<論 説>
流動性ショックの伝染における中枢銀行の影響
奥 山 聡 子
目 次
1.はじめに 2.モデル
2.1 フィナンシャル・ネットワークにおける中枢銀行の存在 2.2 中枢銀行の流動性ショックに対する他の銀行の行動 2.3 レガシー資産の流通市場と均衡
3.不確実性のないベンチマークモデルの均衡 3.1 銀行の最適行動
3.2 部分均衡 3.3 一般均衡
4.フィナンシャル・ネットワークの複雑性の導入と均衡 4.1 銀行の最適行動
4.2 不確実性下の部分均衡 4.3 不確実性下の一般均衡 5.おわりに
1.はじめに
2008年9月,アメリカの大手投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻したことをきっかけとし て,世界金融危機が発生した。金融市場は大規模な流動性ショックに見舞われ,インターバン ク・レートは上昇した。それと同時に,株価も世界各国で大幅に下落した。なぜリーマン・ブラ ザーズの破綻が金融危機の発端となったのか。本稿では,リーマン・ブラザーズのような巨大銀 行が危機に陥った際,金融危機がどのように伝染し,資産価格の下落を引き起こすかについて理 論的分析を行った。
リーマン・ブラザーズの破綻が世界金融危機を引き起こした要因の1つは,リーマン・ブラ ザーズが数多くの銀行と取引を行う巨大銀行だったことである。銀行は日常的に,インターバン ク市場において資金の貸借を行っている。その銀行間のネットワークをフィナンシャル・ネット ワークという。リーマン・ブラザーズのような巨大銀行は,多数の銀行とネットワークを結んで おり,フィナンシャル・ネットワークの中枢となっている。本稿ではそのような巨大銀行を中枢 銀行と呼ぶ。中枢銀行の破綻は,直接取引をしている銀行だけでなく,直接取引をしていない銀
行に対しても影響を与える。なぜなら,フィナンシャル・ネットワークには,自分の取引相手が 他の銀行とどのような取引をしているか分からないという不確実性が存在しており,銀行は自分 が直接中枢銀行と取引をしていなくとも,自分の取引先が中枢銀行と取引をしている可能性が高 いと考えるからである。そのため,中枢銀行と直接取引をしていない銀行も質への逃避行動を取 り,大規模な資産の投売りが発生する。
本稿の目的は,中枢銀行で流動性危機が発生した場合,それが他の銀行の質への逃避行動を引 き起こし,大規模な投売りが発生することを理論的に証明することである。本稿の結論から,銀 行の持つネットワーク数が,銀行救済の重要な判断材料になることが分かる。本稿はToo big to fail(大きすぎて潰せない)の理論的な裏付けを示すものとなる。
中枢銀行の役割や,破綻にいたる経緯については,Duffie(2010)が詳細に書いている。その 中で,中枢銀行が資金貸借の仲介業を担っていたり,多くの銀行と貸借関係にあることが述べら れている。フィナンシャル・ネットワークに関しては,Allen and Babus(2009)が,フィナン シャル・ネットワークにおける現象を説明するのに,ネットワーク理論を用いることが有効であ ると述べている。そしてフィナンシャル・ネットワークに関する多数の先行研究を紹介してい る。資産の投売りについては,Diamond and Rajan(2009)が,金融危機がまだ終息しないうち に,金融機関の清算を行おうとすると,資産の投売りが発生することを理論的に示している。
本稿のモデルは,Caballero and Simsek(2011)をベースにしている。彼らは,フィナンシャ ル・ネットワークの不確実性が,銀行の質への逃避行動をもたらすことを理論的に証明した。彼 らは,各銀行が他の銀行の経営状況について,自分が直接取引をしている銀行しか認識していな い状況を考えた。そのため,流動性ショックがどの銀行に発生したか分からず,すべての銀行が 質への逃避行動を取ることを示した。
しかし実際には,今回のリーマン・ブラザーズのように,流動性ショックが発生した銀行が分 かっていても,パニックによる投売りが発生している。そこで本稿では,多数の銀行とのネット ワークを形成している中枢銀行を考え,中枢銀行に発生するショックが,どのように資産の投売 りを引き起こすかについて分析を行った。さらに,Caballero and Simsek(2011)では,パニッ クによる投売りは,ナイト流不確実性下における銀行行動の結果であるとされた。しかし本稿で は,ナイト流不確実性が存在しない状況下で,銀行がリスク中立的であっても,資産の投売りが 発生することを証明する。
次節ではまず,不確実性のないベースモデルを提示する。そして3節でベースモデルの均衡を 求めていく。4節ではフィナンシャル・ネットワークに関する不確実性を導入し,その均衡を求 めていく。
2.モデル
最初に,不確実性が存在しないモデルを考える。本節ではベンチマークとなるモデルの設定を
説明し,その均衡を定義する。基本的なモデルの設定は,Caballero and Simsek(2011)と同じ であるが,本稿ではフィナンシャル・ネットワークに中枢銀行を導入する。
t={0,1,2}の3期間モデルを考える。経済に存在する財は1つのみで,それは現金(円)で あるとする。この経済ではnの金融仲介業者(すなわち銀行)の連続体が存在する(注1)。銀行に は2つの種類がある。1つは中枢銀行で,bHで表される。この銀行は複数の銀行とネットワーク を形成している(詳細は後述する)。残りの銀行は{bj}nj=1−1で表される(bjは銀行jを示す)。中 枢銀行以外の銀行は,すべて同質であると考える。
すべての銀行は,date0時点でのバランスシートを所与として行動する。銀行が消費を行うの
はdate2のみである。銀行は,date0の時点で保有している現金を投資に回す。投資方法は2つ
