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九州大学学術情報リポジトリ

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

海岸クロマツ林の維持・管理法に関する基礎的研究 : Haskell座標による複層林の林分密度管理法

増谷, 利博

https://doi.org/10.11501/3099966

出版情報:Kyushu University, 1994, 博士(農学), 論文博士 バージョン:

権利関係:

(2)

第4章 樹幹解析による老齢木の成長解析

4. 1. 成長解析の意義

マックイムシの被害により, 海岸クロマツ林は維持 ・ 管理のあり方が重要な問題と なっているが, その解決策を探る方法のーっとして, 海岸林の上層を形成している老 齢木がどのような成長過程を経て, 現在に至っているかを解析することは重要である.

すなわち, 解析による結果と理論を組み合わせることにより, 林分密度管理のあり方 や, 人為を加えることによる将来の林分構造予測モデルの作成に必要な基礎資料が得

られるからである.

しかし, 1章でも述べたように, 非経済林である海岸クロマツ林の成長解析に関す る研究は少なく, 特に老齢木の成長あるいは樹齢分布に関する研究例はきわめて 少な いのが実状である.

そこで, 本章ではマックイムシにより枯死した老齢木を対象とし, 樹幹解析によっ て得られたデータを用い, 胸高直径及び樹高の絶対成長量の解析を行い, さらに相対 成長関係について解析した. これらの解析により, その成長経過及び成長特性につい て検討し, 成長予測モデルの作成が可能かどうか考察した.

4. 2. 資 料

九州大学農学部附属早良演習林内において, 1990年の春季に枯死したクロマツの老 齢木8本(標本木1--8)を選定し, 樹幹解析による成長特性の解析の資料とした. 標 本木の立木位置を図4. 1に, 樹齢, 胸高直径, 樹高及び胸高に達する樹齢を表4. 1に示

している. なお, 樹齢は地上高O. 2mでの年輪数である.

標本木の樹齢は67--183年の範囲にあるが, 資料木6, 7を除く6本は150年以上であ る. 柿原(1984b)は九州大学早良演習林で1982年に伐採された虫害木のうち, 老齢

- 37 -

(3)

博多湾

図4.1 標本木の立木位置図

表4.1 樹幹解析木の一覧

樹木番号 樹齢

胸高直径

胸高到達

(年)

(cm) (m)

樹齢(年)

標本木1 160 34.6 24.1 16

標本木2 167 56.0 25.5 8

標本木3 185 45.4 18.7 7

標本木4 170 48.2 22.0 12

標本木5 151 25.0 12.3

9

標本木6 131 20.5 16.4 6

標本木7 67 23.8 14.0 11

標本木8 174 75.7 17.0 5

(4)

木96本を対象として樹齢を調べた結果, その範囲は130年から220年であり, 特に170

年前後のものが多いと報告している. 本論での標本木には200年を越す 樹木は見当た らず, 170年前後の樹齢が多い.

樹高の範囲は12.3--25.5mの範囲にあり, 変動が大きく, また, 直径の範囲は2 O. 5

"'75.7cmで‘あり, 樹高と同様変動が大きい. 樹齢と樹高, あるいは樹齢と直径の聞の 相関関係は表3. 1から明らかなように認められず, ほぼ同ーの樹齢であっても胸高直 径あるいは樹高にはかなりの差がある. このことは, 柿原(1984b)の結果とも一致す

る.

これらの標本木の樹幹解析にあたっては, 樹高成長の推定精度を高めるために, 地 上高O.2mよりO.5 mごとに円板を採取した. 各年齢に応じる年輪幅の損'1定は, 半径で4 方向につい て年輪測定器により測定し, 4方向の平均値を各年輪の半径とした.

4. 3. 絶対成長

上述の樹幹解析により, 各標本木の樹齢ごとの胸高直径, 樹高を算出し, それぞれ の総成長重及び連年成長量の特性について検討した.

4. 3. 1. 総成長量

直径の総成長曲線を示したのが図4. 2であるが, 通常の林木の成長曲線とは著しく 異なった形状を呈する 標本木が多い. すなわち, 林木の胸高直径, 樹高, 材積などの 成長曲線は通常, 飽和型であることから, 初期の成長速度はゆっくりで, 次第に加速 して最盛期を迎え, 以後, 徐々に衰退し, やがては成長が停滞し, 枯死に至るのが一 般的である. そのため, 林木の成長を記述するために用いられる代表的な成長曲線式 にはミッチャーリッヒ式, ゴンペルツ式, ロジスティ ック式, リチヤード式などがあ るが, いずれも飽和型である.

- 39 -

(5)

80

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50 100 150 200

樹歯令 (年)

図4.2a 直径成長曲線(標本木1 �4)

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岨相 40

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50 100 150 200

樹齢 (年)

図4.2b 直径成長曲線(標本木5�8)

(6)

しかし, 標本木8本中, 6本は高齢になって急激に成長が良くなっている. すなわち,

標本木2は約75年で, 標本木3は約115年で, 標本木4, 5は約14 0年で, 標本木7は67年 で枯死しているものの45年で, 標本木8は75年で成長が良くなっている.

そのため, 林学で通常用いられる成長曲線で, これらの標本木も表現可能かどうか

について検討した. すなわち , 飽和型成長曲線の基本型であるミッチャーリッヒ式へ

の当てはめを行い, その適合度について検討した. ミッチャーリッヒ式に当てはめた

結果を表4.2に示しているが, M, L, Kはパラメータ, M. E.は平均誤差である. なお,

当てはめに当たっては田中(1983)のプログラムを参考にした.

この 表から明らかなように, 収束したのは標本木1, 6の2本に過ぎず, 大半の標本

木は飽和型の成長曲線の基本型であるミッチャーリッヒ式には適合しなかった. この

ことから海岸クロマツの直径成長は, 今回の資料のように18 0年程度では, 高齢にな

るほど成長速度が減少し, 上限値に漸近するような飽和型の成長曲線では記述困難な

場合が多いことを意味している.

次に, 樹高の総成長曲線を示したのが図4. 3である. 直径成長曲線の場合と同様,

通常の成長曲線とはかなり異なった形状を示す標本木が多数存在する. 例えば, 標本 木1, 2は樹齢130年あるいは15 0年といった高齢時までほぼ直線的な成長を維持してい

る. また, 標本木3は110年以降, 成長重が増加している一方, 標本木4は45年から110 年まで伸長成長はほとんど認められないものの, それ以降比較的良好な成長を示して いる. 標本木5, 6, 8は全体として成長不良であることから, 飽和型に近い. 標本木 7は初期成長はやや悪いものの, 枯死するまでほぼ直線的な成長を示している.

