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「包括的な研究」の「方法」 ──

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「包括的な研究」の「方法」

── 概念の総合あるいは統合について ──

寺嶋 雅彦

はじめに

 どのようにすれば、ある概念を可能な限り包括的に研究することができるのだ ろうか。仮に「包括的な研究」が意味するのは、1)対象とする概念の歴史的側 面、理論的側面、応用的側面のそれぞれを十分に研究しつつ、2)それらの成果 を「組み合わせること」だとしよう。その場合、1)と2)の二つの段階それぞ れに、研究を実施するための明示的な「方法」があることが好ましい。このよう な方法がすでにあるならば、それを用いつつ、必要であれば修正すれば良い。ま た、そのような方法がないならば、自ら作り出す必要がある。

 例えば、西洋哲学史を専門の一つとしている筆者が、一人で「調和」という概 念を可能な限り包括的に研究することを構想したとしよう。また、まずは、1)

をさらに細分化し、歴史的側面に限定した研究から開始するとしよう。この場 合、対象としては筆者がこれまでに取り組んできた西洋哲学の歴史における「調 和」という概念に取り組み、方法としては人文科学の方法の一つとして確立して いる文献研究を行うことから開始することになるだろう。実際に、西洋哲学の歴 史における「調和」を十分に研究し成果として示すためには、西洋哲学という枠 組みを仮定しつつ、その中で「調和」という概念を用いているできるかぎり多く の文献にあたり、「調和」の概念のあり方を抽出し、それらを組み合わせる必要 があるだろう。ところが、西洋哲学という仮の範囲内においてさえ、「調和」と いう概念を一つに組み合わせるのは困難であることが予想される。このように、

種々の知見を組み合わせるための方法はあるのだろうか。さらに、視野を広げれ ば、歴史的側面の研究を十分に行うためには、このように西洋哲学の歴史を対象 とした研究だけでは十分ではない。世界各地の様々な時代の文献を掘り起こし、

「調和」という概念がどのように使われてきたのかを研究する必要がある。歴史 的側面の研究成果として示す場合には、「調和」の概念に関するこれらの成果を 一つに組みあわせることが必要になるだろう。

 これまでは、歴史的側面の研究に話を絞ってきた。ところが、包括的研究に は、理論的側面や応用的側面の研究も含まれていることを仮定したのであった。

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(2)

したがって、「調和」という概念を包括的に研究するためには、人文科学の主た る方法の一つである文献研究を行うことによって歴史的側面から成果を生み出す だけではなく、人文科学の他の方法や自然科学、社会科学において用いられてい る様々な方法をも駆使することで、理論的側面や応用的側面の研究を行い、さら にそれらの三つの側面の成果を組み合わせ、提示する必要があるだろう。

 しかし、残念なことに、これら全ての研究を一人で一から実施することは到底 できない。時間的な制約、能力の制約(例えば、読解可能言語、研究環境、研究 技術など)、知識の制約があまりにも大きいからである。このような制約を踏ま えると、自分一人で包括的な研究を実施する場合には、すでに誰か他の研究者が 確立した知識を用い、それらを組み合わせることで、研究を遂行することにな る。また、異なる専門性を持つ他の研究者とともに研究を実施する場合にも、最 終的には知識を組み合わせることが必要となる。

 つまり、ある概念の「包括的な研究」を遂行するためには、各側面の小領域ご との組み合わせ、各側面ごとの組み合わせ、各側面を合わせた包括的な組み合わ せという三つの段階のそれぞれで成果を「組み合わせること」が必要となる。ま た、一人で研究を行うにせよ、他の研究者とともに研究を行うにせよ、知識を

「組み合わせること」が必要となる。したがって、概念の包括的な研究に向けて、

「組み合わせること」という曖昧な手法をあらかじめ明確化し、誰もが使用可能 な「方法」として確立しておいた方が良いだろう。というのもそのような「方 法」があれば、自身が他の機会に包括的な研究に取り組む際にも容易に研究を進 めることが可能となり、また、他者と共同で研究をする場合にも、可視化された 方法を用いることで互いの研究の成果を確認しつつ、より十全に共同研究を遂行 することができるようになるからである。

 本論文の目的は、「概念」に焦点を当て、それを「組み合わせる」ための「方 法」を探り、さらにその「方法」を洗練させるための構想を提示することであ る。まずは、一人で概念を「組み合わせること」を試みた二人の人物からアイデ アを抽出する(第1節)。次に、今日において、一人または複数人で知識を「組 み合わせること」を試みている「学際的研究」の核となる部分を考察する。定義 や特徴を確認(第2節)したのちに、概念を統合するためのアイデアを抽出する

(第3節)。今日では様々な機会に「学際的研究」が語られる。ところが、本邦に おいて、その具体的な定義や方法が明確に言及される機会はそう多くない。その 意味で、第2節と第3節は学際的研究の核となる部分を紹介したものとして独立 して読むことができる。最後に、第1節から第3節を踏まえつつ、概念を統合す るための暫定的な「方法」を提示し、残された課題の提示も行う(第4節)。本 論文は、概念を組み合わせるための方法を探究する出発点にある。したがって暫

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定的な方法の提示にとどまるものの、提示された課題を引き続き検討することに よって、方法をさらに洗練させることができるだろう。

第1節 「総合」の方法

 以下では、(1)G. W.ライプニッツにおける記号法、(2)ハーバート・スペン サーにおける比較と抽象化という二つの観点から、概念を総合するためのアイデ アを取り出す。

