博 士 ( 農 学 ) 五 十 嵐 俊 成
学 位 論 文 題 名
北海道米の澱粉分子構造に及ぼす登熟温度の影響と 新食味評価法に関する研究
学位論文内容の要旨
北海 道の水 稲作付 け地域 は広く 産地に より気象条件が異なる.特に登熟温度は玄米品質やアミ ロース含量の地域間差に強く影響している.今後実需者ニーズに応える産地形成を図るためには,
年次 変動や 産地間 変動の 少ない一 定の品 質で供給することが重要であり,登熟温度で品質が変動 しに くい特 性を有 する品 種を育成 するこ とが必要である,これらのことから,登熟温度が胚乳澱 粉の 分子構 造に及 ばす影 響を解析 するこ とは成分育種手法の高度化を図る上できわめて大きい意 義が あると 考えら れる. そこで, 本研究 では北海道における良食味米の成分育種手法の高度化を 図る ため, アミロ ース含 量の栽培 環境に よる変動要因,北海道米澱粉の分子構造の特徴,登熟期 間温 度によ るアミ ロペク チン単位 鎖長分 布の変動性とアミロペクチンLC含量,アミロペクチンの 分 子 構 造 と 餅 生 地 の 硬 化 性 に っ い て 解 析 し , 新 食 味 評 価 法 の 開 発 を 試 み た .
第2章 では, 寒冷地 北海道 の最近 の品種「きらら397」におけるアミロース含有率の変動要因に つい て,登 熟温度 ,年次 ,移植時 期,苗の種類,出穂日および枝梗着生位置について検討した,
アミ ロース 含量と 登熟温 度の間に は有意 な負の 相関が あり,登熟温度が800℃以下の登熟温度域 では 回帰式 の回帰 係数が 大きく, 低温ほどアミロースの変動量が大きいことが明らかとなった.
枝梗 着生位 置別の アミロ ース含量 は,一次と二次枝梗粒とも上位で高く下位で低かった,また,
一次 枝梗粒 は二次 枝梗粒 より高か った,一方,乳白と腹白粒歩合は,下位の枝梗粒や二次枝梗粒 で 高 く , 乳 白 と 腹 白 歩 合 と ア ミ ロ ー ス 含 量 の 間 に は 有 意 な 負 の 相 関 が 認 め ら れ た ,
第3章では,澱粉の分子構造と糊化特性を北海道米「ほしのゆめ」,「きらら397」,「彩」を秋田 米 「あき たこまち 」と比 較して 解析し た. 澱粉の分子構造と糊化特性を北海道産米「ほしのゆ め」,「きらら397」,「彩」を秋田県産米「あきたこまち」と比較して解析した.真のアミロース 含量は,「ほしのゆめ」,「きらら397」が18%で「彩」,「あきたこまち」より約2%高かった.RVA による熱糊化特性は「ほしのゆめ」,「きらら397」で最高粘度が低く,ブレイクダウンが小さく,
冷却時の粘度増加が高いが,「彩」,「あきたこまち」は最高粘度が高く,冷却時の粘度増加は低 かった.アミロペクチンのヨウ素親和カは「ほしのゆめ」,「きらら397」が0.5で,「彩」,「あき ―148―
たこまち」より2.5倍高く,「ほしのゆめ」と「きらら397」のアミロペクチンLC含量は,「あきた こま ち」に 比べて 約3.5倍多く,物性や食味特性が劣る要因のーっとしてアミロペクチンLCの影 響が示唆された,
第4章 で は , ア ミ ロ ペ ク チン 単 位 鎖 長分 布 と 超 長鎖(LC)含 量 に 及 ばす 登 熟 温 度の 影 響 を Hanashiroらの螢光標識ゲル濾過HPLC法で調べた.「きらら397」のアミロペクチンLC含量は,登熟 期 間の温 度が低 いほど 多かっ た.さらに,近年育成された北海道米5品種と4系統およびミルキー ク イーン を供試 してア ミロペ クチンLC含量の 平均登 熟期間温度1℃当たりの変動量を検討した結 果,19〜23℃の範囲では0.542%,23〜27℃ではO.152%,27〜31℃ではO.037%で,低温ほど変動 量が大きいことが判明した,
第5章 では, ヨウ素 吸収曲 線(波長400 nm〜900 nm)を自動 測定で きるマルチチャンネル検出 器 を備 え た オ ート ア ナ ラ イザ ーをを 用いて, ヨウ素 吸収曲 線をFr.I (400〜600 nm)とFr. II (600 900 nm)とに分 割し, それぞ れのピ ーク面 積の比(Fr. I/II)を求 めた,Fr.I/II (X)とセ ット バック(Y)にはY:(29. 7X―27. 1)1(0. 73X−O.72)の関係 が良く適合(R2:0. 799)し,
Fr. I/IIで 簡易に米 粉の老 化性が 評価で きるこ とを明 らかに した.