ある。1つは彼らが保有する現金をそのまま保有しておくことである。この場合,1円の投資に 対して,次の期に1円の現金が手に入るのみである。もう1つは,資産に投資する場合である。
この場合,資産1単位につきdate2にR>1の収益が得られる。しかし,date1ではこの資産 は現金を全くもたらさない。この資産はdate0では弾力的に供給されるため,価格は1に標準 化する。
資産は,date2には現金よりも多い収益を生み出すが,date1の時点では完全に非流動的であ る。さらに,この資産はdate1の時点では売ることも貸すこともできない。すなわち銀行は,
date1でこの資産を現金に換えることができない。この仮定は,標準的な流動性と収益のトレー ド・オフの特徴を捉えている。このモデルにおける現金は,国債などの流動的な資産と考えられ る。国債は,収益は低いが,負のショックが発生した場合でもその市場価値を維持できる。対照 的に,資産の方は,資産担保付債券のような非流動的資産であると考えられる。潜在的には高い 収益をもたらすが,ショックが発生した場合には市場価値は低いものとなる。
すべての銀行は,date0の時点でy単位の現金と1−y単位の資産を保有している。資産は過 去に購入したもので,これをレガシー資産とよぶ。このモデルにおける意思決定はdate0に行 われる。すべての銀行は,流通市場において,レガシー資産を取引することができる。その際の レガシー資産の価格はpで,価格pは内生的に決まる。レガシー資産は新しい資産と同一であ るため,レガシー資産の価格が1を上回ることはない。また,仮定として,このモデルにおける 通常時のレガシー資産の買い手は,他の銀行であるとする。銀行以外の外部のエージェントは,
この資産に対して低い評価をしているため,その買い取り価格はpscrap<1になるとする。外部 エージェントはpscrapの価格で弾力的にこの資産を需要する。よって,外部エージェントにレガ シー資産が売られる場合には,市場価格はp=pscrapとなる。この状況を,レガシー資産の投売り
(fire sale)という。
銀行の意思決定について簡単に説明する。銀行はdate2の自己資本が最大になるように意思 決定を行う。現金は利益を生まないため,銀行は通常,レガシー資産を保有したまま新しい資産 を購入する。その場合,レガシー資産の価格は1になる。
中枢銀行以外の銀行の バランスシート 資 産
短期債権
(z円)
レガシー資産
(1−y単位)
現金
(y円)
負 債 短期債務
(z円)
自己資本
中枢銀行のバランスシート
資 産 短期債権
(Mz円)
レガシー資産
(1−y単位)
現金
(y円)
負 債 短期債務
(Mz円)
自己資本
この状況に,予期せぬ負のショックを導入する。負のショックは,date1に流動性が必要とな る流動性ショックである。date1で流動性が必要になる場合,銀行はレガシー資産を売却し,現 金を手に入れようとする(質への逃避)。これは2つの効果を持つ。1つは,銀行が新しい資産 を購入しなくなることによるクレジット・クランチである。クレジット・クランチが起こると,
実体経済にも影響が及ぶ。もう1つは,レガシー資産が売却されることで,レガシー資産の投売 りが行われることである。この論文では,中枢銀行に流動性ショックが発生した場合に,フィナ ンシャル・ネットワークを通じて,大規模な質への逃避や,レガシー資産の投売りが行われるこ とを示していく。
2.1 フィナンシャル・ネットワークにおける中枢銀行の存在
date0の時点で,中枢銀行以外の銀行bjは,他の1つの銀行に対するz円の短期債権を保有し
ている。短期債務を負っている他の銀行を,銀行bjのforward neighbor銀行とよぶ。短期債務 はロール・オーバーされず,date1に返済されるものとする。負債側では,銀行bjはz円の短期 債務を負っている。短期債務の貸し手である銀行を銀行bjのbackward neighbor銀行とよぶ。
銀行のdate0におけるバランスシートは,図1(左)のようになる。
一方,中枢銀行は,M 個の銀行に対してz円の短期債権を保有しており,合計Mz円の短期 債権を保有している。負債サイドでもM 個の銀行から,合計Mz円の短期債務を負っている。
つまり,中枢銀行はM 個のforward neighbor銀行と,M 個のbackward neighbor銀行を保有す る。中枢銀行のバランスシートは図1(右)のようになる。ただし中枢銀行の現金保有量と,レ ガシー資産保有量は他の銀行と同じであるとする。
このような相互の債権債務関係は,金融システムでは一般的である。これらは無担保の債務で あり,インターバンク市場で行われている取引である。このフィナンシャル・ネットワークが,
危機が起こった際,質への逃避の発生要因となる。
図1 初期の銀行のバランスシート
bn−1
ba+1 ba+2
ba+ni ba+ni+1
b1 b2
b3
ba bH
中枢銀行
n−1 M −1 n−1
M
分析を容易にするために,フィナンシャル・ネットワークが,中枢銀行を中心とした円形であ ると考える。
bj→bj+1の表記は,銀行bjからbj+1に債務の返済が行われることを示している。つまり,銀行 bj+1は,銀 行bjに と っ て のbackward neighbor銀 行 で あ る。銀 行bj−1は,銀 行bjのforward neighbor銀行になっている。ただし,銀行b1のforward neighbor銀行は,銀行bn−1である。中 枢銀行は,複数の銀行と債権債務の関係を持っている。銀行の数は中枢銀行を含めてnとなっ ている。中枢銀行のbackward neighbor銀行はM 個ある。分析を容易にするため中枢銀行の backward neighbor銀行から,次の中枢銀行のbackward neighbor銀行までは,ほぼ等間 隔 に なっていると仮定する。具体的には!
#n−1 M
"
$または!