(1)ライプニッツにおける記号法、結合法、総合

 ライプニッツは1666年、つまり彼が20歳の時に『結合法論』(Dissertatio de Arte

Combinatoria)を執筆した。このラテン語で書かれた著作は、これまで部分訳し

かなかったが、2020年にMassimo Mugnai, Han van Ruler, Martin Wilsonの3人に よって、充実した解説つきの英語全訳版が出版された。彼らの解説によれば、ラ イプニッツの思想にとって出発点となるこの本には、ライプニッツが後にパリに 滞在する期間(1672年3月から1676年10月)に展開される記号法のプロジェク トの萌芽が含まれている。以下では、概ねMugnaiらの解説に添いつつ、ライプ ニッツの構想から概念を総合するための方法を取り出そう。

 まずは「記号法ars characteristica」について確認しよう。ライプニッツが「記 号法」で意味しているのは、概念や命題をなんらかの記号によって表し、その記 号を操作することによって、新しい真理を発見したり、すでに見出されている真 理に対する証明を見つけることである(Cf. Mugnai, 2)。『結合法論』には、この ような記号法に対する以下の六つの萌芽が含まれている。

1、概念分析は、第一の単純な概念に到達するために必要とされる。

2、分析の手段と相補的な総合的な過程という手段によって、ありとあらゆ る概念が単純な概念から引き出されるだろう。

3、総合過程が遂行されうるのは、論理学の規則を基礎にして、単純な概念 や複合的な概念を結合することによってである。

4、それぞれの単純概念をアルファベットの記号に割り当てるとすれば、記 号的な形式において、誤解の余地なくどんな複合的な概念でも表現する ことになるかもしれない。

5、どんな基礎的な真理も、それぞれ主語と述語に対応している二つの概念 を結びつけることによって表現できることを考慮すれば、単純概念を結 合する過程は、ありとあらゆる真理を生み出すだろう。[…]

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(4)

6、概念を表現するために数を用いる場合、算術的計算におけるように、概 念を直接的に操作することなく、数を操作するだけで論理的推論を行う ことになるだろう。(Mugnai, 4)

以下では、この六つについてそれぞれ補足説明を行いつつ、アイデアを取り出そ う。まず、このような記号法を構築するための主要なステップは二つある。そ の一つ目は1であり、「分析analysis」と呼ばれる。Mugnaiらは、このステップ を「人間が持っているあらゆる概念の分析を遂行し、その結果あらゆる単純概念 の完全なリストを持つこと」(Mugnai, 2)とも述べる。つまり、対象とする概念 を複合的な概念と見なしつつ、その概念を「分析」することによって、単純概念 を取り出し、そのリストを作成するということである。分析という操作を「L1  分析」、リストの作成という操作を「L3 リスト化」と呼ぼう。

 もう一つの主要なステップとなるのは2と3であり、「総合synthesis」や「結

合法ars combinatoria」と呼ばれる。Mugnaiらは、このステップを「そういった

単純概念を再び結合し、ありとあらゆる複合的な概念や真理を生成すること」

(ibid.)とも述べる。このような「総合」は、「L1 分析」と反対の操作になって

おり、単純な概念を組み合わせることで複合的な概念を作り、さらに複合的な概 念を組み合わせることで、さらなる複合的な概念を作ることとなる。この総合と いう操作を「L2 総合」と呼ぼう。先ほど確認したように、ライプニッツは分 析の成果の「L3 リスト化」を提示している。同様に、総合の成果も「L3 リ スト化」するのが好ましいと考えている(Cf. A VI, 4, 545)。というのも、分析の 成果や総合の成果をリスト化することで、人類の有している多様な知識を共有す ることができるからである。

 以上で確認した1から3は単純な概念と複合的な概念を行き来するための操作 であった。それに対し、4から6は単純概念や複合的な概念、さらに真理をどの ように表現するかを示している。まずは4について、単純概念をアルファベット で表記するという発想は、それ以上分割できない26文字のアルファベットを用い て単語を作り、さらに文を作ることによって無限に多くの事柄を示すことができ るように、それ以上分割できない単純概念を、アルファベットの文字に対応さ せ、組み合わせることで、無限に多くの複合的な概念を示すことができることを 意味する。この表現形式を「L4 単純概念のアルファベット化」と呼ぼう。

 次に5について、ライプニッツは、主語と述語という命題の形式に対し、それ ぞれの位置に概念を割り当てることで、真理を表現することを考えている。この 場合、複合的な概念を主語に置き、いくつかの単純な概念を述語の位置におくこ とで、複合的な概念に含まれている単純な概念を表現することができるだろう。

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この表現形式を「L5 主語(複合概念)と述語(単純概念)」と呼ぼう。

 最後に6について、算術は、有限回の演算を順序に沿って実行することで、解 がある場合には解にたどり着く。ライプニッツは、このような算術のモデルを命 題にも適用し、単純概念を素数に割り当てその計算によって推論を行おうとして いる。彼はその例として、「人間は理性的動物である」を表現しようとする。す なわち、この命題に含まれているそれぞれの単純な概念に素数を当て、その組み 合わせとしての複合的な概念にそれらの素数で割り切れる数を割り当てることを 考えており、動物を2、理性的を3とし、2(動物)×3(理性的)=6(人間)

と表現することを挙げている(Cf. A VI, 4, 182)。この場合、1以外に共通の要素 がない素数を用いることで、概念の単純性を表しつつ、その素数の掛け算によっ てただ一つに定まる複合的な概念を表すことができる。もちろん、「動物」や

「理性的」といった概念はそれ以上分析することのできない単純な概念であるの かという懸念は残るものの、ひとまずこのような表現方法を「L6 概念の算術 化」と呼ぼう。

