6ナイロン糸の弾性的特性に関する一考察
著者 辻本 石雄, 元治 信雄│
雑誌名 福井大学工学部研究報告
巻 12
号 1.2
ページ 66‑73
発行年 1964‑03
URL http://hdl.handle.net/10098/5040
66
6ナイロン糸の弾性的特性に関する一考察
辻 本 石 雄 ・ 元 治 信 雄
A S t u d y o n t h e E l a s t i c C h a r a c t e r i s t i c o f N y l o n 6 F i 1 ament Y a r n .
Ishio TSUJIMOTO, Nobuo MOTOJI
Nylon 6 fi1ament yarn drawn about 300箔 washeated at 60 oC and at the heating rate of 40C / min under no tension, and was cooled the yarn from that temperature in the furnace. Subsequent1y, the yarn was subjected to the repeated loading and unloading, and obtained the corresponding load‑elongation graphs. As a consequence, a singularity was found that the elastic elongation of the yarn held constant values against the variation of the load in a considerably higher region of the applied load.
The present paper deals with such a singularity of nylon 6 as revealed when the filament yarns with different drawn ratios were variously heated and cooled and then treated as above.
緒 言
ゃく 300%冷延伸6ナイロン繊条糸熱処理物〈無緊張状態で昇温速度40C/min,炉中冷却処理) の標準温湿度状態における種々の弾性的性質については,すでに報告した1)が,この場合,原長を 基準とした一定伸び率でくり返しるい進荷重一伸び線図を画がかしめ,これより求められる一定伸 び率ごとの全伸びを,残留伸びと弾性伸びとに分離して.特ζl引張りによる弾性伸びの性質を検討 すると.弾性伸びが荷重の大きい領域で,荷重の増加に対しほぼ一定となる特異現象が,熱処理効 果の少ないと思われる 600C熱処理物にかぎって発現した。既報1)では,この特異現象は, くり返 し引張り効果による分子の配向,結晶化過程の一部が比較的明瞭ないし顕著に現われる伸び率域の ため発現すると考察した。本報では,この考察についてさらに考究し,上述の現象が6ナイロン熱 処理物の特性であるかいなか,また試料の延伸倍率および熱処理条件を異にした場合にも発現する かいなかを検討したものであるD
なおくり返しるい進荷重後の破壊強さについても,同じ600C熱処理物が最大値を示した1)ので あわせて検討した。
実 験 試 料
製造後ゃく 3カ月経過したT社製6ナイロン繊条糸の15本引色そろえ未延伸未熱処理糸を,つぎ の実験方法で述べるような方法で約100労,約200猪および約300央づく市販糸に相当〉冷延伸した
ものを使用した。
実 験 方 法
まず延伸方法は,未延伸糸〈繊度780den.)をモデノレ・ドラフト装置を使用して,室温150C, R.H.68土 2箔中で延伸速度 10cm/minとし,延伸後の回復率をあらかじめ測定して約130%, 240%および350%延伸し,それぞれ約100%(繊度400den. ,) 200 % (260 den. )および300%
(210 den.)に自作した口 者 数 民 制 助 子
6 ナイロン糸の弾性的特,t!U乙関する ~J5.察 67
つぎに試料の熱処理方法は,自動温度調節器っき電気炉中に試料を入れ~
4 0 oC
,6 0 oC
,8 0 oC . . 1 0 0
0C
の各種温度に加熱し,それぞれの温度で5min
間保温後炉中冷却処理をしたD 乙の場合つぎ に述べる所定の昇温速度はエライダックにより調節した。試料の処理条件はつぎの通りである凸A) 3
種の延伸糸を無緊張状態で,昇温速度4oC/min
,8 oC/min
および急激ばく熱処理をす るDB)
3 0 0
%延伸糸を無緊張状態で,昇温速度4
0C/min
としてそれぞれの実』験、温度に保温後水 中( 2 0
0C)冷却処理をするD上記の熱処理物と未熱処理物を室温
2 0
士lOC
,R. H.6 5
士2%
の恒温恒湿室中でTMM型イ yストロン試験機により,試 料長
20cm
として, くり返 しるい進荷重ー伸び線図を 画がいた口この場合, くり 返し伸び率は試料原長を基 準にとり,初めの全伸び5%までは
1%
ごとくり返し ついで、全伸び5%
以上20% T
までは
5%
ごとくり返しさらに全伸び
2 0 9 6
以上では1 2%
ごとくり返しをした。 1なお試料の引張り速度〈試 ー
験機のクロス・ヘッドの送 ;j.守 IJ'l11 り速度〉とチャートの送り . 速度は
5cm/min
とした口実験結果および考察
1
弾性伸びについて くり返しるい進荷重一伸 び線図の一部をモデノレ的に 表わしたものを第1図に示 す。最初約
300%
延伸糸の未 熱処理物および無緊張状態 で昇温速度4
0C/min