そこで, 直径の場合と同様, ミッチャーリッヒ式への当てはめを行い, 樹高成長は

飽和型であるかどうかを検討してみた. その当てはめの結果を示したのが表4.3であ

る. 標本木8本中4本が収束したが, 上限値を示すパラメータMの値を見てみると, 標

本木4の場合, 58. 76であることから, 現実的にはこのような最終樹高になるとは考え

- 41 -

(7)

30

1 0

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20

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...TN3

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畑恵

50 1 00 150 200

樹齢 (年)

図4.3a 樹高成長曲線(標本木1 ,.._,4)

30

20

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1 0

50 100 150 200

樹齢 (年)

図4.3b 樹高成長曲線(標本木5,.._,S)

(8)

表4.2 ミッチャ-リッヒ式へのあてはめ結果(胸高直径)

標本木 M L K M.E.

標本木1 43.18 0.978 0.0112 1 .11 標本木2

標本木3 標本木4 標本木5

標本木6 24.24 0.896 0.0089 0.76 標本木7

標本木8

表4.3 ミッチャ-リッヒ式へのあてはめ結果(樹高)

標本木 M L K M.E.

標本木1 標本木2 標本木3

標本木4 58.76 0.967 0.0023 1.52 標本木5 27.82 0.949 0.0035 0.61 標本木6 25.99 0.918 0.0064 0.86

標本木7

標本木8 19.99 0.991 0.0086 0.27

- 43 -

(9)

られない. したがって, 当てはめ結果が良好なものは標本木5, 6, 8の3本と考えるの が妥当であろう.

以上, 直径及び樹高の総成長量について見てみたが, 通常の林木の成長で認められ る飽和型のミッチャーリッヒ式に適合した標本木は, 直径の場合, 標本木1, 2の2本,

樹高の場合, 標本木5, 6, 8の3本に過ぎず, 海岸クロマツの成長はきわめて特異であ るものと考えられる.

そこで, さらに詳しく単木ごとの成長経過をみるために, 直径及び樹高の連年成長 重について解析した.

4. 3. 2 . 連年成長量

まず, 直径の連年成長量の時系列変化を単木ごとに示したのが図4 .4a及び図4.4bで ある. 実線は連年成長量を, 破線は5年ごとの移動平均を示している. 単木ごとの成 長状態の変化を説明するために, ここでは便宜上, 年成長量をO. 2cm未満, O. 2cm以上 0.4cm未満, O. 4cm以上に区分し, それぞれ成長不良, 平均的, 良好と判定することに

する.

単木ごとに特徴を見てみると, 標本木1は16年生時に胸高に達し その後3年間は比 較的成長は良好であるが, 44年生時まで連年成長量はO.2cm--0. 4cm程度で推移する.

45年以降77年までは0.4cm以上の良好な成長が持続するが, 78年生時から成長が悪く なり, 枯死する160年生時まで0.1cm""'0.2cm程度の成長量で推移する. このことから,

飽和型の成長が裏付けられ, ミッチャーリッヒ式への適合結果とも一致する.

標本木2は胸高に達するのに要した年数は8年であるが, 70年生時までの成長は概し て悪い. しかし, 71年目以降110年生時までの成長は良好であり, とくに, 81""'85年 生時にはきわめて良好な成長を示す. それ以降150年目までは平均的な成長が続 き, 1 50--160年生時には再び成長がよくなり, 枯死する直前の2年間の成長も良好である.

(10)

したがって, 初期成長は悪いものの, 71年以降, 成長が急激に良くなることから, 指

数型の成長といえる.

標本木3は7年で胸高位置に達し, 12年生時までの成長は良好であるが, それ以降11 2年生時までの100年間は成長不良の状態が続く. しかし, 113年目に成長が上向くと,

116--125年までは良好, 126--142年は平均的, 143--150年は良好, 151--169年は平均 的, 170--174年は良好, 175--183年は平均的, 184, 185年は良好と, 交互に良好な成 長と平均的な成長とを交互に繰り返す. このことから 標本木2 に類似して高齢にな って成長が急激に良くなるタイプといえる.

標本木4は12年で胸高に達し, 多少変動はあるものの 75年生時までは平均的な成

長であるが, それ以降138年までの長期にわたり, 成長の停滞期が続く. しかし, 139

年以降は成長の変動がきわめて大きくなり, 139, 140年生時, 152年生時, 157, 158

年生時, 168年生時にはきわめて良好な成長を示す. そのため, 良好な成長は持続し

ないものの, 概ね, 初期成長は平均的, 高齢時になって成長が良くなるタイプといえ

る.

標本木5 は9年で胸高に達し, その直後4年間は平均的な成長をするものの, それ以

降は136年生時まで成長不良状態が続く. しかし 137年生時以降 枯死する151年生

時まで, 概ね良好な成長をすることから, 高齢になって成長がよくなるタイプといえ

る.

標本木6は胸高に達するまでに要したのはわずか6年であり 17年生時までの成長は

良好であるが, それ以降は98--105年生時, 枯死する直前の4年聞を除くと, 成長不良

の状態が続く. したがって, 飽和型の成長といえる

標本木7は1 1年で胸高に達し, 19--24年にかけて成長は良好である. しかし, その

後の27--46年の20年間, 成長は悪いものの, 47年目以降, 枯死するまでの20年間は良

好な成長が続く.

- 45 -

(11)

連年成長 TN 1 移劃平均

0.6

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150 200

50 100

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150 200

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0.6 0.4 0.2

150 200

50 100

1.2

0.8 0.6 0.4 0.2

50 r・、1EJ ハU 150 200

樹齢 (年)

図4.4a 直径連年成長量の時系列変化(標本木1---4)

(12)

連年成長

TN 5 移動平均

0.6 0.4 0.2

1..,0 50 100 150 200

0.8

TN 6

0.6

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50 100 150 200

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0.6 0.4 0.2

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50 100 150 200

0.8 0.6 0.4 0.2

50 100 150 200

樹齢 (年)

図4.4b 直径連年成長量の時系列変化(標本木5-..8)

司47 -

(13)

標本木8は5年目で胸高に達して, 50年までの成長は平均的であるが, その後, 69'"'"

73年生の期間を除くと, 110年まできわめて良好な成長が続く. それ 以降は良好な成

長を示す148年, 163年及び枯死直前以外は, 変動が大きいものの, 概して平均的な成 長を示す. このことから, 初期成長から高齢になっても成長が持続するタイプといえ る.