(2)スペンサーにおける比較と抽象化

 スペンサーは、1862年から1893年にかけて、全10巻からなる「総合哲学体系」

A System of Synthetic Philosophy)を刊行した。この全10巻は5部構成であり、『第 一原理』(First Principles)、『生物学原理』(The Principles of Biology)、『心理学原理』

The Principles of Psychology)、『社会学原理』(The Principles of Sociology)、『倫理学原

理』(Principles of Ethics)が含まれている。スペンサーによれば、『第一原理』は

「総合哲学体系」の中で「一般哲学」を担い、「普遍的総合」によって到達される

「普遍的な真理」の導出を試みている。より具体的には、「物質の不滅性」、「運動 の連続性」、「力の持続性」、「力の間の関係の持続性」という一般性のある概念に 対しさらに「普遍的総合」を行うことで、「進化」と「解体」という「普遍的な 真理」を導出した。他方で、残る4部門は「特殊哲学」を担い、「進化」と「解 体」という普遍的真理によって解釈された生物、心理、社会、倫理に関する「個 別的な真理」を考察している(Cf. FP, 134, 275, 277)。

 本論文にとって重要となるのは、スペンサーが『第一原理』において、どのよ うな「方法」に依拠して、「普遍的総合」を行なっているのか、という点である。

その方法はまさに次の箇所に集約されている。

同じ類に属する全ての見解を比較すること。これらの見解の一致しない様々 な特殊的、具体的要素を、少なくとも相互に対立するものとして、いったん 脇へ置いておくこと。一致しない構成要素を取り除いた後に残るものを観察

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すること。この残った構成要素に関して、その異なる変化を通じて真理を保 持している抽象的な表現を見出すこと。(FP, 127-8)

この四つの文からなる方法は大きく分けて、二つの操作に分けることができる。

まずは、「同じ類に属する全ての見解」の比較を行う段階である。つまり、抽 象度の点において共通している見解の比較を行うことである。この操作を「S1  比較」と呼ぼう。その上で、それらの見解の一致しない部分は排除し、残った

「構成要素」のなかに「異なる変化を通じて真理を保持している抽象的な表現」

を見つけ出すという段階である。『第一原理』におけるスペンサーの試みは、「普 遍的な真理」を見つけ出すために、究極の段階まで抽象化を行う作業であったと 言える。どの段階まで抽象化をするかという点は置いておき、ひとまずこの操作 を「S2 抽象化」と呼ぼう。ただし、この操作はより一層の明確化と注意を必 要とするだろう。まず、明確化すべき理由は、比較を行い、一致しない部分と一 致する部分を見分けるのは一見すると簡単な操作のように思われるが、そうでは ないからである。スペンサーが求めているのは、異なる見解の表面的な一致では なく、「異なる変化を通じて真理を保持している抽象的な表現」を見つけ出すこ とであり、その抽象的な表現の発見という作業が必要になるだろう。ところが、

スペンサー自身はこのような発見のための具体的な方法を述べていない。この点 は、本論文第4節で総合の仕方を検討する際にも再び問題として立ち現れること になる。また、注意点は、どの程度まで抽象化するのかという点にある。例え ば、究極的な「普遍的真理」の導出を目的とするのか、現象の説明にたる概念の 導出を目的とするのかによって、必要とされる抽象化の程度は大きく異なるであ ろう。この点もまた、第4節で問題として立ち現れることになる。

 以上、本節では、ライプニッツとスペンサーによる総合の方法を確認しつつ、

ライプニッツから六つのアイデア(「L1 分析」、「L2 総合」、「L3 リスト化」、

「L4 単純概念のアルファベット化」、「L5 主語(複合概念)と述語(単純概 念)」、「L6 概念の算術化」)を、スペンサーから二つのアイデア(「S1 比較」、

「S2 抽象化」)を取り出した。さらなるアイデアを探るために、今日の学術領 域において、知識を組み合わせることを主体的に担っている「学際的研究」の考 察に移ろう。

第2節 学際的研究の定義と特徴

 本節から次節にかけて依拠するのは、Repkoらによる教科書である。彼らによ る教科書は二つある。一つ目は、Introduction to Interdisciplinary Studiesであり、学

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部学生の入門向けのものである。二つ目は、Interdisciplinary Research: Process and

Theory(以下、「IRと表記」)であり、「学生のためだけではなく、専門家や学際

的なチームに対しても、学際的研究のプロセスとそれを特徴づける理論の包括的 かつ体系的な提示を行う」(IR, xv)という意図を持っている。この両者は、学際 的研究に関する多くの研究文献を引用し、また実際に学際的研究を行なっている 多くの実例を解説付きで示しており、今日の学際的研究のあり方を知る上で優れ ている。両者は重複した内容を持つ箇所があるものの、「専門家や学際的なチー ム」をも想定読者に入れている後者の方がより「包括的かつ体系的」に記述して いるので、以下では後者の最新版である第4版に依拠する(1)。なお、この教科書 は全体で450ページ近くある大著であるため、その要点を再構成する(2)

IRの第1章では、Interdisciplinary Studies という表現に含まれている、inter

disciplinary studies という三つの部分をそれぞれ検討したのちに、学際的研

究を特徴付ける七つの主要な要素を示している。

1、学際的研究の焦点は単一の専門的視点を超える。

2、学際的研究の際立った特徴は、それが複雑な問題や課題に焦点を当てる ことになる。

3、学際的研究は特定可能なプロセスまたは探究の様式によって特徴づけら れる。

4、学際的研究は専門分野を明示的に利用する。

5、専門分野はそれぞれの学際的研究プロジェクトの特定の具体的で重要な 焦点に関する知見を提供する。

6、学際的研究はその目標として統合を有している

7、学際的研究のプロセスの目的は実用的なものである。つまり、新しい理 解、新しい生産物、新しい意味という形式の認知的な進歩をもたらすこ とである。(IR, 9)(3)

