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口頭弁論終結後の承継人への既判力

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(1)

民事訴訟法︱︱五条一項三号は︑訴訟当事者および訴訟担当における被担当者についてその口頭弁論終結後︵既判

の承継人に対する既判力の拡張を認めている︒この制度に関しては多くの議論が積み重ねられ︑承継人 本稿は︑承継人に対する既判力の作用︵既判力の及び方︶に関して︑最近の研究成果を参照しながらその問題点を

は じ め に

ー そ の 作 用 に つ い て の 論 点 整 理

I

口 頭 弁 論 終 結 後 の 承 継 人 へ の 既 判 力

なお十分に解明されていない問題

四七

22‑1‑47 (香法 2002)

(2)

( 1 )   明治二三年︵一八九

0

年︶法の成立時から一九七

0

年代までの判例と文献を網羅して分析しているのが︑小山昇﹁口頭弁論終結後の承継人の基準に関する学説の展開について」北法三一巻三•四号一―一九頁(-九八一年)[小山昇著作集第二巻判決効の研究

0

頁以下︵一九九

0

年)]である︒なお︑この論文は著作集の方を引用する︒

右小山論文ニ︱六頁からニ︱九頁に戦後の文献リストが掲載されているので︑それを補充する意味で︑それ以降に登場した文献で

標準時後の承継人を直接論じたものを挙げると以下のようである︵教科書とそれに準じる解説書︑判例解説・批評︑主として学生向

けの演習・論点解説は省略し︑必要な限度で個別的に引用する︶︒

①上田徹一郎﹁口頭弁論終結後の承継人への判決の効力の拡張﹂﹁新・実務民事訴訟講座2﹄三三五頁(‑九八一年)[判決効の範囲一七一頁以下(-九八五年)。本稿ではこちらで引用する『②高見進「判決効の承継人に対する拡張」北法三一巻三•四号―ニニ三頁(-九八一年)、③吉村徳重「既判力の第三者への拡張」吉村徳重•井上正三編『講座民事訴訟6裁判』一三九頁(-九八四

年︶︑④上田徹一郎﹁判決効の範囲決定と実体関係の基準性﹂民商九三巻三号三一七頁︵一九八五年︶⑤兼子一ほか﹁条解民事訴訟

法﹄六五四頁以下[竹下守夫]︵丁九八六年Y⑥上田徹二郎﹁口頭弁論終結後の承継人﹂三ヶ月章ふ日山善充編﹃民事訴訟法の争点

︵新版︶﹄二八四頁(‑九八五年︶︑⑦上野泰男﹁既判力の主観的範囲に関する一考察﹂関法四一巻三号九〇七頁(‑九九一年︶⑧斎

藤秀夫ほか編﹃注解民事訴訟法第2

( 5

﹄一三四頁以下[小室直人・渡辺吉隆.斎藤秀夫]二九九ニヰ) Y⑨中野貞二郎H

な 躙

終結後の承継人﹂判夕八〇六号一七頁︵一九九三年二民事訴訟法の論点Iニ︱三頁以下︵一九九三年︶︒本稿ではこちらで引用する﹃

⑩丹野達﹁既判力の主観的範囲についての一考察﹂曹時四七巻九号二0三七頁︵一九九五年︶︑⑪上田徹一郎﹁口頭弁論終結後の承継

人﹂﹃中野貞一郎先生古稀祝賀判例民事訴訟法の理論︵下︶﹄一四一頁︵一九九五年)[当事者平等原則の展開一六四頁以下(‑九九七年)『⑫鈴木正裕•青山善充編『注釈民事訴訟法(4)裁判』三九八頁[伊藤惧]二九九七年Y⑬小室直人ほか編『基本法コ

ンメンタール新民事訴訟法1

﹂二三六頁以下[上野泰男]二九九七年

Y⑭伊藤惧﹁口頭弁論終結後の承継人﹂青山善充ふ塩蕊債編

﹃民事訴訟法の争点︵第3版︶﹄二四四頁(‑九九八年︶⑮園尾隆司編﹃注解民事訴訟法

( I I 年)。裁判例は、⑯谷口安平•井上治典編『新・判例コンメンタール民事訴訟法30」二七七頁[上野泰男](了九九四年)に整理さ ) ﹄四六六頁以下[稲薬了入](二

o ゜

れている︒以上の文献は︑執筆者・丸数字・引用頁の形で引用する︒

立法過程については︑小山・前掲注

( 1 )

論文と上野泰男﹁民事訴訟法大正改正の経過と既判力の主観的範囲﹂﹃鈴木正裕先生古

稀記念民事訴訟法の史的展開﹄六九三頁以下︵二

00

四八

(3)

