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金融市場における予想と財政金融政策の効果-香川大学学術情報リポジトリ

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(1)

金融市場における予想と財政

金融政策の効果

藤 井 宏 史

I はじめに 今日ほど経済学の各分野において予想の果たす役割の重要性が指摘され,多 くの論者達の闘で活発な議論が繰り返されている時期はない。とりわけマグロ 経済の分野でその傾向は顕著でさまざまな現実のマクロ経済現象〔失業, イン フレーション等〉や政策効果についての議論で予想が問題にされないことは希 である。これは1960年代後半から 1970年代初頭にかけて行われたケインジア ンとマネタリストの政策論争を通して, インフレ予想の果たす役割の重要性が 認識されてきたことに端を発している。議論は主に長期的な意味での「自然失 業率仮説」の妥当性をめぐって行われたが,予想形成は共通して適応的な

(

a

d

a

-p

t

i

v

e

)

ものが利用され,その点での意見の相違はなかった。 予想形成のあり方について問題にしたのは周知の

L

u

c

a

s

S

a

r

g

e

n

t

B

a

r

r

o

に 代表される「合理的期待論者」と呼ばれる人々である。彼らは,現実の経済主 体の予想形成が単に予想変数に関する過去の情報をもとにしてのみなされるの ではなく,市場構造や政策についての利用可能なあらゆる情報を利用してなさ れると考え,従来の予想形成を非合理的なものとしてしりぞけた。そして,政 府の行う政策はそれが経済主体に予期されていない場合を除けば実質変数への 効果はなL、と主張した。しかし,今日では広く知られているようにこの命題は 「合理的予想」そのものより基本的にその基礎となっているモデルに依存して いる。「合理的予想」そのものの考え方はその後多方面で利用されているが,特 に財市場や労働市場といった市場調整が不完全な市場より,市場が比較的効率 的で情報それ自体が重要な役割を果たす金融市場(外国為替市場,株式市場,

(2)

-82ー 第58巻 第4号 730 債券市場等)の方が妥当しやすいとの判断のもとに今日ではこうした部分市場 に適用されることが多い。 そこで本稿では r合理的予想」の考え方の当否を問うのではなく多くの予想 形成の中での lつの極端なケースであるとみなして,まず第

u

こ金融市場(債 券市場〉における予想、形成の相違が財政金融政策の効果にどのような違いをも たらすのかを明らかにする。その際,予想形成の相違をオベレーショナルな形 で区別できるようにするため, Burmeister

&

Turnovskyが論文

C

2

J

で導出し た一般的な予想、形成式を利用する。 第

2

に r合理的予想」を仮定して政策が予期された場合とそうでない場合に ついて政策効果がどのように異なるのかを明らかにする。 なお,以上の分析のために使用するモデルは合理的期待論者のそれと異なり, ごく標準的な性質をもっヶインジアンタイフ。の動学モデルであ仁 II モ デ ル まず,以下の分析で使用するモデルを示しておこう。

Y

=

C((1-r)

Y)+I(r)+C

0くc'

<

1

r

ぐO M = L( Y, i) 0

<

Ly, Li

<

0

M

H+

H

G-

r.

Y

0

<

rく

1

z

よ+~乙

q q rje

=

~・ d

1

7三 一 一 q

(

1

)

(2) (3)

(

4

)

(5) (6)

(

7

)

*

小論は神戸大学MME研究会(1985年12月〉での報告を基にまとめたものである。有益 なコメントを下さった方々にはこの場を借りて感謝致します。なお,ありうべき誤りは筆者 のものです。 (1) 先物市場の充実している外国為替市場への適用例には事欠かないが,株式市場や債券 市 場 に 合 理 的 予 想 を 適 用 し て マ ク ロ 分 析 を 行 っ て い る も の と し て は 例 え ばBlanchard ( 1 J, Turnovsky & MilIer(4 J等がある。 ( 2 ) 本稿を作製するにあたっては特にTurnovsky& MilIer ( 4 Jが参考になった。

(3)

731 金融市場における予想と財政金融政策の効果 83-記号 ,

Y

名目所得, G 名目政府支出

r

平均税率,

M

貨幣残高 ,

H

外部貨幣残高,威 内部貨幣残高 短期利子率,q 長期債価格

q

e

長期 債の予想、

c

a

p

i

t

a

lg

a

i

n

(1

o

s

s

)

, ~ 予想係数

r

長期利子率. まず,本稿のモデルの特徴で町ある金融市場についての想定を説明しておこう。 金融資産には貨幣の他に満期の異なる

2

つの債券が存在し,一つは短期債で、 もう一つは長期債である。金融市場(債券市場〉に参加するのは企業家と利子 生活者及び政府貨幣当局でその他の主体はこの市場には関与しなし、。利子生活 者は

2

種類の債券を運用して短期的な利鞘を得る投機家として行動する。これ に対し,企業家は長期的視野を必要とする設備投資を決定する際の代替的手段 として長期債券のみを保有する。そのため,金融市場において利子生活者が短 期的な予想収益率にのみ関心をもって行動するのに対し,企業家は長期的な債 券利回り(長期利子率)を基準にして行動を行う。そして市場は完全で,利子 生活者の裁定行動を通して両債券の短期的な予想収益率が常に等しくなるよう に長期債の価格が即時的に調整される。その結果,両債券は完全に代替的とな るから債券市場は事実上単一の市場とみなされる。政府貨幣当局(中央銀行〉 はもちろんこの債券市場に政策主体として参加している。 以上の点を念頭において以下モデルの説明を行う。まず(1)式は財市場の需給 均衡式で, C(・), I(・)はそれぞれ名目タームでの消費と投資である。消費は 可処分所得 (1-r)Yの関数,投資は長期利子率 rの関数である。ここで,債券 の短期予想収益率が利子生活者の消費への効果を通して全体の消費に影響を及 ぼす可能性があるが,消費全体に占める彼らの消費自体が小さいと考えて無視 している。その結果,財の総需要に影響する債券の収益率は長期利子率のみに なる。 (2)式は貨幣市場の需給均衡式で

L

(

・)は名目貨幣需要である。ここでは貨幣 (3) 通常利子生活者と言う場合年金生活者等のように資産の長期運用によって生計を立て ている人々も含めて考えられるが,ここでは経済主体の中で専ら資産の短期運用に従事 する人々をさしている。以下本文で「市場参加者J,r投機家」とも呼んでいる。 (4) モデノレは物価水準一定の回定価格モデノレで、ある。