この七つの要素はさらにa)学際的研究の目的(上記引用6、7に対応)と、b 学際的研究の特徴(上記引用1〜5に対応)という二つに分けることができるだ ろう。以下では、この区分に添いつつ、同書の他の箇所から補い、説明する。

a)学際的研究の目的

 まず、6では、学際的研究の目的は「統合integration」であることが示され ている。第8章では、多くの学際的研究者たちは、「統合integration」と「総合

synthesis」は交換可能なものとして扱っていると述べつつ、統合を次のように定

一九二

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義している。

学際的な統合とは、専門的知見disciplinary insightsを批判的に評価し、より 包括的な理解more comprehensive understandingを構築するために、それらの 専門的知見の間に共通の基盤を作り出す認知的プロセスである。そのような 理解は統合過程の生産物あるいは結果である。(IR, 223)

この定義に含まれている用語のうち、特に説明が必要なのは、統合を行うことに よって生み出される「より包括的な理解」であろう。IRにおいて、「より包括的 な理解」は、「知見0 0の統合の結果であり、専門的知見が生み出しうるいかなるも のよりも、新しく、より完全で、おそらく、より陰影に富んだnuanced理解を含 んでいる」(IR, 328)と定義される。つまり、三つの特徴があり、第一に、統合 によって得られた結果を専門的知見と比較した場合、統合という過程を経たこと によって、専門的知見だけでは提示し得ない「新しさ」を生み出すことになる。

第二に、複数の専門的知見を組み合わせた説明を行なっているという点で一つの 専門的知見による説明よりも多くの側面を提示しているという点で「より完全」

である。第三に、対象とする問題や課題の微細な区別をも含んでいるという点で より「陰影に富んでいる」という性質を獲得することになる。たしかに、これら の性質を持つ結果が得られれば、取り組んでいる問題や課題に対する「より包括 的な理解」を得ることができたと言えるだろう。この「より包括的な理解」は、

すでに確認した学際的研究を特徴づける七つの主要な要素のうち、7で示してい る表現を用いれば、「新しい理解、新しい生産物、新しい意味という形式の認知 的な進歩」となる。つまり、統合を経ることによって、問題や課題に対する「認 知」のあり方が「進歩」しているのである。

 学際的研究の目的が統合であることをより明確にするために、IRで行われて いる二つの観点からの比較を見てみよう。第一に、IRでは、学際的研究の実践 者を「一般主義的学際研究者generalist interdisciplinarians」と「統合主義的学際研 究者integrationist interdisciplinarians」に分け比較している。前者の一般主義的学 際研究者は、学際性を「二つあるいはそれ以上の専門領域間の対話dialogまたは

交流interactionの何らかの形式」であると大雑把に理解しつつ、「統合の役割を

完全に軽視し、曖昧にし、拒否する」としている。これに対し、後者の統合主義 的学際研究者は、「統合は学際的な仕事の目標0 0であるべきである、というのも、

統合は複雑さのある課題に取り組むからである」(IR, 20)と考えていることを 提示する。この両者の違いは、「統合」の重要性をどのように認識しているかと いう差にある。IRでは、統合の重要性を強調し、後者の統合主義的学際研究者

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の立場を採用すると明言する。

 第二に、IRでは、「学際性interdisciplinarity」を「多専門性multidisciplinarity」、

「横断性transdisciplinarity」と比較している。これまでに確認したように、IRで強

調されているのは、学際性は統合を目標とすることである。それに対し、多専門 性は「二つないしそれ以上の専門領域に由来する知見を一緒に並べることに関連 する。例えば、[…]それらの観点によって生み出された知見を統合しようと試 みることはない」(IR, 24)のである。つまり、両者の相違は、知見の統合を行う かどうかという点にある。他方で、横断性は多専門性のように学際性との対比関 係にあるのではない。むしろ横断性は、「学際性の一つの型」として理解するの がよく、「専門領域の統合だけではなく、さらに学術領域と非学術領域を越えた 統合を行うもの」(IR, 28)である。つまり、学際性と横断性は統合という目標 を共有しているものの、横断性はさらに統合の対象が広がり、学術領域と非学術 領域という壁を「横断」するという要素が加わっている。より具体的には、横断 性は、「チームで研究にアプローチすること、研究計画段階において非学術的参 加者を積極的に巻き込むこと、『事例研究』アプローチといった、学術領域の外 で生み出された知見の統合を含んでいる」(IR, 27)。このようなあり方は、学際 的研究者と横断的研究者の取り組む対象を比較するとより明瞭になる。学際的研 究者は「経済発展の一般的な問題に取り組むだろう」が、横断的研究者は「特定 の場所における発展課題により焦点を当てるだろう」(IR, 27)としている。つ まり、対象に取り組む際に、学術領域に携わる者だけで完結せず地域住民といっ た普段は学術領域に携わらない者の関わりや知見も必要とする場合に、「横断性」

という呼称が用いられることになる。

b)学際的研究の特徴

 まずは、学際的研究の特徴として挙げられていた、「1、学際的研究の焦点は 単一の専門的視点を超える」こと、「2、複雑な問題や課題に焦点を当てること」、

という二つの要素を確認しよう。すでに確認したように、学際的研究は専門的知 見だけでは完結しないのであった。その理由が問題や課題の「複雑さ」にある。

IRでは「複雑さcomplexity」を、「驚くべき/予期しない仕方で相互作用してい る現象あるいは問題の一部」(IR, 15)を指していると説明する。また、学際的 研究が必要なのは、「問題や課題が多方面にわたり、システムとして機能する場 合である」(ibid)としている。単一の専門的知見を用いて理解することができ る問題や課題であれば、学際的研究の対象とはならない。そのような理解がもた らされないほどに問題や課題の範囲が多方面にわたっていて、部分同士が相互作 用をしているシステムとなっているからこそ、つまり、「単一の専門的視点を超

