知的障害養護学校における健康相談
相 川 勝 代 * 永 松 公 子**
TheHe a l t hCo uns e t i ngi naSpe c i a lSc ho o l f o rChi l dr e nwi t hMe nt a l Re t a r dat i o n
Ka t s uyoAI KAWA
・Ki mi koNAGA M ATSU
Ⅰ.は じめに
近年,児童生徒の精神保健上の問題 に対す る精神科校 医の学校保健活動 に対す る期待が 大 きい。 しか し,精神科校医の活動内容 については,学校保健 にかかわ る精神科校医の間 で も,明確 にされてい るとは言 えない現状 である。
知的障害養護学校 には,てんかんや行動障害な ど精神 医学的な治療や対応が必要な児童 生徒,肥満 な どの身体合併症 をもつ児童生徒 な ど,心身の健康問題 をもつ児童生徒が多 く 在籍 してい る。また,知的障害のある児童生徒が発達課題 をどの よ うに克服 してい くか と い う問題 もあるO これ らの問題‑の対応 として,学校保健活動の一環 として,精神科校医 による健康相談が考 え られ る。
学校 医による学校保健活動 として,健康相談や健康教育の充実が求め られている (衛藤,
2 0 0 2 )
O通営,健康相談は学校医が児童生徒本人 に対 して実施す るが,知的障害衰護学校 に おいては,健康相談の対象 として児童生徒 よ りも保護者へのカ ウンセ リング,あるいは教 節‑のコンサルテーシ ョンが多 くの部分 を占めているようである (飯 田ら,1 9 9 3
.岩坂 ら,1 9 9 5 .
風祭 ら,1 9 9
1.内山,1 9 9 7
.)0筆者 らは
,1 9 7 8
年以来,国立大学教育学部附属養護学校 において,保護者 を対象 に精神 科校医による健康相談 を継続実施 してきた。1 9 9 6
年度か ら2 0 0 0
年度 にかけて実施 した健康 相談 を中心 に,知的障害養護学校 における精神科校 医による健康相談の実際 につレ一、て報告 し,健康相談 を通 してみえてきた児童生徒の発達課題 と心身の健康問題,家庭 と学校の連 携 を進 めるための健康相談活動の意義等 について検討す る。Ⅱ. 学校の概要 と児童生徒の実態
長崎大学教育学部附属養護学校 は,小学部,中学部,高等部の三つの学部 を有す る知的 障害養護学校である。なお小学部の学級編制 は複式学級 となっている0
2 0 0 0
年度の在籍児童生徒数は,小学部1 9
名,中学部2 1
名,高等部2 7
名,全校6 7
名 (男 子3 9
名,女子2 8
名)。在籍す る児童生徒の うちダウン症候群2 1
名( 3 1 %)
, 自閉性障害2 2
名
( 3 3 %)
,てんかん1 4
名( 2 1 %)
,肥満1 3
名( 1 9 %)
であった。*
長崎大学教育学部* * 長崎大学教育学部附属養護学校
2 長崎大学教育学部紀要 一教育科学 一 第65号
知能分布 (田中 ビネ一式知能検査) は
,I Q5 1
以上1
1名( 1 6 %) ,I Q5 0‑4 1
が1 3
名( 1 9 %)
,I Q4 0‑3 1
が1 9
名( 2 8 %
),I Q3 0‑2 1
が1 5
名( 2 2 %) ,I Q2 0
以下が9
名( 1 3 %)
であ った。学校 医 として,小児科 医,眼科 医, 耳鼻咽喉科 医,整形外科 医,精神科 医,他 に学校歯 科 医,学校薬剤 師 が嘱託 され てい る。
Ⅲ. 健康相談の進め方
児童生徒 の保護者 を対象 に,精神科校 医が健康相 談 を行 った。
相談 の形態 として, グルー プ健康相 談 と個 人健康相談 の二つがあ り, グル ー プ健康相談 は学年別 とテーマ別 の健康相談 を実施 した。