以上, 直径の連年成長量の時系列変化の特徴を単木ごとに検討したが, 次に樹高の

連年成長重の時系列変化の特徴を単木ごとに検討する. 図4. 5 a及び図4. 5bに樹高の連

年成長量の時系列変化を示しているが, 直径の場合と同様, 実線は連年成長量, 破線

は5年ごとの移動平均である. また, 成長の良否を判定するために, 便宜上, o. 1 m未

満, o. 1m以上O.2m未満, O. 2m以上に3区分し, それぞれ, 成長不良, 平均的, 良好と

する.

まず, 標本木1は5'"'" 15年, 21'"'" 31年と, 成長初期において成長不良の期間があるが,

128年までは概ね平均的あるいは良好な成長が持続する. 特に, 16'"'" 18年, 4 9 '"'" 5 2年

前後, 7 3 '"'" 90年, 101'""'113年にはきわめて良好な成長を示す. しかし, 1 28年以降上

長成長はほぼ停止した状態となる. したがって, 老齢になって成長が急激に衰えるた

か, あるいは樹高の上限値にほぼ達したものと考えられる.

標本木2は初期成長は良好であるが, 20年生時をピークに68年生時まで, 減衰振動

のような成長量の増減を繰り返し, その後, 81年生時を大きなピークに再度, 減衰振

動を枯死するまで続ける. このような成長量の増減を繰り返すものの, 成育期間中,

概ね良好な成長を示すタイプといえる.

標本木3は7年生時を小さなピークとして成長良好な時期があるが, 15年以降成長不

良の期間が110年まで続く. その後, 118年をピークに15年間成長良好な時期があり,

枯死するまで平均的な成長が続く. したがって, この標本木は高齢になって成長が比

較的良くなり, しかもそれが持続するタイプである.

(14)

0.6 連年成長

- 移重力平均

0.4

0.2

0

0.6 200

0.4 TN 2

E 0.2

、_./

。|耐

tllぎk 0.60 50 100 150 200

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0.2

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0

ハU 6 50 ハU 150 20ü

0.4

TN 4

0.2

-ハUハU

50

樹齢 (年)

150 200

図4.5a 樹高連年成長量の時系列変化(標本木1�4)

- 49 -

(15)

0.6

TN 5

連年成長 移重力平均

0.4

0.2

0

0.60 50 ハり ハU

150 200

0.4 TN 6

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0.60 50 100 150 200

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TN 7

0.4

0

0.6 ハU 、】J

150 200

0.2

0.4 TN 8

0.2

0

0 50 i ) ,t、 ) f,、

150 200

樹齢 (年)

図4.5b 樹高連年成長量の時系列変化(標本木5"-'8)

(16)

標本木4は増減はあるものの, 4. 5年までの初期成長は良好である. しかし, 46年以 降110年までの長い期間, 上長成長は停滞する. その後, 120年をピークに成長良好な 時期が約15年間続き, それ以降も枯死するまで, 変動は大きいものの, ほぼ平均的な 成長を続ける. このことから, この標本木は初期成長と高齢になってからの成長が良 好なタイプである.

標本木5は10年生時からの20年間, 平均的な成長が続くものの, その後105年生時ま で75年間の長期にわたって, 樹高成長はきわめて悪い期間がある. 115年生時をピー クに20年間, 平均的な成長の期間もあるが, 全体としては成長不良といえる .

標本木6は12年生時をピークとして10年間, きわめて成長良好な時期があるが, 25 年生時以降になると, 90年生時, 11 7年生時を小さなピークとする平均的な成長の期 間があるものの, 概して成長不良である. したがって, この標本木は初期成長がきわ めて良好で, それ以後は概ね成長不良のタイプといえる.

標本木7は67年生時に枯死していることから, 他の標本木のように高齢時の比較は できないが, 15年生時までは平均的ないし不良であるものの, 20年生時をピークとし て良好な成長の期間があり, その後も35年生以降きわめて良好な成長が持続する.

標本木8は14年生時 56年生時 88年生時に成長の良好な時期があるが, 時間的な 継続性がなく, 2, 3年間続くのみであり, 全樹齢を通じて成長不良のタイプといえる.

4. 3. 3. 絶対成長の特性

海岸クロマツの標本木8本の樹幹解析の資料をもとに, 胸高直径及び樹高の総成長 重及び連年成長重の特性について検討した. その結果から単木ごとの成長傾向をまと めると, 表4.4のとおりである. なお, 括弧内の数値は連年成長量の大きい, つまり 移動平均の大きなピークの樹齢を示している.

まず, 直径成長の特性を見てみると, 標本木の本数はわずか8本に過ぎないものの - 51 -

(17)

表4.4 単木ごとの成長傾向

直径 樹高

標本木1 77年までの前半期は比較'的 大きな増減はあるが.

良好、 後半期は不良 概ね成長良好持続型

(49) (17, 76句 107)

標本木2 70年までの前半期は不良、 増減を繰り返すが\

後半期は概ね良好 概ね成長良好持続型

(8, 155) ( 19句 81)

標本木3 幼齢時は良好‘ 13...__ 112年は 幼齢時は良好.

不良‘ 113年以降概ね良好 15...__ 110年は不良.

(8司 120‘ 145、 170) 110年以降平均的

7 120 標本木4 75年までの前半期は平均的. 45年まで良好‘

76""'__138年は不良. それ以降 46...__105年はきわめて不良‘

増j威はあるが良好 それ以降比較的良好

(45司 143司 150) (28司 120)

標本木5 136年まで成長不良司 30年まで及び105...__125年は 137年以降良好 平均的. 全体的に不良

L1.112 (10、 115)

標本木6 幼齢時は良好, 18年以降不良 幼齢時きわめて良好.

( 14) 25年以降不良

( 12)

標本木7 19""'__24年良好‘ 27...__46年不良‘ 15年まで不良‘ それ以降

47年以降きわめて良好 概ね良好

(22, 53) (20司 57)

標本木8 大きな変動はあるが\ 短期的に良好な時期も 概ね成長良好持続型 あるヵヘ全体的には不良

(60, 94、 148司 163) ( 14、 56)

(18)

多様な成長経過を示しており, 次の4つの成長タイプに分類できるであろう.

1 . 標本木1, 6は幼齢期あるいは前半期に成長が良好で, それ以降は成長が不良とな

るタイプであり、 通常の林木の成長とほぼ類似して飽和型の成長曲線となっており、

そのためミッチャーリッヒ式にも適合している.

2. 標本木2, 5は前半期あるいは約140年生時まで成長は不良であるものの、 それ以 降は成長が良くなるタイプで, 指数関数的な成長曲線である.

