東 南 ア ジア研 究 19巻 1号 1981年6月
人 口 理 論 と 人 口 推 計
- 東 南 ア ジ ア に 対 す る 応 用-河
野
岡 果 *Demo皇raphicTheoriesand Population Projections: With SpecialReferencetoSoutheastAsia
ShigemiK oNO*
ThispaperreviewsthebasictIleOriesunderlying tlle Currentpractice of the United Nationsand otherinternationalpopulationprojectionscovering thelessdeveloped countries,particularly tⅠ10SeOf SoutheastAsia. Inthefieldofdemographicpr o-]cctions,the mostbasic framesof reference for assumptionson thefuture courseoffertility and mortalityarethedemographictransitiontheoryand
序 言 今 日の よ うに内外 にお いて 「人 口推 計」 の 重要 性 が認 識 され た時代 はな い と思 わ れ る。 人 口推 計 は一 国 の人 口政策 を立 案 す る場合 の 重 要 な技 術 的道 具で あ り,社 会 経 済 開 発計画 に際 して最 も基本 的 なデ ー タを提 供す る。 人 口推 計 は将 来 の労働 力供給 と消費 需 要 を推 定 す るにあた り, 根幹 的役割 を果 たす 。 労働供 給 は人 口推 計 を ベ ース に した労 働 力推 計 に よ って推 定 され る し, 消 費需要 の それ は,人 口 推 計 自体 の ほか に, 同 じ く人 口推計 を ベ ース に した世 帯 ・家 族数 推 計 に よ って行 われ る こ とが非 常 に多 い[UrdtedNations 1965a:2 -3]。 その他 の種 類 の推 計, 例 えば就学 年齢人
*厚生省 人 口問題 研究所 ;InstituteofPopulation Problems,MinistryofHealthandW elfare,Tokyo
thresholdhypothesis,butotherthantheseverylittle usehasbeen made ofpopulation theories. Not much hasbeen done so farto incorporatesoci 0-cconomicfactorswithintheframeworkofpopul a-tionproJections・ Thispaperexploresthereasons why and triesto 丘nd waysto utilize some new developmentsin population theoriesby Caldwell andKnodel. 口の推 計 も人 口推 計 を もとに して行 われ るの が普通 で あ る。 さ らに これ ら社 会 経 済計 画 の 目的以 外 に, 人 口推 計 は人 口現 象 の よ り系統 的 な理解 と分 析 の た め に重要 で あ る。 人 口推 計 は, 現 在 進 行 して い る人 口過 程 の ポテ ンシ ャル を数 量 的 に把 握 し,将 来起 こ り得 る可能 性 の幅 の 中で, 年 齢 別 出生 率 ,死 亡 率 そ して 国際人 口移 動率 につ いて い く通 りか の コースを仮定 し,総 人 口お よび男女 年 齢別 構 成, あ るい は粗 出生 率 ・死 亡率, 人 口増加 率 が どの よ うに変 化 す る か を具体 的 に示す もので あ る。 1980年 現 在東 南 ア ジアの人 口 は,最新 の 国 連 人 口部1978年 中位 推 計 に よれ ば,3億6,800 万 と推定 され るが,西暦2000年 に は5億5,900 万 に増加 す る見込 みで あ る。 東 南 ア ジアで は 最 近 , 出生 率 が死 亡率 の低下 以 上 に低 下 し始
東南 アジア研究 19巻1号 め,人 口増加率 鈍 化 の傾 向がみ られ るとい い なが ら, 人 口の絶 対 増加, お よびその速 度 は 依 然大 きい もの と予想 され, 巨大 化す る人 口 の規模 が この地 域 の将来 に甚大 な影響 を与 え る ことは疑 いな い。 元来 人 口推 計 は人 口学 の応 用部 門で あ り, それ と して独 立 した もので もな けれ ば, コ ン ピュータ ーが最近 急速 に発達 したか ら容 易 に 行 われ るとい った もので もな い。人 口推計 は, あ る国の過去 ・現 在 の人 口に関す る統計 的情 報 の はか に, 人 口お よびその変 動 の要素 で あ る出生 率,死 亡率 ,婚姻率, 国際人 口移 動 に 関す る基 礎理 論 ・仮説 ・知識 の蓄積 と, 形式 人 口学 的方法 の発 達 の上 に構 築 され た ピラ ミ ッ ドの頂点 で あ るといえ よ う。 と くに出生率 と死 亡 率 に関す る動 向の将来 の見通 しの妥 当 性 は,それ らの変 動 に関連 す る人 口理 論,と く に経 済社会 的要 因 との関係 につ いて の仮 説, 6 そ して具体 的 な個 々の 国の地 域 ・文 化 ・宗教 的特殊 性 に関す る知識 の妥 当性 いか ん に よ っ て い ると考 え られ る。本 稿 の 目的 は, これ ま で あま り知 られて いな い国連作成 によ る世界 の低 開発地 域 (東 南 ア ジア も含 む) に対す る 人 口推 計 の方法 の紹介 で あ るが, と くに推計 を行 うにあた り基 礎 とな った人 口理 論 あ るい は思考 枠組 frameofreferenceを整理 し, そ の評 価 を行 い, 同時 に,1970年代 に捉起 され た新 しい人 口理 論, と くに人 口転換 の観点 か らみた 出生 力の変 動 に関す る理論 が, 将来 ど の くらい人 口推 計 の下敷 きと して使 え るかを 考 えて み た い。 Ⅰ 国連人 口推 計 の方 法 の概 略 国連 の 世界 人 口推 計 は 国別 に 行 われ て お り,東 南 ア ジア諸 国のそれ も含 む が, 国連 は, 1952年 の最初 の世界人 口推 計以来現 在 まで7 図1 国 連 人 口 推 計 の 基 本 的 手 続 き
河野 :人口理論と人口推計 回,推計 結 果 を改 訂 発 表 して い る。1)最 も新 し い の は1978年 度 推 計 で あ り, 現 在198()年 度 推 計 作 業 が進 行 して い る。 国連推 計 の 方 法 論 は, 一 貫 して Cohort -Component法 (コ ウホ - ト複 合 法 )とい う標 準 的 方法 で あ る。 この方 法 は, 図 1に示 され るよ うに,男 女 ,年 齢 別 人 口が ベ ースで あ り, これ に男 女 ・年 齢 別 の生 残率 を掛 けて将 来 の 生 残 者 を コ ウホ - トに沿 って求 め, 同時 に年 齢 別 出生 率 を女 子 の15-49歳 の年 齢 別 人 口 に 乗 じて各 年 あ るい は5年 間 の 出生 数 を 出 し, これ を た えず 人 口に加 えて い く方 法 で あ る。 人 口移 動 が あれ ば, 同 時 に その純 移 動 を加 え る。 死 亡 に関 して,1968年 ,1973年 お よび1978 年 度 推計 に共 通 な こと は,低 開発 地 域 に対 し 国連 の モデ ル生 命 表 [United Nations 1956]
とCoale-Demenyの東 西 南 北 の 四 つ の地 域 分 類 に よ るモデ ル生 命 表 [Coale and t)emeny 1966]を用 いて い る こ とで あ る。 国連 モデ ル 生 命 表 プ ラス 四 つ の Coale-Demenyの モデ ル生 命 表 , 計 五 つ のモデ ル生 命 表 の 中か らど れ を選 定 す るか に あた り, 当該 国 の観 察 され た死 亡 率 パ タ ー ン, と くに10歳 くらい まで の 子 供 の年 齢 に お け る死 亡 率 パ ター ンを考 察 す る必 要 が あ る。 す で に推 計 ベ ースの最 寄 り年 次 に対 す る出生 時 の 平 均余 命 30だ け は推 定 され て い るとす る。 す で に推 定 され て い る出
1)United Nations.1952. ThePastand Future Growth orWorld Populations-A Long-range View. PopuZati07iBuZZczin. United Nations Publication,SalesNo.52,ⅩⅠⅠⅠ.2.Nc・.1,pp. ト12;1954. FrameworkforFuturePopulation Estin ates,1950-1980, by World Regions.
