99 ■ 原著
理学療法士国家試験対策時の模擬試験結果と
自己学習量との関係
Relationship between simulated test results and amount of self-learning
in National Physical Therapy Examination scores
越野 八重美
1)Yaemi Koshino1)
1) 大阪電気通信大学 医療福祉工学部 大阪府四條畷市清滝1130-70
電話/FAX 072-876-5484 E-mail:[email protected]
1) Graduate School of Biomedical Engineering, Osaka Electro-Communication University 1130-70 Kiyotaki Shijo-Nawate, Osaka 575-0063, Japan
TEL +81-72-879-5484 E-mail:[email protected]
保健医療学雑誌10 (2): 99-106, 2019. 受付日 2019 年 4 月 24 日 受理日 2019 年 7 月 11 日 JAHS 10 (2): 99-106, 2019. Submitted Apr. 24, 2010. Accepted Jul. 11, 2019.
ABSTRACT:
Introduction: The present study aimed to stratify the target students based on their scores from a mock version of the National Physical Therapy Examination, examining the self-learning quantity for each cluster and examined the support required.
Methods: The subjects were 54 fourth-year students in the physical therapy department. Subjects were stratified by hierarchical cluster analysis, and self-learning quantity was compared among the obtained clusters.
Results: Based on the analysis, subjects were classified into five groups, with significant differences in self-learning quantity and learning time between groups. Furthermore, receiver operating characteristic curve analysis identified the cluster with low academic performance as being in the first year.
Discussion: It is necessary to adjust the teaching method to suit the characteristics of each cluster. Furthermore, because the cluster with low academic performance likely had difficulty making progress with self-learning, it is essential to use a multi-faceted teaching approach, such as by instilling an appropriate attitude toward learning when students first enter school.
100 背景:理学療法士国家試験の模擬試験結果から対象学生を層別化し,各層の自己学習量についての特徴把握と必要な対 応を検討した. 方法:理学療法学科4 年生 54 名を対象とし,階層的クラスター分析によって学生の層別化を行い,得られた群間で自己 学習量の比較を行った. 結果:クラスター分析によって5 群に分類され,自己学習量や学習時期について複数間群に差が示され,群による特徴 が認められた.また,ROC 解析により成績不良群は 1 年生終了時の試験で識別できる可能性が示された. 考察:成績不良群は自己学習を進めること自体が困難である可能性が高いことから,低学年時から学習観や学習方法な ど多面的な指導が必要であることが示唆された. キーワード:理学療法士国家試験,クラスター分析,自己学習量
はじめに
