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マット運動における技の修正に関する運動学的事例考察 -「前方倒立回転とび」の着手局面について-

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Academic year: 2021

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(1)Title. マット運動における技の修正に関する運動学的事例考察 −「前方倒立回 転とび」の着手局面について−. Author(s). 長谷川, 晃一; 山本, 悟. Citation. 釧路論集 : 北海道教育大学釧路校研究紀要, 第49号: 129-136. Issue Date. 2017-12. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9856. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第49号(平成29年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.49(2017):129-136. マット運動における技の修正に関する運動学的事例考察 ――「前方倒立回転とび」の着手局面について―― 長谷川 晃 一1,山 本 悟2 1. 環太平洋大学体育学部. 2. 北海道教育大学釧路校保健体育研究室. A movement theoretical case study on correct coaching in Floor Exercise -Focusing on the phase of hand jump on“Forward Handspring”HASEGAWA Koichi1 , YAMAMOTO Satoru2 1 2. International Pacific University. Department of Health and Physical Education, Kushiro Campus, Hokkaido University of Education. 要旨 本研究の目的は,マット運動の前方倒立回転とびの修正について運動学的観点から事例的に考察を加えることである。 その為,学習者に対してオーダーメイドの修正プログラムを実践し,欠点を修正していく様相を事例的に考察した。そ の結果,欠点を修正するための課題とその意味を示すことができた。. Ⅰ.はじめに. このような動きを修正したり,さらに発展させたりする. マット運動の前方倒立回転とび(以下, 「前転とび」と. にはどのような方法が用いられるべきなのであろうか.. する)は,「直立から倒立の状態を経過して回転し,再び 直立になる(中島ほか,1979,p.88)技であり,中学校学. Ⅱ.目的. 習指導要領解説(2008)においては「ほん転」技群,「倒. 本研究では,手ジャンプ動作が上手く機能しない前転と. 立回転とび」グループの最上位技として位置づけられてい. びから,それを修正したプロセスを呈示する。そして,そ. る(文部科学省,2008,p.43) .. の事例について,スポーツ運動学的観点から分析してこの. 前転とびの技術情報や指導手順については, 金子(1982). 技の指導方法の開発や改善に寄与したい。. や中島ほか(1979)を初めとし,多くの指導書や文献が見 られ,研究も盛んに行われている(藤田ほか,2005;金. Ⅲ.前転とびの技術的情報. 子,1982;小西ほか,2001;栗原ほか,2015;中島ほか,. 金子(1982,pp.203-209)は前転とびの技術体系につい. 1979;中村ほか,1999). て詳細に検討を行っている.そこでは前転とびの3つの技. 前転とびでは, 「助走やホップをつき手に生かすこと,. 術として,「ホップ技術」,「着手技術」,「回転加速技術」. 肩角度をひろげてつきはなし,足の振り上げとけりで回転. を示している.ホップ技術は, 「助走と本質的に同一の性. をつけること,身体を反らせたままで,安定した直立姿勢. 質」を持ち, 「からだ全体を斜め上方に引き上げる」こと. で着地すること (中島ほか, 1979, p.89) 」 がポイントとなる.. がポイントとなる.この技術が正しく行われることで「助. しかし,金子も述べているように, 「子どもの間で見様. 走を必要とさえしない」加速が得られることから,前転と. 見真似で前転とびが達成される場合は,図2のような運動. びの実施には不可欠の技術であり,次の着手や回転加速を. 経過をたどることが多い.その特徴として,④に見られ. 左右する力を持っているとしている.着手技術は,上体の. る腕の曲がりと肩の前出し,⑥~⑦に見られる低くしゃ. 振り下ろし時に「手が先に下ろされ,それから上体が前に. がみ込んだ着地姿勢が挙げられる」 (金子,1982,pp.199-. 倒される」のではなく, 「肩角を十分に開いたまま,むし. 200) .この場合, 「本来は,この前転とびの空中局面では自. ろ胸から先に振り下ろし,その勢いを腕に伝導して加速す. 分から身体の反りをつくり出して回転を助長するものなの. ること」が大切だと述べ,着手と同時に脚の振り上げが行. に,ここでは,からだをまげて回転を助長することを身に. われることによって下体から上体に勢いが伝導するが,踏. つけてしまう」 (金子,1982,pp.201-202)のである.. 切り足の機能を果たすには,着手⇒脚の振り上げの順序で. - 129 -.