#n−1 M
"
$−1の間隔になっている。ここで!#x"$ は,天井関数を意味し,!#x"$−1<x!!#x"$を満たす唯一の整数を指す。
本節ではフィナンシャル・ネットワークが明らかになっているケースを分析するが,4節から は フ ィ ナ ン シ ャ ル・ネ ッ ト ワ ー ク を 一 般 化 し,不 確 実 性 を 導 入 す る。Caballero and Simsek
(2011)は,銀行がフィナンシャル・ネットワークの順番に関して,限定的な知識(自分が債権 を持つ銀行に関する知識)しか持たないことを仮定していた。そのため流動性ショックがネット ワーク上のどこで発生したか分からなかった。本稿では,銀行は,中枢銀行で流動性ショックが 発生したことは認識しているが,どの銀行が中枢銀行と取引を行っているか認知していない状況 を取り扱う。具体的には,(1):銀行bjは,債権を持つforward neighbor銀行についての知識し か持たない。forward neighbor銀行も含め,他の銀行が中枢銀行との取引を行っているかどうか 分からないと仮定する。
まず次の小節では,(1)の仮定を取り除き,中枢銀行と取引をしている銀行が,すべての銀行 にとって明確である状況について分析を行う。
(1)
2.2 中枢銀行の流動性ショックに対する他の銀行の行動
date0に,中枢銀行で流動性ショックが発生する。これは,date0より前には予期できなかっ たショックである。中枢銀行は,支払い能力を維持するために,date1までに外部のエージェン トに対してθ円の支払いをしなければならないとする。中枢銀行に対して流動性ショックθが 起こったことは,他の銀行も認知している。外部エー ジ ェ ン ト に 対 す る 支 払 い は,forward
neighbor銀行への支払いよりも優先される。この流動性ショックは,フィナンシャル・ネット
ワークを通じて,他の銀行へとスピル・オーバーする。そしてdate1には,他の銀行にも流動 性ショックをもたらしうる。
すべての銀行は,date1に備えるため,date0の時点で意思決定を行う。単純化のために,銀 行は次の2つのうち一方の行動を選択するとする。銀行行動はA0j={s,b}の集合で表される。
A0j=sを選択した場合,銀行は流動性に対する予防的行動を取る。すなわち,保有している現金 y円をすべてそのまま現金として保有し,レガシー資産1−y単位を流通市場ですべて売却する。
そうすることで,完全に流動的なバランスシートにする。A0j=sを選択した銀行の集合をS=
{j!A0j=s}で表す。一方,A0j=bを選択した場合,銀行は資産の潜在的な買い手となる。この場 合,銀行は保有しているレガシー資産をそのままバランスシートに残し,保有している現金で,
レガシー資産や新しい資産を購入する。A0j=bを選択した銀行の集合をB={j!A0j=b}で表す。
すべての銀行はdate2の株価が最大になるように,date0の行動を選択する。ただし,back-
ward neighbor銀行に対するdate1の債務支払いは実行しなければならない。銀行が債務の支払
いを満額できなかった場合(支払い不能に陥った場合),銀行はq1j<zを支払う。中枢銀行は,
債務契約のある各銀行に対して,q1H/M<zを支払う。この場合,その銀行のdate2の株価はq2j
=0となる。銀行がdate1の時点で支払い可能であった場合,中枢銀行はq1H/M=zを支払い,
それ以外の銀行はq1j=zを支払う。この場合,q2j"0となる。
2.3 レガシー資産の流通市場と均衡
レガシー資産はdate0に開かれる流通市場で交換が行われる。レガシー資産の価格をpとす ると,A0j=sを選択した銀行が資産の売り手となり,A0j=bを選択した銀行が資産の潜在的な買 い手となる。p<1の場合,レガシー資産の方が新しい資産よりも価格が低いため,潜在的な買 い手の銀行は,y円をすべてレガシー資産の購入にあてる。p=1の場合,レガシー資産と新し い資産とは無差別になる。p=pscrap<1は,外部エージェントのレガシー資産に対する評価額 で,投売り価格となる。
中枢銀行がA0H=sを選択した場合の,レガシー資産の市場均衡条件は以下のように書ける。
(1−y)(!S!+1)−y
p!B!
"
"!=000 if pif pif p=p∈=1(pscrapscrap,1) (2)ここで!x!は,集合xの要素の数を表している。本稿では,中枢銀行に流動性ショックが発生し た場合に焦点を当てているため,中枢銀行は必ずA0H=sを選択するものと考える。これについ ては,後に詳しく述べる。
第1項は,銀行によるレガシー資産の総供給量を表している。第2項は,レガシー資産の潜在 的需要量の最大値を表したものである。(2)式の左辺がp=1に対して負の値をとる場合,潜在 的需要量が総供給量を上回っている。よってレガシー資産の価格はp=1となる。この場合,買 い手はレガシー資産と新しい資産が無差別になるため,レガシー資産市場が均衡するよう資産を 購入する。また,(2)式の左辺がいくつかのp∈[pscrap,1]に対して0である場合,その価格は均 衡価格である。左辺が,p=pscrapに対して正の値をとる場合,レガシー資産の超過供給となり,
価格はp=pscrapとなる。
次に,不確実性のないベンチマークモデルにおける均衡を定義する。
定義1.不確実性のないベンチマークモデルにおける均衡は,すべての銀行が選択する行動,
すべての銀行の債務の支払い,そして株価の組合せ{A0H,q1H,q2H,A0j,q1j,q2j}と,レガシー資産 の価格水準p∈[pscrap,1]で定義される。ただし,すべての銀行は,date2の株価q2jが最大に なるように行動し,レガシー資産市場は均衡しているとする((2)式を満たしている)。