年間の健康相談 の実施状況 は,表 1に示す とお りであ る。
表
1
年間実施状況4月 5月
6
月9
月 10月1 1
月 12 月 1
月 2月 相談形式 新入生 グループ相 テーマ別 グルー プ相談 ま 卒業生 (高等部3
テーマ別 グノレ‑プ健康相談 は月
1
回,午前 の半 日を当て,1
回の所 要時 間 は, グルー プ健康相 談 は原則 と して2時間 を設定 し,個人健康相 談 は希望者 の人数 に よって,3 0
分 か ら1
時間 を 目安 とし た。 なお グル ー プ健康相 談 の前後 に,個 人健康相談 を実施 す るこ とがあった。養護教諭 が,事前 に健康相談 の対象者 の健康調査票 を作成 し, 当 日は健康相談 を始 め る 前 に対象者 の健康観 察 を行 い健康相 談 の参考 とした。
養護教諭 は必ず 同席 し,担任教 師,学部主事,保健主事 が適宜 に参加 し,相談 内容 に応 じて, それ ぞれ の立場 で情報 を提供 し助 言 した。
相談 は,保健室 に備 えつ け られ た長机 を囲 んで実施 したO グルー プ健康相談時 は,10名 前後 が座 るこ とがで きるよ うに長机2脚 を合 わせ て行 った。
Ⅳ. 学年別グルー プ健康相談
1
.健康相談 の 目的学年別 グル ー プ健康相 談 は,小学部 ・中学部 ・高等部 ‑入学 した新入生 の発達及 び心身 の健康 問題 について,① 実態 を把握 し実態 に応 じた教育活動 を行 うこ と,② 新 しい環境 で 不安 を覚 えてい る保護者 ‑の心理 的支援 を行 うこ と,③ 家庭 での発達段 階 に応 じた よい生 活 習慣 等 を確 立す るための保護者 ‑の健康教育 を行 うこ と,④ 家庭 と学校 の連携 の ための 第一歩 として児童生徒 の心身の健康情報 を共有す るこ とな どを 目的 とした.
高等部
3
年生 の保護者 を対象 とした健康相 談 は,卒業後 の生涯 を通 しての健康生活 を送 るための健康教育 を 目的 とした。2.
参加者小学部及 び中学部 の保護者 は,例年 ほ とん ど全員参加 であ ったが,高等部 の保護者 の参
加 は少なかった。参加 したのは全員母親であった。
3.健康相談の展開
学年別 グループ健康相談の前半は,参加者全員 に子 どもの心身の健康状態等 について報 告 をしてもらい,身体的な合併症 については,医学的な診断や学校生活 における生活管理 等 について確認 し,行動問題 については どのように理解 し対応 してい くかについて,精神 科校医が助言 を行 った。相談内容 によっては,後 日個人健康相談 を実施す ることにした。
健康相談の後半は,前半に複数の保護者か らそれぞれ個別の問題 として出 されていた発 達段階に相応 した課題 について,子 どもの実態 とそれに対 して どのように対応 しているか な ど,保護者同士で積極的な意見交換がなされ るような場面設定 に配慮 した。同年齢の子 どもの発達課題 とそれ に伴 う保護者の不安や戸惑いが参加者の間に共有 され,保護者の参 加意識が高まった。校医は発達的な理解や精神医学的な観点か ら,保護者の不安や戸惑い
を軽減 し,子 どもの理解 を深めるための介入 を行 った。
4.健康相談か らみた発達課題
小学部は複式学級編制のため,
1
年の保護者の健康相談に同 じ学級 に在籍 している2
年 の保護者 も参加 した。就学 して間 もない1年の保護者は,新 しい環境 と生活 リズムに慣れ てい くためのス トレスを感 じてお り,そのス トレスは子 どもの障害の特性,療育に対す る 父親の協力関係,障害のないきょうだいの問題 な どに影響 されていた。2年の保護者は, 不安や焦 りをみせ る1
