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岩手大学リポジトリ jcrc n17P107 114

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Academic year: 2018

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*岩手大学教育学部

岩手県の中学生とウール製品

衣生活における「購入・手入れ・廃棄」

渡 瀬 典 子* (2018年 2 月14日受理)

Noriko WATASE

Junior High school Students in Iwate and Woolens: “Purchase, Care and Disposal” in their Clothing Life

Ⅰ はじめに

1 岩手県とウール製品

 中学校の技術・家庭科(家庭分野)において獣 毛から組成された衣料品に関する事項は,衣生活 の学習内容において主要な学習事項として教科 書・授業実践等で扱われてきた。日本は牧畜には あまり適さない多湿な気候であるが,欧米から毛 織物の産業が明治期に導入された後,獣毛の中で も羊毛=ウールは,日本人にとって馴染み深い素 材になっている。そこで,本研究は毛織物の中で も「ウール製品」に着目して考察を進める。  岩手県は,毛織物産業が盛んだったアイルラン ドやスコットランドの気候に近い地域の一つとし て,北海道,長野等とともに緬羊飼育やホームス パン産業が政府によって振興された。「ホームス パン」とは一般的には「羊毛を染色して,手で紡 いで糸にし,それを手織りしたもの」を指す(現 在は,太い紡毛糸を用いた厚手の織物も含めて ホームスパンと呼称されることもある)。

 第二次大戦後の物資不足を経て,戦後,織物の 大量生産化・機械化が推進される中,ホームスパ ン産業は効率性や生産性の面から各地で廃れて いったが,岩手県では,県央地域周辺を中心に現

在も県内数か所に工房が残存し,その生産量は全 国の8割を占める1)。また,寒冷な生活環境にあ る岩手県において,ウール製品に関する学習は, 冬季に「暖かく過ごす」重要な手立てとして地域 課題解決にも直結するものであった。ウール製品 に関する学習内容には,より暖かく着装するため の工夫のほか,手入れの方法(洗濯等),毛糸を 用いた製作(編物,織物)など多岐に渡る。それ では,実際にどのような学習内容がこれまで扱わ れてきたのだろうか。

2 中学校技術・家庭科(家庭分野)における「ウー ル製品」関連事項の扱い

(2)

学習は中学生にとって身近で重要なものだったと いえる。この時代は,被服製作のなかで「編み物」 が教材に挙げられていたことから3),羊毛の材料 特性,製作,手入れを単元化することができ,生 徒が課題に取り組みやすい状況だったと推察され る。

 しかし,現行の中学校学習指導要領では,羊毛 を用いた織物・編物製作実習の記述がなくなった こと,授業時数が減り,製作の時間が確保しにく くなったことから,中学校の家庭科の授業では毛 糸を用いた製作 = 編物(手編み,機械編み),織 物はあまり行われていない4)。以前の中学校技術・ 家庭科で学習されていた編物,織物に関する内容 は,高等学校家庭科の選択科目「服飾デザイン」 に移行し「刺しゅう,編物,染色,織物,その他 の手芸など」について「地域の伝統文化なども関 連付けて」扱うこととされている。以上の状況か ら,現代の中学生にとって「ウール製品」に関す る学習は「創作するもの」という位置づけよりも, 製品として「消費するもの」,という意味合いが 大きい。また,被服製品の供給状況・マシンウォッ シャブルニットを可能にした繊維加工技術の進歩 はもとより,ライフタイルの変容に伴い,我々と ウール製品との付き合い方にも変化が生じてい る。そこで,本研究は現代の中学生が日常生活に おいて,どのようにウール製品を扱い,活用して いるかを「購入・手入れ・廃棄」のプロセスから 明らかにする。この結果を踏まえ,今後の技術・ 家庭科(家庭分野)における教材研究の一助とす ることが本研究の目的である。

Ⅱ 研究方法

1 分析対象資料

 本研究では,日本家庭科教育学会東北支部会が 1985(昭和60)年に東北6県の小・中・高等学校 で実施した「家庭生活に関する認識調査(以下, 「認識調査」または「1985年調査」と記載)」結 果の一部を用いる。使用データは設問項目「服を

買うときに選ぶ人」,「洗濯の実施状況」,「ウール 製品の取り扱い」に関する 「中学校2年生」の男 女生徒570名(男子288,女子282)の回答である(岩 手県の回答数は100)。