(4)

-84- 第58巻 第4号 732 需要が所得の他には金融資産の短期収益率にのみ依存すると仮定されている。 (3)式は貨幣の定義式である。銀行部門は中央銀行だけであるとすると右辺は 中央銀行の資産サイドの構成を示している。この中央銀行は次式で示される財 政赤字によって生ずる政府債務(国債〉をすべて引き受ける以外に独立な金融 政策手段として民間の債券市場に対して公開市場操作を行うと考える。その意 味でH を外部貨幣匁を内部貨幣としている。

(

4

)

式はその外部貨幣の変動方程式で,財政赤字が

moneyf

i

n

a

n

c

e

でなされる ことを示している。 (5)式は利子生活者の裁定行動による短期債と長期債の短期的な予想収益率の 均等を示しており,以下これを裁定条件と呼ぶ。短期債としては元金の変化し ない貯蓄債券のようなものを想定し,長期債としては毎期1円を支払うことを 約束されたコンソル債を考える。そうすると短期債の予想収益率は短期利子率 でそのものであるのに対し,長期債はクーポンによって得られる単位収益率と 予想された

c

a

p

i

t

a

lg

a

i

n

(l

o

s

s

)

を加えたもの

(

(

5

)

式右辺〕になる。

(

6

)

は本稿のモデ、ルの

keyp

o

i

n

t

となる長期債券の価格予想形成を示す式であ る。これによるとその時点での瞬間的な債券価格の予想変化率

q

e

は予想係数

t

と現実の価格変化率

d

の積であらわされることになる。ここで予想係数

S

は 予想形成が現実の価格の変化の方向をどの程度正確に反映しているかという意 味で予想形成の「合理性」を示す尺度で, ~

=

1のときいわゆる「合理的予想」 を示している。合理的でない~

<

1

の中には通常の「適応的予想

(

a

d

a

p

t

i

v

e

e

x

p

e

c

t

a

t

i

o

n

)

J

(~<

0

)

r

静態的予想

(

s

t

a

t

i

ce

x

p

e

c

t

a

t

i

o

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L

I

(ご=0

)

r

外挿的 予想

(

e

x

t

r

a

p

o

l

a

t

i

v

ee

x

p

e

c

t

a

t

i

o

n

)

J

(

O

<

~

<

1

)

等が含まれる。なお

(

6

)

式の導出 過程と

E

の意味については

Appendix

を参照されたい。 (7)は長期利子率の定義式である。コンソル債の場合,その利子率は債券をそ (5) この仮定のもとでは短期僚と長期債の短期予想収益率が貨幣需要の決定因となるが, 裁定条件式(5)を考慮すると短期債の利子率のみを金融資産の収益率として考えることが できる。 (6 ) ここで qeはAppendixの表現を借りて言えば qf(t,t)であることに注意されたい。

(5)

-85-金融市場における予想と財政金融政策の効果 733 の時の市場価格qで購入し,永久に保有し続けた場合の内部収益率であると定 義するとそれはqの逆数に等しくなる。 モデ、ルの展開

I

I

I

一時均衡 ) 市i ( 本モデルの一時均衡は,~キ O で予想が内生的に決まる場合には,(1)一 (3)で表 せるのに対し,予想が外生的に決まる静態的予想、の場合には初めから長期債の

c

a

p

i

t

a

l

g

a

i

n

を予想しないから (qe

=

0

)

短期利子率は常に長期利子率に等し その一時均衡に - rなる条件を加えなければならなし、。そこで,内 くなり, 生的予想形成の場合から考えることにすると,名目所得 Yと短期利子率 i~こ ) 口 百 ( 、 、 , E EE -p a EE E E , , ついての一時均衡値の決定式は一般に次の様に表せる。 Y

=

Y(q;

δ)

i = i(H, q;必, C) ここで名目所得 Yが金融変数

H

,婦に依存しないのは債券価格qが動学変 数のため長期利子率 rを通して投資に影響を与えるのに時間の経過を必要と するからである。そのため金融市場における撹乱は短期利子率の調整でのみ吸 これに対し,財市場に 財市場へは一時的には何ら影響を及ぼさない。 収され, G及び動学変数

H

,qに関する即時乗数を示せば OY r.L Yq 三一一 ~ ,'-'.'

>

0

oq q"A おける撹乱は貨幣の取引需要を通して短期利子率に影響を与える。 そこで,政策変数点

y;=AE

こ ニ 二

LL>O

- o

d

i

",

=

=

!~

= L之 >

0

d

[.Lv

一一

'

-

'

.

y

>

0

q"A

(

9

)

oi Zq

瓦 =

伽 三

JL=tm<O

H

a

z

s

-

r

Zm

==訪=ーす<

0

d

三 一SLi

>

0

と書ける。前述の説明から即時乗数の符号に関しては詳細な言及をする必要が ないと思われるので目新しい変数qの効果についてのみみておく。債券価格q 0<

s

三 (1-C')(1-r)< 1

の上昇は長期利子率fの低下を意味するからまず投資の増大による乗数効果

(6)

-86- 第58巻 第4号 734 を通して所得

Y

の増加をもたらす

(Y

q

>

0

)

。次にこの所得の増加は貨幣の取 引需要を増大させ貨幣市場の需給を逼迫させるが,短期利子率の上昇がそれを 吸収する (iq

>

0)。 次に,静態的予想の場合には常に短期利子率が長期利子率に等しし、から通常 の

IS-LM

モデルの一時均衡と同じになる。そこで上記の一時均衡式(8)に rを考庫、して静態的予想、の場合の一時均衡値の決定式を表すと次の様になる。

Y

=

Y(H;

弱, G)

i

=

[(H;

G) 同様にして即時乗数の値を求めると ー

Y

g

三 ず

>

0

Y

h

=

Y

m

=

-

A

'

>

0

) Q U ( 1 l i t -J ハ H υ < 山

7

一 一 -M 一 一 ハ リ > ん

Z

一 一 -h A H V l ( 、l f 1 4 1 1﹀ 1 1 1 1 1 1ノ となる。ここで

4

三 .::j-['Ly

>

0

である。これらの結果は常識通りのもので あるから説明は省く。 (2) 長期均衡 次に均衡状態の性質を調べておく。ここで均衡を貨幣残高及び債券価格が不 変にとどまる状態と考えれば, (4)式より