,炉 中冷却処理物のくり返しご との全伸び率 (1め を 残 留 伸び率 (lp)と弾性伸び率 (IE) ~己分離して , IE‑IT 綜図を作製すると第2図の ようになるO かく試料のん と も ん20%
付近までほぼ 同じ値で直線的に増大する がそれ以上のん域では処理受
イ 中 〆 一 '
第 1図
68 福井大学工学部研究報告第12巻 第1・2号
温度別にゆるやかな増加傾向を示すようであるD
ところでらは物理的には,荷重との聞に比例関係が成り立たなければならない性質のものであ る口換言すれば,時間的効果のないブックの法則に従うべきものであるD しかるに一般に高分子物 質のように構造体内部に無定形状態,結品状態あるいはこれらの中間状態が混在するものでは,引 張りによって既存の分子の配向,結晶状態に加えて分子の新しい配向化,結品化効果の程度に応 じ,除荷後の回復過程中においても,弾性回復の中の一部が甚だ緩慢に発現する2)。すなわちこの 現象は別な立場からみると,エネノレギー的な力とエントロビー的な力の混在作用が考えられるの で,この点を考慮して,こころみにくり返し線図の除荷開始点において除荷線図に接線を引き,そ
18
弾
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300 % ~~'中,
5 10 15
令 仲
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第 2図
20 25
( Q ;
りり速度が同じ場合, IElは回復速度に依存して変化する量 であり ,IE2はほとんど影響しない3)O
いま40oC, 60 oC, 80 oC処理物について ,IElと1h12を 30
lT域
2%以内
びのようにみなされるD し かしもちろん前者はエント ロビー的な力の寄与も含ま れているが,比較的エネル ギー的力の寄与の大きい場‑
合であり,後者はその逆の 場合であるD ちなみに引張
lElとlE2との関係 見かけ上 IE2のみ哉
1 2‑‑3.6労 lEl く lb'2 求め第 2図にあわせて示せば,IT に対してIE2は多少減少 3.6箔 lEl lE2 傾向を示すようであるが, IElの変化傾向はほぼIEと同じ 3.6野以上 E1
>
lE であり, IElとIE2との聞には,第 1表のような関係が存 第1表 (※lE 1の効果を合むが見かけ 在するようであるD 上1&2の効果が大きいと思われる)乙こで考察をさらに容易にするため ,IT5 %以下の伸び域Aとん5‑‑‑20%の伸び域B,および20
%以上の伸び域Cに分けて検討してみるD
まずA域については ,IE線図の原点からの見かけ上直線部分2 %までは ,IE2が支配的である乙 とを考慮すれば,瞬間的な回復性を示す領域であり,すでに発表した応力
( S )
一ひずみ( S )
線図4)の最切の傾斜,すなわちブックの法則に良く従がう弾性的伸び域に対応し,また IT2 ‑‑‑3. 6%の範 囲は, IEl の効果が次第に生じ始めることから,同じ S-S 線図の降伏領域 ~C 対応するようである D
つぎにB域において, IE2がほぼ一定の変化傾向に対しらもしくはら1がほぼ直線的に増大してい るD このことは ,IEの挙動は IE2よりも IElの挙動が支配的であることを示している口すなわち引 張りの過程においてエントロビーは減少し,内部エネノレギーもまた減少すると考えられるから,つ ぎの回復過程において分子の熱運動の中心の時間的移動および熱運動は実現の仕方の多いエントロ ビーの大きい状態の方へ駆り立てられる久乙れは変形が大きい程大きくなるので, IEは次第に増 大し,かつエントロピー的効果が比較的大きく現われるのであろう口
さらにC域においては,伸びの後期過程である乙とを考慮すれば,上述のエントロピー的効果の 発現が次第に減少して,
I E
はゆるやかな増加傾向を示すものと恩われる口しかして,乙のC域にお いて注目すべき2つの現象がみられる口その1は, A, B域で未熱処理糸およびそれぞれの熱処理糸の影響がみられずC域で初めてその 影響が現われる乙とであるO すなわち緩和機構の面から考えれば,本実験の温度範囲程度の熱処理 では,引張りによる緩和時間の変化は比較的長い緩和時間領域において初めて顕著になりベ 回復 に際し上述のような現象が発現するものと思われる口
その2として,特に600C熱処理物のらがほぼ一定となることであるO すなわち定性的には, 60 OCの乙の範囲の伸びは全部残留伸びになる乙とを意味し, したがって当然の乙とながら伸びの弾 性度は,乙の領域で急激に低下する1)ととになる口つまり現象的には,乙の領域が伸びの後期過程 の硬化部分であること,また400C,800Cの処理物に比して 600C処理物の
I E l
がゆるやかな増加 傾向を示し,エントロビー的効果の発現が前両者の処理物より比較的減少しつつある乙と,および乙の領域での
I E 2
の減少 傾向が600C
処理物の場 合, 40ロC
,800C
処理物 に比して多少増加してい る こ と を あ わ せ 考 え れ ば, 600C熱処理物の場 合にd I E / d I
T=
0となる のは,他の熱処理物 IC比 して,流動による分子の 配向化ないし結品化効果 が特に顕著になるためで はなかろうか。しかして この事は6ナイロンの特 異現象のーっとも考えら れるので,以下熱処理条 件および延伸率を変えて 検討するDまず昇温速度の露響を 検討するため,同じゃく 300%延伸糸について昇 温速度を 80C/minおよ び急撤ばく熱処理をした 場 合 の ら‑IT線図は第 3図,第4図のようにな るO 乙の場合 40C/min のものと比較して,昇温 速 度 が 早 く な る と 60 OCまたは80白C処理物の 場合に上記特異現象が発 現し, 400C 処理物lζ 発
6ナイロン糸の弾性的特性に関する一考察 69
