1 はじめに 大学はその教育研究水準の向上や大学の目的及び 社会的使命の達成のため、常に現在行っている大学の 教育研究を自己点検・評価し1) 、改善していく責務が ある。その自己点検のためには、様々な関係者から大 学教育に関して意見を聞く必要があるが、その関係者 の一つとして大学卒業生の就職先を考えることができ る。多くの卒業生が勤めている団体から、卒業生の勤 務状況を様々な観点から評価してもらうことにより、 間接的に、卒業生が大学生時代に受けた大学での教育 を評価してもらうのである。 滋賀大学教育学部では教育改革推進委員会と大学院 教育学研究科運営委員会が、このような大学における 教育の自己点検と改善を目的として、滋賀県内の小中 学校校長に、アンケート調査を 2014 年に行なった。そ のアンケートでは、近年滋賀大学教育学部を卒業して 教員になった者や教育学研究科修了生で教員をしてい る者の勤務状況に関する印象について質問が行われた が、アンケートの最後に自由記述として、「よいと思う こと」、「改善すべき点又は要望や期待」を聞いた。非 常に多くの貴重な意見が寄せられたが、記述が多岐に わたり量も多かったため、それらの分類と整理が十分 にできず、第 1 次の報告としては自由記述による回答 として寄せられた文をそのまま掲載することとした2) 。 しかし、自由記述による回答は何らかの方法で分類し その特徴を拾い出さないと貴重な意見を活かすことが できない。そこで、この報告ではこれらの自由記述に よる回答をいくつかの観点から分類し、学校長が考え る望ましい教師像と教員養成系大学に期待される教育 等について特徴を拾い出す。 2 調査方法と分析方法 滋賀県内公立小学校と中学校の校長へのアンケー トは次のように行われた。アンケート用紙は 2014 年 11 月に郵便で発送し、12 月までに回答の返信を依頼 した。アンケート用紙が送られたのは滋賀県内公立小 学校と中学校の合計 323 校であり、そのうち 262 校 から回答の返信があった。回収率は実に 85%に上っ た。 調査の内容は以下の通りであるが、自由記述によ る回答を求める質問以外は 3 または 4 の選択肢から 1 つの回答を求めるものであった。質問内容としては、 まず滋賀大学教育学部を卒業した 20 歳代の教員に関 して、勤務状況や能力についての印象を、11 項目で 質問した。また教育学部の教育で伸ばしてほしい点に ついても 11 項目についてその重要度を聞いた。次に 滋賀大学大学院教育学研究科の教育に関しても、修了 して教員になった者の勤務状況や能力についての印象 を 11 項目で質問し、教育学研究科において伸ばして 欲しい教育を 11 項目につきその重要度を尋ねた。そ して最後に自由記述での回答を求める質問を 2 つ行っ た。 このアンケート調査用紙の最後に行った自由記述に よる回答を求める質問は、滋賀大学教育学部・大学院 教育学研究科の教育について聞くものであり、次の 2 点であった。 Q1:良いと思われることを自由にお書きください。 Q2: 改善すべき点又は要望や期待を自由にお書き ください。 Q1 についてはアンケートへの回答のあった 262 校 中 88 校から回答があり、Q2 については 141 校から 回答があった。 自由記述の回答は様々な観点から書かれていて多様 性に富むため、分類を行ない、それぞれの回答頻度に より特徴づけを行う必要があるが、データの解釈につ いてはいくつかの注意が必要である。まず、このアン ケートは滋賀大学教育学部を卒業した 20 代の教員、 あるいは大学院研究科を修了した教員を想定して、彼
―小・中学校校長へのアンケート調査結果から―
Desired Teacher Qualities and Expected Education in Teachers College:
From the Survey to the Principals of Elementary Schools and Junior High Schools
