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極限の超短パルス光発生に関する基礎研究

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(1)

九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

極限の超短パルス光発生に関する基礎研究

河野, 弘幸

九州大学工学応化機能機能物質化学

https://doi.org/10.11501/3135031

出版情報:Kyushu University, 1997, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

第4章

ジブロモメタンを用いた四波ラマン混合過程の増強

4.1

緒言

近年レーザーは、 そのコヒーレンスの良さ、 高い強度、 狭いスペクトルl幅、

そして短い時間幅などの優れた特徴から、科学における広い分野で利用されて いる。 特に分光学の分野でのレーザーの応用はめざましく、 色素レーザー、 チ タンサファイアレーザー、 そして光ノ々ラメトリック発振器が、 広い発振波長域 を有することから、多方面で使用されている。その波長可変領域はKDPやBBO などの非線形光学結晶を用いて、 高調波、 もしくは和・差周波混合を発生させ、

さらに拡張することが出来る。

また誘導ラマン散乱及び四波ラマン混合は、 レーザーの周波数変換技術とし てしばしば用いられており、 位相整合条件が緩やかなこと、 その装置自体が単 純であることなどから、 頻繁に利用されている。 その利用可能な周波数領域は 真空紫外域から赤外域にまで及んでいる。

第2、 3章では、水素をラマン媒質として高次回転ラマン光を高効率で発生 させることに成功している。 一方、 常温常圧において液体であるジブロモメタ ンの振動ラマン光をシード光として利用し、水素中での誘導回転ラマン散乱を 増強できる。 Ohnishiらは、 パルス幅6

nsのNd:YAGレーザーをジブロモメタ

ンセノレ中に集光し、 588 cm-1だけ周波数の離れた振動ラマン光を発生させ、 そ れをシード光として基本波励起光と混合し、水素セル中に集光して四波ラマン 混合により多数の回転ラマン光を発生させた[30]0水素分子の回転準位間(v=o,

J=l→v=o, J=3)のエネルギー差は587 cm-1であり、 ジブロモメタンの振動ラ マン光はシード光として十分機能し得るととが証明されている。 そこで、 本実 験ではフェムト秒領域での高次回転ラマン光の発生効率を向上させるため、励

(3)

起光にフェムト秒チタンサファイアレーザーを使用し、ジブロモメタンを用い るシード法の有効性について検討した。

4.2

実験装置

本実験で用いた実験装置 を図4.1に示す。 モードロックチタンサファイア レーザー ( Spectra-P hysics社、Ts unami、繰り返し速度82MHz、パルス幅100fs、

出力500mW、中心波長8 05nm)を、Ar+ レーザー( Spectra-Physics社、Beamlok 2060・7S、6W)で励起して発振させ、そ れをNd:YAGレーザー( Spectra-Physics 社、GCR-6、10 Hz、 6 ns、 600 mJ、532 nm)の第2高調波(KDP結晶を利用) を励起光源とする 再生増幅器 ( Spectra-Physics 社) で増幅し、励起光として用 いた。本レーザーシステムでは、CP A ( Chirped Pulse Amplification)方式を採用 している。CPAと は、再生増幅器内の光学素子のダメージを低減するため、増 幅を行う前に、モードロックチタンサファイアレーザーからのシード光を、一

日パルスストレッチャーを用いてパルス幅を約200psまで延伸し、再生増幅器 で50mJまで増幅する方法 である。パルスコンプレッサーによってパルス圧縮 を行い、最終的に、最短で100fsの短パルス光を得ることが出来る。 こうして 得られた励起光のライン幅 は12nmで、ほぼフーリエ限界パルスを作ることが 出来る。 ビーム径は10x 5 mmの楕円形である。 必要な場合には、図中の点線 部に示 される箇所にλ/4板

(

SigmaヲWPQ-7800-4M

)

を設置し、高次の回転

ラマン光を効率よく発生させるように偏光面と結晶軸との角度を調節した。励 起光は、光軸上に設置したジブロモメタンセル(20x40x37mm;光路=2 or 4 cm)を通過させ、そのときのパルスエネルギーは、セノレの端面反射、及びセル 中での非線形光学効果によって、6mJまで低下した。その後、長さ1mの水素 セル(岩谷ガス、99.9%、水素圧10atm)中央に、焦点距離1000mmの凸レン

ズで集光させた。 水素圧の調整 は、水素ガスボンベ頭部の調整器により行った。

(4)

Ar+ Laser

Nd:YAG Laser

Modelocked Ti:sapphire Laser

Regenerative Amplifier

Raman Cell

ND Filter Frosted Glass

Multichannel Spectrometer

Computer

図4.1 ジブロモメタンセルを用いた実験装置

(5)

水素セノレより出射した散乱光のスペクトルをマルチチャンネル分光計(ücean

Opt ics社、S-1000、回折格子プレーズ 300 lines / mm、測定可能波長範囲400-1000 nm)を用いて測定した。 マルチチャンネノレ分光計への光導入口である光ファイ ノくー直前にNDフィルター及び磨りガラス製の拡散板を設置し、 測定器へ入射 する光強度を減衰させた。 また、 拡散板は、 散乱光のビーム断面内でのスペク トノレの不均一性を補償する機能をも果たしている。 高次回転ラマン光の発生効 率に及ぼす励起光パルス幅の影響を測定する際には、パルスコンプレッサー内 の分散部の光路長を変化させるミラー対の位置を調節して、 励起光パルス幅を 変化させた。 この操作によって、 励起光エネルギ一、 波長、 ライン幅、 偏光に 変化が起きることはなかった。 パルスエネノレギーの測定には パイロエレクト リック ・ ジュールメーター(Molectron社、 J3-05 DW)及びエネノレギーメータ

ー(Melles Griot社、 13PEM001) を用いた。

本実験において、 スペクトル検出 器として用いたマルチチャンネル分光計及び光電子増倍管・分光器の分光感度 の変化は、 450 nmから900

nmの領域で 10倍以内であった。

4.3 結果及び考察

まず、 ジブロモメタン中での励起光の単位面積あたりの尖頭出力を増大させ るため、 励起光を焦点距離10 cmの集光レンズでセル長2 cmのジブロモメタ ンセル中央部に集光させた。 これにより振動ラマン光を発生させ、 それをシー ド光として用いる実験を行った。 励起光はジブロモメタンを通過した後、 再び レンズを用いて水素セル中央部に集光し、得られた光のスペクトノレを測定した。