Proでβedz'ng∫ojtheWorldPoPuZaZl'onConference. UnitedNationsPublication,SalesNo.55,ⅩⅠⅠⅠ. 8.Ill:283-328,・1958. The Future Growth of World PopuZaiz'on.United NationsPubli -cation,SalesNo.58,ⅩⅠⅠⅠ.2;[1966];1972. WorZdPopulationProspectsa∫A∫∫e∫∫edin1968. United NationsPublication,SalesNo"E.72, ⅩIII.4,・1977. World Population ProsPect∫ a∫A∫∫e∫∫ed i711973. United NationsPubli -cation,SalesNo.E.76,XIII.4;[1979t・]. 生 時 の平 均 余 命 に見 合 う五 つ の モデ ル生 命 表 死 亡 率 gガの 中で, 観 察 され た 死 l=率 に基 づ く gxの10歳 く らい まで のパ タ ー ンに最 も近 い生 命 表 が選 ばれ, 推 計 に使 用 され る。 出生 に関 して は, 女 子 の年 齢 別 出生 率 が推 計 に使 用 され るが, 低 開発 国で は年 齢 別 出生 率 は 非 常 に 不 正 確 で あ るの で, 総 再 生 産 率
grossreproduction rate(GRR)が推 定 され れ ば, そ れ を 出生 性 比 に よ って合 計 特 殊 出生 率 totalfertilityrate(TFR)の形 に直 し,2)そ 2)合計特殊出生率 (totalfertilityrate,TFRと略 す)および総再生産率(grossreproductionrate, GRRと略す) は有力な出生力の総合指標であ る。 出生数 を人 口で 割 った 粗出生率 (crude birthrate,CBRと略す)が人 口の年齢構成の差 異を反映 し,国際的あるいは地域的に厳密な比 較を しば しば困難にす ることがあるのに反 し, TFRおよびGRRは年齢構成 の 影響を受けな い,より "純粋な''指標 ということができる。 女子の再生産年齢を15-49歳 とし,年齢別特殊 出生率をfF(x),TFRをrtとおけば, 49
r
t
- ∑ fF(x) ∬=15 であり,その値は,ひとりの女子がその歳にお ける各年齢出生率で子供を生みなが ら,一生涯 を通過する問に合計何人の子供を生むか,を示 す。 また人 口の再生産を考えるとき,ひとりの女子 が同 じように一生涯で何人の女の子を生むかと いう置換率をみることが重要であるが,これが 総再生産率 と呼ばれる指標であって,女子の年 齢別女児特殊出生率 を FfF(x)とし,GRRを rgとすると, 49 rg- ∑ FfF(∬=15 x) である.実際には,上記のTFRに出生時の性 比をあてはめて計算す ることが多い。 多 くの低開発国においては,TFR,GRR算出の 基礎 となる年齢別特殊出生率が正確に得 られな いことがある。その場合,過去の出生率がほと んど変化 していないときには,現在の年齢構造 が 安定人 口か 準安定人 口の形 をとっていると し,モデル安定人 口表か ら年齢構成の指標 と最 近の人 口増加率 をもとに し,TFR,GRRを求 めることができる。また,形式人 口学の手法に より,人 口調査 (標本調査 も含む)で得 られる 女子ひとりあた り平均既往出生児数を用い,同 様にTFR,GRRを割 り出す ことができる。 く わ しくは,UnitedNations[19671を参照。東南 ア ジア研 究 19巻1号 れを, あ らか じめ用意 されて い るモデル年齢 別 出生率比 によ って分解 し,推計 に使用 して い る。 東南 ア ジアで は, シ ンガポール とタイ は世界 出産力調査 な どの出産力調査 による年 齢別 出生率の結果 を参照 して い るが, その他 は国連 の モ デ ル 年齢別 出生率比を用 い て い る。 国連 モデル年齢別 出生率比 は, 国連人 口部 が1973年度推計 の際 に集 め,そ して十分信頼 で きると認定 された,世 界 のあ らゆ る国の年 齢別 出生率 の スケ ジュールか ら組 み立 てたモ デル比率 で, それ はGRRの水準 によ って変 化す る出生率年齢パ ター ンの分布 を示 した も ので あ る。 しか も, その際全世界均一 のモデ ルで はな く,世界 を10個 の地理的 ・文 化的地 域 に分 けた もので あ る。10個 の地 域 は北西 ヨ ー ロ ッパ型, 西 ヨー ロ ッパ型,南 ヨー ロ ッパ 壁,北米型, ソ連型, 日本 型, ア ジア型, サ ハ ラ以南 のア フ リカ型, ア ラブ型, お よび ラ テ ン ・アメ リカ型 とな って い る。 1968年以前 は全世界1本 の単一 モデルが使 用 されたが, 出生率 の年齢パ ター ンがそれぞ れ地理的 ・文化 的地域 によ って異 な るとい う 経験 によ り,1973年以 降 は この よ うな10個 の 地 域 モデ ルを使用 して い る。1978年度推計 に おいて は新 しいデ ータに基づ き多少 の改良 が 行 われ,と くに先進 国ブル -プに対 し,GRR が1以下 の出生水準 にお けるモデル比率 も用 意 されて い る。 出生 の推計過程 では, ほか に 出生時 の性比 が一つ の与え られた係数 とな っ て い る。 国際人 口移動の仮定 に転ず ると, 出生 ・死 亡 と同 じ く年齢別デ ータの不完全性 のため, 純移動者総数 が推定 された あ とは, あ らか じ め設定 されて い る男女年齢別 モデ ル純移動人 口比率 によ って男女 ・年齢別 に分解 して,推 計 に組 み入 れ るケ ースが ほ とん どで あ る。 この機会 に,国連人 口推計 の作業 にお いて, 人 口の将来推計 自身の重要性 はい うまで もな いが,推計 の基礎デ ータの評価 お よび補正 も きわめて重要 で あ ることを強調 した い。 国連 人 口推計 のプ ロセ スにおいて,将来人 口推計 に費や され る作業量 はせ いぜ い15-20%くら いな もので,圧倒的大部分 の作業 は低開発 国 の不完全 な男女年齢別人 口の補正, そ して 出 生率 ・死亡率 の水準 お よびバ ク- ンの補正 と 推定 に関 してであ る。 ⅠⅠ 人 口推 計を支 える人 口理論 の寡少性 すで に述べた よ うに, ご く短期 間 の人 口延 長 extrapolationを除 いた人 口推計 を行 う に あた って,基礎的 な人 口理論が必要 で あ る。