M

=

0

であるから財政収支は均衡す る。また,(5)式より

q

e

=

0となって予想capitalgainが消滅するから短期利子 率

t

は長期利子率

r

~こ等しくなる。そこで均衡値を決定する方程式体系を示す と以下の様になる。

Y

*

=

C

{

(

l

-

r)

Y*}+ I

(

r

*

)

+

G

H*+

=L

(

Y

*

,戸) G

=

r'

Y

*

(11) ( I2) ( I3) (14) ( I5)

1

q

云干

r

i

*

r

*

ここで*印は均衡値を示す記号である。均衡値がどの様に決定されるのかを みておくと,まず(I3)式で財政収支を均衡させるように

Y

*

が決まるから,それ

(7)

735 金融市場における予想と財政金融政策の効果 -87ー を(11)式に代入すると財市場の均衡を成立させるように〆が決まる。その2つ の値を(12)式に代入すれば貨幣市場を均衡させるような H*が求まる。あとは(14), (15)式により

P

,♂が一義的に決まる。従って,政策変数との関連で言えば, ま ず財政支出

C

は国民所得 Y*と金融変数〆 i*,q*, H*のすべての均衡値に 影響を与えることがわかる。それに対して,金融政策変数婦は

H

本を除けば他 の均衡値になんら影響を与えない。そこで,財政支出

C

の及ぼす効果を調べる と, dY' 1 一 一 て 了 = 一 >

O

.

dG r dr* di* -

s

/ ハ

dG

五百二.:;1*<-.V

坐と

=α*2.

~*

>

0

, dG ヨ.:;1* dM場 dH* dG dG

>0

となり,婦については, dY* dr* di

土ー虫と三

dM*

=

(i dl死 一

d

弱 d必 dl宛 din となる。 ここで, .:;1*三一

r

I'

>

0

である。

(

3

)

体系の動学と予想、形成 dH* 噌 dl宛 ( 16) (17) 次に上記の一時均衡の分析を利用して予想形成が内生的になされる場合(; キ

0

)

の体系の動学方程式を示すと次の様になる。

[

J

;

;

:

:

)

l

f

f

l

(18) モデルは裁定条件(5)を含んで、いるため基本的には非線型体系となるが,分析 を容易にするため均衡値(H*,♂)の近傍で線型化している。よって各係数aij (i, j

=

1, 2)は均衡値で評価されたものでそれぞれ, α11=0 al2

=

-

rYq

<

0

( 1め

21 ;-'q*im

O

22

=

;

-

I

(i*+q*' iq)

O である。体系は 2階の線型徴分方程式であるから特性根は必ず 2根存在する。

(8)

-88ー q 第58巻 第4号

qe=q =0

qe>O

HくO

y

<

<

"

s

第 l図

qe<O

H>O

/

q

e

くO

H<O

736

H=O

H そこで予想係数

t

を基準にして体系の安定性を調べてみると,まず;

<

0

すな わち(狭義の)適応的予想形成の場合には aZl

>

0

, aZZ

<

0

となって特性根は 必ず負の実部をもつから体系は安定となる。次に,予想が静態的になされる場 合は,上記の体系で予想係数

E

を限りなく Oに漸近させた場合に相当するか ら,特性方程式の根軌跡を分析すれば特性根の1つはOになるのに対し,残り の

1

つは負で特定値 -alZaZl/ aZZになることがわかる。従ってこの場合,体系 は1階の徴分方程式に退化し,単調収束で安定である。そこで

t

O

の場合の 体系の運動を位相図で示すと第1図のようになる。この図で

q

=

0上の矢印の 方向は

;=0

の場合の体系の運動を示す。 次に

;>0

の場合にはaZl

<

0

, aZZ

>

0

となるから特性根は符号の異なる

2

つの実根となり,第

2

図に示すように体系は鞍点による不安定性

(

s

a

d

d

l

e

-

p

o

i

n

t

i

n

s

t

a

b

i

l

i

t

y

)

を示す。 予想形成が静態的になされる

;=0

の場合の安定性は通常の

moneyf

i

n

a

n

c

e

を含んだマクロモデルの安定化メカニズムより自明であるので,内生的予想形

(9)

737 金融市場における予想と財政金融政策の効果 -89-q qe=O ハ リ ハ U < く -q ﹂ X * q H=O X 一一

-H

H 第2図 成の場合において

czO

で安定性が異なる理由を考えてみる。明らかにそデ、ル の不安定因は(18)式における債券価格の変動方程式にあるが,債券価格の予想形 成

q

e

と実際の価格変化率 dの決定関係を明示的にするために不完全裁定を 想定して,次の様な単純な価格変動方程式を考えよう。

.

.

L

-

γ

r

(

よ十

t

.

J

L

)

-

i

l

0

<

γ

q . L¥q - q / J (5)' これは,長期債の予想収益率と短期利子率との聞に収益格差が予想されるに応 じて債券の市場価格が変化することを示したものである。そこでいま短期利子 率が低下して長期債が有利になったとすると人々が債券需要を増加させる結 果,債券価格は上昇する (q

>

0)。その場合,適応的予想で

c<O

であれば人々 の価格が上昇しているにもかかわらず

c

a

p

i

t

a

l

l

o

s

s(

q

e

<

0

)

を予想し,長期利 子率の低下と相まって当初の予想格差は縮小する。そしてそれに対応して債券 価格上昇率も低下するからやがて予想された

c

a

p

i

t

a

ll

o

s

s

も消滅してゆく。こ れに対して

c>O

の場合には人々は

c

a

p

i

t

a

lg

a

i

n

を予想するから長期利子率

(10)

-90ー 第58巻 第4号 738 の低下にもかかわらず,長期債の予想収益率がさらに上昇し短期利子率との格 差が拡がる可能性がある。当初,生じた収益率の格差が縮小する方向にいくか 否かは市場の調整係数yと予想係数手の大小関係に依存しており,格差が縮小 して安定な方向にむかうためには,