年の保護者 に対 して,過去1
年間の 自らの経験 を通 して,子 どもの 望 ましい変化等 について話 をし,療育に関す る具体的な助言や心理的な支援 を行った。小学部1年の健康相談の共通す る課題 として,①睡眠や食事時間な どの生活 リズムに関 す ること,②偏食や トイ レッ ト・トレーニングな ど生活の基本的な習慣 に関す ること,③ 対人関係や コ ミュニケーシ ョンに関す ること,④ 多動や飛び出 しな どの適応行動 に関す る
ことな どが相談 された。
中学部1年の健康相談では,思春期の発達課題 である第二次性徴 に伴 う身体的 ・生理的 変化 と,母親か らの子 どもの分離 と自立 とい う心理的テーマが中心であった。子 どもの思 春期の心身の変化 に対 し,母親 としての不安 と戸惑いがみ られた。不安は女子生徒 より男 子生徒の母親 に強 く認めち れた。不安の強い母親 には参加者 の共感的で受容的な雰囲気の 中で,母親 としての気持 ちを言語化 してもらうことで不安 を軽減す るように努 めた。
第二次性徴 に関 しては,男子のマスタベ‑シ ョンと女子の初潮 と月経の手当てが,すべ ての保護者 にとって関心事であった。その他 に異性‑の関心 とその表現の仕方や蓋恥心の 乏 しさなど,思春期 と性 をめ ぐる問題が相談 された。‑健康相談 とい う場の設定のためか, 性 に関する具体的な問虚が抵抗な く語 られた.保護者同士で子 どもの実態や性 に関する考 えを意見交換 し,校医や同席 している担任教師や養護教諭か ら情報提供 を受 け,思春期の 性 をめ ぐる問題 を発達的な課題 として理解す ることで,保護者の不安 を軽減す るよ うに努 めた。
高等部
1
年の健康相談では,中学部1
年の健康相談でみ られた保護者 の不安や戸惑いが 軽減 していた。母子関係は全般的に安定 し,適応行動は発達段階に応 じて自律的 とな り, 保護者 に安堵 と余裕が感 じられた。子 どもは社会性が発達 し,人間関係が広が り,異性感4
長崎大学教 育学部紀要 一教育科学 一 第6 5
号情が うまれ,異性関係のエ ピソー ドがみ られ,性的な トラブル に対す る危倶 も話題 になる が,例年全般的には子 どもを信頼 した穏やかな雰囲気の健康相談であった0
卒業 を間近 にひかえた高等部
3
年の健康相談は,1 2
年間の学業を修了することが できる とい う成就感 を共有 しなが らの健康相談であるが,他方では卒業後の子 どもの健康管理 と 保護者 自身の加齢 に伴 う不安が主なテーマ となった。そこで,相談の進 め方 としては,卒 業後は親子で 自律的に健康管理 をしなければな らないことに対す る自覚 を,保護者同士で 強化 し合 うような状況設定に努めてきた。肥満の予防 と改善及 びそのための食生活のあ り方 については,中学部1年及び高等部 1 年の健康相談でも例年高い関心が示 されたが,卒業 を間近 にひかえた高等部
3
年の保護者 にとって,卒業後の子 どもの肥満 とそれ によって引き起 こされ る生活習慣病 についての不 安はさらに増強 していた。そ こで,高等部 3年の健康相談では,生活習慣病 に対す る予防 的な健康生活のあ り方 について,資料 を作成 し健康教育を行 った。生涯 を通 じた健康生活 はQOL
(生活の質)の基本であることを理解 し,食事や運動などの望ましい生活習慣 を身 につけることの大事 さと,卒業後 も母校の保健室 を健康セ ンター的に利用 してほしい とい う考えを伝 えてきた。Ⅴ. チ‑マ別 ゲル‑ プ健康相談
1.
