宇治拾遺物語の「けり」のテクスト機能 : 今昔物 語集・古事談との比較
著者 藤井 俊博
雑誌名 同志社国文学
号 76
ページ 63‑77
発行年 2012‑03‑20
権利 同志社大学国文学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013309
宇 治 拾 遺 物 語 の ﹁ け り
﹂ の テ ク ス ト 機 能
今 ︱
昔 物 語 集
・ 古 事 談 と の 比 較
︱
藤 井 俊 博
一 はじ めに 助動 詞﹁ けり
﹂の
﹁枠 づけ
﹂の 機能 につ いて 阪倉 篤義①
が指 摘し て 以来
︑﹁ けり
﹂の 持つ テク スト 機能 は今 日広 く認 めら れて いる と思 われ る︒ この
﹁け り﹂ の﹁ 枠づ け﹂ 機能 の検 討は
︑物 語の 文章 構造 を分 析す る際 に有 効な 観点 であ り︑ 多く の作 品の 分析 を通 じて
︑作 品や 時代 毎の 傾向 を幅 広く 検証 して いく 必要 があ る︒ 筆者 は︑ 前稿②
で今 昔物 語集
︵以 下︑
﹁今 昔﹂ とす る︶ を対 象に
﹁け り﹂ の﹁ 枠づ け﹂ 機能 を検 討し た︒ その 結果
︑﹁ けり
﹂が 始発 機 能と して 冒頭 第一 文の 存在 提示 文に 用い られ
︑ま た終 結機 能と して 事件 の終 局部 や評 語部 の後 日談 に使 用さ れ︑ この 枠に よっ て事 件を 纏め ると とも に︑ 評語 部と 区別 しよ うと して いる と考 えた
︒ 本稿 は前 稿を 受け て︑ 宇治 拾遺 物語
︵以 下﹁ 宇治
﹂と する
︶の
﹁け り﹂ が﹁ 枠づ け﹂ にど のよ うに 関与 して いる かに つい て検 討し てい く︒ 宇治 は︑ 和文 的文 体の 傾向 が強 く︑ 今昔 のよ うな 漢文 訓読 的要 素を 含む 説話 集と は異 なる 特徴 を持 って いる
︒本 稿で は前 稿で の今 昔の 結果 や出 典の 古事 談と 比較 して
︑こ の点 を考 察し てい く︒ なお
︑本 文は 今昔 と宇 治は 岩波 日本 古典 文学 大系 本を 用い
︑古 事 談は 岩波 新日 本古 典文 学大 系本 によ った
︒漢 字は 新字 体に 改め
︑宣 命体 も通 行体 に改 めて 引用 した
︒ 二 宇治 拾遺 物語 にお ける 枠構 造の 検証 まず
︑宇 治の 全 話に つい て︑ 文末 の﹁ けり
﹂︵ 終止 形・ 連体 形︶ 197 の位 置に よっ て話 型を 類別 して みる
︒話 型の 分析 方法 は︑ 今昔 につ いて 論じ た前 稿の 方法 にお おむ ね準 じ︑ 次の よう に冒 頭部
・展 開 部・ 終局 部・ 評語 部に 分け て文 章構 造を 考え るこ とに する
︒ 宇治 拾遺 物語 の﹁ けり
﹂の テク スト 機能
六三
冒頭 部
↓ (冒 頭部 )
展開 部︵ 発端
・発 展)
終局 部
↓
評語 部
↓ (語 り部 )
(評 語部 ) 今昔
の文 章で は︑ 冒頭 部と 語り 部と は︑
﹁而 ル間
﹂な どで 区切 ら れる とい う形 式の 面や
︑﹁ けり
﹂叙 述の 有無 など 文体 の面 で区 分で きる とこ ろに 特徴 があ るの だが
︑宇 治の 文章 では
︑冒 頭部 の段 落が 形式 や文 体の 面で 今昔 ほど 独立 的で はな く︑ 展開 部と 連続 的に なっ てい る傾 向が 強い
︒し かし
︑内 容面 から 主人 公や 事物 の存 在提 示︑ 名前
・氏 素性
・性 質・ 日常 的行 動等 の解 説︑ 事件 に至 るま での 行 動・ 行跡 の叙 述を 冒頭 部と して 扱う こと はな お可 能で ある ため
︑右 の内 容面 から 冒頭 部を 認定 する
︒続 いて
︑中 心的 な事 件と して
︑主 人公 が事 件の 現場 でと る行 動を 継起 的・ 迫真 的に 描く 叙述 を語 り部 とし て捉 え︑ それ をさ らに 展開 部と 終局 部︵ 末尾 の二 文︶ に分 ける
︒ それ に続 く評 語部 は︑ 中心 的な 事件 終了 後の
﹁後 日談
﹂︑ 事件 の内 容の
﹁解 説﹂ や﹁ 批評
﹂︑ 話の
﹁伝 承﹂
︑話 から 得ら れる
﹁教 訓﹂ な ど補 足的 な叙 述を 含む 内容 であ る︒ ただ し︑ 宇治 では 冒頭 部と 展開 部が 連続 した 一文 の例 が多 い︒ 展開 部の 文末 に﹁ けり
﹂が 使わ れて いる 場合 は︑ 冒頭 部と 展開 部の 両方 に﹁ けり
﹂が 使わ れて いる もの とし て扱 う︒ また
︑一 文で 構成 され る話 もあ るが
︑冒 頭部
・展 開 部・ 終局 部・ 評語 部の 要素 に﹁ けり
﹂が 使わ れて いる もの とし て扱
う︵ 第六 一話
︑第 一四 九話
・第 一五
〇話
︶︒ 長文 の引 用部 分を 含む 一文 の第 一二 三話 は︑ 引用 部分 を全 て展 開部 とす る︒ 以上 の内 容に つい て︑
﹁け り﹂ が使 用さ れる 位置 を基 準に 話型 を 分類 する
︒分 類方 法は
︑今 昔を 分析 した 前稿 に準 じて
︑展 開部 の
﹁け り﹂ の有 無を 大き な基 準と し︑ 枠構 造を なす
︵一
︶展 開部 に
﹁け り﹂ を用 いな いも のと
︑︵ 二︶ 展開 部に
﹁け り﹂ を用 いる もの と に分 ける
︒こ の︵ 一︶
︵二
︶の 区分 は︑ 文末 用法 の﹁ けり
﹂を 基準 とし たも ので ある
︵以 下﹁ けり
﹂は 文末 用法 を指 す︶ が︑ 後述 する よう に︑ 宇治 では 今昔 と異 なり 展開 部の 文中 に﹁ けれ
﹂﹁ ける
﹂の 形が 用い られ る点 に特 徴が ある
︵以 下﹁ けれ
﹂﹁ ける
﹂は 文中 用法 を指 す︶
︒そ こで
︑こ こで は文 中用 法を 類別 の基 準か ら外 し︑ 文末 用法 の位 置に よっ て分 類し つつ
︑展 開部 での 文中 用法 を含 む場 合の 例数 は︵
︶内 に分 けて 示す こと にし た︒ した がっ て︑
︵一
︶で の 括弧 内の 数字 は展 開部 に文 中用 法は ある が︑ 文末 用法 がな い場 合を 示す こと にな る︒ なお
︑﹁ けり
﹂の 他に
︑﹁ き﹂ が冒 頭部
・終 局部
・ 評語 部の 枠の 位置 に用 いら れる ため
︑﹁ き﹂ を﹁ けり
﹂に 準じ て集 計し た︒
︵一
︶ 展開 部に
﹁け り﹂ を用 いな いも の
総計
話︵ 話) 27 51 A 冒頭 部と 評語 部に 用い るも の
話
︵ 話) B 冒頭 部と 終局 部に 用い るも の
話
︵ 話) 12
宇治 拾遺 物語 の﹁ けり