その結果を図4.2に示す。 実験は、 励起光パルス幅を

(a)1.3-10 ps、(b)860fs、

(c) 730 fs、(d)310 fs に設定して行った。 そのとき、 ジブロモメタン中でのブ

レイクダウンを避けるため、 励起光パノレスエネルギーを 3 mJ に低減したc パ

ルス幅 が1.3

--.,

10 ps の場合(本実験で用いた SSAは、 そのパルス幅測定範囲

(6)

kmZ2323ZSω出

400 500 600 700 800 900 1000

Wavelength (nm)

(a)

hzmロ ω吉岡ωkp一定一ω出

400 500 600 700 800 900 1000

Wavelength (nm)

\、,ノhu /'EK

図4.2 ジブロモメタン中に集光した場合に水素セルから出射してきた 散乱光スベクトル。 パルス幅は(a)1.3ps以上、(b)860 fs。

(7)

と3g吉岡

ωk,判定同 ω出

400 500 600 700 800 900 1000

Wavelength (nm)

(c) 訟判明白ど間同一ω砂判定右脳

400 500 600 700 800 900 1000

Wavelength (nm)

、‘,FAU /S置、

図4.2 ジブロモメタン中に集光した場合に水素セルから出射してきた 散乱光スペクトル。 パルス幅は(c)730 色、(d)310 fs。

(8)

が0.5'"'"'1.0

psに制限されており、約1.5 psより長いパルス幅を測定することが

出来ないため正確な値は不明である)には、 ジブロモメタンの第1振動ストー クス光(λ= 839 nm)と第1振動アンチストークス光が(λ=764 nm)が確認で きる。 とれらの発振線は、 水素ガスを励起レーザーの光軸上から除いても同様 のスペクトルが得られることから、 ジブロモメタン中での誘導ラマン散乱及び 四波ラマン混合により発生したもので、 水素の回転線によるものではないと推 測される。 さらにパルス幅を短縮していくと、 散乱光の強度は減少し、 基本波 スペクトルのライン幅が増加する。 後者は、 パルス幅が減少することに伴う励

起光尖頭出力の増大により、 ジブロモメタン中で自己位相変調が発生したため

であると考えられる。 この自己位相変調によるライン幅の増大は、 その後の水 素セル中での誘導ラマン散乱及び誘導ラマン増幅の発生効率を著しく低下さ せる。 パルス幅が730fs以下の場合には、 ラマン線は全く観測されていない。

これらの実験では、 ジブロモメタンに集光した後の励起光を、 再び、水素中のあ る1点に集光することが困難で、あった。 これは、 ジブロモメタン中の焦点付近 において光尖頭出力が高くなり、 ブレイクダウン及び自己集束に伴うフィラメ ント形成が起こり、 セルを通過してくる光のモードパターンが変化するためと 考えられる。 セル通過後の光を集光したが、 ビームウエストでの直径を1 mm 以下にすることは出来なかった。 このため、 水素中での単位面積当たりの出力 が不足し、 水素中での誘導ラマン散乱、 四波ラマン混合が全く発生しなかった と考えられる。

上記のような望ましくない効果を避けるために、 これ以降の実験では、 ジブ ロモメタンセノレに励起光を集光せずに、 平行光線のまま入射させる方法を採 した。 この条件下では、 励起光はセルを通過後に広がることなく、 本来の光軸

上を高い強度を保ったまま伝搬していく。 また、 これと同時に、 非常に弱し1強 度の白色光成分が、 セルを通過後、 約60度の仰角をもって拡散していたの こ

(9)

れは、ジブロモメタンセル中で微弱に起こる自己集束及び自己位相変調によっ て引き起こされるものであると推測される。 なお、励起光を集光しない場合

ジブロモメタン中で発生する振動ラマン光のスペクトルは、本実験で使用した 検出器では全く観測されなかった。 これはジブロモメタン中での励起光先頭出 力が集光する場合と比較して極めて低し1からと考えられる。

水素セノレを通過してきたレーザー光のスペクトルを、ジブロモメタンセノレを 光軸上に(a)設置した場合、(b)設置しなかった場合のそれぞれについて測定し た結果を図

4. 3

に示す。 この時の励起光パルス幅は1.1psに調整した。 図4.3(a) では、第1回転ストークス光と、非常に弱し1強度の第1回転アンチストークス 光の発振線が確認できる。 通常、直線偏光の励起光を用いた場合、回転ラマン 光は全く発生しないことが知られている。 本実験では、直線偏光の励起光を用 いているものの、ラマンセル窓やその他の固体媒質を通過する際に、それらの わずかな光学的異方性の影響を受け、完全な直線偏光では無くなり、水素から の誘導同転ラマン光が発生しているものと思われる。 また、励起光がジブロモ メタンセル壁面もしくはラマンセル窓などで自己位相変調により微弱な白色 成分を発生しており、そのシード効果により基本波付近の回転ラマン光が増強 された可能性も考えられる。 一方、図4.3(a)で、は振動ラマン光の発生は全く確 認できない。 これは、第2章でも述べたように、基本波が近赤外域にあるため、

ラマンシフト周波数が4155 cm・1と大きな誘導振動ラマン散乱のゲインが誘導 口|転ラマン散乱のそれよりかなり小さくなり、また励起光自体の尖頭出力も低 く、その発生関値を越えることが出来なかったためであると考えられる。 ジブ ロモメタンセルが励起レーザー光軸上に設置されている場合、図4.3(b)のよう に、多数の純振動ラマン光、純回転ラマン光、そして振動一回転ラマン光が観 測される。 ここで興味深いのは、励起光がジブロモメタンセルを通過すること により、その後の水素セル 中で、 回転 ラマン 光より もむしろ振動ラマン

(10)

hw-mRζ富岡れwbzsω出

Wavelength (nm)

(a)

公 判明白 ω吉岡ωk, 判定ZM

400 500 600 700 800 900 1000

Wavelength (nm)

、,ノLU /'E、、

図4.3 回転ラマン光発生に及ぼすジブロモメタンのシード効果の影響 (a)DBMセルなし、(b)2-cm DBMセル挿入

(11)

光の方が、より増強されていることである。回転ラマン光の周波数シフトが587 cm・1とジブロモメタンの振動遷移シフト588 cm-1と非常に近い値であることか ら、ジブロモメタンの振動ラマン光が発生した場合、 水素の回転ラマン光が増 強されると予測される。 しかしながら、 本実験では全く予想に反し、 振動ラマ ン光の増強が明瞭に観測された。 確かに、 基本波周辺の純回転ラマン光は、 図

