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首都大学東京大学院 都市環境科学研究科 都市基盤環境学域

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平成

25

年度(

2013

年度) 修士論文

都市における巨大地震と豪雨による複合災害時の 感染リスクに関する研究

平成 26 年 3 月

首都大学東京大学院 都市環境科学研究科 都市基盤環境学域

12885436 湯浅 信平

(指導教授 河村 明)

(2)

都市における巨大地震と豪雨による複合災害時の感染リスクに関する研究

学修番号 12885436 湯浅 信平 都市基盤環境学域 環境システム分野 指導教授 河村 明

1.はじめに

近年では,首都直下型地震など,新たな巨大地震発生の可能性が高まっていることに加え,頻発するゲリラ 豪雨や台風被害も問題となっている.地震豪雨複合災害が発生した場合,雨水・下水道管路からの生下水や避難 所の仮設トイレ内の汚物が流出しやすくなり,病原感染リスクは著しく増大すると予想される.

そこで本研究では,東京都内の代表的な都市河川である神田川の上流域を対象として,まず,東京都の雨水・

下水道管路の設計降雨である

60

分あたり最大

50 mm

の降雨に対し,雨水・下水道管路の破断を考慮した,地震 豪雨複合災害時における流出氾濫解析を行った.そして,生下水の流出および仮設トイレからの屎尿漏出によ り発生する,ノロウイルスおよびコレラ菌の病原感染リスクの定量的な評価を試み,その考察を行った.

2.TSR モデルを用いた地震豪雨複合災害時の流出氾濫解析

本研究では,東京都内の代表的な都市河川である神田川の上流域(流域面積

11.5 km

2,流路延長

9 km)を対

象流域として設定した.巨大地震発生時には,雨水・下水道管路が破断すると予想されるため,神田川上流域に おける液状化分布を特定し,その領域内の雨水・下水道管路が地震により破断するものとして設定した.図-1 設定した雨水・下水道管路の破断箇所を示す.なお,本研究室で開発した都市流域における洪水流出および浸水 過程の解析モデルである

TSR(Tokyo Storm Runoff)モデルを用いることで,雨水・下水道管路の破断を考慮

した浸水解析が可能となっている.本研究では,東京都の雨水・下水道管路の設計降雨である

60

分あたり最大

50 mm

の降雨(総雨量

96mm,降雨継続時間 3

時間)を対象として,地震による雨水・下水道管路の破断が有

る場合と無い場合の双方での流出氾濫解析を行った.その結果得られた流域上の最大浸水深を図-2 に示す.破 断有のマップ(図-2

b)

)では破断無のマップ(図-2

a)

)に比べ広範囲で浸水が発生し,浸水深も上昇する傾向に あることが分かる.

3.地震豪雨複合災害時の病原感染リスク評価 (1) 対象病原微生物の同定と用量・反応解析

本研究では腸管系の病原微生物に着目し,日本での感染症発生事例の非常に多いノロウイルスおよび,日本 での感染事例は少ないが,感染力が強くハイチなどで地震後に感染拡大が確認されているコレラ菌の

2

つを対 象病原微生物として設定した.

病原微生物の曝露量をリスクに変換する用量・反応解析において複数のモデルが提案されている1).本研究に おいてノロウイルスおよびコレラ菌の病原感染リスク評価に使

用した用量・反応モデルを式

(1)

および式

(2)

に示す.この容量・反 応モデルを用いることで,摂取した病原微生物の個数に対する 病原感染リスクの算出が可能となる.

・ベータモデル(コレラ菌)

P (D) = 1 -[ 1 + ( D / β )

- α

(1)

・指数モデル(ノロウイルス)

P (D) = 1 - exp ( - γD ) (2)

ここで,

P (D)

1

回の曝露による感染リスク,

D

:摂取量(個)

α (=0.164), β (=0.149), γ (=0.0069):モデルパラメータ.

(2) 地震豪雨複合災害時における生下水流出による 病原感染リスク

ここでは巨大地震と豪雨が同時発生する状況を想定し,豪雨 により生下水が流出し,誤って氾濫水を摂取してしまった場合 のノロウイルスおよびコレラ菌の病原感染リスクを評価した.

前述の流出氾濫解析により,図-2に示す最大浸水深が得られて いる.東京都は,合流式下水道を採用しているため,氾濫水は 雨水および下水の混合物であると考えられ,それを誤ってヒト

図-1 設定した雨水・下水道管路の破断箇所

a)破断無

b)破断有

図-2 最大浸水深

下水道管路破断箇所 その他

50 - 100 (mm) 100 - 200 200 - 300 300 - 400 400 -

(3)

が摂取した場合,下水中に含まれる病原微生物により病原感染リ スクが生じる.本研究では,浸水深と氾濫水の摂取量の関係とし ては以下の式(3)に示す飽和曲線で表されると仮定した.

y = A Tanh ( x / b ) (3)

ここで,

y

:摂取量(mL),

x

:浸水深(mm),

A ( = 200 ) , b (≓ 1028 ):

パラメータ.この曲線は

( x , y )=(0,0),(1000,150)

を通り,飽和値が

200 mL

の飽和曲線である.雨水による下水の希釈を

100

倍と仮定

して,図-2に示す最大浸水深に対し,ノロウイルスおよびコレラ 菌の病原感染リスクを算出した.そして,雨水・下水道管路の破断 の有無により,病原感染リスクがどの程度増減するのかを把握す るために,対数をとった病原感染リスクの差を図-3に示す.ノロ ウイルス(図-3a))・コレラ菌(図-3b))ともに広範囲で

0.1~1

目立ち,次いで

1

以上の地域も点在していることから,地震によ る雨水・下水道管路の破断が存在する場合には,広域において

1.2~10

倍程度病原感染リスクが上昇する地域が多く,また,

10

以上病原感染リスクが上昇する地域も存在することが分かった.

