研究論文
「ことばの力」を育む外国語活動の授業研究
舛元崇史(長崎大学大学院教育学研究科教職実践専攻)
呉屋 博(長崎大学大学院教育学研究科)
立岡 昌文(長崎大学大学院教育学研究科)
本実践研究は,児童の「ことばのカ」を育むために,児童に普段使っていることばを意識させ る外国語活動の授業を設計・実施し,「メタ認知的知識の構造」(山田恭子ら, 2010)を軸に評価を 行い,ことばへの理解カや活用力を高める授業づくりを実践的に探る取組であるロ
児童の「ことばの力」を育むことを本実践研究の目的とした背景には,グローパル化が進む世 の中にあっても,自分の伝えたいことはことばで相手に伝えることのできる人に育ってほしい,
という筆者の願いがある。ことばで相手に伝えることができるようになるためには,小学校段階 から自分の使う「ことば」を意識することが大切であると考えた。「ことばのカ」を育てる重要性 は,言語力,コミュニケーション能力,伝え合うカ等,様々に表現を換え,他方で言われている ところである。しかし,その重要性を取り上げながらも,これらに関する授業実践の成果は少な い。そこで,本実践研究は「ことばの力」を育む授業実践・評価を行っていく。
人と話している際に,ことばに意識を向けて話している児童は少ないだろう。普段無意識に使 っている「ことば」を意識するためには,普段とは違う視点から「ことば」を見てみる必要があ る。本実践研究においては,外国語活動がそれである。「ことばの力」を育むために,外国語活動 において授業実践を行う。
実施した外国語活動の授業を「メタ認知的知識の構造」(山田恭子ら, 2010)を軸に評価すると,
「コミュニケーシヨン志向」 (p<.05)に関して有意な上昇が見られた。授業は児童のコミュニケー ションに対する態度を高めるのに寄与したと読み取れた。
「ことばのカ」に関しては今後も検証が必要なものであろう。
キーワード:ことばのカ,外国語活動,メタ認知
I研究の背景とねらい
『日本語能力が低下している」という言葉をよく耳にする。文化庁が毎年行っている「国 語に関する世論調査」において,平成26年度調査「今の国語は乱れていると思うか」に対し て7割以上が「乱れていると思う」と回答している。また平成23年度調査「日本人の日本語 能力が低下しているという意見について,どう思うか」に対して「低下していると思う」と 考える人が,「読むカ」では78.4%,「書く力」では87.0%,「話す力」では69.9%,「聞くカ」
では62.1%であり,どの項目においても 6割以上であったo また,「読む力」「話す力」に関 しては,平成 13年度調査より 10%近く上昇している。日本人の意識として,日本語能力が 低下しているという意識が高まってきているようだ。人々を取り巻く環境が大きく変化する
なかで,さまざまな思いや考えをもっ他者と対話したり,我が国の文化的伝統の中で形成さ れてきた豊かな言語文化を体験したりするなどの機会が乏しくなったために,言語で伝える 内容が貧弱なものとなり,言語に関する感性や知識・技能などが育ちにくくなってきている。
このため,言語に対する感性を磨き,言語生活を豊かにすることが大変強く求められている 背景がある。
上述の背景から言語に関する能力の育成が強く求められ,様々な報告や研究が行なわれて いる。現行の学習指導要領には「言語活動の充実」という形で反映され,コミュニケーショ ンに関する感性を育んだり,情緒を養ったりすることが期待されている。しかし福田浩子 (2007)は,「日本の言語教育を考えるとき,最も根本的な問題は,川上・市瀬(2005)の指摘に もあるように,一貫した言語教育政策がないということではないだろうか」と指摘する。つ まり,「英語,国語などの言語は『教科』として別々に存在はしているが,言語としての共通 の基盤に立った取組が見られない。言語という共通の基盤を持つことによって,言語に対す る気づきを養い,他の言語の習得や国際理解にも聞かれた言語学習の礎を築こうというもの である」ということである。福田浩子の指摘から,言語に関する能力を育成していく際には,
ことばを基盤とすることが必要だと考える。
本実践研究では,本研究において育む「ことばの力」を定義し,「ことばのカ」の検証を行 っていく。そして,子どもたちに「ことばのカ」を育む外国語活動の授業実践を行う。
n .