4.3(a)と比較して、 幾分増強されているととがわかる。

しかし、図4.3(a)で、は全 く観測されなかった振動及び振動一回転ラマン光が、 図4.3(b)では極めて効卒 よく発生している。 すなわち、 基本波周辺の純回転ラマン光は若干増強された に過ぎないが、 振動及び振動一回転ラマン光は、 ほとんどシード光がない条件 から高い変換効率で発生している。図4.4に、ジブロモメタンのセル長を(a)2

cm

(b)4 cmにしたときに得られた多色レーザー光のスペクトルを示す。 これより、

ジブロモメタンと励起レーザーの相互作用長が長い場合には、振動ラマン光が より増強され、 回転ラマン光が抑制されることがわかる。 通常、 媒質と励起光 の相互作用長が増加するにつれて、誘導ラマン散乱の発生ゲインも同時に増加 する。 従って、 セル長を4 cmにした方が、 ジブロモメタン中での誘導振動ラ マン散乱が増強され、588 cm-1だけシフトしたシード光の強度が増加すること により、水素中での誘導回転ラマン散乱も増強されると予想される。 しかしこ こで得られた結果は、 それとは全く相反するものである。 この理由については、

図4.3の結果とも照らし合わせて、 以下のように考察できる ジブロモメタン を光軸上に設置したことにより得られるシード効果は、ジブロモメタン中で発 生する誘導振動ラマン光からではなく、そこで自己位相変調により発生する 色光成分であると推測される。 つまり、励起光がジブロモメタン中で自己位相 変調を受けることによって、第1振動ストークス光の発生する周波数領域にま で白色成分が発生することになる。 それが水素中の振動ラマン散乱に対してシ ード効果を示し、振動ラマン光が発生したと推測することが出来る。 もちろん、

(12)

Wavelength (nm)

(a)

Wavelength (nm)

(b)

図4.4 ジブロモメタンのセル長を変化させたときの多色光スペクトル セル長は(a)2cm、(b)4 cm。

(13)

第1回転ラマン光の発生する領域は、より基本波周波数領域に近接しており、

誘導回転ラマン散乱に対するシード効果の方が、振動ラマン散乱のそれに対し てよりも大きくなると考えられる。 しかし、 振動ラマン散乱は回転ラマン散乱 より発生関値が低くゲインが高いため、ひとたびシード効果により発生関値を 越えると、励起光エネルギーは優先的に振動ラマン光発生に消費されると推測 される。 式(3.33)からもわかるように、 自己位相変調による励起光ライン幅の 増加量は、 励起光と非線形媒質の問の相互作用長に比例する。 実際には、 励起 光を集光しない実験条件下では、 白色光発生はほとんど観測されなかった。 し

かし、 四波ラマン混合においては、 10・12 Jレベルの微弱な白色成分であっても、

十分シード効果を示すととが報告されている[29]0 従って、 第1振動ストーク ス光(λ= 1198 nm)の発振領域にも白色成分が発生しており、 そのシード効果 を受けて誘導振動ラマン光が増強されたと考えられる。 残念ながら、 本実験で 用いた検出装置では、 波長1198nmの赤外域に十分な測定感度がなく、 第1振 動ストークス光の発生については直接確認できなかった。 -_ê_第1ストークス 光が発生すると、 四波ラマン混合が逐次的に発生し、 第1振動アンチストーク ス光(λ= 600 nm)及び第2アンチストークス光(λ= 481 nm)が観測されるこ とになる。 誘導ラマン散乱及び四波ラマン混合の発生ゲインは、 誘導振動ラマ ン散乱が誘導回転ラマン散乱より高いと仮定すると、白色光であるシード効果 の発生により、 その差が顕著に観測されることになる。 両者は競合関係にある ため、その結果、振動ラマン光が優勢になり、 回転ラマン光強度は大きく減少 したと推測される。

パルス!幅が700

fsの場合にも同様の実験を行ったが、

この場合にも、セル長 によらず強い自己位相変調が起こり、誘導ラマン散乱及び四波ラマン混合は、

水素中では全く起こらなかった。 またジブロモメタン中でもライン幅の中に第 1ストークス及び第1アンチストークス光が埋没し、 確認が困難であったっ 加

(14)

えて、ジブロモメタンセルを通過した後には、 ビームパターンの輪郭が不明瞭 になり、その後の水素セルへの集光性も低下した。 そのため水素セル中での非 線形光学効果も全く発現しなかった。

ジブロモメタン中における自己集束にともなう自己位相変調により白色光 が生じる場合で、 集光性が失われない条件下では、 水素中の誘導ラマン散乱に 対して、 大きなシード効果を及ぼす。 そこで、 本実験ではジブロモメタンの代 わりに、 研究室でよく用いられる溶媒である(a)水と(b)メタノールを白色光発 生溶媒質として使用した。このときの励起光パノレス幅は1.1ps、 セル長は2cm であった。 これらの媒質 を通過させた後、 水素セル中に集光させて得られた光 のスペクトノレ を図4.5に示す。 まず媒質として水を用いた場合 ジブロモメタ ンを用いた時とは対照的に、白色成分は全く視認できなかった。測定機器でも、

わずかに微弱な第1ストークス光と第1アンチストークス光の発生が観測さ れたに過ぎなかった。 このことから、 水では、 白色光はほとんど発生せず、 そ れによるシード効果もほとんど期待できないことがわかった。 一方、メタノー ルを使用した場合、 ラマン線は全く観測されず、白色光成分も全く発生しなか った。ジブロモメタンも含めた3つの媒質中では、ジブロモメタンが最も効率 よく白色光を与えた。 それは、 3次の非線形感受率ガ3)が最も高いためである と考えられる。 そのことは、ジブロモメタンが他の2つの媒質と比較しでも、

もっともラマン散乱効率が高いことからも推測できる。 それに加えて、 水及び、

メタノールを通過した後に励起光のビームパターンを観察すると、極度にビー ム質が悪化しており、不定形の干渉縞がビーム断面内を動いている様子が観測 された。おそらく溶媒中の熱による対流の影響を受けているものと考えられる。

これらの悪影響は、 セル長が長くなるとさらに深刻になる。 ビーム質が劣化す ると誘導ラマン散乱及び四波ラマン混合の変換効率は極めて低下することは よく知られている。 よって、 水及びメタノールは、 本実験の目的には全く不適

(15)

訟判的国SEE-浅間ω出

A-J

Wavelength (nm) (a)

訟判明白32232ω出

.,J \..

