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まえがき(pdf)

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Academic year: 2021

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本シリーズの刊行にあたって

数学は2000年以上の長い歴史を持つが,厖大な要因が複雑に相互作用をす る生命現象や社会現象のような分野とはかなり距離を持って発展してきた.し かしながら,20世紀の後半以降,学際的な視点から,数学の新しい分野への 展開は急速に増してきている.現象を数学のことばで記述し,数理的に解明す る作業は可能だろうか? そして可能であれば,数学はどのような役割を果た すことができるであろうか? 本シリーズでは,今後数学の役割がますます重 要になってくると思われる生物,生命,社会学,芸術などの新しい分野の現象 を対象とし,「現象」そのものの説明と現象を理解するための「数学的なアプ ローチ」を解説する.数学が様々な問題にどのように応用され現象の解明に役 立つかについて,基礎的な考え方や手法を提供し,一方,数学自身の新しい研 究テーマの開拓に指針となるような内容のテキストを目指す. 数学を主に学んでいる学部4年生レベルの学生で,(潜在的に)現象への応用 に興味を持っている方,数学の専門家であるが,数学が現象の理解にどのよう に応用されているかに興味がある方,また逆に,現象を研究している方で数学 にハードルを感じているが,数学がどのように応用されているかに興味を持っ ている方などを対象としたこれまでの数学書にはない新しい企画のシリーズで ある.

編集委員 

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生物の示すリズム現象は大変興味深い.身近な例として,拍動や睡眠のリズ ム,ホタルの明滅,歩行や飛翔といった運動などが挙げられるが,これらは多 種多様な機能と時間スケールをもち,その多くが生命維持や活動に欠くことの できない役割を果たしている.これらの生物のリズム現象には,科学的に興味 深い問いが無数に潜んでいる.例えば,概日時計と呼ばれる,我々の睡眠と活 動を司る約24時間の体内時計において,そもそも24時間のリズムはどのよう にして形成されているのか? また,東南アジアの熱帯雨林などで,ホタルが 大集団で同時に発光する同期現象が知られているが,どのようにして全体で秩 序だった振動を起こすのだろうか? このような謎の解明に向けて,分子生物学や生理学的アプローチによる様々 な研究がなされている.一方,数式や数学的解析手法を用いてこれらの疑問に 立ち向かう研究がある.現象を記述する数理モデルを構築し,それを数学的に 解析することによって,現象が起こる条件を明快に示したり,まだ見つかって ない現象を予言したり,実験研究だけでは発見することが難しいような新しい 概念や統一的見解を提示するような研究である. このような研究を行うためには,まず,現象を記述する数理モデルを構築す る,あるいは,すでに提案されているモデルの成り立ちを理解できなければな らない.さらに,そのモデルを解析するスキルが必要である.これらの一連の 流れを学ぶことはたいそう時間のかかる大変なことのように思える.事実,大 学の学部で学ぶ数学や物理学では,微分方程式の初等的な解法は習っても,こ

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ii ま え が き のような発展的な話題を学ぶ機会はほとんどない.かといって自習しように も,手軽に学べる著書は少ない(少なくとも和書では適当なものがほとんど ない). そこで本書は,具体的な現象から数理モデルを構築する過程や,そのモデル を通して現象を数学的に研究する方法をわかりやすく基礎から学べる場を提供 することを目的として書かれた.読者は第2章まで読むと,様々なリズム現象 が常微分方程式で記述でき,さらに,それらの方程式の有用な解析方法である 力学系と呼ばれる体系の考え方を学ぶことができる.さらに本書の第3章と第 4章では,生物のリズム現象を理解する上で有用な数学的概念と手法について も詳しく解説されている.本書を通して,数理的アプローチが現象の理解に極 めて有用であることを実感して頂けると幸いである.また,本書で学ぶ力学系 の概念や手法はダイナミカルな現象に広く適用できるものであり,リズム現象 以外に興味がある読者にも大いに役立つことを期待している. 本書の詳しい構成は以下の通りである. 第1章では生物リズムやそれに関連したリズム現象の解説とモデル化につい て述べる.この中で,開放系あるいは散逸系と呼ばれる系における非線形振動 子,いわゆるリミットサイクル振動子が,これらのリズム現象を理解する上で 基礎的な役割をしていることと,多くのリズム現象の背後には,同期現象と呼 ばれる振動子集団の協同現象があることを解説している.また,数理モデルの 数値シミュレーションによって同期現象に関係する重要概念を具体的に紹介し ている. 第2章では微分方程式と力学系の入門的解説を行っている.この章の前半は 初等的な話題から始め,力学系の考え方に慣れてもらうために,1変数と2変 数の微分方程式の解の運動の性質を力学系の立場から見直すことに主眼をおい ている.後半は,リズム現象の基本的モデルであるリミットサイクルをもつ微 分方程式の解説とその分岐(ホップ分岐)理論を解説している.ホップ分岐は 解が周期的に振動するのかしないのかを特徴付ける重要な概念である.この分 岐を本格的に解説しようとすると相当な紙数を要するので,2変数の微分方程 式系に絞り,分岐点の近くでは比較的簡単な形(標準形と呼ばれる)に変換で きることを解説するに留めた.第4章の解説と合わせると,この標準形さえ得