「ことぽの力」の定義本実践研究では,「ことばのカ」を「言語を客体として,意識・観察・運用する力』と定義 する。「ことばの力」は3段階と設定し,「①自分の話すことばを振り返るカ(意識)②相手を意 識してことばを選ぶ力(観察)③選んだことばを適切に使うカ(運用)」とする。
①自分の話すことばを振り返る力
ことばは無意識的に使うことが多い。このことはちょうど呼吸に例えることができる。呼 吸は普段無意識であるが,意識を向けることもできる。音楽演奏や運動競技など,時と場合 によっては,呼吸法を工夫しなければならないときがある。普段無意識にしている呼吸でも,
しっかりコントロールすることで,様々な活動ができるようになる。このことばを意識化す る,振り返るときに必要となるのが,メタ認知である。
②相手を意識してことばを選ぶ力
ことばを振り返ることができるようになったら,次はことばを選ぶ。「ことばの力」は人と のコミュニケーションをする際に必要な力である。相互の意思疎通を図るために適切な配慮 に基づいたことばの選択が大切になる。
③選んだことばを適切に使うカ
最後にことばを使う段階である。相手を意識して考えたことばを実際に使ってみる。相手 の反応によっては,また言い換えてみる。そうして分かりよく,すんなりと耳に入り,すと んと心に落ちるような,伝え方を探していく。ことばは際限がなく,常に改善を目指し,相 手に伝わりやすいことばを探っていく。
この
3
段階を「ことばの力」と設定する。本実践研究では,3
段階に分けてそれぞれに手立てを仕組んだ授業実践を行っていく。小学校段階では,まだことばというものに対してあ まり意識がないと考えられる。小学校段階の児童には柔軟な適応力があり,それを生かして こそ,この 3段階を丁寧に分けて指導していくことができると考える。また,メタ認知は小 学校高学年から次第に高まってくる。そのことからもことばに意識を向けていくことは有効 であると考える。「ことばの力」の3段階が調和して働くことによって,適切なコミュニケー ションが図れるようになるであろう。
E研究の方法 m‑1.対象学級
対象学級は,長崎市立X小学校6年生25名である。
m‑2.調査の方法
本実践研究においては,「②相手を意識してことばを選ぶカ」を中心にして以下の3つの調 査を行う。
①「ことばの力」について探索的検討を行う。(調査1)
②文章産出スキルの高さにより,「ことばの力」を重視する度合いの違いが見られるかどうか を検討する。(調査2)
③「ことばの力」の変容と外国語活動の授業との関連を検討する。(調査3) 調査 1
「ことばの力」を測定する質問紙を作成する際には,山田恭子ら(2010)による「メタ認知 的知識の構造」を参考に作成した。山田恭子らは,メタ認知的知識として5種類挙げている。
「表記・表現の容易性」「流れやまとまりに対する配慮」「読み手の興味・関心への配慮」「具 体性」「説明すべきものの先行提示」である。
本質問紙は「ことばの力」のうち「②相手を意識してことばを選ぶ力」を測定するものと して位置付けている。そのことから「②相手を意識してことばを選ぶカ」との関連が予想さ れる「表記・表現の容易性」「読み手の興味・関心への配慮」を抽出した。「②相手を意識し てことばを選ぶカ」では,自分が伝えたいことをちゃんと相手に伝えることができることば を選ぶことが大切である。その際に,伝える相手を意識して,伝える相手によって伝え方を 工夫していくことが必要である。その変容を探るために,「どんな言葉を採用するか」を測定 する「表記・表現の容易性」と,読み手(相手)を意識することを測定する「読み手の興味・関 心への配慮」の2種類のメタ認知的知識を抽出した。回答に際しては,「そう思う(4点)」「ど ちらかといえばそう思う(3点)」「どちらかといえばそう思わない(2点)」「そう思わない
(1点)」の4件法で回答するようになっている。
調査
2
調査2では,文章スキルの高さと「ことばのカ」の関連を検証する。調査1の「ことばの 力」質問紙と同時に,文章産出課題を課した。
材料①文章産出課題
①文章産出課題は「オカピ」に関する資料と原稿用紙 1枚から成る(事後調査では,
「キーウイ」を用いた)。「オカピ」に関する資料の作成にあたっては,総合百科事典
ポプラディア(2003)に記載されているオカピに関する記述を用いた。