Wavelength (nm) (b)

図4.5 ジブロモメタンの代替媒質として水及びメタノールを用いたときの 出力光スベクトル。 媒質は(a)水、(b)メタノール。

(16)

当であることがわかった。

最後に、 図4.1の点線で固まれている部分にλ/4板を設置し、その影響につ いて検討した。 その場合、 励起光は楕円偏光になり、 誘導回転ラマン散乱光の 発生効率が増大する。 水素セルより出射したレーザー光のスペクトルを測定し た結果を図

4.6

に示す。 このときのジブロモメタンセル長は、 2cmとしたり こ こでは、 ジブロモメタンセルを(a)設置しない場合と(b)設置する場合について 比較した。 なお、 図4.6(a)で、第1ストークス光ピークが分割しているのは、 検 出器のノイズによるものである。 ジブロモメタンを設置しない場合、第3章で 示したように、 非常に高い効率で高次回転ラマン光が発生する。 ここでは振動 ラマン光はほとんど観測されず、 ほとんど全てが純回転ラマン光である。 即ち、

この条件下では誘導振動ラマン散乱の発生ゲインは極めて低く、誘導回転ラマ ン散乱の方に励起光エネノレギーが消費されている。 一方、 図4.6(b)に示される ように、 ジブロモメタンセルを光軸上に設置した場合、 基本波周辺に純回転ラ マン光が発生するだけでなく、振動及び振動一回転ラマン光が、 高い強度を持 って観測されている。 そのため、 純回転ラマン光強度は、 エネルギーを他の発 振線に消費され、 図4.6(a)の場合に比べてやや低下している。 これは、 ジブロ モメタン中で発生する白色光のシード効果により、振動線及び振動一回転線が 増強していることを示している。 純回転線強度を増加させるためには、 励起光 強度を最適化するなどの措置をはかり、自己位相変調による白色光が過度に発 生しないように留意する必要がある。

(17)

訟一mZ32ωk五百宮出

Wavelength (nm) (a)

b-mZ32ω乙吉右脳

Wavelength (nm) (b)

図4.6 楕円偏光励起光を用いた場合に多色光スベクトルが受ける影響 (a)DBMセルなし、(b)2・cm DBMセル挿入。

(18)

4.5 まとめ

ピコ秒そして特にフェムト秒領域においては、ジブロモメタン中で発生する 振動ラマン光は、 水素の四波混合に対してシード効果を示さない。 自己位相変 調による白色光のみが、誘導ラマン散乱及び四波ラマン混合に対してシード光 として寄与することがわかった。 白色光強度が小さい場合には、 高次回転ラマ ン光が四波ラマン混合により発生する。 そのとき振動ラマン光は、 関値に達し ていないため、 全く発生しない。 しかし、 白色光強度が徐々に増大すると、 振 動ラマン光に対してシード光として働くようになり、回転ラマン光よりもむし ろ振動及び振動一回転ラマン光に対して著しいシード効果を示すようになる。

さらにジブロモメタンを通過させると、自己位相変調による妨害が増大し、振 動一回転ラマン光さえも抑制され、 振動ラマン光のみが観測される。 純回転ラ マン光のみを選択的に発生させるには、シード光として機能する白色成分を、

第1回転ストークス光の周波数領域までしか発生させないことが重要となる。

つまり、 シード効果を誘導回転ラマン散乱にのみ与えることが必要であるコ 液 体ジブロモメタンは、 その取り扱いの簡便さ、 高いi3)、熱・光学的性質から、

適度な量の自己位相変調を発生させるのに最も適した媒質の一つであること がわかった。

(19)

第5:!i

Fourier合成による超短ハルス光発生のための高次回転ラ マン光発生における位相同期の証明

5.1

緒冨

本研究では、高次回転ラマン光の位相が同期していることを利用して、それ らのFourier合成により、 極限の超短パルス光を発生させることを提案してい る。 超短ノわレス光発生のためには2つの条件が存在する。 まず、 不確定性原理 により示されているように広い発振周波数幅をカバーしている必要があるこ とが挙げられる。 次に、レーザーのモードロックの原理と同様に、 それらの光 周波数成分のそれぞれがある時問、 空間で位相が同期している必要がある。第 3章では、 本研究で得られた高次回転ラマン光は、 サブフェムト秒パルスを発 生することが可能な広い周波数領域でレーザ一発振が得られていることをノ した。 よって本章では、数値計算により高次回転ラマン光の増幅過程を再現し、

ラマン増幅においては各発振線の位相が同期していることを証明する。また、

ラマン増幅の過程で、気体水素の屈折率の非線形性により起こる群速度分散を 考慮、に入れた場合、 どのように超短ノミルスが伝搬し、また、 成長していくかに ついても、 シミュレーションを行った。 さらに、 そのときの分散の補正の影響 についても検討した。

5.2

理論

媒質の非線形屈折率を考慮した場合、その媒質中を伝搬する高次回転ラマン 光全体の電場E(z)は式(5.1)で表される。

E(z)= }:ヰ)叶か一句・9叫ft[��叫)-1]久,�}

(20)

(5.1 )

ここで、jはラマン成分番号(ストークス光=ー1, -2 ...., 基本波=0, アンチス

トークス光=+1, +2

....

)を表し、 Eiz)は角周波数勾=仇ザωと波数鳥=句/c をもっ電場の振幅である。c は媒質中の光の速度、 ωLは励起光の周波数、 ω はラマンシフト周波数である。/番目の光成分の媒質中での非線形屈折率は nl(勾)で、ある。ここで、 全てのラマン成分の位相が同期し、 最後の指数関数の 項がゼロになるとき、 すなわち分散が完全に補償されるとき、 E(z)は非常に鋭 い時間波形をもつことになる。 これがFourier合成の基本概念である。

z方向に伝搬する誘導ラマン散乱を記述する複素結合微分方程式を式(5.2)で 表す[31]。

27mnIJん

-

):

ωふ,C'_1.mEjιEtl

叫(-

i.dm,j1Z

)

(5.2)

ここでgは四波ラマン混合におけるゲイン係数である。媒質中での分散はdで、

以下のように定義される。

.d =.d-.d

4

==

kin1 ( ω ) 一仁川1 ( ω;-1 )

また、 係数Cは集光条件などの幾何的情報を含む項で、

C m-z ー ぺ や +Z2/Z02 jω,+1ωん1 》 ) +ωm )

で表される。 ここではZo共焦点距離である。

5.3

計算条件

(5.3a) (5.3b)

(5.4)

本研究での実験条件は、第3章での実験条件に出来るだけ近い設定に調整し

(21)

