7 17-29 (200)7 1
近畿大学農学部紀要 A
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第 4号
里山修復 プロジェク トのめざす もの
池上 甲一 ・米虫 節夫
(近畿大学農学部環境管理学科)
0
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キーワー ド:豊 山 現代
GP
人 と自然の相互作用 生物多様性 環境理解教育 里 山修復プ ロジ ェク トの経緯9 8 9
近畿大学農学部 は
1
年 に、東大阪市 の本部 キ ャンパ スか ら現在 の奈良キ ャンパ スに移転 しha た。奈 良 キ ャ ンパ ス には、 お よそ40 に及 ぶ
「里 山」が残 っている。 この 「里 山」 は、かつて io
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復 プロジェク トは、その名の通 りまずは 「里山
」
の括弧 をはず して里 山に戻 そ うとい う試みであ る。
最近になって、溜池や棚 田、平地の水 田、その 背後 をなす里山や草地などは、人間の居住 ・生産 農地 または農用林 として利用 されていた とい う。 空間としての農業集落 とあわせて、里地 ・里 山と 事実、今では利用 されていないい くつ もの溜池や 総称 され ることが多 くなった 1。里地 ・里 山が注 放棄 された棚 田が 「里山」の中にある谷筋 に沿っ 目されるようになったのは、後 にも詳 しく述べる て散在 している。 ここでは、便宜上 「里山」 と表 ようにい くつ もの理由があるが、中で もそれが人 記 してい るが、実際 はほ とん ど手が入 ってお ら 間の手の入 った二次的 自然 を表象 し、そこに 日本 ず、本来の豊山とは言い難い状況にある。里山修 的なビオ トープの典型 を見て とることがで きると
l里地 ・里山とい う表現 は、環境庁 (現在環境省)の里地研究会によって一般化 したと考えられるO環境庁企画調整局里地研究会、1996、r里 地からの変革一 地球環境時代のふるさとづ くり」時事通信社、を参照。
18 池上 甲一 ・米虫 節夫
いう点に注 目したい。 とい うのは、農学部キャン パス内の里山はまさにその ような里地 ・里 山とし て位置づけることがで きるか らである。
そ うであるとすれば、農学部キャンパス内にあ るこの里地 ・里山を今一度、 日本的 ビオ トープと して再生 し、その過程 を通 じて教育 と研究に活用 することがで きないだろうか。 この ように、私た ち環境管理学科 の教 員 は考 えたのであ る。2005 年に改組 によって6学科体制の新農学部がス ター
トした際に、環境管理学科 は遺伝子 レベルか ら地 球規模 に至 る までの複合 的 ・総合 的 な環境 問題 を、農学の視点か ら解 くことを学科の 目標 に定め た。里山修復の取組 は、この 目標 を具体的に実現 してい く上で格好の素材 となる。 というのは、里 山の修復 には森林生態や森林施業 など生物学、林 学の分野 にとどまらず微生物学や保全生態学、土 壌学、水文学、 さらには社会学や政策学 にまで関 連する非常 に総合的かつ応用的な分野の知識 を必 要 とする し、里山の保全 ・評価 は 日本だけの問題 で もな く国際的にも広が りを持つ問題だか らであ る。 この ような意味で、それはまさに環境管理学 科の英知 を結集するのにふ さわ しく、本学科の 目 指すべ き人材育成の方向にも適っている。
とはいえ、学科内に里山の専 門家がいるわけで はない。だか ら、専門的にきちんとした ものに し ようとすれば、 どこに も手 をつけるわけには行か ない。それでは、いたず らに時間を浪費するだけ である。それよ りもともか く、キャンパス内の里 山を修復す るプロジェク トを立ち上げ、あ とは走 りなが ら考 え ようとい うことで、里 山修復 プ ロ ジェク トは始 まった。
2005年 5月 に は、「鉄 腕 ダ ッシュ村 」 の 「顧 問」格 として も有名な守山弘先生 (東京農業大学 客員教授) と (財) 自然環境研究セ ンター副理事 長のノ」、林光先生 (元環境省 自然環境局長) をお招 きして、環境管理学科創設記念講演会 を開催 した が、その際に両先生か ら農学部キャンパスの里山 修復 は研究的にも教育的にも大いに有意義だとい う励 ま しをいただいた。大家 のお墨付 きを待 て、
私 た ちの里 山修復 プ ロジェク トに対す る熱意 は いっそ う強化 され、その具体化のための議論や計 画づ くりに拍車がかけ られた。
もとより、農学部の中には里山を研究や教育の フィール ドとして活用 している教員や院生 ・学生
2木曽材木奉行補佐格の寺町兵右衛 門の筆記 によるといわれているO
も多い し、豊 山それ 自身は農学部お よび大学本部 の管理下 にある。そこで、教授会 に諮 り、農学部 内 に各学科並 びに事務部か らなる里 山修復 プロ ジェク ト委員会 を設立す ることを認めて もらい、
あわせてその企画 ・実行組織 として里山修復 プロ ジェク ト専門委員会 を立ち上げることとした。
この間の経緯 は、表 1を参照 されたい。以上の ような経緯の中で、次第に里山に対す る理解が深 ま り、その修復過程 を教育に組み込んでい くため のアイデアや基本的理念が固まっていった。そこ で、文部科 学省 の 「現代 的課題 に向けた教 育実 践」 (いわゆる現代GP) に応募 しようとい う意 見が出され、併せて事務部か らの働 きかけもあっ て、現代 GPの申請 に向けた議論 を里 山修復 プロ ジェク ト専 門委員会で重ねることとなった。 この 集 ま りには里山に関連する研究を行 っている他学 科 の教員にも参加 を願い、拡大専門委員会 として 集 中的な議論 を行 った。折 しも2006年度の硯代 GPテーマ には 「持続 的社会 に向けた環境教育の 実践」が追加 された。 まさに、「時や よ し」 とい うことで、農学部教授会 ならびに大学本部か らも 応募の承認 を受けることがで き、申請に踏み切 っ
たのである。
結果 としては、幸いにも、現代 GPの実践校 の 選定 を受 ける ことがで きた。 この ことを機 と し て、里山修復 プロジェク トが何 を目指そうとして いるのかを、本 プロジェク トの提唱者ならびに現 代 GP取組責任者 (プロジェク ト・リーダー)の 立場 か ら紹介 してお きたい。 むろん、本稿 は現 代 GPの単 なる紹介 に とどまらず に、そこか ら展 望で きる農学部教育のあ り方について も論 じるの が趣 旨である。本稿が農学教育 さらに進んで科学 教育に関す る議論の きっかけとなることを望みた
い 。
2.近畿大学農学部 キ ャンパ ス内里 山の魅力 2.1 里山とは何 か
里山修復 プロジェク トの主たる対象はい うまで もな く里山である。それでは、里山とは何 だろう か。 ここでは、その定義 を簡単 に検討 したのち、
近代農学部キャンパス内の里山の魅力 を論 じてみ
た い 。
里 山 とい う呼称 は もともと
、1 7 5 9
(宝暦9 )
午 の F木曽山雑話』 2に 「村里家居近 き山をさ して9 里 山修復 プロジェク トのめ ざす もの 1
表 1 近畿大学農学部里山修復プロジェク トの経緯 ( 5200年度)
月 日 事 項
20050.40,1環境管理学科発足
7奈良県庁 、奈良市役所 に対す る設立記念講演会 40,
0 0 )の後援依頼
2読売新聞奈良支局 よ り里Ll」修復 プロジェク トについて取材 4 51. (
ll0.