3 . 標本木3, 4, 7は幼齢時あるいは前半期に成長良好であるものの, その後20-...100 年間の長期にわたって成長不良の時期があり、 その後100年以上の高齢あるいは後半

期になって, 再び成長が良好となるタイプである.

4. 標本木8は連年成長量の変動はあるものの, ガ]齢時から高齢時まで良好な成長が 持続するタイプで, 成長曲線はほぼ直線的な形状を呈する.

このように, 通常の林木の直径成長とはかなり異なった標本木が多いが, その最も 大きな特徴は, 170-...180年程度の樹齢では飽和型よりもむしろ指数関数的な成長曲線 を呈することである. このことは100年以上の高齢となっても良好な成長が持続する,

あるいは100年以上になって成長量が増加することに起因している.

柿原(1984c)は九州大学早良演習林で, マックイムシにより枯死した32本のクロ マツ老齢木の伐採断面での直径測定値をもとに, 次の3つの成長型に分類している.

まず、 定期成長量の増減を繰り返しながら成長していくタイプであり、 これは大, 中,

小径木を問わず, 最も一般的に見られる. 次に多いのは100年生以上になっても, 急 激に成長量が増加するタイプがある. さらに3番目のタイプは初期成長は良好であっ ても, 100年以上経過した頃より成長が急激に衰えるタイプがある. 今回の標本木に は, 柿原の3のタイプに該当する標本木は存在しないものの, いずれにせよ, 海岸ク ロマツの直径成長は通常の林木とはかなり異なっており, しかも多種多様である.

次に, 単木の樹高成長の特徴から, 樹高成長は次の3つのタイプに区分できる.

- 53 -

(19)

1 . 標本木1, 2, 7は連年成長量の増減はあるものの, 枯死するまで概ね良好な成長 が持続するタイプである. 標本木7は67年で枯死しているものの, 標本木1は130年,

標本木2は150年の高齢時まで, 成長は良好であり, 成長曲線はほぼ直線的である.

連年成長量のピークは1回目が17--20年生時に, 2回目が60--80年生時にあることが 類似点であり, 他のタイプに比べて2回目のピークの時期が早いことから, 成長持続 型となっている.

2. 標本木3, 4は幼齢時あるいは初期の成長は良好であるものの, その後60年間, あ るいは100年間の長期にわたり, 上長成長がきわめて悪い. しかし, 110年生時以降 成長が比較的良好となり, 成長曲線は指数関数に類似している. このことは, 連年成

長量のピークが7及び28年生時に1回目があるものの、 2回目は120年生時の高齢時に 現れるため であろう.

3 . 標本木5, 6, 8は初期成長は良好ないし平均的であるものの, それ以降の成長は

概して不良であり, 成長曲線は飽和型となることから, ミッチャーリッヒ式に適合し たものと考えられる. 連年成長量のピークをみても, 10--14年という早期に現れてお り, 2回目のピークがある場合でも, そのピークはさほど大きくないことから, この ことが裏付けられる.

このように, 樹高成長もまた, 直径成長の場合と同様, 通常の林木とかなり異なっ た成長をしていることが確かめられた. 成長曲線は飽和型であるものも存在するが,

100年以上の高齢となっても良好な成長が持続するタイプや成長量が増加するタイプ が存在し, このことから直線的あるいは指数関数的になる場合もある.

また, 連年成長重の最大の時期が1度だけ現れる標本木は1本に過ぎず, 6本は2 度, 1本は3度現れているが, これは柿原ら(1964)の報告とほぼ一致している. 柿 原らは樹幹解析木5本の資料をもとに, 樹高連年成長量の解析を行い, その最大の時 期は30--50年頃に1度と100--120年頃に1度の計2度現れることを報告している.

(20)

以上, 直径及び樹高の成長特性について検討した結果, 通常の林木とはかなり異な った成長経過を示すことが明らかとなったが, これまでの解析では直径と樹高の成長 を分離して考慮してきた. そこで, この両者を同時に解析するために, 次節では相対 成長関係について調べてみた.

4. 4. 相対成長

前節では樹幹解析木の資料を用いて, 直径及び樹高の総成長量, 連年成長量につい て解析した結果, 通常の林木の成長とは大きく異なり, 飽和型の成長を呈する林木よ りも直線的あるいは指数関数的な成長を呈する林木が多いことが明らかとなった.

これは100年以上経過した場合でも, クロマツは周囲木の枯死により疎開状態になる と, 急激に成長が旺盛となり, しかもそれが持続するためであると考えられる.

しかし, これらの解析は直径成長と樹高成長を独立に考慮したことから, 本節では この2因子を同時に つまり相対成長関係について解析した. このことは, 周囲密度 に鋭敏に反応する成長モデル, 例えば, 小林(1978)のカラマツを対象としたモデル のように, 樹高成長を要因とする距離従属型の単木成長モデルの作成が可能であるか どうかについて検討するためである.

4. 4. 1.解析方法

相対成長関係を表現する方法としては次の2つがある. つまり, 拡張相対成長式

(Ogawa et al. 1965 ;小川, 1980)のように, 連続的な式により表現する方法と, 成

長過程を数階梯に分け, 各階梯ごとに単純相対成長式(Huxley.1932 ; Huxley and Te issier.1936;IIuxley.1950)により, その関係を表現する方法とがある. しかし, 拡 張相対成長式では2部分間の成長率の比が任意に変化する場合については解かれてい ない(依田,1971) . そのため, 閉鎖効果や疎開の程度, すなわち周囲密度効果に鋭

(21)

敏に反応可能なモデル を考えた場合, このような離散的な作用をモデルに組み込むた めには, 数階梯に分けて, 解析する必要がある.

そこで, 単純相対成長式を用い , 次のような方法で解析した.

1 )まず, 樹幹解析により得られた資料をもとに, 両対数グラフ上に胸高樹高Xと胸

高におけるその樹齢の直径Dの関係をプロ ットする. なお, 胸高樹高とは, 樹高が胸 高を越える各年齢の梢端から胸高ま での距離であり, 全樹高をHとすると,

x=II-1.2(m ) である.

2 )次に, 各階梯ごとに次の単純相対成長式 DXβ

を当てはめ, 始原成長係数α及び相対成長係数βの値を推定する. 単純相対成長式へ の当てはめは非線形最小二乗法〈中川 ・ 小柳 1982)により行う.

3 )なお, 単木の成長過程を数階梯に区分するにあたっては, 階梯数をできるだけ最

少にするようにするが, 最小二乗法による当てはめの結果, 決定係数fがO.95以上に なるようにする.

4 )階梯ごとの相対成長係数の値, さらに直径及び樹高の連年成長量から, 単木ごと の相対成長の特徴について考察する.