手続き 調査対象者には文章産出課題を配布し,資料を参考に25分程度で,オカピを小学 1年生に紹介する文章を産出するよう求めた(字数は100字以上)。さらに,課題終 了直後,『ことばのカ」質問紙を用いて,文章産出の際,各項目に記述されている
「ことばの力」をどの程度意識して行ったかを4件法で回答するようにした。
上述の「ことばのカ」質問紙,文章産出課題を用い,以下の分析を行った。
1.読み手の書き手「ことばのカ」意識評価 評定者大学院生2名
材料 「ことばの力」質問紙(「ことばのカ」質問項目に,各文章への採点結果を加え,
全部で11項目から構成される。)
手続き 文章産出課題を課して得られた文章について,大学院生2名に評定を求めた。具体 的には,「ことばのカ」質問紙を用いて,書き手が文章を喜くときに,「ことばのカ」
をどの程度意識して行ったと思うかを4件法(「そう,思う(4点)』〜「そう恩わない(1 点)」)で評定させたのである。また,総合得点として,各文章について, 10点満点 での採点も求めた。評定及び採点は各々の評定者が独立に行い,主観的なゆがみや 他者による影響は取り除かれている。評定値の平均を「評定得点」とし,採点結果 を「総合得点」とした。
2.文章課題に対する評価
手続き 総合得点の値をもとに,「平均値+1/2標準偏差」(7.94)の値を上回る調査対象者を
「熟達群」とし,「平均値一1/2標準偏差」(5.49)の値を下回る調査対象者を『非熟達 群」とした。その後,上述の「ことばの力」質問紙を用いて,(1)書き手自身による
「ことばの力」重視度, (2)読み手による書き手の「ことばの力」重視度を検証した。
調査3
外国語活動の授業実践前後での変容の検討を行い,「ことばの力」との関連の調査を行う。
松宮新吾(2014)の作成した質問紙を基に作成している。松宮新吾は小学5
・
6年生を対象として調査を行っている。その結果,外国語活動に関して小学6年生には5因子があることを明 らかにした。「コミュニケーション志向因子」「異文化英語志向因子」「自己有能因子」「理解 明確化因子」「インターアクション形成因子」である。本質問紙は「ことばのカ」の授業前後 の変容が外国語活動の授業と関連があるかどうかを検討するためのものである。そこで,外 国語活動の授業との関連が予想される「コミュニケーション志向因子」「異文化英語志向因子」
の2因子を取り上げて質問紙を作成した。小学6年生ということを考慮し,調査I,調査2 の負担も考え,質問項目を
8
っと少なくした。尚,本アンケート調査は,授業実践の事前と 事後での変容を誤u
るために行った。構成に関しては,「コミュニケーション志向削o.1‑No.4)」「異文化英語志向(No.5‑No.8)」」 という 2つの領域及び8つの項目から構成されている。
m‑3.授業実践の概要
本実践研究では,外国語活動の授業を1時間行った。教材は,「Hi,friends!2」のLesson6
「1日の生活を紹介しよう」である。本単元は全5時間で構成されており,本時は単元の 5
時間目である。本単元は,起床や登校,就寝といった日常の習慣を取り扱う。友達の習慣を 聞くといった目的意識を持たせることで,相手を意識した活動を行うことができる。また,
本単元では時差を扱う。時差を取り扱うことで,海外の人との時間の違いを生み出し,こと ばを選ぶ活動をしていくことができる。そこで本実践授業では,「あいさつを意識させる場面」
「あいさつを使う場面」「選んだことばを使う場面」を設定し,授業を行った。
「あいさつを意識させる場面」では,英語でのあいさつ(Goodmorning, Hello, Good night,
…)を提示し,会話をする際にあいさつを意識するように指導した。時差を利用することで,
あいさつに意識を向かせ,ことばを選ばせることが目的である。「あいさつを使う場面」では,
相手と会話をするときに相手の状況に合わせたあいさつで会話を開始するようにした。相手 の状況に合わせたあいさつとは,例えば夜分遅くの場合は' 'rmsorry. から始めるといった ことである。状況に合わせたあいさつを行うことによって,円滑なコミュニケーション活動 を行うことができると考える。「選んだことばを使う場面」では,教室内を歩き回って会話を する相手を探し,選んだことばを使ってコミュニケーション活動を行う。班ごとに6カ国に 分け,自分の国が何時なのか,その時間に何をしているのかを伝え合うようにした。
自分のコミュニケーションを振り返ることのできる活動やことばを選ぶ活動を行うことで,