4環境管理学科設立記念講演会 51.
0
0里 山修復 プロジェク トについて理事長への説明会 63.
0
l 学科長会議 、教授会にて里 山プロジェク ト承認 0l.
1
3産経新 聞大阪本社 よ り豊山修複 プロジェク トについて取材 l 7第1回里 LJ」修復 プロジェク ト委員会
ll0. l1. ll2. ll2.2
0産経新 聞に記事掲載 (関東地方では、11 第1回里山プロジェク ト専 門委貞会
2 . )4 2イカ リ消毒
20.
1 (樵) よ り桜苗木 105本寄贈 、贈呈式挙行
事務部長は じめ事務関係者 らと里山プロジェク ト関連の現地視察 8AB
20.
1 C放送、里 山修復 プロジェク トについて資料提供 9農学部 「
20.
1 里 山修復 プロジェク トパ ンフレッ ト」のための取材 4「
21.
1 商経 ア ドバ イス」 より里 山修復 プロジェク トについて取材 9桜植樹祭、奈良 TV取材 、夕方のニュースで放送
21, 1
0読売新 聞な ら地方版 に植樹祭 の記事 22.
1 22.2
1 里 山プロジェク ト用パ ンフレッ ト企画検討会 1読売新聞 「
23.
1 ひ と人抄」取材
200 0里 山プロジェク ト用パ ンフレッ ト企画検討会
G 11.
60.
注)米 虫節夫 ・池上 甲-の活動記録 に基づ き作成 7現代
11.
0 p-の応募 を教授会 にて説明 1第 2回里 山プロジェク ト専 門委員会 13.
0
3第 3回里 山プロジェク ト専 門委員会 20.
0
022.8現代 GP計画 について、拡大教授会で説明 30.
0 3第 4回里 山プロジェク ト専 門委員会 31.
0 0第 5回里 山プロジェク ト専 門委員会
里 山 と申 し候」 と初 出する ところに起源があるら 1 096年代前半 に 「里 山」なる言葉 を発案 した 5と しい 3。 とはい え、その用語 は里 に近い 山を里 山
と言 ってい るだけで ほ とん ど意味 をな してい な い。 お そ ら く当時 は 山 と言 えば、現在 の私 た ち が想定す る ような里 山ではな く、「ホ トラ山」や
「肥草 山」 と しての草地か らなる山か 「刈 敷 山」
だった と考 え られる。 この点については、江戸期 の絵 図や絵画資料 を駆使 して、近世の山地景観が 主 として草 山か ら構成 されていたことを明 らかに
した水本邦彦の研究が参考 になる4。
私 た ちは、里 山 とい う言葉 の響 きか らそれが ず っ と昔 か ら使 われていた と思いが ちであるが、
里地 ・里 山といった意味合 いで人口に胎灸す るよ うに なったの はそれ ほ ど古 い こ とで はない。 武 内和 彦 に よる と、森林 生態学者 の四手井綱英 が
され、四手井 自身の次の ような述懐 を紹介 してい る。「この語 はただ山里 を逆 に しただけで、村里 に近 い 山 とい う意味 と して、誰 にで も解 るだ ろ う。 そ んな考 えか ら、林 学 で よ く用 い る F農 用 林』 を F里Lu と呼ぼ うと提案 した」。
四手井の述懐か らも分かるように、当初 は里 山 それ 自身にさほ ど深い意味や思いが込め られてい たわけではない。それが、里 山とい うと、農用林 や薪炭林 とい う樹林本来の用途 を超 えて、それ以 上の何か を内包す るかの ように捉 え られるように なったのはなぜ だろ うか。 この問題 については別 途ゆっ くり検討す る として、 ここではその ような 現象が 日本の 自然か ら各種 レベ ルの生物多様性が 弱体化 し、同時 に 日本 の空 間か らふ るさと-原風
7 0
3
8 9
0
三男、1 、r近世林業史の研究J吉川弘文館、88 水本邦彦、20
武内和彦、200l、「里山の自然をどうとらえるか」武内和彦 ・鷺谷いづみ ・恒川篤史編著 r豊山の環境学J東京大学出版会、1頁 頁。武内和彦 (2001)に引用されている
所 .