判力拡張と名づける︒他方︑民訴法

一五条一項二号の訴訟担当における本人や︑

四九

一五条一項四号にいう請求目的

このような既判力拡張制度を﹁承継人型﹂既

( 2 ‑

︶筆者は︑元玉実務民事訴訟講座第三期﹄の第八巻︵日本評論社︑近刊︶に﹁口頭弁論終結後の承継人﹂というテーマで執筆する機会

を得たが︑執筆中最も疑問を抱いたのが︑既判力の作用という問題であった︒本稿では︑紙幅の制約などによって右拙稿で議論し尽

くせなかった部分も含めて改めて考え直した結果を問うことにしたい︒

﹁ 当

事 者

型 ﹂

﹁ 承

継 人

型 ﹂

第三者である承継人に対する既判力の及び方を考える場合︑上野泰男教授によって提唱された第三者に対する一一っ

の既判力拡張類型の区別の必要性ということをまず検討しておく必要がある︒

上野説によれば︑第三者である承継人に対して前訴︵第一訴訟︶判決の既判力が拡張するということは︑後訴︵第二

訴訟︶において︑前訴判決が確定した訴訟物たる権利関係の存否を承継人もまた前主当事者と同様に標準時前の事情を

主張して争うことができないということを意味するという︒上野説は︑

物の所持者のように︑当事者以外の第三者が当事者とまったく同じ立場で既判力を受けることになる場合を﹁当事者

型﹂既判力拡張と名づける︒

既判力の主観的範囲拡張の場面でこのような区別が可能であり︑

点に求めることができる︒

またそれが解釈上一定の指針となりうるというこ とは︑例えば判決効拡張の正当化原因を考える場合などにおいてまったく意識されてこなかったわけではないであろ

う︒しかし︑上野説の学説史的意義は︑既判力の及び方が一︱つの類型で異なるのではないかということを明確化した

(5 ) 

ところが︑中野貞一郎教授が指摘するように︑第三者に対する既判力拡張というものは︑

既判力拡張の区別について

22‑1 ‑49 (香法2002)

(4)

う意味にすぎないのではなかろうか︒ その既判力の及び方という点からすれば︑すべて承継人型に属するのではないかという疑問が残る︒なぜならば︑第三者に対して作用する既判力は︑前主と相手方当事者の間に下された判決の効果であるから︑一方当事者と第三者と

の間で争われる訴訟物の存否までも当然に確定するわけではないはずだからである︒すなわち︑上野説は︑﹁当事者型﹂

既判力拡張では﹁当事者とまったく同じ立場で既判力を受ける﹂とされ︑作用の仕方が﹁承継人型﹂既判力拡張とは

異なるかのように理解しているように見える︒だが︑これも﹁承継人型﹂既判力拡張と同様に︑﹁前訴判決が確定した

訴訟物たる権利関係の存否を承継人もまた前主当事者と同様に標準時前の事情を主張して争うことができない﹂とい

この点は次のように考えるべきであろう︒なるほど︑訴訟担当の場合には︑担当者は被担当者︵本人︶の権利義務を

行使し︑それが直接の判決対象となるので︑被担当者は訴訟当事者と同一の立場に立たされるように見える︒しかし︑

それは第三者の訴訟担当という法的構成に由来するのであって︑それ以外の類型とは性格が異なるのではなかろうか︒

例え

ば︑

X

Y

に対する売買代金請求訴訟で︑勝訴した

X

から標準時後に

z

が当該代金債権を譲り受けたというごく

単純な承継人類型でも︑訴訟物を構成する権利関係は同一であるから﹁当事者﹂型に類型化されてもおかしくなさそ

うだが︑訴訟法の論理では

Y

Z

間で主張される訴訟物の有無をも前訴判決が確定するわけではない︒また︑請求目的

物の所持者の場合も︑前訴判決はあくまでもその訴訟当事者間の権利義務関係を確定したにすぎず︑既判力の拡張と

いう制度があることによって︑例えば請求目的物の所持者に対する引渡請求権の有無が確定するわけではない︒そう

なると︑﹁承継人型﹂と﹁当事者型﹂との間には︑第三者と相手方との間で既判力によって遮断されない固有の抗弁の成

立可能性が絶無かどうかの違いがあるだけなのではなかろうか︒したがって︑﹁当事者とまったく同じ立場で既判力を

受ける﹂ということは︑既判力によって遮断されない固有の主張が原則として存在しないということを意味するとい

五〇

(5)