テーマの設定テーマの設定は,①学年別健康相談で関心の高かったテーマ,② 児童生徒の健康診断の 結果,③保護者‑のアンケー ト結果 をもとに検討 した。
学年別健康相談で関心の高かったテーマは,思春期の心身の成長 ・発達 と性 をめ ぐる問 題及び肥満 と生活習慣病の予防についてであった。
健康診断の結果は,図1に示す よ うに肥満の児童生徒が高率であった(,
30%
25
20
1 5
10
5
0
平成8年度 平成9年度 平成10年度 平成11年度 平成12年度
図1 肥満の児童生徒の割合
保護者はグルー プ健康相談のテーマ として, どのような健康問題 を希望 しているかを調 査 した ところ,アンケー ト結果 は,希望の多い順 に,①思春期 について,②肥満予防につ いて,③生活 リズムについて,④ けいれん発作 について,であった。
そこで,グループ健康相談のテーマ として,「思春期の心身の変化 と性 をめ ぐる問題」 と 肥満 と生活習慣病予防のための 「健康的な生活 を目指 して」の二つ を設定 した。
2.
「思春期の心身の変化 と性 をめ ぐる問題」についてのグループ健康相読 日) 健康相談の目的保護者が,子 どもの思春期 の心身の変化 と性 をめ ぐる発達課題 について理解 を深めるこ とで,知的障害のある子 どもの思春期 に対 して抱 く保護者の不安や戸惑いを軽減 し,子 ど もの性 をめ ぐる問題 に適切 な対応ができるよ うにす ることを目的 とした。.
( 2 )
参加者 と相談場面参加者は例年,ほぼ10数名であったが,小学部の保護者の参加が最 も多 く,次に中学部 の参加が多 く,高等部の参加者 は少なかった。子 どもの性別 では,女子 よ り男子の保護者 の参加が多か■った。
1997年度には,女子の保護者の希望を入れ,男子 と女子別々の健康相談 を実施 したとこ ろ,男子の健康相談の参加者が男子の在籍児童生徒の過半数 をこえる23名 と例年に比べ大 幅 に多かった。女子の健康相談は,女子の在籍児童生徒の約
2
分の1
弱の参加 であった。女子のみの健康相談が好評であっちが,次年度以降は相談 日の設定ができず,男 ・女別の 健康相談は実施 していない。
1997年度の男子の健康相談の参加者が例年の2倍 と多 く,保健室の長机で相談 を行 うこ とができず,全校集会ができる広 さの多 目的ホールで実施 したOホールの中央部 に折畳式 の椅子 を円陣に並べたが,お互いの距離が広が り意識 して声 を出す必要があること,眼前 にお互いの脚が露見す ること,ホールの一面すべてが窓で明るく開放的であることなど, 物理的な環境条件が参加者の心理的な親密感や情緒的な共有感 を軽減 したようで,相談の 深 ま りにかけた。 よい健康相談 を行 うためには,参加者の人数や相談の場所の設定など, 物理的な環境条件の整備や配慮の重要性が実感 された。
( 3 )
男子の健康相談思春期の心身の変化 と性 をめ ぐる問題 として,男子では精通 (射精) とマスタべ‑シ ョ ンの有無について,わが子の実態 に不安 を抱いている保護者 は,他の子 どもの様子 を知 り たい要望が強いので,保護者 同士の情報や意見交換 を大事にしてきた。参加者 はすべて母 親であ り,男子の性 について分か らないための不安や戸惑い,思春期の男子の成長 に無関 心な父親‑の不満などが表出 された。父親の協力 を得 るための役割分担や工夫,その上で 学校 としての指導 を考えたい こと,中学部の生徒 に対 しては 「か らだの学習」 として教材 を使 った指導を行 っていることを伝 え,家庭 と学校が役割 を分担 しなが ら連携 してい くこ とについて確認 し合 った。
障害の種別 として, 自閉性障害の生徒の保護者 に不安や戸惑いが強 く,指導 を繰 り返 し ても問題の改善がみえに くい ことに対す る焦 りがみ られた。 自閉性障害の生徒は,差恥心 が乏 しく場所 をわ きまえないマスタべ‑シ ョンが見 られ ることがあるが,マスタべ‑シ ョ ンが許 され る時 と場所 を繰 り返 し教 えるなど根気強い指導の積み重ねの必要性が痛感 され