、r草LLrの語る近世jLLJ川出版会o
20 池上 甲一 ・米虫 節夫
景性が失われつつあることと深 く関連 している可 能性が高い ことだけ指摘 してお こう。文部省唱歌 の 腐
乱
6で歌 われた 「兎迫 ひ しかの山、小鮒 釣 りしかの川」 を求める心性 と、かつてはあ りふ れていた タガメや カブ トムシが消 えていることの 衝撃 とが、里 山に現代的な意味 を見出す推進力 に なった と考 えられる。△ ダ ケ
図1 典型的な農村の空間構造
本来、里 山は図 1に示す ように、 日本の農村空 間を構成す る 1要素であった。農村空間は田 と畑 (ノラ)、草 地 (ハ ラ)、里 山 (ヤマ)、奥 山 (ダ ケ) とつづ く同心 円状の空間か らな り、そこを川 が貫 いた りイケ (溜池)が点在 した りしていた。
農村 の人び とはその暮 らしを支 えるために、 この ような空間 をた くみに利用 して生計 をまかなって きた。 田畑 は農耕 に利用 され、 自給用の食料や販 売用の小商品 を生み出 した。図2の ように、ヤマ ヤ草地か らは田畑 に月巴料 として入れる草や木の枝 (刈敷 き)、家畜のえさ (株場)や家畜小屋 に入れ る敷 き料、屋根 葺 き用 の萱、炭 な どが入 手 で き る 7。
ここで大事 な点 は 2つあ る。 ひ とつ は、ヤマ、
ハ ラ、 ノラと連 なる空間がヤ シキのあるサ トと原 生 自然 に近い ダケ とを緩衝す る役割 を担 っていた ことである。 ダケは山岳信仰か らも推測 されるよ うに、神 と精霊の空間であ り、基本的に人智の及 ぶ空間ではない とされて きた。その周辺 山野 に棲 む野生鳥獣 は、直接接触すれば人体 に危害 を加 え る可能性 を持つ し、 ノラに出て くれば農作物 を荒
6高野辰之作詞、岡野貞一作 曲 .1914(大正 3)年に、「尋常′」、学唱歌
7大井正、2 (泊2、r星山 と人の履歴J新思索社C
らして しまう。だか ら、原生 自然 と生活空間 との 間には移行帯 を設ける必要があった。いわば棲み 分 けである。 その ことに よって、二次的 自然 と し てのヤマ とハ ラ及び農耕空間 と してのノラは人間 空間 と自然空間 とのエ コ トー ン (移行帯) として 作用す る。エ コ トー ンは、人間の世界 と自然の世 界が次第に入 り交 じってい くミテ ィゲー シ ョンと 同義であ り、そのために後で述べ るような 日本的 なビオ トープにおける生物が生育で きる。農業生 産のための水 田が 「魚のゆ りか ご」 として注 目を 集めるの も、里地が ミテ ィゲー シ ョン機能 を発揮 してい るが ゆえである8。水 田で コウノ トリが え さをついばんでいた り、田んぼが生 き物でい っぱ いになった りす るの もこうした ミテ ィゲーシ ョン 機能か ら説明で きる。
図2 里山の伝統的な利用形態
出典)犬井正 (2002)、1 3頁、図 3を基に作図
もうひ とつ は ノラ (農 地)、ハ ラ (野 原)、 ヤ マ (里 山)が一体 となってお り、その有機 的な結 びつ きの下 に里 山の利用が行われていた とい うこ とである。里 山には定期的に人手が加わ り、樹林 はその萌芽更新 によって繰 り返 し利用 された。樹 林 の施業期 間は用途 によって異 なるけれ ども、刈 敷 きと しては1,2年生 の枝 や下草 を使 い、炭焼 きや椎茸のホダ木 には 10年生か ら 20年生程度の 枝 を使 った。落ち葉 は貴重 な有機質肥料 の源 とし て、あるいは苗床の踏み込み材料 と して集め られ た し、松 葉 は焚 き付 け と して集め られた9。 この
第六学年用」に採用 された0
8滋賀県では、ナマ ズや フナなどが琵琶湖 に隣接す る内湖か ら排水路 を遡上 して水 田に入 り、産卵で きるようにす るための 「魚のゆ りか ご水 田 事業」を実施 している。
9松林 の落 ち葉掻 きが行 われな くなったために、 マツタケが生 えな くなったことはよ く指摘 されている。
里山修復 プロジェク トのめ ざす もの 21
ように多様 な形で人手が加 わることによって、里 山は極相 (クライマ ックス) に至 ることな く、特 定の植生段 階に とどまった。いわば適度の人為的 撹乱が植物相 の遷移 を防 ぎ、ある時点での均衡 を もた ら したのである。そのことが、山野草や きの こ類 な どの安定的な供給 を保障 して もいた。
つ ま り、里 山は基本 的に二次遷移 を繰 り返す植 生 とい うことになる。 したがって、 コナラやクヌ ギ、あるいはアカマ ツなどの陽樹林が里 山を代表 す る樹種 となる。言い換 えれば、これ らの樹種 は こう した人為的擾乱 、人為的管理 にな じむ樹種 な のである。 こう して、里 山には コナ ラ、 クヌギ、
ブナ な どの落葉広葉樹 、 ア カマ ツや クロマ ツ と いった針葉樹 か らなる二次林が形成 され ることに なった。
そこには、人為的撹乱 による均衡 を前提 とした 生物相が形作 られてい く。す なわち、陽性植物で ある。陽性植物 は補償点が高いため、陽樹林 の中 で しか生息で きない。 この陽性植物がいわゆる里 山植物である。里 山には、里 山植物 を食草 とす る 昆虫類やそれに連 なる上位捕食者 の連鎖が次々に 形成 されてい く。 それは生物 による適応過程であ るが、 ここにで きあが って くる生態系 は、生物 自 身が人為 に依存せ ざる を得 ない とい う特 質 を持 つ。逆 に見 ると、この関係 は人間が生物の生存戦 略 に手 を貸 しているとい うこともで きる。 日本の 自然 は、この二次的な自然 をベース と している点 に特徴があ り、本来の意味での原生 自然 は きわめ て限定的である。つ ま り、 日本の ビオ トープは人 間 と自然 の共 同作業 の結 果 だ とい えるのであ る。
かつては どこで も見 ることので きたカタク リやキ ンランな どの里 山植物が、今ではなかなか縁遠い 存在 になって しまったの も、豊 山に手が入 らな く な り、人為 的撹乱 が行 われ な くな ったためで あ る。
2.2 農学部キャンパス内里山の魅力 と修復計画 里 山の基本的な要素 は何 だろうか。その要素が 澗 た されてい る程 度 に よって、里 山の魅 力 が 決 まって くると考 え られる。先 に述べ た ように、近 世の 「里 山」はかな りの地域で革山 と して利用 さ れてお り、一面が草地で覆われていたために しば しば洪水 や土石 流 に悩 まされた とい う記録 もあ る。 こうした革 山は、果た して里 山 と呼べ るだろ