(3) 長谷川 晃 一,山 本 悟 行うことが大切である.回転加速の技術は,着手後に立ち. きなかったと述べていた.そこから特別に練習することは. 上がる際,「からだの反りと背屈頭位によって回転加速を. なく,技能レベルは当時のままで停滞していた.. する必要がある」と述べている.. Mの前転とび(図3)の特徴は,着地が,立位に持ち込. また中島ほか(1979,p.88)は, 「助走とホップのスピー. むことはできていないものの,助走からホップ動作,着手. ドをつき手に生かすこと,肩角度をひろげてつきはなし,. と前転とびの大雑把なリズムは捉えることができている.. 足の振り上げとけりで回転力をつけること,身体を反らせ. 着手時に肩角はやや減少し,離手時には顔と地面が接近す. たままで,安定した直立姿勢で着地すること」と技術のポ. る体勢になってしまっていることが確認できる(図3-⑤. イントをまとめている.. ~⑦) .その後は身体を反らして立ち上がろうとするもの. 本論では,このような技術的情報をふまえ,論を進める. の,手ジャンプ動作が機能せず,空中に浮く局面がないた. こととする. . め, 身体を弓なりに反らして着地することができていない. Ⅴ.事例分析. Ⅳ.事例 本研究では,2016年8月9日に筆者. 注1). の勤務するK大学. 1.着手局面で肩が強く前傾すること. において保健体育教員を目指す学生に前転とびを個別指導. 図4の上段は,1年次(現在2年生)の器械運動授業にお. した事例を考察対象とした.. いて高評価を得た体操競技経験のない学生の通常の実施. M(当時大学4年生)は,教員採用試験の練習をしてお. (図4上段)と,同人に「着手時に頭部を背屈させ肩を前. り,倒立前転や後転倒立,側方倒立回転といった技に取り. 方に倒す」ように依頼し実施してもらった前転とび(図4. 組んでおり.いずれも達成していた.しかしながら,前転. 下段)の連続図である.肩を前に倒した実施では,空中に. とびについては一応足から着地するものの,回転不足で背. 浮く局面がなく,立ち上がることが困難であり,Mと同様. 中から倒れ込むような実施であった.K大学では,保健体. の着地体勢となった.上段では,着手から離手にかけて瞬. 育教員免許取得の必修科目として器械運動Ⅰを設定してい. 間的に肩角を増大させる(反らせる)ことにより上半身の. る.単位取得のためには,教員採用試験において出題され. 上昇を助長させる(図4,上段⑤-⑥).下段では着手時に. やすい複数の技を習得する必要がある.器械運動など実技. 肩の前傾が強まることで肩角の増大が妨げられて,手ジャ. 科目の多くは1年次に履修する学生が多く,Mもおよそ3年. ンプが機能していない.そのため,上昇が足りていない分. 前に器械運動を受講し単位を取得していた.当時(筆者が. については,逆に腕を振り下げ頭部を腹屈させるとともに. 赴任する以前) ,前転とびは全員が達成しなければならな. 上体を前屈させることによって「回転」を生じさせる.M. い必修技ではなく,高評価を得るための選択技として設定. は,このような肩角が減少した動きを繰り返すことで, 「肩. されていた.Mも当時,前転とびに挑戦はしたが,達成で. 角を増大して機能的な着手をすること」から,「肩を前傾. 図 1 習熟者による前転とびの実施(金子,1987 より一部改変して転載). 図 2 見様見真似で覚えた学習者によくみられる前転とび(金子,1987 より一部改変して転載). - 130 -.