<キーワード> 教員の資質 教育姿勢 コミュニケーション能力 大学への要望
神山 保
Tamotsu KOHYAMA
滋賀大学教育学部平松 子推
Shisui HIRAMATSU
滋賀大学大学院教育学研究科らの印象について聞いている点である。寄せられた回 答の中の 10 程度のものには、大学による差は特にな いと書かれていることからも、全体の回答においても 滋賀大学の卒業生または修了生に特有のものもあれ ば、卒業大学によらず若い教員全体の傾向ととらえた 方がよいものが多く混在していると考えられる。それ で、明らかに滋賀大学卒業生に固有の指摘と分かるも の以外は、若い教員全体に共通する事柄や特徴とみな す。また、本調査での自由記述による回答にあると考 えられるもう一つの問題点としては、質問が単純であ り、特定の事柄について系統的に質問してはいないた め、網羅的に意見が出たとはみなせないという点と、 回答者の個人的な考え方に大きく依存して、十分に普 遍性がある回答とは言えない点である。ただ、これら の点に関しては、自由記述形式の回答においても 100 程度の回答が寄せられたので、全体として統計的に処 理することにより、幅広い意見と普遍性のある傾向を 取り出すことができると考えられる。 実際の分析方法としては、質問 Q1 と Q2 に対する 自由記述の回答を、5つの観点で分類し、各観点につ いての意見分布を調べることにより、小中学校の校長 が持っている教員や大学教育についての意見の特徴を 見出す。分類する5つの観点は以下のものである。 A1:Q1「良いと思われること」について A2:不満に思う若手教員の現状について A3:望まれる教員の資質について A4:大学生時代に望まれる活動について A5:教員養成大学への要望 A1 と A2 は相補の関係にある。良いと思われるこ とが A1 に挙げられていて、どちらかというと不十分 と考えられていることが A2 に挙げられている。A1 と A2 の両方に挙がっていることは、対象の事柄が教 員個人に依存していることの表れとみなせる。また、 アンケート調査の Q1 に対する回答はほとんど A1 で 分類される。中には Q1 への回答にも「良くない」と 思うことも書かれていたので、それらは A2 に入れた。 A2 から A5 までは、ほとんどはアンケート調査での Q2「改善すべき点又は要望や期待」に対する自由記 述による回答を分類したものである。また一校からの 回答をいくつかに分割してそれぞれを 4 種類に分類し たものもある。 A1 から A5 までの観点に関する回答をさらに、回 答文中にでてくるキーワードで細かく分類し、同類の 回答数を数えた。この数と全体での回答数の比が、そ の考えをもっている校長のおおよその割合とみなすこ とができる。 3 自由記述による回答に関する分析結果 5つの観点で分けられる回答をさらに、キーワード で詳細に分類した結果を以下に表で示す。また、それ ぞれの特徴を具体的な解答文を例に挙げ、説明する。 3-1 A1:Q1「良いと思われること」について 観点 A1 にあたる回答をさらに、「人との関係」、「個 人の性格的特質」、「教育に対する取り組み方」、「授業、 学校運営に関すること」、「大学院について」で分類し、 各分類された回答文中にみられる特徴的なキーワード でさらに分けた回答文の数を表1に示す。 