(3) 地震豪雨複合災害時における都市避難所の 病原感染リスク

ここでは巨大地震発生後の避難所生活時に豪雨が発生する状況 を想定し,氾濫水により避難所の屋外に設置されている仮設トイ レから屎尿が漏出し,誤って氾濫水を摂取してしまった場合のノ ロウイルスおよびコレラ菌の病原感染リスクを評価した.本研究 では,ノロウイルスおよびコレラ菌の日本の年間感染者数などを もとに,避難所に存在するノロウイルスおよびコレラ菌の総量を 推定した.そして,避難所の浸水深が一般的な仮設トイレの便槽 の高さである

350mm

以上となった場合に屎尿の漏出が開始する ものと考え,避難所の浸水深と屎尿漏出率の関係としては以下の 式(4)に示す飽和曲線で表されると仮定した.

z = C Tanh ( ( x -350) / d ) (4)

ここで,

z

:漏出率(%),

C ( = 100 ) , d (

≓ 668):パラメータ.こ

の曲線は,(

x , z )=(350,0), (1000,75)を通り,飽和値が 100 %の飽和曲線である.また,浸水深と氾濫水の摂取量

の関係としては,前述した式

(3)

に示す飽和曲線で表されると仮定した.神田川上流域には,災害時に避難生活 をおくる避難所が

17

カ所設定されているが,前述の流出氾濫解析により,最大浸水深が

350 mm

以上となった 避難所は,雨水・下水道管路の破断有の場合に

4

カ所,破断無の場合に

2

カ所となった.本研究ではこれらの該 当する避難所において病原感染リスクの算出を行った.雨水・下水道管路の破断有と破断無の双方で病原感染リ スクが生じる避難所の感染リスク算出結果を一例として図-4 に示す.まず,ノロウイルスの感染リスク(図 -4a),b))から見ると,破断有の場合,ほぼ全域で感染リスクが

0.5

を超える非常に高い値となっている.破断無 の場合,感染リスクは幾分低下するが,こちらも高い値となっている.次に,コレラ菌の感染リスク(図-4c),d))

は,ノロウイルスと比較すると全体的にやや低い値とはなっているが,破断有,破断無の場合ともに病原感染 リスクが

0.1

を超える地域が多く見られ,感染症への十分な注意が必要であることが示された.

4.むすび

本研究では,地震豪雨複合災害時における生下水流出および仮設トイレからの屎尿漏出によるノロウイルス およびコレラ菌の定量的な病原感染リスク評価を実施した.その結果,巨大地震により雨水・下水道管路が破断 した場合,破断していない場合と比較して病原感染リスクが上昇する場所が多いこと,また,より広域で病原 感染リスクが生じることが示された.これにより,通常時には衛生状態も良く機能性の高い都市部でも,地震 豪雨複合災害時においては,病原感染リスクが高まることが定量的に示された.

参考文献

1)

金子光美:水質衛生学,技報堂出版,p.438, 1996.

a)ノロウイルス

b)コレラ菌

図-3 雨水・下水道管路の破断の有無 による

log(感染リスク)の差

a)ノロウイルス b)ノロウイルス c)コレラ菌

(破断有) (破断無) (破断有)

d)コレラ菌(破断無)

図-4 ノロウイルスおよびコレラ菌の 病原感染リスク

建物

病原感染リスク

0.01 - 0.05 0.05 - 0.1 0.1 - 0.5 0.5 - 1

2 ~ 1 ~ 2 0.1 ~ 1 -1 ~ -0.1 -2 ~ -1

~ -2

(4)

i

目 次

第 1 章 序論

1-1 研究の背景と目的

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

1-2 本論文の構成

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

第 2 章 TSR モデルを用いた地震豪雨複合災害時の流出氾濫解析

2-1 TSR

モデルの概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

2-2 対象流域の概要

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

2-3 雨水・下水道管路破断箇所の設定

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

2-4 対象降雨

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

2-5 流出解析結果

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

第 3 章 病原微生物のリスク評価手法

3-1 病原微生物のリスク評価

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27

3-2 用量・反応モデル

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27

第 4 章 地震豪雨複合災害時における生下水流出による病原感染リスク評価

4-1 第 4

章の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33

4-2 対象病原微生物の同定と有害性評価

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33

4-3 用量・反応解析

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35

4-4 曝露評価

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36

4-5 病原感染リスクの算出結果および考察

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38

第 5 章 地震豪雨複合災害時における都市避難所の病原感染リスク評価

5-1 第 5

章の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50

5-2 曝露評価

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

50 5-3 病原感染リスクの算出結果および考察

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

56

第 6 章 結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 60

謝辞

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 61

(5)

第1章

序 論

(6)

- 1 -

第1章 序論

1-1 研究の背景と目的

2011

3

11

日,東北地方太平洋沖において観測史上最大規模の大震災が発生した.被災 地では,下水道管路がダメージを受けて下水が溢れたり,排水ができなくなったためしばら く仮設トイレを使用するなど,衛生状態の悪い中での生活を余儀なくされた.そのような環 境下においては,病原微生物への感染リスクが増大していると考えられ,感染症の発生・流行 を危惧するニュースが日々多く発せられた.震災

3

日後の

3

14

日には,国立感染症研究所 が感染症のリスクアセスメント表を発表した 1) ことからも,巨大地震発生後の感染症発症に 対する危機意識が感じられる.実際に,被災地では香港

A

型インフルエンザウイルス,ノロ ウイルス,ロタウイルス,破傷風菌,レジオネラ菌などの感染拡大が確認された2)

世界の巨大地震の例を見ても,震災後の感染症発生リスクの増加は避けられない事実であ ることが分かる.2004年,スマトラ島沖地震・津波では,その後に麻疹が流行し,破傷風・ツ ツガムシ病・肝炎なども群発した3).また,2010年のハイチ地震では,コレラの大規模感染に より

2013

9

月時点で,約

8300

人以上が死亡し,総感染者数は約

68

万人となっている4) このように,巨大地震発生後における感染症のハイリスクは,看過できない問題である.