世界 的 にみて先進 国moredevelopedc oun-triesと低 開発 国 lessdevelopedcountriesと で は事情 がか な り異 な るが, それぞれの人 口 推計 にお いて 将来 の出生率 (厳密 にはTFR あ るいはGRRを考 え る)あ るいは死亡率 (具 体的 には出生時 の平均余命 の水準 お よびそれ に応 じて異 な る一連 の生残率 を考 え る) が ど う変化 して い くか, またそれ らが社会経済的 条件 の変化, あ るいは人 口政策 の導入 によ っ て どの よ うに変化 して い くかを導 く理論 ・仮 説 あ るいは思考 的枠組 が必要 で あ る。死亡率 の低下 また平 均余命 の増加 につ いて は, 自己 運動的 な法則 が よ り働 き,社会経済的影響 は 直接的 には小 さい と して も, 出生率 の変化 は 婚姻 ・離 婚, 出生 の タイ ミングとい う人 口学 的要 因, そ して結婚, 出生率 に及 ぼす社会 ・ 経済 お よび心理的要 因 と多様 な要 因群 に影響 を受 け, きわめて複雑 な メカニズ ムに支配 さ れて い ると考 え られ るので, それ らの関係 を で き るだ け把握 し,場合 によ って はモデル化 す ることが必要 で あ る。 人 口推計を支 え る, あ るいは推計 にあた っ て暗黙 の うちにその仮定 の組 み立 て に資す る 理論 あ るいは仮説 は決 して数多 くない。1960 年以 降 と くに1970年代 に入 ってか ら, 出生 力 に関連す る, あ るいはそれを決定す ると考 え
河野 :人 口理論 と人 口推計 られ る社 会 経済 的要 因 あ るい は文 化 的要 因 に つ いて は, 彩 しい研究 が な されて い る。 しか し残念 な ことに は, それ らの研究 成果 が人 口 推 計 を行 うにあた って, 先 進 国 ・低 開発 国 の 別 を 問わ ず, 具体 的 に応用 されて いな いのが 実情 で あ る。 それ で は,い くつ か の例外 を除 き,ど う して これ らの多 くの 出生 力要 因 の研究 の成果 が実 際 に活 用 され て いな いので あ ろ うか。 これ に つ いて二 ,三 の コメ ン トを述 べ て お きた い。 (1)第 1に,人 口推 計 は秀 れ て数 字的 numer -icalな作業 で あ り, 必 ず貝体 的 な数字 とな っ て表現 され な けれ ば な らぬ。 と ころが, 社 会 経 済 的要 因 と人 口 と くに出生 力 との 関連 はあ ま りに も複雑 な ものが 多 いた めか,結 論 が数 量的 に出て くるよ り も, 要 因 の影響 ¢)方 向を 明 らか にす る とい った 質 的 な 含 蓄 implic a-tion と して 出て くる もの が多 い。社 会 人 口学 者 は多 くの示 唆 に富む仮説 を提 供 して い る。 例 え ば,KingsleyDavisの社会 経 済 的変 化 に 対 す る人 口学 的複 雑反 応説multipleresponse theory [Davis 1963]とRonald Freed-an の 出生 力 の社 会学 モデ ル, す なわ ち, 出生 力 の決定 にあた って人 口生物 学 的 中間変 数 とそ れ に影響 を 与 え る 社 会 的規 範 normsを強調 す るモデ ル [RonaldFreedman 1966]は, い ま もな お きわ めて示 唆 に富むが, これ らは 人 口分析 に際 して の有 力 な モデ ルで は あ って も, 人 口推計 に と って直 ちに役 立 つ とい う も ので はな い。 (2)出生 力 に及 ぼす社 会経 済 的要 因の重要 性 は誰 しも認 め ると ころで あ るが, その関係 が 必 ず し も一筋 縄 で は うま く説 明 で きな い とい うのが,大方 の人 口学 者, 社会 学 者,心 理学 者 そ して経済学 者 (です ら)の定 説 とな って い る。 経 済 的不 況 が襲 って も, 出生 率 はそ の翌 日か ら低 下 す るわ けで はな い。不況 はまず心 理学 的 な イメー ジと して, 夫婦 に は っき り認 知 され ねば な らな い し, 不 況 の苦 しさ と子供 が多 い ことか ら来 る不 利益 が実 感 的 に体得 さ れ ね ば な らな い。 また認 知 され た と して も, 夫婦 がやが て生 もうと計画 して いた第n番 目 の子 供 を生 む ことを止 めた り, 延 引す るとは 限 らな い。社 会経 済 的要 因 は, それ が長期 的 に は出生 力 を大 いに規 定 して い ると して も, 途 中 に多 くの媒介 変 数 が横 た わ って お り, そ れ 自体 の力 を明 らか にす る ことは容 易で はな い○ そ して推計 に利用 で きるよ うな単純 明快 な結 論 はなか なか 出て こな いので あ る。 (3)1957年 Leibenstein が [1957], そ して 1960年 に Beckerが [1960],出生 力 に及 ぼす 社 会経 済的 要 因 の影 響 を経 済学 の方 法 に よ っ て分析 し始 めて以 来, この領域 にお け る種 々 の研究 が行 われ, モデルが作 られ たが, 実 際 に出生率 の将来 推 計 に役 立つ結 果 を もた ら し たか とい うと, 答 は否定 的で あ る。第 1に, これ らの研 究 の結 果 は往 々に して相互 に矛盾 して い る ことが あ る し, 第2に所得 と出生 カ との関係 が正 なのか負 なのか も確 立 して いな いo 出生 力 の ミク ロ経 済理 論, 機 会 費用 op-portunitycostの考 え方 の導入 は, 複 雑 き わ ま る出生 力 の要 因論 に経 済学 の立場 か らで も ア プ ローチで き るとい う可能 性 を 明 らか に し た が,しか し経済学 のア プ ローチだ けで は,出 生 力 の行動 が人 間 の理性 的判 断 と自由な選 択 に よ って決定 され るとい う前 提 に立つ 限 り, 限界 が あ り, それ はせ いぜ い欧米 諸 国, と く に米 国, しか もその一部 の人 々に対 しての み 適 当で あ って も, 低 開発 地 域 には応用 で きな い[DeborahFreedman 1968
]
。
低 開発 国 にお け る出生 行 動 は, 家族 制度, コ ミュニテ ィー, 社 会規 範, 習俗,宗 教 な ど に よ って強 く規 定 ・拘束 され て い ると考 え る のが妥 当で あ り, これ らに対 して も っと深 い 研究 が な され な くて はい けな い と して も, そ の情況 は米 国 にお け るの と際立 って異 な るの が現実 で あ る。 (4)出生 力 と 社 会 経 済 的 要 因 との 相 関関係