た。励起光周波数仇はチタンサファイアレーザーのピーク波長である800 nm

(2.3546

X

1015 rad/s)、 ラマンシフト周波数ωは水素の回転エネルギー準位差 v

=

0,

J =

1→v = 0,

J

= 3 の587 cm-1 (1.1057 x 1014 rad/s)、 水素圧は1atm、 共

焦点距離Zoは0.6m、 焦点からの水素媒質長は3m である。 また、 基本波及び その他の発振線の初期振幅 をそれぞれ1.0x 10・1、1.0x

10・30

(ノイズレベル〉と し、 これは計算の安定性を考慮して決定した。 ゲイン係数gは3.0 x 10・18であ り、波長によら ず一定とした。 また、 第3章で得ら れた多色レーザー とほぼ等 しい強度分布をも つように設定した。 一方、 全てのラマン線は焦点(z =0)で 成長を始めるものと仮定した。励起光のパル ス長は、 水素媒質長よりも十分長 いとする。 圧力1atmのときの水素の非線 形屈折率は、 以下のように表される [32]。

/ 、 噌 0.91997 x 1027 0.75379 x 1027

n(jω)- l= +(5 5 )

\

) ノ 1.01305 x1031-

v

1.66813 x1031 -

v

ここで、vは光の周波数v= ai2πである。 高次ストークス光及びアンチストー クス光の発生・増幅の様子を、Runge-Kutta-F ehlberg法を用いて 数値計算により

求めた。 また、 本研究では、 ラマンセルの窓材による分散等は無視し、 進行方 向に垂直なビーム断面の大きさもゼロとした。

5.4

結果及び考察

まず、 実際に水素 を通過した高次回転ラマン光 がFourier合成により超短ノ。

ルス光 トレインを形成したとき 、それが媒質より受ける分散の量及び補正の実 際について 、 モデル を用いて 示す。 ここで図5.1に示すような理想的な強度分 布を持つ高次回転ラマン光 を得たと仮定する。 これには、 基本波(12500 cm・1) と4本のストークス線並びに5本のアンチストークス線 が含まれる。これらの 局次回転ラマン光は、1 atmの水素ガ、ス中を3 m伝搬する際に増幅されたもの

(22)

トー

トー

1.0 0.8 0.6 0.4 0.2

(.h回.d刊)

ω吉岡215d、

16000 14400

(cm-1)

12800

Wavenumber

11200 9600

理想的な強度分布を持つ高次回転ラマン光を含む多色レーザースヘクトル 図5.1

(23)

である。 これらの発振線のそれぞれの位相が同期している場合、Fourier合成に

より、 図5.2に示されるような超短ノミノレス光トレインが形成される。 もし趨短 パルス光が分散を全く受けないような状況下では、図5.2(e)に示すように、57 fs

間隔で5fsの超短ノミルス光が形成される。 実際には、 超短ノミルス光は分散によ り、 図 5.2(a)のようにパルス幅が広がってしまう。 この場合、 各ラマン線の位 相関係は全く無秩序のように予想されるがちである。 そこで、 表1に実際の位 相差を示すが、 3mの水素ガスを伝搬した後では、 数10π以上の位相差が生じ ている。 それにもかかわらず、 ある一定の位相関係を保ち、 一部ノミノレス延伸を 受けながらも、周期的に23fsの半値全幅(FWHM)をもっパルス波形を形成して いる。 これについては、 図5. 3における議論で詳細を述べる。 線形及び非線形 の分散は回折格子やチャープミラーなどの負の分散を有する分散素子を用い ての補正が可能である。 1次の分散を補正したときのパルストレイン波形を、

図 5.2(b)に示す。 このときには、 パルス全体が時間的にシフトするが、 パルス 幅自体は圧縮されない。 即ち、 1次の分散を補正するのみでは、 パルスの群遅 延を補正するのみで、 群速度分散に関しては補正がなされない。 この意味で、

1次の分散の補正は、 パルス圧縮には全く寄与しない。 次に、 1次と2次の項 を補正した場合には、 図5.2(c)のように、 パルスが5ぬまで圧縮される。 しカ し、 さらに1次から3次の項までを補正しでも、 ほとんど2次までの補正を行 ったときと相違が見られない。 これは、 648 nm (第5アンチストークス〉から 985 nm (第4ストークス)という限られた波長範囲では、 水素中においては、

分散の非線形性はほとんどなくなってしまうためと考えられる。

ここで、 表1に示されるような大きな位相のずれがあり、 それらの位相は 見ランダムになっているように思われる。 しかし各発振線は、依然として、 あ る位相関係を保ち、 超短パルストレインを形成している。 図5. 3に、 z = 3.0 m で形成される超短ノミルス光トレイン、及びそれぞれのラマン光成分がどのよう

(24)

120 100 80 60 40 20

(.昆 .〈) 訟 判白白 3 2

50 100

図5.2(a) 分散を全く補正していない超短パルストレイン

圃50 。

-mw oo -

(25)

120 100 80

.〈) (.h回 60 42 00000V

kC何回国ω相何回同

50 100

図5.2(b) 1次の分散を補正した超短パルストレイン

圃50 。

-100

(26)

120

ー 100 4司 80

b 60

40

マ2

ω

20

同園

圃100 -50 。 50 100

図5.2(c) 2次の分散までを補正した超短パルストレイン

(27)

00 00 咽1 00 00 0000000OAO - 208 642

.〈) (.h回 咽11A 訟判mgwa

50 100 -50 。

図5.2(d) 3次の分散までを補正した超短ノベルストレイン

(28)

120 100 80

60 000000 4-9a

(.h回 .〈)

訟判mgwa

50 100 圃50 。

-100

(fs)

Time

図5.2(e) 全く分散のない超短パルストレイン

(29)

表1. Effective Phase Delays of stimulated Raman components

Raman Compon巴nt

S4 S3 S2 S1 F AS1 AS2 AS3 AS4 AS5 +Phase Delay: d

中d(rad)

884.3 936.9 989.7 1043.0 1096.0 1150.0 1204.0 1258.0 1313.0 1368.0

1st-order compensation ホホc.d. (rad) 料+e.d. (rad)

882.0 2.1450

936.0 0.8674 989.9 ー0.1650 1044.0 ー0.9376 1098.0 -1.4360 1152.0 -1.6440 1205.0 -1.1310 1259.0 -0.3779 1313.0 0.7267 1367.0 2.1990

仲Compensated Phase Delay: c.d.

市ホホEffectivePhase Delay: e.d. = d -c.d.