表 1 質問「良いと思われること」への回答の分類 「良いと思われること」の回答 97 人との関係 11 つながり、目的意識の共有 5 協調性あり 3 コミュニケーション良好 2 大学教員との関わり 1 個人の性格的特質 3 気さく 2 プライドがある 1 教育に対する取り組み方 43 真面目で熱心、誠実 24 意欲がある 7 態度や姿勢、教員としての意識がある 5 自主的に課題に取り組む 4 粘り強い 1 責任感 1 滋賀の現状にそくした教育をする 1 授業、学校運営に関すること 35 基本的な力がある 14 使命観、倫理観がある 5 学力が高い 4 教科の専門知識 3 安心できる 2 教材研究に前向き 1 研究面においての中核 1 学級づくりのビジョンがある 1 教育をリード 1 プレゼンテーション能力 1 大学院について 6 大学院修了生の資質等 6 若手教員の状況について「良いと思われること」の 最も目立つ回答は、「教育に関する取り組み方」にお いて、「真面目に熱心に、誠実に取り組む」であり、「意 欲がある」、「態度や姿勢、意識がある」、「自主的に課 題に取り組む」も含めると 40 回答あり、全回答の約 40 パーセントを占める。次に目立つものは、「授業、 学校経営に関すること」で、「基本的力がある」であり、 「学力が高い」、「教科の専門知識がある」を含めると、
21 回答になり、全回答の 20 パーセント程度になる。 これらを合わせると、若手教員の良い点としては、「真 面目に熱心に働き、基本的な力もある」となる。 また、良いと思われる「人との関係」で主なものは、 「教員養成系出身者どうしのつながりや教育に関する 目的意識の共有」が挙げられている。大学教員とつな がりがあることに関しても、良い点として認識されて いる。 大学院修了生の良い点については、「概ね教育課題 意識が強く、学校経営を含めて非常に資質・能力が高 い」、「研修内容が学校や市町に活かされている」、「特 別支援教育では能力が高まって現場での還元ができて いる」などがある。 3-2 A2:不満に思う若手教員の現状について 観点 A2 においても、さらに「人との関係」、「個人 の性格的特質」、「教育に対する取り組み方」、「授業、 学校運営に関すること」、「大学院について」に回答を 分類し、それぞれの分類の中でキーワードが共通する 回答文の数を求めた。結果は表2にまとめられている。 A1 では「良いと思われること」について挙げられ たが、A2 では、おもに不十分に感じている事柄につ いて挙げられている。従って A2 は A1 と合わせて解 釈すべきである。A1 のまとめの表1と A2 のまとめ の表 2 を合わせてみると、「コミュニケーション能力」 や「プライドの高さ」、「積極性」については、A1 と A2 の両方に現れている。従ってこれらは、個人に依 存することがらとみなせる。また、A1 への回答数が 97 に対し、A2 へ分類される回答数が 49 なので、あ からさまに不十分と思うことよりも良いと思うことの 方が2倍程度多くある。つまり肯定的評価の方が高い と言える。 若手教員の現状に関して不十分に思っていることで 特徴的な点は、教育に関する取り組み方において、「小 さくまとまっている」、「積極さ不足」、「失敗を恐れる」 が合計すると 13 回答あり、全体 49 回答中の 30 パー セント程度を占めている点である。「もっと馬力が欲 しい」、「気概が感じられない」、「バイタリティが少な い」、「道を切り開くたくましさが必要」などの声も多 い。また、「教員としての自覚や使命感の不足」、「自 己研修意欲の不足」も合わせて 6 回答と全体の 1 割程 度になりこの不満も多いと言える。 授業や学校運営に関することは、不満に思うこと全 体の 40 パーセント程度になるが、非常に多岐にわたっ ていて、いろいろな面で経験が不足していることを表 している。生徒対応力、保護者対応力に並んで、教科 の指導力や専門性への追求に関しても不満があること に注意がおかれるべきであろう。 また、大学院修了生に関しての不満は、大学院で学 んでいるにもかかわらず、実践に活かされていないこ とが挙げられている。 3-3 A3:望まれる教員の資質について 質問 Q2「改善すべき点又は要望や期待」に対する 自由記述による回答には、「教員には・・・が望まれます」 や、「・・・が重要です」など、望まれる教員の姿に ついて書かれているものが多い。それでこのような文 を集めて、校長が望む教員の資質として分析する。