﹂の テク スト 機能
六四
C 冒頭 部と 終局 部と 評語 部に 用い るも の
話
︵ 話) 18 D 冒頭 部に のみ 用い るも の
話
︵ 話) E 終局 部に のみ 用い るも の
話︵ 話 ) F 評語 部に のみ 用い るも の
話
︵ 話) G 終局 部と 評語 部に 用い るも の
話
︵ 話)
︵二
︶ 展開 部に
﹁け り﹂ を用 いる もの 総計
話︵ 話) 11 103 H 冒頭 部と 展開 部と 評語 部に 用い るも の
話
︵ 話) I 冒頭 部と 展開 部と 終局 部に 用い るも の
話
︵ 話) 32 J 冒頭 部と 展開 部と 終局 部と 評語 部に 用い るも の 話
︵ 話) 46 K 冒頭 部と 展開 部に 用い るも の
話
︵ 話) L 展開 部と 終局 部に 用い るも の
話
︵ 話) M 展開 部と 評語 部に 用い るも の
話︵ 話 ) N 展開 部と 終局 部と 評語 部に 用い るも の
話
︵ 話) O 展開 部に のみ 用い るも の
話︵ 話)
︵三
︶ 一話 のう ちに
﹁け り﹂ を用 いな いも の 総計
話︵ 話 ) 全般 の傾 向と して は︑
︵一
︶の 中で はC
﹁冒 頭部 と終 局部 と評 語 部﹂ が多 く︑
︵二
︶の 中で はJ
﹁冒 頭部 と展 開部 と終 局部 と評 語部
﹂ が多 い点 など
︑前 稿で 指摘 した 今昔 と共 通し てい る面 が見 られ る︒ しか し︑
︵一
︶︵ 二︶
︵三
︶の 比率 では
︑今 昔の 場合 と比 較し てや や異 なる 点も 認め られ る︒ 今昔 で枠 構造 をな す︵ 一︶ の比 率が 説話
総数 の
%で ある のと 比較 する と︑ 宇治 では
︵一
︶の 比率 は総 数の 50
%で あり
︑枠 構造 をな す話 型が やや 少な い点 が窺 える
︒ 次 40 に︑ 枠構 造を なす
︵一
︶の 場合 を中 心に 考え ると
︑宇 治で はB
﹁冒 頭部 と終 局部
﹂・ C﹁ 冒頭 部と 終局 部と 評語 部﹂ に用 いる 場合 が 特に 多く
︑や はり A・ B・ Cを 中心 に用 いて いた 今昔 と類 似し た傾 向が 窺え る︒ 全体 とし て︵ 一︶ の例 は今 昔よ りも 使用 は少 ない もの の︑ 枠構 造を 作り 出す 機能 を持 った
﹁け り﹂ の使 用は 宇治 にお いて も認 めら れる
︒次 に枠 づけ の典 型と して Aを 挙げ てお く︒
︻冒 頭部
︼内 記上 人寂 心と いふ 人あ りけ り︒ 道心 堅固 の人 也︒
﹁堂 を造 り︑ 塔を 立る
︑最 上の 善根 也﹂ とて
︑勧 進せ られ けり
︒ 材木 をば
︑播 磨の 国に 行て とら れけ り︒
︻語 り部
︼︵ 展開 部︶ こゝ に法 師陰 陽師
︑紙 冠を きて
︑祓 する を みつ けて
︑あ わて て馬 より おり て馳 より て︑
﹁な にわ ざし 給御 坊ぞ
﹂と 問へ ば︑
﹁祓 し候 なり
﹂と いふ
︒﹁ 何し に紙 冠を ばし た るぞ
﹂と 問へ ば︑
﹁祓 戸の 神達 は︑ 法師 をば 忌給 へば
︑祓 する 程︑ しば らく
︑し て侍 也﹂ とい ふに
︑上 人声 をあ げて 大に 泣て
︑ 陰陽 師に とり かゝ れば
︑陰 陽師
︑心 得ず 仰天 して
︑祓 をし さし て︑
﹁是 はい かに
﹂と いふ
︒祓 ひせ さす る人 も︑ あき れて 居た り︒ 上人
︑冠 を取 て引 破て
︑泣 くこ と限 なし
︒﹁ いか にし りて
︑ 御坊 は︑ 仏弟 子と なり て︑ 祓戸 の神 達に くみ 給と いひ て︑ 如來 宇治 拾遺 物語 の﹁ けり
﹂の テク スト 機能
六五
の忌 給事 をや ぶり て︑ しば しも 無間 地獄 の業 をば
︑つ くり 給ぞ
︒ まこ とに 悲し きこ とな り︒ たゞ 寂心 を殺 せ﹂ とい ひて
︑と りつ きて 泣事 おび たゝ し︒ 陰陽 師の いは く︑
﹁仰 らる ゝ事
︑も とも 道理 なり
︒世 の過 がた けれ ば︑ さり とて はと て︑ かく のご とく 仕る 也︒ しか らず は︑ なに わざ をし てか は︑ 妻子 をば やし なひ
︑ 我命 をも 続侍 らん
︒道 心な けれ ば上 人に もな らず
︑法 師の かた ちに 侍れ ど︑ 俗人 のご とく なれ ば︑ 後世 のこ とい かゞ と︑ かな しく 侍れ ど︑ 世の なら ひに て侍 れば
︑か やう に侍 なり
﹂と いふ
︒
︵終 局部
︶上 人の いふ やう
︑﹁ それ はさ もあ れ︒ いか ゞ三 世如 来 の御 首に 冠を ば著 給︒ 不幸 にた へず して
︑か 様の こと し給 はば
︑ 堂作 らん 料に 勧進 しあ つめ たる 物共 を︑ なん ぢに なん 賜ぶ
︒一 人菩 提に すゝ むれ ば︑ 堂寺 造に 勝た る功 徳な り﹂ とい ひて
︑弟 子ど もを つか はし て︑ 材木 とら んと て︑ 勧進 しあ つめ たる 物を
︑ みな はこ びよ せて
︑此 陰陽 師に とら せつ
︒
︻評 語部
︼︵ 後日 談︶ さて わが 身は 京に 上給 にけ り︒
︵一 四〇 話) 右の 例で は︑ 冒頭 部で
﹁あ りけ り﹂
︵人 物存 在提 示︶
︑﹁ 勧進 せら れけ り﹂
﹁と られ けり
﹂︵ 行跡
︶と
︑評 語部 の﹁ 上給 にけ り﹂
︵後 日 談︶ に﹁ けり
﹂が 文末 に用 いら れ枠 構造 を作 って いる
︒以 下︑ 冒頭 部・ 終局 部︑ 評語 部の 各部 の特 徴を 見て おく
︒な お︑ 展開 部の 傾向 につ いて は︑ 文中 の﹁ ける
﹂﹁ けれ
﹂の 使用 を含 めて 次節 で論 じる
︒
冒頭 部で は︑ 右の 例に ある よう に︑ 第一 文に
﹁け り﹂ が用 いら れ る比 率は 高い が︑ 第一 文に 人物 の存 在を 提示 して
﹁け り﹂ によ り話 を開 始す る比 率は 今昔 に比 べや や少 ない よう であ る︒ すな わち
︑宇 治の 第一 文に
﹁け り﹂ が用 いら れた 例数 の総 計は 話で
︑全 話中 118
197 の
%を 占め
︑こ のう ち人 物存 在提 示の 文は
︑﹁ あり けり
﹂︵ 例︶
︑ 60
59
﹁お はし けり
﹂︵ 例
︶︑
﹁お はし まし けり
﹂︵ 例
︶︑
﹁さ ぶら ひけ り﹂
︵ 例︶ の総 計 例が 見ら れた
︒こ れら 人物 存在 提示 の文 は︑ 全 71
197 話の
%︵ 第一 文の
﹁け り﹂ 使用 の総 数 話の
%︶ を占 めて いる
︒ 36
118 60 これ に対 し︑ 今昔 では
︑﹁ あり けり
﹂︵ 例︶
﹁お はし けり
﹂︵ 例︶ 521