被災地では,食料不足や集団生活による疲労,免疫力の低下,衛生状態の悪化などが懸念さ れ,また地震や津波により,通常土中に存在する病原体との接触や,ねずみ,ノミ,ダニ,

ハエ等との接触の可能性が高まること,衛生状態を保つための水が確保できないことなど,

様々な要因が重なり感染症を発症するリスクが増大する.

近年では,首都直下型地震など,新たな巨大地震発生の可能性が高まっていることに加え,

頻発するゲリラ豪雨や台風被害も問題となっている.つまり,巨大地震の発生により都市河 川の破堤や雨水・下水道管路の破壊が生起し,多大な時間を要する復旧時に豪雨・洪水が首都 圏を襲う地震豪雨複合災害発生の可能性は非常に高いと考えられる.その場合,雨水・下水道 管路からの生下水や仮設トイレ内の汚物が流出する可能性が高まり,病原感染リスクも著し く増大すると予想される.さらに,都市部においては人口密度も高いため,ヒトからヒトへ の二次感染のリスクは郊外よりも高くなると考えられる.ひとたび感染症の拡大が始まると,

大規模流行につながる恐れもある.

このように,巨大地震後に豪雨に見舞われる地震豪雨複合災害が発生した場合,通常時に は衛生状態も良く機能性の高い都市部においても,病原感染リスクが高まると考えられる.

洪水氾濫と水系感染症の関係を明らかにしようとする研究はこれまでにも行われている 5),

6), 7) が,それらはアジアの発展途上国を対象に行われたものであり,東京都のように複雑な雨

水・下水道管路網が構築されている先進国の都市域での複合災害時の病原感染リスク評価は 見受けられない.

本研究室では都市流域における洪水流出および浸水過程の解析モデルとして,下水道管路 システムはもちろんのこと道路および河道に加え,街区内に存在する建物,駐車場,緑地な

(7)

- 2 -

どのあらゆる地物から構成される都市流域の構造を忠実に表現可能な地物データ

GIS

を用い た洪水流出モデルとして

TSR(Tokyo Storm Runoff)モデル

8), 9), 10) を構築している.TSRモデル では,直接流出,地表面・氾濫流,河道流および雨水・下水道管路の圧力流に対し,これら全 ての流れを同時に解析することが可能となっている.この

TSR

モデルを用いることで,雨水・

下水道管路の破断を考慮した,精緻な氾濫解析が可能となっている.

そこで本研究では,東京都内の代表的な都市河川である神田川の上流域を対象として,ま ず,この

TSR

モデルを用いて,東京都の雨水・下水道管路の設計降雨である

60

分あたり最大

50 mm

の降雨に対し,雨水・下水道管路の破断を考慮した,地震豪雨複合災害時における流出

氾濫解析を行った.そして,地震豪雨複合災害時における生下水の流出および仮設トイレか らの屎尿漏出により発生する,病原感染リスクの定量的な評価を試み,その考察を行った.

病原感染リスクは流域上に空間分布として表現し,可視化を試みた.さらに,雨水・下水道管 路の破断の有無による病原感染リスクの増減についても,同様に空間的分布として表現し,

可視化を試みた.

(8)

- 3 -

1-2 本論文の構成

第1章は序論であり,本研究の背景と意義および目的について述べるとともに,本論文の 構成を示した.

第2章では,地震豪雨複合災害時の流出氾濫解析について述べた.本研究では,神田川上 流域における液状化分布を特定し,巨大地震発生時に液状化の被害を受けると予想される領 域内に存在する雨水・下水道管路が地震により破断するものとして設定し,雨水・下水道管路 の破断が有る場合と無い場合の双方での流出氾濫解析を行った.なお,東京都の雨水・下水道 管路の設計降雨である

60

分あたり最大

50mm

の仮想降雨を対象とした.

第3章では,従来より確立されている病原微生物のリスク評価手法について説明した.リ スク評価の手順として有害性評価,用量・反応解析,曝露評価,リスクの記述の

4

つが挙げら れている.本研究では,第 3 章で紹介する病原微生物のリスク評価手法を地震豪雨複合災害 時に適用し,病原感染リスク評価を試みた.

第4章では,巨大地震と豪雨が同時に発生する状況を想定し,豪雨により生下水が流出し,

誤って氾濫水を摂取してしまった場合のノロウイルスおよびコレラ菌の病原感染リスクを評 価した.

第5章では,巨大地震発生後の避難所生活時に豪雨が発生する状況を想定し,氾濫水によ り避難所の屋外に設置されている仮設トイレから屎尿が漏出し,誤って氾濫水を摂取してし まった場合のノロウイルスおよびコレラ菌の病原感染リスクを評価した.

第6章は結論であり,本研究で得られた知見をまとめ,総括を述べた.

(9)

- 4 -

第1章 参考文献

1)

国立感染症研究所,感染症情報センター:東日本大震災,

3

14

日リスクアセスメン表,

http://idsc.nih.go.jp/earthquake2011/RiskAssessment/risukuhyouPDF/20110314hyou.pdf

(参照:

2011/09/20).

2)

国立感染症研究所 感染症情報センター:東日本大震災における感染症の発生および対 策について,

http://idsc.nih.go.jp/iasr/32/32s/mp32s1.html(参照:2012/11/17).

3)

國井修:災害地における感染症対策-スマトラ島沖地震 ・津波に対する対策と課題

http://www.koshu-eisei.net/saigai/kunii/kunii3.pdf(参照:2011/10/27).

4)

厚生労働省検疫所:中米でのコレラの流行状況について(更新

5)

http://www.forth.go.jp/topics/2013/09271306.html(参照:2013/12/18)

5) So Kazama, Toshiki Aizawa, Toru Watanabe, Priyantha Ranjan, Luminda Gunawardhana and Ayako Amano : A quantitative risk assessment of waterborne infectious disease in the inundation area of a tropical monsoon region, Sustainability Science, Vol.7, No.1, pp.45-54, 2012.

6)

天野文子,佐久間太佑,風間聡:水理氾濫モデルと現地患者数を用いた水系感染症リス クの時空間分布,水工学論文集,第

55

巻,pp.S643-S648, 2011.