(4) マット運動における技の修正に関する運動学的事例考察 して素早く回転し,上体を前屈させること」にコツが置き. 多い.. 換えられたため,手ジャンプが有効に機能しないステレオ. (b)(c)(d)は,相互に絡み合っているため,ここで. タイプの動きが定着したのではないだろうか.. は分割して説明することを避けたい.(a)で示したのは, 上体の振り下ろしで腕を先に振り下ろして肩角が減少した. 2.欠点の要因. まま着手に入ってしまうことに原因があるとしたものであ. Mの動きの観察や言語的なやりとりから以下のことが考. る.肩角を増大させての着手をし易くするには,振り下ろ. えられた.. し時に腰の位置が下がっている必要があるだろう.. (a)肩関節の柔軟性に乏しく,倒立で肩角を増大させる Ⅵ.修正方法の検討. ことができていない.. ここでは,Mへの前転とびの,修正の方法について,実. (b)上体の振り下ろし局面で腕-上体の順に振り下ろさ. 践をイメージしながら方法を検討していきたい.. れている. (c)着手に入る局面で前脚の膝が伸びている. (d) (c)により,着手をする瞬間に回転力が落ちる.. 1.壁倒立や補助倒立で着手練習. (a)について,Mの倒立は,肩角が減少し,腰部が背. これは, 「直立体勢から片足を前に上げた状態から勢い. 屈している.側面から観察するとS字のように湾曲してい. よく上体を倒し,両腕を伸展して倒立になる」 (中島,. る.このような倒立体勢は,自然に発生し定着することが. 1979,p.89)ことを基本とし,徐々にホップ動作や助走な. ①. ②. ③. ④. ⑤. ⑥. ⑦. ⑧. ⑨. ⑩. ⑪. 図 3 M による前転とび(修正前) ①. ①. ②. ②. ③. ④. ③. ⑤. ④. ⑥. ⑦. ⑤. 図4 前転とび(上段:通常の実施,下段:肩角を減少させた実施). - 131 -. ⑥. ⑧. ⑨. ⑦.

(5) 長谷川 晃 一,山 本 悟 ど段階的にスピードを上げていくという方法である(図 5) .この方法は,Mの肩が前傾し過ぎる倒立を修正するた めに有効であろう.ただし,前脚の振り下ろしや肩角を増 大させたまま上体を振り下ろすなど細かなポイントの提示 が必要になると考えられる.. 図6 ソフトマットを利用し,倒立~倒れこみの練習 (中島,1979より一部改変して転載) 5.高低差を利用した前転とび これは, 「とび箱の落差を利用」(中島ほか,1979,p.91) するなど地面との高低差を利用して前転とびを比較的容易 に達成させ,技能が高まっていくに従って,高低差を少な くするという方法である(図7).この方法は,身体を反ら 図5 壁倒立で着手練習. せたまま着地するという動きの感じを掴むために有効であ. (中島,1979より一部改変して転載). ろう.. 2.補助倒立を利用した脚の振り上げとけりの練習 これは,脚の振り上げと踏み切りを有効にするため,上 体の振り下ろしに伴って前脚の膝を十分に曲げ,回転力を 生むきっかけとなる振り切りを有効に機能させる「ため」 を作る練習として有効であろう. 3.補助倒立を利用した腕のつき放しの練習 これは, 「腕のつき放しによるジャンプ」 (中島ほか, 1979,p.90)の練習である.前転とびで立ち上がるには, 踏み切り動作によって下肢から上体へと伝導された左右軸. 図7 高低差を利用して前転とびの練習. 回転に「腕によるジャンプ」を参与させることが大切とな. (中島,1979より一部改変して転載). る(金子,1987,p.207) .この方法は,踏切り動作と腕に よるジャンプのタイミングを掴み手ジャンプを有効に機能. 6.幇助を利用して前転とび. させる練習として有効であろう.. これは,学習者が前転とびで立ち上がれない際に腰の支 えと上腕の引き上げによって技の成立を助けるものであ. 4.ソフトマットを利用し,倒立から倒れこみの練習. り,上手に直接幇助すれば,Mに動きの感じを掴ませるこ. 倒立まで肩角を増大させて持ち込める学習者でも,前方. とができるであろう.. に倒れ込んだ途端に肩が前傾することがよくある.これは 倒立時に身体の前面の力(胸やお腹)を使っていて,その. Ⅶ.修正プログラムと指導実践の成果. ことが倒れこんだ際の肩角や腰角の減少動作に繋がってし. 1.修正プログラムの設定. まうと考えられる.そのため,逆位で身体を緊張させたま. 前述の練習課題の検討をふまえ,図8のような修正プロ. ま,マットに倒れる動き(図6)を習得することで,肩が. グラムを設定した.. 極端に前傾してしまうことを抑制するような身体操作を獲. この課題の配列は,局面の順序に沿って発案したもので. 得できることが期待できよう.. あるが,指導実践の中で生じたつまずきなどに対応させ, 繰り返し実施させる,前の課題に戻る,新たな練習課題を 追加・変更し実施させるなど状況に応じて臨機応変に組み 替えることも視野に入れ,実践を行った.. - 132 -.