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える」必要性があるからこそ、学際的研究では複数の専門的知見を利用し、統合 し、より包括的な理解を試みることになる。

 次に、「3、特定可能なプロセスまたは探究の様式」に関して確認しよう。こ の要素が強調している点は、プロセスや探究の様式が特定可能なことである。つ まり、学際的研究の成果は、明示不可能な個人の技量などによってもたらされる ではなく、「特定可能なプロセスまたは探究の様式」によってもたらされるので ある。IRでは、以下のように、二つの大きな区分の下に含まれる10のプロセス を提示している。

A 専門的知見を利用する

1、問題を定義する、または、リサーチ・クエスチョンを述べる。

2、学際的アプローチを用いることを正当化する。

3、関連する専門領域を特定する。

4、文献調査を行う。

5、それぞれの関連する専門領域の適合性を高める。

6、問題を分析しそれぞれの知見や理論を評価する。

B 専門的知見を統合する

7、知見やそれらの根拠の間にある不一致を特定する。

8、知見の間に共通基盤を作る。

9、より包括的な理解を構築する。

10、その理解を反省し、試し、伝達する。(IR, 77)

IRでは、これらのプロセス、あるいは、探究の様式を順に遂行することで、学 際的研究を実施することができるとしている。大きな二つの区分のうち、「A 専門的知見を利用する」ことは学際性にとって重要な特徴である。これは、すで に確認した学際的研究を特徴づける七つの主要な要素のうち、「4、学際的研究 は専門分野を明示的に利用する」こと、「5、専門分野はそれぞれの学際的研究 プロジェクトの特定の具体的で重要な焦点に関する知見を提供する」ことと関連 している。これらが強調したい点は、学際性はあくまで専門的知見に基づいてい ることである。つまり、複雑な問題や課題に対し、専門的知見を用いずに、突如 として包括的な理解を示すことはありえないのである。むしろ、それぞれの専門 領域において蓄積されてきた数多くの知見を用いつつ、それらの知見を変更し組 み合わせることで、複雑な問題や課題に迫るというプロセスを遂行するのであ る。IRによれば、専門的知見なき学際性はありえないのである。

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IRでは、学際性を特徴づける七つの主要な要素を提示したのちに、それらの 要素を踏まえつつ、学際的研究を次のように定義している。

学際的研究とは、課題に答え、問題を解決し、単一の専門分野で適切に扱う には広範すぎるもしくは複雑すぎるテーマを扱うプロセスである。より包括 的な理解の構築のために知見を統合するという目標を持ち、学際的研究は専 門分野を利用する。(IR, 9)

すでにこの定義をなす要素を十分に説明したので、この定義が意味するところは 明白であろう。この定義には、すでに確認した、「より包括的な理解」の構築の ための「統合」という目標が定められていること、取り組む問題の「複雑さ」と いう特徴、「専門分野の利用」という特徴が含まれている。次節では、本論文に とって焦点となる「統合」の具体的な方法について検討しよう。

第3節 「学際的研究」における概念を統合するための方法

 すでに前節で確認したように、IRでは、「統合integration」と「総合synthesis は類似した意味を持ち、交換可能なものとして扱っている。統合にせよ、総合に せよ、知見を結びつけるという操作を行う点で一致している。

IRでは、第8章から第13章にかけて、統合に焦点を当てた検討を行なってい る。とりわけ第8章の後半では、「広いモデルにおける統合」を示すため、(1)

何が統合されるのか(2)どのように統合されるのか(3)統合の結果はどのよう なものか、という三つの点を検討している。統合の方法に関心がある本論文から すれば、(2)どのように統合されるのかの箇所が重要となる。この部分では、統 合を達成するために、すでに確認した10のプロセスのうちの統合に関わる三つの プロセスを提示している。すなわち、一つ目は、「知見における不一致を特定し、

それらの根拠を位置付けること」、二つ目は、「一致しない専門領域の概念、前 提、あるいは理論の間に共通基盤を作ること」、三つ目は、「問題のより包括的な 理解を構築すること」(IR, 235)である。以下では、統合に向けた二つ目のプロ セスのうち、特に概念と前提に特化した第10章、および、より包括的な理解の構 築を扱う12章に依拠して考察を進める。

 第10章では、異なる専門的知見の間に共通基盤を作るという目標のために、概 念や前提を変更するための四つの技術(再定義、拡張、変化、組織化)を挙げつ つ、それらはどのようなものであるのか、人文科学、社会科学、自然科学の成果 の具体例を挙げ説明している。

一八八

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 一つ目の技術は、「再定義redefinition」である。これを「IR1 再定義」と呼 ぼう。IRによれば、「再定義の技術は、共通する意味を取り出すために、異なる テクストやコンテクストにある概念を変更し再定義することを含んでいる」(IR, 279)。さらに、概念に関して二つのやり方が提示されている。第一に、「同じ問 題に焦点を当てている異なる専門領域ないし理論によって同じ概念が使われる場 合、その同じ概念がどのようにして異なる意味を持つことになるかもしれない のか、注意をむけよ」(IR, 281)というものである。つまり、表現上同じ概念で あっても、専門領域によってその概念の使われ方は異なるので、その点に注意が 必要ということである。第二に、「異なる専門領域からきた専門家たちが同じ問 題の議論をしている際に、どのように異なる概念を使っているのか、また、ど の点において異なる概念は重なり合う意味を持っているのかに警戒せよ」(ibid. というものである。つまり、同じ問題に対しても専門領域が異なればその問題の 説明に向けて用いる概念は異なるため、その異なる概念の使われ方に注意を向け つつ、表現上、異っている概念であってもその意味が重なる場合もあるため、そ の点に注意を向ける必要があるということである。