第6章では ,糯米育 種を効 率的に 実施す るため に,アミロペクチン単位鎖長分布による餅硬化 性の 評価手 法を検 討した .主食用の柔らかい餅生地を有する品種(はくちょうもち等)はアミロ ペク チンの 短鎖の 割合が 多く,加工用の硬化性の高い品種(こがねもち等)は長鎖が多い構造で ある ことが 分かっ た.ア ミロペ クチン 単位鎖 のモル比(A+BI)/ (B2+B3)と硬化性の問には負の相 関関 係が認 められ た.糯 米の用途を判別する指標として,主食用はアミロペクチン単位鎖のモル 比(A+Bl)/ (B2+B3)が 11.5以 上 , 加 工 用 は 11以 下 が 適 し て い る と 判 断 し た .
第7章では, 北海道 産もち 米のも ち生地 は本州 産もち 米と比 べ柔らかく,主食用(おこわ・大 福・ おはぎ 等)と して利 用され ている .しかし,年次・産地問により物性の変動が大きいため,
その 安定性 が求め られて いる, そこで ,年次・産地間の変動要因と考えられる登熟温度と窒素施 肥量 の栽培 条件が アミロ ペクチ ンの鎖 長分布に及ばす影響を調べた,アミロペクチン単位鎖のモ ル比(A+Bl)/(B2+B3)は,11.1〜13.9の値を示し,全平均12.4に対して低温+0. 828,中温+0. 195, 高温‑1. 02であ った.分散分析の結果,(A+Bl) /(B2+B3)の変動は登熟温度と窒素施肥量で86%説 明で き,窒 素施肥 量の影 響は小 さく登 熟温度の影響が極めて大きかった.また,登熟温度が高い ほど アミロ ペクチン単位鎖のモル比(A+BI)/ (B2+B3)が大きく,最低粘度が高く,ブレークダウン が 小 さ く , 糊 化 開 始 温 度 お よ ぴ ピ ー ク 温 度 が 高 か っ た . アミ ロ ペ ク チン 単 位 鎖 のモ ル 比 (A+Bl)/ (B2+B3)と最低粘度(‑0. 952),糊化開始温度(―O.867),ピーク温度(―0.944)とは危険 率1%水準で高い負の相関関係が認められた,
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査 教授 松井博和 副査 教授 大崎 満 副査 教授 横田 篤
副査 教授 竹田靖史(放送大学特任教授、
鹿 児 島 学 習 セ ン タ ー 所 長 )
学 位 論 文 題 名
北 海 道 米 の 澱 粉 分 子 構 造 に 及 ぼ す 登熟 温 度 の 影響 と 新 食 味 評 価 法 に 関 す る 研 究
本論 文は, 図33,表24,引用 文献122お よび要 約を含 む9章112頁からなる和文論文である.別に 参考 論文5編 が添え られて いる,
本研 究では ,北海 道米の 良食味 米育種における成分育種の高度化を図るため,北海道米の澱粉 分子 構造に 及ばす 登熟温 度の影 響を解析した.また,澱粉の分子構造に基づぃた選抜指標の策定 と 新 規 食 味 評 価 法 を 提 案 し て い る , 得 ら れ た 結 果 は 以 下 の 通 り で あ る ,
1.登熱温度およぴ枝梗着生位置とアミロース含量の関係
ア ミロー ス含量 と登熟 温度の 間には 有意な負 の相関 があり ,登熟 温度が800℃以下の登熟温度 域 では回帰式の回帰係数が大きく,低温ほどアミロースの変動量が大きいことが明らかとなった.