6 長崎大学教育学部紀要 一教育科学 一 第65号
た。
異性‑の興味が出てきたが,異性 とのつき合い方や表現の仕方 をどのように身につけさ せた らよいか。異性‑の興味 と表現方法について, 自閉性障害の男子生徒が女性の顔 を間 近 にまじまじとのぞ く,ス トッキングをはいた女性の足 もとを無遠慮 に見つめる,若い女 性 に不適切 な身体接触 をす るなど,痴漢行為 と間違 われ ることがあ り,社会的なマナー と
して適切 な表現の方法について指導 してい く必要性 について相談 しあった。
思春期 になっても生活習慣が 自立できていない場合,父親の協力が得 られない時,更衣 や入浴,母親 と外出した場合の トイ レの使用 など,手 をこまねいていることもできず,女 性 である母親 は葛藤 しなが ら手 を出 している実態が,主 として 自閉性障害の生徒の保護者 か ら相談 された。
男子の思春期の性 をめ ぐる問題 に対 しては,父親の役割が大事であるが,多忙であった り,無関心であった りす る父親の協力が得 られない ことで,母親の多 くが父親 に不満 を抱 いていた。
思春期 を迎 える前の小学部の保護者 は,年長の生徒の実態 を知 り,保護者が どのような 考 えで どの ように対応 しているかを前 もって知 ることで,不安の軽減 に役立 っていた。性 をめ ぐる問題 は個人差が大 きいこと,両親の協力関係が大事である ことなど,健康相談‑
の参加 は,子 どもが迎 える思春期 に対 して,親 として心の準備 をす るよい機会 となってい た。
( 4 )
女子の健康相談女子の思春期の心身の変化 と性 をめぐる問題 として,主なものは月経に関するものであっ た。女子の月経 に関す る相談は,男女合同の健康相談では話題 にのぼることが少なかった。
それは男子 に比べ女子の保護者の参加が少ないこと,男子のマスタべ‑シ ョンに比べ同性 である母親が指導できることに関連 していると考 えられた
01 9 9 7
年度に初 めて試みた女子 のみの健康相談では,同性のみで相談内容が共通す ることか ら,男女合同の健康相談時 よりも活発な意見交換や相談が展開 された。
月経 に関 しては,母 と子が初潮 をどう迎 え, どう受け入れてい くのか とい う心理的な課 題 と,月経の手当てに関す ることであった。
保護者 にとって,知的障害のわが子が初潮 をどのように受 け入れ るのか不安であるが, 子 どもの障害 を受容 している保護者は,第二次性徴 に対 して肯定的に受け止めていた。初 潮 による出血に対 して,特別の反応が見 られない場合 と, 「血」 「けが」 と驚 く場合が見 ら れた。保護者の一人は,子 どもが初潮 を迎 えた時,母親の方があわてたが,子 どもは成人
したことを祝福 してや ったらうれ しそ うな表情 をした と報告 した。
月経の手当てに関しては, 自発的に交換 しようとしないので必ず促 しが必要な場合 と, 一方ではたびたび交換 し過 ぎる場合があ り,手当ての技能 よ りも判断がむずか しく,判断 を教 えることのむずかしさが参加 した保護者 に共通 していた。
月経 に関す る相談のほかに,異性‑の興味 と性被害に対す る不安が相談 された。保護者 は,わが子が性被害に合 うのではないか とい う心配 をしていた。異性 とのつ き合い方や性 被害の予防に関 しては,家庭でも繰 り返 し指導 をしてほしいこと,学校では下校時間を利 用 した性被害の予防について模擬授業 を実施 していることを伝 えた。
第二次性徴が発現す る前の低学年の保護者 は,年長の女子が月経 を受け入れ,手当てが
できるようになってい くとい う,先輩の保護者の経験談 を聞き安心 を得ていた。
男女 とも,思春期の心身の変化 と性 をめ ぐる問題 についての健康相談の内容や保護者の 思いは,中学部での 「か らだの学習」の授業の参考 とした。
3.