~くよでなければならない。しかし,本稿

Y では裁定条件が成立するように債券価格が調整されると考えているので γ→ ∞とすると (5)' 式の安定条件は~

<

0の場合に限られることになる。よって,第 1図,第2図で示されている変数の動学過程は(5)式を念頭において理解すれば よいことがわかる。 以上では内生的予想形成が単に過去の債券価格の動向についての情報をもと になされるものとして考えてきたが,実際には現在及び将来の経済構造や政策 態度についての情報をも織りこんだ形で予想形成がなされているかもしれな い。もし,それらが正確な情報であれば本モデルの場合,債券市場の参加者は 将来の債券価格の経路を正確に予想することになるので~

=

1である。一般に 合理的予想モデルにおいては初期状態が経済主体にとって与えられたものでは なく,正確に予想された将来の価格系列が収束することを前提にしてその系列 を逆に辿ることにより決定される。すなわちこの場合第

2

図に示される体系の 運動は直接経済全体の客観的な運動過程を示すのではなく,経済が特定の初期 状態にあるとした場合にその後辿るであろう経済の予想された運動過程で、ある から債券市場の合理的参加者が債券価格を操作することによって初期状態を選 択することができるとすれば,均衡点Eに収束する唯一の経路

x

X'

上にのる ように初期値を定めればよいことになる。そうすれば以後,予想された通りに 実際の経済が均衡点Eに向かつて収束する。従って, ~

=

1の場合現在の経済 構造や政策が将来も変化しないと予想しているとすると,実際の経済の運動過 程は第

2

図における安定な固有直線

x

X'

の矢印で示すことができる。 そこで以下の政策効果分析においては体系が安定であるものとし,狭義の適 (7) 貨幣ストググは市場参加者にとってはhistoricalvariableであるから債券価格qを操 作することにより初期状態を選択することになる。ただし,ここでの操作は直接価格設定 をするというのではなく依券の売買を通して行われる。

(11)

739 金融市場における予想と財政金融政策の効果 7' A Q J 応的予想(ごく 0),静態的予想(~ = 0),合理的予想(~ = 1)の3つの予想形成 の場合に限定して分析を行うことにする。各予想形成に対応する体系の動学経 路を示すためにまず体系(18)の一般的な解経路を特性根が異なる 2実根の場合を 仮定して表すと次のようになる。 H(t)=H*十A1'exp(λ1t)+A2'exp(Ad) q(t)=

ピ+十

A1exp(Ad)+

~_2_

A2exp(A2t) U12 Ud:.! ) nu o y u (

E E l t ﹀ I 1 1ノ ここで ,A1' A2は A1

=

~

λ

r

~2

{H(O)-H*}

{q(O)

一川│

2 -,11 LaI2'..'v, ~'J

。 ,

-) u ( 、 ー ー tl 、 f l i -ノ A2=

.

2

-

1

0

1{H(O)-H*}+{q(O)

一♂}

I λ2-A1L aI2""~"'J であり,ん, ,12は各々体系側の特性根である。これより静態的予想の場合は側, 飢)式において

5

→Oとすると, H(t)=H*十{H(O)-H*}exp(Aot) q(t)= q*+{q(O)-q

ex叫ん t) となる。ここでん -a12a21/α22

<

0

である。 ) n F u q b (

1 1 P O B ノ 次に合理的予想の場合には現在の経済構造や政策が将来変化しないと予想し ているとすれば安定な固有直線が実際の経済の運動経路であるから,,11

<

0, ,12

>0

とすると飢)式において A2

=

0

が成立するように初期値が定められている ことになる。よって, この場合, H(t)

=

H*+A1・exp(Ad) q(t)

=

q行*叫+.A十

~, Aμ1eωe

邸閃

X却p以山(

uι~ 12 同 引 叫 向 M 四 戸 、1 1 1 l l l J と書ける。この国有直線の方程式は闘式において

A

1・exp(A1t)を消去すると得 られる。すなわち, q(t)

=

約 十

{H(t)-H*} U12 (24) である。

(12)

-92ー 58巻 第4号 740 III 政策効果分析 この節の目的はまず第lに,予想形成の相違によって財政金融政策の即時的 効果や動学的効果にどのような相違が生じるかを明らかにすることであり,第

2

に政府が行う政策があらかじめ金融市場の参加者に予想されている場合とそ うでない場合に経済の反応がどのように異なってくるかを明らかtこすることで ある。なお第

1

の分析で合理的予想による体系においては予期されない政策が 実行された場合を考える。 (1) 金融政策の効果 まず,金融政策の場合であるが, ここでは政府貨幣当局が

1

回限りの買いオ ベレーションをすると考えよう。第3図はその場合にそれぞれの予想形成に応 じて示す体系の運動をまとめて表したものである。図の座標は初期の均衡値を 原点Oとした相対座標となっている。また,第4図は横軸に時間をとり変数 Y の時間経路を予想形成別に示したものである。両図とも原点、Oから出た矢印の 動きが適応的予想,

A

点からのものが合理的予想、で

B

点からのものが静態的 予想の場合の体系の運動を表す。第

3

図では婦の引き上げが長期的には

H

の 同額の減少しかもたらさない ((18)式〉ので均衡値は政策実施後原点

O

から E点 H

x

-

-

'

7

E H>O 第3図 B O q

q

=0

q

e

<

O

H=O

(13)

741 金融市場における予想と財政金融政策の効果 -93ー Y B A O tzme 第4図 に移るように描かれている。 そこでまず静態的予想と適応的予想について政策の即時効果及び動学効果を みていこう。静態的予想、のもとでは長期利子率は常に短期利子率に等しし、から 買いオべによって短期利子率が低下した瞬間にそれを維持するように債券価格 がはね上がる。それを示したのが第

3

図における原点

O

から点

B

への矢印の動 きである。よって長期利子率の低下が所得の増加(第4図O→B)をもたらす。 これに対して,適応的予想、の場合には買いオべによる貨幣市場の緩和が短期利 子率の低下によってのみ吸収されるから長期利子率や所得には影響を及ぼさな い。その後,静態的予想の場合には財政余剰により民間の貨幣残高が減少する から,貨幣需給が逼迫し長・短利子率ともに上昇して所得をもとの水準まで減 少させる。その過程での長期債価格と貨幣残高の動きを示したのが第3図のB 点からE点への矢印である。適応的予想の場合には初期での短期利子率の低下 をうけて長期債の購入が増加し債券価格が上昇してゆく。その結果,長期利子 率の低下,所得の増加が生じ,当初の買いオペの効果が徐々にあらわれる。こ の過程は第

