尽くすには未だ力不足の感は拭 えない。今後更に検討するつもりである。
なお,本論を書き上げるにあたり,一橋大学大学院商学研究科助手,片岡康子氏の手 を多く煩わすこととなった。ここに心からの感謝の意を表したい。
参考文献
〔1〕石弘之編著『環境学の技法』東京大学出版会,2002年。
〔2〕寺西俊一「環境経済学の課題と方法」『一橋論叢』第107巻第45号,1992年。
〔3〕寺西俊一共著『環境経済学』有斐閣,1991年。
〔4〕片岡 「調和価値社会の進展の中での商品開発Ⅰ」ポツナン国際商品学シンポジウム(ポツナン 経済大学)プロシーディングス,1996年9月。
〔5〕片岡 「調和価値社会の進展の中での商品開発Ⅱ」第11回国際商品学シンポジウム(ウィーン 経済大学)プロシーディングス,1997年9月。
〔6〕片岡 「商品コンセプトの創造と商品特性」『ビジネスレビュー』第32巻第1号,1984年。
〔7〕片岡 「産業のソフト化における商品の情報性」『ビジネスレビュー』第35巻第3号,1987年。
〔8〕片岡 ・見目洋子「商品コンセプトシグナル論に向けて」『一橋論叢』第96巻第6号,1986年。
〔9〕片岡 ・見目洋子「ソフト化社会を進展させる商品創造」『一橋論叢』第101巻第5号,1989 年。
〔10〕見目洋子『「生活福祉」を実現する市場創造』中央経済社,1997年。
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