理学療法士国家試験(以下,国家試験)は基礎 および臨床医学と,理学療法に特化した幅広い知 識に関する問題が出題されている.国家試験の合 格は理学療法士の養成教育においての最終関門 であり,養成機関は全学生の学力を国家試験の合 格レベルまで向上させる責務をもつ. これまでに国家試験の合否と,入学前や在学中 の成績との関連性について検討されている.これ らの報告では入学試験の点数といった入学前の 学力との関連性は低いが,1 年次からの成績とは 関連するとされている 1-3).これについて中島ら 4)は,学習意欲や学習態度が1 年次に形成され,1 年次での学習に対する姿勢がその後の成績に影 響する重大な要因であると述べている.成田ら1) も理学療法学科の学生に対しすでに1 年次の成績 が卒業時の成績と関連すると報告しており,入学 直後からの学習への取り組み姿勢が重要である ことを述べている. さらに学習意欲の他に学生の学力低下も指摘 されている.全国医学部長病院長会議の「学生の 学力低下問題に対するワーキンググループ」5)は, 「教員から『学生の学力が低下している』という 意見があったり、その様な傾向があったりします か」との問いに対し86%の大学が「はい」と回答 し,さらに全国の医学部学生の入学定員増後に留 年生が増加したことや,医学部学内の成績が低下 したと報告されている6).医学部のみではなく, 様々な領域で学生の学力低下は問題視されてお り,大学教員が強く意識する学生の学力低下の側 面として,論理的思考力などの基礎的能力の低下 があげられている 7).武田ら 8)は薬学教育におけ る卒業延期生の学習状況について調査を行った 結果,成績不良者は基礎力不足のため「分からな いところが分からず」,その結果,自ら質問をす ることもないという傾向をもつため,個別の対応 が必要であると述べている.医療系学部のカリキ ュラムでは解剖学などの基礎医学系科目が初年 度に配置されており,それらの知識をもとに臨床 医学系科目,専門科目へと積上げの知識となるこ とから,基礎科目の不十分な理解が次年度の科目 の理解に悪影響を及ぼしていると考えられる.そ の結果,最終学年で国家試験対策を行う際,学習 内容の習熟度について学生間の差が大きくなり 均一の対策では対応できない状況が生じる.この ため,学生を層別化し,層に応じた対応をしてい くことが必要と考えられる.そこで,4 年次の国 家試験模試結果を分析し,模試成績から対象学生 を層別化し,さらに各層について学習状況の実態 を把握するために自己学習量や低学年時の成績 を比較した.本研究の目的は,こうした層別化と 模試成績の比較により,各層の特徴を把握し,必 要な対応を検討することである.対象と方法
対象 本学理学療法学科の201X 年度 4 年生 56 名の うち,全模試を受験した54 名を対象とした. 方法 分析項目 1. 対象学生のクラスター分析 学生の類型化のために,5 回の国家試験模試の 成績を用いて階層的クラスター分析を行った.解 析に使用したデータは4 年生で実施している国家 試験模試のうち,本格的な国家試験対策が始まる 直前の8 月末の模試(以下,模試 1),分野ごとの 解説が終了した11 月末の模試(以下,模試 2),101 その後の12 月上旬(以下,模試 3),1 月上旬(以 下,模試4),1 月下旬(以下,模試 5)の 5 つの 模試の成績とした.成績は総得点を満点で除した 値を用いた. クラスター化の方法はWard 法を用い,個体間 の距離は平方ユークリッド距離で測定した.その 後,得られたクラスター分析の結果の解釈のため に,用いた5 つの模試について得られたクラスタ ー間での比較を行い,それぞれの群の特徴を明ら かにした.比較の検定には一元配置分散分析およ びTukey の多重比較を用いた. 2. オンラインドリルの自己学習状況 自己学習状況の違いを分析するため,クラスタ ー分析で得られた群間で国試過去問演習のため のオンラインドリル(株式会社アイペック)の演 習状況を比較した.このオンラインドリルは国家 試験過去問 19 年分が分野別に搭載され,出題年 や分野を指定してスマートフォン,タブレット, パソコンで演習を行うことができる.全問題に解 答・解説が付いており,自己学習が可能である. 養成校の教員は各学生の正答率、演習数を確認す ることができる.このオンラインドリルでの各学 生の演習数を11 月から 2 月前半までの半月毎に 抽出し,群間ごとに比較を行った.比較の検定に は一元配置分散分析および Tukey の多重比較を 用いた. 3. 成績不良群の低学年時での抽出 国家試験合格が困難となり得る学生を早期に 抽出するため,1 年生から 3 年生で実施する低学 年時の模試結果を分析した.この模試は医歯薬出 版が出題している専門基礎3 科目模擬試験であり, 解剖学,生理学,運動学のみの問題で構成されて おり,本学では1 年生から 3 年生の全員を対象に 3 月に実施している.まずクラスター分析で得ら れた群間で各年度の模試結果を分散分析によっ て比較し,その後,成績の低いグループについて, receiver operating characteristic (ROC) 解析に よってROC 曲線下面積(area under the ROC curve: AUC)とその 95%信頼区間,感度,特異 度をそれぞれ算出し,各年度の模試での成績不良 者となる得点率のカットオフ値を求めた.カット オフ値は,感度と特異度の和が最大となるポイン トとした.全ての統計処理には統計解析ソフト SPSS Statistics 22 を用いた. 倫理的配慮 この研究は大阪電気通信大学生体倫理委員会 の承認を得て実施した(承認番号:生倫認 18-003 号).対象者に対してはアンケート内容の公開を拒 否しても不利益が生じないこと,同意をしても, データを使用する場合,個人を特定できるもので はないこと等の説明を行い,対象者に同意を得た もののみ利用し解析したものである.
