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特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題 (二)

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(1)

特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題 (二)

その他のタイトル Sur le calcul de la part successorale du gratifie (2)

著者 千藤 洋三

雑誌名 關西大學法學論集

巻 44

号 3

ページ 351‑387

発行年 1994‑09‑30

URL http://hdl.handle.net/10112/2136

(2)

ニ特別受益者の相続分の算定方式

三みなし相続財産の算定

曰相続開始時の相続財産の価額

E贈与目的物の滅失・価額の増減

四一応の相続分の算定 五具体的相続分の算定

六相続債務分担と具体的相続分

七寄与分と具体的相続分 八遺留分と具体的相続分

特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題口

(3)

くことが不可欠である︒

(l ) 

を加えるものがある︒そこで︑私は︑①から③までの算定方式に④と⑤を加える必要性を明らかにしようと試みた︒

そのためには何よりも︑本稿のテーマ名にもなっている﹁特別受益者の相続分の算定﹂が意味する点を明確にしてお

﹁特別受益者の相続分の算定﹂には︑民法九0三条・九0

四条を根拠とした﹁特別受益者の具体的相続分の算

◎ 

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学説の多くは︑この①から③までの算定方式のみを叙述する︒ところが︑学説の中には︑以上の算定方式に加えて︑

遺産分割規定を論拠とした次の④と⑤︑すなわち︑

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1 1

◎ ◎ 

項を根拠に以下のような方式・順序で算定される︒ 前回は︑﹁特別受益者の相続分の算定方式﹂︑

財産︶を得た者

( 1 1

特別受益者︶がいた場合に︑この特別受益者が実際に取得すべき最終の相続分はどのようにして 算定されるかを概観した︒それをまとめれば︑以下のようになろう︒

特別受益者の最終の相続分は︑現在の通説的見解によれば︑表現方法に多少の差はあるものの︑民法九

0

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関法

第四四巻第三号

つまり︑共同相続人中に被相続人から特別受益︵遺贈や三種の贈与

(4)

特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題口

定方式・順序で十分である︒しかし︑

定﹂と民法九0七条を根拠とした﹁共同相続人の遺産分割のための相続分の算定﹂という二つの側面が含まれる︒前

者の﹁具体的相続分算定﹂は︑特別受益者が存在する場合にこの者の相続分の算定に関するものであり︑前述の①か

︵なお︑贈与額や遺贈額をゼロとすることにより︑特別受益者以外の法定相続人の相続分を算定する

ことは可能である︶︒これに対して︑後者の﹁分割のための相続分算定﹂は︑特別受益者や寄与分権者をも含む共同

相続人一般に通じる遺産分割時における現実の相続財産の分配に至る相続分の算定に関するもので︑④から⑤に対応

ところで︑前者の具体的相続分算定に際しては︑﹁相続開始時の相続財産﹂と﹁贈与財産﹂

の時点で評価・算定し加算しなければならない︒また︑後者の分割のための相続分算定に際しては︑﹁遺産分割時の

相続財産﹂を︑これまたいずれかの時点で評価・算定しなければならない︒そこで︑評価基準時が必要となるこれら

三つの場合の組合せを考えてみる︒そして︑このような組合せに伴って展開されている学説・裁判例を概観したとこ

ろから推測しうることは︑遺産分割時で一挙に評価しきれないものを︑特別受益者の相続分算定が含んでいるのでは

ないか︑ということである︒ の両財産をいずれか

つまり︑もしも︑﹁相続開始時の相続財産﹂ならびに﹁贈与財産﹂の価額の評価基準時

と︑﹁遺産分割時の相続財産﹂の価額の評価基準時を同一の基準時︑たとえば︑前者と後者を相続開始時︵相続開始

( 2)  

時説と呼ばれる︶︑もしくは遺産分割時︵分割時説と呼ばれる︶に統一して処理するのであれば︑①から③までの算

( 3)  

一方を相続開始時•他方を遺産分割時(開始時割合説と呼ばれる)で評価する

ことになれば︑①から③までに︑④と⑤の算定方式・順序を加える必要が出てこざるを得ない︒そして︑このように

評価基準時を違えるのは︑共同相続人間の公平性を追及するにおいて︑どこに力点を置くかにより︑かつまた特別受 ら③に対応する

(5)