均衡を求めるために,中枢銀行からの距離を導入することが非常に有効である。中枢銀行から の距離をkで表す。中枢銀行自身は,中枢銀行からの距離がk=0である。中枢銀行のbackward neighbor銀行は,中枢銀行からの距離がk=1となる。同様に,中枢銀行のbackward neighbor
銀行のbackward neighbor銀行は,k=2となる。中枢銀行は,複数の銀行とネット ワ ー ク を
持っているため,同じ距離を持つ銀行は複数存在することになる。後の結果として,中枢銀行か らの距離が近い銀行ほどA0j=sを選択し,遠い距離の銀行はA0j=bを選択する。よって均衡をよ り明快に示すため,崩壊と質への逃避の概念を,中枢銀行からの距離を用いて定義する。中枢銀
行のbackward neighbor銀行の数をM で表すとする。このとき崩壊と質への逃避は以下のよう
に定義される。
定義2.銀行行動と支払いと株価の組合せ{A0H,q1H,q2H,A0j,q1j,q2j}を考える。
(!) 距離がk!K−1の銀行が支払い不能に陥り(すなわちq1j<zの支払い),k"K の銀 行が支払い可能(すなわちq1j=zの支払い)であった場合,規模がM(K−1)+1の崩壊 が発生したという。
(") 距離がk!F−1の銀行がA0j=sを選択し,距離がk"F の銀行がA0j=bを選択した場
合,規模がM(F−1)+1の質への逃避が発生したという。
3.不確実性のないベンチマークモデルの均衡
本節では,フィナンシャル・ネットワークに関する不確実性が存在しない場合について分析を 行う。date0の初期時点で,中枢銀行にθの流動性ショックが発生する。流動性ショックの規模 は,すべての銀行が認知しているとする。本モデルでは以下のパラメータ条件を満たしている均 衡を考える。
(n−M−1)y>!#θ"$ かつ zM+y+(1−y)pscrap!θ (3)
(3)の最初の条件は,金融システムが,中枢銀行と中枢銀行のbackward neighbor銀行以外の 銀行で流動性ショックを賄えるほど,流動性を蓄えていることを意味している。2つ目の条件 は,中枢銀行がbackward neighbor銀行に支払う額が非負であることを表している。
均衡を求めるために3つの段階を踏む。最初に,他の銀行行動を所与とした場合の,銀行行動 とその支払い能力について分析を行う。次に,pを所与とした場合の,部分均衡を求める。最後 に一般均衡価格と配分を求める。
3.1 銀行の最適行動
銀行の最適行動は,その銀行の流動性需要に依存する。中枢銀行以外の銀行bjの流動性需要 は以下のようになる。
z−q1j−1 (4)
第1項 は,backward neighbor銀 行 に 支 払 わ な け れ ば な ら な い 額 を 表 し,第2項 はforward
neighbor銀行bj−1から支払われる額を表している。また,k=0である中枢銀行の流動性需要
は,以下のようになる。
zM−
!
M i=1q1ni+θ (5)
第1項は,中枢銀行がM 個のbackward neighbor銀行に支払わなければならない額を表し,第
2項はM 個のforward neighbor銀行から支払われる額を表している。第3項は中枢銀行に発生
する流動性ショックである。(4)式と(5)式の流動性需要を満たすために,銀行はdate0の時点 でA0j=sを選択し,保有するy円現金をそのまま維持し,さらに1−y単位のレガシー資産をす べて現金に換えることができる。よってdate1の時点で利用可能な流動性は
l
(p)=y+(1−y)p (6)
となる。
銀行の最適化行動を考える。銀行行動は,その銀行に対する流動性需要と,利用可能な流動性 との大小関係で決まる。考えられるケースは3つある。まず最初に,流動性需要がゼロのケース である。これは,backward neighbor銀行(bj−1)が全額(q1j−1=z)返済を行うため,銀行bjが 流動性ショックを伴わないケースである。このケースでは,銀行bjはdate1に流動性を必要と
しないためA0j=bを選択する。なぜならy単位の現金をそのまま保有するよりも,資産に投資し
た方がdate2の株価が高くなるからである。この銀行bjが,レガシー資産の潜在的な買い手と
なる。次に,流動性需要が[0,(p)l ]の範囲である場合を考える。この場合銀行bjは,流動性 を確保しないと倒産してしまいq2j=0となる。そのためA0j=sを選択し,保有しているレガシー 資産を売却する。最後に,流動性需要が(p)よりも大きいケースである。この場合,銀行はl A0j
=bを選択してもA0j=sを選択しても無差別となる。なぜなら,どちらを選択しても流動性需要 を満たせずに支払い不能となり,q2j=0となるからである。しかし本モデルでは,このケースで も 銀 行 はA0j=sを 選 択 す る と 仮 定 す る。そ の 方 が 保 有 し て い る 現 金 が 多 く な り,backward
neighbor銀行への返済額も多くなるからである。
以上をまとめると,銀行bjは流動性需要がゼロの場合のみA0j=bを選択し,流動性需要が正 の値をとる場合はすべてA0j=sを選択する。次節では,この銀行の最適行動を基に,部分均衡を 求める。
3.2 部分均衡
ネットワークに関する不確実性が存在しない状況での部分均衡は以下のように定義できる。
命題1.レガシー資産の価格がp∈[pscrap,1]の水準で与えられており,さらに(3)の条件が満 たされているとする。このとき
K(p)=!
#1
M
!
(p)l θ −1"
"$ (7)と な り ,M(K(p)−1)+1の 規 模 の 崩 壊 が 発 生 す る 。 さ ら にF(p)=K(p)+1と な り , M(F(p)−1)+1の規模の質への逃避が発生する。ただし
K(p)<!
#n−1 M
"
$−1かつF(p)<!