7)

佐久間太佑,風間聡:水理氾濫モデルと現地患者数を用いた水系感染症リスクの定量化,

水工学論文集,第

54

巻,pp.457-462, 2010.

8)

天口英雄,河村明,高崎忠勝:地物データ

GIS

を用いた新たな地物指向分布型都市洪水 流出解析モデルの提案,土木学会論文集

B,Vol;.63, No.3, pp.206-223, 2007.

9)

天口英雄,河村明,高崎忠勝,中川直子:個別の地物情報を考慮した密集市街地におけ

Tokyo Storm Runoff Model

の提案,水工学論文集,第

55

巻,pp.S517-S522,2011.

10) Amaguchi H, Kawamura A, Olsson J and Takasaki T : Development and testing of a distributed

urban storm runoff event model with a vector-based catchment delineation, Journal of Hydrology,

No.420-421, pp.205-215, 2012.

(10)

第2章

TSR モデルを用いた地震豪雨複合災害時の

流出氾濫解析

(11)

- 5 -

第2章 TSR モデルを用いた地震豪雨複合災害時の流出氾濫解析

2-1 TSR モデルの概要

近年,GIS の技術的進歩や

GIS

データ整備が一層進み,都市流域では道路ネットワーク,

街区データなどのデジタル情報が容易に入手できるようになった.さらに,東京都などにお いては,グリッド形状のラスター型土地利用情報だけでなく,建物や道路などの地物を的確 に表現出来る多角形(ポリゴン形状)のベクター型を用いた地物データの作成が行われてお り,今後各都市において,このような基礎的地物データ

GIS

の普及が進展するものと考えら れる.これまで,都市流域は自然要素だけでなく多くの人工的要素を含むため詳細な空間情 報の記述が容易ではなかったが,これらの地物データを忠実に表現可能なベクター型土地利 用情報を用いることで,特定の建物,道路といった詳細な空間情報を抽出することが可能と なった.しかし,現在利用可能な基礎的地物データ

GIS

には,直接流出量の算定に必要な浸 透特性に基づいた林地,緑地,グラウンドおよび畑地などの土地利用種別の情報が含まれて いない.また,この基礎的地物データ

GIS

から取得することが可能な道路は,建物とは異な り個々に識別可能ではなく,連続した形状となっているため,洪水流出解析モデルへの適用 には解析用の地物要素へ分割する作業を行わなければならない.このように,基礎的地物デ ータ

GIS

に様々な手を加えることで,図 2-1に示すような洪水流出解析モデルに適用可能な 高度な地物データ

GIS

を構築する必要がある.この高度な地物データ

GIS

を用いて都市流域 をモデル化することにより,洪水流出に多大な影響を及ぼす不浸透域面積を精度良く算定す ることが可能となり,また街区と道路との,あるいは道路と雨水・下水道管路との接続関係を 忠実に表現することができるようになる.

図 2-1 高度な地物データ

GIS

の例

(12)

- 6 -

本研究室では都市流域における洪水流出および浸水過程の解析モデルとして,下水道管路 システムはもちろんのこと道路および河道に加え,街区内に存在する建物,駐車場,緑地な どのあらゆる地物から構成される都市流域の構造を忠実に表現可能な高度な地物データ

GIS

を用いた洪水流出モデルとして

TSR(Tokyo Storm Runoff)モデル

1), 2), 3) を提案している.TSR モデルでは,直接流出,地表面・氾濫流,河道流および雨水・下水道管路の圧力流に対し,こ れら全ての流れを同時に解析することが可能となっている.TSR モデルは,街区内土地利用 地物要素で生じた直接流出の道路要素への流れは

Kinematic Wave

法を用い,地表面地物要素 の流れ,雨水・下水道管路要素の流れおよび河道地物要素の流れに対しては浸水現象を取り扱 えるように

Dynamic Wave

法を用いた洪水流出モデルとしている.

図 2-2は,本研究で対象とする高度な地物データ

GIS

を用いた低地部都市流域の雨水流出 過程である.流域内への降雨は高度な地物データ

GIS

から作成される街区内地物要素,道路 要素および河道要素の微小要素に対して与えられる.街区内では,地物要素が持つ浸透・不 浸透特性に関する情報を基に,不浸透域の降雨および浸透域の浸透能を超えた雨水を直接流 出として計算し,近傍の微小道路要素への流出量を計算する.微小道路要素の水は,その要 素内にマンホールが存在する場合には雨水・下水道管路に流下し,マンホールが存在しない場 合には道路を流下する.

雨水・下水道管路要素に対しては,まず微小道路要素との流入出量および接続管路からの流入 出量によりマンホール部においてその水位を算出し,次いでマンホール部の水位と管路断面 特性から流量を計算する.この計算過程において,マンホール内の水位が上昇して道路の地 盤高にまで達すると,マンホール内の水は道路要素上に溢水する.溢水した水は,道路を流 下し流下能力に余裕のある雨水・下水道管路の存在する道路要素において再び雨水・下水道 管路に流れ込む.このように,雨水・下水道管路内の水は数々の管路網を合流して最終的に は河道要素に流出し,流域外へと流去する.浸水計算においては,地表面地物要素からの流 出量と雨水・下水道管路からマンホールを介した溢水量により,道路水位が周囲の街区内の地 盤高以上となると水は街区に流出し,道路上の水位が低下すると街区内の水は道路に流出す るとしている.本モデルは洪水流出を対象とするので降雨の直接流出成分のみを取り扱い,

破線で示した地下水から河道要素への長期流出成分については考慮しないこととする.

図 2-3は,TSRモデルの計算フローを示したものである.降雨は高度な地物データ

GIS

して構築した地物要素毎に対して与え,その土地利用種別に基づき直接流出量を算出する.