「健康的な生活を目指 して」のグループ健康相談 (1) 健康相談の目的生涯 を通 じて健康的な生活 を送 るために, どのよ うな生活習慣 を身につけた らよいか, 子 どもの食生活や身体活動の実態 をもとに,具体的な生活習慣の改善を目指す ことを目的
とした。
( 2 )
参加者参加者 は数名か ら
1
0名前後で,参加が多いのは中学部の保護者,次に多いのは小学部の 保護者であった。(3)健康相談の展開
1 9 9 8
年度 よ り,参加希望の保護者 には事前に,健康相談の前1
週間の子 どもの 「食事 日 記」 と3日間の 「毎 日の活動の様子」を記録 してもらった。健康相談の前半は,養護教諭が作成 した 「健康的な生活 を目指 して」 とい う資料 をもと に健康教育を実施 し,保護者の学習の機会 とした。
後半は,事前に調査 した参加者各 自の子 どもの食生活 と1日の活動状況 を振 り返 ること によ り,子 どもの生活習慣の点検 を行い,肥満 を招 く食習慣や効果的な運動の仕方 に,保 護者 自らが気づき, これまでの生活習慣や活動 を見直せ るような相談 と支援の仕方 を行 っ た。肥満児の親同士 として,生活習慣の改善のための努力や工夫 について情報 を交換 し合 い,お互いの努力 を評価 し,強化 し合 う場面作 りに努めた。
記録 した食事 日記は,健康相談後提出してもらい,改善 した方がよい と思われ る食習慣 を指摘 し,改善のための具体的な方法について所見を記入 し,保護者 に戻 し家庭で指導 し てもらっている。
健康相談の後は,子 どもの生活習慣 を点検 し問題 に気づいた保護者が,保護者 自身 と子 どもの行動 を変容 させ,生活習慣 として確立 させてい くために,養護教諭が継続的な保健 指導 を行っている。
Ⅵ.個 人健康相談
・個人健康相談は,高等部の保護者が最 も多 く,次いで中学部であ り,小学部は少なかっ た。
相談内容はてんかん と行動問題 に関す るものが多かった。
てんかんについての健康相談は,難治性てんかん と発作初発による医療機関‑の紹介で あった。難治性てんかん児では,発作 に対す る保護者の不安,発作のための危険性,抗て んかん薬の副作用,意識水準の低下の原因の鑑別 (てんかん発作そのものか,薬物の影響 か),多剤服用にもかかわ らず発作の抑制ができないための医療‑の不満,遠隔地のてんか ん専門医の診療 を受けなが ら投薬のみを近医に頼 っている場合の保護者の悩み,脳外科手 術の適応か どうか,な どについて相談 を受けた。
8
長崎 大学教育学部紀 要 一教育科学 一 第65号行動問題 を主訴 とした個人相談では, 自閉性障害児の思春期 に増強す るかんしゃ く,固 執, 自傷行為,.睡眠障害,食行動障害等であった。行動問題 については,なぜ不適切な行 動問題が起 こるのかを分析 し,対応の仕方 を行動分析の立場で検討 した。担任教師が同席 している場合 は,家庭 と学校 に共通す る行動問題 とそれぞれ独 自の行動問題 について,担 任教師 と保護者が共通理解で きるように努めた。行動問題の種類や程度 によっては,家庭
と学校の環境調整 と並行 しなが ら,医療機関に紹介 し薬物治療 を行 った。
その他 には,心身症的な臨床症状 に対 して個人健康相談 を実施 した。病状 と教育活動の 在 り方か ら,学校全体 として組織的な対応が必要であったのは, 自閉性障害の中学部男子 生徒で極度の摂食障害 と著 しい体重減少 を呈 した事例,生徒会長 であった高等部女子生徒 が過換気発作を初発 し,それを目撃 したダウン症男子生徒が同様発作 を発症 した事例であっ た。
個人健康相談 を実施 した後,校医 と担任教師が,児童生徒の学校 における教育活動の在 り方及び保護者‑の支援の在 り方 について話 し合いを行い,学校 と家庭の共通理解 と連携 に努めた。
Ⅶ. 考 察
1.保護者‑の健康相談
学校医が行 う健康相談は,通常児童生徒本人に対す る個人健康相談であるが,筆者 らは 知的障害養護学校 において,保護者‑の個人健康相談のほかに,学年別 グループ健康相談 及びテーマ別 グループ健康相談 を試みた。