結果
1. 対象学生のクラスター分析 階層的クラスター分析の結果,5 つのクラスタ ーに分類され,用いた5 つの模試全てにおいて群 の効果が認められた.クラスターの1 から 5 をそ れぞれグループ1 からグループ 5 と表す.表 1 は 各模試のグループ間の平均値,標準偏差,一元配 置分散分析,多重比較の結果である.また,図 1 には各グループ別の模試結果の推移を示す. これらの結果より,グループ1 は初期の模試か ら成績優秀な群であり,模試2 で合格基準の 6 割 に近づき,模試3 以降は全員が 6 割を超えていた. グループ2 は初期の模試 1 ではグループ 3,4 と 差がみられないが模試2 では成績を上げ,その後 も6 割に近づいていく群であった.グループ 3,4 は模試3 でやや成績が上昇するが,その後の伸び 率が小さい群であった.最後のグループ5 では初 期の成績が低く,その後の上昇も小さい群であっ た. また,これらの群別に2 月の国家試験合格者率 をみると,グループ1 から順に 100%(11 人中 11 人),100%(12 人中 12 人),92%(13 人中 12 人),33%(9 人中 3 人),0%(9 人中 0 人)であ った. 2. オンラインドリルの自己学習状況 11 月前半から 2 月前半までのグループ別,期間 別のオンラインドリル演習数を図2 に示す.それ ぞれ半月毎に集計した演習数(グループ平均値) である.表2 には分散分析,多重比較の結果も示 す.11 月前半はどの群もほとんどオンラインドリ ルには取り掛かっておらず群間で差はみられな いが,分野別の解説が終わった11 月後半,12 月102 前半ではグループ 1 と 2 の演習数が増加し,11 月後半はグループ1 と 5 の間で,12 月前半はグ ループ1 と 3,4,5 の間で有意な差が認められた. 12 月後半からはグループ 1,2 以外の演習数も増 加したが,グループ5 の演習数は他群に比べ低値 であった.
Table_1. Comparison of simulated examination scores of each group
ANOVA, analysis of variance Tukey **: P<0.01, *: P<0.05
Figure_1. Analysis of mean values of examination scores of each group
1 n=11 2 n=12 3 n=13 4 n=9 5 n=9 F-value p Exam 1 0.44±0.06 0.51±0.06 0.45±0.06 0.44±0.05 0.42±0.04 0.36±0.04 7.448 0.00 1>4**,5**, 2>5**,3>5** Exam 2 0.48±0.09 0.58±0.05 0.54±0.04 0.46±0.03 0.43±0.05 0.35±0.04 43.43 0.00 1>3**,4**,5**, 2>3**,4**,5**, 3>5**, 4>5** Exam 3 0.53±0.09 0.65±0.03 0.58±0.04 0.53±0.03 0.47±0.06 0.41±0.03 55.16 0.00 1>2**,3**,4**,5**, 2>3**,4**,5**, 3>4*, 5**, 4>5* Exam 4 0.52±0.08 0.64±0.04 0.55±0.02 0.52±0.02 0.47±0.04 0.41±0.04 52.16 0.00 1>2**,3**,4**,5**, 2>4**,5**, 3>4*,5**, 4>5** Exam 5 0.55±0.10 0.66±0.04 0.61±0.03 0.56±0.04 0.51±0.04 0.39±0.05 47.73 0.00 1>3**,4**,5**, 2>3**,4**,5**, 3>5**, 4>5** Multiple comparison ANOVA Total n=54 Group
103
Figure_2. Number of online drills by group and period
Table_2. Comparison of lower grade examination scores of each group
ANOVA, analysis of variance Tukey **: P<0.01, *: P<0.05 3. 成績不良群の低学年時での抽出 まず低学年での模試結果をグループごとに示 す(表2).グループ 1 は 1 年次から 3 年次まで 他群と比較して有意に高い成績であった.その他 に有意差はみられないが,平均値を比較するとグ ループ2 と 3 が 3 年間,同様の成績であり,また 4 と 5 も近い成績であった. 次に,国家試験合格率が低かったグループ4 と 5 を陽性とし ROC 解析を行った結果を表 3 に示 す.AUC はそれぞれ 0.80,0.73,0.77 とすべて の模試で0.7 以上あり,1 年基礎模試が最も大き い値であった.カットオフ値は0.29,0.31,0.36 であった.