(6) マット運動における技の修正に関する運動学的事例考察 ①腕を頭の横まで上げた直立立ちで前脚を前方に振り出 した体勢から倒立. やホップを加えることにより勢いを増していけば達成でき ると判断し,課題④「軽く助走をし,ホップから前転とび」 の練習へ移行させた.その際, 「ホップから着手で前脚と. ②マットに向かって倒立からの倒れこむ. 同時に着手が入るように」といったリズムに関する助言を. ③歩行とホップから前転とび. した.ところが,これを意識させたことにより,肩は元通. ④軽く助走をし,ホップから前転とび. り前に倒れ,着地どころか背中から落下しそうになるほ. *初めは全て幇助付きで実施し,幇助を外すタイミング. ど,これまで練習してきた動作が一気に消失したのである (図10).筆者はすぐさま助言を撤回し,課題③戻らせた.. は幇助者の裁量による判断とする .. それでもなお,課題③においても肩が倒れる動作は改善さ 図8 Mのための修正プログラム. れなかった. そこで,もう一度ポイントを1つ1つ確認し,課題④と課. 2.修正の様相. 題①を平行して練習させることで,それぞれ3回程度の実. 2016年8月9日に前転とびに関する指導を約90分実施し. 施で課題④を取り組む前の動作に修正された.そこからは. た.Mの肩が倒れてしまうというつまずきを解消するた. 前述と同様の手順で,徐々に助走から組み合わせるのであ. め,まずは課題①「腕を頭の横まで上げた直立で前脚を前. るが,先ほどの反省をふまえ,ホップ動作についてのアド. 方に振り出した体勢から倒立」を実施した.その際,上体. バイスは控えることとした.その代わり,筆者による1回1. を振り下ろす際は肩がまっすぐのまま胸から下ろすように. 回の動作の評価とMの内観報告を照らし合わせた上で助言. すること,振り上げた脚は上体の倒しに伴い,腹部の真下. をした.その際,着手後の動作で「反り動作が窮屈そう」. あたりに着床させるという2つの指示をした. これにより,. という印象を受け,Mに伝えると「そうなんです.肩がこ. 前脚の膝が曲がり,腰が低い状態での着手が可能になった. れ以上反れないんです」と発言した.そこで筆者は,これ. ことから肩角の伸びた着手へと変化した.しかしながら,. まで「倒立へ勢いよく脚を振り上げる」としていたが, 「倒. 腕を上げた状態で固定するという捉え方をしたためか,倒. 立よりも更に前方へ脚を振り出す」という助言に変更し. 立位で頭部が腹屈してしまうという実施となった.そのた. た.それにより,身体(特に肩)はすっきりと反らされ,. め,立位の状態で倒立時の肩の伸ばしと頭部の背屈動作を. 達成に至った.その後は失敗しても安全に着地に持ち込め. イメージするように促した.その際, 「腕は上げて固定す. ると筆者が判断したため幇助を外した.. るのではなく,高くバンザイする感じで」と助言した.そ. すると,初めは幇助がないことによる力みから若干の肩. こから2回程度の実施でポイントを押さえた立位からの倒. の倒しが見られたが, 「肩が出た」という内観報告があっ. 立が達成された.. たことからも動きを正確に把握していることが確認でき,. 次に,練習課題②「マットに向かって倒立からの倒れこ. ほとんど助言することなく3回ほど実施したところで目標. み」を実施させた.