21
﹁ま しま しけ り﹂
︵ 例︶ の総 計 例は
︑調 査対 象の 総説 話数
︵ 18
560
1033 話︶ の
%で ある のに 比べ
︑宇 治で の比 率は 低い と言 える
︒ 54 次に
︑全 話の 終局 部の 文末 表現 を︑ 頻度 順に 並べ る︒ 197
「に けり 終止 形﹂
話・
﹁け り終 止形
﹂ 話・
﹁ぬ 終止 形﹂ 43
43
22 話・
﹁け り︵ 係結
︶連 体形
﹂ 話・
﹁て けり 終止 形﹂
話・
﹁動 19
13 詞終 止形
﹂ 話・
﹁け り連 体形
﹂ 話・
﹁形 容詞
﹂ 話・
﹁つ
﹂ 12
10 例
・﹁ けり
︵係 結︶ 已然 形﹂ 話
・﹁ たり けり 連体 形﹂ 話
・
﹁に けり
︵係 結︶ 已然 形﹂ 話
・﹁ たり けり
︵係 結︶ 連体 形﹂ 話・
﹁た りけ り︵ 係結
︶已 然形
﹂ 話・
﹁り けり
﹂ 話・
﹁り け り︵ 係結
︶已 然形
﹂ 話・
﹁り
﹂ 例・
﹁に けり
︵係 結︶ 連体 形﹂ 話・
﹁て けり
︵係 結︶ 連体 形﹂ 話・
﹁な りけ り﹂ 話・
宇治 拾遺 物語 の﹁ けり
﹂の テク スト 機能
六六
﹁た り﹂ 話・
﹁た り︵ 係結
︶已 然形
﹂ 話・
﹁き
︵係 結︶ 已然 形﹂ 話・
﹁う んう ん﹂ 話
「け り﹂ を含 む表 現が
話︵
%︶ にも 上る
︒今 昔で も︑ 冒頭 部 147
75 より も終 局部 の方 に﹁ けり
﹂が 用い られ る傾 向が 強か った よう に︑ 始発 機能 より も終 結機 能が 現れ やす いこ とが 宇治 にお いて も窺 える
︒ 単独 の﹁ けり
﹂の 他﹁ ぬ﹂ も多 く︑ これ を合 わせ た﹁ にけ り﹂ も
﹁け り﹂ 単独 の場 合と 同数 で最 も多 く用 いて いる
︒ま た︑ 語り 手の 立場 から 叙述 を強 調す る表 現で ある 係り 結び の形 が 例︑ 連体 形終 34 止の 形が 例と 多く の例 が見 られ るこ とも 注意 され る︒ 係り 結び の 13 中で もと りわ け強 調的 とさ れる 已然 形に よる
﹁こ そ~ けれ
﹂の 形は
︑ 終局 部 例の 他︑ 評語 部に 例
︵後 日談 例・ 解説 例︶ で︑ 使用 箇所 がほ とん ど終 局部 に偏 って いる
︒ (終 局部
︶⁝
⁝う らう へに 瘤つ きた る翁 にこ そな りた りけ れ︒ (評 語部
︶も のう らや みは せま じき こと なり とか
︒
︵第 三話 ) 終局 部は
︑﹁ にけ り﹂
﹁て けり
﹂﹁ たり けり
﹂の よう な複 合形 式も 多 く︑ 強調 的な 表現 で描 写を 終え よう とす る意 識が ある と考 えら れる
︒ 最後 に評 語部 の﹁ けり
﹂の 使用 を種 類別 に見 てお く︒ 次に 各内 容 毎の 文数 とそ こに 含ま れた
﹁け り﹂ 文の 数を 挙げ た︒ 括弧 内に その うち の係 り結 び︵ 連体 形・ 已然 形︶ と連 体形 終止 の例 数を 示し た︒ 後日 談 文
「け り﹂ 文 例︵ 係結 例 連体 形終 止 例︶ 118
90
28
13
解説
文
「け り﹂ 文 例︵ 係結 例 連体 形終 止 例︶ 119
62
15 批評
文
「け り﹂ 文 例︵ 係結 例 連体 形終 止 例︶ 44
17 伝承
文
「け り﹂ 文 例︵ 係結 例 連体 形終 止 例︶ 21 教訓
文
「け り﹂ 文 例︵ 係結 例 連体 形終 止 例︶ 17 右の
﹁け り﹂ の使 用の 順位 は︑ 前稿 で見 た今 昔の 場合 と全 く同 じ であ り︑ 後日 談・ 解説 を中 心に
﹁け り﹂ 文を 用い てい るこ とが 確認 でき る︒ 評語 部の 係り 結び や連 体形 終止 に注 目す ると
︑係 り結 びの 例と 連体 形終 止の 例の 総数 例は
︑先 の終 局部 の総 数 例と 合 51
29
80
47 わせ て 例に 上る
︒係 り結 びと 連体 形終 止は
︑そ の他 に 例が ある 127
128 が︑ 展開 部よ り冒 頭部 の例 がや や多 く見 られ る︒ 冒頭 部
「け り﹂ 例︵ 係結 例 連体 形終 止 例︶ 75
50
25 展開 部
「け り﹂ 例︵ 係結 例 連体 形終 止 例︶ 53
36
17 展開 部に もあ る程 度用 いて いる が︑ 語り 手の 立場 が現 れや すい 冒頭 部・ 終局 部・ 評語 部︵ 後日 談・ 解説
︶に 用い る例 が多 いと 言え よう
︒ なお
︑﹁ き﹂ が枠 を作 る場 合に つい て述 べて おく
︒文 末の
﹁き
﹂ の例 は宇 治で 例が 見ら れた が︑ 冒頭 部 例︵ うち 第一 文 例︶
︑ 23
14 終局 部 例︑ 評語 部 例︑ 展開 部 例で ある
︒展 開部 の 例は 回想 文や 心話 文の 例外 で︑ それ を除 くと 展開 部に は用 いら れず
︑枠 に関 わる 位置 にの み用 いて いる
︒第 一〇 九話
・第 一一
〇話 では
︑冒 頭部 と評 語部 とで 枠を 造る
︒展 開部 の例 とし た第 一二 三話 も︑ 冒頭 の 宇治 拾遺 物語 の﹁ けり
﹂の テク スト 機能
六七
﹁け るが
~い ふや う﹂ 末尾 の﹁ とか たり 侍り けり
﹂と
﹁け り﹂ で回 想部 分を 括る 一文 によ る説 話で ある が︑ 回想 部分 の内 部は 冒頭 部に
﹁な んい ひし
﹂︑ 展開 部に 現在 形︑ 終局 部に
﹁道 心お こり にき
﹂を 用 いる 枠構 造を とっ てい る︒ 終局 部と した 例︵ 第二 八話
︶は
︑係 り 結び によ る已 然形 であ り︑ 評語 部の 例 も係 り結 びに よる 連体 形も しく は連 体形 終止 であ る︵
﹁語 りし
﹂が 第五 六話
・第 八二 話・ 第一 二二 話︑
﹁聞 きし
﹂が 第一
〇九 話・ 第一 一〇 話︶
︒こ のよ うに
﹁き
﹂ は︑ 使用 位置 や表 現形 式の 点で 枠づ けの 特徴 が明 瞭で ある
︒﹁ き﹂ で一 話の 枠を 造る 例は 観智 院本
﹃三 宝絵
﹄︵ 上︶ に典 型的 に見 られ る他
︑﹁ けり
﹂を 基調 とす る今 昔や
﹃落 窪物 語﹄
﹃法 華百 座聞 書抄
﹄ の冒 頭部 に︵ 今昔 では 終局 部・ 評語 部に も︶ 用い て③
おり
︑﹁ き﹂ の 枠は 一定 の広 がり を持 つ︒
﹁け り﹂ でな く﹁ き﹂ をと る場 合に は︑ 助動 詞の 意味 自体 にも 違い が生 じる であ ろう が︑ 話の 始発 や終 結を 印象 づけ る効 果が ある と思 われ る︒ 三 今昔 物語 集と の比 較 前節 で述 べた よう に︑ 宇治 では