うか。 い くら雄大 な風景が広が っていて も、私た ちは阿蘇 ・外輪 山の草原や奈良 ・春 日山の草地 を 見てそれ を里 山 とは呼ばない。逆 に、い くら農村 の近 くにあ って も、スギヤ ヒノキの用材林や竹林 で全面的に覆われた山について も里 山と呼ぶ こと にはため らいがあ る。
とい うことは、里 山の基本的な要素 として もっ と も重 要 な点 は、人為 の加 わ った クヌギや コナ ラ、あるいはアカマ ツの二次林か ら構成 されてい る とい うこ とになるだ ろ う。 そ うであ るか らこ そ、林床 に陽が入 って、里 山植物が育 ち、多様 な 消費者 と分解者が生息 で きるのである。 むろん、
里 山にはその樹種構成や生物相 には地域差が存在 しているが、基本 はこのあた りにある と考 えて よ いだろ う。
したが って、近畿大学農学部キ ャンパス内にあ る里 山 (以後、キャンパ ス里 山とす る)に魅力が ある とすれば、 まず もって この基本的な要素 を備 えているか、あるいは備 え うる余地があるとい う 条件が必要 となる。写真 1は、キ ャンパ ス里 山の ある場面 を撮影 した ものであるが、樹種構成 とし ては最低限の条件 を備 えているとみて よい。関西 の里 山は どち らか とい うと、地形的には小高い山 塊状 または古墳状で、 しか も傾 きの きつい斜面の 上 に広が る ことが 多い (写真 2)。 この点で、 国 木 田独歩の 「武蔵野」 に代表 されるような平地林 が中心の関東の里 山と異 なっている。 こうしてみ る と、キャンパス里 山は西 日本の典型的な里 山環 境だ といって よさそ うである。
キ ャンパ ス里 山の第 1の魅力が西 日本の典型的 な豊 山だ とい う点 にあるとすれば、第 2の魅力 は 都市 に隣接 してい る里 山環境 だ とい う点 にあ る。
もともとの里 山 とは、里地の一部 をなす要素 なの で、奥 山 と都市の中間に立地す る ものであ り、 こ の定義 によれば都市空 間か ら少 し距離の離れた と ころにあ るのが通例 とい うこ とになる。 しか し、
キ ャンパ ス里 山は、奈良市 や生駒市 は もちろん、
大 阪市 の よ うな人 口集 中地 区 (DID地 区) と も 近接 してお り、 日常的なアプローチが可能だ とい
う利点 をもっている。
第 3の魅力は、多様 な生物が生息 しているとい うことである。桜谷保之の調査 によると 10、キャ ンパ ス里 山 におい て
9 8
種 類 の鳥類 が観 測 され、その うち、観測頻度が 「まれ」 または 「少 ない」
'o桜 谷保之、2006、「近扱大学奈良 キャンパスにおけるチ ョウ類の生息状況
」
F近畿大学農学部紀要」 第 39弓、桜谷保之、2003.「近畿大学奈良キャ ンバ スにおける レッ ドリス ト動物種の生息状況」
T近畿大学農学部紀要』 第 36号、な と'.22 地上 甲一 ・米虫 節夫
写真 1 農学部キャンパス内の里山
ーヽ■
写真 3 関東の平地林型の里 山 (茨城県かすみが うら 市) 撮影地点は旧霞 ケ浦町
もの は 63種 類 、絶滅危倶種 は オ オ タ カ、 サ ン シ ョウ クィ、ハ イ タカ、 ハ チ クマ 、 ハ ヤ ブサ の 5 種 類 に及 ぶ。広 い なわぼ りと豊 か な餌 が 必要 な猛 禽類 が観 測 され てい る こ とは 、 キ ャ ンパ ス里 LLlの 生 物 多様 性 を暗 示 して い る。 チ ョウ類 に つ い て は、66種 類 が 観 測 され 、 その うち10種 が北 上 種 であ る。 絶 滅 危倶 種 の オ オム ラサ キ も生 息 してい る。 そ の他 、 カ ス ミサ ンシ ョウ ウオやベ ニ イ ト ト ンボ な ど奈 良 県 版 レ ッ ドデ ー タブ ックの記 載 種 も、 生 息 して い る。2006年 5月 に実 施 した 溜 他 のか い ぼ りで も、水 田の シ ンボル フ ィ ッシュで あ る メダカや ドンコな ど多数 の魚類 や水 生 昆 虫 の生 息 も確 認 され た。
この よ うに キ ャ ンパ ス里 山 には 多 くの魅 力 が あ る とはい え、前 掲 写真 1や写実 4の よ うに長 ら く 手入 れ され て こなか った た め に、 人為 の加 わ った 明 るい 二次林 とい う状 況 には ない。 や は りきちん と手 を加 え、里 山 と して修 復 し、 そ のた め に里 山 と一 体 的 な棚 田 と溜 池 も復 活 させ 、 ミニチ ュア的 で はあ るにせ よ、極 力 里 地 的 な空 間構 成 を取 り戻
写真 2 関西の里山遠景 (奈良県生駒市)
写真 4 キャンパス里山の荒廃状況
す こ とな しに、 そ の魅 力 を もっ と引 き出す こ とは で きない。
とは い え、40haの キ ャ ンパ ス里 山 をす べ て 一 度 に整 え る こ とは容 易 な こ とで は ない。 そ こで、
当面 はい くつ か の ポ イ ン トに絞 り、 ビオ トー プの 整 備 を含 め て里 山修 復 を進 め て い くこ と と した。
その整 備計 画の平 面概 要 図 は図3に示 す とお りで あ る。
里 山修 復 プ ロ ジ ェ ク トは、 この 図 に掲 げ た整 備 ・修 復 だ け を狙 ってい るわ け で は ない。 整 備 ・ 修 復 の前提 と して、現 状 を き ちん と調 査 し、実態
を把 握 す る こ とが何 よ りも重 要 で あ る。 このベ ー ス ラ イ ン調査 を どれ だけ き ちん と実 施 で きるか に よって、 その 後の整 備 ・修復 の効 果 測定 にお け る 正 当性 に影響 が生 じる。 だか らで きうる限 り、時 間 をか けて調査 す る こ とが重 安 とな る。調 査 ・研 究 に は教 員 や 院生 だけで な く、学 部学 生 の 自発的 な参加 も求 め た い。 自 らい ろい ろな こ とを測 定 し た り、採 集 した り、 その結 果 を評 価 ・分析 した り す る こ とで教 室 で は なか なか 身 につ か ない知 識 や
里山修復プロジェクトのめざすもの 23
図3里山修復プロジェク トの平面図
問題の着眼点 を体得で きるだろ う。 さらに、キ ャ ンパ ス里 山を地域社 会に開放 し、小 中高生や市民 に対す る環境学習の場 として活用す ることも考 え られて よい。す なわ ち、里 山修 復 プ ロジェ ク ト は、整備、調査、交流 とい う3つの柱か らなる広 義の参加型教育 ・調査事業 なのである。繰 り返 し になるが、 この プロ ジェク トは長時 間を要す る。
短期的な成果ではな く、腰 を落 ち着 けた息の長い 視野で効果 を測定 してい く姿勢が重要である。
3.