#n−1 M
"
$−1 を満たすとする。
命題1.の証明
まずは流動性ショックが発生した中枢銀行(k=0)から見てみる。中枢銀行の流動性需要は
(5)式である。M 個のforward neighbor銀行からの返済が全額(q1j=z)行われるとすると,中 枢銀行はzMの支払いを受ける。よって(5)式より中枢銀行の流動性需要はθ>0となる。流動 性需要が正であるため,中枢銀行はA0H=sを選択する。このときθ!(p)ならば,中枢銀行はl 支払い可能となり,倒産を免れる。この場合,崩壊規模はK(p)=0となり,質への逃避の規模 はF(p)=1となる。これは命題1と矛盾しない。
次にθ>(p)の場合を考える。この場合,中枢銀行は支払い不能に陥る。そしてl
q1H M=1
M(zM+l(p)−θ)=z+(p)l −θ
M <z (8)
をM 個のbackward neighbor銀行にそれぞれ支払う。θ>(p)であるため,支払い額はl z未満 になる。さらに(3)の条件よりq1H"0である。
中枢銀行のbackward neighbor銀行(k=1)の流動性需要は,(4)式より z−q1H
M=θ−l(p)
M >0 (9)
となる。θ>l(p)であるため,流動性需要が正になる。よってk=1の銀行もA10=sを選択す る。k=1の銀行は,θ!(1+M)(p)ならば支払い可能となる。この場合,崩壊規模はl K(p)
=1となり,質への逃避はF(p)=2となる。(1+M)(p)<l θならば,この銀行は支払い不能に 陥り
q11=l(p)+q1H
M=z+(1+M)(p)l −θ
M (10)
をk=2の銀行に支払う。k=2の銀行の流動性需要は
z−q11=z−(l(p)+q1H
M)=θ−(1+M)(p)l
M >0
となり,k=2の銀行の銀行もA20=sを選択する。この銀行の利用可能な流動性も(p)であるたl め,(1+2M)(p)<l θならば支払い不能に陥る。
k=2の銀行が支払い不能に陥った場合,この銀行の支払いは q12=q11+l(p)=z+(1+M)(p)l −θ
M +l(p)=z+(1+2M)(p)l −θ M
となる。これを一般化すると銀行bkのdate1の株価は q1k=l(p)+q1k−1=kl(p)+q1H
M=z+(1+kM)(p)l −θ
M (11)
となる。そして,(1+kM)(p)<l θならばこの銀行は支払い不能に陥り,この銀行のbackward neighbor銀行である銀行bk+1はA0k+1=sを選択する。
中枢銀行からの距離が十分遠くなると(kが十分大きくなると)(1+kM)(p)l "θとなる。
(1+kM)(p)l "θを満たす最初の非負の整数をK(p)とすると K(p)=!
#1
M
!
(p)l θ −1"
"$ (12)となる。このときk"K(p)の銀行が支払い可能となる。一方,k!K(p)−1の銀行が支払い 不能となる。また,質への逃避に関しては
F(p)=K(p)+1 (13)
となり,k!F(p)−1の銀行が予備的行動を選択する。ここで
K(p)<F(p)=!
#1
M
!
(p)l θ −1"
+1$"<!#n−1M "$−1⇔ θ l
(p)<n−M−1 である。これは(3)の条件から満たされることがわかる。
(証明終わり)
3.3 一般均衡
前節では,レガシー資産の価格pを所与とした場合の,銀行の最適行動と,backward neigh- bor銀行への支払いについて分析を行った。本節では,一般均衡における価格と配分を求める。
命題2.不確実性のないベンチマークモデルを考える。ただし(3)の条件を満たしているとす る。このとき均衡として以下の3つのケースが成り立つ。
(!) 適正価格均衡:ny−θ>M は,均衡価格がp=1となるための十分条件である。このと き,崩 壊 の 規 模 はM(K(1)−1)+1=M
#
!#1M(θ−1)"$−1$
+1で,質 へ の 逃 避 の 規 模 は MK(1)+1=M!#1
M(θ−1)"
$+1である。
(") 投売り価格均衡:M> ny−θ l
(pscrap)は,均衡価格がp=pscrapとなるための必要条件である。
このとき,崩壊の規模はM(K(pscrap)−1)+1=M
#
!#1M!
(pl θscrap)−1"
"$−1$
+1で,質への逃避の規模はMK(pscrap)+1=M!
#1
M
!
(pl θscrap)−1"
"$+1である。(#) 需 給 均 衡:ny−θ
x* <M か つM< ny−θ l
(pscrap)x**の と き 均 衡 価 格 はp*∈(pscrap,1)と な
り,このとき需要と供給が一致する。このとき,崩壊の規模はM(K(p*)−1)+1=
M
#
!#1M!
(pl θ*)−1"
"$−1$
+1で,質への逃避の規模はMK(p*)+1=M!#1
M
!
(pl θ*)−1"
"$+1である。
証明)証明は命題1と市場均衡条件(2)を用いて行う。中枢銀行からの距離がk!F(p)−1の銀 行はA0j=sを選択する。このとき,この銀行は保有している1−y単位のレガシー資産を売却す る。よってレガシー資産の供給量はF(p)−1=K(p)より
(1−y)(MK(p)+1) (14)
となる。一方,中枢銀行からの距離がk"F(p)の銀行はA0j=bを選択する。これら の 銀 行 は,保有しているy単位の現金で,レガシー資産または,新規発行の資産を購入する。よって,
レガシー資産の潜在的需要量は
y
(n−MK(p)−1)
p (15)
となる。
(14)式と(15)式と均衡条件(2)を用いて,均衡を求めていく。まず,p=1のケースを考える。
このとき(14)式は(1−y)(MK(1)+1)となり,(15)式は(n−MKy (1)−1)となる。需要が供 給を上回るのは,以下の条件を満たすときになる。
y
(n−MK(1)−1)"(1−y)(MK(1)+1)
⇔ ny"MK(1)+1
⇔ ny"M!
#1
M(θ−1)"
$+1 (16)
ここで,天井関数の性質から,以下の等式を満たす0!x*<1が存在する。
1
M(θ−1)+x*=I (17)
ただしIは自然数を表す。すると(16)式は以下のように書ける。
ny"M!
#1
M(θ−1)"
$+1
⇔ ny"M
!