回 答文の内容から、A1 と A2 の分析と同様に、「人との 関係」、「個人の性格的特質」、「教育に対する取り組み 方」、「授業、学校運営に関すること」の 4 パターンに 分け、それらをさらにキーワードで分類して、回答文 数を数えることにより重要度を求める。結果を表3に 示す。 表2 回答にみる不満に思う若手教員の現状 不満に思う教員の現状について 49 人との関係 9 コミュニケーション能力不足 6 社会性不足 2 社会常識(ソーシャルスキル)の欠如 1 個人の性格的特質 3 独りよがり 2 プライド高い 1 教育に対する取り組み方 22 小さくまとまっている 10 自覚、使命感不足 4 自己研修意欲不足 2 積極さ不足 2 子どもと向き合う覚悟の不足 1 失敗を恐れる 1 マニュアル化している 1 職場体験の弊害 1 授業、学校運営に関すること 19 生徒指導、対応力不足 3 専門性の追求が足りない 2 部活動指導力が不十分 2 保護者対応力不足 2 授業力不足 2 教科指導への熱意不足 1 文化を作る力が弱い 1 学級経営力不足 1 実践的指導力不足 1 現場対応力不足 1 担任として信頼できない 1 学校経営への参加意識欠如 1 リーダーシップが物足りない 1 大学院について 1 実践的専門性を有していない 1
表3 回答にみる教員の持っているべき資質 望まれる教員の資質 120 人との関係 25 コミュニケーション能力 8 人間関係構築力 8 協調性 4 礼儀等社会常識 3 社会性 2 個人の性格的特質 18 人間性 5 人間力 4 心理的安定性 4 謙虚さ、感謝の心 1 感性が豊か 1 前向きな姿勢 1 教師としての適性 1 教師としての知識・技能 1 教育に対する取り組み方 50 ゆとりある対応力 7 子供に寄り添える力 6 向上心、積極的に共に学ぶ姿勢 5 たくましい人材 5 保護者対応力 5 柔軟な思考 4 自信をもつ 3 教育への思い、熱意 3 自主性 2 人の話を聞く 2 自分の意見を伝える力 2 体力気力 2 どのように取り組むか考える 2 使命感、倫理観 2 授業や学校運営に関すること 27 授業力 8 得意な教科 5 学級経営力 4 専門教科の研究力 3 リーダーシップ 3 実践力 2 ICT を活用した授業力 1 特別支援教育の視点で捉え直す力 1 回答文数は 120 で、アンケート回答のあった 262 校の半分程度から回答があり、教師の理想像について 多く語られていることが分かる。 「人との関係」について最も多く挙げられている資 質は「コミュニケーション能力」である。「人間関係 構築力」も含めると、16 回答になり望まれる教員資 質への回答の 13%になる。いかにスムーズな対人関 係の構築が求められているか分かる。どのようなコ ミュニケーション能力が求められているのか具体的表 現を回答文から取り出すと、「先輩や上司」、「子供や 保護者」、「生徒や教員間」でのコミュニケーションや、 「人間としてのコミュニケーション」などと表現され ている。 次に、望まれる「個人の性格的特質」に関しては、「人 間性」や「人間力」との回答が 9 件でもっとも多く、 「教育は人なり」や、「人間として、教育者として幅広 い人格」、「人間的な魅力」、「その人が醸し出す人間性」 などと様々な表現がなされている。また、「心理的な 安定性」も必要とされている。 「教育に対する取り組み方」については、なにより いろいろな人や事柄に対する「ゆとりある対応力」が 求められており、子供や保護者への対応力も含めると 18 回答と、望まれる教員資質の 15%になる。この「対 応力」には「柔軟な思考力」や「たくましさ」、「人間 性」、「人間力」も絡んでいる。回答文には「想定外の ことにゆったり対応できる」、「幅広い見識と、何事に も柔軟に対応」、「たくましく、粘り強く対処」、「さま ざまな今日的課題への対応」などの表現がある。