︵二
︶は もと より
︵一
︶で あっ て も︑ 展開 部の 文中 に﹁ けれ
﹂﹁ ける
﹂を 用い る例 が多 く︑ 厳密 には 枠構 造が 成立 して いる と言 えな い場 合が 多い
︒文 中用 法を 含む 例は
︑
︵一
︶の 中で も 話・
%を 占め
︑文 章構 造の 面で 大き な特 徴と な 52 66
って いる
︒本 節で は︑ この 点を 今昔 の叙 述と 比較 して おき たい
︒ 次に 宇治 でも 今昔 でも Cに なる 例で
︑展 開部 に﹁ けれ
﹂﹁ ける
﹂ を用 いた 例を 挙げ る︵
線は 共通 箇所 の﹁ けり
﹂︑ 線は 独自 箇 所の
﹁け り﹂
︑ 線は 対応 箇所 の﹁ けり
﹂と
﹁非 けり
﹂を 示す
︶︒
〇
︻冒 頭部
︼昔
︑愛 宕の 山に
︑ひ さし くお こな ふ聖 有け り︒ とし 比行 て︑ 坊を いづ る事 なし
︒西 の方 に猟 師あ り︒ 此聖 を貴 て︑ つね には まう でて
︑物 たて まつ りな どし けり
︒
︻語 り部
︼ひ さし く参 らざ りけ れば
︑餌 袋に 干飯 など 入て
︑ま うで たり
︒聖
︑悦 て︑ 日比 のお ぼつ かな さな どの たま ふ︒ その 中に
︑ゐ より ての たま ふや うは
︑﹁ 此ほ ど︑ いみ じく 貴き 事あ り︒ 此年 比︑ 他念 なく 経を たも ち奉 りて ある しる しや らん
︑こ の夜 比︑ 普賢 菩薩
︑象 にの りて みえ 給︒ こよ ひと どま りて 拝み 給へ
﹂と いひ けれ ば︑ この 猟師
︑﹁ よに 貴き こと にこ そ候 なれ
︒ さら ば︑ とま りて 拝奉 らん
﹂と て︑ とゞ まり ぬ︒ さて
︑聖 のつ かふ 童の ある に問 ふ︒
﹁聖 のた まふ やう
︑い か なる 事ぞ や︒ おの れも
︑此 仏を ば拝 み参 らせ たり や﹂ と問 へば
︑ 童は
﹁五 六度 ぞみ 奉り て候
﹂と いふ に︑ 猟師
﹁我 も見 奉る こと もや ある
﹂と て︑ 聖の うし ろに
︑い ねも せず して おき ゐた り︒ 九月 廿日 のこ とな れば
︑夜 もな がし
︒今 や〳 〵と 待に
︑夜 半過 ぬら んと 思ふ 程に
︑東 の山 の嶺 より
︑月 のい づる やう に見 えて
︑
宇治 拾遺 物語 の﹁ けり
﹂の テク スト 機能
六八
嶺の 嵐も すさ まじ きに
︑こ の坊 のう ち︑ 光さ し入 たる やう にて
︑ あか くな りぬ
︒見 れば
︑普 賢菩 薩︑ 象に 乗て
︑や う〳 〵お はし て︑ 坊の まへ にた ち給 へり
︒ 聖︑ なく なく 拝み て︑
﹁い かに
︑ぬ し殿 は拝 み奉 るや
﹂と い ひけ れば
︑﹁ いか ゞは
︒こ の童 も拝 み奉 る︒ おい おい
︑い みじ う貴 し﹂ とて
︑猟 師思 ふや う︑ 聖は
︑年 比経 をも たも ち︑ 読給 へば こそ
︑其 目ば かり に見 え給 はめ
︑此 童︑ 我身 など は︑ 経の むき たる かた も知 らぬ に︑ みえ 給へ るは
︑心 は得 られ ぬこ と也 と︑ 心の うち にお もひ て︑ 此事 試み てん
︒こ れ︑ 罪う べき こと にあ らず と思 ひて
︑と がり 矢を
︑弓 につ がひ て︑ 聖の 拝み 入た るう へよ り︑ さし こし て︑ 弓を つよ く引 て︑ ひや うと 射た りけ れば
︑御 胸の 程に あた るや うに て︑ 火を 打消 つご とく にて
︑光 もう せぬ
︒谷 へと ゞろ めき て︑ 逃行 音す
︒ 聖︑
﹁是 はい かに し給 へる ぞ﹂ とい ひて
︑な きま どふ 事限 な し︒ 男申 ける は︑
﹁聖 の目 にこ そみ え給 はめ
︒わ が罪 ふか き者 の目 にみ え給 へば
︑試 奉ら むと 思て 射つ る也
︒実 の仏 なら ば︑ よも 矢い 立ち 給は じ︒ され ば︑ あや しき 物な り﹂ とい ひけ り︒ 夜明 て︑ 血を とめ て行 て見 けれ ば︑ 一町 斗行 て︑ 谷の 底に
︑大 なる 狸︑ 胸よ りと がり 矢を 射通 され て︑ 死し てふ せり けり
︒
︻評 語部
︼聖 なれ ど︑ 無智 なれ ば︑ かや うに ばか され ける 也︒
獵師 なれ ども
︑お もん ぱか りあ りけ れば
︑た ぬき を射 害︑ 其ば けを あら はし ける 也︒
︵一
〇四 話)
〇
︻冒 頭部
︼今 昔︑ 愛宕 護ノ 山ニ 久ク 行フ 持経 者ノ 聖人 有ケ リ︒ 年来
︑法 花経 ヲ持 奉テ 他ノ 念无 シテ 坊ノ 外ニ 出事 无ケ リ︑ 智恵 无シ テ法 文ヲ 不学 ケリ
︒ 而ニ
︑其 山ノ 西ノ 方ニ 一人 ノ猟 師有 ケリ
︑鹿
・猪 ヲ射 殺ス ヲ 以役 トセ リ︒ 然ド モ︑ 此ノ 猟師
︑此 ノ聖 人ヲ ナム 懃ニ 貴ビ テ︑ 常ニ 自モ 来リ
︑折 節ニ ハ可 然物 ヲ志 ケル
︒
︻語 り部
︼而 ル間
︑猟 師︑ 久ク 此ノ 聖人 ノ許 ニ不 詣ザ リケ レバ
︑ 餌袋 ニ可 然菓 子ナ ド︑ 入テ
︑持 詣タ リ︒ 聖人 喜テ 日来 ノ不 審キ 事共 ド云 ニ︑ 聖人 居寄 テ︑ 猟師 ニ云 ク︑
﹁近 来︑ 極テ 貴キ 事ナ ム侍 ル︒ 我レ
︑年 来︑ 他ノ 念无 ク︑ 法花 経ヲ 持チ 奉テ 有ル 験ニ ヤ有 ラム
︑近 来︑ 夜々
︑普 賢ナ ム現 ムジ 給フ
︒然 レバ
︑今 夜ヒ 留テ 礼ミ 奉リ 給ヘ
﹂ト
︒猟 師︑
﹁極 テ貴 キ事 ニコ ソ候 ナレ
︒然 ラバ
︑留 テ礼 ミ奉 ラム
﹂ト 云テ
︑留 ヌ︒ 而ル 間︑ 聖人 ノ弟 子ニ 幼キ 童有 リ︒ 此ノ 猟師
︑童 ニ問 テ云
︑
﹁聖 人ノ
︑﹃ 普賢 ノ現 ムジ 給フ
﹄ト 宣フ ハ︒ 汝モ ヤ其 普賢 ヲバ 見 奉ル
﹂ト
︒童
︑﹁ 然カ
︑五 六度 許ハ 見奉 タリ
﹂ト 荅︒ 猟師 ノ思 ハク
︑﹁ 然バ 我モ 見奉 ル様 モ有 ナム
﹂ト 思テ
︑猟 師︑ 聖人 ノ後 ニ不 寝ズ シテ 居タ リ︒ 九月 廾日 余り ノ事 ナレ バ︑ 夜尤 モ長 シ︒ 宇治 拾遺 物語 の﹁ けり
﹂の テク スト 機能
六九
今ヤ 〳〵 ト待 テ居 タル ニ︑ 夜中 ハ過 ヤシ ヌラ ムト 思フ 程ニ
︑東 峯ノ 方ヨ リ︑ 月ノ 初メ テ出 ガ如 テ︑ 白ミ 明ル
︑峯 ノ嵐 ノ風 吹掃 フ様 ニシ テ︑ 此坊 ノ内 モ︑ 月ノ 光ノ 指入 タル 様ニ 明ク 成ヌ
︒見 レバ
︑白 キ色 ノ菩 薩︑ 白象 ニ乗 テ︑ 漸下 リ御 マス
︒其 有様
︑実 ニ哀 レニ 貴シ
︒菩 薩来 テ︑ 房ニ 向タ ル所 ニ近 ク立 給ヘ リ︒ 聖人
︑泣 々礼 拝恭 敬シ テ︑ 後ニ 有猟 師ニ 云ク
︑﹁ 何ゾ
︑主 ハ 礼ミ 奉給 ヤ﹂ ト猟 師︑