考察
1. 対象学生のクラスター分析 今回,国家試験対策中の模試結果をもとにクラ スター分析を行った.クラスター分析におけるク ラスター化の方法としてWard 法を用いた.Ward 法はクラスター内での偏差平方和を最小にする 手法を用いてクラスタリングされ,分類感度が高 1 2 3 4 5 F-value p First grade 0.39±0.14 0.30±0.04 0.30±0.08 0.24±0.04 0.26±0.05 5.16 0.00 1>4, 5** Second grade 0.47±0.13 0.33±0.06 0.34±0.09 0.30±0.07 0.29±0.07 6.72 0.00 1>2,3,4,5** Third grade 0.50±0.11 0.41±0.06 0.42±0.10 0.36±0.10 0.33±0.05 5.19 0.00 1>4*, 5** Lower grade exam Multiple comparison Group ANOVA104
Table_3. Cutoff point estimated ROC curve in group 4 and 5 lower grades
AUC: area under the ROC curve
いとされている9).また樹形図を作る際に,ある クラスターに順にひとつずつクラスターが吸収 されていく鎖効果が起こりにくいとされている 10).この方法の結果,低次の段階で5 つのグルー プに分類することができ,さらにクラスター解の 決定が適切かどうかを検討するための一元配置 分散分析においても,用いた5 つの模試全てにお いて群の効果が認められた.国家試験対策中の学 生の層別としてクラスタリング分析は有用であ ると考えられる. 2. オンラインドリルでの自己学習状況 今回,オンラインでの自己学習状況を半月毎に 集計した結果,グループ1 は早期から多くの演習 問題を解いており,自己学習が最も早期から行え ている群であった.自己学習力は2 つの意味合い を持つとされており,1 つ目は自ら学習全体の目 標や計画を立て,それを実行し,評価するという 学習全体を進める力である.2 つ目は具体的な学 習場面において躓きが生じた時に,自らの躓きの 原因に自覚的になり,修正するという個々の学習 を進める力である11).グループ1 は 1 年生時から 成績がよく,自己学習力の2 つともを兼ね備えて おり,国家試験に向けて自ら学習計画をたて,進 める力を持っている群と考えられる. 次にグループ2 と 3 を比較する.グループ 2 と 3 は低学年時模試では同様の成績であり,1 回目 の模試1 においても同程度の成績であった.しか し模試2 で大きな差が生じている.後藤ら12)は, 言語聴覚士国家試験受験者に対し,9 月から 1 月 までの模擬試験の成績を合格者群と不合格者群 で比較した結果,11 月から有意差が生じ,11 月 を起点として模擬試験の得点推移が合格者と不 合格者とで異なることを明らかとしている.今回 の結果においても 11 月末の模試 2 においてグル ープ 1,2 とその他の群で有意差が生じている. この模試結果に差が生じたのは,自己学習量の違 いが影響していたと考えられる.大本13)は単に講 義に出席しているだけでは学力の向上は認めら れず,講義内容を学生自身が頭で咀嚼し応用可能 な知識にするために自己学習が重要であると述 べている.今回の対象学生は分野ごとの解説講義 には全員出席しているが,グループ2 は 3 と比し てオンラインドリルに早期から取り掛かってい た.模試2 という早い段階での自己学習の開始が 成績を向上させることができた一因であると思 われる. 一方で,グループ 3 は最終の国家試験では 13 人中 12 人の合格であったが,オンラインドリル に取り掛かったのが遅く,12 月後半からであった. そのため模試の成績の向上も遅くなっている.今 回のグループ3 の学生は最終的には合格域に達し ていたため能力はあるが,自己学習力の1 つ目で ある自己の学習状況を評価し,計画を立てて学習 するという行為を行わないために,自己学習に取 り組む時期が遅れたと考えられる.このような群 に対しては教員側から自己学習の開始時期と学 習量の目標値を具体的に提示し,学習計画を立て させ,早期から自己学習量を増やすことが必要と 考えられる. 