第四四巻第三号

益者のためと一般的な共同相続人のための両算定方式の根拠規定や理念が異なることによる︒そして︑現在の通説・

裁判例は︑最後の開始時割合説に立っている︒この説によれば︑①から④の具体的相続分率の算定は︑相続開始時に

は理論上︑定まっているというメリットがある︒つまり︑この説は︑相続開始後に直ちに共同相続人の一人が自己の

包括的な相続分を第三者に譲渡したり︑特定の相続財産を処分することができるという条文に応答しているのである︒

右に述べたように︑①から③までと④から⑤までの両算定方式の必要性は︑特別受益者という特殊な地位にある

者の相続分算定に際して︑財産の評価基準時という問題に絡んで出てきている︒要するに︑特別受益者の最終的な相

続分を算定するためには︑①から③により相続開始時で評価し算定された特別受益者の具体的相続分を︑④から⑤に

より遺産分割時で評価し算定された相続分で修正する必要があり︑そのためには︑どうしても両方の算定方式が必要

前回は︑特別受益者の相続分の算定方式について概観した︒つまり︑特別受益者がどれほどの相続分を最終的に

取得するかを計算するには︑まず︑﹁みなし相続財産﹂額を算定し︑これをもとに﹁一応の相続分﹂を引き出し︑そ

こから特別受益者の﹁具体的相続分﹂を明らかにする必要がある︒そして︑通説・裁判例は︑これら一連の作業を相

続開始時という評価基準時で行い︑さらに分割すべき相続財産を遺産分割時で評価し︑それに具体的相続分率を乗す

るという算定方式を付加することにより︑特別受益者の最終的な相続分を算定する︒今回は︑これらの算定方式のう

ち︑﹁みなし相続財産の算定﹂について︑個別具体的に学説上の論点を紹介し検討を加えていくことにする︒今回述

関法

(6)

べようとする主たる点をあらかじめまとめれば︑以下のようになろう︒

﹁みなし相続財産の算定﹂には︑﹁相続開始時の相続財産の価額﹂と﹁贈与財産の価額﹂をそれぞれ算定するた

めに両評価基準時が必要であり︑前者には相続開始時説と遺産分割時説があり︑後者には贈与時説・相続開始時説・

遺産分割時説の三説がある︒また︑﹁みなし相続財産の算定﹂の場合と同様に評価基準時が問題となるケースに︑﹁遺

産分割のための相続財産の価額﹂算定の場合があり︑これにも相続開始時説と遺産分割時説とがある︒これら三者の

組合せについては︑前回に紹介した通りであるが︑今回は︑このような各説が出てくる根拠を詳細に紹介した︒贈与

時説は外国法を下敷きに展開されるものであるが︑わが国では受け入れられる余地の乏しい説である︒相続開始時説

は︑現在の通説・判例の立場であり︑主として九0三条他の民法の条文に根拠を求める︒とりわけ相続開始と同時に

包括的もしくは部分的な相続分や特定の相続財産の譲渡が可能となっている規定︵民法九0五条・九0九条但書︶に

適合するメリットが大きい︒いいかえれば︑相続開始時を基準にすることは︑相続財産の取引法的処理化の機能を

担っているといえる︒これに対して︑遺産分割時説は︑現実の財産分割を踏まえた実際的な処理に主眼が置かれる︒

紛争解決の一回性から遺産争いを遺産分割時を基点に処理しようというものであり︑相続財産の家族財産的側面を重

視したものである︒筆者は︑こうした側面を重んじたい︒なお︑このような状況の中で︑当事者のいずれの立場を重

視すべきかという利益衡量論の立場から︑具体的な計算例を挙げて︑遺産分割時説に与する見解が出てきている︒次

回以降の具体的計算例の当否の際に︑さらにこうした説により深く触れることにしたい︒

(7)

第四四巻第三号

︵評価基準時︶︑どのような方法︵評価方法︶で算定するか︑ (2)右近健男「特別受益者•特別寄与分」『奥田他編・民法学7〈親族・相続の重要問題〉』(有斐閣、昭五一)二五四頁参照。(3)右近•前掲―一五四頁は、本文のように「開始時割合説」と称するが、後述するように、「遺産分割のための相続財産」算

定における評価基準時が遺産分割時にほぽ統一されてきているためもあり︑﹁みなし相続財産﹂算定の評価基準時である相続開始時説を︑この開始時割合説の趣旨で使用する学説がある︵岩井俊﹁特別受益となる贈与︵金銭︶の評価時期︵上︶﹂