望ま れる「教育に対する取り組み方」には、「向上心、積 極的に共に学ぶ姿勢」や「教育への思い、熱意」、「自 主性」などの学ぶ姿勢に関するものも多い。常に向上 心を持って教育に取り組む姿勢が必要とされる。 「授業や学校運営に関すること」で望まれる資質は、 質の高い「授業力」が一番である。回答文中では「授 業で勝負する」、「授業を改善する」、「学校現場では教 科指導」などの表現も使われている。また「得意な教科」 や「専門教科」を持つことの要求も多く、「専門知識 を身につけ、指導力の優れた教員」や「何か得意な教 科を身につけ、そこから突破口を見出す発想」など、 得意教科の重要性が言われている。特に、「小学校現 場においても教科の専門知識を有する教員は必要」と の意見が 2 つ以上あり、全教科を受け持つ小学校でも 得意教科をもつことの重要性が指摘されている。 3-4 A4:大学生の学生時代に望まれる活動に ついて 質問 Q2「改善すべき点又は要望や期待」に対する 自由記述の回答文中には、大学生が授業を受けること 以外にすることが望ましいと思われる活動についてい くつか書かれていた。それらを集めて、キーワードで 数えたものが、表4に示されている。 「卒業論文」については、「徹底的にする」や、「子 供や教職員相手に話ができる程度に研究に打ち込んで ほしい」などがある。その他の「学生時代に望む活動」 についての回答は、「様々な活動」をするとまとめら れる。様々な活動を主体的にすることにより、幅広い 経験を積み、柔軟な考えや自分で考える力、器の大き
表5 回答に見られる大学への要望 大学教育において育てるべき学生の資質 大学への要望 129 大学が育てる学生の持つべき資質 94 人との関係 15 コミュニケーション能力 9 礼儀・社会常識 5 学び合いの姿勢 1 個人の性格的特質 11 たくましい精神 4 エネルギーにあふれる人材 2 自由に伸び伸びと、器の大きな学生 2 人間性育成 2 誇りと自立心 1 教育に対する取り組み方、力 37 対応力 9 授業力 8 教育への意欲と熱意 6 成長力、学び続ける姿勢 4 使命感と倫理観 4 自分の言葉で話せる人材 2 体力、気力 2 主体的な人材育成 1 夢・希望・やりがい 1 大学の授業等で充実させるべきこと 31 インターンシップ 7 教科の専門知識 4 児童理解、指導、支援力 2 特別支援対応力 2 ICT 活用力 2 教育実習 2 様々な体験 2 複数免許の取得 2 応用力 1 読書 1 実践的な授業 1 部活指導力 1 学級経営 1 卒業論文 1 学生の自信のある取り組み 1 他校種理解 1 表4 回答にみる大学生時代に望まれる活動 大学生時代の活動 11 様々な活動 4 部活動 2 卒業論文 2 社会を広める 1 支援ボランティア 1 自治活動やサークル活動 1 さ、たくましさを身につけてほしいとの望みである。 3-5 A5:教員養成大学への要望 質問 Q2「改善すべき点又は要望や期待」に対する 自由記述の回答文から、大学への何らかの要望や期待 することを取り出しまとめた。これらの要望、期待に 関する回答 129 件は、大学でどのような能力や資質 を持った学生を育ててほしいかという大学教育に関す る期待と、大学全体がどのような姿勢や体制で教育に 取り組んでほしいかという大学全体のもつ姿勢に関す る要望に分けることができる。 3-5-1 大学教育において育てるべき学生の資質 寄せられた 94 件の「大学教育において育てるべき 学生の資質」への要望をさらに「人との関係」、「個人 の性格的特質」、「教育に対する取り組み方、力」、「大 学の授業等で充実させるべきこと」に分け、それぞれ をキーワードで分類し回答頻度を数え、表5にまとめ た。 「人との関係」においては、やはり「コミュニケーショ ン能力」を身につけさせてほしいという声が多く、「学 生の育てられるべき資質」に関する要望の 1 割を占め ている。また、「礼儀・社会常識」を身につけさせて ほしいという声も多い。 