﹁極 テ貴 ク礼 ミ奉 ル﹂ ト荅 テ︑ 心ノ 内ニ 思ハ ク︑
﹁聖 人ノ
︑年 来法 花経 ヲ持 チ奉 リ給 ハム 目ニ 見エ 給ハ ムハ
︑尤 可然 シ︒ 此童
・我 ガ身 ナド ハ︑ 経ヲ モ知 リ不 奉ヌ 目︑ 此ク 見エ 給フ ハ︑ 極テ 恠キ 事也
︒此 ヲ試 ミ奉 ラム ニ︑ 信ヲ 発サ ムガ 為ナ レバ
︑更 ニ罪 可得 事ニ モ非
﹂ト 思テ
︑鋭 鴈矢 ヲ弓 ニ番 テ︑ 聖人 ノ礼 ミ入 テ︑ 低シ 臥タ ル上 ヨリ 差シ 越シ テ︑ 弓ヲ 強ク 引テ 射タ レバ
︑菩 薩ノ 御胸 ニ當 ル様 ニシ テ︑ 火ヲ 打消 ツ様 ニ光 モ失 ヌ︒ 谷サ マニ 動テ 迯ヌ ル音 ス︒ 其時 ニ聖 人︑
﹁此 ハ何 ニシ 給ヒ ツル 事ゾ
﹂ト 云テ
︑呼 バヒ 泣 キ迷 フ事 无限 シ︒ 猟師 云ク
︑﹁ 穴鎌 給ヘ
︒心 モ不 得ズ 恠思 ヱツ レバ
︑試 ムト 思テ 射ツ ル也
︒更 ニ罪 不得 給ハ ジ﹂ ト懃 ニ誘 ヘ︑ 云ヒ ケレ バ︑ 聖人 ノ悲 ビ不 止ズ
︒夜 明テ 後︑ 菩薩 ノ立 給ヘ ル所 ヲ行 テ見 レバ
︑血 多流 タリ
︒其 血ヲ 尋テ 行テ 見バ
︑一 町計 下テ
︑ 谷底 ニ大 ナル 野猪 ノ︑ 胸ヨ リ鋭 鴈矢 ヲ背 ニ射 通シ テ死 ニ臥 セリ
ケリ
︒聖 人︑ 此ヲ 見テ
︑悲 ビノ 心醒 ニケ リ︒
︻評 語部
︼然 レバ
︑聖 人也 ト云 ドモ
︑智 恵无 キ者 ハ︑ 此ク 被謀 ル也
︒役 ト罪 ヲ造 ル猟 師也 ト云 ヘド モ︑ 思慮 有レ バ︑ 此ク 野猪 ヲモ 射顕 ハス 也ケ リ︒ 此様 ノ獣 ハ︑ 此ク 人ヲ 謀ラ ムト 為ル 也︒ 然ル 程ニ
︑此 ク命 ヲ 亡ス
︑益 无キ 事也 トナ ム語 リ伝 ヘタ ルト ヤ︒ (巻 二十 ノ十 三) 両話 の﹁ けり
﹂の 使用 箇所 を対 比す ると
︑冒 頭部
・展 開部
・終 局 部・ 評語 部に 共通 部分 があ る︒ また
︑語 り部 第二 段落 の菩 薩の 登場 場面 を﹁ けり
﹂を 用い ず迫 真的 描写 にし てい る点 も両 話に 共通 する
︒ 相違 点は
︑今 昔の 冒頭 部に 例
︑終 局部 に 例﹁ けり
﹂を 付加 増補 した 箇所 が見 られ る点 で︑ 特に 終局 部の
﹁醒 ニケ リ﹂ は結 末を 印象 づけ る効 果を 挙げ てい る︒ この よう に今 昔で は﹁ けり
﹂を 増補 して いる 一方 で︑ 展開 部と 評語 部で は対 応箇 所に
﹁け り﹂ が使 われ ない 部分 もあ る︒
﹁け り﹂
﹁け る﹂
﹁け れ﹂ が文 章全 般に 散在 する 宇治 に 対し て︑ 今昔 の﹁ けり
﹂の 使用 箇所 には 偏り が大 きい ので ある
︒ これ らの 異同 を文 中・ 文末 の別 から 見る と︑ 宇治 では 文末 用法 が 例
︑文 中用 法が 例 で偏 りが ない が︑ 今昔 では 文末 用法 が 例︑ 文中 用法 が 例で
︑文 末用 法に 偏っ てい ると いう 違い があ る︒ すな わち
︑宇 治の 文中 用法 例 のう ち 例は 今昔 でも 対応 する 箇所 で
﹁ケ レ﹂ を使 用し てい るが
︑他 の 例は
﹁非 けり
﹂と なっ てい る︒
宇治 拾遺 物語 の﹁ けり
﹂の テク スト 機能
七〇
84 文中
﹁け るに
」
291 278 文中
﹁け れば
」
︵表
︶ 宇治 拾遺 物語 の文 中﹁ ける
﹂﹁ けれ
﹂と 文末
﹁け り﹂ 文中
の合 計
338
349
文末
﹁け り」
文末
﹁非 けり
」 文中
﹁け れど
」
54
35 64 文中
﹁け る程
」
23
27 14
文中
﹁け るに
」
35 15 文中
﹁け れば
」
︵表 ︶ 今昔
︵巻 二十
︶の 文中
﹁け る﹂
﹁け れ﹂ と文 末﹁ けり
﹂ (表
注) これ らの 表現 は一 文中 に同 時に 用い られ る場 合も ある ため
︑﹁ 文中 の合 計﹂ はこ れら の四 表現 が一 文に いず れか 一つ でも 存在 した 場合 の 文末 別の 数値 であ り︑ 四表 現の 単純 な合 計で はな い︒
文末
﹁け り」
文末
﹁非 けり
」 文中
﹁け れど
」
5
1 19 文中
﹁け る程
」
5
3 文中 の合 計
25
51
文中 用法 につ いて
︑宇 治と 今昔 の異 同の ある 箇所 を列 挙す ると
︑
「⁝ いひ けれ ば⁝
」↓
「⁝ ト︒
⁝﹂
「⁝ いひ けれ ば︑
⁝射 たり けれ ば⁝
」↓
「⁝ ト⁝ 射タ レバ
⁝﹂
「⁝ 申け るは
⁝︵ いひ けり
︶」
↓「
⁝云 ク⁝
︵云 ヒケ レバ
︶⁝
﹂
「⁝ あり けれ ば⁝
」↓
「⁝ 有レ バ⁝
﹂ とな り︑ 今昔 では 文中 の﹁ けり
﹂を 省く 傾向 があ るこ とが わか る︒ 今昔 で文 中に 共通 して
﹁け れ﹂ をと る例 は︑ 次の 部分 が見 られ る︒
「⁝ 参ら ざり けれ ば⁝
」↓
「⁝ 不詣 ザリ ケレ バ⁝
﹂ これ は展 開部 の第 一段 落の 例で あり
︑冒 頭部 の﹁ つね には まう で て﹂ を受 けた 解説 的な 内容 であ るた めの 例外 的な 部分 であ る︒ 右の よう に︑ 文中 用法 の﹁ けれ
﹂﹁ ける
﹂が 多く 使用 され るの は 宇治 の大 きな 傾向 であ る︒ 今昔 では
︑全 体の 五割 を占 める
︵一
︶の 例は
︑展 開部 の文 中用 法を 用い ない で枠 構造 を作 る傾 向が ある が︑ 宇治 では
︑︵ 一︶ にお いて も展 開部 に文 中用 法が 見ら れる 話が 多く を占 める
︒そ れら の話 を除 いた 純粋 な枠 構造 が認 めら れる もの は27 話︵ 全話 の約
%︶ にす ぎず
︑全 体に 占め る比 率は 少な い︒ 14 表
・ は︑ 文中 の﹁ けれ ば﹂
﹁け れど
﹂﹁ ける に﹂
﹁け る程
﹂が 含ま れる 文が
︑文 末に
﹁け り﹂ を用 いて いる か否 かを 宇治 と今 昔巻 二十
︵全 話︶ とで 調査 した もの であ る︒ 今昔 では
︑巻 二十 以前 と 44 以降 とで 文体 が漢 文訓 読調 から 和文 調へ 変異 する とさ れ︑ 巻二 十は 宇治 拾遺 物語 の﹁ けり
﹂の テク スト 機能
七一
その 交錯 点と して
︑今 昔の 中間 的な 傾向 があ る④
︒ これ によ れば
︑宇 治で も今 昔で も同 様の 傾向 が見 られ
︑﹁ けれ
﹂
﹁け る﹂ は文 末が
﹁非 けり
﹂で ある 場合 に多 いこ とが わか る︒ ただ
︑ 話数 が巻 二十 の約 四・ 五倍 にな る宇 治に は︑ その 比率 を大 きく 超え る︵ 九倍 程度
︶文 中用 法の 数が 含ま れて おり
︑使 用比 率が 高い