3

図で原点

O

から点

C

への矢印で示されているが,図より明らかに 債券購入を増加させながら (q

>

0

)

c

a

p

i

t

a

1

1

0

s

s

を予想し続けている (qe

<

(14)

-94 第58巻 第4号 742 0)ことがわかる。 次に,合理的予想の場合についてみてみよう。この場合は予期しない買いオ ベが行われて新しい体系に移行した直後の戦略として合理的参加者は第

3

図に おける原点

O

から

A

点に向けて債券価格を競り上げる。その結果,所得の増加 が生じて当初の貨幣需給の緩和を部分的に吸収するから適応的予想の場合ほど 短期利子率は低下しなし、。静態的予想の場合と比較すると所得の増加は相対的 に小さいのに対し,短期利子率の低下の程度は大きい。これは第3図からわか るように債券価格の上昇の程度が合理的予想、の場合の方が小さくなっているか らである。そこで次に合理的予想の場合になぜ債券価格の上昇が静態的予想の 場合に比して小さいのかを考えてみよう。前述したように合理的な市場参加者 は買いオぺが実施された新しい経済状況の中で初期時点における短期利子率が 低下しているがそれが一時的な現象であることを知っている。なぜ、なら短期利 子率の低下は長期利子率の低下を伴って所得を増加させ財政余剰を通して貨幣 需給の逼迫を生じさせるからである。その意味で政策実施直後に立っている合 理的参加者は最終的には,現在の短期利子率が政策実施以前の水準まで上昇す ると予想する。従って,政策実施直後の短期利子率の低下を見た合理的な市場 参加者は裁定条件にもとづいて債券の購入を増加させ債券価格を競り上げよう とする一方で,この短期利子率の低下が一時的でやがて上昇して債券のcapital 1088が発生することを考慮するためB点(qe

=

0)まで価格を競り上げること はしなし、。そこで短期利子率がもとの水準に収束するような点は

A

点しかない (8 ) 実際,t時点において予想された将来のr(孟 t)時点での短期利子率の水準を ie (r, t) とおき,横断性の条件を仮定して裁定条件 (5)を将来に向かつて解くと, q(t)=f出p{-

f

i

e(にt

du が得られる。これはt時点での債券価格水準がクーポンの流列を将来の予想短期利子率 で割ヲ!¥,、た{直に決定されることを意味しており,本文のように初期の債券価格の変化が 基本的に現在及び将来の短期利子率の動向によって説明できることを示している。また, このことは将来にわたって裁定条件が成立することを考慮して予想形成がなされるとす れば債券価格の予想系列が短期利子率の予想系列によって一義的に定まることをも意味 している。よって債券価格を合理的に予想しているということは将来の短期利子率の経 路を合理的に予想していることを意味し,将来の債券価格について静態的な予想をたて

(15)

743 金融市場における予想と財政金融政策の効果 -95 からその点まで価格を引き上げることになる。 (2) 財政政策の効果 次に財政政策の効果をみるために,ここでは政府支出 Gが引き上げられた場 合について検討しよう。第

5

図はその場合の効果を第

3

図と閉じ要領で予想形 成別に示したものである。政府支出

δ

の引き上げは(16)式より均衡での債券価格 ♂と外部貨幣残高H*をいずれも増加させるから,図では新しい均衡点

E

が初 期の均衡状態である原点Oの東北に位置するように書かれている。このことは 以下のようにして保証される。まず

δ

の 増 加 は 附 よ り 予 算 均 衡 乗 数 倍 (;) の所得の増加をもたらすが,そのためには長期利子率rの低下,債券価格qの 上昇が必要である。よって初期の予算均衡線(Ho

=

0)は上方にシフトする。さ らに

G

の増加は短期利子率

t

を上昇させるから裁定条件より市場は

c

a

p

i

t

a

l

g

a

i

n

(q e

>

0

)

を予想する。外部貨幣残高不変のもとでこの予想が消波するた めには債券価格 qが低下する必要がある。そのため初期の討

=0

の線は必ず 下方にシフトする。 次に金融政策のときと同様に静態的予想と適応的予想の場合の即時効果から みていくことにする。政府支出 Gの増加はいずれの場合でもまず所得増加をも たらし貨幣の取引需要の増大を通して短期利子率を上昇させる。債券価格の予 想が静態的であれば不利な長期債を売却することにより長期利子率が短期利子 率に等しくなるように即時に債券価格qが低下する(第

5

O

B)

。一方,適 応的予想の場合には短期利子率が上昇しても予想形成が徐々になされる結果, 債券価格qは即座に低下せず長期利子率が上昇しないから相対的に所得の増 加は大きく短期利子率の上昇傾も高くなる。確かに一時均衡の分析結果(9)(10)よ り

.

:

1

'

>

.

1>0

を考慮すると, るということは短期利子率に関しても同様の予想を行なっていることになる。事実,短期 利子率に関して静態的予想を仮定して

i

e(r, t) =

i

U

, t)とおくと,上式はq(t)= l

!

iU

, t)となって債券価格について同様の予想を行なった場合と同じになることがわかる。な お債券価格に関して適応的予想、を行う場合は予想形成を裁定条件を考慮せず専ら過去の 価格情報を頼りに行なっているので短期利子率の予想と債券価格の予想の間には何らの 斉合性も保証されない。

(16)

96- 第58巻 第 4号 744 q < 10=0 ,1<=0 , J ハU

一 一

x

・ 日 A J J J

q

e

>

O

-,Y' , ,

X'

, , qe<O Y H 見=0 B 第5図

dYI

dYI

d

i

1、

d

i

1

dA

dG

1

5

'

dG

い"

dG

5

1

が成立することが確認できる。ここで添字

A

S

はそれぞれ適応的予想と静態 的予想の場合を示す記号である。なお第6図では原点OからC,B点までの長 さがそれらに対応する即時的な所得乗数である。それ以後はいずれの場合も政 府支出の増加が初期の状態を財政赤字の領域におしゃるから貨幣量が増加して ゆく。そのため静態的予想の体系では

q

f

=

0

を維持させつつ短期利子率め低 下に対応して債券価格が上昇し,所得が再び財政均衡をもたらすまで一様に増 加してゆくことになる。適応的予想の体系でも貨幣残高の増加による短期利子 率の低下が生じてゆくが,初期に発生した短期債の有利性に対応して長期債の 売却が行われる結果,債券価格の下落,長期利子率の上昇が続く。そのため初 期に増加した所得は,上昇する長期利子率が低下してくる短期利子率に等しく