この際,課題①のポイントをふまえさ. とする肩角がまっすぐに伸びた前転とびが達成された(図. せ,「身体をまっすぐにして全身でバタンと大きな音を立. 11).. てる」ように助言した.初めは最後まで身体の伸ばしを維. ここまででおよそ60分経過しており,疲労も溜まってい. 持することが出来ず,背中から順番に倒れこむ実施であっ. ると思われたことから,Mが苦手意識を持っている後転倒. たが,その都度「手を見ながら」や「全身で強くバンザイ. 立や伸膝前転を約25分実施させた.そして,練習を終えよ. しながら」といった細かな助言により3回程度の試行で達. うとした時,Mは「前転とびを安全マットなしでできる気. 成した.. がする」と自信のある表情で発言した.実施させてみると,. そこから,練習課題③「歩行とホップから前転とび」を. 粗削りではあるが,修正前より手ジャンプが機能し,身体. 実施させた.その際は,課題②でマットに倒れこむ中で,. を弓なりに反らした着地が達成された(図12).. 「肩,胸,腰を張りブリッジのようになる」という助言を 行った.その際,右手を脚が振り上がる位置に構え,着手. Ⅶ.事例的考察. 後半では左手で背中を支える幇助を行った.これにより,. 1.着手動作の具体性. 下半身の回転力不足による肩の倒れを防ぎ,立ち上がりを. 本研究では,前転とびの着手局面において肩をまっすぐ. サポートできると考えた.なお,立ち上がりのサポートに. (肩角を増大させたまま)にして着手するという視点に着. ついては,Mの持つ感覚を大きく超えてくるようなもので. 目して指導実践を行なった.そのため, 「腕を頭の横まで. はなく,支える程度のものであることを心掛けた.このよ. 上げた直立で前脚を前方に振り出した体勢から倒立」と. うにして実施していくと肩角を伸ばした上体の振り下ろ. いう練習課題を設定した.この練習は,Mの「着手時に肩. し,前脚の踏切りと後ろ脚の振り上げ,肩角をまっすぐに. 角が減少してしまう」というつまずきを引き起こす要因と. した着手,反って立つことなどが同調され,軽く幇助する. される「上体より先に腕が振り下ろされる」や「上体の振. ことで,立ち上がることができた.ここまで来れば,助走. り下ろし時に前脚の膝が伸びて腰が高い位置に保たれてい. - 133 -.

(7) 長谷川 晃 一,山 本 悟 る」 , 「肩角の減少による着手」動作(図13)を解消する上. 動けば解消できるのか」ということが動く感じとして捉え. で有効に機能したと推察される.すなわち,未熟練者であ. られなかったと考えられる.すなわち,肩角をまっすぐに. るMにとっては,肩が前にでてしまうことを「どのように. するという動作は,Mにとって,非常に具体性をともなっ. ①. ②. ③. ④. ⑤. ⑦. ⑥. 図 9 幇助つき前転とびをはじめて成功させた動き. ①. ②. ③. ④. ⑤. ⑦. ⑥. ⑧. ⑨. ⑩. 図 10 ホップ動作を助言した直後の前転とび. ①. ②. ③. ④. ⑤. ⑦. ⑥. ⑧. ⑨. 図 11 前転とびを(幇助なしで)はじめて達成した時の動き. ①. ②. ③. ④. ⑤. 図 12 着手時に肩角が伸びた前転とび. - 134 -. ⑥. ⑦. ⑧.