里 山修 復 プ ロジ ェク トにお け る教 育 の実施 体制上述の ように、里 山修復 プロジェク トは広義の 教育実践で もある。そのね らいについては、次の 節で述べ ることと し、 ここでは現代 GPとして進 め る教 育上 の実施体 制 について説明す る。 なお、
現代 GPと して選定 された里 山修復 プロジェク ト を、以下では現代GPプロジェク トと表記す るこ とに しよう。
3.1 教育課程 と教育方法
近畿大学 で は 2001年 に教養 部 を改組 し、全学 共通教 育機構 を新設 していわゆ る くさび形 の教 養教育 を展 開 して きた。2007年度か らはさらに、
各学部の特性 を反映で きるような新 しい教養教育
出典)里山専門委員会作成
のあ りかたを検討 中である。2006年 10月現在で、
お よその方向が打 ち出されている。
農学部では、研究室科学 とフィール ド科学が主 要 な研究 ・教育方法であ り、具体 的な実践 に重点 を置 くとい う特徴がある。 だか らいわゆる教養教 育 には、 この ような農学部特有の教育方法-橋 渡 しをす る とい う役割 も必要である。 とくに生命 と 自然 を、農林水 産業 ・食品産業の生産過程 に組み 込んでい くとい う農学の本質 を考慮すれば、人 と 自然 との関係 を体感 し、生命 と自然 に対す る尊敬 と愛情 を身につけることが重要である。
そ こで、現代GPプロジェク トでは以下の3点 に配慮 して教育課程 を編成す ることとした。
第1に、専 門性の基盤 と して備 えるべ き自然 と 生命への倫理観お よび生命 を思いやる心 を養 うこ とが重要であ り、そのために理論 に加 え、実践活 動 による直感的、経験 的な知 を重視す る。
第2に、主たる対象 は、本取 り組みの趣 旨か ら して全学科 の 1,2年生 とす る。 ただ し、後述す る学生 イ ンス トラクター制度 につ いて は 3年生、
4年生、博 士 前期 課程 院生 まで含 め る こ ととす る。
第 3に、地域か ら学 び、地域 と協働す る姿勢 を 強化す る。
24 池上 甲一 .米虫 節夫
この 3つの観点か ら、次の図 4の ような教育課 程の仕組み を考案 した。す なわち、正課教育 と正 課外教育 とを組み合 わせ、有機 的に連携 で きる よ うな仕組み をね らい と した。
‑
l FO‑会 l
図4 現代GPプロジェク トにおける教育課程の基本 的考 え方
正課教育 と しては、教務委員会 との協議 に基づ き、新設科 目を含 む対応 を計画 した。第 1に、必 修 ・1年生 配当の基礎 ゼ ミにおいて、1‑ 2回の 里 山観 察 ・実習 を行 う。2006年 には部 分 的 な試 み だ ったが、2007年度 か らはで きるだけ全学科 で対 応 で きる ように したい。 第 2に、2007年度 のカ リキュラム改訂時 には、実習形式の科 目と し て里 山学特別演習 (1年生、集 中講義扱 い、年 5 回、1単位)、環境教 育論 (1年生、講義科 目、2 単位)、里 山学特別講義 (2年生、集 中講義扱 い、
年 5回 2単位) を新設す る)).いずれ も選択科 目 で、全学科 を対象 とす る。
里 山学特別演習 は、現代
CP
プロジェク トの取 り組みで行 う里山実習 を充当 し、 また里 山学特別 講義 は同 じく連続講座 をもって充てる。両科 目の 講師 としては、外部か ら専 門家、実践家 を招 くほ か、地元 自治体が開講 しているシルバー大学修了 者 や地元の農家、あ るいは NPOに も協 力 を求め る。里 山学特別演習 と里 山学特別講義の企画 ・運 営 と成績評価 は里 山専 門委員会 の教員が担 当す る が、企画 については学生か らの提案 を積極 的に受 け入れてい きたい。成績評価 については、基本 的 に特定のテーマに基づ くグループ発表 と実習 ノートの提 出によって行 う,
里 山学特別講義 は1回につ き、2人の講師 を配 置 し、それぞれ 1.5時間の時間 を割 り振 る。その うちの 1人は自然 と人間、農 ・食 と人間など農学 部教育 に共通す るテーマについて広い視野か らの 講義 を行 うもの とし、可能な限 り農学部外 か らの 講師 を招聴す る。 もう 1人は里 山を素材 とす る専 門領域 につ い て、 た とえば里 山の生 産者 ・消 費 者 ・分解者 とい う生態系の仕組み、土壌 ・水質な どの物理環境、歴 史や政策な どの社会環境か ら構 成する もの とする。
里 山学特別演習については、里 山管理に必要な 技術 、た とえば地帯 え、下草刈 、枝打 ち、間伐、
除伐 な どの森林管理や緑 化のための理論 と実践、
土壌や水 質の分析 、生物観察や標本 の作製、社会 調査の技法 な どを盛 り込むことがで きる。
正課外教育 については、里 山の整備 ・保全、里 山調査 、里 山の観察 と体験学習 とい う3つの柱 を 中心 に実施す る。 この企画 と運営 については学生 団体 の 「めだかの学校」、「フィー リンク」、「調査 班」 を含 む里 山専 門委貞会が担当す る。里 山調査 お よび活用 ・交流 については学生団体の 自主的運 営 を重視す る。ただ し、里山整備 プロジェク トに ついては、大学財産の管理、地元 自治体 との協議 連絡 (風 致地 区規制対応 な ど)、作業 中の リス ク 管理 な どの観点か ら、主 として環境管理学科 の専 門科 目の中で実施す るが、一部分 については関心 のある他学科学生 に対 して もオープ ンとす る。里 山の調査 ・評価 については、鳥轍班
( GI S
マ ップ の作成、利用)、陸域生態班 (内部で昆虫、植 物 な どに分 かれ ることもあ る)、水 圏生態班、水質 班、社 会調査班 の 5つ に分 けて、学生 を中心 に、自主的な勉強会 と調査 を定期的に実施す る。その 中には地域社会の中に残 されている里 山利用の智 恵 を学んだ り星 山保全の実践活動 を した りす るこ とも含 まれる。観察 と体験学習 については、地元 の小 中学生や住民 を対象に開催するが、そのため に地元 自治体 と交流協定 を結んで組織 的な対応が 可能 となるようにつ とめる。
さらに、正課外教育の企画 ・運営 について、学 生の参画 を促すために学生 インス トラクター制度 を導入す る。 この制度 は原則 として、正課教育の 里 山学特別講義 と特別演習 な ど指定科 目の単位修 得者 の うち、一定 の基準 を満 た した学生 に対 し て、農学部が認定す る学生 イ ンス トラクター修 了
‖いずれ も科 目名は授業の内容 を表現するものであ Y)、正式 な科 目名 としては変更があ り得る。
里 山修複 プロジェク トのめ ざす もの 25