0

わが民法第九

0三条一項は︑﹁被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたも

のを相続財産とみなし﹂と規定する︒つまり︑共同相続人のうちに特別受益者がいる場合︑この者が最終的に取得す

る相続分額︵いわゆる具体的相続分額︶を算定するには︑まず﹁みなし相続財産﹂額が算定されなければならない︒

その﹁みなし相続財産﹂額は︑被相続人が死亡時に遺した﹁相続開始時の相続財産の価額﹂︵以下︑﹁相続開始時財産

額﹂と呼ぶ︶に特別受益者が被相続人から被相続人の生前中に受けていた特別受益財産である﹁贈与財産の価額﹂

︵以下︑﹁贈与財産額﹂と呼ぶ︶を加えたものであるために︑﹁みなし相続財産﹂額を算定するには︑﹁相続開始時財

産額﹂と﹁贈与財産額﹂の両価額が算定されなければならない︒

﹁相続開始時財産額﹂の算定には︑何時の時点で

(l ) 

あるいは消極財産はどうするのかという問題がある︒同様に︑﹁贈与財産額﹂の算定にも︑評価基準時や評価方法が 問題になると同時に︑贈与目的物が贈与後に増価もしくは減価︑あるいは滅失した場合の扱いや︑贈与目的物が金銭

関法

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(8)

特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題口

であったときに贈与時の価額のままとするのか︑あるいは贈与時の価額を相続開始時もしくは遺産分割時における物 価指数で評価換えを行うのか否か︑といった問題がある︒さらに︑学説は一般的に︑﹁相続開始時財産額﹂には遺贈 財産が含まれると解し︑遺贈財産額の算定をまったくといってよいほど論じることがない︒しかし︑後述するように︑

遺贈の場合にも︑その価額の算定を論じる必要があるように思われる︒

本章は︑日﹁相続開始時の相続財産の価額﹂︑口﹁贈与財産の価額﹂︑曰﹁遺贈財産の価額﹂の三節に大別し︑それ ぞれの節で︑主に右に述べた点について︑学説・裁判例を紹介し︑検討を加えたい︒

(1

)

本文で述べたように︑﹁みなし相続財産﹂額の算定に際して︑相続債務を控除すべきか否かについて︑学説には争いがあ

る︵中川淳﹃相続法逐条解説︵上巻︶﹄︵日本加除出版︑昭六

0)

二三三頁以下参照︶︒通説

( 1 1

積極財産額説︶は︑債務を

控除しない積極財産の価額であると解する︒この説の主張者は︑島津一郎﹃中川監修・註解相続法﹄︵法文社︑昭二六︶一

二五頁︑我妻栄

1 1 唄孝一﹃判例コンメンタール珊相続法﹄︵日本評論社︑昭四︱)

10

六頁︑鈴木・前掲書ニニ九頁︑中川

善之助

1 1

事審判事件の研究②﹄︵一粒社︑昭六三︶七四頁︑有地亨﹃谷口

1 1 久貴編・新版注釈民法

( 2 7 )

相続②﹄︵有斐閣︑平元︶ニニ

三頁︑沼辺愛一﹃島津編・別冊法学セミナー廊

9 2

どである︒これに対し︑少数説

( 1 1

純相続財産額説︶は︑積極財産から債務を控除した純財産の価額と解する︒この説を唱

昭二九︶一七六頁︑岩田健次﹁特別受益者の相続分﹂﹃続学説展望︹別冊ジュリスト第4

号 ︺

(

0)

などである︒この問題は︑特別受益者が相続債務をどのような割合で分担するかという点と絡んでいることから︑検討は第

六章﹁相続債務分担と具体的相続分﹂に譲り︑本文ではひとまず︑通説に従って論述する︒

(9)

に関する評価基準時や評価方法を問題とする︒

第四四巻第三号

相続開始時の相続財産の価額

本節は︑相続開始時財産額の算定のために︑田評価の基準時︑②評価の方法︑の二款に分けて詳論する︒

評価の基準時

本節が対象としているみなし相続財産を算定するために必要とされている﹁相続開始時財産額﹂の算定問題は︑

くどいようであるが︑特別受益者のいわゆる具体的相続分の算定のために必要とされているものであり︑共同相続人

が存在する場合に必然的な遺産分割のための相続財産額の算定の場合とは異なることを喚起しておきたい︒したがっ

て︑本稿では以下の記述において特に断りのない限り︑前者の具体的相続分算定の基礎となるみなし相続財産の算定

ところで︑学説は︑これらみなし相続財産の算定問題を扱うときに︑遺産分割のための相続財産の評価基準時と

(l ) 