4. 4. 2. 相対成長の解析結果

図4.6a---hは標本木ごとに各樹齢の胸高樹高xとその樹齢の直径Dの関係を両対数 グラフ上に示したものである. 図中の数字は成長階梯, 例えば, 2は第2成長階梯を 示している. また 直線はそれぞれの成長階梯に単純相対成長式を当てはめ, その結 果を示したものである. これらの図から明らかなように, 成長階梯数は2 --- 7と標本木 により大きな変動があり、 また, 直線の傾きも45。 以上である成長階梯も多く見受け られる. そこで 標本木の成長階梯ごとの相対成長係数βと, 決定係数を括弧内に示

(22)

102

E 噌

ふ 1 0'

組組問白畑町

10

102

)E LJ 10 t .

組制 jo@

店=

100

3

100 10'

胸高樹高 (m)

102

図4.6a 相対成長関係(標本木1 ) 3

100 101

胸高樹高 (m)

102

図4.6b 相対成長関係(標本木2)

- 57 -

(23)

102

ぷE 101

姻矧 1居E0EE

E

100

102

&E 10 1 矧 個

i尽o霊E

100

100 101

胸高樹高 (m) 図4.6c 相対成長関係(標本木3)

100 101

胸高樹高 (m) 図4.6d 相対成長関係(標本木4)

102

102

(24)

102

&E 10 . 1

患 邸個MQ

100

102

とEる 101

鮒 個l塁o@

100

100 10'

胸高樹高 (m) 図4.6e 相対成長関係(標本木5)

100

5

_

4〆

'0' 胸高樹高 (m) 図4.6f 相対成長関係(標本木6)

- 59-

102

'02

(25)

102

ふ101E

相個同町叫民

100 10'

胸高樹高 (m)

102

図4.5g 相対成長関係(標本木7) 102

とE 10. 1

倒相 1居E0EEE

100

100 10'

胸高樹高 (m)

102

図4.5h 相対成長関係(標本木8)

(26)

たのが, 表4. 5である.

これらの図表と, 直径及び樹高の連年成長量の5年の移動平均を示した図4. 7a. bを

もとに, 単木ごとの相対成長の特徴を見てみると, まず, 標本木1は3つの成長階梯

に区分され, 73年までの第1成長階梯の相対成長係数βは1.174であることから, や

や優成長であるものの, 第2成長階梯(126年まで〉ではβ=0.381と大きく劣成長と

なる. しかし, 127年以降の第3成長階梯ではβ=6.172と極端な優成長となる. した

がって, 第1成長階梯では疎開状態であったものが, 第2成長階梯では側方から の競

争が激しくなり, 劣成長となり, 第3成長階梯になると, 樹高成長は停滞, あるいは

停止状態となるものの, 肥大成長は継続するために極端な優成長となったものと考え

られる.

標本木2は3つの成長階梯に分かれるが, 第1成長階梯は50年までであり, β=O.

897とやや劣成長である. 第2成長階梯(152年まで)では, β=1. 618で優成長とな るが, 第3成長階梯では, 標本木1と同様, 樹高成長が停滞することから, 極端な優 成長となる. 第1成長階梯ではやや劣成長であることから, 密度が比較的低い一斉林 型で成育し, 第2成長階梯では肥大成長が極めて良好になっていることから, 大きく 疎開されたものと考えられる. また, 第3成長階梯では, 極端な優成長となるが, こ れは標本木1と同様, 樹高は上限値に漸近する一方, 直径成長量は増加していること から, 隣接木の枯死による大きな疎開があったものと考えられる.

標本木3は7つの成長階梯に分かれるが, 20年までは優成長, 31年までは劣成長,

44年までは優成長, 50年までは極端な劣成長, 95年まではやや優成長, 143年までは

劣成長, それ以降は優成長と, 交互に優成長と劣成長を繰り返す. 50年頃までは短期 的に優成長と劣成長を繰り返し, 50年以降は約50年間隔で優成長, 劣成長となる. し かも直径及び樹高の幼齢時の成長を除くと, 110年までは成長が悪いことから, 2段 林あるいは多段林の下層木, 中層木として成育し, 周囲密度の増減を繰り返しながら,

- 61 -

(27)

110年前後に上層の隣接木の枯死により大きく疎開され, 直径及び樹高の成長が良好 になったものと考えられる.

標本木4は標本木3と同様7つの成長階梯に区分されるが, 16年まではやや劣成長,

23年までは優成長, 30年までは劣成長, 43年までは優成長, 95年までは極端な優成長,

138年までは劣成長, それ以降は優成長となる. 優成長と劣成長の出現JI頂序は標本木 3と異なるものの, 前半期は短期的に繰り返し, その後ほぼ50年間隔となる. 初期成 長は直径, 樹高ともに良好であり, ほぼ等成長に近いことから, 疎開状態で成育し,

競争が激しくなる第3成長階梯では劣成長となっている. 第4, 第5成長階梯では樹 高成長がほぼ停止した状態であることから, 優成長となり, 第5成長階梯では極端な 侵成長となっている. このことは被圧 よりも, むしろ梢端部の折損等に起因するもの と考えるのが妥当なように思われる. その後, 樹高成長が良好となり, それに続いて 直径成長が良好となっていることから, 周囲木の枯死により疎開されたものと考えら れる.

標本木5は5つの成長階梯に区分されるが, 35年までは劣成長, 45年までは極端な 優成長, 106年まではやや優成長, 123年までは劣成長, それ以降は極端な優成長であ る. 第2 , 第5成長階梯では極端な優成長であるが, これも樹高成長が極めて悪いた めである. また, 直径、 樹高ともに全体的に成長不良であることから 周囲密度の増 減はあるものの下層木として成育し, 100年以降, 樹高成長がやや良好となり, その 後の肥大成長もよくなっていることから, 100年以降疎開されたものと考えられる.

標本木6は標本木5と同様, 5つの成長階梯に区分されるが, 26年までは劣成長,

42年までは極端な優成長, 95年までは劣成長, 108年までは優成長 それ以降は劣成 長となり、 劣成長と優成長を交互に繰り返す. 初期成長は良好なことから, 立地的に は良好で, 疎開状態にあったものと思われるが, その後の成長は悪いことから, 周囲 上層木の枝の伸長等により被圧状態となっているものと考えられる.

(28)

標本木7は3つの成長階梯に区分され, 28年までは等成長に近い劣成長, 45年まで は劣成長, それ以降は優成長となる. 直径, 樹高の連年成長量の時系列変化が対応づ いていることとβの値から判断して, 第1成長階梯では一斉林の閉鎖前の疎開状態に あり, その後第2成長階梯では競争が起こり, 競争 木の枯死により疎開されたために 第3成長階梯では優成長となったものと考えられる. また, 8本の標本木の中では唯 一, 直径と樹高の成長量の増減がほぼ一致している.