そして,流出先の道路要素では算出された直接流出量と

Kinematic Wave

モデルを用いて,計 算した隣接する街区内地物要素からの流量を累計する.さらに当該要素内のマンホールを介 して雨水・下水道管路要素へと流出させ,河道要素に至るまで管路内の流量を計算する.河道 要素では,上流からの流入量および雨水・下水道管路からの流入量を合計して河道要素毎の 水位や流量を算出する.また,浸水時の流れに対しては,地表面境界要素を用いて一次元の 不定流計算を行っている.

(13)

- 7 -

        代表的な雨水流出過程         浸水時の流れ

降   雨

街区内地物要素

道 路 要 素

河 道 要 素     雨水・下水道管路要素 直接流出

マンホール

流 域 外 へ 浸透 地下水

図 2-2 地物データ

GIS

を用いた雨水流出過程

(14)

- 8 -

パラメータの設定

土地利用地物要素:初期損失量,初期・終期浸透能、浸透減衰係数、

         等価粗度係数、斜面勾配

雨水・下水道管モデル、河道モデル、地表面地物要素間モデル:粗度係数

降 雨 (DT間隔)の入力

近傍の道路 要素へ流出

道路内マンホ ールへ流出

 DT t t + dt

計算順序

代表的な雨水流出経路 初期値の設定

道路要素、街区要素、雨水・下水道管路要素、河道要素の初期水位

河川の水位、流量の算出 境界条件 土地利用地物要素からの直接流

出量、道路要素、街区要素、雨 水・下水道管路要素水位、下流 端H-Q曲線

状態量 河川水位、河川流量 マンホール水位 雨水・下水道管路の流出量の算出 境界条件 道路要素の流入出量、河川水位 状態量 マンホール水位、雨水・下水道

管路流量

街区要素水位、流入出量を算出 境界条件 街区要素の水位・流入出量、河

川水位

状態量 街区水位、流入出量 道路要素水位、流入出量を算出 境界条件 土地利用地物要素からの直接流

出量、街区要素の水位・流入出 量、河川水位、マンホール水位 状態量 道路水位、流量

土地利用地物要素毎に直接流出高を算出 境界条件 降 雨

状態量 窪地貯留量(浸透域、不浸透 域)、水位、流量

河川へ流出 全土地利用地物要素への降雨入力

計算結果の出力

高度な地物データGISから洪水流出モデルに必要となる情報の抽出 街区内土地利用地物要素:土地利用種別、面積、流出先要素種別、

      流出先要素番号

地表面地物要素:要素種別(街区、道路、河道)、面積、地盤高(街区、道         路)、流出先雨水・下水道管路ノード番号(道路) 地表面接続情報;上下流側要素種別・番号、接続幅、要素間距離 河道断面特性:河道横断情報(高さ方向座標値、横断方向座標値) 雨水・下水道管路ノード:マンホール直径・地盤高、溢水時道路要素番        号、河道接続番号

雨水・下水道管路エッジ:管路直径、管路長、上下流ノード番号

図 2-3

TSR

モデルの計算フロー

(15)

- 9 -

なお,TSR モデルについては東京都の代表的な都市河川である神田川の上流域や,神田川 流域の一部である江古田川流域において洪水氾濫解析を行い,河川流量や浸水被害に関して の検証を行っている1), 2), 3), 4).また,震災時の雨水・下水道管路被害を想定した浸水被害に関 しては,神田川上流域において東海豪雨を想定した検証を行っている5)

(16)

- 10 -

2-2 対象流域の概要

図 2-4 は神田川と本研究で対象とする神田川上流域の概要を示したものである.神田川は

東京都三鷹市の井の頭恩賜公園内の井の頭池に源を発し,隅田川に合流するまでの河川延長

24.6km,流域面積 105km

2の一級河川である.主な支流としては善福寺川,和泉川,桃園川,

妙正寺川,日本橋川などがあり,皇居外堀にも流れ込むようになっている.また神田川は流 域の市街化率が

97%となっており,不浸透地物が多く存在するため,降雨後の雨水は浸透す

ることなく河川へ直接流出する割合が高くなっている.このため,豪雨時には雨水の河川流 入量がピーク時に集中し,氾濫が多く発生する流域となっている.

その中でも本研究の対象流域である神田川上流域は,源流である井の頭池より東京メトロ 丸ノ内線中野富士見町駅付近の善福寺川合流地点までの区間で流路延長は

9km,流域面積は

11.5km

2となっている.流域内の人口は

160

万人を超えており,合流式下水道による下水道整

備は普及率

100 %に達している

6).神田川上流域は平成

17

9

5

日に

1

時間

100 mm

を超 える豪雨により床上,床下浸水するなど都市型水害が発生した流域である.図 2-5 は神田川 上流域高井戸駅付近のあかね橋(図 2-4 の▼)から撮影した河道の写真である.神田川は全 域においてコンクリート三面張りとなっており,対象区間の河幅は

8~10m

で,深さ

4~5m

掘り込み河道となっている.

図 2-4 神田川上流域

(17)

- 11 -

図 2-5 神田川上流域

(東京都杉並区西高井戸

1

丁目 あかね橋より撮影)

(18)

- 12 -

神田川上流域を対象に構築された地物データ

GIS

は,地表面地物要素,マンホール要素,

下水道要素などから構成されている.図 2-6 は対象流域の地表面地物要素を示したものであ り,全地表面要素数は約

105 000

である.図 2-7 は,神田川上流域の地表面地物要素の地盤 高であり,その地盤高は国土地理院発行の

5m

メッシュ標高を用いて設定されている.上流 端から下流端までで,標高はおよそ

60m

から

25mまで低下し,流域の平均勾配はおよそ 1/300

である.

図 2-8 は神田川上流域における雨水・下水道管路要素,マンホール要素である.これらの

データは,神田川上流域の下水道台帳

400

枚程をスキャニングし,位置情報を付加して

GIS

に取り込み,手作業で管路,マンホールの必要な属性情報を一つ一つ下水道台帳から読み取 り手入力することにより作成されたものである.マンホール要素数は

9 638,下水道管路要素

数は

9 909

であり,管路の属性情報としては上下流接続マンホール番号,上下流管底高,管

路長,管路直径,管路間勾配,土被り,またマンホールの属性情報としては地盤高,底高等 が設定されている.