グループ健康相談は,同学年 ・同年齢あるいはテーマ別の知的障害児の保護者か らなる 小集団であ り,参加者同士の相互作用が生まれ,子 どものことを話 し,それ を聞いてもら うことでス トレスを発散 し,他の保護者の共感,助言な どの心理的支援 を得 るとともに, 他の保護者の考え方やや り方 を聞 くことで,子 ども‑の理解 を深め, 自分のや り方 を見直 し,子 ども‑の対応 を変 えてい くなど,精神科校医による健康相談の在 り方 として有効な 方法であると考える。
保護者 に行 った健康相談か ら,知的障害児童生徒の発達課題 と心身の健康問題が明 らか にされた。それ らの問題 は,大 きく次のように分類す ることができる。①てんかんや行動 問題 など,個別の健康問題 に対す る医療 と教育の連携,②発達課題 として,思春期の心身 の変化 と性 をめぐる問題 があ り,保護者の不安や戸惑いに対 して,小集団でのグループ健 康相談は意義があ り有効であること,③肥満の児童生徒が高率であるが,生涯 を通 じて健 康的な生活 を送 るために,生活習慣病の危険因子 としての肥満の予防ないし改善は,学校 保健の重要項 目として取 り上 げてい く必要があること。
2.
性をめ ぐる発達課題 と健康相談発達課題 としての思春期の心身の変化 と性 をめ ぐる問題 に対す る保護者の関心は非常に 高かった。子 どもの性的発達 に対 して,保護者は不安や戸惑いを覚 えていたが,子 どもが 思春期 を迎 える前,つま り第二次性徴が発現す る前の保護者 に強い不安がみ られた。親 と して知的障害のわが子の性的発達 を受け入れ,性的行動 を理解 し,対応 してい くことがで
きるだろ うか とい う不安であった。子 どもがすでに第二次性徴 を迎 えている場合は,子 ど もの具体的な性表現や性行動に対す る理解 と対処 についての戸惑いであづた。
障害別では社会性の障害のある自閉性障害児は,性 に関 しても性的行動が社会的に適切 でないことがあ り,保護者の不安が大きいとされるが
( Va nBo u r g o n d i e n
,M.E.
ら,1 9 9 9 )
, 筆者 らが行 った健康相談でも自閉性障害児の保護者の不安が強かったa知的障害児の保護者 の人生で,精神的負担の大 きい時期の一つは,子 どもが思春期 を迎 えた時期であ り,保護者 は子 どもの思春期 とどの.よ うにつ き合ってい くか とい う課題があ る
( Fa i r b r o t h e r ,P. ,1 9 8 3 )
。わが子の心身の変化 と性 をめぐる問題に対 し,保護者 は不安や 戸惑いを覚 えなが らも,性 について語 ることに心理的な抵抗があ り,また他方では,それ を受けとめ支援 して くれ る人や機会がない とい うのが実情であろ う。保護者の不安や戸惑 いに対する支援の必要性については,諸家 (林 ら,1 9 9 8 ∴
堀の口ら∴1 9 9 9 .
;宮原 ら,2 0 0 0 .;
宮原 ら
,2 0 01
.渡辺 ら,1 9 9
1.;山本,1 9 9 2. )
が実態調査等 によ り明 らかにしている。支援 の方法 と卜保護者対象の性教育やカウンセ リング,親同士の悩みや体験談な ど情報 を交換 し合 うことな どが考えられ るが,そのためには同 じ悩みを持つ人同士が交流す る場や共感 できる場 を提供 してい く必要がある。筆者 らは 「健康相談」 とい う場 を設 け,思春期の心身の変化 と性 をめ ぐる問題 をテーマ として,小集団によるグルー プ健康相談 を実施 してきたが, よい健康相談 を実施す るため には,集団の大 きさ (参加者数),相談の場 を リー ドしてい く人,相談の展開の仕方,部屋 の広 さなどの環境条件等に対する配慮が重要であることを経験 した
( Fa i r b r o 山e r ,P. ,1 9 8 3 ∴ Ke mp t o n
,W.