枝 梗着生 位置別 のアミ ロース含 量は, 一次と 二次枝梗粒とも上位で高く下位で低かった‐また,
一 次枝梗 粒は二 次枝梗 粒より高 かった ,一方 ,乳白と腹白粒歩合は,下位の枝梗粒や二次枝梗粒 で 高 く , 乳 白 と 腹 白 歩 合 と ア ミ ロ ー ス 含 量 の 間 に は 有 意 な 負 の 相 関 が 認 め ら れ た . 2.北海道米澱粉の分子構造と性質
澱 粉の分 子構造 と糊化 特性を北海道産米「ほしのゆめ」,「きらら397」,「彩」を秋田県産米
「あきたこまち」と比較して解析した.真のアミロース含量は,「ほしのゆめ」,「きらら397」が 18%で「彩」,「あきたこまち」より約2%高かった,RVAによる熱糊化特性は「ほしのゆめ」,「き らら397」で最高粘度が低く,ブレイクダウンが小さく,冷却時の粘度増加が高いが,「彩」,「あ き たこま ち」は 最高粘 度が高く ,冷却 時の粘 度増加は低かった.アミロペクチンのヨウ素親和カ は「ほしのゆめ」,「きらら397」が0.5で,「彩」,「あきたこまち」より2.5倍高く,「ほしのゆ
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め」と「きらら397」のアミロペクチンLC含量は,「あきたこまち」,に比べて約3.5倍多く,物性 や 食 味 特 性 が 劣 る 要 因 の ー っ と し て ア ミ ロ ペ ク チ ンLCの 影 響 が 示 唆 さ れ た . 3. 登 熟 期 間 温 度 が 米 の ア ミ ロ ペ ク チ ン 単 位 鎖 長 分 布 とLC含 量 に 及 ば す 影 響 「 きらら397」のアミロ ペクチンLC含量は,登熟期間 の温度が低いほど多かった .さらに,近 年育成された北海道米5品 種と4系統およぴミルキーク イーンを供試してアミロペクチンLC含量の 平均登熟期間温度1℃当た りの変動量を検討した結果,19ー23℃の範囲では0. 542%,23ー27℃で はO. 152% ,27ー31℃ で はO.037% で , 低 温 ほ ど 変 動 量 が 大 き い こ と が 判 明 し た . 4.米澱粉のヨウ素吸収曲 線による新食味評価法
ヨウ素吸収曲線(波長400 nm丶一丶900 nm)を自動 測定できるマルチチャンネル検出器を備えた オー トア ナラ イ ザー を開 発し た.この装置を用いて, ヨウ素吸収曲線をFr.I (400v‑600 nm)と Fr.II (600ー900 nm)と に分 割し ,そ れぞ れ のピ ーク 面積の比(Fr. I/II)を求め た.Fr.I/II くX)とセットバック(Y)にはY〓(29. 7X‑27. 1)1(0. 73X一0.72)の関係が良く適合(Rz:0. 799) し ,Fr. I/IIで 簡 易 に 米 粉 の 老 化 性 が 評 価 で き る こ と を 明 ら か に し た : 5.アミロペクチン単位鎖 長分布による餅硬化性の評 価
主食用の柔らかい餅生 地を有する品種(はくちょう もち等)はアミロペクチンの短鎖の割合が 多く,加工用の硬化性の 高い品種(こがねもち等)は 長鎖が多い構造であることが分かった.ア ミロペクチン単位鎖のモ ル比(A+BI)/ (B2+B3)と硬化 性の間には負の相関関係が認められた,糯 米の 用途 を判 別 する 指標 とし て,主食用はアミロペク チン単位鎖のモル比くA+Bl) /(B2+B3)が 11.5以上,加工用は11以 下が適していると判断した.
6. 登 熟 期 間 温 度 と 窒 素 施 肥 量 が 糯 米 の ア ミ ロ ペ ク チ ン 単 位 鎖 長 分 布 に 及 ぼ す 影 響 ア ミロペクチン単位鎖の モル比(A+BI) /(B2+B3)は, 登熟期間温度と窒素施肥量 で86%説明で き,窒素施肥量の影響は 小さく登熟期間温度の影響が きわめて大きいことが明らかとなった.ま た, 登熟期間温度が高いほ どアミロペクチン単位鎖の モル比(A+BI)/ (B2+B3)が大 きく,最低粘 度が 高く ,ブ レ イク ダウ ンが 小さく,糊化開始温度お よびピーク温度が高いこと が分かった.
本研究は ,登熟温度や登熟期間温度に よる胚乳澱粉の分子構造の 変化,特にアミロペクチン単 位鎖長分布 に着目し,北海道米の澱粉分 子構造に及ぼす登熟温度反 応性について解析している.
それだけで はなく,今後の北海道米の育 種目標および選抜指標を示 し,新食味評価法として,粳 米 につ いて はオ ー トア ナラ イザーを用い たヨウ素吸収曲線の解析に よる老化性指標(RI)およぴ セ ットバック の推定法,糯米については アミロペクチン単位鎖のモル 比(A+BI)/ (B2+B3)による 餅生地の硬 化性の評価法を提案しており ,学術的に高く評価できる .
よって審 査員一同は,五十嵐俊成氏が 博士(農学)の学位を受け るに十分な資格を有するもの と認めた.
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