次にグループ4 について述べる.グループ 4 は 模試毎に成績は向上したが,6 割には達せず,国 家試験合格率も33%と低かった.グループ 3 と同 様にグループ4 でも 12 月後半からオンラインド Sensitivity Specificity (%) (%) First grade 0.29 86.7 62.9 0.8 0.68-0.92 Second grade 0.31 58.8 77.1 0.73 0.59-0.87 Third grade 0.36 68.8 82.9 0.77 0.63-0.91 Cuttoff point AUC 95% Confidenceinterval
105 リルに取り掛かっており3 と同程度の演習数をこ なしているが,3 のようには成績は向上せず,ま た1 月からはグループ 3 に比して演習数が減少し ていた.グループ5 については,模試成績が向上 せず,また演習数の累計値も圧倒的に他群よりも 少ない値であった. この原因について,小貫ら14)はe-learning の欠 点を次のように述べている.①学習意欲の持続が 難しい,②質疑応答などリアルタイムに問題解決 がしにくい,③他の学習者や教師との交流不足に なりやすい等である.今回のグループ4 では自己 学習量の持続が行えず,5 に関しては他群より演 習数が少なく,また成績も伸びない状態であった. これは上記欠点の①と②にあてはまり,学習量, 理解度ともに伸びにくい状況になったと推察さ れる. さらに先に述べた自己学習力の 2 つ目である, 自らの躓きの原因に自覚的になり修正するとい う個々の学習を進める力には,メタ認知モニタリ ングが必要である15).うまく理解できたかどうか を判断するメタ認知モニタリングの処理能力が ない状況では演習問題を繰り返しても同じ躓き を繰り返すため,成績の向上が望めない.今回グ ループ3 とグループ 4 で国家試験合格率に大きな 違いが生じていたのは先に述べた自己学習の影 響もあると考えられるが,低学年の模試からこの 2 群間には有意ではないものの差が生じており, グループ2,3 に対して 4,5 では最終学年で自己 学習を進めることが困難であると考えられるた め,低学年時からの指導が必要であることが示唆 される. 3. 成績不良群の低学年時での抽出 岡本ら 16)は医師国家試験の合否には大学入試 の成績は関係せず,在学中の再試延べ回数と留年 率に強い関連性があると述べている.また大本17) は自己学習量と成績変化の関係について検討し, 積算学習度が高いほど成績が向上するタイプと, 学習努力に反して成績が伸びないタイプが存在 し,成績が伸びないタイプに対しては低学年時か らの個別指導が必要であることを述べている.今 回,5 つのグループに分類を行ったが,グループ 4,5 は低学年からの学習方法に問題があると考え らえれ,そのような群を早期から抽出するために グループ4,5 を成績不良群とし,ROC 解析によ って成績不良群となる得点率のカットオフ値を 各年度の模試毎に求めた結果,1 年基礎模試の AUC が最も高く感度も 86.7%と高い値であった. カットオフ値は0.29 であり,30%以上の成績がな ければ,4 年の最終において成績不良となる学生 を識別できる可能性が高いことが示された. 識別された成績不良群に対しては個別の指導 プログラム,すなわち早期からのメタ認知モニタ リングの使用や,不適応な学習行動の修正等の指 導が必要と考えられる.メタ認知モニタリングに ついては,読解中に自分がどこまで理解している かを意識的に考えさせ,チェックリストにまとめ させ,理解状況を教員に報告させるといった学習 を通して読解成績の向上に成功したという事例 が報告されている18).不適応な学習行動について 瀬尾19)は,学習内容が理解できないときに他者に 尋ねる学習的援助要請について述べている.この 援助要請には自律的援助要請と依存的援助要請 があり,自律的な援助要請とは自分で問題を考え た上で答えよりもヒントを要請し,獲得した解法 で自力解決できるものである.一方の依存的援助 要請とは援助が必要であるか十分に吟味するこ となく,すぐに答えを尋ね,援助要請してもその ことが次の問題解決の機会に活用されない援助 要請方法である.