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Academic year: 2021

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情報秘匿に伴う脳血流動態反応についての実験的検 討 : 近赤外分光法を用いた虚偽検出

著者 新岡 陽光

著者別名 NIIOKA Kiyomitsu

その他のタイトル Experimental Study for Cerebral Hemodynamic Response during Concealment of Information : Detecting Deception with Near Infrared

Spectroscopy

発行年 2018‑09‑15

学位授与番号 32675甲第439号

学位授与年月日 2018‑09‑15

学位名 博士(心理学)

学位授与機関 法政大学 (Hosei University)

URL http://doi.org/10.15002/00021291

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博士学位論文

論文内容の要旨および審査結果の要旨

氏名 新岡 陽光 学位の種類 博士(心理学)

学位記番号 第675号

学位授与の日付 2018年 9月15日

学位授与の要件 本学学位規則第5条第1項(1)該当者(甲) 論文審査委員 主査 教授 越智 啓太

副査 教授 福田 由紀

副査(学外)福山大学教授 平 伸二

情報秘匿に伴う脳血流動態反応についての実験的検討

-近赤外分光法を用いた虚偽検出-

1.はじめに

新岡陽光氏提出学位請求論文「情報秘匿に伴う脳血流動態反応についての実験的検討-

近赤外分光法を用いた虚偽検出-」は,本研究の主要な論考を構成する実証的研究が,日 本心理学会の国際誌である「Japanese Psychological Research」に掲載されている。また,本 論文に関連した研究成果は,日本心理学会、日本犯罪心理学会、国際心理学会などにおい て発表されている。また、研究内容の一部は、本学の「法政大学大学院紀要(人文科学・

社会科学系)」にも掲載されている。これらの各研究を,学位請求論文の目的にふさわし く全体としての統一性を構築し,論述の一貫性を確保するために加筆修正したのが本博士 学位請求論文である。

2.論文の構成

序 「情報秘匿」について研究する意義および研究全体の目的 第Ⅰ部 虚偽検出研究の概要

第1章 虚偽検出としてのポリグラフ検査 第2章 自律神経系反応を用いた虚偽検出研究 第3章 中枢神経系反応を用いた虚偽検出研究 第Ⅱ部 近赤外分光法の概要

第1章 近赤外分光法に関する生理学的基礎 第2章 近赤外分光法の計測原理

第3章 近赤外分光法の計測方法

第4章 脳機能計測法としての近赤外分光法の位置付け

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2 第5章 近赤外分光法を用いた虚偽検出研究 第Ⅲ部 近赤外分光法における解析

第1章 近赤外分光計測装置の出力信号の解釈 第2章 個人データおよびグループデータの処理 第3章 MNI標準脳座標系上での空間マッピング 第4章 血流動態反応関数を利用した一般線形モデル 第5章 多チャンネル間の多重比較補正法

第Ⅳ部 情報秘匿時の脳血流動態反応に関する実験的検討

第1章 記銘内容についての情報秘匿時の脳血流動態反応 (研究1)

第2章 項目間の類似性による脳血流動態反応への影響 (研究2)

第3章 記銘内容についての真実反応時の脳血流動態反応 (研究3)

第4章 行為内容についての情報秘匿時の脳血流動態反応 (研究4)

第5章 再認時の脳血流動態反応とその周波数成分 (研究5)

第6章 質問対象の数と個人レベルでの識別の精度の関連 (研究6)

第7章 情報秘匿時の脳血流動態反応への一般線形アプローチ(研究7)

第Ⅴ部 総合考察

第1章 情報秘匿時に生じる生理反応

第2章 本研究の学術的意義および社会的意義と研究のこれから 引用文献

研究成果の発表一覧 謝辞

要約

3.本研究の目的

犯罪捜査においては、被疑者が事件に関する情報を記憶しているかどうかを本人の生 理的な反応をもとにして推測するための手法が長い間研究されてきた。これは通常、ポ リグラフ検査といわれる。従来この手法は、末梢神経系の指標、具体的には心拍、指尖 脈波、呼吸、皮膚電気反射などを用いて行われてきたが、本研究では、NIRS計測装置