わないことにしたい︒ 題と関連付けて利用すべきであって︑ 以上の考察によれば︑ ﹁承継人型﹂既判力拡張とは︑固有の主張が原則的に観念できるタイプだということに

﹁当

事者

型﹂

なるのではないだろうか︒ うのが正しいであろう︒逆に︑

本稿ではこのような区別から演繹的に議論を行

これを既判力の作用の一般論に適用し︑そこから自動的に一定の結論を導き出

すことはかえって議論を混乱させる危険があるといえるだろう︒

また︑既判力の一般原則が第三者たる承継人との関

係で実質的に修正を受けているわけではないことがわかる︒そこで︑

( 3 )

山木戸克己﹁訴訟物たる実体法上の関係の承継﹂法セ︱︱

‑ 0

号四四頁︑四七頁︵一九五八年︶がはじめてこのことを明確にし︑小山

昇﹁口頭弁論終結後の承継人について﹂北大法学会論集︱

0

巻合併号二八頁(‑九六

0

年)[小山昇著作集第二巻判決効の研究一

六八頁︑一七七頁注

( 3

) ︺がこれに賛成した︒

( 4 ) 上野⑦九一

0

( 5 ) 中野⑨ニ︱︱︱︱頁からニニ︱︱︱頁︒なお︑坂田宏﹁判批﹂リマークス一五号一四

0

頁︑一四三頁︵一九九七年︶︒

( 6 ) 上野⑦九一六頁は︑当事者型とは︑前訴判決の既判力によって第三者と相手方当事者との間の権利関係も確定される場合だとす

る︒この理解は︑兼子一﹃新修民事訴訟法体系﹄三四四頁から三四五頁(‑九六五年︶の叙述を説明した新堂幸司﹁弁論終結後の承

継人﹂三ヶ月章ほか編﹁新版民事訴訟法演習

2﹄八七頁︑八九頁から九

0

九九一年二の理解によっている︒しかし︑兼子教授が﹁当事者間におけると同様に作用するのである﹂と述べている中に︑第三者

と相手方当事者との間の権利関係も確定されるとの趣旨が含意されているとは考えにくいのではないだろうか︒兼子説が﹁当事者と

同視される第三者﹂という表現を用いたのも既判力拡張を受ける第三者を限定するために比喩的な表現を用いただけにすぎないよ

うにも思える︵なお︑中野⑨ニニ四頁参照︶︒ ﹁承継人型﹂既判力拡張の区別というのは︑

いわゆる第三者に固有の抗弁の問

22~1 51 (香法2002)

(6)

︵ 例 2)

承継人に対する既判力の及び方を公式化するならば︑﹁前訴判決が確定した訴訟物たる権利関係の存否を承継人もま

た前主当事者と同様に標準時前の事情を主張して争うことができない﹂ということになる︒この抽象論自体にはあま

り異論はないようである︒

では︑この公式は︑具体的にはどのような意味なのか︒訴訟物となっている権利義務関係 XのYに対する売買代金請求訴訟で︑勝訴したXから標準時後に

z

が当該代金債権を譲り受けた︒

z

による第二の給付の訴えについて訴えの利益があると仮定すると︑相手方当事者である

Y

X

との訴訟で標準時

前に提出することができた自己に有利な主張︵契約の無効原因など︶を

z

に対しても提出することはできなくなる︒

ただし︑承継原因である債権譲渡の有効性を争うことや︑標準時後の弁済を主張することは前訴判決の既判力には反 しない︒承継原因は既判力の拡張を認めるかどうかの前提条件であるし︑標準時後の事由を主張することは前訴判決

の既判力と矛盾するものではなく︑第二訴訟で独自に主張することができることは当然である︒

︵例 l) XのYに対する売買代金請求訴訟で敗訴したXから標準時後に

z

が当該代金債権を譲り受けた︒

敗訴した

X

の承継人である

z

は︑売買契約の有効性をもはや主張することはできない︒

以上の二つの例によれば︑﹁前訴判決が確定した訴訟物たる権利関係の存否を承継人もまた前主当事者と同様に標準

時前の事情を主張して争うことができない﹂ということは︑﹁前主である当事者が当該訴訟物につきもはや主張できな 自体の承継があったときに当てはめて考えてみたい︒ 1

訴訟物となっている権利義務関係自体の承継

承継人に対する既判力の及び方

(7)

次に︑訴訟物となっていた権利関係を先決関係ないし基礎としてそこから派生する権利義務を引き受けた場合はど

X

の土地を占有している

Yに対して所有権に基づく建物収去土地明渡しを命ずる判決が下されたという例で︑

y

が標準時 後にZへ当該建物を譲渡︵または賃貸︶したので︑XZ

に対して所有権に基づく建物収去土地明渡しを求める訴えを起こ

XY

に対する所有権に基づく建物収去土地明渡請求に対して

Y

の賃借権の主張が認められ請求が棄却されたという例 で ︑

Nが標準時後にXから当該土地を譲り受けて改めて建物収去土地明渡しを求める訴えを起こした︒

(8 ) 