証 を授 与す る とい う仕組 み であ る。学生 イ ンス トラク ター は、里 山学特 別講義、特 別演 習、勉 強会、調査活動 を通 じて得 た成 果 に基づ き、学 内、学外 向けの里 山実習 ・観察会等 を企画 ・指導 す ることが期待 される。中で も正課教育の里 山学 特別演習のアシス タン トや正課外教育で行 う調査 活動や観察会の リー ダー と しての役割 を望んでい る。 なお インス トラク ター に望 まれ る コ ミュニ ケー シ ョン能力 につ いて は、すで に学外 専 門家 (NPO)の協力 を得 て講座 を開始 している。
3. 実施体制2
現代 GPの 申請単位 は最小で も学部であ り、か つ 申請者は学長である。 また学部単位の取 り組み が採択 された場合で も、学長がマ ネジメン ト上の 責任者 となっている。 さらに、現代 GPのね らい としては、学部単位の取 り組みが可及的に大学全 体 に拡大 し、その成果 を大学全体で共有す ること にある。 したが って、大学本部 と学部 との連携が 問われることとなる。 とくに、近畿大学農学部の ように、大学本部 とは別のキャンパスに拠点があ る場合 にはそのことが重要 な課題 となる。
しか し大学本部 と農学部は別 キャンパスである とはいえ、幸いにも車 で 40分程度の距離 にあ り、
すで に 日常的 な連絡 システムが構築 されてい る。
その基盤の上 に、現代 GPプロジェク トに際 して 大学本部の職員が協力委員 として里山専 門委員会 に参画 し、主 と して活動 の記録 や教 育成果 の公 表、学長 との連絡 にあたることとなっている。
さらに現代 GPプロジェク トの適正 な運営 ・管 理のために、里 山専 門委員会は所定の フォーマ ッ
トに基づいて学長への定期的な活動報告及び予算 執行報告 (年 4回) を行 うこ とと しているほか、
学長 を委員長 とす る管理評価委員会 を半期 ごとに 開催す る。 これ らの体制 によって、大学 と しての 系統 的なマネジメン トを確保で きる とともに、現 代 GPプロジェク トの成果が ほかの学吾机こ波及す
る きっかけになる もの と思 われる。
実質的な現代 GPプロジェク トの舞台 となる農 学 部 で は、以下 の ような実施体制 を整 えてい る
(図5)。 まず、現代 GPプロ ジェク トの企画 ・運 営 は里 山委員会 及 び里 山専 門委 員会が 中心 に な る。里山委員会 は全学科及び事務部か らの選 出委 員計 10人に よって構 成 される。里 山専 門委貞会 は、教職 員 (2006年 9月現在 で教 員 10人、農学
部職員 4人、本 部職員 1人)、学生 ・院生 (学生 2人、院生 2人)、地元農家 (学外指導員)1人か ら成 る。実質的な企画 ・運営は迅速性 と柔軟 な対 応が求め られるために、豊山専 門委員会が担 って い く。
図5 農学部における現代 GPプロジェク トの実施体制
学生 ・院生 については さしあた り、学生の任意 団体 であ る 「めだかの学校 」 と 「フ ィー リンク」
を中心 に、企画 ・運営 に参画す る。学生 インス ト ラクターが誕生すれば、里山専 門委員会に も関与 して もらい、今以上 に斬新 な感覚 に基づ く積極的 な提案が出る もの と期待 している。
正課教育 との連携 については、教務委員会 との 連携 を緊密 にと りなが ら、本取 り組み以外の正課 教育‑の反映方法 について継続的に協議す る。 ま た、FD委 員会 と協力 して、現代 GPプ ロジェク トによる教育方法の改善効果 を学部全体で共有で きるように工夫す る。
この点 については、従来型の授業評価 とは別の 発想 に基づ く評価方法が必要 となるだろう。 とい うのは、従来の授業評価 は教室や実験室の教育活 動 を対象 とす る ものであ り、現代 GPプロジェク トで行 う野外型の教育活動で、 しか も一部には学 生 自身の提案や企画 を含む教育活動 について、同 様の評価 方法 をその まま適用す ることはで きない
と考 え られるか らである。
そ こで、里 山専 門委員会 と FD委員会が協力す ることによ り、新 しい点検評価体制 を構築す る必 要がある。す なわち、環境理解の程度の評価 、地 域貢献評価 、学生の企画力や構想力 を指標 とする 到達度評価 などを中心 とす る教 育効果の評価体制 を作 り上 げて いか なければ な らない。 また、教 員 と学生 との共同で、教 え られる側の視 点 を取 り 入れた教育評価 の フォーマ ッ トを作成 し、試行的 に実施 してみ た り、教員 と学生 が一堂 に会 す る
26 池上 甲一 ・米虫 節夫
FDパ ネルデ ィスカ ッシ ョンを開催 した りす るこ とも試みるに値 しようO この ような点検 一評価 の 結果は次の年度 における本取 り組みの課程 に反映 させ、螺旋状 の PDCAシステム を構 築 してい き たい。PDCAシステ ム とは、計画 (lnPa )、実行 (Do)、 点検 (Check)、改 善 (Action)の過程 を 循環的に実行す ることで、事業の評価改善が図れ る とす る考 え方であ り、教育だけでな くさまざま の場面で使われている。
もうひとつ、現代GPプロジェク トの実施体制 と して重視すべ き項 目と して リス ク管理があ る。
今 回の現代 GPプロジェ ク トは、 フ ィール ド活動 を中心 と しているので、下草刈 り (写真5)や間 伐 な ど里 山の維持管理作業 中に怪我 を した り、蜂 に さされた りあるいは蛇 に噛 まれた りす る リスク が不 可避 であ る。 キ ャ ンパ ス里 山 には オオスズ メバチやマム シの生息が確 認 されてい る。実際、
2006年 度の活動 中に下草刈 り用 の鎌 で手 や足 を 切 った例や、別の場所であるがマムシに噛みつか れた例がすでに発生 している。 この ことは、知識 としての 自然ではな く、体 に内面化 された知識あ るいは経験 に裏打 ち された知識 こそが 自然 とつ き あ う上で必要 なことを教 えて くれる。
写真 5 キャンパス里山の草刈り
したが って、知識 を内面化す るための取組 こそ が もっ とも重要 な リス ク対策 となる。 この ことを 大前提 と して、 リスクコ ミュニケー シ ョンに基づ
くリスクの軽減 と、万が一被害 にあった場合 の適 切 な対処が リスク管理 として不可欠である。現代 GPプロジェク トで は事前 に、 リスクに関す る講 習 を開 き (「里 山の しお り」 を作成 ・配布 )、事故 防止 について周知徹底 を図っている。事後的な対 応 としては校 医によるプライマ リー ・ケア、地域
医療機関 との連絡網、近畿大学奈良病院‑の搬送 を想定 している。 なお、傷害保険 (学生) につい ては学生健康保険組合に加入 している。