2nd-order compensation 車場c.d. (rad) 仲ホe.d. (rad)

884.4 -0.1025

936.9 0.0148

989.7 0.0694

1043.0 0.0758 1096.0 0.0489 1150.0 0.0035 1204.0 -0.0450 1258.0 -0.0813 1313.0 -0.0896 1368.0 0.0541

3rd-order compensation

++c.d. (rad) 州市e.d. (rad)

884.4 ー0.0092

936.9 -0.0103

989.7 開0.0105

1043.0 -0.0103 1096.0 -0.0103 1150.0 -0.0109 1204.0 -0.0120 1258.0 -0.0137 1313.0 -0.0154 1368.0 -0.0167

(30)

戸司繭由同国四国間鴨層調副

30 20 10

(.hw .〈)

hw匂ロω相何回}{

。 50 回50

(fs)

Time

図5.3(a) 各ラマン線の位相関係と合成波の強度

(31)

30 20 10

(.hM .〈)

hW3Eω恒国】[

5 -5 。

(fs)

Time

図5.3(b) 各ラマン線の位相関係と合成波の強度

(32)

30 20 10

(.hM .〈)

ヘC判明白ω相国]{

30 20 25

(fs)

Time

図5.3(c) 各ラマン線の位相関係と合成波の強度

(33)

な位相で存在しているかを示す。 図 5.3(a)は図 5.2(b)の拡大図と等価なもので

ある。 さらに、 それを拡大したのが図5.3(b)と図5.3(c)で、ある。図5.3(b)に示す ような空間領域では、各ラマン成分の位相は全くそろっておらず、 よって合成 波の振幅もほぼゼロに近い。 一方、 図 5.3(c)に示す空間領域では、 各回転ラマ ン光の位相がかなりそろっており、 強度の高 い合成波を形成している。 これら の結果から、群速度分散がまったく無秩序に起こっているように予想されたが 実際には分散がほぼ直線的であり、その位相関係の秩序がある程度保存されて いることがわかる。

実際には、 図5.1に示されるような強度分布を得ることは困難である。そこ で、次に現実的な高次回転ラマン光スペクトルの強度分布を、 式(5.2)を解くこ とで再現した。 その結果を図5.4に示す。 これより、 各ラマン成分が水素中を 伝搬して行くにつれてラマン線の強度が増幅されているのがわかる。全ての回 転ラマン光が共焦点距離内で急激に成長し、その後なだらかに媒質が終了する まで増幅されてし、く。 励起光強度は、 他のラマン光が増強されるに連れて、 そ のエネルギーを消費され、 減衰してし、く。 最終的には、 全ての成分の強度が2 桁以内にそろい、 ほぼフラットに近い強度分布が得られている。

誘導回転ラマン光が水素中を伝搬しながら成長していくにつれて、それによ り形成される超短ノミルストレインも、 ともに成長してし1く。その様子を図 5.5 に示す。それぞれz= (a) 1.0 m, (b)2.0 m, (c)3.0 mの時の超短ノわレストトレイン波 形である。 水素中を伝搬するに従って、その時間波形が鋭く狭くなっていくの がわかる。それに加えて、 バックグラウンドレベルがほぼゼ、ロに近づいていく。

これは発振線強度分布がフラットに近づいている効果である。もちろんこの時、

分散によるパルス波形の広がりは生じるが、それは急激に成長するラマン線に よるパルスを短縮する効果に比べれば、 影響は小さい。 それ故、 1次の分散に よる群遅延は現れるが、 群速度分散によるパルス延伸の影響は少ない。

(34)

10-2 10-2

10-4 10-4

10-6 10・6

PK 10- o

O

10-8

ー 1σ10

ーー---S4

10-10

4、-4d 1σ12

ーーー帽-S3

10・12

10・14

ー----

S

2

10-14

ω10-16

---SI

10-16

� ÏÕ-18

F

10-18

帽回 1σ一

A

Sl

10-20

-凹圃

AS2

司 E Z 君

L 10-22 10-22

1σ24

1\S3

10-24

1σ26 AS4

10-26

10圃28

AS5

10・28

10-30 10-30

。 0.5 1 1.5 2 2.5 3

Distance (m)

位:]5.4数値計算により得られた高次回転ラマン光の増幅の嫌子

(35)

0.02

0.01

(・忌.d刊) 訟判明白ω吉岡

50 100 -50 。

-100 0.02

(a)

0.01

(.h-.d刊) と羽田ω吉岡

50 100 四50

-100

、‘,ノLυ /a・‘、

0.02

0.01

(.hw.d刊) 訟判明白 ω相国同

50 100

(c)

-50 -100

Time

(fs)

超短ノ勺レストレインが水素中を伝搬するにつれて成長していく様子 (a)z

=

1.0 m、(b)z

=

2.0 m、(c)z

=

3.0 mで、のパルストレイン。

図5.5

(36)

水素のように分散が小さく、線形として近似できる場合には、負の分散系 を用いて補正し、パルス波形を理想的なものに近づけることが出来る。凶5.6 には、 図 5.5(c)のパルストレインの低次の分散を補正したときの結果である。

(a)分散を全く補正していない場合、(b) 1次の分散を補正した場合、(c)2次ま での分散を補正した場合、(d) 3次までの分散を補正した場合、(e)全く分散が ないと仮定した場合、 のパルストレイン波形を表す。 なお、(η-(j)はそれぞれ (a)ー(e)を時間的に拡大したものである。図5.2 の場合と比較すると、 2次及び 3次の項まで補正しても、13 fsパルスが10 ぬまで圧縮されるに過き、ない。分 散を補正していない場合でも13 fsの短ノミルスが得られているので、 実際のス ペクトル分布が図5.1 に示すようにフラットでないため、 高次の発振線の影響 が小さくなっていることに起因すると考えられる。なお、 1次の分散によるパ ルスピークの時間的ずれの傾向は、 図5.2の場合と同様であった。

本研究の目的は、高次回転ラマン光の位相同期を利用して超短ノミルス光を発 することにある。しかし、 四波ラマン混合により生じた発振線の位相が同期 されているか否かについては、 未だ明確にされていない。そこで、z=O のとき に、各ラマン成分に人為的に位相差を与えた場合、 それらの発振線の増幅の様 子を計算により求めた。その結果を図5 .7に示す。 各発振線に初期位相差とし て、 等間隔に(a)O.OOπ� (b)O.Ol久(c)0.0 2久(d) 0.0 3π" (e)0.04π� (f)0.0 77r, (g)0.09久 (h)0.10 πを与えた。これらの結果から、高次の発振線が効率よく増幅されるた めには、初期状態で位相がそろっていなければならないことは明らかである。