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られれば分岐点近くでリミットサイクルが存在することが示せ,したがって安 定な振動が起こることを数学的に証明できる.なお,多次元でも成り立つ力学 系の一般的な性質についても随所に簡単な解説を入れた. 第3章はリズム現象を数理的に理解するための有力な手法である位相ダイナ ミクスの考え方や位相感受関数の役割について,幾何学的あるいは直感的に訴 えるような解説を行っている.さらに,位相ダイナミクスを記述する位相方程 式をリミットサイクル振動子から具体的に導出したり,位相方程式を解くこと によって同期現象が理解できることを解説している. 第4章では,第3章で解説した位相ダイナミクスの数学的基礎付けのために, フロケ理論や力学系理論を厳密に解説していく.ここでもリミットサイクルと その周りでの運動については2次元の力学系に話を限定し,初学者にもとっつ きやすい明快な解説を目指した.ただし,第3章の全ての話題についてその数 学的基盤を与えてはいないので,興味のある方は自分で議論を発展させてほ しい. 後半の第3章と第4章は,読み進めていくにつれて,入門レベルを少し超え る専門的な内容も現れる.リズム現象の数理的研究の雰囲気を少しでも伝えた いという筆者たちの思いにより,このような内容を盛り込むことになったが, できるだけ丁寧に解説するよう努めた.また,より発展的な話題については本 書の最後に付録を設けて,そちらで解説を加えることにしたので興味のある読 者は見て頂きたい. なお,奇数章は物理学者である郡によって,偶数章は数学者の森田によって 書かれている.執筆の際には筆者達の間で何度も話し合い,十分に内容のすり あわせを行っている.記法や用語も誤解のないように統一した.一方,書き方 のスタイルに関しては,筆者の専門性による特質を残すことにした.このシ リーズのテーマである「現象を解明する数学」は学際的な話題を取り扱ってい るが,そこで繰り広げられる研究は必然的に異分野の研究者の共同作業とな る.この本にもその雰囲気が垣間見えると思われる.このような構成なので, 第1章から順に読むということに縛られず,読者の専門や興味に沿って柔軟に 使って頂ければうれしい. 数学的な部分に関してはかなり初等的な話題から始め,できるだけ具体例を

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iv ま え が き 使って解説しているのでそれほど予備知識がなくても読めるように工夫した. また,背景となる現象からあまり逸脱するような一般的な理論体系の解説を意 図的に避けた.もっと一般化して定理として完成させた形にできるのではない かという指摘があるかもしれないが,そのように思われる読者は内容をよく理 解されている方なので,是非とも各章の終わりに紹介した参考書なりを勉強し て自身で議論を発展させて頂くことを望む.なお,位相ダイナミクスに関連し た問題については,まだまだ数学的に証明できていない問題が横たわっている ことを指摘しておきたい. 生命現象の科学は20世紀の重要課題であったが,それは21世紀も変わらな い.今後,生命現象に対する数理的研究は,その存在感をこれからますます増 していくだろう.生物実験と観測の技術は現在急速に発展しており,生物リズ ムに関しても新規の発見や精密化されたデータが次々と報告されている.一方 で,何を計測し何に着目すべきなのか,また,得られた膨大なデータをどのよ うに解釈するかについて,理論的・系統的な視点が求められている.このよう な事情はあらゆる科学分野で見受けられる.現象のモデル化と解析はもちろん のこと,既存のデータや考え方に囚われずに我々のアイディアや仮説を具体化 し,新しい概念を提示するような数理的研究がこれからもっと必要とされるだ ろう.中でもダイナミックな現象の研究において,基礎的で重要な役割を果た すのが力学系の考え方である. この短い本書で,しかも筆者らの限られた視野と専門的知識の中で解説でき ることにはむろん限りがある.しかし,もし読者が本書から数学の力を感じ, さらに,特定の分野や対象に縛られることなく数理的研究を行う発想や勇気を 少しでも得て頂けたとしたら,これ以上に喜ばしいことはない. 2011年3月11日,本書の執筆作業も最終局面を迎えた頃,日本は東日本大 震災に見舞われた.それは,我々がこれまで築き上げてきた科学がこの脅威の 前に無力のように思えるほどの衝撃であった.しかし科学の可能性が否定され たわけではない.筆者たちは,この教訓を胸に科学に携わる者の一員として, 科学や科学技術に対して新たなる気持ちで向き合っていかねばならないと,思 いを新たにしている.数学をすぐさま防災に役立てるのは確かに難しいかもし れない.しかし科学と技術を支えているのが基礎研究であり,またその土台が

