博 士 ( 理 学 ) 落 田 温 子 学 位 論 文 題 名
Development of Designer Phosphines with Compact Coordination Center
( コ ン パ ク ト な 配 位 中 心 を 持 つ 官 能 性 ホ ス フ イ ン の 開 発 )
学 位 論 文 内 容 の 要旨
環境調和型有機合成を目指した金属触媒による新反応の開発が近年盛んである。今後 の大きな発展のためには、既存の触媒による反応探索に加え、高度で新規な機能を持っ た触媒を開発することが必要であり、その鍵を握るのは斬新な設計コンセプトに基づく 新しい配位子の開発である。申請者は、コンパクトな配位中心と構造変換部位を同時に 持っホスフィン配位子として、かご型トリアルキルホスフィンSMAP(1)およびケイ素 置換エチニルホスフィン(2)を開発し、これらを遷移金属錯体触媒による合成反応に応 用する研究を行った。本論文は、遷移金属錯体触媒の開発におけるホスフィン配位子の 重要性、これを基盤とする触媒設計、およびこれらの背景における本研究の位置づけに つ い て 述 べ た 緒 言 と 、 本 研 究 の 成 果 を 記 し た 以 下 の4つ の 章 か ら 構 成 さ れ る 。
かご輩
第一 章は、かご型トリ アルキルホスフィンSMAP(1)の最初の誘導体PhーSMAPの合 成、構 造、性質ならびにこれを含む遷移金属錯体の合成と構造 について述べている。
SMAPの構造上の特徴は、二種のへテロ原子を橋頭位に持つ架 橋二環式骨格である。
三官能 性有機リン成分と三官能性有機ケイ素成分から、一段階でこの骨格を構築する方 法は成 功に至らなかった。代わって、フェニル基を持っりン求核剤を用いて二度の環化 反応を 段階的に行い、ホスホニウム塩の形で架橋二環式骨格を構築し、その後フェニル 基 を除 去す る とい う方 法に よりPh一SMAPを合成する ことに成功した。Ph−SMAPは無 色無臭 の結晶性固体で、空気酸化に対して安定である。
孤立 電子対領域の静電ポテンシャルの密度汎函数法理論計算 により、Ph―SMAPの電 子供与 性はMe3Pと同程度であること、橋頭位のケイ素原子を炭素原子に置き換えると、
環歪み のため電子供与性が著しく低下することなどが示された。X線結晶構造解析によ り 、Ph‑SMAPおよ びそ のBH3錯体 、Rh(D錯体、PtaD錯 体の分子構造を明らかにした。
Ph−SMAPの 架 橋 二 環 式 骨 格 は キ ラ ル な 擬C3対 称 ね じ れ 形 配 座 を と っ て い る 。
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. ヽ ゾ亀 〇 ・ う ョざ2や、 。 三 あ ョ@
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第 二 章 は 、SMAPの ケ イ 素 上 置換 基 の 変 換法 と 、 そ れを 利 用 し た誘 導 体 の 合成 、 な ら び にSMAPの 電 子 的 特 性 と 構 造 に 及 ぽ す 置 換 基 効 果 に つ い て 述 べ て い る 。 Ph−SMAPの プ ロ ト ン 化 に よ り 、 ケ イ 素カ チ オ ン 種を 発 生 さ せ、 ヒ ド リ ド還 元 す る こ と に より 、 ヒ ド ロシ ラ ン 型 誘導 体 を 得 、そ の 多 彩 な反 応 性 を 利用 して 様々な 誘導体を 合 成 し た 。 ケ イ 素 置 換 基 の 電 子 効 果 に よ り、 リ ン 原 子の 電 子 供 与性 を 広 範 囲に 変 え ら れ る こ と を 密 度 汎 関 数 法 理 論 計 算 お よ び NMR実 験 に よ り 確 認 し た 。 昔 s 脅
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第 三 章 は、 ケ イ 素 置換 エ チ ニ ルホ ス フ ィ ン(2)の 設 計 、合 成 、 構 造と 性 質 な らび に 、 Rh(D錯 体 の 合 成 と ヒ ド ロ シ リ ル 化 触 媒 と し て の 応 用 に つ い て 述 べ て い る 。 ホ ス フ ィン(2)の ア ルキ ン 末 端 に嵩 高 い 置 換基 を 導 入 する こ と に より 、 大 規 模な キ ャ ピ テ ィ ー 状 空 間 が 形 成 さ れ る(2a,b) 。NMRやX線 結晶 構 造 解 析に よ り 、 この よ う な 誘 導 体 が、 嵩 高 さ のた め 遷 移 金属 に 一 分 子し か 配 位 せず 、 配 位 中心 の周 りには 比較的大 き な 空 間を 提 供 す るこ と が 明 らか と な っ た。 嵩高い 配位子2a,bとERhCl(cod)12から調 製さ れ る 錯 体 は 、 ケ ト ン の ヒ ド ロ シ リ ル 化 反 応 に 高 い 触 媒 活 性 を 示 し た 。