東南 アジア研究 19巻1号 は, 往 々に して非常 に低 い ことが 多 い。 そ の昔 ,1950年 代 の 後半 Princeton大 学 で, Princeton Studyとい う米 国の都市地域 にお け る出生 力 と社会 ・心理 的研究 の分析 を して い るとき, 出て くる結果 が芳 し くな く,相 関 が ±0.2になれば喝采 が起 こり, 士0.3にな るとカ クテル ・パ ーテ ィーを して祝賀 した と い う話 が残 って い るが,IndianapolisStudy, PrincetonStudy,そ して その後 の Growthof AmericanFamilyStudyに して も,相 関が経 済社会 的要 因 との間 で良 くな いのが有 名で あ った 。 最近多 くの国で 出産力調査が行 われて い る が, きわめて aggregateな階層間 の 差別 出 生 力 とい った レベルで格 差 が明 らか とな って も, 世帯 あ るいは夫婦 の レベルで強 い関係 を 確立 した もの は少 な い。 過去 において, 出生 力 の指標 と社会経 済的 要 因 との関連 を, 国別 あ るい は国内の構成地 域 を統計単位 と して,重相 関 あ るい は偏相 関 分析 によ って研究 した もの は非常 に多 い (例 え ば Boyerand Richard l1975]
,
Ekanem l1972],Heer[1966],河 辺 [1976],Kleinman [1973])。 その多 くは 非常 に 興 味深 い 結果 を 明 らか に して い るが, その中 にはお互 いに矛 盾 し合 う結果 を もた らして い るもの も多 い。 低開発 国で は,女子 の教育程度 の指標だ けが 常 に出生 力 の 水準 と 逆相 関 を 示 して い るの が 注 目され るのみで あ る [United Nations 1979a]。 (5)次 に,多 くの人 口理論 モデ ル ・人 口の調 査研究 の結果 が あま り推計 に役立 た ない もう 一つ の理 由 と して, もし社会経 済要 因が 出生 力 の水準 お よび変化 を十分説 明で き得 ると仮 定 して も, 説明変数 た る社会経 済的指標 自体 を将来予測す ることの方 が出生 力水 準 を予 測 す ることよ りも一般 に難 しいとい う, 技術上 の問題が あ る。 例 えば,所得 が 出生 力 と密接 な関連 を持 って い る ことが確立 され た と して 10 も, 所得 は出生 力 よ り ももっと烈 しく変 化す る変数で, そ の将来 の予報性 は出生率 のそれ よ りもは るか に低 い とい うことが いえ よ う。 低開発 国のみな らず, 先 進 国 において も,階 層別 ・就業部 門別 に正 し く所得デ ータを得 る 難 しさ,それを将来 に推計す ることの難 しさ, そ こか ら出生 力 の水 準 に結 びつ け る難 しさを 考 えて, は じめか ら過去 の 出生率 の傾 向に何 らか の曲線 を あて はめて行 うことの方 が はる か に成功 しそ うで あ る。 (6)次 に, これ は次章 で も論ぜ られて い る こ とだ が, いままで の人 口理 論,仮説, あ るい は諸種 の 出産力調査 の結果 を僻轍 して いえ る ことは, あ る低 開発 国で将来 出生率 が低下 す るとい う方 向が判 って も,それ な ら一体 いつ, い まか ら何年後 に下 が り始 め るか とい うタイ ミングが きわ めて不確かで あ る点 で あ ろ う。 これ はあ とで もう少 し触 れ るよ うに,
「人 口転 換学説」demographictransitiontheory お よ びその修正版 の諸説 で も具体的 にされて いな い し, で きそ うに もない とい うことで あ る。 Brassは, したが って, 社会経済的要 因が出 生 力 に及 ぼす重要 な影響, と くにそれが 出生 力 の変化を起 こす素地 を形作 ることを十分認 識 しな が ら も, 現 在 の 段 階で は人 口推計 に 社会経 済的要 因を導入 す る ことを奨励 しな い lBrass 1979].
(7)最後 に, しか し恐 ら くは一番衝撃 的 な こ とは,社 会経済的変数 の中核 ,と くに都市 化, 工業 化,所得 の上昇 とい う "近代化''を代表 す る開発指数 と出生 力 との間 の関係 において, 出生 力 に影響を与 え るよ うな持続的 関係 は, は じめか らほ とん どないので はないか とい う 考 え方,以上 の よ うな近代 化の変数 よ りも, 新 しい家族計画 のア イデ アが外 国か らや って 来 て, マ ス コ ミによ って伝播 され るとい うプ ロセ スの方 が影響力 と して は強 いので はな い か とい う考 え方,政府 が強 い指導 力を もって 家族計画 の普及, 中絶 の容認 とい う政策 を と河野 :人 口理論 と人 口推計 り,十 分 な予算 を計上 し,能率 の良 い下部組 織 に よ って プ ログ ラムを推進 させ る行 動 の方 が, 開発 的努 力, す なわ ち都市 化,工業化, 生 活水準 の向上 よ りも有効 で はな いか とい う 考 え方 が, 最近 台頭 して きた ことで あ る。 こ れ につ いて,第 Ⅳ章 で,将来 出生 力推計 に関 連 す る限 りにお いて,紹 介 して みた い。
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人 口転換理論 と人 口推 計 東南 ア ジアを含 んだ低 開発 国の人 [コ推計 を 行 うにあた って, もっと も基本 的 な人 口理 論 は 「人 口転換理 論」で あ り, また それ と関連 した 出生 力低下 の 「閉域 仮説」thresllOl dhy-pothesisで あ ろ う。実 際 国連 の行 な って い る 世界 の低 開発 国 に対す る推計 は, 多か れ少 な かれ人 口転換理 論が下敷 きとな って い る。 人 口転換理論 と い って も, そ れ は 安定 人 口理 論 の よ う に 自己完結 的 で, 人 亡]数学 的 に演鐸 され た理 論で はな い。Landry[1934; 1949],
Thompson [1929; 1946]
,
別acker [1947],Notestein[1945]に よ って提 唱 され, それ ぞれ少 しずつ ニ ュア ンスの異 な る学説 の 集合体 を指す もので,近世 か ら現代 にか けて, 多産 多死 か ら多産少死 を 経 て 少 産少死 に 至 る, 欧米 の人 口の歴史 を要 約 した帰納 モデ ル で あ り, 一種 の発 展段 階説 で あ るO と くにそ れ は, 欧州 にお け る死亡率 と出生 率 の それ ぞ れ異 な る低 下 の過程 と両者 の前 後 関係, 過渡 期 にお け る人 口増加 の必 然性 を一般化 した も ので あ ったが,1950年代 にな って それが拡大 解釈 され, 欧州 の これ らの経験 が欧米 諸 国以 外 で も繰 り返 され る可能性 を示 唆す るに至 っ た [Notestein 1953]。 人 口転換理 論 が, 覗 在 なお有 力 で あ る理 由の一つ は, 西 欧で経験 され た 死 亡率 と出生率 の 低下 が, 日本, 香 港, 台湾,韓 国, シ ンガ ポール, そ して 中米 諸 国, カ リブ海 の島 々, モ ー リシアスな どの 非 西 欧地 域 で繰 り返 され, また現在東 南 ア ジ アの タイ, マ レー シア, イ ン ドネ シアで起 こ りつつ あ るか らで あ る。 