(19)

- 13 -

図 2-6 神田川上流域の地表面地物要素

(20)

- 14 -

図 2-7 神田川上流域地盤高図

(21)

- 15 -

図 2-8 神田川上流域のマンホール要素および雨水・下水道管路要素

(22)

- 16 -

2-3 雨水・下水道管路破断箇所の設定5)

巨大地震発生時には,東日本大震災と同様に雨水・下水道管路の破断が発生すると予想され る.神田川上流域における巨大地震発生時の管路破断箇所について個々に行った調査事例は 存在しないため,本研究では神田川上流域における液状化分布を特定し,その領域内の雨水・

下水道管路が破断するものと仮定した.

東京都防災会議による液状化危険度は

250 m

メッシュ単位でリスク評価が行われており,

神田川上流域においては液状化危険度の高い箇所が数メッシュあるほか,液状化危険度自体 は低いものの,特に重要な構造物に対してより詳細な調査が必要と判定されたメッシュが河 川沿いの低地部に多数存在する.そこで,液状化リスクがある範囲を把握するため,国土地 理院発行の土地条件図7), 8) により,地形分類が低地部の河川を対象にその周辺の盛土地に相当 する部分を下水道管の破断箇所と設定した.図 2-9 は,土地利用要素を用いて抽出した地域 を赤色,それ以外を緑色として示した流域マップである.本研究では,赤色で示した領域に 存在する雨水・下水道管路が地震により全て破断するものと仮定(雨水・下水道管路はないも のと仮定)してシミュレーションを行った.

なお本研究では,

TSR

モデルを用いて,地震被害(雨水・下水道管路の破断)が有る場合と 無い場合の双方での流出解析を実施し,その比較検討を行った.

2-4 対象降雨

本研究では,東京都の雨水・下水道管路の設計降雨である

60

分あたり最大

50 mm

の降雨を 対象とした.この降雨は,降雨継続時間

3

時間の中央集中型降雨で,総雨量は

96 mm

である.

本研究では仮想降雨を対象としているため,流域内で雨量強度の差はなく,流域全体で同じ 強度の雨が降ると仮定して流出氾濫解析を行った.なお,本研究で対象とした仮想降雨はア メダス確率降雨量計算プログラム9) を基に作成した.

図 2-9 設定した雨水・下水道管路破断箇所

雨水・下水道管路破断箇所 その他

(23)

- 17 -

2-5 流出解析結果

まず,神田川上流域最下流端での河川流量の時間変化を図 2-10に示す.破断無と破断有の 河川流量を比較すると,ピーク流量に

20 m

3

/s

以上の差が生じている.破断有の場合,破断無 の河川流量との差分流量は流域上に氾濫していると考えられ,雨水・下水道管路の破断により,

円滑な雨水および下水の排除機能が損なわれたことを示している.また,河川流量は破断無 の場合にやや早くピークが訪れ,少し送れて破断有の場合のピークが訪れている.破断無の 場合には,雨水は速やかに河川まで運ばれるが,破断有の場合には,雨水が河川に流れ込む までに時間がかかることが示されている.また,図 2-10では,破断無の場合の河川流量が破 断有の場合の河川流量を常に上回っているが,300 分あたりから先では破断有と破断無の河 川流量が逆転し,破断有の場合には,降雨がだらだらと長時間河川に流れ込む状況が続くこ とが分かった.

次に,流出氾濫解析により求めた流域上の各地物要素ごとの最大浸水深を図 2-11に示す.

破断有のマップ(図 2-11 a))では破断無のマップ(図 2-11 b))に比べ広範囲で浸水が発生し,

また,浸水深も上昇する傾向にあることが確認できる.図 2-9に示す雨水・下水道管路の破断 箇所だけでなく,流域全体において浸水深が上昇する傾向にあることが分かった.これによ り,雨水・下水道管路に破断を受けると内水氾濫が生じる範囲が拡大し,多くの地域で浸水深 も高くなる傾向にあるという結果が得られた.また,図 2-11 において破断有の浸水深(図 2-11 b))と破断無の浸水深(図 2-11 a))の差をとったマップを図 2-12に示す.この図から も,雨水・下水道管路の破断があることで,流域内広域において最大浸水深が上昇する傾向に あることが分かるが,上流域では,浸水深が大きく低下する場所もあることが分かった.

図 2-10 河川流量の時間変化

(24)

- 18 - a)破断無

b)破断有

図 2-11 各地物要素ごとの最大浸水深

図 2-12 最大浸水深の差

50 - 100 (mm) 100 - 200

200 - 300 300 - 400 400 -

30 -

(mm) 10 - 30

1 - 10

-1 - 1

-10 - -1

-30 - -10

- -30

(25)

- 19 -

次に,最大浸水深ごとの流域に占める面積を示すヒストグラムを図 2-13に示す.図 2-13

b)

は図 2-13 a) のうち,縦軸(面積)が

1km

2以下を拡大したものである.a) を見ると,神田 川上流域の流域面積

11.5 km

2のうち,半分程度の流域は浸水深が

50 mm

以下であることが分 かる.雨水・下水道管路の破断有の場合,最大浸水深が

50 mm

以下の面積が減少し,50 mm 以上の面積が上昇する傾向にあることも分かる.

a)

ではわかりづらいが,

b)

を見ると,最大

浸水深が

800 mm

を超える場所もあることがわかる.

雨水・下水道管路の破断の有無により,各地物要素ごとでどれだけ最大浸水深が変化したの かを把握するために,各地物要素ごとの最大浸水深の差を示すヒストグラム(管路の破断有 の最大浸水深から破断無の最大浸水深を引いたもの)を図 2-14に示す.なお,最大浸水深の 変化が±10 mm以内の場合は,最大浸水深にほぼ変化がないと考え,面積加算から除外して いる.図 2-14を見ると,雨水・下水道管路の破断があることにより,最大浸水深が

10 mm

100 mm

上昇する場所が多いことがわかる.また,あまり面積は大きくないが,管路の破

断があることにより,最大浸水深が破断無の場合より低下する場所もあることが定量的に示 された.