(ETG-4000 日立メディコ社製)を使用して、中枢神経系の指標、具体的には脳血流 動態反応を用いて、犯罪情報を秘匿している被疑者と犯罪情報を秘匿していない無実の 者を識別することができるかを検討する。また、情報秘匿時の脳内の機序について明ら かにする。

4.研究の概要と評価

本論文、第Ⅰ部については、虚偽検出技術の現状、技術、中枢神経系を用いた虚偽検出 についての概要が、第Ⅱ部では近赤外分光法についての概要が、第Ⅲ部では近赤外分光法

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における解析の概要が述べられている。いずれも網羅的な文献検討と調査に基づき適切に 要領よく先行研究や虚偽検出が社会的に実装されている警察実務についてまとめられてい る。

本研究の最も重要な部分は、実験的な研究とその考察についてまとめられた第Ⅳ部にあ げられている7つの研究である。そこで、以下のそれぞれの研究とその評価についてまと めてみる。

研究 1 では,記銘した犯罪シナリオの情報を記憶し、秘匿した場合に犯罪シナリオに関 係している裁決質問と関係していない非裁決質問の間で,前頭領域における脳血流動態反 応に違いがみられるかどうかが検討された。その結果,犯罪シナリオにおける凶器および 死体遺棄場所に関する質問について,非裁決質問呈示時と比較して裁決質問呈示時にΔ

[oxyHb]が 20 秒以内に有意に大きくなることが示された。この結果は、犯罪に関係した情

報を記憶しているかどうかを NIRS 計測装置を用いて、脳血流動態反応のみから識別でき る可能性を世界で初めて示したものであり、非常に価値のある成果といえる。ただし、そ の心理学的メカニズム、脳科学的メカニズムについては明確でない点も多く、以降の研究 ではこの点について検討されることになる。

研究 2 では,非裁決項目と裁決項目の類似性を操作し,それらの項目間で脳血流動態反 応に差異がみられるかが検討された。裁決項目との類似性が低い非裁決項目を用いて研究 1と同様の実験を行ったところ、裁決項目呈示時に非裁決項目呈示時と比較してΔ[oxyHb]

が大きくなるという研究1の結果を追証する結果が得られたほか、裁決項目と非裁決項目 の主観的な類似度が、非裁決質問呈示時の脳血流動態反応に影響することが示された。す なわち,裁決質問と似ていないと評定した非裁決質問ほどΔ[oxyHb]が大きくなる傾向があ ることが確認された。この研究は、研究1で示された裁決質問と非裁決質問の差異が主観 的類似度という心理的な変数によって媒介されていることを明らかにしたという点で重要 な意味がある。これは実際の犯人識別検査における質問構成の際に重要な手がかりになる。

研究1とともに研究計画、データの分析、考察ともに適切に手際よくまとめており、問題 となる点は見当たらない。

研究 3 では,研究1,2で得られた結果が、犯罪情報を隠蔽しようとする意図によって 生じているのか、それとも再認反応や定位反応によって生じているのかを明らかにしよう として行われたものである。この実験では、情報秘匿課題時に情報秘匿意図を持たせず,

真実反応を回答させた。その結果,研究 2 と同等の情報秘匿課題において,裁決質問呈示 時と非裁決質問呈示時間のΔ[oxyHb]の差異が認められなかった。これはある情報を隠蔽し ようとすることが、裁決質問と非裁決質問の脳血流動態の違いを作り出しているというこ とを示すものである。研究2に引き続いて、犯人を識別するための検査における心理的な 変数について検討され、犯行情報隠蔽の意図が反応の差異を作り出していることが示され ている。この論点は末梢神経系におけるポリグラフ検査の生理的機序を論じる際にもしば しば問題になる点であるが、シンプルな研究方法論でやはり手際よく結果を明らかにして

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おり、研究計画、データ分析、考察ともに問題は少ない。ただ、これは心理学研究一般に いえることであるが、差異が検出されないということから何かの結論を導くことについて は慎重になることが必要であり、この研究についてもそのような問題点がないとはいえな いであろう。