 二つ目の技術は、「拡張extension」である。これを「IR2 拡張」と呼ぼう。

IRによれば、「拡張は、我々が話している『何か』の範囲を増大させることに関 連する」(IR, 283)。例えば、ある専門領域において生み出された概念がのちに 他の専門領域に拡張される場合である。IR自身に示されてはいないものの、こ の拡張の技術を用いる際には細心の注意が必要となるだろう。他の専門領域の概 念を曖昧に使うことで、何事かを説明した気になってしまう可能性がある。概念 の拡張を行って説明をする場合には、その概念の意味を明確にし、範囲を限定す るなどの制限を設ける方が良いように思われる。

 三つ目の技術は、「変形transformation」である。これを「IR3 変形」と呼ぼ う。IRによれば、「変形の技術は、単に異なるだけではなく反対にある概念や前 提を連続した変数へと変更するために用いられる」(IR, 285)。つまり、ある事 象を説明するために、ある前提や概念を採用し、それと反対する意味を持つ前提 や概念を不採用とするのではなく、それらの前提や概念を両端においた「程度」

として捉えるということである。IRでは、具体例として、人間の合理性と非合 理性を「合理性の程度」として捉えることや、「信頼の程度」、「政府の介入の程 度」といったように、連続的な変数として捉えることを提示している。

 四つ目の技術は、「組織化organization」である。これを「IR4 組織化」と呼 ぼう。IRによれば、「組織化の技術は、ある現象がどのように相互作用している のかを明確にし、それらの因果関係をマッピングすることによって共通する基盤 を作り出すことである」(IR, 288)。この組織化はさらに細分化され、二つのプ

一八七

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ロセスとなる。一つ目は「異なる概念や前提(や変数)の意味上の潜在的な共通 点を特定し、それに従ってそれらを再定義すること」(ibid.)である。これは本 論文第1節で考察した、「S2 抽象化」とほぼ同じ操作であると言える。二つ目 は、「それらの間の関係を取り出すために、再定義された概念や前提を整理し、

配列し、並べ、マップ化すること」(ibid.)である。

 それでは、このような共通基盤を作った後に、より包括的な理解を示すため に、何をすれば良いのだろうか。第12章では、変更された概念や前提からより包 括的な理解を構築する方法と、変更された理論からより包括的な理解を構築する 方法が提示されている。ところが、両者の扱いを比べる場合、そのほとんどが後 者に関する記述に割かれており、具体例を除けば前者の説明はほんの数行にと どまっている。その説明も不十分であり、より包括的な理解を得るための「物

語narrative」という形式は、 人文科学においてより共通なものである、と述べて

いるだけである(Cf. IR, 331)。理論ではなく概念に取り組む場合、概念を「IR1  再定義」し、「IR2 拡張」し、「IR3 変形」させ、「IR4 組織化」することで 様々な専門領域間の知見の基盤を生み出しつつ、そこからさらにどのような操作 を行えば良いのか、その方法の提示をした方が好ましいだろう。次節では、その 点を含めた考察を行う。

第4節 概念を組み合わせるための方法と課題

 本節では、これまでの節において考察してきた概念を組み合わせるためのいく つかの操作を用いつつ、概念の包括的な理解を構築するための方法の試案を提示 し、試案に含まれている検討すべき課題の提示を行う。

 概念の包括的な理解を構築するために、まず、前提として確認しておきたいの は、専門的知見を利用すること、また、最終的な成果物として総合あるいは統合 を目標とすることという二つの点である。一人で研究を実施するにせよ、共同で 研究を実施するにせよ、「包括的な研究」を目指すならば、さまざまな学問領域 の知見に基づきつつ、ただそれらを併記するのではなく、新たな「統合」を行う 方が良いだろう。その統合の方法として提示したいのが、以下の五つのステップ である。それぞれのステップの役割を明確にするため、第1節から第3節にかけ て抽出してきた合計12の操作のうち該当するものを添え、表示している。

1、対象とする概念を複合的な概念であると仮定し、主語の位置に置く。そ の対象とする概念に関する専門的知見をもとに述語を構成する。(L5  主語(複合概念)と述語(単純概念))

一八六

(14)

2、述語に含まれている概念が分析可能であれば、それ以上分析できないと ころまで進める(L1 分析)

3、できるだけ単純な要素を比較し、共通しているものを取り出す。(S1  比較、S2 抽象化、IR4 組織化)

3、できるだけ単純な要素をリストアップする。(L3 リスト化)

4、共通しているものを組み合わせ、述語とする。(L2 総合、S1 比較、

IR1 再定義、IR4 組織化)

4、共通しているものを組み合わせてできたものをリストアップする。(L3  リスト化)

5、対象とする概念の新たな述語を評価する。(IR2 拡張、IR3 変化)

以下では、具体例として、知見A「調和は、心と身体という二つの事物の対応関 係が取れていることである」、知見B「調和は、国家間の力が均衡状態にあるこ とを指す」を用いつつ、以上の五つ(ないし七つ)のステップを順に説明しよ う。