併せて論じたり︑あるいは︑後者を主とし︑副次的に前者の問題に触れるということがある︒これは︑かつては遺産

争いの場で特別受益の持戻しが問題となることが少なかったことと相まって︑特別受益制度を遺産分割の単なる一過

程に過ぎないと捉える考えから出てきたものであろう︒こうした点はさておくとして︑みなし相続財産算定のための

相続開始時財産の価額評価は︑遺産分割のための相続財産価額評価と極めて密接な関係を有していることから︑後者

の理解の仕方が当然に前者に大きな影響をもたらしている︒そこで本稿でも︑後者に言及しておくことにしたい︒な

お近年︑従来の学説とは異なり︑問題を単に論理的に処理するのではなく︑当事者のいずれの側の利益をより保護す

るかという利益衡量論の観点に基づいた意見が出されるようになってきた︒こうした新説についても触れておく︒

本款は︑まず曰で従来の学説について︑囚みなし相続財産算定のための相続開始時財産額の評価基準時と︑⑱遺産 関法九〇

(10)

分割のための対象となる相続財産額の評価基準時を紹介し︑場合を一体的に把握しているかを概観し︑さらに国で新しい学説に触れ︑最後に圏で私見らしきものを述べてみたい︒

従来の学説 ついで口では︑これら従来の学説がどのように囚と⑱の

みなし相続財産算定のための相続開始時財産額の評価基準時

みなし相続財産の算定のためには︑相続開始時財産と贈与財産の双方を評価しなければならないが︑これまで学

(2 ) 

説の中には︑相続開始時財産と贈与財産を必ずしも十分に峻別せずに扱ってきたり︑あるいは相続開始時財産よりも

贈与財産の評価基準時問題を主体として捉えてきたものが散見される︒さらには︑特別受益者の最終的な取り分に至

る一過程である﹁みなし相続財産の算定﹂を個別に取り上げるのではなく︑それをも含めたいわゆる﹁具体的相続分

の算定﹂として論じたものもみられる︒もっとも︑言葉づかいの問題だが︑﹁具体的相続分の算定﹂といいながら︑

その実は︑具体的相続分算定の基礎となっている﹁みなし相続財産の算定﹂を扱ったケースがある︒ともあれ︑本来︑

﹁相続開始時財産﹂と﹁贈与財産﹂とは峻別して考察すべきことはいうまでもないところであるが︑学説の現状に鑑

みて︑学説紹介に際しては︑当該学説がいずれを述べているか明らかでない場合は原則として︑相続開始時財産の算

定のための評価基準時問題を扱っていると解し︑贈与財産の算定については︑明確に触れている場合にのみ次節で紹

(3 )

4

) 

さて︑多数説ならびに多くの裁判例は︑相続開始時財産の評価基準時について相続開始時説を採り︑もう︱つの

(5 J)

6

) 

説である遺産分割時説を主張するのは少数有力説ならびに若干の裁判例に過ぎない︒この点において︑学説ならびに

裁判例が遺産分割時説で統一されつつある遺産分割時財産の場合の状況とは大いに異なる︒なお︑昭和五六年に寄与

(A) 

︵ 一 ︳ 一

五 九

(11)

分制度︵民法九0四条の二︶が創設された際に︑寄与分額の評価基準時を相続開始後に行われる協議・調停・審判の

時である寄与分決定時とするならば︑みなし相続財産の評価時期について新たに第三の説として寄与分決定時が登場

( 7)  

する可能性があると指摘されていた︒しかしその後︑実務では︑遺産分割に先立ち審判等で定める寄与分額の評価基

( 8)  

準時を相続開始時と解してきており︑学説にも︑この第三の説を支持するものはみあたらない︒また︑次節で扱う贈

与財産の場合には贈与時説が考えられるが︑ここで問題としている相続開始時財産の場合には︑相続開始時点よりも

さらに過去の贈与時を顧慮する余地はない︒結局︑相続開始時と遺産分割時だけが論じられるべき基準時ということ

になる︒もっとも︑より厳密にいえば︑遺産分割時には︑遺産分割協議の終了時︑あるいは口頭弁論終結時︑その他

の時点ということもあるが︑これら細部の時点は事案ごとに異なり一律には確定しえない︒以下︑両説の論拠・反論

( 9

)  