1M(θ−1)+x*"
+1⇔ ny"θ+Mx* (18)
x*=0の場合,(3)の条件からny>(M+1)y+#!θ"$>θであるので(18)式は成り立つ。x*<1 であることから
ny"θ+M>θ+Mx*
⇔ ny−θ>M (19)
は,p=1が均衡価格になるための十分条件となる。これで(!)が成り立つことが証明された。
次にp=pscrapのときに,供給が需要を上回る状況について考える。(14)式と(15)式より
y
(n−MK(pscrap)−1)
pscrap !(1−y)(MK(pscrap)+1)
⇔ ny!(pl scrap){MK(pscrap)+1} (20)
となる。(20)式の導出には(p)l ≡y+p(1−y)を用いた。ここで先ほどと同様に,以下の式を満 たす実数0!x**<1を考える。
1
M
!
(pl θscrap)−1"
+x**=Iこれを用いて(20)式を書き直すと以下のようになる。
ny−θ l
(pscrap)x**!M (21)
x**→0の場合,(21)式は成り立たない。x**→1のとき ny−θ l
(pscrap)<M (22)
が成り立つことがp=pscrapの均衡が存在する必要条件である。必要条件が成り立つ場合,(21)式 が成り立てば,p=pscrapが均衡価格となる。これで(!)が成り立つことが証明された。
最後にp=1のときに供給が需要を厳密に上回り,p=pscrapのときに需要が供給を厳密に上回
るケースを考える。このときの条件はそれぞれ(18)式と(21)式から次のように導かれる。
ny−θ
x* <M かつM< ny−θ l
(pscrap)x** (23)
(23)式の条件が成立している場合,需要曲線と供給曲線がそれぞれpの連続関数であることか
ら,p∈(pscrap,1)の範囲で需要と供給が一致する均衡価格が存在する。これで(")が成り立つ
ことが証明された。
(証明終わり)
4.フィナンシャル・ネットワークの複雑性の導入と均衡
次にフィナンシャル・ネットワークの複雑性を導入する。このモデルでは,各銀行は,ネット ワークに関する不確実性に直面している。先ほどと同じように不確実性下での均衡を定義し,結 論を求めていく。
ベンチマークモデルでは,各銀行が,互いの順番を認識していた。本節では,各銀行が,他の 銀行の順番を認識していない状況を考える。フィナンシャル・ネットワークをβ(σ)で表すとす る。このときσ:{1,2,..,n−1}→{1,2,..,n−1}は,銀行bσ(i)にフィナンシャル・ネットワーク 上のiの位置を割り当てる写像である。前節は中枢銀行のbackward neighbor銀行は隣り合わ ず,等間隔であると仮定した。今節はより一般的に,中枢銀行のbackward neighbor銀行が隣り 合う可能性を排除しない。その場合,中枢銀行のbackward neighbor銀行とforward neighbor銀 行が同じになる可能性がある。フィナンシャル・ネットワークは図2のように描ける。
本モデルの鍵となる要素は,銀行がフィナンシャル・ネットワークに関して不確実性を持つこ とである。銀行は,各銀行の身元j∈{1,..,n−1,h}は認識しているが,銀行の順序(σ)に関 しては不確実性を持つ。起こりうるフィナンシャル・ネットワークの集合を
B=
"
β(σ)!σ:{1,2,..,n−1}→{1,2,..,n−1}#
で表す。B(j σ)⊂Bは,実際β(σ)が実現したときに,銀行bjが認識できるフィナンシャル・
bσ(n−2)
bσ(n−1)
bσ(1)
bσ(2)
bσ(3)
bσ(4)
bσ(i)
bσ(i+2)
bσ(i+3)
中枢銀行
ネットワークの集合を表している。本稿では,銀行にとっての不確実性を表すものとして集合
{B(j σ)}j,σを考える。不確実性のないベンチマークモデルにおいては,各集合B(j σ)は1つの要 素しか持っていなかった。よって,フィナンシャル・ネットワークをすべて認知できたのであ る。しかし本節では,銀行はフィナンシャル・ネットワークに関する局地的な知識しか持ってい ない。つまり,銀行は,自らのforward neighbor銀行を観察できるが,その他の銀行について は,それがどの順番になっているのか認知できない。形式的には不確実性モデルは以下のように 与えられる。
B(j σ)=
!