児童が普段用いていることばに意識を向けるように指導していく。そうすることで「②相手 を意識してことばを選ぶカ」を育んでいくことを目的とする。その後,学習した内容を活用 するコミュニケーション活動を行い,「③選んだことばを適切に使う力」を育んでいけるよう に設定した。
町田結果
調査1
10項目の評定について無回答の項目のあった1名+欠席3名を除く 21名を対象に分析を行 った。各因子のα係数を産出したところ,「表記・表現の容易性(α
=
0.89)」「読み手の興味関 心への配慮(α=
0.85)」と十分な値が得られ,尺度としての内的整合性は確認されたといえる。「ことばの力」質問紙の授業前後の結果は以下のとおりである。
表1 「ことばのカI質問順授業前後の平均値の比較
「表記・表現の容易性」
平均値〈標準偏差
9
授業前
|
授業後16.76(3.51)
I
11.14(2.ゆ「読み手の興味・関心への配慮J 平均値〈標準偏爵
授業前
|
授業後14.43(3.44) 15.52(3.02)
t
f
直 0.46t値
1.08
どの項目においても一定の数値の変化が見られる(「表記・表現の容易性」(事前16.76一事
後17.14) 「読み手の興味・関心への配慮」(事前14.43一事後15.52))。しかし,「表記・表現 の容易性」『読み手の興味・関心への配慮」いずれにおいても有意な差は見られなかった。
調査2 1.読み手の書き手「ことばの力」意識評価
評定者評価の授業前後の結果は以下のとおりである。
表2読み手の書き手「ことばの力」意識評価の授業前後の平均値の比較
「表記・表現の容易性」
平均値傭準偏差
9
授業前
|
授業後 七値15.12(4. 76) 15.52(4.61) 0.99
「読み手の興味・関心への回慮I 平均値標準偏差
9
授業前
|
授業後 t値15.95(3. 78) 15.98(4.2) 0.06
「表記・表現の容易性」(事前15.12一事後15.52)「読み手の興味関心への配慮」(事前15.95
〜事後15.98)と数値の変化は見られる。しかし,授業実践前後で有意な差は見られなかった。
2.文章課題に対する評価
(1)書き手自身による「ことばの力」重視度
文章産出スキルの高さにより,「ことばのカ」の重視度に違いが見られるのかを検討するた め,下位尺度別に評定値を合計した。そして, t検定による群問比較を行ったところ,「表記・
表現の容易性」「読み手の興味・関心への配慮」どちらにおいても有意な差は見られなかった。
よって文章産出スキルの高さによる,書き手自身の「ことばのカ」重視度には違いが見られ ない左いうことがいえる。
表3 「ことばの力j得点の平均 (
慮
1H M 商自
性 の 一易へ 名 一 容 心 度一の関
尺一現・
位 一 表 味 下 一
・ 輿 記 の 表 読 み 手
熟達群 17.5(1.97)
14.9(3.3)
)は標準偏差 非熟達群 14.5(5.65) 13.7(4.72)
値一品川訓
+
LM
﹁Jnu
(2)読み手による書き手の「ことばの力」重視度
読み手が書き手の「ことばの力」をどう捉えているかを検討するため,群別,下位尺度別 に,採点部分を除いた「ことばのカ」尺度の評定値を合計した。そして, t検定を行ったとこ ろ,「表記・表現の容易性」「読み手の興味・関心への配慮」のいずれにおいても,熟達群の 方が非熟達群よりも得点が高くなった。
表4 「ことばのカ」評定得点の平均(
慮
名一容心 均一 一恥 同 位 一 表 味 下一・興
読
熟達群 18.8(1.19) 18.6(1.83)
)は標準偏差 非熟達群
9(2.39) 11.8(3.53)
t
i f
直 11.42'''5.33合 帥
‑p<.001 喜き手による「ことばの力」意識では,熟達群と非熟達群の聞に有意な差は見られなかっ たが,読み手の評定では有意な差が見られた。「ことばのカ」を意識させ育むことによって,
読み手がわかりやすい文章を産出できる可能性が考えられる。
調査3
8項目の評定について欠席3名を除く 22名を対象に分析を行った。各因子のa係数を産出 したところ,「コミュニケーション志向(a=0.84)」「異文化英語志向(a=0.88)」と十分な値が 得られ,尺度としての内的整合性は確認されたといえる。外国語活動に関する質問紙の授業 前後の結果は以下のとおりである。
表5外国語活動質問紙における授業前後の平均値比較
「コミュニケーション志向」
平均値(標準偏苗
授業前
|