相続開始時説の論拠は︑次の三点に要約されよう︒①民法九0三条・九0四条に﹁相続開始時﹂という明文の規定

が存在する︒②遺産分割前に︑相続開始と同時に各共同相続人は個々の相続財産に対する持分︵九0

いしは相続分︵九0五条︶を譲渡しうるから︑具体的相続分は相続開始と同時に確定していることが必要である︒③

遺産分割時とすれば︑具体的相続分が相続開始後から遺産分割時までの間に物価の変動に従って絶えず変わることに

なり不合理である︒

遺産分割時説

( 1 0 )  

遺産分割時説の論拠ならびに相続開始時説に対する反論︵反論の形をとった論拠でもある︶は︑以下の通りであ

0

)

(12)

特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題口 実的確定は︑まさに遺産分割の時である︒ 三条・九0四条︵旧規定の一

0

0七条

1 00

八条とほぼ同一内容︶

る︒まず︑反論からみていく︵①から③までは︑相続開始時説の論拠である①から③までに対比している︶︒①九〇

の立法過程において︑起草者は遺産分割が相続

開始に接着して行われると想定し︑未分割の状態が長期間継続し相続財産価額に変動を生じるとは予想しなかった︒

このような変動のある場合には︑共同相続人間の公平をはかるため︑みなし相続財産の評価は分割時を基準時とする

のが妥当である︒②九0五条にいう相続分は法定相続分を意味するから論外であり︑九0九条但書により譲渡しうる

個々の遺産に対する持分は具体的相続分が算定されて始めて確定するが︑各相続人がこれを単独で別個に確定するこ

とは不可能で︑実際には分割に際して算定されるからそれまでは具体的相続分は未定の状態にあるのであり︑相続開

( 1 1 )  

始時に確定するというのは観念的にすぎる︒③相続開始時における具体的相続分の確定は観念的確定であり︑その現

次に︑遺産分割時説の論拠は︑前記の三点以外に次の二点が挙げられる︒④相続開始時におけるみなし相続財産

を評価し︑それとは別に更に遺産分割のための相続財産を評価することは手続上煩雑である︒⑤みなし相続財産の評

価基準時を相続開始時とし分割の対象となる相続財産の評価基準時を分割時とする論者は︑九

0 1

0四条を分

割の対象となる相続財産の評価時期についての規定ではないと主張するが︑同条は価額の変動などを予想しておらず︑

いずれの評価についても相続開始時とする趣旨であるから︑右の論者も分割の対象となる遺産評価の時期を分割時と

する点では︑相続人の公平をはかるという立場から同条の解釈を修正しているということになるのであって︑そうだ

( 1 2 )  

とすると︑同条の解釈の修正を徹底し︑みなし相続財産の評価時期も分割時とすべきである︒

(13)

遺産分割のための対象となる相続財産額の評価基準時

遺産分割は︑まず共同相続人の協議により行われるが︑協議不調︑あるいは協議そのものができないときには︑家

庭裁判所の調停による︒そして︑調停不成立などの場合には︑審判による︵民法九〇七条︑家審法九条一項乙類一

号・︱一条・一七条︶︒協議や調停によるときは︑共同相続人の間で自由に分割できるが︑審判では︑共同相続人各

自の具体的相続分率に応じた割合で分割されなければならない︒そのためには︑各自の具体的相続分率︑ならびに分

( 1 3 )  

割の対象となる相続財産の価額が定まっていなければならない︒そこでは当然に︑分割の対象となる相続財産を相続

開始時と遺産分割時のいずれの時期で評価すべきかという問題がでてくる︒民法は︑この点について明文規定を欠い

( 1 4 )  

ているため︑結局︑学説・裁判例に委ねられることになる︒かつては相続開始時説が有力であったようだが︑今日で

( 1 5 )

1 6 )

 

は遺産分割時説が支配的見解となり︑相続開始時説が再び台頭することはないであろう︑とまで言われる状況にある

以下︑相続開始時説と遺産分割時説の論拠︵反論を含む︶をみていくが︑みなし相続財産算定の場合とよく似た議論

相続開始時説

( 1 7 )  

相続開始時説の論拠は︑以下の四点に要約されよう︒①民法九0三条・九0四条が具体的相続分の算定に関して

﹁相続開始の時﹂とか﹁相続開始の当時﹂と規定しており︑この扱いは分割の対象たる相続財産評価の基準時につい

ても妥当する︒②民法九0九条が遺産分割の効力を﹁相続開始の時﹂に遡及させていることから︑遺産分割の対象た

( 1 8 )  