研究 4 では,より実際の犯罪捜査場面に近い状況を設定して実験を行うこと、脳の前頭 領域から側頭領域にかけて空間解析を行い、裁決質問と非裁決質問の脳血流動態の違いを 引き起こしている脳の部位を同定すること、個々人が犯罪に関する情報を保持しているか どうかを識別できるかどうかを明らかにすることを目的に研究が行われた。実験参加者を,

模擬窃盗を行う有罪(guilty)群と模擬窃盗を行わない無罪(innocent)群にわけ、模擬窃 盗についての情報秘匿課題を行った。その結果,有罪群では裁決質問呈示時に,非裁決質 問呈示時と比較してΔ[oxyHb]が有意に大きくなったのに対し,無罪群では差が認められな いという研究1、2と同様の結果が確認された。また,空間解析により,有罪群について,

両極背外側前頭前野,右中側頭回,前頭極,側頭極,眼窩前頭前野に対応するチャネルで 裁決質問呈示時に非裁決質問呈示時と比較してΔ[oxyHb]の最大値が有意に大きいことが 確認された。次に有罪群と無罪群を個人レベルで正しく識別できるかどうかについても検 討した。NIRSデータに高速フーリエ変換を行い,周波数成分ごとのパワー値に着目して個 人識別を試みたところ,有罪群においてのみ,裁決質問呈示時に0.05 Hzから0.2 Hzの周 波数帯で特徴的なピークが出現する傾向があることが確認された。裁決質問呈示時に 0.05

Hzから0.2 Hzの周波数帯で特徴的なピークが出現していた者を「情報を秘匿している群」,

そのようなピークがみられない者を「情報を秘匿していない群」と判断した場合,Hit率は 81.3%,CR率は88.9%となった。これらのことから,0.05 Hzから0.2 Hzの周波数成分の 出現を指標として有罪群と無罪群を比較的高い確率で識別することが可能であることが示 された。

研究4は本研究の中核となる論文である。まず、NIRSを用いた隠蔽情報検査の警察実務 での利用を想定し、完全なる実験室実験で行われた研究1~3の結果を模擬犯罪状況下で 再現できるかが検討され、その再現を確認している。これは研究の社会的実装ということ を考えると極めて意義のある研究である。第 2 に、裁決質問と非裁決質問の脳血流動態の 違いを引き起こしている脳の部位を同定することを目標として脳血流動態反応の空間解析 がおこなわれている。この分析の結果、両極背外側前頭前野,右中側頭回,前頭極,側頭 極,眼窩前頭前野という脳の部位が明らかにされているが、これが今後のさらに詳細な記 憶の脳内メカニズム解明のための手がかりを示したという意味で重要な意義を持つ。最後 に、個々人のデータから、有罪群、無罪群を識別する手法を高速フーリエ変換を用いて明 らかにするとともに、高い識別率が得られることを明らかにしている。この点も研究の社 会的実装という点から見るとオリジナルで優れた手法の発見である。本研究も 3 つの目的 を、シンプルな研究方法論で適切に結果を導いており、研究計画、データ分析、考察とも に大きな問題はみあたらない。

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研究5では,研究4で確認された0.05 Hzから0.2 Hzの周波数帯に生じる特徴的なピー クが情報の秘匿意思によって生じているのか、それとも単なる再認記憶によって生じてい るのかが調査された。その結果、情報の秘匿を伴わない検査では、記銘した項目に関する 質問(旧項目質問)呈示時と記銘していない項目に関する質問(新項目質問)呈示時で脳 血流動態反応に差異が生じず、0.05 Hzから0.2 Hzの周波数帯に生じる特徴的な周波数帯 のピークが発生しないことが示された。これは、研究 4 における有罪群の裁決質問呈示時 の時系列波形にみられた0.05 Hzから0.2 Hzの周波数成分は,模擬窃盗に関する記憶の保 持ではなく,情報の秘匿に特異的な心的状態を反映した成分である可能性を示している。

本研究は研究4の補足的な意味と研究3と同様、脳血流動態の違いを発生させるメカニズ ムについて手際よく確認したものである。やはり差異が生じないことから結論を導いてい ることに原理的な限界はあるが論文全体の構成としては適切なものであり、他の問題点も みあたらない。