授業後12.27(2.8吟
I
12崩 (2.62)d
直 2.52台'p<.05
「具文化英語志向」
平均値〈標準偏差
9
授業前
|
授業後10. 11<3.62)
I
10.91(3.83)t
f
直 0.42「コミュニケーション志向」(p<.05)に関して授業前後で有意な上昇が見られた。「異文化志 向」に関しては有意な差は見られなかった。
V考察
V‑1.考察(調査1
〜
3) 1.ことばのカに関する考察本質問紙は,「ことばの力」の「②相手を意識してことばを選ぶ力」を測定することを意図 したロ授業実践前後の平均を比較すると,数値では上昇が見られた。しかし, t検定を行った ところ,授業実践前後で有意な差は見られなかった。このことから,今回の外国語活動の授 業実践は,「ことばの力」の「②相手を意識してことばを選ぶ力」を意識させることができな かったといえる。しかし,調査対象者である6年生の児童は,今年の4月より 1年生と多く の交流を持ってきた。その関わりによって, 1年生にわかりやすい話し方が育まれてきたこ
とが推測される。
2.文章産出スキルの高さと「ことばの力」を重視する度合い
調査1同様,授業実践前後での変化はあまり見られなかった。読み手に伝わりやすい文章 産出と書き手が意識する「ことばの力」の重視度は,結呆から見るとあまり関係がないよう に考えられる。しかし,院生2名が評定した結果では,書き手と読み手との認識のズレが生
じ,文章産出スキルの高い児童ほど,「ことばのカ」を重視しているという結果が得られた。
このことから,「ことばのカ」の重視度の高さは文章産出スキルの高さと関わりがあるのでは ないかと考える。児童の授業前後の結果に変容が見られなかったのは,「ことばのカ」をまだ 無意識的にしか活用していないからではないだろうか。「ことばの力」を意識させることで,
より一層の言語活動の充実を図っていけるのではないかと考える。
よって本実践授業では,児童に「ことばの力」を意識させるには至らなかったと考察され るが,児童は「ことばの力」を意識させる機会となったと考える。
児童は5年生時より毎週1回原稿用紙1枚に担任の教師が出題したテーマを書く宿題に取 り組んできた。この積み重ねや学習の中での書くことの指導も,児童の文章産出スキルの高 さに影響したと考える。
3.「ことばの力」の変容と外国語活動の授業の関連の検討
外国語活動の授業前後のみでの検討を行弘前述したように,「コミュニケーション志向」
に関しては有意に上昇した(表 5)。このことから,本実践研究における外国語活動の授業は,
「コミュニケーション志向」を上昇させるものであるということができる。
V‑2.全体考察
調査1〜3の結果では,「ことばのカ」の「②相手を意識してことばを選ぶカjの段階を中 心にして,考察を行ってきたロこれからは授業全体から考察をしていきたい。
1.授業中の児童の様子
授業中の様子については,授業の際の児童の様子から振り返りを行う。
児童は,実態把握のとおり,授業に対して積極的に参加する態度が見られた。コミュニケ ーション活動を行う上で,積極性や主体性と言われるものは必要条件である。その点で,本 学級は筆者にとって授業を実施しやすい環境であった。もし,このような環境がなければ,
積極的にコミュニケ}ションを行う環境を整えることからスタートさせる必要がある。
「ことばを選ぶ」活動であるあいさつの場面であるが,筆者の児童に対する指導が少なく,
あいさつをすることの価値付けが不十分であったため,なかなかあいさつを重要視してコミ ュニケーションをしている姿は見られなかった。しかし,児童は積極的に友達に時刻や何を しているかを尋ねたり答えたりする姿が見られた。そのことに関しては,以下に児童の「ふ りかえり」を示す。
2.振り返りシート
.児童A
0 ふりかえり
r~ ~ l
\、、ご 乙令、、む、士、 τ 、 、 +
"'Jん勺て 1、え
1士、刊
か
わ j k ら t~} \、今、うインへ−−,1~ I 、' ' ' ) − ムヘィ、乙 ょに{,~ Y , J v t ‑ : i つ 1-~ ~·っ-l
'‑ q ‑ ) ' ‑ '、仏、:イス
児童Aは朝3時に何をしているかを相手に伝える際に工夫を行っていた。小学6年生であ るため, I'msleepy. (私は眠い) という表現は知っているが,この表現と sleep(寝る) と いうことが結びついていない。そこで 「ベットインドリーム」という自分の知っていること ばで一生懸命伝えようとする姿が見られる。