 1から3にかけては「分析」の段階である。まず1について、第一に、ライプ ニッツが示していた、複合概念と単純概念という概念のあり方を採用する。つ まり、複合概念だと見なすものには、その要素となる単純な概念が含まれてお り、分析を通じてその単純な概念に到達でき、反対に、単純な概念を二つ以上組 み合わせることによって、複合的な概念を構成することができるというあり方で ある。第二に、対象とする概念を主語の位置におき、その概念に対する専門的知 見を述語の位置に置くことによって表現する。この段階では、述語の位置にある 概念は複合的なものであって良い。先ほど示した知見A、知見Bはこの二つの点 を満たしている。1の検討すべき課題は、複合的な概念と単純な概念という古典 的な概念観を採用して良いのか、という点にある。つまり、概念とは何であるの か、どのようなものとして捉えると良いのか、という問題を問わずに、概念観を 採用している点にある。これらの問いによりよく答えるためには、概念に関する 心理学や認知科学の知見も必要となるだろう。

 次に2について、すでに1で主語と述語の形式にしたので、述語に現れる概念 が複合的なものか単純なものか判定し、もし複合的なものであると判定したなら ば、それをさらに分析し、可能な限り単純な概念にするという操作である。知 見Aを例とすると、例えば、「心と身体という二つの事物の対応関係」をさらに 分節化できるか考えることになる。この場合、「心」、「身体」、「二つ」、「事物」、

「対応」、「関係」と6分割の段階で終えるのか、あるいは、「心」、「体」、「事物」、

「対応」、「関係」をさらに単純な要素へと分析するのかを判定し、必要であれば

一八五

(15)

さらなる分析を行うことになる。2の検討すべき課題は、さしあたり三つあげる ことができる。第一に、言語によって表現された概念を分節化する際に、その形 式上だけでも分節の仕方が複数ありうる点である。第二に、概念の意味上におい ても、究極的な単純概念にたどり着くのは難しい点である。分析の到達点とし て、どのような基準を備えた概念が単純であるのかあらかじめ定めておく必要が あるように思われるが、そのような基準を定めることはできるのか検討する必要 がある。第三に、概念を分析する際に、新たな学習や発見が必要となる可能性が ある点である。というのも、漢字で表した「事物」のように「こと」と「もの」

とが合わさっていることが明瞭である場合ならば分析は難しくないが、「関係」

に含まれているものを分析できるか考える場合、その概念が生み出された専門的 領域における他の知見を踏まえつつ、その概念がどのように使われているのかを 知り、必要とあれば、より単純な要素の発見を行う必要があるからである。

 3について、既にできるだけ単純な要素を提示する地点にまで到達したので、

知見Aと知見Bに含まれる単純な要素どうしを比べ、共通しているものを取り出 す作業である。これまでに挙げてきた例を用いれば、知見Aと知見Bでは、数に 関して、最低限「二つ以上」であることや、ある二つ以上のものやことの間に何 らかの「関係」があること、などである。また、3 は補足であり、リスト化を 推奨している。分析の結果たどり着いた最小の要素をリスト化し共有すること で、自身の今後の研究、また、他の研究者の今後の研究に役立てることができる だろう。

 4について、これまでは分析の作業であったが、ここからが総合、あるいは、

統合の作業となる。4の操作は見た目上、容易である。すでに分析を済ませ、共 通しているものを取り出したので、それを組み合わせれば良い。ところが、この 操作にも検討すべき課題がある。それは、組み合わせに向け、ある種の発見が必 要になることである。つまり、分析の結果得られ、共通していると判定されたも のを用いてより包括的な理解を得るためには、その共通しているものを単にその まま使うのではなく、新たな仕方で表現したり、さらにそれらの要素を組み合わ せ表現しなければならない可能性がある。また、何を目標として共通しているも のを組み合わせるのか、あらかじめ定めた方が良いだろう。そのような方向づけ がなければ、総合の結果として示される概念は、辞書に掲載されるような一般的 な意味を指すものになってしまうだろう。この点に関して、二つの道があるよう に思われる。一方で、スペンサーは『第一原理』において、「普遍的な真理」を 見つけ出すために、究極の段階まで抽象化を行った。したがって、このような段 階の抽象化を目指す場合、その「抽象的な表現」を残した方が良いだろう。他方 で、抽象度が高すぎては、妥当する対象が多すぎるのである程度の限定を加えた

一八四

(16)

いと考える場合には、一つのやり方として抽象度を下げる必要がある。いずれに せよ、概念が単純であればあるほど、抽象度が高くなる可能性が高いので、その 抽象度を見極めつつ、何を目標とするのか定め、抽象度をその目的にたるものに 合わせる必要がある。また、4 は補足であり、3 と同様にリスト化を推奨して いる。総合の結果生み出した新たな主語と述語の関係をリスト化し共有すること で、自身の今後の研究、また、他の研究者の今後の研究に役立てることができる だろう。

 最後に5について、概念の統合が終わってから、その概念をできるかぎり客観 的に評価した方が良い。そのために、概念を拡張したり、ふたつの極を設定し、

対象とする概念はその両極の中でどこに位置しているのかを確認する作業を行う と、他の概念との関係が明瞭になり、位置付けが明瞭になるだろう。

 以上の五つのステップには組み入れなかったが、さらに発展的な課題として、

「L4 単純概念のアルファベット化」や「L6 概念の算術化」といった表記法や 推論の仕方も考慮すると、より十全な方法となるだろう。

おわりに

 以上、本論文では、「総合」を試みたライプニッツとスペンサーのアイデアを 検討することから始め、学際的研究の定義と特徴を確認しつつ概念の統合に向け た方法と問題点を確認し、最後に、概念を組み合わせるための方法を試案として 提示しつつその課題も提示した。