β(〜σ)∈B#
!#%〜σ(i〜σ−1)(i)==σσ(i)(i−1)"$&,ただしi=σ−1(j)"
(23)実現した各σに対して,各銀行は,自身の位置と自身のforward neighbor銀行の位置を認知し ている。けれども他の銀行に関してはどの位置が割り当てられているか分からない。ただし,各 フィナンシャル・ネットワークの起こりうる確率は等しいとする。
銀行はフィナンシャル・ネットワークに関する不確実性が存在する中で,date0に意思決定を 行う。銀行bjが認識しているのは,B(j σ)に含まれるフィナンシャル・ネットワークが起こり うるということだけである。銀行は,その中でdate2の期待株価を最大化するように自分の行 動A(σ)を決定しなければならない。0j
フィナンシャル・ネットワークβ(σ)が与えられた時の,銀行の債務支払い額と株価の組合せ を(q(σ)1j ,q2(σ)j )で表すとする。このとき,銀行の最適化問題は以下のように書ける。
max
A0(σ)j ∈{S,B}
E[q2(j σ)] (24)
ここでE[・]は期待値を表す。
次に,定義1を拡張して,不確実性の下での均衡を定義する。
図2 フィナンシャル・ネットワークの一般化
定義3.フィナンシャル・ネットワークに関する不確実性下での均衡は,銀行行動,債務支払 い,株価の組合せ[{A(0j σ),q1(j σ),q2(j σ)}j]b(σ)とレガシー資産の価格水準p∈[pscrap,1]で定義 される。このとき実現したフィナンシャル・ネットワークβ(σ)は所与であるとし,各銀行bj
はdate2の期待株価が最大になるように行動を決定する((24)式参照)。さらに,レガシー資
産市場は均衡であるとする((2)式参照)。
均衡を求めるために,不確実性下での距離の概念を導入する。{ih}Mh=1は中枢銀行の位置を表 すもので,ih∈{ij!ij∈{1,2,..,n+M−1},ij≠ik}であるとする。このとき中枢銀行以外の各銀 行bjに対してj=σ(ih+k)を満たすただ一つの自然数k∈{n+M−2}が存在する。これを中枢 銀行からの銀行bjの距離と定義する。後に証明されるように,均衡における銀行の債務支払い と株価と行動は,距離kの関数となる。すなわち,以下のような関数A(・)0 ,Q1(・),Q(・)が2 存在する。
(A0(j σ),q(1j σ),q(2j σ))=(A[k]0 ,Q[k]1 ,Q[k]2 ) (25)
ここで,kはフィナンシャル・ネットワークβ(σ)を所与とした時の,銀行bjの距離を表す。
3節で提示した崩壊規模K と質への逃避の規模F の定義は,不確実性下の環境にも適応する。
次節以降,均衡を求めていくが,手順としては3節のベンチマークモデルと同じ方法で行う。
まず,銀行の最適化行動を求め,次にレガシー資産の価格p∈[pscrap,1]を所与とした部分均 衡,最後に一般均衡を求める。
4.1 銀行の最適行動
銀行は,与えられたフィナンシャル・ネットワークβ(σ)に対して,date2の株価の期待値が 最大になるように自らの行動A(0j σ)∈{s,b}を決定する。基本的な考え方はベンチマークモデル と同じである。その銀行に対する流動性需要が正になる場合,その銀行は流動性を確保するため に,現金を保有し,レガシー資産を売却しなければならない。そうでないと,債務の支払いに対 応できず倒産してしまう。
まず中枢銀行から考える。中枢銀行の行動は,ベンチマークモデルと同じである。なぜなら,
中枢銀行は,自分自身の位置を認識しているからである。θの流動性ショックが発生するため A(0h σ)=sを選択する。次に,k=1の銀行もベンチマークモデルと同じである。なぜなら,k=1 の銀行も中枢銀行の位置を認識しているからである。この場合,θ>(p)ならばl k=1の銀行 の流動性需要も正になるため,A0σ(hi+1)(σ)=sとなる。θ!(p)ならば流動性需要はゼロになるl ためA0σ(hi+1)(σ)=bとなる。
一方,k"2の銀行bjは中枢銀行の位置が分からないため,自分の距離も認識できない。よっ
てdate2の期待株価がより大きい方の行動を選択する。まず,A(σ)0j =sを選択した場合の期待
株価を求める。この場合k!K(p)−1ならば,この銀行も支払い不能となり,q2(σ)j =0とな
る。k=K(p)ならば,流動性需要が正になるが,支払い不能にはならないため,q(σ)2j =l(p)−
(z−q1σ(i−1)(σ))となる(ただしσ(i)=j)。l(p)は利用可能な流動性を表し,z−q1σ(i−1)(σ)は,
backward neighbor銀 行 へ の 支 払 い 額 とforward neighbor銀 行 か ら の 支 払 額 の 差 額 に な る。
q1(i−1)σ (σ)<zで あ る た め(p)l −(z−q1σ(i−1)(σ))<(p)l と な る。k"K(p)+1な ら ば,forward neighbor銀行からzの返済が行われるため,流動性需要はゼロになる。けれどもA(0j σ)=sを選 択しているため,レガシー資産を売却し,すべて現金で保有している。そのためq(2j σ)=l(p)
となる。以上から,期待株価は以下のようになる。
E[q(2j σ)]=P[k!K(p)−1!β(j σ)]×0+P[k=K(p)!β(j σ)]×{(p)l −(z−q1σ(i−1)(σ))}
+P[k"K(p)+1!β(j σ)]×l(p) (26)
ただしP[・!β(j σ)]は,フィナンシャル・ネットワークβ(j σ)が与えられた時の条件付き確率を 表す。
次にA(0j σ)=bを選択した場合の期待株価を求める。k!K(p)−1ならば,支払い不能に陥る のは同じである。しかしk=K(p)の場合,流動性需要は正になるが,この銀行はA(0j σ)=bを 選択しているため,date1の時点で現金を保有していない。よって支払い不能に陥りq2(j σ)=0 となる。k"K(p)+1の場合,流動性需要はゼロになるため,支払い可能となる。また,y単位 の現金でレガシー資産y/p単位を購入し,1−y単位のレガシー資産を保有し続けるため,date2 に収益
q(2j σ)=R
"
yp#
+R(1−y)=Rl(p)p >(p)l (27)を得る。R>1であるため,date2の株価は(p)よりも高くなる。以上から,期待株価は以下l のようになる。
E[q2(σ)j ]=P[k!K(p)−1!β(σ)j ]×0+P[k=K(p)!β(σ)j ]×0