−児童B
0 ふりかえり
F
同じ国の人でも
B寺闘のイ愛ぃ 1 j b
\''ち ヵ \ " う 人 力 γf てくせん
lて ' お t んろいはヒ脅さいまし 7
て。 B奇問郎 、 ち が 、 、 て も L て
lIる こ と が 、 分古川 l d . . ' ' 、朝。\昼 t h 殺かげすて分 q 、るごとが、でさま山
児童Bの振り返りからは,コミュニケーションに対する積極的な姿勢が見られる。 6か国 すべての人に時刻を尋ねることで,それぞれの違いに気付いている。
−児童C
児童Cも児童Aと同様に一生懸命伝えようとしたことが見られる。「ちゃんと英語を話さ ないと伝わらないことが分かりました」という振り返りは,今後の自己のことばに対する内 省の態度につながる。
3.「ことばの力」について
調査1〜3では,「ことばの力」の「②相手を意識してことばを選ぶ力」しか考察が行えな かった。よって「①自分の話すことばを振り返る力」「③選んだことばを適切に使う力」の考 察を行っていきたい。
・「①自分の話すことばを振り返る力」
本実践授業では,「自分の話すことばを振り返る」時間を取ることができなかった。普段生 活している中で,ことばに意識を向けることはあまり多くない。ことばに意識を向けるのは,
伝えたいことが伝えたい相手に伝わらなかったときではないだろうか。無意識に活用してい ることばに意識を向けるためには, 日常生活の中では相手に伝わらない経験をすることが必 要だと考えられる。本実践授業においても,自分の話すことばを振り返ってから,ことばを
選んでいく過程に進んでいったほうが,児童によりことばを意識させたかもしれないロ
.「③選んだことばを適切に使う力」
『選んだことばを適切に使う」場面としては,本実践授業において,コミュニケーション 活動の場面を想定した。ほとんどの児童が積極的に活動をしていたことが,授業者の実感や ワークシートを見てからも把握することができる。そのコミュニケーション場面において,
自分の選んだことばでは相手に伝えたいことが伝わらない経験をした児童も,なかにはいる かもしれない。自分の選んだことばがきちんと伝わった経験,あまり伝わらなかった経験の
どちらも大切であり,この経験こそが次の更なる言語活動へと繋がるものだと考える。
羽おわりに
本実践研究によって明らかになったことを2点述べる。
第 1に,「ことばの力」に関する検証を行えたことである。これまで「ことばのカ」に関す る先行研究では,重要性は言われるものの,実践成果というものがあまりなかったように恩 われる。その点で,本実践研究は「ことばの力」を育むことには至らなかったが,授業実践 を行って,数値を出すという過程を行った数少ないものであると自負している。この実践研 究が 1つの例として,「ことばのカ」についての実践研究が進展していくことを願うロ
第2に,授業前後の検討から,本実践研究において実施した外国語活動の授業は,「コミュ ニケーション志向」を高めるのに資するものであったといえる。それとともに授業を実践し て感じたことは学級経営の大切さである。この授業は,児童の授業への積極的な参加がなけ れば成立しなかった。その点で,学級担任の先生に感謝をするとともに,安心して学べる環 境の大切さを感じた次第である。
本実践研究において「ことばのカ」を育むことはできなかった。しかし,現6年生を5年 生から見ている者としては,確実に「ことばの力」は育まれてきていると感じる。それは,
日頃の文章課題や授業,そして日常の何気ない会話が成長するきっかけになっているのだと 考える。そのどの場面もが児童にとって素晴らしい機会である。今後研究を進めていくこと で,これまで以上に外国語活動が「ことばの力」を育むことができる機会となるようにして いきたい。
引用文献
福田浩子, 2007,ことばの教育をどうする泊ト日本の初等・中等教育における言語意識教育の 必要性一,青山国際コミュニケーション研究, 11, 5
ー
22崎演秀行, 2003,書き手のメタ認知的知識やメタ認知的活動が産出文章に及ぼす影響につい て,日本教育工学会論文誌, 27, 105‑115
寺沢拓敬, 2009,「ことばのちから」というイデオロギー,社会言語学, 9, 43‑61
山田恭子,近藤綾,畠岡優,篠崎祐介,中僚和光, 2010,説明文産出におけるメタ認知的知 識の構造,広島大学心理学研究, 10, 13