標本木8は2つの成長階梯に区分されるが, 16年までは極端な劣成長, それ以降は 優成長が続く. この標本木は汀線近くに位置していたことから, 風の影響により上長 成長は悪いものの, 疎開状態にあるために肥大成長は常に良好であったものと考えら れる.

表4.5 成長階梯ごとの相対成長係数と決定係数

成長階梯

棚ホ木 2 3 4 5 6 7

1.174 0.381 6.172 (0.996) (0.986) (0.970) 2 0.897 1.618 7.760

(0.998) (0.997) (0.985)

3 1.350 0.577 1.525 0.276 1.188 0.840 1.557 (0.997) (0.982) (0.991 ) (0.983) (0.991 ) (0.992) (0.989) 4 0.961 1.640 0.488 1.589 5.823 0.571 1.391

(0.997) (0.995) (0.994 ) (0.991 ) (0.980) (0.954) (0.985) 5 0.858 4.787 1.317 0.447 6.485

(0.994 ) (0.951 ) (0.985) (0.995) (0.950) 6 0.744 4.417 0.631 2.923 0.876

(0.992) (0.965) (0.950) (0.989) (0.958) 7 0.954 0.578 1.200

(0.998) (0.995) (0.988) 8 0.377 1.686

(0.969) (0.995 )

- 63 -

(29)

0.6 0.4 0.2 0.8

一一一一直径 一一一一樹高

nu

(E)剛山世叶剛一同窓

0 200

0.8 0.6

0 200

0.2 0.4

0.8 0.6 0.4

0.2

150

150

ハUハU噌'Ea ハUハUl

TN 3

50

50 O.

0.8 0.6 0.4 0.2

(EU)酬山崎蛍叶剛一刻個

0 200

0.8

0.2 0.6 0.4 150

100

TN 4

50

0.8 0.6 0.4 0.2

0 150 200

樹齢

50

(年)

直径, 樹高の連年成長量の時系列変化(標本木1 "'"'4) 図4.7a

(30)

0.8 0.6

0.2

0 200

0.4

一一一一直径 一一一一 樹高

0.8 0.6

0.2 0.4

l ハUnu 150 50

ε 酬山町以民叶剤師更

0.2 0.8 0.6

0 200

0.2 0.4

150

TN 6

、,aJ( ハU1t

50 0.8

O.

(Eυ)酬川崎怪叶剛一慰岨

0.8 0.6

0.2

0.8 0.6 0.4

TN 7

0.4

0 200

0.8 0.6

0.2 0.4

ハunu 150

nU1』 ハu 50

0.6 0.8

0.4

0.2

0 200 150

樹齢 (年)

50

直径, 樹高の連年成長量の時系列変化(標本木5--8)

- 65 - 図4.7b

(31)

4. 4. 3. 相対成長の特性

直径と樹高の相対成長関係iこ関しては, 小林(1976)はカラマツの疎開木26本の相対 成長関係を調べ, 地位と時間の両方向に対して等成長のアロメトリー式が成り立つこ とを明らかにし, 阿部(1976)はトドマツ人工林の疎開木の相対成長を調べ, 樹高と 直径の聞には等成長のアロメトリー式が成り立つことを確かめている. また, 山本ら (1991)はスギ品種聞の相対成長関係を調べ, 樹冠の閉鎖前ではクモトオシ, ヤイチ,

オピアカ, アヤスギはほぼ等成長であるが, ヤプクグリ, メアサはやや優成長である と報告している.

このように, 直径と樹高の相対成長は疎開木においては等成長(β= 1 )という最 も簡単な形をとるが, 林分の樹冠閉鎖前後でその関係は変化する. 南雲・佐藤(1965) は東京大学千葉演習林のスギ林において閉鎖前後の相対成長は等成長から劣成長に変 化していることを報告している. また, 山本ら(1991)の結果も, 閉鎖後では相対成 長係数はO. 5--- O. 7で, 劣成長となっている. 小林(1978)は疎開木の相対成長関係が無 間伐林分の閉鎖木でどのように変化するのかを分析し, 一般化されたアロメトリー式

を導いている. この式は疎開状態から出発して, 競争開始とともに相対的に直径の成 長が抑制されていく過程が表現されており, 間伐もしくは間伐効果を各成育段階にお ける立木の閉鎖度の変化過程と見なすことにより, 間伐林分の相対成長モデルを導い ている.

しかしながら, 本論における8本の標本木の相対成長関係の解析結果は, 上述の一 斉林における傾向とは著しく異なり, 2つの大きな特徴が認められた. 第1に, 成長 階梯数が2--- 7と単木ごとに大きく変動していることであり, 第2には, 侵成長の場合 が多く, しかも極端な優成長となる場合があるということである.

第1の特徴の原因は, 成育過程における環境の違いによるものと考えられ, 例えば,

マックイムシによる被害前の林分構造の差異, 被害の程度及び継続性, さらには保育

(32)

上の人為的扱いの差異, 防除の方法の違いにより, 時間とともに環境が変化するため

に, 階梯数の違いが生じたものと考えられる.

ところで, 柿原ら( 1964)は30年前の早良演習林の林分構造について, 次のように

述べている. 本演習林は林分構造の異なった多数の林分の集合体であって, 地位, 植

栽年度, 植栽本数ならびに枯損木や虫害木の発生状況等が, 部分的に相当異なってい

る. 代表的なプロ ットの直径分布は, 大径級の立木が多い林分, 分布の広い偏平な正

規分布であるものの, 比較的年齢の若い小径級の立木が多い林分, 分布幅も狭くやや

左偏した 正規分布を示す一斉林型の林分, さらに分布の頂点が2個ある2段林の林分

等多様な林分が存在する.

このような多様な林分のいずれに属するかによって, 林木の成長は大きく変化する.

特に, 複層林の場合, 直径成長だけでなく樹高成長もまた, 隣接木による被圧や疎開

の程度に応じて成長が変化することから, 成長階梯数の変動も大きいものと考えられ

る.

次に, 優成長となる場合が多く, しかも極端な優成長となる場合が存在するが, こ

れは成育経過及び樹種特性と考えられる. 樹高が上限値に漸近あるいは梢端部の折損

の場合, 当然、のことながら極端な優成長となるが, クロマツの場合, 被圧により樹高

成長不良の期間が続く場合であっても, 枝が側方に伸長し, 不斉ーな樹冠を形成する

ことにより, 肥大成長重が増加する. その結果, 優成長となることが予想される. 単

木ごとの直径, 樹高の連年成長量の変化をみても, 肥大成長と樹高成長の同時性が成

立する場合はきわめて少なく, また, 樹高成長が先行し, その後肥大成長がよくなる

場合もきわめて少ない . むしろ, 両者は独立であると考えるべきであろう .