2 調査方法

 「認識調査」で用いた設問について「洗濯」に 関する学習を終えた岩手県のA中学校1年生152名 を対象に,質問紙調査を実施した。有効回答数は 150(男子72名,女子78名,有効回答率98.7%)だっ た。なお,調査対象校である A 中学校は1985年 の「認識調査」対象校と同じ中学校である。調査 時期は2016年2月,調査方法は集団自記式による。 調査内容は,「認識調査」で抽出した設問項目の 他に,「着なくなったウール製品の扱い」,「ホー ムスパン産業の認知状況」を設定した。

Ⅲ 調査結果

1 誰が服を選んでいるか

 はじめに,衣服購入の際,中学生がどの程度意 思決定に関わっているかを明らかにするため,「あ なたがふだん着る服を買うときにそれを選ぶのは 主に誰ですか」という問いを設定した。図1-1,

(3)

たこと,女子中学生が服を購入する際,母親にそ の選択権を委ねる状況が見られるようになったこ とが明らかとなった。この変化は女生徒が母親の

服選びのセンスに信頼をおくようになったため か,あるいは自分自身で選ばない(選べない)か らなのかは,再検証する必要がある。

2 中学生はウール製のセーターを着ているの か?

 冒頭に述べたように,岩手県の中学生にとって ウール製品は身近な衣料品だと考えられる。それ では,現代の中学生は実際にウール製のセーター を日常的に着用しているのだろうか。そこで,ウー ル製のセーターの着用状況について4件法(よく 着る・ときどき着る・あまり着ない・全く着ない) で調査を実施した。また,ウール製品に代わるも のとして多く流通している「フリース素材」の服

(4)

が「セーター」に限定されていたため,ウール製 品を「着る」という回答が伸びなかったかもしれ ないが,様々な素材が開発される中で「暖かさ」 を提供する衣服がウール製品だけではなくなって きた,すなわち衣服選択の多様化が推察される。 それでは,衣料品の選択肢が広がったこと以外に, ウール製の衣服があまり選択されなくなった背景 には,一体何があるのだろうか。そこで,本研究

は技術・家庭科(家庭分野)の学習課題でもある, 「ウール製品の手入れの難しさ」というイメージ が起因するのではないかと推察し,中学生の現状 を探ることにした。

3 「ウール製品の手入れ」の経験と知識  はじめに,調査対象者である中学生が洗濯全般 にかかわる事柄を普段の生活でどの程度やってい

るのかを明らかにすることにした。調査項目は「自 分の洗濯物」を「手で洗う」,「洗濯機で洗う」,「干 す」,「乾いたものを取り込む」,「たたむ」,さら に「(乾いた洗濯物を)家族ごとに分ける」につ いて,「よくする」,「することがある」,「しない」 のいずれか1つを選ぶ形式にして,回答を得た。 その結果が表1である(網掛け箇所は最も回答が 多かった項目)。「よくする」の回答率が最も高かっ たのは「洗濯物をたたむ」で,次いで「乾いたも のを取り込む」だった。反対に実施率が低かった のは「手で洗う」で,「よくする」という回答は1 割にも満たなかった。

 次に,「(毛100%の)セーターを洗ったことが あるか」質問したところ,女子の2割程度が「ある」 と回答したが,男子は1割に満たない状況だった (図3- 1)。調査対象者全体で換算すると15.9% であり,この結果から多くの生徒がウール製品を 洗濯したことがないことがわかる。

 1985年調査では「(毛100%の)セーターの洗濯 方法」について,「手洗い・ぬるま湯・すすぎは2,3 回・日陰に干す」のが「正しい方法」として生徒 の回答結果を分析している。これは当時の「技術・ 家庭科」被服Ⅱの学習内容に基づく。調査では, 「(毛100%の)セーターの洗濯方法」を「手洗い」, 「洗濯機」,「その他」,「わからない」のいずれか から選ぶように設定しているが,1985年調査では 約7割の生徒が「手洗い」と回答している ( 図3-2)。しかし,30年以上を経た現在は「マシンウォッ シャブルニット」の登場や洗剤の品質改良により 洗浄の仕方は多様化し,2016年調査では「手洗い」 ではなく,「洗濯機で洗う」という回答の方が男 女問わず多くなっている。生徒の回答が大きく変 化した背景には,2008年頃からファストファッ ションブランドで低価格かつ大量に販売されるよ うになった洗濯機で洗えるウール製品の存在が大 きい。