しか し, 人 口転 換理論 くらい人 口学 の中で 批判 され た学 説 は な い。 その第 1は, 一 国 の 出生率 の低下 を予測す る場合, どの よ うな 社会経済条 件が ととの った ときに, また どの よ うな社会経済変数 が どれだ け変 化 した とき に, 出生 率 の低下 とな って現 われ るか の臨界 点 を明確 に 設定 で きな い 点 で あ ろ う[Coale 1973]。 あ るい はBrassが現在 の人 口 と関連 す る社会経 済理 論 につ いて指摘す るよ うに, それが, いつ, そ して いか な る速度 で 出生 力 の低下 が起 こるか の予報 能 力 に欠 け る点 にあ ろ う[Brass 1979]。 人 口転換理 論 の批判 と して, さ らにい くつ か を あげ る ことがで きる。第 1に人 口転 換が 起 きる以前 の欧州 で は, 一般 に思 わ れ て い る以 上 に国別 の社 会経済 的条 件 が異 な って い た。 また国の 内部 で も非常 な差異 が み られ た。 それ に もかか わ らず, 出生率 が鐘 を接 し て次 か ら次 - と低下 した ことは, 出生率 の低 下 が近代 化 の条 件 ・過程 と必 ず しも調和 して いな い ことを示す。第2に, フ ラ ンスの よ う に出生率 の低下 が死 亡率 の低下 に先 立 って い る国が あ った[Coale 1973]こと, ドイツで は死 亡率 の低下 が 出生 率 の低下 と同時 に始 ま った [Knode1 1974]ことが注 目され, 死 亡 率 の低下 が必 ず しも出生 率 の低下 の前提 とな らな い ことを示 して い るO 次 に, この転換理論 の 中で 明 らか に欠 けて い る 部分 は, 少 産少死 の 均衡 に 移 った 以 後 の情 況 を明確 に示 して いな い ことで あ ろ う。 1930年代 と1940年代 の西 欧諸 国で は, 総再生 産率 が人 口の置換水 準 あ るい はそれ以下 に低 下 したが,1940年代 の後半 と1950年代 にベ ビ ーブームに よ って1以上 に上昇 し,そ して1960 年代後半 か ら1970年代前半 にか けて, 今度 は 一斉 に急速 に低下 し始 めた。現在 GRRが ほ とん どの西 欧 と北米諸 国で1を, しか も相 当 下 回 って い る。 出生 率 が人 口の置換水準 にま 11東南 ア ジア研究 19巻 1号 で低下 した あ とど うな るか を人 口転換理 論 は 触 れて いないので, これ ら趨低 出生率 の地域 で,将来,人 口置換水準 まで 出生 率 が 灰復す るのか, あ るいはさ らにいまの まま低下 し続 け るのか, そ して あ るいは置換水準 の回 りを 将 来振動 しなが ら経過す るのか, とい う低 出 生率 国の人 口推計 に関 し最 も重要 な問題 に対 して,答 を用意 して いない ことで あ る。 国連 の1963年度 の推計 において は, それ ま で に純再生産率 が1を割 った国で長 くその低 水準 を維 持 した 国 は一つ もなか った とい う経 験 か ら,低 出生 がやがで 灰復 す るとい う仮定
を立 てて推計 を行 な ったが [UnitedNations 1966],今 回の西 欧諸 国 の情況 の もとで 出生率 が前 の よ うに恢復す るか ど うか は, か な り疑 問視 されて い る。 閉域仮説 は 系譜的 に は 人 口転換理論 に 属 し, それ は国連人 口部 が社会経済的条 件 と出 生率低下 との関連を多変量解 析 によ って 明 ら か に し, それ に よ って, 低 開発 国の どの よ うな社会経済的条 件 が どの くらいに成熟 した ときに出生率 の低下 が起 こ り得 るか とい う, 社会経済的条件 の 閉域 あ るい は 臨界 領域 を 見 出そ うとす る研究 に基 づ いて い る 「United Nations 1965b]。 この仮説 によれ ば, 出生 率 の高 い低 開発 国にお いて,社会経済的条 件 の向上 は,最初 あ る臨界点 に達す るまで は出 生率 の低下 を もた らさないが, それ が一旦達 せ られ ると,その後 は急速 に低下 し始 め,低 出 生率 の水準 に落 ち着 くまで低下 が続 く。 国連 は12個 の社会経済 指標 を考 え, それぞれの指 標 につ いて 出生 力低下 のための閉域 を設定 し て い る。1950年代 の12の指標 とは,(1)ひ と り あた りの平均 所得 (2)エネル ギ ー消 費量 (3) 都 市 化 (4)労働力の非農業率 (5)ひ と りあた りの病院 ベ ッ ド数 (6)平 均寿命 (7)乳児死 亡 率 (8)早婚度 (9)女子 の識字率 (10)新聞の普 及度
(
l
l)ラジオの受信率(
1
功映画 ・観劇率 で あ る。 明 らか に人 口転換理論 に欠落 して いた 12 出生 力低下 の開始 の条件 を解 明 しよ うとい う 意図を持 って いた。 しか しなが ら, その研究 の結果 は, 国連 自 体 も認 めて い るよ うに, 出生率 の低下 に対す る社会経済 的条 件 の閉域 を首尾 よ く明 らか に した とはいえない。 どの指標 の閉域 に もか な りの幅が あ り, と くにエネル ギ ー消費量,都 市 化,非農業率,乳児死 亡率 に関 して閉域 と い うにはあま りに も幅が あ りす ぎ, 推計 とい うnumericalな作業 に直接利用 で きない。ま た一つ だ けの指標 が開城 に達 しただ けで 出生 率 の低下 が起 こるのか, どの よ うな指 標の組 み合 わせ が有効 なのか, とい うことを明 らか に して いな い。 出生 力 に影響 を与 え る変数 の 中に人 口政策変数が入 って いな い し, また こ の よ うな比較的単純 なマ クロ ・モデルで, 国 を単位 とす る多変量解析 の手法 で は, 推計 に 使 え るよ うな良 い結果 を得 る ことは難 しい。 最近 の Mauldin と Berelson の 低 開 発 国にお け る出生 力低下 の 条件 に 関 す る研究 lMauldinandBerelson 1978]は,彼 ら白身 の 目的 がそ うで な くて も, 一種 の閉域学説で あ る。 Mauldin-Berelsonの研究 に よれば, 社会経済 ス コアが高 く, しか も国あ るいは民 間 団体 によ る家族計画 プ ログ ラムの進展度 の 高 い国 は, 出生率 の低下 が過去 に非常 に大 き く,反対 に社会経済 ス コアが低 くかつ家族計 画 の進展度 が 0の ところ は,低下が非常 に小 さいか 0で あ る。両方 の ス コアが中間 くらい の と ころは,低下 も中間程度で終 って い る。 Mauldin-Berelsonの 研究 は,低 開発 国にお ける出生 力の低下 の社会経 済的条 件 の成熟 と 同時 に強 力な家族計画 のプ ログ ラムの開発 が きわめて有効 で あ る (む しろ必須条件 で あ る くらい に) ことを示 して い る。Ⅰ