4. 5. 考 察

海岸クロマツの樹幹解析木8本の資料をもとに, 胸高直径及び樹高の総成長量及び

- 67 -

(33)

連年成長量の特性について検討し, また直径と樹高の相対成長関係についても検討し

た.

その結果,

1 . 直径, 樹高の成長曲線は飽和型が少なく, 直線的あるいは指数関数的な形状を呈 するものが多い,

2. 100年以上の高齢になっても良好な成長が持続するものがある,

3 . 直径と樹高の相対成長関係をみると, 成長階梯数が多い,

4 . 相対成長係数をみると, 優成長を示すものが多い,

等の, 海岸クロマツの成長特性が認められた.

以上の樹幹解析による成長解析の結果から, 周囲密度効果に鋭敏に反応する成長モ

デルの構築の可能性について考察する.

Munro(1973)はシミュレーショ ン型成長モデルを単木距離従属モデル, 単木距離独

立モデル及び林分としての距離独立モデルの3つの基本型に分類している(木梨, 197

4) . 単木距離従属モデルは単木聞の距離を考慮に入れたモデルで, ある対象木の競 争の量はその木の競争圏と隣接木の競争圏との重複の度合いに比例しているという基

本的仮定がある. そのため, 樹冠の拡張を通じた樹木閣の競争を考慮していることか

ら, 間伐による占有面積の変化や残存木の成長に対する効果を定量的に明らかにし得

る可能性を有している(南雲・ 箕輪,1990).

その代表的なモデルとしては, 小林(1978, 1980a, 1980b, 1980c)のカラマツ人工林を

対象とした単木単位の林分成長モデルが挙げられる. こ の成長モデルは疎開木の相対

成長関係を 基準に, 閉鎖林分における立木密度効果を枝の枯れ上がりで評価し, その

影響分だけ直径成長を割り引くものである. また, 林分のある林齢での平均樹高は地

位指数曲線lこより, 推定するものである.

上記のモデルは一斉林を対象としていることから, 地位指数曲線は飽和型の成長曲

(34)

線であるゴンペルツ式を用い, また, 直径成長量の配分は疎開木の相対成長が等成長 であるという結果をもとに決定される. しかしながら, 本論での成長解析結果では標 本木は8本に過ぎないものの, 樹高成長曲線は飽和型となる場合は少なく, 直線的あ るいは指数関数的である場合が多い. このことは, 立地あるいは過去の被圧状態によ り, 個々の林木は多様な成長経過を辿ることを示しており, その結果, 任意の立地で の任意の樹齢における樹高の推定はきわめて困難である. また, 直径と樹高の相対成 長の解析結果が示す優成長の場合が多いということは, 疎開状態で等成長をするとい う基準から閉鎖度に応じて直径成長量を割り引くという方法の適用の 困難なことを示 唆している.

さらに, 従来の考え方に基づく成長モデルは 単木成長の生理的 ・ 生態的メカニズ ムに対する情報を反映する反面, 立木位置図の作成やデータの記憶, 計算に多大の労 力と時間を要することが難点である. また, 非経済林である海岸クロマツ林の林分密 度管理には直径階別本数分布あるいは径級別丸太本数等の詳細な情報の予測は不必要 である.

このような諸条件から判断すると, 海岸クロマツ林, 特に複層林化したクロマツ林 の林分密度管理法の開発に, 既往の成長モデルあるいは手法は適用できない. したが

って, 新たな視点に基づいた簡便な密度管理法の開発が必要 である.

- 69 -

(35)

第5章 Haskell座標によるクロマツ複層林の林分密度管理法

第3章及び第4章での, 海岸クロマツ林の林分構造の変化並びに老齢木の成長解析 の結果, 海岸クロマツ複層林に対する新たな視点からの林分密度管理法の開発が必要 であることが明らかとなった. そこで, 本章ではまず, 林木の相互作用について述べ,

生物の相互作用を統一的に表現できるHaskell座標について概説し, 林分の競争状態 をその座標上に表現する方法について述べる. 次に 座標上にプロ ットされた競争状 態から, どのように密度管理を行えばよいのか その方法について述べる.

5. 1. 林木の相互作用

競争, 被食者-捕食者, 寄主-宿主といった生物の相互作用は, 一般によく知られ ているが, Leary(1976)は生物の相互作用のパターン探求のために, Haskell (1949)が 相互作用コンパスと呼んだ相互作用クロス表を拡張し, Haskell座標と名付けた. そ して, Gause(1934)の有名な種間競争の実験, つまり2種類のゾウリムシ(P. caudatum とP. aureli a)の培養実験における結果をこの座標上にプロ ットした. その結果, 従来,

個体群サイズの時間的変化を時系列グラフ上に表現する方法では得られなかった, 新 たな解釈が可能になったと述べている.

さらに, 捕食者一被食者, 寄主一宿主, 植物-草食動物についても, それぞれ, 合 衆国ミシガン州Isle Royale国立公園におけるオオカミとアメリカヘラジカ(Pet erson

and Page, 1984), 寄生パチとアズキゾウムシ(Utida,1957), テンマクケムシとポプ ラ(Mattson and Addy,1975)の資料を用いて, Haskell座標に適用した結果, いずれの 生物の相互作用もこの座標上で統一的に表現できることを明らかにしている(Leary,

1985) .

ところで, Whittaker(1975)は競争とは次のように述べている.

(36)

『競争 (compet i t i on)とは, 二つの個体, あるいは二つの種個体群のそれぞれにとっ て, ある資源が環境中に十分にないような状況を意味している. 一方の個体または種 がその十分にない資源を使えば, もう一方が使える分が減り, そのために成長や生存 が脅かされたり, あるいは双方とも競争によって影響を受けるかもしれないのである.

たとえば, 大きな樹木の陰に育つ若い樹木は競争によって利用できる光が制限され,

その結果として生長が遅くなり, 枯死することもありうる. 高木の個体群のつくる樹 冠の陰に育つ低木個体群は日光の大部分が高木の樹冠に吸収され, 利用され, ほんの 一部しか到達しないので, 生長が抑えられてしまう. 競争は一つの個体群の中の個体 間でも起こるし, 二つ以上の種個体群の個体間でも起こりうる.