ら,1 9 8 3. )
0保護者の不安や戸惑いに対す る支援 とともに,子 ども‑の性教育をどのように進めてい くかとい う課題がある。長崎 ・障害児‑の性教育 を考える会
( 1 9 9 6 )
は,保健室で行 う性 に ついての指導 ・助言は子 どもも保護者 も受け入れやすいので,保健室での指導 を手がか り に教師 自身が性教育に取 りかかってい くことを提言 し,中学部生徒 を中心に性教育 を実践 している。思春期の心身の変化 と性 をめぐる問題 についての小集団による健康相談は,保護者 にとっ ては不安や戸惑いを軽減 し,教師にとっては子 どもに性教育 を実施するための前段階 とし て,それぞれのニズに応 えることができる相談支援の一形態 として有効であると考 えられ る。
3.
肥満 と生活習慣病知的障害児 (者)の肥満の頻度 として,知的障害養護学校在籍児童生徒の
21‑ 3 5%
(原 ら,2 0 0
1.;杉山,. 2 0 0
1.),知的障害養護学校卒業生の5 3 %
(北 ら,1 9 9 9
.),知的障害者施 設入所者3 7. 5%
(高橋,1 9 9 2 . )
等の報告があるが,本校の在籍児童生徒の肥満児の割合は1 9 . 5 % ( 2 0 0 0
年度)であ り, これは学校保健調査 (文部科学省,2 0 0
1.)による全国平均の約2
倍の高率である。知的障害児は学齢の時期 よ り肥満児の割合が高 く,成人 した知的障害者の肥満の割合 は さらに高率になっている。知的障害児 (者)は高率に肥満 を合併 しているが,肥満は生活 習慣病の危険因子であることか ら考えると,知的障害養護学校においても肥満の予防 と解 消の方法について,学齢の時期か ら家庭 と学校が連携 し,学校保健の重点項 目として取 り
1 0
長崎大学教育学部紀要一教育科学一 第65号組 ん で い く必 要 が あ る (有 馬,2001.)。
4.
家 庭 と学 校 の連 携精 神 科 校 医 に よ る保 護 者 ‑ の健 康 相 談 は, 家庭 と学 校 の連 携 とい う視 点 か ら意 義 が あ り 有 効 で あ る と考 え られ る。
第 ‑ に, 健 康 及 び発 達 とい う視 点 か ら家庭 と学 校 が 児 童 生 徒 に関 す る情 報 を共 有 し, そ の情 報 を教 育 活 動 に活 か して い くこ とが で き る。 第 二 に,保 護 者 ‑ の心 理 的 支 援 に よ り保 護 者 の 不 安 や 戸惑 い が軽 減 し, 親 子 関係 が安 定 し, 子 ど もの発達 を見守 る こ とが で き る よ うに な る。 さ らに保 護 者 ‑ の健 康 教 育 を通 して,子 どもの調 和 の とれ た生 活 習 慣 の確 立 が 期 待 され , 健 康 相 談 の後 の教 師 ‑ の コ ンサル テー シ ョンは教 育 活 動 へ の 示 唆 と家庭 と学 校 の連 携 の 強化 に寄 与 す る もの と考 え られ る。
著者 らが行 っ た健 康 相 談 にお い て, 保 護 者 とは母 親 の こ とで あ り, 参 加 者 が母 親 に限 ら れ て い た。特 に思 春 期 の 心 身 の変化 と性 をめ ぐる問題 に関 して, 母 親 は父 親 の理 解 と協 力
を強 く希 望 して い る。 父 親 が 父 親 として の役 割 を引 き受 け, 父 母 が協 力 関係 を推 進 す るた め の支援 の在 り方 につ い て, 今 後 検 討 して い く必 要 が あ る。
文 献
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