参加学生の怪我以外の リス クと して、希少生物 の不法採取 や樹 木類の不法伐採が想定 される。 こ の間題 に対 しては、 フィール ドサーバー付属のモ ニ タリング ・カメラを設 置 して防止策 とす ること
としている。
以上の ような現代GPプロジェク トにおける実 施体制 についての独創性 は、その推進 にあたって 企画段 階か ら自主的な学生 団体 に参画 して もらう 仕組み と していること、それ 自身が現代 GPプロ ジェク トの成果で もある学生 インス トラクターに ついて、その誕生後は環境理解教育の担い手 とし て位置づ けていること、地域連携 に関す る多様 な 実施体制の蓄積があることである。
なお、現代 GPプロジェ ク トにおける地域連携 は当面以下の3つ を柱 とす る。
(∋地域 の小 中学校 ・高校、地元住民 に対す るキ ャ ンパス里 山の観察会
② シルバー大学修了者や地元農業者 による連続講 座及び里 山観察会の講師 ・ガイ ド
(参里 山 ・棚 田の再生 ・保全に関す る提言、協力 ただ し、将来 的 には 日本 国内の他 地域 や ア ジ ア ・アフ リカの農村 との連携 について も視野 に入 れ る予定 である。すでに、海外 で も ‑aoastyma とい う英語が知 られるようにな り、その重要性が 認知 されて きている。 さらに、 日本 の里山管理の 主要 な方法だった入会 について も関心 を呼んでい る。里山 とは、エ ネルギーや生活資材 を入手す る ために身近 な森林 を利用 し、その ことを通 じて人 間 と自然が長期 間にわたって相互交渉 ・共存 して きた空間である。 この ように理解すれば、その形 態 と自然環境 こそ違 え、世界の各地 に里山は存在 している。ア ジアやアフ リカでは、その里 山が ま だ実際 に使 われてお り、かつ荒廃 してその保全や 修復が緊急の課題 となっている。 だか ら、いわゆ る途上国の里 山研究 と教育 も視野に入れてお く必 要がある。
4.農学部 にお け る環境教 育 の方 向
4.1 近畿 大学 及び農学部 の教 育 目標 と現 代GP プロジ ェク ト
さて、それでは現代 GPプロジェク トは どの よ うな人材育成 を 目標 に定 めているのか。最後 に、
里山修復プロジェクトのめざすもの 27
この点について論述 し、期待 しうる効果 と可能性 について検討 したい。
近畿大学 は、「人に愛 される人、信頼 される人、
尊敬 される人」 を教 育の 目標 と して掲 げている。
農学部ではこの 目標 を、実学重視 とい う特徴 の中 で具体化 しようとして きた。 とくに、①教養教育 と専 門教育の密接 な連携 による幅広 い教養知識 と 高 い倫 理性 に裏付 け られ た広 い社会 的視 野 の育 成、②専 門的な基礎学力 と主体 的な課題探求能力 と問題解決能力の育成 、(参情報化や国際化 に対応 で きる基礎 能力の育成、の 3点 を教育理念 ・目的 として設定 し、社会的ニーズに対応す る専 門的知 識、技術 を修得 した人材 を社会 に送 り出そ うと努 めている。
ク トでは、その ような教育 を環境理解教育 として 捉 えたい と思 う。 この ような問題意識 に立 って、
現代 GPプロジェク トでは、①人 と自然 の相互作 用 に対 す る深 い洞察 と生命 に対す る愛情 を持 ち、
②創造性 と科学 的精神 に満 ちた、企業人及び技術 者の養成 を目指す。
その ような人材 に必要 な能力 は、(D個別の現象 やデー タをうま く組み合 わせて使い こなす運用能 力であ り、あわせて(参その際に指針 となる方向性 とフ レー ム ワー クを見通 す ための構想 力、 だ と い って よい。現代 GPプロジェク トでは、 この連 用能力 と構想力 を兼ね備 えるような教育 を実践 し てい くつ もりである。
現代 GPプロジェク トは、 これ ら 3点の教育 目 42. 現代 GPプ ロジ ェク トの 目指 す人材像 と社 標 を上位 目標 として、専 門性の基盤 に求め られ る
べ き共通的な環境理解教育 (農学の視点 に立つ教 養教育) を担 当す る。その際 に、 自然観 と人間観 の探求及 び確 かな環境分析能力 と問題解決 に向け た応用能力 の養成、す なわち科学 リテラシーに重 点 を置 くもの とす る。
この ような意味 における科学 リテラシーに重点 を置 くのは、現代 GPプロジェク トの究極 的な 目 標 として、深い環境認識 と生命観 に支 え られた確 かな知的構想力 を持つ企業人、技術者 の養成 を設 定 しているか らである。持続可能な社会 を実現す るためには、技術 の修得 だけでな く、その技術 を どの ように現実 に適用す るのか、あるいは逆 に適 用 しないのかについて判断す るための環境 に対す る高い識見 と生命 に対す る深い愛情が必要だ と考 え られる。現代社会 は、往 々に して進歩至上主義 に侵 されが ちで、生命 に対す る絶対 的な損失 をも た らしかねない技術 であって も、進歩のためには いた しかたない犠牲 だ とい う論理 を振 りか ざ して きた。何 よ りも生命 を尊重す るとい う技術 の起点 をきちん と定めておけば、多 くの 「公害病」や農 薬 中毒 などの犠牲者 を防 ぐことがで きたはずであ る。何が何で も前 に進 むことを最優先す るのでは な く、立 ち止 まること、場合 によっては一歩引 き 下が ることの大切 さを理解 し、そ うす る勇気 を持 つ ことが、環境問題 を考 える上で何 よりも重要で ある。
その ような環境認識 と生命への愛情があって初 めて、持続可能 な社会 に向けた環境倫理が身体 の 内に内面化 され うると考 える。現代 GPプロジェ
会的ニーズ
現在の農学 は、伝統的な生産農学か ら生命科学 は言 うに及ばず、環境科学か ら政策科学 にまで領 域が拡大 し、 しか も各分野 は重複 して相補 的な関 係が強化 されつつある。 このため、広 い視野 と総 合 的な問題解決能力及 び自ら構想 し創造性 を高め てい く力が今 まで以上 に求め られている。 とりわ け、農学の特性上、人 と自然の関係 に対す る深い 洞察 と生命その ものに対す る愛情 を養 うような教 育が必要 とされている。
日本国内で も、各種の世論調査やマス メデ ィア 報道 に見 られるように、 自然や生物多様性 に対す る関心 はたいへ ん強い ものがあるが、その関心 は たいてい漠然 としてい る。その点では、最近注 目 を集 め てい る里 山は もっ と具体 的であ る。 ただ し、それへ の まなざしは生産手段 としての里山か ら環境 資産 としての里 山へ と大 きく変化 して きて いる。 このため、里 山の保全や活用 に関す るニー ズは高いが、それに とどまらずそ こで培 われた環 境の保全 と利用 の統合 とい う視点は さまざまの分 野で応用が可能である。