(17)

745 金融市場における予想と財政金融政策の効果 -97ー Y A C B O tzme 第6図 なるまで減少する(第6図)。 次に,合理的予想の体系では経済の反応はどうなるだろうか。この場合,市 場の合理的参加者は即時に政策実施後の新しい体系の安定軌道

x

X'

上に債券 価格qを競り上げようとする(第

5

O

A)

。 興味深いことにその結果長期利子率が低下して投資が増加するので他の非合 (9 ) このことが言えるためには第5図 に お い て 新 均 衡 点Eが!日体系の固有直線y yの上 方にあることが必要である。すなわち, dq*/de、 dqI dH*/de' dH* Iyy が証明できればよい。ここで固有直線の傾きは(24)式より ),,1/aI2であり, (J6)(J司式より, dq*/de _ 一一一一一一士 -q<'a21 dH*/de と表せるから, ),,*==-q* “ a12a21 とおいておく。次に~

=

1のときの特性方程式をf W としてf(),,*)の符号を計算すると f(),,*)く0

0

)"*< 0,ん <0より明らかに),,

1>

),,*。よっ て, dq*/dG dq I 一←一一一

I

= _A__()"*_, l,))

>

0。 dH*/d

σ

dHln al2 (ー)

(18)

-98ー 第58巻 第4号 746 理的予想形成(~孟 0) の体系におけるより初期の所得増加は大きくなり(第 6 図

O

A)

,短期利子率もそれだけ高い。この結果は基本的に市場参加者が債券 価格を競り上げることに依存しているのでその理由を説明しておこう。 合理的参加者は

C

の増加が一時的に短期利子率を上昇させ長期債を不利に し て も , 体 系 が 最 終 的 に 収 束 す る と 仮 定 し た 場 合 に は 財 政 赤 字 が

money

f

i

n

a

n

c

e

されていることから将来的には短期利子率が必ず低下し長期債に

c

a

p

i

-t

a

l

g

a

i

n

を生じさせると予想する。そのため競って長期債を購入し債券価格を 競り上げるのである。この債券価格の引き上げは新体系の均衡点、 E~こ収束する ことを保証する

A

点まで行われる。それ以後市場参加者は予想通りの

c

a

p

i

t

a

l

g

a

i

n

を享受しながら長期利回りを低下させてゆく(第

5

A

E)

が,短期利 子率の低下に徐々に

c

a

t

c

hup

するためその

c

a

p

i

t

a

lg

a

i

n

も次第に消滅してゆ く。そのため合理的予想の場合には財政支出 Gが引き上げられるとただちに債 券市場が活気づき投機家は当分の間我夜の春を謡歌することになる。もちろん、 この活気は長期利子率の低下を通して財市場にも伝わり所得が増加してゆく (第6図)。 従って,この場合金融市場で合理的予想がなされるほど財政政策の短期的・ 動学的効果が強められることがわかる。 (3) 予期された政策と予期されない政策 次に,合理的予想を仮定して将来の政策が前もって金融市場の参加者に正確 に予想されている場合とそうでない場合について経済の運動経路を比較してみ よう。 (10) 合理的予想の場合に所得乗数値が最も大きくなることは次の様にして証明できる。ま ず (8)式より合理的予想、の場合の所得乗数値は dYI _ oY , OY dq(O) _ dYI , OY dq(O)

一 一 一 一 一 一 一 -

dG IR oG' oq dG dG IA'Oq dG と書ける。 (9)式より OY/Oq

>

0であり,注 (9)より dq(O)/dG

>

0であるから明ら カ寸こ, dYI、 dYI dG IR' dG

(19)

747 金融市場における予想と財政金融政策の効果 -99ー そこで将来の政策情報を市場参加者が入手した時点をO時点とし,実際に政 策が実施されるまでの期間を

θ

とする。この場合,合理的な市場参加者は政策 が実施されるまで続く現在のシステム下での価格の予想経路と政策が実施され てから新しいシステム下での価格の予想経路を計算し,最終的にそれが収束す るように現在の状態を定めることになる。従って,現在の体系と将来の体系の 均衡点をそれぞれ(H*,♂), (H材, q**)とすると

θ

期間後には将来の(新し い〉体系の安定な固有直線上に到達している必要があるので,現在の体系下で の予想、経路のterminalconditionは 州 )-q

材=今

{H(8)-H**} Ul2

となる。それまでは現在の体系の動学メカニズムが支配するから,側式より

0

期間後には H(8) = H*-

a12主ー{exp(lIlθ)-exP(1I28)} 11z-1I1

州 )

=

q*

x{λ1ex山 ) 一 れ 叫8)}

な る 値 に な る こ と が 知 れ る 。 こ こ で

x

三 q(O)-q*である。この値 (H(θ), q(θ))は同時に闘を満足しなければならないので,結局合理的な市場参加者が 選択する債券価格の初期値 q(O)は, { λ 1 I TTllnk TT* ¥

1

q(O)

=♂+{

(

*-q*)一一一(H料 - H*H exp(-A28) 捌 l - al2 となる。そこで初期値を仰式のように定めた場合の実際の経済の動学過程を政 策が実施されるまでの期間

(

0

t

<

8

)

と政策が実施されてからの期間

(

8

孟 t <∞)に分けて示すと次のようになる。

o

~五 t

<

8

H(t) = H*ー-21L{q(O)

一♂

}[exp(λd)-exp(んt)] ん-lIl q(t)=q*-4

[lIlexp(んt)-A2expω2t)] I λ 1 I T TlIonk Y T * ¥ l q(O)-q* =

I

(

*-q*)一一一(H**-H*)

I

exp(-A28) L"- al2 J

(20)

-100- 58巻 第4 748 (28) # ι 、 八 、 A P J 机 位

e

l

I

A

A l 一 ロ ト 、 八 一 。 ∞ 付 十 く

H

r

t

一 一 一 一 < 一 一 ) β U / 1 4 L

H

d

Al= 一生~r~{H(8)-H材}一 {q(8)