Ⅴ
人 口転換理論 に関連す る最近の 人 口理論 の方 向 1975年以 降, 一方 で はJohnCaldwellが,河 野 :人 口理 論 と人 口推 計
他 方 John X_nodelが, 人 口 転 換理 論 に 対 す る修正 的見解 を発 表 した [Caldwell1976; 1978;Knode1 1977;Knodeland van de W alle 1979]。 これ らふ た りの気 鋭 の人 口学 者 の見解 は, か な り斬 新 な もので あ り, 簡 単 に紹 介す るに値す る もの と考 え られ る。 それ ぞれ 違 った学 派 に属 す る Caldwellと Knodelの考 え方 に共 通 す る論点 は,第 1に, 欧州 の歴 史 を みて も, また ア ジア の 出生 率 の 低 下 の メカニ ズ ムを みて も,都 市 化,工 業 化, 所 得 の上 昇 とい った近 代 化 の条 件 が成 熟 して きた結 果 , それ に対 応 して 内生 的 に出生 力が 低 下 す るの で はな く, 自分 の子 供 の数 を コ ン トロールす るの が (神 を恐 れ な い所業 で はな く)正 当で あ るとい う考 え方 ,そ して それ が避 妊 の手 段 に よ って達 成 し得 るとい う考 え方 , そ して次 に避 妊 の手 段 自身 の情 報 の伝播, 普 及 に よ って 出生 力が低下 して い くとい う考 え 方 で あ り, 第2は出生 率 の低 下 にあた って, す で に述 べ た 開発 変 数 と呼 ばれ る都 市 化 ,工 業 化, 所得 の上 昇 とい った条 件 よ り も, 家 族 計 画 の考 え方 を受 け入 れ る文 化 ・宗 教 的土 壌 お よび マス コ ミの ネ ッ ト・ワー クの存在 の方 が重要 で あ る とい う結 論 で あ り, そ して第3 に教 育 の普及 が 出生 力 の低下 に大 きな役 割 を 果 たす とい う見 方 で あ る。 以 上 につ いて の考 え方 は, しか し何 も ふ た りだ けの考 え方 で は な く,Coaleお よ び Ronald Freedman に よ って も現在 支持 され て い る考 え 方 で あ る [Coale 1973;Ronald Freedman 1979]。 Caldwellは, 古典 的 な 人 口転 換 理 論 の, 前 転 換 時代 に は 目的合 理 性 が支 配せ ず, 転 換 期 に入 って近 代 化 の条 件 が ととの った とき は じめて醸 成 され るとい う合 理 性 の二 元論 を廃 し,目的合 理性 はいか な る段 階 にお いて も,低 開発 国 ・先 進 国を 問わず,存 在 す る とい う考 えの もとに, 利 益 (富 )の世 代 間 の流 れinter
-generational月ow ofwealth とい う概 念 を導
入 す る。伝 統 的 な社 会 にお いて, 子 か ら親 に 向か って利 益 の流 れ が動 いて い る限 りは, た くさん の子供 を持 つ ことが, 経 済 的 に も, コ ミュニテ ィー の 内部 の 威 信 を 高 め る た め に も, また老 後 の保 障 を安全 にす る意 味 にお い て も有 利 で あ るか ら, 出生 率 は必 然 的 に高 く な るので あ り, それ とは反 対 に,人 口転 換期 の社会 で は, もはや利 益の流 れ が子 か ら親 に 流 れず, 逆 に親 か ら子 の方 向 に流 れ始 めて い るた めに, 多 くの子 供 を持 つ ことが 明 らか に 不 利 とな り, 出生 力 は必 然 的 に低 下せ ざ るを 得 ぬ とい う。 Caldwellに よれ ば,低 開発 国 にお いて この 世 代 間 の利 益 の流 れ を逆転 させ る力 は,核 家 族 的家族 形 態 が西 欧化 の影 響 の もとに, 電 気 冷 蔵庫,テ レビ,ジー ンズ と一緒 に入 って来 , それ が 模倣 され始 め る ことで あ り[Caldwell 1976],と同時 に大 規 模 な初等 教育 の普及 で あ り[Caldwel1 1980],マ ス ・メデ ィアの 形成 で あ る。 Caldwellに よれ ば,核 家 族化 は出生 率 の低下 の帰 結 で はな く, その前 提条 件 で あ る。 そ して 出生 力 の低下 は一 国 の工業 化 の帰 結 で はな く, 逆 にそれ以前 に生起 す るもので あ る とい う[Caldwell 1976:358]。
Knodelの理論 は, Caldwellほ ど大 胆 不 敵 で はな いが,先 に も述 べ たよ うに出生 力 の低 下 が工 業化 とか都 市 化 とか い う経 済発 展 の 当 然 の帰結 と して起 こるので はな く, それ とは 比 較 的独 立 の形 で生 じ, そ して む しろ家 族 計 画 の近代 的 ノ ウ- ウの普及, 子 供 の少 数精 鋭 主 義 の方 が万事 望 ま しい とい った考 え方 の伝 播 , に よ って起 こる とい う論点 の強調 に変 り な い。 ヨー ロ ッパ の 出生 力 の歴 史 的研 究 か ら帰結 され る ことは,社 会 経 済 の近 代 化 と出生 率 の 低下 が あ ま り明確 な関連 を持 た な い ことで あ り[Knode】andvandeW alle 1979],ほか の 研究 で も社 会経済 的指 標 との間 の相 関 が悪 い ことは, 両 者 がか な り独 立 的 関係 にあ るとい 13
う結 論 を 出 さざ るを得 な い こと で あ るC そ して, 家 族計 画 の考 え が伝播 して い くと き, 同 じ文 化, 民族 , 言語 の グル ープ 内部 に は,一度 認 め られ る と,それ が 受 け入 れ られ や す い素 地rece p-tivityが あ り, それ らの ライ ン に沿 って広 が って い く。 その点 東 南 ア ジアで は, 中国系 の住 民 の間 で 出生 率 が低 く, 回教 徒 の 問 で 出生 率 が高 い とい う著 名 な 事 実 , また韓 国, 台湾 の よ うな 単 一 民 族 社 会 で は出生 率 の低 下 東南 アジア研究 19巻1号 表1 アジア 8カ国の粗出生率の変化 (1960-1980) (人口 1,000につき)
出所 : UnitedNations.1979. WorldPoPuZazio花Trc71dsandPro∫・
Pect∫Zy Counり′,1950-2000:Summaり′Reportof thel978 A∫∫C∫smcnt.ST/ESA/SER.R/33.NewYork.