この強み は、現代GPプロジェク トにおける環 境 理解教 育 のあ り方 とかか わ ってい る。本 プロ ジェク トにおいて、環境理解教育 とは、実践か ら 得 られる経験知 と分析 ・解析 に基づ く科学知 との 両面か ら、人 と自然の関わ り合い を総合的に理解 させ る科 学 リテ ラシー教 育 の ひ とつ として捉 え ている。 この位置づ けに基づ いて、現代 GPプロ ジェク トでは、①確 かな環境分析 能力 ・評価 能力 の基盤形成、② それに基づ く運用能力 と構想力の
28 池上 甲一 ・米虫 節夫
向上、(参入 と自然 の相 互作用 に対す る深 い洞察 と 生命 に対 す る愛情の強化、(む豊か な 自然観 と人間 観 の養成、の 4点 を効果 と して追求 してい る。
現代 GPプロジェ ク トで は、学生 に よる参加 型 調査 (企 画、実施、 デ ー タ収 集、解析 、 ま とめ)
を行 うの で、学生 の企 画 力、 コー デ ィネー ト能 力、農学部 な らではの解析 能力 が強化 され る もの と考 えてい る。 また、参加型調査 の成果 は学 内向 けだけでな く、小 中学生、高校生、地域住 民 に対 す る環境教育のメニ ュー と して も利用が可能であ る。農学部 の学生 の中には、中学や高校 の理科教 師 を 目指す人 も少 な くないが、理科教 師 と して採 用 された暁 には現代 GPプ ロジェ ク トで培 った能 力や 自ら獲得 した参加型調査の ノウハ ウな どは大 いに役 に立つ もの と思 われ る。 さらに、前述 した 学生 イ ンス トラク ターたちは、大学外 部の 自然観 察会や総合学習 な どのエ コ リー ダー と して も活躍 す ることがで きる。
5.教 育 改革 へ の有効性
ここまで、現代 GPプロジェク トの実施体制 や 教 育課程 について説 明 して きた。本稿 の結論 と し て、本 プロジェク トが想定 してい る教育改革への 有効性 について検討 したい。
現代 GPプ ロジェク トで は、持続可 能 な社 会 に 向けた環境教 育 を、人 間 と自然 の相 互作 用 につい ての理解教育 と して捉 え、正課教 育 と正課外教 育 とを有機 的 に結 びつけた里 山学 の実践 に よって 目 標 を達成 しようと してい る。里 山を利 用す る環境 教 育 は最 近各地で始 まってい るが、 キ ャンパ スそ の ものが里 山学の フィール ドであ る とい う例 は少 ない。現代 GPプ ロジェ ク トは この条件 を活用 し て、参加型調査 や里 山管理 の ような 日常 的 ・継続 的な実践 を基本 とす る。
その成果 を単 に発表 した り報告書 にまとめ た り す るだけでな く、学生 自らが里 山実習や観察会 を 企画 ・指導す る立場 に立つ こ とで、 自発性 、構想 力、運用力 な どの総合 的な能力が養 い うる ように 工夫 してい る。 この ことに よって、環境問題 の把 握 に必要 な総合 的 な視 野 と能力が強化 され る もの
と考 えている。
さ らに、現代 GPプ ロ ジェク トの最終 目標 は、
環境 に対 す る識見 と生命 へ の愛情 に基づいて環境 認識 と生命観 を深め ることである。生命へ の愛情 は、有機 的生命体 を主たる対象 とす る農学部 だか
らこそ実感 と して身につける必要があ る し、 また よ りよ く身につ けることがで きる。
今 回 の プ ロジェ ク トで は里 山 を素材 と して い る。里 山や棚 田は一体 的かつ継続 的に人 間の手が 加 わ らない と環境 資産 と しての価値 が小 さ くなっ て しまう。里 山は身近 な 自然 の宝庫 であ る ととも に、 自然 とつ きあ って きた人 間の知恵が集積 され てい る空 間で もあ る。つ ま り、里 山は人 と自然 の 相互作 用 の産物 であ り、人 間活動 と原生 自然 をつ な ぐ空間で もあ る。 だか ら里 山学 は、今 後 の人類 に とって非常 に重要 な課題 であ る持続可能性 のあ り方 を具体 的 に考 える きっか け とな りうる とい う 意味 において、環境教育 の方 向性 を考 える上 で有 効であ る。
もうひ とつの重要 な有効性 は、学生 イ ンス トラ クター によるいわば学生発意型の授業設計が学生 の能力 開発 だけでな く、教 員 との間に よい意味で の緊張関係 を生 み出 し、絶 えざる教育改革へ の動 因 とな りうる とい うことであ る。
以上 の ような教 育改革 に果 たす有効性 は、何 も 農学部学生 に限定す る必要 はないだろ う。 とい う のは、広 い意味での環境教 育 は現代市民社会全体 に とっての課題 だか らであ る。 だか ら、現代 GP プ ロ ジ ェ ク トの活 動 成 果 を、成 功 ・失敗 も含 め て積 極 的 に情 報提 供 しなが ら、都 市 に近 い里 山 とい う利 点 を活用 して、キ ャンパ ス里 山 をエ コ ・ ミュー ジアムあ るいは フィール ドミュー ジアム と して整 えつつ、 自然 とつ きあ うことの楽 しさや 自 然 と向 き合 う知恵 を学ぶ プラ ッ トフ ォーム と して 機 能 させ ることがで きれば、農学部の社会 的意義
とプ レゼ ンスが著 しく向上す ることになろ う。
引用 ・参 照文 献
大井正、2002、 F里 山 と人の履歴』新思索社 環境庁企 画調整 局里 地研 究会、1996、 r里 地 か ら
の変革一 地球環境 時代 のふ るさとづ くり』 時事 通 信社
桜 谷保 之、2006、「近畿大学奈 良 キ ャ ンパ ス にお けるチ ョウ類 の生息状況
」
F近畿大学農学部紀要」第39号
桜谷保 之、2CX)3、「近畿大 学奈 良 キ ャ ンパ ス にお け る レッ ドリス ト動物種 の生息状況
」
『近 畿大 学 農学部紀要』 第 36号武内和 彦、2001、「里 山の 自然 をどうとらえるか」
里山修復 プロジェク トのめざす もの 29
武内和 彦 ・鷲谷 いづみ ・恒川 篤史編著 F里 山の環 境学』 東京大学 出版会、1頁
所 三男、1980、 F近世林業 史の研 究」 吉 川弘文 館、887頁
水本邦彦
、2 0 0 3
、 『革 山の語 る近世』 山川出版会 図表 一 覧表 1 近畿大学農学部里 山修 復 プ ロジェク トの経 緯
( 2 0 0 5
年度)図 1 典型的な農村 の空 間構 造 図 2 里 山の伝統 的な利用形態 図 3 里 山修復 プロジェク トの平面図
図4 現代 GPプ ロジェ ク トにお け る教 育課程 の 基本 的考 え方
図 5 農学部 にお け る現代 GPプ ロジェ ク トの実 施体制
写真 1 農学部 キ ャンパス内の里 山
写真 2 奈 良 キ ャンパ ス に近 い典型的 な関西型 の 里 山
写真 3 関東 の平地林型の里 山 写真 4 キャンパ ス里 山の荒廃状況
写真