自律的援助要請は学業成績を高 めるが,依存的ではそれが望めないため,援助要 請の質の転換が必要であると報告されている.以 上のような学習観,学習方法を修正しながら,成 績不良群に対しては自己学習を行える準備を行 うことが必要であることが示唆された. 結語 本研究では,理学療法士国家試験合格率の向上 を目指し,分析を行った結果,模試成績の推移に よって5 群に分類された.また,自己学習という 観点から分析した結果,早期の模試から高得点を 得る学生と直前まで成績が向上しない学生とで は,自己学習量に差が認められた.また,最後ま で成績が向上せず国家試験の合格域に達するこ とが難しい学生は,自己学習を進めること自体が 困難である可能性が高いことから,低学年時から 学習観や学習方法など多面的なケアが必要であ ることが示唆された.しかし,本研究では自己学 習量の違いをオンラインドリルの演習数のみで 比較しており,その他の学習方法は加味していな
106 い.さらに近年の理学療法士国家試験の出題範囲 は多岐にわたり,また臨床的思考力を問われる問 題も多く出題されているため,国家試験の合格に 影響を与える要因は複数あると想定される.今後 は学習方法や学習観,性格特性なども考慮し,多 面的な分野に対し最適な指導方法の構築が重要 であると考えられる. 謝辞 稿を終えるにあたり,本研究にご協力いただき ました大阪電気通信大学,小田邦彦先生,小柳磨 毅先生,赤滝久美先生,吉田正樹先生,田中則子 先生,羽崎完先生,成俊弼先生に心より感謝いた します. 文献 1) 成田亜希:高等教育機関における成績不振者 の発見と対応の検討.理学療法科学 33:33-37, 2018. 2) 宮下次廣,志村俊郎,足立好司・他:医学部 在学中の試験と医師国家試験の成績比較.医 学教育 35:281-285,2004. 3) 柳沢 健,新田 收,笠井久隆・他:東京都 立医療技術短期大学生の入学・在学時成績と 医療系国家試験合否との関係.東京保健科学 学会誌 2:16-21,2000 4) 中島 昭,長田明子,石原 慎・他:入学後 の成績に影響を与える要因は何か.医学教育 36:397-406,2008. 5) 全国医学部長病院長会議 学生の学力低下問 題に対する WG 報告.June2011, URL: https://www.ajmc.jp/pdf/23.8.25%20gakury oku%20houkoku2.pdf 6) 前田正信,羽野卓三:生理学筆記試験の成績 よりみた医学部学生の学力低下.医学教育 44:71-76,2013. 7) 石井秀宗,椎名久美子,前田忠彦・他:大学 教員における学力低下意識に影響する諸要因 についての検討.行動計量学 34:67-77,2007. 8) 武田香陽子,石突諭,大野裕昭:卒業延期生の 学習状況の実態調査と支援方法の検討.医学 教育 46:161-170, 2015. 9) 村瀬洋一,高田 洋,廣瀬毅士:SPSS による 多変量解析,p27–298, オーム社,2007. 10) 宮本定明:クラスター分析入門,p88–117,森 北出版株式会社,2006. 11) 植阪友理:学習方略は教科間でいかに転移す るか.教育心理学研究 58:80-94, 2010. 12) 後藤多可志,春原則子,立石雅子:言語聴覚 士国家試験の合否に影響を与える要因.目白 大学健康科学研究 8:37-42, 2015. 13) 大本まさのり:学生の学力に影響を及ぼす自 己学習.北陸大学紀要 31:61-66,2007. 14) 小貫睦巳,丸山仁司:理学療法教育における e-learning の現状と今後.理学療法科学 22: 547-551,2007. 15) 岡本真彦:教科学習におけるメタ認知.教育心 理学年報 51:131-142,2012. 16) 岡本幹三,中山英明,能勢隆之:国試合否から みた高校・入試・在学成績の評価.医学教育 22:93-98,1991. 17) 大本まさのり:学力試験の成績を向上させる 自己学習.北陸大学紀要 32:41-49,2008. 18) Malone LD,Mastropieri MA: Reading
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