︒具 体的 な表 現と して は︑ 会話 引用 の表 現に 差が 見ら れる
︒宇 治で は
﹁い ひけ れば
﹂ 例で ある のに 対し て︑ 今昔 巻二 十で は﹁ 云ケ レバ
﹂ 102 例 で大 きな 差が 見ら れる⑤
︒こ れは
︑右 の例 話の よう に︑ 今昔 では 会話 引用 部の 末尾 が﹁ ト︒
﹂と なる 例が 多い ため であ る︒ この よう に︑ 巻二 十に おい ては
︑文 中に
﹁け れ﹂
﹁け る﹂ が用 い られ てい る点 で︑ 宇治 と共 通す る傾 向が 見ら れた
︒と ころ が︑ 今昔 の巻 二十 以降 の諸 巻で はい っそ うこ の傾 向が 強く なり
︑使 用傾 向は 宇治 を上 回っ てく る︒ 今昔 では
︑枠 構造 をな す︵ 一︶ の典 型例 は巻 二十 以前 に多 く見 ら れ︑ 文中 の﹁ けれ ば﹂
﹁け れど
﹂﹁ ける に﹂
﹁け る程
︵時
︶﹂ の用 例自 体が 少な い︒ これ を﹁ ケレ バ﹂ の使 用回 数︵ 会話
・和 歌を 除く
︶に よっ て見 ると
︑天 竺震 旦部 例︑ 本朝 仏法 部 例︑ 本朝 世俗 部 例 92
394
1631 で︑ 一話 当た りの 使用 回数 は各 々︑
〇・ 二六 回︑ 一・
〇一 回︑ 五・ 六二 回と
︑巻 二十 以前 と以 降と では 展開 部に
﹁ケ レバ
﹂が 用い られ る比 率に 大き な差 が見 られ る︒ 宇治 でも
︑本 朝世 俗部 ほど では ない
が﹁ けれ ば﹂ の使 用は 一話 当た り二
・八 八回 と多 く︑
︵一
︶の よう に展 開部 の﹁ 文末
﹂に
﹁け り﹂ を用 いず 枠構 造を とる 場合 でも
︑展 開部 の文 には
﹁け れば
﹂な どの 文中 用法 が多 く用 いら れる
︒ 宇治 では
︑︵ 一︶ にお いて も︵
︶内 に示 した よう に展 開部 に
﹁け れ﹂
﹁け る﹂ を取 る場 合が 数多 く見 られ た︒ この よう な叙 述方 法 に対 して
︑今 昔の 天竺 震旦 部や 本朝 仏法 部で は︑ 終止 用法 の﹁ け り﹂ を冒 頭部 と終 局部
・後 日談 に多 く用 い︑ 展開 部に
﹁け れ﹂
﹁け る﹂ を用 いな い叙 述方 法を 採っ てい る︒ 今昔 の天 竺震 旦部 や本 朝世 俗部 は︑
﹁非 けり
﹂叙 述に よる 迫真 的描 写を 説話 の核 とし つつ それ を解 説叙 述で 囲い 込む 構造 を志 向す る態 度で ある⑥
︒一 方︑ 宇治 で展 開部 に﹁ けれ
﹂﹁ ける
﹂を 用い る傾 向が ある のは
︑説 話の 中心 部分 の描 写ま でを 語り 手が 解説 的に 叙述 しよ うと する 態度 と言 えよ う︒ ただ し︑ 後者 のよ うな 展開 部の 文中 に﹁ ける
﹂﹁ けれ
﹂を 用い る場 合で も︑ 必ず しも 枠づ けを 意識 して いな いと は言 い切 れな い︒ 終止 法の
﹁け り﹂ や係 り結 び・ 連体 形終 止の
﹁け る﹂ は︑ 冒頭 部や 終局 部に 多く 用い る傾 向が 保た れて いる ため であ る︒ 四 古事 談と の比 較
「け り﹂ のテ クス ト機 能で ある 始発 機能 や終 結機 能は
︑一 話や 段 落を 枠づ けて まと める 働き であ り︑ 冒頭 や終 局の 文末 に終 止法
﹁け
宇治 拾遺 物語 の﹁ けり
﹂の テク スト 機能
七二
り﹂ で用 いた 時に 効果 が発 揮さ れる
︒一 方︑
﹁け れ﹂
﹁け る﹂ など の 文中 用法 は︑ 条件 節や 連体 修飾 節を 作る もの であ り︑ 解説 的に 話を 進め ると きに 効果 を発 揮す る用 法で ある
︒筆 者は
︑物 語の
﹁け り﹂ の基 本機 能は
︑語 り手 の場 から 物語 世界 の事 態を 確認 し︑ それ を読 み手
︵聞 き手
︶に 解説 する 機能 であ ると 考え る⑦
︒テ クス ト機 能は
︑ その 機能 を基 本に しな がら
︑文 章中 での 配置 や活 用形 によ って 発揮 され る副 次的 な機 能で ある と考 えら れる
︒ ここ では
︑宇 治の 直接 的な 出典 とさ れる 古事 談の 本文 と比 較し な がら
︑宇 治の 文章 中で の﹁ けり
﹂の 機能 につ いて 検証 して おき たい
︒ 次に
︑岩 波日 本古 典文 学大 系本 で同 文の 度合 いが 強い とさ れる 話14 を対 象と して どの よう な話 型を とっ てい るか 分類 した
︒︿ 展﹀ は︑ 展開 部の 文中 に﹁ ける
﹂﹁ けれ
﹂を とる 場合 を注 記し たも ので ある
︒
︵一
︶ B︵ 一一 五話
︿展
﹀) C︵ 六六 話︿ 展﹀ ) D︵ 六〇 話・ 六三 話・ 六四 話) E︵ 六一 話︿ 展﹀
・六 八話
︿展
﹀・ 一一 六話
︿展
﹀) F︵ 一三 五話
︶
︵二
︶ I︵ 六七 話︿ 展﹀ ) L︵ 九話
︶ N︵ 六五 話︿ 展﹀
・六 九話
︿展
﹀︶
︵三
︶ 四話
︿展
﹀ 古事 談に よる 説話 にも
︵一
︶の 例が 多い が︑ 展開 部の 文中 に﹁ け る﹂
﹁け れ﹂ を用 いる 場合 が多 いこ とが わか る︒ 次例 は︑ D﹁ 冒頭
部に のみ 用い るも の﹂ の例 であ る︒
︿
﹀内 は古 事談 の本 文で ある
︒
︻冒 頭部
︼是 も今 は昔
︑後 朱雀 院︑ 例な らぬ 御事 大事 にお はし まし ける
︿危 急之
〉時
︑後 生の こと
︑お それ おぼ しめ しけ り
︿怖 畏思 食ケ リ〉
︒
︻語 り部
︼そ れに 御夢 に︑ 御堂 入道 殿参 りて 申給 てい はく
︑﹁ 丈 六の 仏を つく れる 人︑ 子孫 にお いて
︑更 に悪 道に おち ず︒ それ がし
︑お ほく の丈 六を 作り 奉れ り︒ 御菩 提に おい て︑ うた がひ おぼ しめ すべ から ず﹂ と︒ 是に より て︑ 明快 座主 にお ほせ あは せら れて
︑丈 六の 仏を つく らる
︒
︻評 語部
︼件 の仏
︑山 の護 仏院 に安 置し 奉ら る︒
︵六 三話 ) 冒頭 部の 後朱 雀院 の状 況説 明の 部分 に﹁ ける
﹂﹁ けり
﹂が ある が︑
﹁お はし まし ける
﹂は 宇治 で﹁ ける
﹂を 加え たも ので ある
︒語 り部 で事 件の 中心 であ る夢 の再 現部 分は
︑会 話に よる 迫真 的描 写で あり 古事 談と 同様
﹁け り﹂ は用 いら れて いな い︒ 評語 部の
﹁安 置し 奉ら る﹂ も︑ 今の 状況 の解 説で ある ため
︑﹁ けり
﹂は 用い られ ない
︒ 次の 例は
︑F
﹁評 語部 にの み用 いる もの