λ2λ1

L

♂*}

I

a12 lA.L ¥ V I l"1 ¥ V I ¥.f J

J

一方,政策が予期されない場合は上式で、

θ=0

の場合に相当することは明 らかである。制式に注目して

8=0

のときと

8

>

0

のときの初期の債券価格 の変動を比較すると, 1

>

exp(ーんθ)より, Iq(O)-q*1θ>0

<

Iq(O)-q*le~o となって,政策が予期されない場合の方が初期の価格のジャンプが大きくな ることがわかる。さらに(27)式を

θ

で微分することにより,一般に政策情報を 早く

(

8

大〕入手した方が初期の債券価格の変動が小さいことが知れる。この ことを金融政策を例にとってみておこう。初期の均衡値 H*,q*は一定であ るから金融政策の場合(Jり式より ,dq** /d勿 =

0

, dH**/dr

π=

-1

を考慮する と(27)式より, dq(O) _ 一~・ exp(il1 ___ _ -il28)

>

0

Ufn U12 (29) となる。これより,情報を予期した場合には,必ず債券価格は上方に引き上 げられるが,情報の入手が早いほど引き上げ幅が小さいことが確認される。 このことを示したのが第7図である。第7図において

x

X'

は安定な固有直 線を表している。

A

点はこれまでの分析より政策情報の入手が早い場合の初 期時点での偲格上昇点を示すのに対し,

B

点は反対に情報入手が遅い場合の 価格上昇点である。A', B'点は一方政策実施時点における両ケースの位置を 示している。明らかに政策情報の入手が遅い場合の方が実施時点での債券価 格が高いからそれに対応して長期利子率は低く,所得水準は高い。 次になぜ、将来金融政策(買いオぺ〉が行われることが予想された場合に初 期時点での価格上昇が生ずるのかを考えてみる。合理的市場参加者は本モデ

(21)

749 金融市場における予想と財政金融政策の効果 -101-q x' B A H O X 第7図 ルの体系を知っているので将来政策が実施された時点で短期利子率が一時的 に低下するがやがて所得の増加によって再びもとの水準にもどることを知っ ている。一時的にであれ短期利子率が低下することを知っている参加者は当 面長期債が有利になるので長期債にのり替えるから債券価格は上昇する。そ の結果,長期利子率は将来の短期利子率の低下を反映して減少し

c

a

p

i

t

a

l

g

a

i

n

が生ずることになる。長期債の価格は裁定条件より将来の短期利子率の 系列で割りヲ!¥,、た値に決定されるが, この場合の短期利子率の低下が現在よ り先の時点で生ずることが予想されるほど現在時点での価格上昇が小さいこ とは明らかであろう。よって,このことから政策情報の入手が早いほど初期 時点での価格上昇が小さいことが説明できる。 以上の点はこのモデルの場合財政政策に関しても妥当することが容易に確 認できる。ただ,財政政策の場合には政策実施時点では金融政策のときとは 逆に短期利子率が上昇するが,長期的には

moneyf

i

n

a

n

c

e

を採用しているた

(22)

--102- 第58巻 第4号 750 めに初期時点、より低下する。そのため一見すれば政策情報の入手時点の価格 がどちらの方向に変化するのか不確定に見えるが,その場合には現在の価格 変化がより最終的な短期利子率の動向に左右されるため必ず価格は引き上げ られる。

I

V

結 び 以上,本稿ではまず合理的予想を含むより一般的な予想形成式を利用して, 金融市場における予想形成の相違が財政金融政策の効果に対してどのような 影響をもたらすかを検討した。そこで明らかになった点を列挙すると次のよ うになる。 (1) 拡張的金融政策が実施された場合の即時的な所得乗数効果は債券価格 の予想、が静態的なケースが最も大きく,次いで合理的予想のケースである。 適応的予想の場合は乗数値がOでその効果は徐々にあらわれる。 (2) 拡張的財政政策が実施された場合の即時的な所得乗数効果は合理的予 想のケースが最も大きいのに対し,予想、が静態的なケースが最も小さし、。 政策効果に関して予想が静態的な場合と合理的な場合で(1)(2)に示すような 相違が生じるのは,市場参加者が政策実施によって一時的に変化した新しい 短期利子率の水準が将来も続くと予想する(静態的予想〉のか,やがて経済 の

2

次的な反作用を通して異なった水準に到ると予想する(合理的予想〉の かによって彼らが金融市場でとる行動が異なってくるからである。合理的予 想の場合は初期の所得乗数効果が政策実施による短期利子率への即時効果と 長期効果の大小関係に決定的に依存する。 実際の経済においては債券市場の参加者がし、かに正確な情報を入手してい るとしても将来の債券価格の動向に関して正確な予想をしているとは考えら れないが,にもかかわらずこの極端な予想形成を想定することによって導出 された結果は政策効果を考えるうえで一定の示唆を与えてくれるように思わ れる。すなわち,債券市場の参加者の多くの部分が現在及び将来にわたって 短期債と長期債の聞に完全な裁定が成立することを考慮に入れて予想形成を

(23)

751 金融市場における予想と財政金融政策の効果 -103-している場合,そのとき実施される政策が短期利子率に与える短期的・長期 的効果をどのように予想(評価〉するかによって政策効果が強められたり弱 められたりするのである。もちろん,債券市場における情報(裁定条件)ば かりでなく他の市場構造についても完全な情報をもっとされる合理的予想の 場合には,予想された短期利子率、への短期的長期的効果は現在および将来の 経済構造や政策スタンスを直接反映したものとなる。 次に,本稿では合理的予想を使って政策が予期されている場合とそうでな い場合の政策効果の相違について検討したが,その結果は以下のようで、あっ た。

(

3

)

一般に市場参加者が政策実施の情報を実施以前に入手すると,その時 点から将来の政策効果を先取りした形で政策効果があらわれる。そして情報 入手が早いほど政策実施時点の政策効果は小さい。

A

p

p

e

n

d

i

x

.