が速 く,イ ン ドの よ うな 巨大 かつ 言 語,宗 教, 階 層 的 に複雑 な社 会 で はそれ が緩 慢 で あ る こ
と も納 得 され る。
Knodelに よ って 強 調 され Caldwellで は それ ほ どで な い点 は, 家 族 計 画 の政策 的普 及 の努 力 が低 開発 国 の 出生 率 の低下 の た め に き わ めて 重 要 で あ る ことの再 確認 で あ り, 1974 年 ブ カ レス ト会 議 以 後 の 世 界 的 風潮 で あ る 「開発 は最 良 の ピル で あ る」とい った考 え に は Knodelは消 極 的で, 能率 よ く組 織 され た家 族 計 画 運 動 を大 い に推進 す べ き と して い る。 以 上 の ふ た りの学 説 に対 して種 々の批 判 も 当然考 え られ る。 例 え ば Caldwellの い うよ うな, 核 家 族 化が 出生 率 の低下 の条 件 で あ る との見 解 に対 す る疑 問が 当然 起 こ り得 る し, また Knodelの い うよ うなア イデ ア の伝播 説 は正 しい と して も, そ して文 化 ・宗 教 な ど に よ って伝 播 の受 け入 れ体 制 に大 きな差 が あ る と して も, それ だ けで は ち ょっと物 足 りな い 感 じがす るが,今 回 は紙 面 の都 合 上 さて お き, 人 口推 計 - の理 論 的貢 献 とい う立 場 か ら, 彼 らの学 説 か らどの よ うなimplicationsが 引 き 出せ るか とい う点 を考 えて み よ う。
(1)Caldwe11とKnodelが い うよ うに, 低 開発 地 域 にお いて, 社 会 経 済 的要 因が, 教 育 とマ ス コ ミの発 達 を除 いて, 出生 力 の レベ ル
1
4
お よび その低 下 とあ ま り関係 が な い ことは, 最 近 の東 ア ジアお よび東 南 ア ジア にお け る明 確 な 出生 率 の低 下 に よ って傍証 され る。表 1 は国連 1978年 度 推 計 に よ るア ジア 8カ国, う ち東 南 ア ジア 5カ 国, 1960-1965年 か ら 1975 -1980年 の期 間 に か けて の 5年 間平 均 粗 出生 率 (対人 口1,000)の動 向で あ り,場 合 に よ っ て 国連人 口部 が登 録 出生 率 の届 け 出漏 れ を補 正 した り, また 中 国の よ うにデ ー タが欠如 し て い る と ころで は 新 し く推 定 した 結 果 で あ る。表 1か ら直 ち に明 らか で あ る こと は,東 南 ア ジア5カ国 お よび 中 国, 韓 国, イ ン ドに お いて程度 の差 はあ るが, いず れ も相 当程 度 の 出生 率 の低 下 が み られ る ことで あ るC と く に いま まで は, 出生 率 の低下 が あ ま りな い と み られ て いた イ ン ドネ シア, フ ィ リピ ン, そ して イ ン ドで, 粗 出生 率 が この よ うに低 下 し た こ とは, 他 方 これ らの 国 で最 近 と くに工 業 化 の進 展, 所 得 の上 昇, 生 活 水 準 の 向上 が顕 著 にみ られ た わ けで はな いので, 出生率 の低 下 が経 済社会 の主 要 指 標 とは ぼ無 関係 に進 行 して い る ことを示 して い るといえ よ う。 これ らの低 下 の相 当部 分, 香 ,大 部 分 は国 お よび 民 間 団 体 の過去 10- 20年 にわ た る家 族 計画 普 及 運 動 の成果 で あ るといえ よ う。 (2)した が って, 出生 率 の将 来 推 計 にあた っ河野 :人口理論と人口推計 て は, ことさ らに複 雑 な多変 量 解 析 の方 法 を 使 い, 出生 力 と社 会 経 済 的変 数 の 関係 を設 定 し推 計 して もメ リッ トはな く,一 国の家 族 計 画 の普及 情 況, 将 来 の見 通 しを考 慮 に入 れ な が ら, 延 長推 計 を す る方 が簡 単 で 問題 が少 な い と考 え られ る。 この場 合 , 家 族 計 画 の普 及 程 度 か ら直 接 GRRとか TFRの形 で 推定 す る こ とはで きな いの で, 国連 人 口部 が 開発 し た 出生 力 の マ イ ク ロ ・シ ミュ レー シ ョン ・モ デ ル [Inoue 1978;河 野 1979], あ るい は 米 国 Population Councilが開発 した TAIi RAp-CONVERSEモデ ル [Nortmanei
a
Z
.