研究6では,質問対象の数を増やすことで,Δ[oxyHb]の値を用いた場合の有罪群と無罪 群の識別の精度を向上させることができるか検討した。その結果,質問表の数が 1 つの場 合よりも,4つの場合にHit率とCR率のいずれも大幅に上昇した。また,空間解析の結果,

背外側前頭前皮質および中側頭回,前頭極,側頭極,眼窩前頭前野,前運動皮質および補 足運動皮質,ブローカ野における三角部に対応するチャネルにおいて,裁決質問呈示時に 非裁決質問呈示時と比較して有意にΔ[oxyHb]が大きいことが示された。これより質問対象 の数を増やし,加算平均回数を多くすることで,情報秘匿の有無の検出の精度が向上する 可能性が示された。本研究は、本論文で研究4についで、実務への応用を考えると重要な 点を示しているものである。研究方法論や分析、考察ともに問題点は少なく、重要な研究 成果がわかりやすく示されている。

研究7では,時系列波形における時間情報を考慮して解析を行うために,研究6 のデー タについて一般線形モデル(GLM)解析が行われた。ここでは、血流動態反応関数(HRF) の刺激呈示に伴うピーク潜時の時間パラメータについて,最適と考えられる値の選択が行 われた。その結果,刺激呈示に伴う第1のピーク潜時の時間パラメータとして11秒が最適 な値であり,一般的な認知課題と比較して情報秘匿課題では刺激依存のピーク潜時が遅れ ることが示された。これは、情報秘匿が複雑で高次な情報処理の下で行われていることを 示唆している。研究7は脳血流動態反応の差異に関係する時間的パラメータの推定である。

これは実務上というよりは、本研究で得られた情報隠匿のメカニズムがどのようにして発 現するのかを今後研究していく場合に重要な知見となるものである。研究4、研究5で得 られた脳の空間的な情報に対して時間的な情報を明らかにしており、研究4,5とあわせ るとまさに情報隠匿における脳の情報処理の時空間的な情報を明らかにした研究として高 く評価できるであろう。

研究全体を通して俯瞰してみると、まず、NIRS計測装置を用いて、脳血流動態の反応パ ターンから、犯罪情報を秘匿している被疑者と犯罪情報を秘匿していない無実の者を識別

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することができることが示された。これはそれ自体重要な知見である。また、警察実務を 念頭に置いた生態学的に妥当性のある研究パラダイムでこの成果を再現している点は研究 成果の社会的実装という点からも非常に意義のあることである。

次にこのような脳血流動態上の差異は,再認のメカニズムや定位反応によるのではなく、

情報隠蔽の意図によって生じることが示された。これは心理的な変数が脳の血流動態と密 接に関係していることを明らかにしたものであり、理論的に非常に大きな意味を持つもの である。

第 3 に,研究を通じて,情報秘匿に関連して、背外側前頭前野,右中側頭回,前頭極,

側頭極,眼窩前頭前野などの部位が情報秘匿に関連している可能性が示された。さらに,

情報を秘匿している者における裁決質問呈示に依存したΔ[oxyHb]のピーク潜時は 11秒で あり,一般的な認知課題におけるピーク潜時と比較して遅いことが示された。これにより 情報秘匿の脳内処理における時空間的な情報が明らかになったが、これも実務的、理論的 には非常に大きな意義を持つものである。

以上の点を総合的に判断すると本研究は、NIRS計測装置で情報を隠匿しているものを識 別できるということを明らかにしただけでなく、その社会的実装可能性を明確に示したこ と、心理学的、脳科学的な知見を明らかにしたという点で大変優れたものであると評価す ることができる。

5.結論

以上により審査小委員会は,新岡陽光氏提出学位請求論文「情報秘匿に伴う脳血流動態 反応についての実験的検討-近赤外分光法を用いた虚偽検出-」を博士論文審査基準に照 らし合わせて,優れた業績であると評価し,新岡氏を博士(心理学)の学位を授与される 資格を有するものであるとの結論に達した。

以 上

参照

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