 このような考察を経て、そもそも概念をどのようなものとして捉えるのかと いった基礎的な地点の検討、概念を組み合わせる際に必要となるある種の発見の あり方など、多くの課題が残っていることが浮き彫りとなった。概念を組み合わ せるための方法を探究し開発する研究もまた、学際的になされる必要があるだろ う。例えば、すでに示した概念のあり方をめぐる課題では、心理学や認知科学に 加え、言語学や自然言語処理等の知見や方法も参考になるだろう。さらに、この ように理論的な観点から方法を開発することに加え、事例研究を行うことで現に 用いられている方法を考慮したり、開発した方法を実際に運用し評価することも 必要となるだろう。

 最後に、一つの示唆を行いたい。それは、学際的研究を志向する場合、知識を 結びつけるための方法を何らかの仕方で共有したほうが良いのではないか、とい うものである。本邦においても学際性を売りにしている大学の学部、学科は多 い。例えば、筆者が2020年現在に所属している早稲田大学文化構想学部は、現時 点において「学部の理念・目標」を二つ挙げており、その二つ目の「理念・目

一八三

(17)

標」を、「文化学の叡智を現代の課題で照らし、これまでの学問領域を大胆に乗 り越えて、広領域的・学融合的アプローチを実践する」こととしている(4)。とこ ろが、そのような「学問領域を大胆に乗り越え」、「広領域的・学融合的アプロー チを実践」するための方法論を体系だって論じる講義や演習は存在しない。この ような事情は当学部に限らず、学際性を掲げる日本の多くの大学に当てはまるの ではないだろうか。もちろん、そのような方法論に特化した科目がなくとも、各 種の講義や演習を通じて示される方法論や実践例を通じて、学生は「広領域的・

学融合的アプローチ」を習得し、自ら運用できるようになることもあろう。しか し、このような場当たり的な提示という段階にとどまっていては、多くの学生は 学際的なアプローチを獲得し運用することができないのではないか。そこで例え ば、本論文でもとり挙げたRepkoらによる教科書をベースにしつつ、入門レベル の講義、演習科目を整備すると、より良い教育課程になるのではないだろうか。

さらに、これは大学教育レベルに留まらない。すでに述べたように、今日、学際 的研究は世界的になされている。その場合、学際的研究を通じて何を生み出すこ とを目標とするのか、またどのような過程を経るのか、学際的研究をコーディー ネートする人物が明示的に認識を持っておくことで、より良い成果が生み出され ることになるだろう。したがって、Repkoらが述べるように、「学生のためだけ ではなく、専門家や学際的なチームに対しても」、知識を結びつけるための前提 や方法を、明示化し、鍛え上げつつ、共有することは有用であるように思われ る。

参考文献

Leibniz, Gottfried Wilhelm. Gottfried Wilhelm Leibniz: Sämtliche Schriften Und Briefe. Edited by Deutsche Akademie der Wissenschaften. Darmstatdt and Berlin: Akademie Verlag, 1923-. (「A 系列数,巻数,頁数」で表記)

Mugnai, Massimo, Han van Ruler, and Martin Wilson, eds. Leibniz: Dissertation on Combinatorial Art. Oxford: Oxford University Press, 2020.(「Mugnai,頁数」で表記)

Repko, Allen F., and Rick Szostak. Interdisciplinary Research: Process and Theory. 4th ed. Los Angeles, London, New Delhi, Singapore, Washington DC and Melbourne: SAGE, 2020. (「IR,頁数」

で表記)、(アレン・レプコ.『学際研究─プロセスと理論─』,光藤宏行,大沼夏子,

阿部宏美,金子研太,石川勝彦[訳],原著第2版,九州大学出版会,2013.)

Repko, Allen F., Rick Szostak, and Michelle Phillips Buchberger. Introduction to Interdisciplinary Studies. 3rd ed. Los Angeles, London, New Delhi, Singapore, Washington DC and Melbourne:

SAGE, 2020.

Spencer, Herbert. First Principles. 4th ed. New York: D. Appleton and Company, 1880. (「FP,頁数」

で表記)

一八二

(18)

(1) 同書には、第2版に基づいた次の邦語訳がある。アレン・レプコ『学際研究』、

光藤宏行、他[訳]。本論文では、この邦語訳を適宜参照しつつ、筆者が翻訳を行 なった。

(2) IRでは多くの文献を引用、参照をしつつ、整理している。煩雑さを避けるため、

本論文では「IRによれば」と示しているが、実際には他の研究からの引用、参照の 場合もある。IRには引用、参照箇所がすべて示されているので、そちらを参照せよ。

(3) 原文では、箇条書きになっているが、筆者が番号を付した。

(4) https://www.waseda.jp/flas/cms/about/policy/[2020年11月25日閲覧]

一八一

(19)

A Method of Comprehensive Research

─ On the Synthesis or Integration of Concepts

TERASHIMA Masahiko How can we study a concept as comprehensively as possible? If we assume that comprehensive research means combining the result of studying the historical, theoretical, and applied aspects of the concept, it must be better to clarify the ambiguous method of combining in advance and establish it as a method that can be used by everyone. The main aim of this study is to explore methods for combining concepts and present ideas for refining those methods.

First, we extract ideas from G. W. Leibniz (1646-1716) and Herbert Spencer

(1820-1903) who had tried to combine concepts (Section 1). Then, we consider the core of interdisciplinary research, which attempts to combine knowledge. After confirming the definitions and features (Section 2), we extract ideas for combining (synthesizing or integrating) concepts (Section 3). Sections 2 and 3 can be read independently as an introduction to the essence of interdisciplinary research. Finally, based on Sections 1 through 3, we will provide a provisional method for combining the concepts and also present the remaining issues (Section 4).

一八〇

参照

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