る相続財産の評価基準時は相続開始時とすることを予定していると解すべきである︒③民法一0二九条も遺留分の算

定に関して相続開始時を基準時としている︒④相続税法二二条が相続税徴収のための相続財産評価の時期を相続開始

(a) 

が展開されている︒

(B) 

関法九四

(14)

特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題口 遺産分割時説

( 1 9 )  

遺産分割時説の論拠ならびに相続開始時説への反論を要約すれば︑以下のようになろう︒まず反論であるが︑次

の①から③までは相続開始時説の論拠の①から③に対応している︒①九

0

0四条は︑具体的相続分算定のた

めの規定であり︑分割の対象たる相続財産の評価時期まで定めたものではない︵なお︑みなし相続財産の評価基準時

として遺産分割時説を採る者に︑明らかに九0三条・九0四条が遺産分割財産の評価基準時も相続開始時とする趣旨

を含む規定であると認めたうえで︑これらの条項の適用を排除し遺産分割時を評価基準時とする立場での見解を表明

( 2 0 )  

する者がみられる︶︒②九0九条は分割された財産の帰属が相続開始時に遡及することを定めた法的な擬制にすぎず︑

すべての場合に遡及効を貫きえないのみならず︵九0九条但書︶︑九0九条が分割対象財産の評価時期を相続開始時

( 21 )  

に拘束するものとは考えられない︒③一0二九条は︑遺留分算定の際における相続財産の評価時期を示したものであ

り︑遺産分割の際の評価時期を定めたものではない︒なお︑相続開始時説の④に対する直接の批判は見当たらないよ

うであるが︑相続税法は税徴収の便益という特別な目的のために立法化されており︑当該問題の根拠とはなりえない︑

遺産分割時説の論拠は︑他に以下のように数多い︒⑤各共同相続人は︑相続開始と同時に抽象的にはその相続分

に応じて相続財産に対する権利を取得しているが︑どの財産が具体的に自己に帰属するかは不確定であり︑その具体

的形成は遺産分割による︒そして︑各共同相続人が具体的に取得するものを分割時において相続分に合致せしめるこ

とは︑分割時での評価によってはじめてなしうるのであり︑こうすることによって各共同相続人間の公平を図ること といった批判がなされえようか︒

(b) 

時としている︒

(15)

第四四巻第三号

ができる︒⑥分割の対象たりうるものは︑現に存在する相続財産またはその代償物であって︑相続財産物件が分割時

までに滅失し︑その代償物も存在しないときは︑当然分割の対象から除外され︑相続開始後に自然的事実により増大

したものの全部が分割の対象となる︒⑦分割の対象となった物件中に債権があるときは︑各共同相続人は分割時の債

務者の資力を担保する責任があり︵民法九︱二条︶︑債権取得者の受ける利益は分割時が基準となる︒⑧各共同相続

人は︑他の共同相続人に対して売主と同じように︑その相続分に応じた担保の責任を負い

疵は相続開始前から存在していたものに限らない︒⑨相続財産全部について換価処分がなされた場合︵家事審判規則

10

七条︶には︑当然換価時をもとにして定められた換価代金が分割の対象となり︑必然的にその部分については換

価時が基準時とならざるを得ない︒⑩債務負担による分割がなされた場合︵家事審判規則一0九条︶には︑その債務

の発生ないし債権取得者の利益はその効力において相続開始時に遡及し得ない︒⑪相続財産の一部についてのみ換価

処分がなされ︑または共同相続人のある者について債務負担による分割がなされた場合において︑残余財産について

のみ相続開始時の評価を採用することは︑全部についての総合計算をするうえにおいて価値上の錯乱をきたすおそれ

がある︒⑫昭和五六年に導入された寄与分︵民法九0四条の二︶は︑特別受益と異なり相続開始時に客観的に定まっ

ているものではなく︑協議・調停・審判により定まるから︑寄与分額決定時までは具体的相続分は算定不可能であり︑

( 2 2 )  

この点は相続開始時説の論拠を脆弱化させる︒⑬同じく︑寄与分に関する九0四条の二の第二項は︑寄与分決定にあ

たり相続開始後︑寄与分決定時までの間の寄与及びその間の遺産の価額変動を考慮することを許容するものと解すべ

く︑したがって同条三項の価額も相続開始時における価額ではなく︑寄与分決定時の価額と解するのが妥当である︒

このように︑寄与分の評価基準時を寄与分決定時とするならば︑寄与分が分割に先立って決定されているような場合 関法九六

(16)