+P[k"K(p)+1!β(j σ)]×Rl(p)
p (28)
銀行bjは(26)式と(28)式を比較して期待株価の高い行動を選択する。(26)式と(28)式より,
銀行がA(0j σ)=sを選択するのは以下の条件を満たす場合である。
P[k=K(p)!β(j σ)]×{(p)l −(z−q1σ(i−1)(σ))}+P[k"K(p)+1!β(j σ)]×l(p)
>P[k"K(p)+1!β(σ)j ]×Rl(p)
p
⇔ P[k=K(p)!β(j σ)]×{(p)l −(z−q1σ(i−1)(σ))}>P[k"K(p)+1!β(j σ)]
"
Rp−1#
l(p)⇔ P[k=K(p)!β(j σ)]×
$
(p)l −z+q1σ(i−1)(σ)%
>(1−P[k!K(p)−1!β(j σ)])
"
Rp−1#
(p)l (注2) (29)(29)式が満たされない場合,銀行はA(σ)0j =bを選択する。
4.2 不確実性下の部分均衡
ネットワークに関する不確実性が存在している状況での部分均衡を定義する。その際,中枢銀
行のbackward neighbor銀行の数(M)が均衡に影響を与える。M の増加は3つの経路から銀
行bjに影響を与える(Appendix1を参照)。1つ目はネットワーク数の上昇により銀行bjの距離 が,k=K(p)となる確率を上昇させる効果である。2つ目は,銀行が予備的行動(A(0j σ)=s)
を取った際の収益を増加させる効果である。これは,ネットワーク数の増加により,流動性 ショックが分散され,銀行1つあたりの損失が少なくなることから起こる効果である。最後に,
中枢銀行のネットワーク1つあたりの崩壊規模K(p)を小さくする効果である。M の増加によ り流動性ショックが分散されるために,ネットワーク1つあたりの崩壊規模が小さくなる。
本稿では単純化のためにK(p)∈{1,2}で固定し,崩壊規模の短縮が起こらないケースのみを 分析する。θ!(1+M)(p)の場合,Kl (p)=1となるのは内生的に導かれるが,θ>(1+M) l
(p)の場合においてもK(p)=2であるとして分析を行う(K(p)=2を満たす条件については
Appendix2を参照)。この仮定は,M の増加によるネットワーク1つあたりの崩壊規模の縮小の
効果を最小限に抑えることを意味する。現実の経済を見ても,中枢銀行のネットワーク数の増加 が,ショックの分散による崩壊規模の短縮を引き起こすことよりも,中枢銀行からの距離が接近 する確率が高まることの方がより重要視される。そのため本稿では後者に焦点を当てて分析を行 う。ただし,崩壊規模の短縮が複数回引き起こされる場合でも,本モデルから得られる結果に本 質的な影響はない。
命題3.フィナンシャル・ネットワークに関する不確実性が存在する状況を考える。レガシー 資産の価格水準がp∈[pscrap,1]であり,(3)の条件を満たすものとする。ただしK(p)!2で あるとする。
(!) M"θ−1 l
(p)の場合
崩壊はk!K(p)−1=0の銀行に発生(すなわち中枢銀行のみに発生)し,崩壊規模は1 となる。質への逃避はk!F(p)−1=1の銀行に発生し,質への逃避規模は1+M となる。
(") M<θ−1 l
(p)の場合
M"#M(θ,p)ならば崩壊はk!K(p)−1=1の銀行に発生し,崩壊規模はM(K(p)−1)
+1=M+1となる。質への逃避はすべての銀行に発生し,質への逃避規模はnとなる。
M<#M(θ,p)ならば崩壊はk!K(p)=2の銀行に発生し,崩壊規模はMk(p)+1=2M
+1となる。質への逃避はk≦1の銀行に発生し,質への逃避規模はM+1となる。
証明)
(!)の証明は命題1と同じであるため(")の証明のみ行う。(")のケースでは,k"2の銀行 は自分と中枢銀行との距離が分からないため,期待収益の高い行動を選択する。(29)式を満たす 場合にはA0(j σ)=sを選択し,満たさない場合にはA(0j σ)=bを選択する。(29)式の確率を求め,
M について解くと以下のようになる。(計算の詳細はAppendix1を参照)
M" 1
!
Rp+1"#
(n−2)!
Rp−1"
+(p)l θ −1$
≡M#(θ,p) (30)#M(θ,p)はθの増加関数であり,pの減少関数である。M"#M(θ,p)の場合,銀行はA(0j σ)=s を選択する。この場合,すべての銀行が予備的行動を選択するため,質への逃避規模はnにな る。また,倒産はk!K(p)−1の銀行に発生し,崩壊規模はM(K(p)−1)+1となる。
M<#M(θ,p)の場合,銀行はA(0j σ)=bを選択する。この場合,k"2の銀行が予備的行動を 取らないため,k!K(p)の銀行が支払い不能となり,崩壊規模はMK(p)+1となる。質への 逃避はk!1の銀行のみが選択するため,質への逃避規模は1+M となる。
(証明終わり)
命題3から分かるように,銀行行動は中枢銀行のネットワーク数(M)により変化してい く。銀行行動の分岐点は2つある。1つはM"θ−1
l
(p)を満たすか満たさないかである。これを満 たす場合は,k"2の銀行には質への逃避は発生しない。M"θ−1
l
(p)は,ネットワーク数の増加 により中枢銀行の流動性ショックが分散され,K(p)=1となることを表している。M<θ−1
l
(p)
の場合,K(p)=2となるため,今度はM"#M(θ,p)を満たすか否かが銀行行動を決定する。
M"#M(θ,p)を満たさない場合は,k"2の銀行はレガシー資産を売らない。M"#M(θ,p)を
満たす場合は,すべての銀行がレガシー資産を売り,レガシー資産の投売りが発生してしまう
(大規模な質への逃避の発生)。
4.3 不確実性下の一般均衡
最後に均衡価格と配分を求める。本稿では,中枢銀行のネットワーク数と銀行の質への逃避行 動との関係を分析している。前節で示したように,大規模な質への逃避行動が起きるためには,
M<θ−1 l
(p)とM"#M(θ,p)の2つの条件が満たされていることが必要十分である。つまり,
θ−1 l
(p)>#M(θ,p)でなければ,大規模な質への逃避は起こらない。本稿ではp=1では大規模な 質への逃避が起こらないが,p=pscrapでは大規模な質への逃避が起こる状況について分析を行 う。つま りp=1ではθ−1
l
(p)!#M(θ,1)であるが,p=pscrapでは θ−1 l
(pscrap)>#M(θ,pscrap)で あ る と
仮定する。このとき一般均衡は以下のように定義される。