18
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第 3図
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第 4図
70 福井大学工学部研究報告第12巻 第1・2号
現しないのは,明らかに糸構造体の均一な加熱効果がえられないため,高温処理側に特異性の移行 する傾向があるようである口なお800C処理物の場合の異常性は,本質的には, 600C処理物の現象 そのものと同じであると考えられる口
つぎに冷却速度の影響を検討するため,同じゃく300%延伸糸をそれぞれの実験温度から, 200C
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第 5図
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20 40 臥 80 100 120 140告、ィ中が‑$
(d/d)第 6図
の水中l乙急冷処理したもののらー
l T
線図は第5図のようになる口この場合には,炉冷処理糸と同じ く600C処理物のみに特異性が発現しているo したがって,該現象は昇温速度に影響されるが,冷6ナイロン糸の弾性的特性に関する一考察 71
却速度に影響されないことを示し,との程度の温度範囲では,分子の熱運動に対する制動に効果が なく炉冷処理の場合と同じ現象となるのであろうO
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昇温速度を異にした場合 のIE‑I7'線図は第
6 . ‑ 1 1
図のようになる白図から 明らかなように,両延伸 糸とも大きいん域で,そ れぞれの昇温速度の場合稗
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14において ,300%延伸糸イ中12 と同じような挙動を示し ひ10 ているo このことは第12
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8図に示すように,それぞ
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れの延伸糸を同一温度で
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4 熱処理したもの(図では 2 600C処理〉の荷重←仲び線図を検討すると,破 壊前の高い伸び域におい て綜図の勾配がほぼ等し くなることから緩和時間 の比較的長いものは延伸 および加熱処理によって 影響されない的ことから 説明されよう。このよう に弾性伸びが伸びの大き い領域で延伸率にも影響 されないことから,上述 の全伸びの変化に対しで ほぼ一定となる弾性伸び の現象は 6ナイロン糸 の弾性的特異性と考えて もよいであろう。
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破壊強さについて 300%延伸糸を昇温速 度40Cjminで炉冷処理24 ...?‑=>100WC
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(叱:1)をしたものについて,く 第 8図
り返しるい進荷重の過程をへた破壊強さについても,上記600C処理物が最大値を示した1)。
いま 100巧, 200箔延伸糸について300%と同一条件で熱処理したもののくり返し荷重後の破壊 強さ(比率〕ー処理温度線図をもとめると第13図のようになり,両延伸糸の場合とも処理温度60
OC
で最大値を示すようであるO
この破壊強さは引張り効果に関連することを考慮すれば,弾性伸 びが示した特異性と類似性があると思われる。 600C処理物の最大値が延伸率に関係しない事につ72 福井大学工学部研究報告第12巻 第1・2号
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J室 温 度 (OC) 第 13図いては,弾性伸びのところで延伸率の 影響について述べた理由によるのでは なかろうか。また処理温度600Cで最 大値を示す乙とについては,一般にく
り返しるい進荷重一伸びの場合の除荷 点を連結した線図とくり返しをしない 単なる荷重一伸び線図とが良く一致す ること,および後者の線図においても 600Cが最大値を示すことわから定性 的に説明されるD
結 論
比較的加熱効果の少ないと考えられ る600Cまたは 800Cで処理したもの が,高い伸び率域で弾性伸びが一定と なること,およびとれに関連して破壊 強さもまた最大となる乙とは,
6
ナイ ロンの特異現象と考えられるo しかる にこのような処理温度で特異現象が発 現する理由は,本実験範囲内のマクロ6ナイロン糸の弾性的特性に関する一考察 73
的実験のみではその原因を追究するととが困難であるO しかし,湿度,加熱時間,変形速度などを 異にした場合についても,今後検討したい。なお本報は昭和37年繊維学会秋期研究発表会において 講演したものの一部であるO
文 献 1) 辻 本 , 元 治 : 融 機 誌 2) 例えば 山内:塑性変形と加工 3) 元 治:未発表
12醤 4守 昭34 p.6 p.37 昭35
4) 辻 本 , 元 治 : 織 機 誌 12巻 7号 昭34 5) 例 え ば 久 保 : ゴ ム 弾 性 p.41
6) 17IJえば 白樫,宮坂,石川い繊学誌 18巻 8号 昭37 7) 辻本,元治:織機誌、 7巻 9号 昭29 向 上 N 8巻 8号 昭30 向 上 N 8巻 9号 昭31 向 上 :福井大学工学部研究報告 8巻, 1・2号 昭 お
(受理年月日 昭和38年9月30日)