には︑具体的相続分算定の基礎となるみなし相続財産の評価時期について︑新たに第三の説として寄与分決定時説が

囚﹁みなし相続財産の算定﹂の評価時と⑱﹁遺産分割対象財産の算定﹂の評価時の一体的な把握について

学説は︑日で紹介した﹁みなし相続財産の算定﹂と﹁遺産分割対象財産の算定﹂の各評価時を一体的に扱おうとす

( Z l )  

る︒つまり︑第一の方法は︑﹁みなし相続財産﹂および﹁遺産分割対象財産﹂のいずれも相続開始時で評価する︒第

二の方法は︑前者は相続開始時・後者は遺産分割時で評価する︒第三の方法は︑いずれも遺産分割時で評価する︒な

お︑前者は遺産分割時で︑後者は相続開始時で評価する組み合わせ方法が考えられるが︑これを現実に主張する学説

は存在しない︒三つの方法のいずれが妥当であるかだが︑相続人間の公平を確保するという観点のみからいえば︑第

( 24 )  

三の方法が最も優れ︑第一の方法が最も劣るという実務家の意見がみられる︒裁判例は︑ほとんど第二の方法を採っ

( 2 5 )  

ているといえよう︒

近時︑従来のような法理論では決着をつけることは困難であると割り切って︑別の観点から︑この問題に取り組も

うとする考えが出てきた︒瀬川教授が主張している説がそれで︑具体的な計算例を用い︑当事者のいずれの立場に重

( 2 6 )  

点を置くべきかという利益衡量論の立場から論理を展開している︒結論だけをいえば︑みなし相続財産と遺産分割の

ための相続財産のいずれも遺産分割時で評価するというものである︒呈示された計算例の当否については︑次回以降

で取り上げることとして︑ここではこうした取り組みを高く評価しておきたい︒

登場する可能性がある︒

(17)

時で評価するというのが妥当ではないだろうか︒ 第四四巻第三号

以上のような評価基準時をめぐる学説・裁判例の対立のなかで︑いずれが妥当であるかについて︑私は︑次章以降

の具体的な計算例を検討した後で結論を出すことにしたいが︑ただ一言すれば︑遺産分割時で遺産分割対象財産もみ

なし相続財産も統一的に評価するのが最も簡便で妥当ではないかと思う︒遺産分割のための対象となる相続財産額の

評価は︑相続開始時から遺産分割時までの時間的隔たりとその間の物価変動を考慮すれば︑遺産分割時での評価は避

けられない︒この点で︑学説・裁判例ともほぼ満場一致に至っている︒後は︑みなし相続財産の評価時期をどう扱う

かであるが︑民法九0三条・九0四条の文言や遺産分割時までに相続分ならびに特定の遺産物件を譲渡しうるという

明文規定︵民法九0五・九0九但書︶を尊重すれば︑相続開始時説がもっとも適切であるといえよう︒多数説ならび

に多くの裁判例が︑相続開始時と遺産分割時での二重の評価という煩雑さにもかかわらず固執するには︑それなりの

メリットがあるわけで︑今一度︑この説の魅力に思いをめぐらす余地があることは否定しえない︒しかし︑みなし相

続財産の評価が問題とされるのは︑おおかた相続財産をめぐっての協議・紛争が生じた後のことであり︑その終点は

遺産分割時であることを考えれば︑遺産分割時での評価がもっとも適切であるように思う︒結局︑

(1

)

文は、「ジュリスト民法の争点I』(有斐閣、昭六0)二四六頁以下に収載されたものと同一内容である)、岩井•前掲一―

(2

)

(l!!I

関法

いずれも遺産分割

(18)

特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題口

(3

)

相続開始時説

( 1 1

多数説︶を主張する者には︑谷口知平﹁相続財産の評価﹂﹁家族法大系

V I 相続

( I )

三一六頁、中川11泉•前掲書二八八頁、野田愛子『遺産分割の実証的研究(司法研究報告書第一ー輯第五号)

(

昭三七︶︱二0頁︑日野原昌﹁遺産評価の時期﹂判タ一四二号︵昭三八︶七一六頁︵本論文は後に︑加筆されることなく

﹁小山他編・遺産分割の研究﹄︵判例タイムズ社︑昭四八︶四八七頁以下に所収︶︑などがある︒なお︑私は︑相続開始時説を多数説と呼んでいるが、石川教授のように通説と解する見解がある(石川•前掲三九四頁参照)。しかし、同教授が前掲