この定義に従えば, 林木の場合, 資源を光だけでなく水分あるいは養分と解釈する ことにより, 二段林の上層木と下層木, あるいは一斉林の優勢木と劣勢木との関係も 競争と見なし得ることから, Haskell座標を用いて, 競争状態を表現することが可能 となる.

5.2. Haskell座標

Haskell座標とは, 比較に基づく関係を表す関係座標と, 定量的アプローチのため の位相平面を組み合わせた座標である.

まず, 比較に基づく関係とは, 外圧的変化(induced change)の状態でのシステム特 性を表す変数の値が, 内圧的変化(spontaneous change)の状態での変数の値と比較 して, 大きいか, 小さいか、 あるいは等しいかということである. つまり, 順序尺度

により比較される関係概念である.

この比較関係形式及びその誘導については, Haskell(1947,1949)は次のように説明 している. w観察されたすべての相互作用だけでなく, 起こり得るすべての相互作用 をも決定するために, ある任意の活動が他者の不在のもとで, 各クラスで実行される

- 71 -

(37)

ときの速度に0, 他者の存在により, いずれかのクラスでの活動が加速するときに+,

減速するときにーを与える. +, 0, ーのクロス表を用いると, 図5.1に示すように起 こり得るすべての相互作用が表現できる. �

しかし, この相互作用クロス表は二者の相互作用関係について記述しているに過ぎ

ないことから, このクロス表を幾何学化し, 関係座標に発展させたのが図5. 2である.

この図で, 例えば, (+,0)での+はXへのYの効果, 0はYへのXの効果である. また,

2本の直線(デカルト座標でのX軸, y軸に相当〉は一方が中立的効果((一,0),(+,0),

(0,一),(0, +))を含む相互作用を表し, 中心点及び円は(0,0)相互作用を表す. この ことから, 2項序数関係を含む4つの相互作用((+,一),(-, +), (-, -), (+, +)) は4つの象限に位置する.

次に, 相互作用の定量形式について述べると, 相互作用の研究における定量的アプ

ローチは, まず, Gause(1934)によって行われ, それは内圧的, 外圧的変化の下での

生物の研究で構成されている. 典型的には, 個体群サイズの測定が実験の進行ととも

に実行され, 個体群サイズは時系列グラフiこ幾何学的に表現され, このグラフにより

実験の解釈が行われてきた. そして極端に簡単な拡張が可能であったとしても, 相互 作用に関する多くの研究はこの点で終わっていた.

そこで, Leary(1976)は時系列グラフのある軸から時間を消去し, それを一方の生

物の現存量に置き換え, パラメータ的に時間を含ませることにより, 拡張の一方法を

提唱した. その結果が位相プロ ットと呼ばれるグラフである. つまり, 位相平面上に

内圧的, 外圧的変化の時系列上のすべての点をプロ ットし, これらの2点の推移を位

相平面上のトラジェクトリーとして追跡する. 図5. 3はGause(1934)の実験例で作成さ れたトラジェクトリーを示している(LearY,1976). 共通の時間でトラジェクトリーの

位置を比較することにより, 内圧的変化(0,0)点から外圧的変化--(0,0)点までの角度

と距離を計算できる. この角度θと距離Zが相互作用の型と強度を決定する基本とな

(38)

田区 1安 G ら、x

〉、

(-,+ )

。 (一,0)

+ (-,-)

(ー,+)

一(一,0)

(-, -)

xへのYの効果

。 +

(0,+ ) (+,+ )

(0,0) ( +,0)

(0,-) (+γ)

図5.1 クロス表

Y

(0,+ )

(+,+ )

(0,0) (+,0)-

x

(O!?一 ) , (仇0)

図5.2 クロス表から誘導された

関係座標

- 73 -

(39)

。..�

pure (0,0) mixed "-./(0,0)

X

y

600 500 400 300

何「Cυm.C一向こむ」コm.止

200 P. caudatum in .5 cm 3

100

内圧的、 外圧的変化に対する 位相平面トラジェクトリー 図5.3

(ホスト枠組み) 関係座標

阻川町四枠組(是認主L代.ト、)

基本部分の組み合わせ

図5.4

(40)

る.

さらに, 関係座標に位相平面を組み合わせたのが図5. 4であるが, この図は関係座 標の(0. 0)円上を動く(0.0)位相平面トラジェクトリーを示している. つまり, この組 み合わせの意味は部分の並列の意味を含んでいることから, ホストとしての関係座標 と, ゲストとしての位相平面の組み合わせとなる,

ところで, 座標上に実験結果の位置を確定するためには, 数学的に角度。で与えら れる相互作用の型と, 内圧的変化から外圧的変化までの距離で与えられる相互作用の

強度Rが必要である.

1) 相互作用の型( e )

平面上で1点からもう1点への方向を知るには 内圧的変化(0.0)点と外圧的変化 --(0.0)点の座標を知る必要がある. この2点が求まれば, 直角三角形の斜辺の長さ が計算され, 角度は三角関数により決定される.

α=tan-1y/x

。=180-α

-(0,0)

6 y

X (0,.0)

図5.5 内圧的変化(0、 0)から外圧的変化"-'(0司 0) への方向

- 75 -

(41)

2) 相互作用の強度( R)

3次元の物理空間での距離の意味は直観できるが, 位相平面のような, より抽象的 な空間においては, 全体として満足できる距離が見つかっていないことから, Leary (1976)は相互作用の強度を次のように定義している.

(0, 0)点と--(0,0)点との位置聞の距離をX, Yで表すと, 作用量の測度は次式で与え られる.

z= I X I + I Y I

この測度を標準化するために, (0, 0)関係での個体群レベル, つまりベクトルノルム で除し たものを相互作用の強度としている.

これらの計算方法を表5. 1に示しているが, 外圧的変化---- (0, 0) = 50, 50と内圧的変 化(0,0)= 94, 21である.

表5.1 �n互イノf_: J日の出((j )と的皮(R)の引ーか例

----( 0,0 )-( 0,0 )

x y

- 4-4 +29

。=130・ -tan-1(y/X) Z= IXI + IYI

11\ 6 73

5.3. Haskell座標の林分の競争状態、への適用

R= Z

!!( 0,0 )!!

0.63

Haskell座標を用いると, 生物の相互作用を統一的に表現可能であり, しかも, そ の座標上にプロ ットされた図を用いると, 従来より用いられてきた時系列図よりも,

解釈の拡張が容易であるという利点がある(LearY,1985). そこで, これを用いて林分 の相互作用を考える場合, 混交林における樹種閣の競争は考えやすい. たとえば, 樹 種Aと樹種Bのそれぞれの一斉林と樹種A, Bの混交林の場合を考えると, それぞれ

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