第2、 3章に示したように、 実験においては実際に高い変換効率で高次回転ラ マン光を発生出来るので、それらの位相は初期状態、においては同期していると 結論づけられる。即ち、 四波ラマン混合の位相同期を証明することが出来た。

(37)

(a)

(b)

=ー 4ぞ

台回

ω

(c)

田国

(d)

(e)

0.025 0.02

0.015

0.005

-100 -50 0.025

0.02

0.015 0 01

f I

0.005

-100 -50 0.025

0.02

0.015

川 』

0.005

ー100 -50 0.025

0.02 0.015

帥1

f I

0.005

-100 -50 0.025

0.02

0.015

川l

0.005

ー1∞ -50

!!�����!I (。

50 100 -60 -50 -40 -30 -20 -10

II!I��!!!I (g)

50 100 -40 -30 -20 -10 0 10

I � I��flllll�� (h)

50 100 -30 -20 -10 0 10 -20

I f 1!IIIIIIII�t (i)

50 100 -30 -20 -10 0 10 -20

I f II!IIII��!. (j)

50 100 -30 -20 -10 0 10 -20

Time (fs)

図5.6 超短パノレ トレインが分散正 により変化して

(d

拡 ) く3大 様 次し

{ でa )も補防 の正c なし、

(正b)、1次の分散を補正、(cは)2次までの分散を補正 散を補 (e)分散なし。(η・(j)それぞれね)-(e)を時間的

(38)

、‘,/ LU 〆aE‘、

Z 4 6

MUMMmmnMMmu岬

0006000oogooooo

--a--z---za--a -aa,・・a--a--且-za--a--a--a -aa--且 zd

� 三 �

J F ? ?f :: /

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ιi且ム4 o

0.5

F ω t十 υuυι れ 引じ o

oAOOJOnJ'

E 1 2 Z 2 2

-s-a“。品。向。aoao品。品"AO白"品。品。

、EEノ a 〆a置、

101 10"

10-6 108 1010 1011 1014 f 10 I・ '11 ,

1018-.1

1(r11 1024 10-Z‘

32040

(。

、EYLM 〆a、、

4

8

muMMMMnMMMM司2

4 6 8 nMMM日uMM岬orO0000000000000σ00白川000σ00白川川eσ0・・・・Ea--a-- -- za--a--a-E星--ae-----a-EA--a・量S

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-A a-a-za---aEa--a--a----

-- Ea-

---za

司‘J寸司

」duzd

u ,、u 担、,M

邑2

量園、UE・・且 ・・且

2.5

2.5 2

2 1.5

1.5

3

3 102

10"

10‘

10.

10凶 1 012

(g) ii i

10・.

I

10:tl 102

1(J26 r L

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JCJ -ι

1 0

5

2.5

F V 一 k l υ日U 恥れμ 、.,/ e 〆a・‘1

85zag

d刊

2.5 2

2 1.5

1.5

(.hw ,d刊)

0.5

Distance (m)

各発仮線毎の初期位相のずれがラマン増幅に与える影 位相差は(a)O、 (b)O.017r、(c)O.O?爪(d)O. 03JT.、(e)O.O句、

(f)0.07R、(g)0.09R.、(h)O.

]n,

2.5 3

1.5 2

凶5.7 0.5

(39)

5.5 まとめ

本章では、数値計算を行うことによって、 高次回転ラマン光の初期位相が同 期していることを証明した。水素中を伝搬することによる分散の影響も考慮、し た結果、 少なくとも985 nmから648 nmという限られた波長範囲では、 水素の 分散は直線的であるため、 1次と2次の分散を補正することで、 超短ノミルス光 を発生させることが可能であった。

サブフェムト秒パルスを発生させるには、第3章で得られたような広い波長 域にわたって高次回転ラマン光を発生させる必要があるが、 その場合、いくつ かの留意すべき点がある。 まず、 そのような広い波長領域では、 水素の屈折率 の非線形性が紫外域になるにつれて急速に増大し、分散の補償が困難になる。

そして、 そのような広い波長域において、 まず光学的損失の少ない分散素子を 用いる必要性がある。さらに本研究では考慮、していないセル窓材などの固体素 子による大きな分散の影響をどのように補正するかが問題となる。

これらの問題を解決する方策として、真空チャンバー内にスリット状にガス を瞬間的に噴射させ、励起光を集光する方法が考えられる。この方法により、

従来のラマンセルのような窓材を使用する必要が無くなる。もちろん応用面に おいては、計測器、 試料などを全て真空チャンバー内に収納することが前提と なる。 また、 ビーム質の改善、 シード光の導入などにより、 ゲイン係数を向上 させ、媒質距離を短縮して、 分散の影響を軽減することができる。 これにより、

サブフェムト秒パルスの発生が実現できると期待される。

(40)

第6�

結論

6.1

本論文のまとめ

近年、超高速分光またはエックス線分光分析における光源として用いるため、

超短ノミルス光の開発に関する研究が、世界中で盛んに行われている。 現在では、

自己位相変調により白色光を発生させ、プリズム対及び回折格子対を用いて非 線形群速度分散を補正するパルス圧縮技術が確立されている。 これにより5フ ェムト秒の短パルスレーザーの発生が報告されている。 しかし、 この方法によ るパルス圧縮技術は、 もはや限界に来ている。 それは、 プリズム対や回折格子 対などの固体素子では、高次の群速度分散を完全に補正することが困難である からである。 最近、 これに対して新しい方式が提案されている。 それは、 水素 ガス中において、 587 cm-1の周波数間隔で発生する多数の高次誘導回転ラマン 光の位相同期により、サブフェムト秒の極限の超短パルス光を得る方法である。

ここで発生する光のパルス幅は、回転ラマン光が発生する周波数領域の幅に反 比例する。 また、 発生するパルス列の時間間隔は、 各発振線の周波数間隔に反 比例する。 よって、 パルスグIjから単一のパルスを独立に取り出し、 さらに、 で きるだけ短いパルス幅の光を発生させるには、 周波数間隔が4155 cm-lと大き

な誘導振動ラマン光を抑制し、 かつできる限り広い周波数領域において、 選択 的に高次回転誘導ラマン光を発生させる必要がある。そこで本研究では以下の 事柄について検討した。

第1章は序論であり、 これまで、の超短ノミルス光開発の歴史と成果、本研究の 背景と意義、 並びに研究目的について述べた。

第2章では、 ピコ秒チタンサファイアレーザーを励起光源として用い、従来 のナノ秒励起光を使用した研究では得られなかった、高次回転ラマン光の選択

(41)