図 2-1 ウール製セーターの着用状況(N=150) 図 2-2「フリース素材」の服の着用状況(N=150)

全く着ない 32.0%

全く着ない 11.3%

時々着る 27.7%

時々着る 44.6% あまり着ない

36.7%

あまり着ない 26.7% よく着る

2.7% 無回答0.7%

(5)

 「マシンウォッシャブル」を可能にしたのは, ①羊毛のスケールを樹脂で覆う,②スケールの除 去,③ 毛玉がつきににくくなる特性がある「マ イクロ抗ピルアクリル」といった化繊との混紡, に代表される加工によるものであり,毛繊維が縮 絨を起こさない(縮んだり,型崩れしたりしな い)処理があらかじめ施されている。図3- 3は, 1985年調査で「正答」とされた項目を全て選択し た生徒の割合である。1985年調査では女子の半数, 男子の1/3が「(毛100%の)セーターの洗濯方法」 を理解している,とまとめられているが,2016年 の中学生の回答をみると,男女ともに「正答」と された項目の選択率が低い。先述したように,現 代では洗濯機で洗うことができるウール製品も出 てきているため,洗濯方法の問いにおいて回答が 分かれることは否めないが,「水温・すすぎ回数・ 干し方」の部分については,現在もほぼ一般的な 方法として捉えることができる。そこで,洗濯方

法以外の問いについてみたところ,「干し方」で は「陰干し(34.7%)」よりも,「日のあたるとこ ろに干す」の選択肢の方を選ぶ生徒が多く見られ た(44.0%)。生徒の考え方としては,脱水しに くいウール製品の水分を早く除去するために,日 向が有効,と捉えたと思われるが,製品の劣化や 日焼け・黄変防止のために,直射日光を避けた「陰 干し」が推奨されている。

 生徒の全体的な回答傾向を見ると,「わからな い」という項目が選択されることが多かった。 とくに「洗濯方法」は48.0%,「すすぎ回数」は 40.0%で,それ以外の問いも2割程度の生徒が「わ からない」を選んでいた。このことは,ウール製 品の手入れ方法が生徒の日常生活の経験から推論 が及ばない状況を物語るものとも考えられる。 4. ウール製品の廃棄と再利用 

(6)

品の服(セーターやカーディガンなど)をどのよ うにしていますか」という質問をした。選択肢は 「他の人にあげる(譲渡)」,「別のものに作り直 してもらう(再利用)」,「自分で別の物に作り直 す(再利用)」,「とりあえず置いておく(とって おく)(判断留保)」,「捨てる(廃棄)」,「その他」,「わ からない」の7項目である(複数回答)。最も回 答が多かったのが「他の人にあげる(譲渡)」で 35.1%,次に「とっておく(判断留保)」が続い た(24.5%)。「捨てる(廃棄)」を選んだ回答は2 割だった。自分で作り直したり(1.9%),他の人 に作り直してもらったりする(3.8%)などの「再 利用」は少数だったが,何とか製品を活用したい という中学生の意識が垣間見える。この結果か ら,ウール製品に対する有効な手段としての再資 源化・活用のほか,衣料製造の問題(過供給と労 働問題)の課題化につながる教材開発をさらに充 実させることが急務といえる。

5. 「ホームスパン」の認知度

 岩手県の地場産品である「ホームスパン」製品 は,岩手県内のデパート,小売店,観光地(小岩 井農場まきば園,盛岡手作り村など)で販売され ている。また,先述の観光地では織り機を使った ホームスパン体験ができるところもある。そこで, 調査対象の中学生にとって,これまでの生活体験 のうえで「ホームスパン」という言葉がどのよう に認知されている/認知されていないかを見るた めに質問項目を設定した。ここで取り上げる問い は「ホームスパンという言葉を聞いたことがあり ますか」と「ホームスパンという言葉から連想す る事柄を書いてください」の2問である。

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 次に,「ホームスパン」という言葉から連想す ることを自由回答形式で回答を得た。分析の際に, 自由回答記述の内容をアフターコーディングし, 記述内容について「ホームスパン」本来の意味に 「よくあっている」,「まぁあっている」,「何とも 言えない」,「やや違う」,「全く違う」,「わからない」 に分類した。表2は先述した「ホームスパンとい う言葉を聞いたことがあるか」という問いに対す る各生徒の回答結果と,この分類をもとにした自 由回答記述との関連を表したものである。「よく あっている」の回答例は「毛糸,みちのくあかね会」 など,具体的なキーワードが挙げられているもの を選んだ。「まぁあっている」に分類したのは,「盛