(8) マット運動における技の修正に関する運動学的事例考察 た着手動作となり,この課題が着手局面を修正する手引き となったのである.. 図14 脚の振り上げ方向のイメージ (上段:倒立まで,下段:倒立の奥まで). Ⅷ.おわりに. 図 13 上体の振り下ろしと着手時の肩角との関係 (上段:着手時に肩角が増大している,下段:着手時に肩 角が減少し肩が前傾している). 本研究では,前転とびの実施において「着手時に肩角が 減少し,肩が前傾してしまう」ことにより,有効なつき手 や反って立つことが難しく,技が達成されない事例につい. 2.後ろ脚を振り上げる感じの変化. て,その学習者の動きや動きを引き起こしている要因を検. 倒立-倒れこみ-着地と段階が進むにつれて,脚を「倒. 討した.その上で,動きの解決策としての運動課題を検討. 立まで」ではなく, 「倒立の先まで」振る意識(図14)となっ. し,立位からの倒立や倒立からの倒れこみ等を取り入れ,. ていった.これは,着手局面の変化により,手ジャンプと. 指導実践を通してその有効性と重要となるポイントについ. 振り上げ脚の動きが同調していることにより発生したと推. て検証した.本研究で示した,機能性の高い手ジャンプへ. 察される.すなわち,着手時に肩が前にでてしまう場合に. と修正した事例の情報は,修正に伸び悩む者にとって,よ. は,振り上げと踏切り動作は有効には機能しない.また,. りよい前転とびをするための手がかりとなるだろう.. その動きを意識的に実施することも難しいと推察される. しかしながら,着手の動作が修正されていくことで,倒立. 注. 位になる局面が生じ,このことが「倒立まで振り上げる意. 1)本論における筆者は長谷川をさす。本研究に関する資. 識」から「倒立の先まで振り上げる」という力強い動作を. 料収集と本文の作成は長谷川が行った。研究計画や. 生み,手ジャンプと融合していったのである.. 論文の推敲は長谷川と山本の共同作業で行った。. 以上のことから,本事例での修正への方法として,以下 引用・参考文献. の3つがあげられよう ①腕を高く振り上げた立位あるいはホップから肩角を増大 させたまま着手動作に持ち込むこと. 藤田雅文・北川政弘(2005)マット運動における前方倒. ②上体の振り下ろしで前脚を前方に大きく踏み込むこと. 立回転とびの指導法に関する研究―中学1年生男子を対. ③倒立より先まで振り上げ脚を振り切ること. 象として―.鳴門教育大学研究紀要(生活・健康編),. - 135 -.

(9) 長谷川 晃 一,山 本 悟 20:25-31. 金子明友・朝岡正雄:運動学講義(1990)大修館書店. 金子明友(1982)教師のための器械運動シリーズ(マット 運動) ,大修館書店. 小西裕之・岡村輝一・川口鉄二・鈴木良太・釘貫祐輔・関 根彩・藤本俊・清水紀人(2001)運動財・運動覚が技 のできばえに与える影響について―前方倒立回転跳美 を運動課題として―.仙台大学紀要,33(1) :27-44. 栗原英昭・吉田茂(2015)器械運動の道しるべ 4.マット運 動「前転とび(ハンドスプリング) 」の指導法.体操競技・ 器械運動学研究,23:33-54 中島光広他:器械運動指導ハンドブック(1979) ,大修館 書店. 文部科学省(2015)器械運動指導の手引き, 東洋館出版社. 文部科学省 (2008) 中学校学習指導要領解説 保健体育編, 東山書房. 中村剛・加藤澤男・渡辺良夫(1999)器械運動におけるマッ ト運動の「前方倒立回転とび」のつまずきに関する事 例研究.筑波大学体育科学研究紀要,22:33-42 山本悟・周東和好(2012)マット運動における後転の頭越 しに関する事例的研究.スポーツ運動学研究,25:45 ~ 57.. - 136 -.

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