﹂︵ ただ し︑ 文中 では 冒 頭部
︑展 開部 の﹁ ける
﹂が ある
︶の 例で ある
︒
︻冒 頭部
︼こ れも 今は 昔︑ 丹後 守保 昌︑ 国へ くだ りけ る︿ 下向 任国 之〉 時︑ 與佐 の山 に︑ 白髮 の武 士一 騎あ ひた り︒
︻語 り部
︼路 のか たは らな る木 のし たに
︑う ち入 りて 立た りけ 宇治 拾遺 物語 の﹁ けり
﹂の テク スト 機能
七三
る︿ 立タ リケ ル〉 を︑ 国司 の郎 等共
﹁此 翁︑ など 馬よ りお りざ るぞ
︒奇 恠な り︒ とが めお ろす べし
﹂と いふ
︒爰 に国 司の いは く︑
﹁一 人当 千の 馬の 立て やう なり
︒た ゞに はあ らぬ 人ぞ
︒と がむ べか らず
﹂と
︑制 して うち 過ぐ る程 に︑ 三町 ばか り行 て︑ 大矢 の左 衞門 尉致 経︑ 數多 の兵 を具 して あへ り︒ 国司 会釈 する 間︑ 致経 が云
︑﹁ 爰に 老者 一人 合奉 りて 候つ らん
︒致 経が 父︑ 平五 大夫 に候
︒堅 固の 田舍 人に て︑ 子細 をし らず
︒無 礼を 現じ 候つ らん
﹂と いふ
︒
︻評 語部
︼致 経︑ 過て のち
︑﹁ され ばこ そ﹂ とぞ いひ ける とか
︿云 ケリ
〉︒
(一 三五 話) 右の 説話 で 文目 の文 末は
﹁た り﹂ だが
︑文 中を
﹁く だり ける 時﹂ と﹁ ける
﹂を 補い
︑ 文目 の語 り部 の文 にも 古事 談を 踏襲 し文 中に
﹁け る﹂ を用 いて いる
︒こ れら は︑ 会話 部分 に入 る前 の説 明的 な箇 所︵ 行跡 の記 述︶ であ る︒ その 後会 話を 交わ す迫 真的 な部 分で は﹁ けり
﹂を 用い ない が︑ 評語 部の 後日 談の 部分 では
︑古 事談 の
﹁け り﹂ を﹁ ぞい ひけ る﹂ と係 り結 びに 変え て強 調し つつ
︑さ らに 話の 終結 部分 の目 印と なる 伝承 表現
﹁と か﹂ を付 して 話を 終わ って いる こ ︒ れら 話 の場 合は
︑会 話を 中心 とし た部 分を
﹁非 けり
﹂と し︑ それ を囲 む説 明的 な箇 所に
﹁け り﹂ が用 いら れた もの であ る︒ 一方
︑
展開 部に 文中 用法 が多 い︵ 一︶ C﹁ 冒頭 部と 終局 部と 評語 部に 用い るも の﹂
︵文 中で は展 開部 にも
﹁け る﹂
﹁け れ﹂ があ る︶ もあ る︒
︻冒 頭部
︼こ れも 今は 昔︑ 白河 の院
︑御 との ごも りて のち
︑物 にお そは れさ せ給 ひけ る︵ ヲソ ハレ 御坐 ケル 比︶
︒
︻語 り部
︼﹁ しか るべ き武 具を
︑御 枕の 上に 置べ き﹂ と沙 汰あ り て︑ 義家 朝臣 にめ され けれ ば︵ 被召 ケレ バ︶
︑ま ゆみ の黒 ぬり なる を︑ 一張 参ら せた りけ る︵ 一張 進タ リケ ル) を︑ 御枕 にた てら れて 後︑ おそ はれ させ おは しま さざ りけ れ︵ ヲソ ハレ サセ 御坐 サザ リケ レ) ば︑ 御感 あり て︑
﹁こ の弓 は︑ 十二 年の 合戦 のと きや
︑も ちた りし
﹂と 御尋 あり けれ ば︵ 有御 尋之 処︶
︑覚 えざ るよ し申 され けり
︵申 ケレ バ︶
︒
︻評 語部
︼上 皇し きり に御 感有 けり とか
︵有 御感 ケリ
︶︒ (六 六話 ) 古事 談で は一 文の 話で ある が︑ 宇治 では 三文 に分 割さ れる
︒冒 頭文 の文 末は
︑古 事談 の連 体用 法を 連体 形終 止と して 転用 して いる
︒語 り部 では
︑﹁ ける
﹂﹁ けれ
﹂が 多用 され るが
︑宇 治で 付け 加え た﹁ 御 尋あ りけ れば
﹂を 除く と︑ すべ て古 事談 の表 現の 踏襲 であ る︒ 終局 部で は古 事談 の﹁ 申ケ レバ
﹂を
﹁申 され けり
﹂と し終 止形 で閉 じる
︒ 最終 文は 人物 の言 を借 りた
﹁批 評﹂ の評 語部 と考 えら れ︵ 岩波 新日 本古 典文 学大 系本 の段 落分 けを 参照
︶︑ 古事 談の
﹁け り﹂ を踏 襲し
宇治 拾遺 物語 の﹁ けり
﹂の テク スト 機能
七四
つつ
︑﹁ とか
﹂を 付し て話 の終 結を 印象 づけ てい る︒ これ らの 例で は︑ 宇治 で 例ず つ﹁ ける
﹂﹁ けれ
﹂を 補足 した り︑ 出典 の﹁ ける
﹂﹁ けれ
﹂﹁ けり
﹂を その まま 踏襲 する 一方 で︑ 冒頭 部 や評 語部 で係 り結 びや 連体 形終 止に 変更 した り﹁ とか
﹂を 付加 した りす る点 に︑ 枠づ けを 志向 する 部分 も見 られ る︒ とこ ろで
︑右 の第 六三 話・ 第一 三五 話の 宇治 の冒 頭文 では
﹁時
﹂ に係 る部 分に
﹁け る﹂ を補 って いる ので ある が︑ 今昔 では 冒頭 文で 人物 の存 在を 表す とき
﹁有 ケリ
﹂の よう に終 止形 で一 旦文 を切 るの が定 型で ある
︒こ れを
︑一 文目 の初 出用 法が
﹁け る﹂ とな るか
﹁け り﹂ とな るか で見 ると
︑類 話間 で次 のよ うな 形式 の違 いが 見ら れる
︒ 今は 昔︑ 高忠 とい ひけ る越 前守 の時 に⁝
(第 一四 八話 ) 今昔
︑越 前ノ 守藤 原孝 忠ト 云フ 人有 ケリ
︒其 ノ人 ノ任 国ニ 有ケ ル間 ニ⁝
(巻 一九 ノ一 三) 冒頭 部や 終局 部・ 評語 部に 見ら れる 終止 形︑ 係り 結び
︑連 体形 終 止︑
﹁に けり
﹂な ど︑ 文を
﹁切 る﹂ 表現 形式 で用 いる とき に枠 機能 は発 揮さ れや すい
︒一 方︑
﹁続 ける
﹂文 中用 法の 表現 形式 は︑ 冒頭 文に 用い た場 合で も解 説機 能に 傾き やす い︒ 冒頭 文の 初出 用法 の比 較で
︑宇 治で は﹁ ける
﹂が
︑今 昔で は﹁ けり
﹂が 用い られ やす い⑧
こ とは
︑今 昔に 比べ 宇治 が冒 頭部 の枠 づけ 意識 が弱 いこ とを 示し てい るの では ない かと 推測 され る︒
今昔 では
︑冒 頭部 や終 局部 にこ のよ うな
﹁切 る﹂ 用法 の﹁ けり
﹂ を積 極的 に配 し︑ 展開 部の
﹁非 けり
﹂を 囲む 構造 をと ろう とす る態 度が ある
︒宇 治の 例話 でも
︑古 事談 の冒 頭部 や展 開部 に用 いた
﹁け る﹂
﹁け れ﹂ の﹁ 続け る﹂ 用法 を踏 襲・ 増補 する 一方 で︑ 冒頭 部や 終局 部・ 評語 部等 で﹁ 切る
﹂表 現に 改変 する 場合 も見 られ た︒ 右の 第六 六話 など では
︑﹁ ける
﹂﹁ けれ
﹂﹁ けり
﹂が 全体 に多 く︑
