― 93 ― 1. 研究㳊背景㳄目的
近年,急速な経済発展が進行中の中国でも,人 びとの観光経験は増加し,自らの裁量で旅程が決 められる自動車旅行(マイカー旅行,オートバイ 旅行,オートキャンプ旅行など),自転車旅行,
徒歩旅行,ならびに様々なテーマに基づいて行わ れる個人旅行(中国語では “ 自助游 ”,“ 自由行 ” などとも称されている)への転化が著しい.中国 財経報道が 2013 年に実施した調査より,75% が 個人旅行に参加したいと回答している.また,海 外の場合,中国個人旅行発展レポート(2012 − 2013)によれば,中国人海外観光者のうち個人 観光者は 70% を超えている.このように拡大し ている中国人個人旅行市場に対して,日本政府 が中国人に対して個人観光査証を緩和しつつある ほか,地方自治体からも,外国人観光者に対する 査証の見直しについての要望が政府に寄せられ,
訪日中国人の増加や地域経済活性化のみならず,
日中間の相互理解につながることが期待されて いる.そこで,2020 年に中国人の海外渡航者数 1 億人のうちの 6% を誘致目標に掲げている日本 が,適切な観光情報提供やマーケティングを行っ ていくためには,彼らの多様な行動実態や関心の 対象を把握することが喫緊の課題となる.
しかしながら,日本国内における訪日中国人団 体ツアー参加者を対象とした研究が多く,大幅な 増加が見込まれる訪日中国人個人観光者を対象と した研究例は見当たらない.また,既存の統計資 料からも中国人観光者の実態が不足し,その特徴
もまだ明らかにされていない.
以上の背景をふまえ,本研究は,商用・親族友 人訪問・留学などを除いて,観光のみを来訪目的 とし,目的地への訪問前および訪問中に,交通・
宿泊・食事等といった全ての旅程を自らの意思で 旅程を選択・決定できる,香港・マカオを除いた 中国からの観光者を研究対象とし,彼らの日本に おける観光行動の実態を分析しその特徴を明らか にすることを目的とする.
2. 研究㳊方法㳄手続㲩
本研究では,文献研究,統計資料ならびに旅行 記等の内容分析やインタビュー調査を行なった.
旅行記は中国国内最大規模の中国語ネットサイト
「究游网」において,2011 年から 2013 年までの 期間に掲載されていた 100 編の旅行記を分析対象 となった.インタビュー調査は日本において訪日 中国個人観光者,中国以外からの個人観光者など を対象として実施した.これらの調査に基づき,
訪日中国人の観光行動の実態を把握し,その特徴 を考察した.
3. 研究㳊概要
本研究は 6 章で構成されている.
第 1 章では,研究の背景と目的,研究の方法と 手続き,論文の構成について述べた.
第 2 章では,まず,個人旅行に関する文献研究 を整理した結果,中国国内では,自動車旅行を対
訪日中国人個人観光者の観光行動に関する研究
The Study on the Traveling Behavior of Chinese Individual Tourist to Japan
趙 蓮 ZHAO Lian
キーワード:日本,中国人個人観光者, 観光行動
Keywords: Japan, Chinese individual tourist, traveling behavior
立教観光学研究紀要 第 16 号 2014 年 3 月 St. Paul’s Annals of Tourism Research No.15 March ’13 pp.93-94.
修士論文
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St. Paul’s Annals of Tourism Research (SAT) No.16
象としたものが多く,商品開発やバックパッキン グ旅行を扱ったものも増加しつつある.海外では,
バックパッキング旅行と自動車旅行に関する研究 例が多く,特にバックパッキング旅行については 数多くの観点からの研究が蓄積していることがわ かった.次に,辞書や文献等を通じて個人旅行の 概念を整理した結果,中国・日本・欧米のいずれ においても,旅程や行動内容の選択・変更に関す る自由度が高い点は共通しているが,中国では旅 行会社を利用しない(添乗員が同行しない)点が 強調されるのに対し,日本では旅行会社の手配に よるものも含まれる点に違いがある.欧米では,
経済的な宿を求める点や他人と触れ合いが強調さ れていることを指摘した.
第 3 章では,中国人による個人旅行の歴史を遡 り,観光の大衆化過程について考察することで,
将来,中国人の海外への個人旅行が普及・発展し ていくことを指摘した.また,中国人個人観光者 を,「健康・リラックス型」,「知的探求型」,「自 己実現型」三つのタイプに分類することができた.
第 4 章では,まず,訪日中国人旅行者の人数の 推移と,中国人に対する日本の観光ビザ発給の歩 みをふまえて訪日中国人旅行者の動向を分析し た。そのうえ,統計資料より訪日中国人旅行者の 実態を把握し,来日した中国人団体観光者および 個人観光者の特徴を整理した.それをふまえ,彼 らが実際に日本に対してどのような感想をもち,
次回来訪時に何を期待するか等を把握することの 必要性を指摘した.
第 5 章では,旅行記の分析とインタビュー調査 を通じて,観光実態に基づいて訪日中国人個人観 光者の観光行動の特徴を明らかにした.旅行記か ら滞在日数,同行者,消費金額,移動ルートなど の項目より分析した.次に,旅行記より取り上げ た 1 編の事例分析からは,限定された時間内でな るべく多くの観光対象を巡ろうとする行動傾向,
日本の生活文化体験への関心の高さに加え,ホテ ル代や食事代には敏感ながらも日本でしか買えな いものは惜しみなく購入する消費行動が特徴とし て指摘される.そのほか,インタビュー調査から 得た回答を整理した.
4. 結論
訪日中国人個人観光者の典型的な姿として,
「2 〜 4 人」で「1 週間から 2 週間」滞在し,「10,000 〜 20,000 元」を旅行費用として費やし,移動タイプ は「地域型」,「関西−首都圏型」,「広域型」に分 類されることができると考えられる.彼らが日本 を初めて訪れている場合が多く,滞在時間が限ら れていることもあって,「限られた期間内でより 多くの観光地を訪れる」傾向がみられるものの,
将来再び日本を訪れる際には,より広範囲にわた る観光地や都市等を訪れ,より多岐にわたる体験 を希望していることが明らかになった.本研究よ り,将来,より多くの訪日中国人個人観光者を受 け入れるために,以下の 3 点が示唆される.
① “ 選択の自由度 ” 向上の工夫:彼らは日本に 到着した後にも旅程や行動内容を変更する可能性 が存在するため,到着してからオプショナルツ アーを選べることや,自らの好みの内容を組み合 わせることができるダイナミックパッケージ旅行 が,店頭や,特にインターネットを通じて容易に 予約できる工夫をすることが必要である.
②よりきめ細かい情報発信:観光地の紹介だけ ではなく,移動手段から必要とされる時間・料金 などの細かい情報を発信する必要がある.また,
中国人団体観光者にとって人気のある銀座,箱根 などについての情報発信に加え,日本人の普通の 暮らし・生活空間などの情報を発信すれば,日本 や日本人の素顔に関心のある中国人個人観光者に とってより魅力的になると考える.
③簡易宿のさらなる普及:今後,中国人バック パッカーが増えれば,他国からの個人観光者と同 様に,訪日中国人バックパッカーも簡易宿を求め ることが予測される.そのため,廉価で旅行者同 士の触れ合いが容易な簡易宿が全国へと拡大すれ ば,将来,宿泊施設に多様なニーズを抱く中国人 個人観光者を満足しやすいと考える.■