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数学であることは紛れもない事実である.我々の研究も科学の営みの中で活き ていることを思えば,その先に何らかの貢献を信じることができる. 謝辞 本書を書くにあたり,多くの方にお世話になった.特に,このテーマについ て執筆する機会を与えて頂いた共立出版株式会社にはこの場を借りてお礼を申 し上げたい.第1章で紹介した実験の資料は,本間さと氏,堀川一樹氏,石黒 章夫氏,影山龍一郎氏,宮崎淳氏に提供して頂いた.お忙しい中資料を整理し 提供して頂いたことに,お礼を申し上げたい.また,本書の原稿に対して貴重 な意見を頂いた,伊藤浩史氏,小林康明氏,永井健氏,増田直紀氏,森史氏に もお礼を申し上げたい. 最後に編集委員の方々から頂いた貴重なご意見に感謝したい.最終稿に向け た作業の中で大変参考になったことを申し添えておく.

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本書でよく使う記号

Rnn次元ユークリッド空間.特にn = 1のときは R で表す. z:複素数 zの複素共役. i:虚数単位−1 Re, Im:複素数の実部と虚部を表す. a := b:定義を表す.abと定義(表記)するの意味. :全てのという意味.例えば∀t ∈R は全てのt∈R を意味する. x, ‰, G, . . .:ベクトル記号.原則として太字で表す.ベクトルは特に断りがな ければ列ベクトルであり,その成分はx = (1, 2, . . .)などと表す. k·k:Rnの標準的ノルムを表す.x = (x 1, . . . , xn)に対してkxk = (Pni=1x2i)1/2 である. A>,x>:行列A,ベクトルxに対する転置. det A, tr A:順に行列Aの行列式とトレースを表す. hx, yi:Rnにおけるベクトルの内積.hx, yi := x>y.記法の簡略化のために, 誤解が生じない場合はx· yのように表す場合もある.なお,複素ベクトu = (u1, . . . , un),v = (v1, . . . , vn)の場合はhu, vi =Pni=1uiviとエル

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ミート(Hermit)内積を表す(頻繁に出てこない). DDが集合の場合はその閉包,すなわちDを含む最小の閉集合. ˙ xxの時間微分,すなわち,x :=˙ dxdt.また,x =¨ ddt2x2 である. Df ,∂fx:写像f :Rn→Rnに対するヤコビ行列を表す. ∂φ x:R 値の関数φ(x)に対してその勾配を表す. O(·):ランダウ記号で,その項の大きさの程度(オーダ)を表す.例えば, x = c1² + c2²2+ c3²3+· · ·²が小さいときは,第2項目以降は合わせて ²2程度の大きさであるが,第2項目以降の表式が必要ないときはランダウ 記号を使ってx = c1² + O(²2)と表すことがある.厳密にはg(²) = O(²2) は|g(²)| ≤ M|²|2となるM > 0がある小さいδ > 0に対して|²| < δの範 囲で一様にとれることを意味する. h.o.t.:高次の項をまとめて略記する.例えば,x = c1² + c2²2+ c3²3+· · ·場合,x = c1² + h.o.t.あるいはx = c1² + c2²2+ h.o.t.などと略記する. a≈ baは近似的にbであるという意味.厳密な定義はない.上述の例だと, x≈ c1²などと使う. a¿ babより十分小さいという意味.厳密な定義はない.b À aも同じ 意味. δij:クロネッカーのデルタ記号.i = jのときδij= 1で,それ以外ではδij = 0 である. δ(t− t0):デ ィ ラ ッ ク の デ ル タ 記 号 でR−∞ δ(t − t0) dt = 1, R−∞ δ(t t0)f (t) dt = f (t0)の性質をもつ超関数.直感的にはt = t0にの値 と1の面積をもち,t6= t0では0の関数.

参照

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