﹁け り﹂ によ る枠 づけ は一 見放 棄さ れた 話の よう にも 見え る︒ しか し︑ 古事 談説 話を 三文 に切 って 文末 用法 に用 いた
﹁け る﹂
﹁け り﹂ は︑ 同時 に段 落分 けの 目印 にな って いる とも 評せ る︒ 今昔 ほど 徹底 した 形で は現 れな いに して も︑ 枠づ けの 意識 は潜 在的 には 宇治 撰者 にお いて も認 める こと がで きる ので はあ るま いか
︒ 五 まと め 以上
︑宇 治の
﹁け り﹂ の持 つテ クス ト機 能を 検討 した
︒冒 頭部 の
﹁け り﹂ に始 発機 能が 認め られ る場 合も 見ら れる が︑ 今昔 に比 べる と限 定的 な面 があ った
︒一 方︑ 終局 部・ 評語 部︵ 後日 談・ 解説
︶で は終 止形
﹁け り﹂ の他
︑係 り結 び・ 連体 形終 止・
﹁に けり
﹂な ど︑ 終結 機能 に関 わる 面が 強く 認め られ た︒ この よう な表 現が 多い のは
︑ 文末 を強 く﹁ 切る
﹂こ とに より 事件 の終 結部 分を 強調
・明 確化 する ため の表 現の 工夫 であ ると 思わ れる
︒ 宇治 拾遺 物語 の﹁ けり
﹂の テク スト 機能
七五
これ を文 章構 造の 面か ら見 ると
︑文 末用 法の
﹁け り﹂ によ る分 類 では
︵一
︶の 枠を 造る 話型 も多 く見 られ たが
︑︵ 一︶ であ って も展 開部 に文 中用 法の
﹁け る﹂
﹁け れ﹂ が散 在す ると いう 現象 が見 られ た︒ この ため
︑宇 治に は︑ 今昔 の天 竺震 旦部
・本 朝仏 法部 のよ うに
︑ 冒頭 部や 終局 部の 文に のみ
﹁け り﹂ を使 うよ うな 典型 的な 枠構 造の 例は 少数 しか 見ら れな かっ た︒ 宇治 では
︑冒 頭部 や終 局部 の文 末に
﹁け り﹂ を用 いて 枠づ ける 表現 と︑ 展開 部の 文中 の解 説的 な内 容に
﹁け る﹂
﹁け れ﹂ を使 う表 現と が︑ 一話 の中 で併 存す る場 合が 多い た めで ある
︒し かし
︑﹁ き﹂ が枠 構造 をな す例 がほ とん どで ある こと にも 照ら すと
︑﹁ けり
﹂の 枠づ けの 機能 も潜 在的 には 意識 され てい たと 思わ れる
︒た だ︑ 枠構 造を
﹁け り﹂ の配 置に よっ て意 図的 に作 ろう とす る面 のあ る今 昔に 対し
︑宇 治で は解 説的 な﹁ けり
﹂が 冒頭 部や 終局 部に 集中 し自 ずと 枠が 出来 た場 合も 多い と思 われ る︒ その よう な宇 治の 中に あっ て︑
﹁こ そ~ けれ
﹂の よう に終 局部 に偏 った 表現 が見 られ るこ とは
︑撰 者が 積極 的に 終局 部を 枠づ けよ うと する 意識 を持 って いた こと の証 しと 言え るで あろ う︒ 注
① 阪倉 篤義
﹁竹 取物 語に おけ る文 体の 問題
﹂︵
﹃国 語国 文﹄ 第二 五巻 第一 一号
一九 五六
︶
② 拙稿
﹁今 昔物 語集 の﹃ けり
﹄の テク スト 機能 冒
︱
頭段 落に おけ る文
体的 変異 につ いて
﹂
︱
︵﹃ 古典 語研 究の 焦点
﹄武 蔵野 書院
二〇 一〇
︶ 拙稿
﹁今 昔物 語集 の﹃ けり
﹄の テク スト 機能
︵続
︶
︱
終結 機能 を中 心 に
︱
﹂︵
﹃国 語国 文﹄ 第八 十巻 第十 号 二〇 一一
︶
③ 今昔 と三 宝絵 につ いて は注
②の 第二 論文 の注
を参 照︒ 落窪 物語 につ 13 いて は塚 原鉄 雄﹃ 国語 構文 の成 文機 構﹄
︵新 典社
二〇
〇二
︶は
﹁き
﹂ を挿 入表 現と し︑ 法華 百座 聞書 抄に つい ては
︑小 松英 雄﹁ 助動 詞キ の運 用で 物語 に誘 い込 む﹂
︵﹃ 日本 語学
﹄第 二四 巻一 号 二〇
〇五
︶は 直接 体 験の 表現 によ る導 入効 果を 指摘 する
︒本 稿で は始 発機 能・ 終結 機能 の面 を指 摘し た︒
④ 岩波 日本 古典 文学 大系
﹃今 昔物 語集 四﹄ の解 説に ある よう に︑ 文体 の 目印 語は 巻一 九・ 二〇 を境 に漢 文訓 読調 から 和文 調へ 交代 する が︑
﹃日 本霊 異記
﹄を 典拠 とす る話 が 話あ るた め︑ 全体 の文 体基 調は
︑中 間的 20 から やや 訓読 調に 傾く
︒﹁ けれ ば﹂ が巻 二十 以降 の巻 に比 べ少 ない のは 出典 が関 連す る︒
⑤
﹁云 ケレ バ﹂ の例 は︑ 今昔 では
︑天 竺震 旦 例︑ 本朝 仏法
例︑ 本朝 23 世俗
例で
︑本 朝世 俗部 は宇 治と 似た 傾向 があ る︒ 213
⑥ 拙著
﹃今 昔物 語集 の表 現形 成﹄
︵和 泉書 院 二〇
〇三
︶第 三章 第三 節
﹁今 昔物 語集 の﹃ けり
﹄叙 述﹂ で︑ 今昔 本朝 世俗 部で は︑ 宇治 にな い箇 所に まで
﹁け り﹂ を増 補す る傾 向を 指摘 した
︒た だし
﹁け り﹂ の枠 が肥 大す るこ とは
︑必 ずし も枠 の崩 壊を 意味 しな い︒
﹁け り﹂ をほ とん どの 文で 用い なが らク ライ マッ クス 場面 の文 末に のみ
﹁非 けり
﹂を 使い るこ とで
︑場 面に 焦点 を当 てる
﹁越 前守 藤原 孝忠 侍出 家語
﹂︵ 巻十 九ノ 十三
︶
﹁池 尾禅 珎内 供鼻 事﹂
︵巻 二八 ノ十
︶な どの 例の よう に︑
﹁け り﹂ が多 く とも
﹁非 けり
﹂と 対比 的に 用い るこ とで 枠が 保た れる 場合 が多 い︒
⑦ 糸井 通浩
﹁﹃ けり
﹄の 文体 論的 試論 古
︱
今集 詞書 と伊 勢物 語の 文章
﹂
︱
︵﹃ 王朝
﹄第 四冊
一九 七一
︶が
︑﹁ けり
﹂は 聴き 手へ の﹁ 素材 の
宇治 拾遺 物語 の﹁ けり
﹂の テク スト 機能
七六
事実 に対 する 確認
﹂を 表出 する とい う説 に基 づき
︑聴 き手 に確 認し 解説 する 機能 とし た︒
⑧ 冒頭 第一 文で
﹁け り﹂ の初 出の 活用 形を 調べ ると
︑宇 治で は文 中の
﹁け る﹂
﹁け れ﹂ 初出 話が 例︵
﹁け る﹂
例﹁ けれ
﹂ 例︶
︑﹁ けり
﹂初 69
62 出話 は 例︵ 係結
例︑ 連体 形終 止 例を 含む
︶例 で拮 抗し てい る︒ 今 80 昔で は︑
﹁ケ ル﹂
﹁ケ レ﹂ 初出 話が
例︵
﹁ケ ル﹂
例﹁ ケレ
﹂ 例︶
︑ 152
147
﹁ケ リ﹂ 初出 話が
例︵ 係結 例
︑連 体形 終止 例 を含 む︶ で︑ 文中 用 632 法で 始め る率 は低 い︒ 宇治
拾遺 物語 の﹁ けり
﹂の テク スト 機能
七七