【RhCl(1,,5‑cyclooctadiene)(2b)]のXJl痕 結 晶構 造
第 四 章 は、 ト リ エ チニ ル ホ ス フィ ン2が 金 触 媒 によ る ア ル キン 類 の 環 化異 性 化 反 応の 非 常 に優 れ た 配 位子 で あ る こと を 述 べ てい る 。
エン イ ン や その 類 縁 体 の環 化 反 応 に、 カチ オン性 金(D錯 体が高 い活性 を示す ことが 知 ら れ て い る 。 しか し 既 存 の触 媒 の 適 用例 は 、 ほ ば5員環 構 築 反 応に 限 ら れ てお り 、 適 用 範 囲 を6員 環 以 上 に拡 張 す る こと は 困 難 であ っ た 。2aの 金 錯 体の 触 媒 活 性は 、 従 来 の触 媒 と 比 較 し て 格 段 に 高 く 、6員 環や7員環 の 構 築 を可 能 と し た。 キ ャ ピ ティ ー 状 の 立体 環 境 によ る 鋳 型 効果 に よ る 環化 の 促 進 が想 定 さ れ る。
1rriol% MaO.C MeOlC CO.Me Au+‑2a
‑‑̲ ) CH2CI2
25 0C, 5 h H
single diastereomer
95% ― 21 ‑
+ oligomers 42%
学位論文審査の要旨
学位論文題名
Development of DeslgnerPhOSphineSWith COmpaCtCOOrdinaHOnCenter
(コンパクトな配位中心を持つ官能性ホスフインの開発)
環境調和型有機合成を目指した金属触媒による新反応の開発が近年盛んである。今後 の大きな発展のためには、高度で新規な機能を持った触媒を開発することが必要であり、
その鍵を握るのは斬新な設計コンセプトに基づく新しい配位子の開発である。本論文は、
コン パクトな配位中心と構造変換部位を同時に持っホスフィン配位子として、2種の配 位子群を開発し、それらを金属錯体触媒反応に応用した成果について述べたものである。
第 一章お よび第二 章に述べ られて いる、か ご型ト リアルキ ルホス フィンSMAPは 二種 のへテロ原子を橋頭位に持つ架橋二環式骨格からなる化合物である。リン求核剤を用い て二度の環化反応を段階的に行い、ホスホニウム塩の形で架橋二環式骨格を構築すると いう 独創的 な方法に より、 リン原子上にフェニル基を持つPh−SMAPを合成している。
様々 な問題 を解決し て成功 に至った成果は高く評価できる。Ph−SMAPは無色無臭の結 晶性固体で、空気酸化に対して安定である。トリアルキルホスフインが一般に悪臭を持 ち、 空気中 で容易に 酸化さ れることと対照的であり、本研究の独創性を示している。
SMAPは りン原子 のまわ りの立体効果を変えずに構造修飾できるホスフインであり、
本 研 究 が 幅 広 い 分 野 へ 応 用 で き る 有 意 義 な も の で あ る こ と が 示 さ れ て い る 。 第三章と第四章は、ケイ素置換エチニルホスフィンの設計、合成、構造と性質ならび に 、 遷 移 金 属 錯 体 の 合 成 と 触 媒 反 応 へ の 応 用 に つ い て 述 べ て い る 。 このホスフィンは大規模なキャピテイー状空間を形成する新形式のホスフィン化合物 であ る。炭素一炭素3重結合がりン原子に直接結合したエチニルホスフィンは古くから 知られている化合物であるが、エチニル基の末端に嵩高い置換基を導入して、その反応 性を抑えた点が分子設計の独創的な点である。またこの配位子を口ジウム触媒によるケ トンのヒドロシリル化反応ならびに金触媒によるアルキンの環化反応に適用し優れた成 果を挙げている。特に後者においては、配位子の特性を巧みに利用し、反応の適用範囲 がほ ぼ5員環形成 反応に限 られる という従来法の問題を解決して、6員環やそれ以上大 き な 環 の 構 築 に 成 功 し て お り 、 こ の 成 果 は 特 に 高 く 評 価 さ れ る も の で あ る 。
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これを要するに、著者は分子触媒の新設計指針を提供する画期的な成果をあげたもの であり、有機合成化学、有機金属化学のみならず錯体化学、物理化学を含む広い分野に 対し貢献するところ大な るものがある。
よって著者は、北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認める。
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