(26)

- 20 -

図 2-13 最大浸水深と面積の関係

a)

b)

(27)

- 21 -

図 2-14 最大浸水深の差と面積の関係

(28)

- 22 -

本研究では,図 2-11に示す時間最大

50 mm

の降雨発生時における最大浸水深に対する病 原感染リスクの算出を試みたが,

TSR

モデルを用いた流出氾濫解析は時間最大

30 mm

の中央 集中型

3

時間降雨(総雨量

58 mm)に対しても行っており,その結果を図 2-15

から図 2-18 に示す.なお,雨水・下水道管路の破断箇所は図 2-9に示す箇所と同様である.

図 2-15を見ると,a) では,ほとんど浸水が見られないが,b) では,広範囲で浸水が発生 することがわかる.東京都の雨水・下水道管路は時間最大

50 mm

の降雨に対応して設計され ているが,管路が破断した場合には,時間最大

30 mm

の降雨であっても浸水深が上昇するこ とがわかった.図 2-16に示す最大浸水深の差や図 2-18に示す最大浸水深の差と面積の関係 は時間最大

50 mm

の場合とほぼ同様の傾向を示していると言えるが,図 2-17に示す最大浸 水深と面積の関係を見ると,時間最大

30 mm

の降雨の場合には,最大浸水深が

5 mm

から

10

mm

の面積が時間最大

50 mm

の降雨の場合の

2

倍以上存在し,管路の破断が存在したとして も,時間最大

50 mm

の降雨(破断無)ほどの浸水深にはならない場所が多いことがわかった.

(29)

- 23 - a)破断無

b)破断有

図 2-15 各地物要素ごとの最大浸水深

図 2-16 最大浸水深の差

50 - 100 (mm) 100 - 200

200 - 300 300 - 400 400 -

30 -

(mm) 10 - 30

1 - 10

-1 - 1

-10 - -1

-30 - -10

- -30

(30)

- 24 -

図 2-17 最大浸水深と面積の関係

a)

b)

(31)

- 25 -

図 2-18 最大浸水深の差と面積の関係

(32)

- 26 -

第2章 参考文献

1)

天口英雄,河村明,高崎忠勝:地物データ

GIS

を用いた新たな地物指向分布型都市洪水 流出解析モデルの提案,土木学会論文集

B,Vol;.63, No.3, pp.206-223, 2007.

2)

天口英雄,河村明,高崎忠勝,中川直子:個別の地物情報を考慮した密集市街地におけ

Tokyo Storm Runoff Model

の提案,水工学論文集,第

55

巻,pp.S517-S522,2011.

3) Amaguchi H, Kawamura A, Olsson J and Takasaki T : Development and testing of a distributed urban storm runoff event model with a vector-based catchment delineation, Journal of Hydrology, No.420-421, pp.205-215, 2012.

4)

湯浅信平,中川直子,河村明,天口英雄:都市中小河川流域を対象とした地震降雨複合 災害時における病原感染リスクに関する基礎的考察,第

40

回土木学会関東支部研究発表 会講演集,CD-ROM版(VII-23),2013.

5)

天口英雄・河村明・中川直子:震災時の雨水・下水道管路被害を想定した浸水リスク評 価,土木学会論文集

B1(水工学) , Vol.69, No.4, pp. I_1609-I_1614,2013.

6)

高崎忠勝,河村明,天口英雄,荒木千博:都市の流出機構を考慮した新たな貯留関数モ デルの提案,土木学会論文集

B,Vol.65, No.3, pp.221,2009.

7)

国土地理院:土地条件図 東京西部,2011.

8)

国土地理院:土地条件図 吉祥寺,2011.

9)

独立行政法人土木研究所 水災害研究グループ 水文チーム:アメダス確率降雨計算プ ログラム,http://www.pwri.go.jp/jpn/seika/amedas/top.htm.

(33)

第3章

病原微生物のリスク評価手法

(34)

- 27 -

第3章 病原微生物のリスク評価手法

3-1 病原微生物のリスク評価1)

リスク評価とはある危険因子(化学物質や病原微生物)に曝露されたヒトや動物が受ける 健康被害の大きさを定量的あるいは定性的に評価することと定義される.リスク評価の手法 は,

1970

年代から

1980

年代にかけて,全米科学アカデミー(National Academy of Science ; NAS)

が中心となって開発された.1983年に米国研究評議会(National Research Council ; NRC)が まとめた報告書では,リスク評価の手順として以下の

4

つを挙げている2)

1) 有害性評価(hazard assessment)

2) 用量・反応解析(dose-response analysis)

3) 曝露評価(exposure assessment)

4) リスクの記述(risk characterization)

有害性評価では,リスク評価の対象である病原微生物について,症状,潜伏期間,継続期 間などの感染症の特徴を記述する.また,想定される汚染源や,主要な感染経路についての 調査を行う.用量・反応解析では摂取した病原微生物の個数と,結果として現れる事象との関 係を定量的に示す.そして,曝露評価では,あるシナリオでの

1

回の曝露により摂取する病 原微生物数を推定する.最後に,曝露評価で得られた病原微生物の摂取量と,用量・反応解析 で作成した用量・反応モデルから,対象病原微生物への曝露により生じる感染リスクを算出し,

記述する.

3-2 用量・反応モデル3)

病原微生物からヒトが受けるリスクには,感染,発症,死亡とそれぞれダメージが異なる レベルがあるので,どのレベルのリスク評価を行うのかを明確にしておく必要がある.多く の場合,実験により科学的に確認しやすいことと,不確実性が小さく数学的な関係式を作成 しやすいことから,感染を終点とするモデルが作成されることが多い 1).ヒトに曝露される 病原微生物の量と,どの程度感染あるいは発症する可能性があるのかの関係を定量的に求め る用量・反応モデルを決定するためには,動物あるいはヒトについてのデータが必要である.