1978]に よ って既 存 の人 口生物 学 的条 件 を満 足 す るよ う計 算 す る ことが で き る。8) (3)現 在 の東 南 ア ジアの諸 国 に対 す る国連 出 生 力 推 計 モデ ル の 中 の一 つ の考 え方 は, 出生 率 の低 下 が死 亡率 の低 下 と密 接 に関連 し, 一 方 で死 亡 率 が 急速 に低下 し, したが って人 口 増 加 率 が2.5-3.0%に増加 した時期 に 出生 率 の低 下 が始 ま る とい う仮定 で あ る。 低 開発 国 にお け る死 亡 率 の低下 は公 衆 衛生 プ ログ ラム と文 化 的 要 因 に よ る と ころが大 き く, 社 会 経 済 の要 因 か らか な り独 立 した 自己運 動 的性 格 が あ るの で, 死 亡 率 の低下 白体 一 つ の 説 明変 数 た り得 る。 社 会 経 済 的要 因 と出生 力 の低 下 が少 な くと もマ ク ロ的 に みて あ ま り関係 が な いな らば, ア ジア にお け る出生 力 の低 下 の 開 始 は, 死 亡率 の低 下 と家 族 計 画 の実 施 程 度 の 二つ の側 面 か らア プ ローチす るの が現 在 の と ころ有 力 な手 段 で あ ろ う。 そ う して み る と, Brassの い うよ うに, 現 在 の段 階 で は社 会 経 済 変 数 を考 慮 に入 れ な い方 が良 い とい う結 論 [Brass 1979]が , 結 局 正 しい と い う こと か も しれ な い。 Ⅴ 国連推 計 にお け る出生 率 低 下 の モ デル 国連 の東 南 ア ジア に対 す る出生 率 推 計 モデ ル に よれ ば, 西暦2050年 まで に ほ ほ とん どの 国 が GR.Rlにな るよ う低 下 す る もの と仮 定 して い る。 もち ろん,シ ンガ ポ ール の よ うに, 現 在 す で に 総再 生 産率 が 1に 近 い 国で は, 1990年 まで にそれ を達成 す るで あ ろ う。 しか し反 面, 東 チ モ ール とか ビル マの よ うに現 在 出生 率 が高 く, 家 族 計画 の普 及 が低 く, 格 別 の人 口政 策 を と って いな い と ころで は,21世 紀 にな って もまだ GRR 2前 後 の高 い 出生 率 が焼 くで あ ろ う。 国連 の 出生 率 低 下 の推 計 方 法 と して , まず 3)国連人 口部の開発 したマイクロ ・シミュレーシ ョン ・モデルは,以下14の人 口学 ・人 口生物学 的変数 を 考慮に入 れた 出生力推計 モデルであ る。すなわち,(1)平均初婚年齢 (2)50歳におけ る未婚女子人 口比率 (3)20, 35, 50歳における 死離別女子人 口比率 (4)出生時における平均余 命 (5)不妊の情況 (6)母乳投与期間 (7)希望出 生児数を明確に持つ夫婦割合 (8)平均希望出生 児数 (9)希望出生間隔 qO)家族計画実行率 (ll) 生みおさめ,あるいは生み控えのための人工妊 娠中絶0
2)再生産可能な夫婦の問の不妊手術率 83)諸避妊方法 の効果4
4)方法別避妊方法 の分 布。 このモデルの特徴の一つは確率論的 シミュ レーションであり,決定論的に出生力指標 と以 上の人口 ・生物学的要因との関係,あるいは要 因間どうしの関係を数学的に決めな くても,女 子が結婚 ・妊娠 ・出産の過程で,それは途中で 避妊 ・中絶によ り生み控えあるいは生みおさめ をす ることもあるが,全部で何人の子供を生み, 累積 して一国の出生率になるかを シミュレー ト で きる。 したが って,以上の14の指標をインプ ッ トとして投入で きれば (部分的にダ ミー変数 を代用できる),将来のCBR,TFR,GRRを推 計で きる。 くわ しくは,Inoue[1978]参照のこ と。米国 の Population Councilが開発 した TAB RAp-CONVERSEモデルは家族計画実行率な どを 投入 することにより, 一国のCBR,TFR などの出生力指標を計算できる点,類似 してい るが,異なる点は数学的関連を明確にした決定 論的マクロ ・シミュレーションであることにあ る。 このモデルは,人 口推計で一般 に用い られ るコウホー ト複合法を拡大 し,女子の年齢別 ・ 避妊方法別避妊実行率 ・継続率,年齢別中絶率, 各避妊方法の有効率などの指標をとり入れ,有 配偶率 ・死亡率の動向を加味 して,出生数推計 を行い, 家族計画 と中絶 の効果 がどれだけ一 国の出生率 (CBR,GRR)に影響 を及ぼしたか を計量するものである。 くわ しくは,Dorothy Nortmanggα/.[1978]を参属せよ。 15
東南 ア ジア研究 19巻1号 表2 東南アジアにおける総再生産率 (GRR)の推計 (5カ年平均値) 国 名 東 南 ア ジ ア 全 域 ビ ノレ マ 民 主 カ ン プ チ ア 東 チ モ
ー
ル イ ン ド ネ シ ア ラ オ ス 人 民 共 和 国 マ レー
シ ア フ ィ リ ピ ン シ ン ガ ポ ー ル ベ トナム社会主義共和国 タ イ出所 :UnitedNations.1979. World PoPuZazio71Trendsand ProsPeclsZy Com try,1 950-2000:SummaryReportofthe1978A∫∫e∫∫mcnt. ST/ESA/SER.R/33.New York.
比 較 的 最近 出生 率 が低 下 した東 欧,東 ア ジア, プ ェル トリコの経 験 を もとに して, 出生 率 低 下 の モデ ル を作 り, 逆 ロ ジステ ィ ック曲線 を あて はめた。 そ して そ れ を 中心 と して, それ よ り も低 下 の速 度 が速 い もの
2
本 , 遅 い もの 2本 , 合 計 5本 の逆 ロジステ ィ ック低下 モ デ ル を作 る。 5本 の そ れ ぞ れ の 低 下 曲線 は, GRR が 1に な るの が10年 ずつ ず れ て い る恰 好 に な って い る。す な わ ち一番 低 下 の速 度 の 遠 い もの は, 出生 率 低 下 の 開始 か ら30年 , 吹 が40年 ,50年 ,60年 お よび70年 でGRRが 1 に達 す る よ うに工 夫 され て い る。 さ らに, 実 際 に は, 出生 率 低 下 開始 の水 準 が以 上 の モデ ル よ り も高 い場合 も低 い場 合 も あ り, そ れ らに対 して も少 しず つ 変 化 を もた せ て, いず れ も出生 率 低 下 の 開始 か ら30年 か ら70年 の 間 に GRRlに な る よ うに配 置 され て い る。 あ る国 の 出生 率 が どの よ うな コース を と る か は, そ の 国 の家 族 計 画 の普 及 程 度 , 出生 力 政 策 の有 無 , 教 育 水 準 , そ して 一 般 的 な経 済 の発 展 段 階 を脱 み なが ら選 択 され る。 その選 択 は arbitrary で あ る。現 在 の と ころ,それ を 数 量 モデ ル化 し方 程式 に あて はめ て算定 す る 段 階 に はな い。 こ う して準 備 され た東 南 ア ジ ア諸 国 に対 す る1975-1985年 か ら1995-2000年 の期 間 に至 る5年 平 均 GRRが表2に示 され る。 これ は1978年 度 推 計 中位 値 で あ る。 国連人 口部 長 の IJ6on Tabah氏が1977年 の人 口推 計 専 門委 員 会 の 冒頭 で 述 べ た,
「人 口推 計 は現 在 の と ころ scienceとい うよ り も artで あ る」 と い った言 葉 が 思 い 出 され る。 人 口推 計 はい まだ未 開拓 の領域 で あ り, そ の た め に は, 出生 率 , 死 亡 率 の決 定 要 因 deter -minantsを め ぐ って 多 くの研 究 が な され な け れ ば な らな い。 その一 環 と して, よ り精 微 な 人 口理 論 の 開発 が望 まれ る。 参 考 文 献Becker,Gary.1960. An Economic Analysisof Fertility. In Demographic and Economic Change in DeyeZoPed Countries,edited by NationalBureau ofEconomicResearch,pp. 209-231. Princeton,New Jersey:Princeton University Press.
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