連続的な予想形成の完式化 ここでは,基本的に

B

u

r

m

e

i

s

t

e

r

&

Turnovsky (

2

J

に依拠しながら価格水 準について離散的に定式化された適応的予想と合理的予想を連続形式に変換 する作業を行う。 そこでまず,経済の単位期間として市場が聞かれる時間間隔を考え,それ を h(

>

0)とする。経済主体の行う予想はh時間単位ごとに h時間単位先に 対してなされ,従って予想の時間間隔

(

f

o

r

e

c

a

s

ti

n

t

e

r

v

a

l

)

と予想の時間的視 野

(

f

o

r

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c

a

s

th

o

r

i

z

o

n

)

が等しいものと仮定する。すると,適応的予想は次の様 に定式化できる。 qe(t+h, t)

=

qe(t,t-h)+s(h)[q(t)-qe(t,t-h)]

CA-

l) ここで

v

q(t)

=

t

時点における現実の価格水準

(t

+

h, t)

=

t時点で形成された (t+h)時点の価格水準についての予想 β(h)

=

予想形成の調整係数 である。適応的予想を,現在時点で、の予想水準が過去のすべての値を指数的に

(24)

-104- 第58巻 第4号 752

減少するウエイトで加重平均されたものによって決まると考えれば, 0<β

(

h

)

<

1である。さらに,予想関数 qeが連続で徴分可能であるとすると,ポ (t,

t

)

が存在し ,h

>

0 Vこ対して,

Mqe(t+h

t)=hqe(t

t-h)

ニ ポ (t,t)

(A-2)

が成立する。 qe(t, t)は,

t

時点で形成された同時点 tの価格予想をあらわして おり,経済主体が現在の価格水準についての情報を瞬時に入手できると想定す れば, qe(t, t)ニ q(t)

CA-3)

が成立する。次に

(A-

3)式を

CA-1)

式に代入し,両辺の極限をとると 次の様になる。

{qe(t+h

t)-r(t

t-h)}=UTP[3(h){qe(t

t

)

ーピ

(t,t-h)}] (A-4)

CA-

4)式右辺は

CA-2)

式より Oとなるから,同式が常に成立するため に は 同β(h)が存在し,それが有限であればよい。そこで,

CA-

l)式の両辺 をhで割って極限をとると, qf(t, t)+ q!f(t, t)

=

β(O)'q!f(t, t)

CA-5)

となる。ここで, qf(t, t)

三リ男

[qe(t+h, t)_qe(t, t )]/h 、 、 , ノ P O A 〆 r t ¥

I l l i -- f i l l -ノ q!f(t, t)

!

?

[

(t, t)_qe(t, t-

h

)

]

/

h

β(0 )三 limβ(h) である。偏徴係数 qf(t, t)は t時点における価格予想の瞬間的変化率を示し, q!f(t, t)は同じく t時点における価格の予想誤差率すなわち予想外の瞬間的価 格変化率を示している。一方,

CA-

3)式より qe(t, t)

=

=

qf(t, t)+q!f(t, t)

=

q(t) が成立するから

CA-5)

式を考慮すると結局, 一β(0)-1 qf(t,t)一一一一一=-.s(O)

q

(t)

CA-

7)

CA-8)

(25)

753 金融市場における予想と財政金融政策の効果 と書ける。 次に完全予見(合理的予想〕の場合は, qe(t十h,t)

=

q(t+h) -105-(A-9) があらゆる h(

>

0)について成立するから qeとqの連続性の仮定から (A

-3)

式が成立する。よって,両辺からポ (t,t)を引き

h

で割って極限を求め ると

q

f

(t, t)

=

q

(t ) CA-IO) となる。そこで,連続形式の予想形成を一般に

q

f

(t, t)

=

~.

q

(t) ~ 三五 1 CA-ll) と書くことにしよう

'

-

~ ~で 5=1--Lーとおき適応的予想の調整係数に関す

-

' - - β ( 0 ) る制約をゆるめて O<s(O)<∞と考えれば, s(O)→ ∞ の と き ご → lとなる から (A-ll)式が適応的予想と合理的予想を連続化した場合の一般的表現に なっていることがわかる。このように広義に解釈された適応的予想の場合には ~

< 1

であるが,通常の〔狭義)の適応的予想の場合にはO<s(O)<lである から~

<

0,静態的予想、の場合にはs(O)= 1 であるから ~=O となる。なお, O<~<l の場合として通常の外挿的予想、の連続形式を含めて考えることもで きる。すなわち,外挿的予想、を離散形式で, qe(t

+

h, t)

=

q(t)+α(h)[q(t)-q(t-h)] (A-12)

0<α

(

h

)

< 1

として (A-3) 式を考慮に入れてこれまでと同様の手続きで微分形に変換す ると, qf(t, t)

=

α

(O)'q(t)

0

<α(0) < 1

(A-13) と書ける。 本稿で価格の予想形成が問題となるのはコンソル債の予想収益率を定式化す る場合である。そこでコンソル債の単位期間当たりのクーポンを1円とし,期 間中の(平均〉予想収益率を戸 (t+h, t)とおくと期間中の予想収益戸 (t+h, t).hは次の様に定式化できる。

(26)

-106- 第58巻 第4号 1・hI qe(t+h, t)-q(t) 戸(t+h,t)'h一一一一+q(t) I q(t) 754

CA-14)

t 時点における瞬間的予想収益率同〆(t+h, t)を求めるために

CA-14)

式の 両辺を

h

で割り,

CA-3)

式を考慮して極限をとると

1

I

q

f

(t, t)

l

T

h司 ' ",

l

1

reu+

'h""t -)

=

=

re(t, t.. -) ==一一+一一」ー-q(t) I q(t)

CA-15)

と書ける。本稿では, この

CA-15)

式に前述の

(A-11)

式合結びつけるこ とによりマクロモデルを構成している。 弟主 '" 考 文 献

( 1 J Blanchard, OlivierJ."Output, the Stock Market, and Interest Rates," American

Eωnomic Review, Vol 71, No. 1 (March 1981)

C 2 J Burmeister, E and S.J Turnovsky, "Price Expectations, Disequilibrium Adjust -ments and Macroeconomic Price Stability

Jour仰 1of Economic Theory, VoL 17, N o. 2 (April 1978)

C 3) Evans, J L and G.K Yarrow, "Adaptive and Rational Expectation in Macro-economic Models,"The Manchester School ojEiωnomics and Social Studies, V 01 XLVII, No. 1 (March 1979)

C 4 J Turnovsky, S J and M. H Miller,“The Effects of Government Expenditurs on the Term. Structure of Interest Rates," Journal oj Money, Credzt and Bankzng, Vol.16, N 0 1 (February 1984)

C 5) Sargent, T, J.and N Wallace,“The Stability of Models of Money and Growth with Pedect Foresight,"Eiωnometrica, Vol.41, No..6 (November 1973)

参照

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