特に腸管系ウイルスについてはヒトによるデータに基づかざるを得ない.多くの場合,用量・

反応のデータは少数の健全なボランティアグループに基づいているので,あるリスクグルー プ,例えば嬰児や高齢者はこのデータに基づいた用量・反応データの予測値よりもリスクが高 いと考えられる.しかし,病原微生物によるリスク評価でどの程度の安全性のマージンを見 込むべきか,現在は明確化していない.さらに,環境中の病原微生物濃度,摂取する水量や 食物量,環境や様々な処理過程での病原微生物量の減衰率等も変動しているため,これに起 因した不確実性を含んでいる.このため,これらの曝露評価においても変動性を考慮した確

(35)

- 28 -

率論的なアプローチを用いる必要がある.

以上を踏まえ,病原微生物の曝露量をリスクに変換するという,リスク評価の中心的なプ ロセスである用量・反応解析において,複数のモデルが提案されている4,5,6).病原微生物のリ スク評価モデルは,安全な曝露レベルがない,つまり感染や症状が現れない用量レベル(閾 値)を想定しない用量・反応の関係に基づき,最終的には対象微生物に対して実験結果に最も よくフィットするものが選ばれる.代表的なモデルは以下の通りである.

(Ⅰ) 指数(exponential)モデル1)

シングルヒットモデルとも呼ばれている.指数モデルは個々の微生物がそれぞれ独立にヒ トの体内での増殖を試みる,すなわち,摂取した微生物がたとえ

1

個であっても感染が成立 するという仮定を置いている.また,個々の微生物のヒトへの感染能力には差がなく,それ ぞれの微生物により感染が成立する確率はすべて一定であるとしている.

以上の

2

つの仮定が成り立つ場合,摂取した微生物数と感染確率との間には次式で表され る関係が成り立つ.

P (D) = 1 - exp ( -γD )

(3-1)

P (D)

:1回の曝露で感染する確率

D

:曝露量(用量)

γ

:パラメータ

(Ⅱ) ベータ分布感染確率(beta)モデル1)

1

個の微生物を摂取することにより感染が成立する可能性があると仮定している点は,先 の指数モデルと同様である.しかし,このモデルでは,個々の微生物がヒトに感染する能力 には差があるという仮定を置いている.この差は,微生物の感染能力に個体差があるか,あ るいは微生物に対するヒトの反応に個人差があることを意味する.ここで,それぞれの微生 物が体内で増殖できる確率がベータ分布に従うと仮定した場合,摂取する微生物数と,感染 が成立する確率には以下の関係が成り立つ.

P (D) = 1 -[ 1 + ( D/β)

(3-2)

P (D)

:1回の曝露で感染する確率

D

:曝露量(用量)

α,β

:パラメータ

(36)

- 29 -

(Ⅲ) 対数正規(lognormal)モデル

対数正規分布モデルはヒトの病原性微生物に対する免疫力には個人差があり,曝露される 病原性微生物量に対して対数正規分布すると仮定したモデルである.

(3-3)

P (D)

:1回の曝露で感染する確率

D

:曝露量(用量)

μ,σ

:パラメータ

(Ⅳ) ロジスティック(logistic)モデル

ロジスティックモデルは,Hald (1952)によって提案され,次のように表現される.

P (D) =

(3-4)

P (D)

:1回の曝露で感染する確率

D

:曝露量(用量)

M,N

:パラメータ

このほか,線形モデルを仮定している場合もある.これらのモデルの選択とパラメータの 決定は,疫学的あるいはボランティアなヒトに対する実験データをもとに,曝露された病原 微生物の用量と被験者の人数に対するそのときに実際に感染した人数の比率のデータが,最 も適合するように決定される.

各種病原微生物に対して推定されている,感染についての用量・反応モデルは,

Haas(ハー

ス)4),Rose(ローズ)ら5),Regli(レグリー)ら6),Haas7) によって表 3-1のように報告 されており,それぞれのパラメータが推定されている.同一の病原微生物でも文献によって パラメータが異なるのは,推定に用いられた感染データが更新されているためと思われる.

このモデルをもとに,いくつかの微生物の用量と反応の関係をグラフ化したものを図 3-1 示す.

これとは別に,Cooper(クーパー)ら 8) は,独自に整理したデータに基づいて,4 つのモ デルのパラメータについて表 3-2のように報告している.

これらのパラメータをもとに作成した赤痢菌とチフス菌の用量と反応の関係を図 3-2,図 3-3 に示す.

(37)

- 30 -

表 3-1 各病原微生物の使用モデルとモデルパラメータ

図 3-1 いくつかの微生物の用量と反応の関係

病原微生物の種類 出典 モデル 備考

α β γ

図3-1の番号

3) beta 15 1000

5) beta 0.5 1.14

6) 指数 0.009102

6) beta 0.1097 1524

4) beta 15 1000

4) beta 0.119 200

6) beta 0.409 0.788

3) beta 0.5 1.14

3) beta 1.3 75

6) beta 0.374 186.69

5) beta 0.232 0.247

6) beta 0.26 0.42

Giardia lamblia 5) 指数 0.0199

Campylobacter 5) beta 0.039 55

Salmonella 5) beta 0.33 139.9

Salmonella typhi 5) beta 0.21 5531

Shigella 5) beta 0.16 155

Shigella dynesteriae 1 3) beta 0.5 100 Shigella fleneti 2A 3) beta 0.2 2000 Vibrio cholera 5) beta 0.097 13020 Vibrio cholera El Tor 5) beta 2.7×10⁻⁵ 1.33

Entamoeba coli 3) beta 0.17 1.32

Entamoeba histolytica 5) beta 13.3 39.7 Rotavirus

モデルパラメータ

Poliovirus 1

Poliovirus 3 Echovirus 12

図 2-5  神田川上流域
図 2-6  神田川上流域の地表面地物要素
図 2-7  神田川上流域地盤高図
図 2-8  神田川上流域のマンホール要素および雨水・下水道管路要素
+7

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