大学で育てるべき「個人の性格的特質」については、 「対応力」、「授業力」が同程度で多く、「意欲と熱意」、 「成長力」、「使命感と倫理観」と続く。ここに言う「対 応力」とは抽象的なものだが、「さまざまな教育課題へ、 たくましく粘り強く対処できる」、「幅広い見識と、何 事にも柔軟に対応できる」、「自主的、積極的に課題を 解決できる」能力などと回答文中では表現されている。 「授業力」については、「授業がきちんとできること」、 「授業で勝負できる教師」、「学級の子ども全員に対し て、しっかりと意欲を持たせて、学力をつけられる授 業力」などと、着実な授業力育成が求められている。「教 育への意欲と熱意」の育成とともに、「成長力、学び 続ける姿勢」の育成への要望も強い。これは「教職に 就いた時から実践を通して資質、能力が高められるの で、学び続ける意欲、関心を高めてほしい」、「知らな いことを学び続ける姿勢が身につくように」、「わから ないことをそのままにせず先輩にきいたり、相談した りすることを恥かしいと思わないで実行できる力」な どと表現されている。 具体的な「大学の授業等で充実させるべきこと」に は様々な授業等が挙げられているが、一番多いのは「イ ンターンシップ」、「教育実習」などの実践的な授業や 体験であり、10 程度の回答があり、全回答の 1 割程 度になる。直接「教育実習」を大切にしてほしいとい
う声が 2 件あるが、「学校支援ボランティア」「学校 ボランティア・サポーター」になり「早い段階で実践 力をつけてほしい」や、「現場インターンシップの拡 大、充実を」という声が多い。一方、「教科の専門知 識」を付けることに関する要望も多い。これらは「教 科の専門的知識をつける」、「教科の専門性(または専 門意識)をもった教員の育成」と表現されている。小 学校においても教科の専門性を持つことが重要との指 摘も考慮すべきである。その他の授業に関する要望に は様々なものがあるが、「複数免許の取得」や「他校 種理解」への要望が合わせると 3 件になる。「異校種 間連携不足なので、他校種理解の教育を推し進められ たらどうか」との意見もある。 3-5-2 大学全体にかかわる要望 大学全体の姿勢や体制、制度に関して寄せられた要 望は 35 件あり、4 種に分類して表6にまとめた。 まず大学と他の組織の連携や交流についての要望 を集めると 10 件になり、大学全体にかかわる要望の 30%になる。「大学と現場がもっと連携し、学力、体 力の向上についてさらに専門的に取り組み研究を深め る必要があると思います」や「地元大学として、本県 教育の課題解決のため、各分野において、連携してほ しい」など、課題解決のために連携すべきだという意 見が挙げられる。また、「もっと多くの教授や指導者 が、小・中学校(附属だけではなく)と連携した、研 究や取り組みを積極的に進めるとよいのでは」という 声もある。さらに、「県教委との繋がり」を希望する ものも 3 件ある。「教員の研修機関としての総合教育 センター等と深い関わりを願う」や「せめて管理職研 修などを1回でも県教委と連携して開催していただけ たら」と研修について県教委との連携を望んでいる。 次に、「大学の教育姿勢への要望」に関しては 9 件 あり、「滋賀県の教育に対する自負と責任」をもって、 教育することを期待しているものが 6 件とほとんど である。具体的な回答文には「滋賀の教育を支えるの は、貴校であるという自負と責任を持っていただきた い」、「滋賀県の明日を担う大学であることを教授陣で 確認してください」と直接大学に自覚を促しているも のが多い。さらにこれらと関連するが「先をみすえた 教育」を期待するものが 2 件ある。「教育学部として この先の教育が求めている人材とはどのようなもので あるかをしっかり見極め、優秀な人材を教育界に提供 していってほしい」などと述べられている。 具体的な「大学の組織、体制、制度など」については、 様々な要望がある。