的発生が可能なことを示した。 これはピコ秒励起光が高い尖頭出力を有してい るため、 誘導ラマン散乱ゲインが大きくなることに加え、励起波長が近赤外域 (800 nm)にあるため、 回転ラマン光発生ゲインと比較して振動ラマン光発生 ゲインが顕著に低下したためと考えられる。

第3章では、 ピコ・ フェムト秒チタンサファイアレーザーを励起光源として 用い、パルス幅800 fsの励起光ノミルスを高圧水素に集光することにより、40本 以上の高次回転ラマン光を同時に発生できることを述べた。 この多色レーザー は、 群速度分散によるパルス幅の増大を補正することにより、 0.6 fsの超短パ ルス光を発生で、きる可能性があることを示した。 また、 誘導ラマン散乱及び四 波ラマン混合発生ゲインを増加させるには、励起光尖頭出力を大きくすること が有効であると考えられるが、 フェムト秒領域においては、 回転ラマン光の発 生を妨げる自己集束、 自己位相変調、 高調波発生などの非線形光学効果が発現 し、 これらとの競合のため、 実験における諸条件を最適化する必要があること がわかった。 本研究では、 励起光偏光依存性、 パルス幅依存性、 水素圧依存性、

及び集光条件などについて詳細に検討した。

第4章では、 ジブロモメタンからの散乱光をシード光として用いることによ り、水素中の誘導ラマン増幅及び四波ラマン混合による回転線の増強を試みた。

本研究の結果から、 フェムト秒領域においては、 ジブロモメタンの振動ラマン 光ではなく、むしろ自己位相変調により生じるる微弱な白色光がシード光とな り、水素中において回転ラマン光ではなく振動ラマン散乱を増強することがわ かった。 これは、シード効果により回転及び振動ラマン光発生の関値が低下し、

振動ラマン増幅の方が回転ラマン増幅よりもゲインが高く、優勢に増強される ためと結論した。 このため、回転ラマン光に対して選択的にシード効果を及ぼ すためには、 励起光出力などを調整し、自己位相変調によるライン広がりを、

口|転ラマン遷移領域に制限することが必要であることがわかった。

(42)

第5章では、ラマン四波混合モデルにおける複素結合微分方程式を数値計算 により解析し、各回転ラマン光の位相が同期していることを証明した。 また、

口|転ラマン光が水素中を伝搬してし、く様子をシミュレーションにより再現し、

Fourier合成により形成される超短ノミルス光トレインの成長過程を調べた。その 結果、水素中で発生したパルストレインは、一旦水素の群速度分散によってパ ルス幅が広がるものの、高次の非線形分散を補正することにより、超短パルス 光を発生できることがわかった。

第6章は結論であり、本研究で得られた知見を総括し、 その意義を述べると 共に、 今後の展望について考察した。

6.2

今後の展望

本研究では、 パルス幅800 fsの励起光を用いて約40本以上の回転ラマン光 を同時に発生し、 それが0.6 fsの超短ノわレス光トレインを発生する可能性につ いて示した。 しかし、 今後Fourier 合成による超短ノミルス光発生が可能になる と、 科学・工業的な応用の面において、単一超短パルス光の必要性が生じるこ とは容易に想像できる。 そこで、57 fs間隔で発生する超短パルス光から単一パ ルスを抽出する必要がある。 予め励起光として100 fs以下のパルスレーザーを 使用すると、 この問題を解決することができる。 しかし、800 fs以下の励起ノ。

ルスでは、 他の非線形光学効果の妨害により、 高次回転ラマン光を効率よく選 択的に得ることはそれほど容易ではない。 そこで、パルスエネルギーを小さく して他の非線形光学効果を抑制し、かつ効率よく高次回転ラマン光を発生させ てパルス|幅を短縮するため、励起光に関するパラメータとは別の因子を最適化 しなければならない。 そこで、本研究では次のような2つの方式を提案する。

①二波長励起法

本研究では、 1つの励起レーザーにより誘導ラマン散乱を発生させ、 それ

(43)

より得られた第1ストークス光と励起光との四波ラマン混合により、高次旧 転ラマン光を発生させている。 ここで、第1ストークス光に相当するレーザ ーをシード光として導入すれば、 四波ラマン混合の発生関値がさがり、 また 効率も改善され、 多数の回転ラマン光が発生する。 これにより、 励起光の短 パルス化が実現で、きる。

②パラ水素

本研究ではオルト水素とパラ水素の3:1混合気体であるノーマル水素をラ マン媒質として用いている。発生ゲインが高いパラ水素を用いることによっ て、 発生闇値を低下させることが可能である。 また、 温度を下げると100%

純粋なノミラ水素を得ることが出来るため、増幅率をさらに高くすることがで きる。 さらに、 基底状態、の分子数が増大し、 増幅率は一層改善される。 また、

パラ水素の回転エネルギー準位差は354 cm・1で、 オルト水素の587 cm-1より 狭い。 このため、 パルストレインの発生間隔は94おとなる。 これにより、

同出力のフーリエ限界パルスを得ることが容易になり、単一の高出力超短ノミ ルス光を得ることが出来ると考えられる。

本研究のFourier合成により極限の超短ノわレス光発生が実現できれば、 非線 形光学効果、 高速現象解明などの科学、 並びに核融合点火、 高速光通信などの

業の分野に大きな波及効果をもたらすと期待される。

(44)

謝辞

本研究に対し終始熱心なご指導並びにご鞭捲を賜りました九州大学大学院 工学研究科 今坂 藤太郎教授には、 心から感謝の意を表します。

九州大学大学院工学研究科 前田 三男教授、今任 稔彦教授には貴重なご 指導、 ご教示を賜りまして、 深く感謝申し上げます。

専門的な教育のみならず、研究者を通しての人格形成の一環として熱心にご 指導いただきました九州大学工学研究科 金田 隆助教授には感謝の念に耐 えません。

研究の進行全般にわたって終始有意義なご意見ご指導を賜りました九州大 学大学院工学研究科 平川 靖之助手、岡 林 震燈元助手に多大なる感謝の 意を表します。

数値計算を行うにあたって貴重な助言をいただきました九州大学大学院工 学研究科 森 智則氏に、 深く感謝の意を表します。

本研究は、九州大学大学院工学研究科 機能物質化学専攻 応用分析化学講 座の研究室員全てのみなさんのご協力により無事進めることが出来ました。 こ こに改めて厚く御礼申し上げます。

最後に、本博士後期課程修了まで、長い間温かく見守ってれた両親を初めと する家族に、 感謝の意を表します。

1998年1月 著者

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引用文献

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参照

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