岡ブランド」など,社会科や総合的な学習の時間 で学習したと思われる語や「布」「手作りのもの」 など間接的に関連する語を1つだけ挙げている場 合とした。

 最も多く回答されていた説明事項は,言葉の響 きが影響したのか,「家でパンを作る」だった。 この回答は「全く違う」のカテゴリーに当てはま る。はっきりと「わからない・知らない」と記入 された回答と無回答(空欄)は項目を分けて表中 に分類した。

 表2に表れるように,「ホームスパンという言葉 を聞いたことがあり」,しかも「よくあっている」 というカテゴリーに入る回答をした生徒は全体の

11.3%だった。「ホームスパンという言葉を聞い たことがある」という回答をして,適合度が「や や違う」,「全く違う」,「わからない」,「記入なし」 に分類された生徒は全体の35.4%を占め,「言葉 として聞いたことはあるけれど意味をよくつかん でいない,表現できていない」状況だった。新し い学習指導要領では,地域社会の生活文化や産業 について理解を深め,日常生活に活かす力の育成 を重視している。岩手県における貴重な産業とし てホームスパンを見つめ直し,ウール製品の特質 等に関する教材のヒントとなることが今後求めら れるといえよう。

Ⅵ まとめ

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中学生の日常生活における着装状況では,ウー ル素材の服よりもフリース素材の服をよく着る, という回答が多く「セーターを洗ったことがあ る」という回答は全体で15.9% だった。「マシン ウォッシャブル」製品が増えてきた現状から,「手 洗い」という回答が1985年調査に比べて減少した が,洗い方が「わからない」という回答も多く見 られた。よって,中学生は「ウール製品はあまり 着ないし,手入れも難しそう」と捉える状況が 調査結果から示唆された。「着なくなったウール 製セーターの扱い(複数回答)」で,最も多かっ たのは「他の人にあげる」だったが,「とりあえ ず置いておく(とっておく)」という回答も多く , 中学生には「衣服の分別」機会にあまり直面せず, 判断留保している状況も見えた。「作り直す(再 利用)」という回答は全体の1割に満たなかったこ とから,ニット製品の「編み返す」という長所は 現代の中学生にとっては身近ではないことが明ら かとなった。中学校段階では,ウール製品の被服 管理は重要な学習内容として扱われてきたが,中 学生の現実の生活と製品の技術革新を踏まえた教 材解釈や,消費生活と環境の視点を交えた教材研 究が必要であることが改めて浮き彫りとなった。  岩手県の地場産業である「ホームスパン」は, 調査対象の中学生では,約半数が「聞いたことが ある」と捉えていたが,正確にイメージできてい た生徒は1割程度だった。「ホームスパン」は本来, 大量生産ではなく,小規模の生産者が羊毛を「染 める・つむぐ・織る」一連の作業をすることを指す。 ウール製品の管理に関する学習は被服材料,洗剤 の性能改善に伴い,日々更新する内容を含む。木 村はウール製品の手入れに関する学習は実習・実 験が必要であり,「根拠をもった」学びが必要だ という5)。その点で,ホームスパンの技法を効果 的に取り入れて授業の中で展開することで,学習 が深まると考えられるが,大人数の学級で実践す る場合には,段階を踏んだ教材・教具の工夫が不 可避である。この点については,今後実践を含め た検証が必要である。実践化に際し,ホームスパ ンの特性,羊毛製品の材料特性を加味した教材提

案と子どもの発達段階に応じた製作場面における 指導・支援について改めて検討したい。

 なお,本研究は平成28年度岩手大学教育学部プ ロジェクト推進支援事業及び科学研究費補助金基 盤研究 (C)( 課題番号:15K00717) の助成を受け たものである。

<引用・参考文献>

1)LLP まちの編集室編 (2015). 岩手のホームス パン,101

2)岩手県技術・家庭科教育研究会 (2000). 技術・ 家庭科ってなに? ~教科の本質を追い求め続け た研究実践の軌跡~ ,111

3)渡瀬典子 (2013). 家庭科教育における 「被服 製作」はどのように扱われてきたのか . 年報・家 庭科教育研究34,1-12

4)渡瀬典子 (2016).「技術・家庭科」における「手芸」 の中の「編み物」教材−「生活技術」の視点か ら―. 岩手大学教育実践総合センター紀要 ,No.15, 169-178

参照

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