学生指導については、「学生のう ちに適性をしっかりと見極め、進路決定のための助言 をしてあげてほしい」との要望と、次に多い「即戦力 となる学生の育成」への要望も合わせると、厳しい学 校現場でも勤まる教員を提供してほしいという強い要 望となる。また、大学に入学する生徒についても、「地 元高校生を優先的に入学させる制度」を要望する声 と、「教科の教員数バランスを考えた教員の養成」を 要望する声がある。大学の教員についても「大学の教 員改革、力量アップ{学問でなく学問+臨床的(実践)} を切に望むところです」と、臨床的(実践)力をつけ てほしいと切望されていることを考えなければならな い。 「大学院への期待と要望」については、「実践的能力 と、将来管理職として仕事ができるよう学校運営につ いて、学んでもらうとよい」、「地域素材や環境問題の 教材化等において力を発揮できるのではと期待」、「現 職教員で大学院での学習のし直しや高度な勉強の機会 が得られることは素晴らしい。入学の枠を広げ、多く の教員に機会を与えてほしい」などの期待がある一方、 「教科の専修免許は与えられても、現場で、生かされ なければ単に凝り性ができるだけ」との批判もある。 表6 回答に見られる大学への要望 大学全体にかかわる要望 大学全体に対する要望や提案 35 連携と交流 10 学校現場との交流 4 県教委との繋がり 3 現役教員による講座 2 小中との連携 1 大学の教育姿勢 9 滋賀県の教育に対する自負と責任 6 先をみすえた教育 2 本質的教育 1 大学の組織、体制、制度など 12 適性をみた学生指導 3 即戦力となる学生の育成 2 滋賀県生徒の優先 2 教科教員数のバランスを考えた学生募集 2 大学教員改革 2 研究室の復活 1 特に大学院について 4 大学院への期待と要望 4 4 まとめ 滋賀県内の公立小中学校の校長に行なわれた、滋賀 大学教育学部を卒業した若手教員や大学院教育学研究 科を修了した教員の勤務状況等の印象についてのアン ケートのうち、「良いと思われること」と「改善すべ き点又は要望や期待」についての自由記述での回答を 5 つの観点に分けて分析した。これらはすべて「望ま れる教員の資質」に結びついていると言える。この「望 まれる教員の資質」には多くあるが、特に強調される ものは、「コミュニケーション能力」、「人間関係構築
力」、「人間性、人間力」、「ゆとりある、たくましい対 応力」、「子供への寄り添える力」、「向上心」、「授業力」、 「得意な教科、専門教科」などになる。 また、大学教育にも「望まれる教員の資質」に対応 したものが要望されているが、教員の資質の基礎とな る「たくましい精神」や「エネルギーにあふれる人材」 の育成、さらに「教育への意欲と熱意」や「学び続け る姿勢」の育成が特に求められていると言える。 大学全体に対しては、滋賀県教育委員会や学校現場 との連携や交流が多く求められているが、もっとも強 く求まれているものは大学全体がもつ教育に対する姿 勢についてであり、これらは「滋賀県の明日を担う大 学であると確認」し、「滋賀県の教育に対する自負と 責任」をもって「先をみすえた教育」をし、「優秀な 人材を教育界に提供してほしい」とまとめることがで きる。 今回のアンケート結果の分析により特徴を導きださ れた多くの意見は、教員を目指す大学生にも、教員養 成系大学の教育方針にとっても、たいへん参考になる ものである。これらの意見は、今後大学教育を進める ときも、さらに大学の教育体制見直しの際にも有効に 活用されることが望まれる。 5 謝辞 2014 年に行われた「滋賀大学教育学部および教育 学研究科での教育に関するアンケート」にお答えいた だいた、滋賀県内公立小学校と中学校の校長に対して 心よりお礼を申し上げる。 参考文献 1) 学校教育法第 109 条 2) 滋賀大学全学教育部会、滋賀大学 FD 事業報告書、 平成 27 年 3 月、pp.101-133