論文を公表された昭和五三年から今日まで一五年が経過し︑その間に遺産分割時説の支持者が増加しているといえよう︒つ

まり︑現時点では相続開始時説は︑通説的地位を失ったと解しても差支えあるまい︒

(4

)

盛岡家審昭五三・三・三0家月三0巻ーニ号七0

(5

)

遺産分割時説

( 1 1

少数説︶に与する者としては︑有地亨﹁共同相続関係の法的構造︵一︶︵ニ・完︶﹂民商五0巻六号︵昭三九)八三五頁•五一巻一号(昭三九)三二頁•特に四五頁注四、有地・前掲書二四四頁、浦本寛雄「遺産の評価」『奥田

他編・民法学7︿親族・相続の重要問題﹀﹄︵有斐閣︑昭五一︶二三五頁︑瀬川信久﹁具体的相続分算定のための遺産評価の基準時」『現代家族法大系4』(有斐閣、昭五五)三五七頁、田中恒朗『島津11久貴絹•新判例コンメンタール民法14相続︹l

V I ﹄︵酒井書店︑昭四

九︹第5次版︺︶三八一頁︑などがある︒

(6

)

宇都宮家審昭四九・九・ニ七家月二七巻九号一0

(7

)

中村謙次郎﹁遺産分割における遺産評価の時期﹂﹃加藤他編・家族法の理論と実務︹別冊判夕八号︺﹄︵判例タイムズ社︑

昭五五︶三五七頁︒

( 8 )

大塚正之﹁特別受益の評価の基準時﹂判夕六八八号︵平元︶五三頁︒

(9

)

学説の論拠と反論は︑主に石川・前掲三九四頁︑ならびに中村・前掲三五六頁以下による︒

( 1 0 )

石川・前掲三九四頁参照︒

( 1 1 )

中村・前掲三五六頁︒

( 1 2 )

( 1 3 )

中村・前掲三五五頁参照︒

(19)

関法 第四四巻第三号

(14)相続開始時説は、大阪高決昭三一•10・九家月八巻一0号四三頁、高松家観音寺支審昭三六・ニ•

10

家月一四巻六号

10

一頁︑新潟家審昭三六・︱ニ・ニ一家月一四巻一0号一三二頁などに採用されているものの︑学説には主張する者は見

当たらない︵他の裁判例については︑石田敏明﹃斎藤

11

菊地編・注解家事審判法︹改訂︺﹄︵青林書院︑平四︶五五七頁参

照 ︶

(15)逍産分割時説を主張する者には、中川11泉・前掲害二八八頁、日野原昌•前掲七一五頁、有地亨「特別受益者の持戻義務巳民商四0巻三号(昭三四)三六頁、谷口•前掲三0三頁、他がいる。また、裁判例は、福岡高決昭四0•五・六家月一

0号一〇九頁・判タ一九0号ニ︱八頁︑福岡高決昭四六・八・一八家月︱一四巻六号四六頁︑名古屋高決昭四七・六・二九家月二五巻五号三七頁、大阪高決昭五八•六・ニ判夕五0六号一八六頁などである。(16)中村・前掲三五七頁。なお、中川11泉•前掲書二九三頁注(九)参照。(17)学説の論拠の記述は、石川恒夫•前掲三九四頁に基づく。他に、中村・前掲三五七頁参照。

( 1 8 )

相続開始時説に与する昭和三二年︱一月全国家事審判官会同家庭局見解の論拠の一っとなっている︵岩井・前掲︱︱四頁

m

(19)学説の論拠の記述は、石川恒夫•前掲三九四頁以下に基づく。他に、中村・前掲三五七頁参照。

( 2 0 )

中村・前掲三五七頁︒(21)日野原昌•前掲四九四頁以下。

2 ) ( 2

( 2 3 )

中村・前掲三五五頁︒なお︑学説の整理については︑拙稿﹁特別受益者の相続分の算定をめぐる諸問題曰﹂関大法学論集

四三巻三号︵平五︶四一頁以下参照︒

( 2 4 )

中村・前掲三五六頁︒

( 2 5 )

( 2 6 )

瀬川信久﹁具体的相続分算定のための遺産評価の基準時﹂﹃現代家族法大系4

I)

相続の碁礎﹄︵有斐閣︑昭五五︶

三五七頁︑同﹁寄与分における相続人間の公ギと被相続人の意思(l)︵

)2

(3

)︵4

0号ニ︱頁・五四一号三0頁・五四二号二六頁・五四四号︱︱頁︒

10

0 

参照

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