多数説と解される立場によるならば︑

X

Y

間の既判力で確定された権利関係について遮断される攻撃防御方法が︑

z

との関係についてもまた遮断されるということになる︒そこで︑例

3

では

︑ を争うことはできず︑例

4

では

︑ 人に対して既判力の拡張を行うということは︑権利義務主体および訴訟物の異別性を超越して︑第一訴訟の判決効が 第二訴訟へといわばシフトし︑前主である当事者が当該訴訟物につきもはや主張できない事情は︑承継人と相手方当 事者間で主張されている権利関係について承継人においてもまた主張できないということを意味する︒

︵ 例

4)

︵ 例 3)

うなるだろうか︒

Z

は標準時における

Y

の賃借権の存在を否認できないことになる︒すなわち︑承継

意味で理解されていることがわかる︒

い事情は︑承継人と相手方当事者間で主張されている権利関係について承継人においてもまた主張できない﹂

訴訟物となっていた権利関係を先決関係ないし基碇としてそこから派生する権利義務を引き受けた場合

とし

z

は標準時における

X

の所有権の存在

22‑1  53 (香法2002)

(8)

訴訟物となっている権利義務関係自体の承継があった場合における既判力の働き方については︑基本的な異

論は見られない︒ところが︑

それを超えた場面では︑最近になって前訴判決主文の既判力の後訴における作用を否定

(9 ) 

する説が登場していることが注目される︒この説によれば︑例

3で標準時における

X

の所有権の存在は前訴判決の理

由中の判断に止まるので︑既判力が後訴に作用することはありえないとする︒例

4

における

Y

の賃借権についても同

様に扱う︒この考え方は︑前後二つの訴訟で訴訟物が異なるがゆえに主文の既判力が働くことはありえないという認

識を前提にしているということができる︒

ちな

みに

このような考え方も二つの異なる方向に分かれる︒

しかし︑このような考え方は︑承継人に対する既判力拡張制度の意義自体を否定しかねない︒

ひと

つは

︑ 訴訟物たる権利関係の承継を超えて既判力を拡張する必要性を否定する方向である︒これは︑給付判決については執 行力拡張にこそ意味があり︑既判力は執行力の論理的前提ではないとすれば︑給付判決の既判力の範囲を広く考えな

( 1 0 )  

くともよいのではないかという考え方である︒また︑訴訟物となっている権利義務関係自体の承継以外の場面では︑

既判力ではなく争点効の承継人への拡張によって説明されるべきだという方向に進む見解もある︒

確かに︑例

3.4

では第一訴訟で主張されている訴訟物と第二訴訟のそれとは同一ではないし︑異なる訴訟物間で 既判力が作用する先決関係︑矛盾関係があるともいえない︒また︑実体法的にも第一訴訟で主張されている引渡請求

権と第二訴訟で主張されるそれとは同一のものではないことも明らかである︒したがって︑判決主文の既判力が作用

する余地はないというのは既判力の一般原則に忠実な考え方であるかのように見える︒

しかし︑だからといって第一判決の既判力が作用しないと断定するのは︑既判力拡張制度に対する誤った理解に基 づくのではないだろうか︒なぜならば︑訴訟物の同一性を観念することはできないという事態は︑前掲の例

1 .

2の

( 2

)  

( 1 )  

3検

五四

(9)

︵ 例 5)

ろう

か︒

( 3 )  

ようなごく単純な類型でも同じだからである︒例

1 .

2

X

が主張した権利関係と

z

の主張する権利関係ではたまたま

は実体法上同一であるために︑権利主体の変動によって生じる訴訟物の異別性が例

3 .

4とは異なって表面化しにく

いだけにすぎない︒ところが︑

Z

Y

間の第二訴訟で売買契約の効力を再度争えると考えるものはだれもいないのであ

る︒上述した異説を唱える論者も︑この例

1.2

では訴訟物の異別性になぜか言及しようとはしない︒

さらに︑例3において

z

に対して

X

の判決標準時点での所有権の存在について独自の攻防活動をさせる必要がない

( 1 2 )  

という判断があって︑この場面も口頭弁論終結後の承継人に取り込まれてきたのではなかろうか︒例4

も同様である︒

以上をまとめるならば︑既判力標準時後の承継人制度は︑当事者も訴訟物も異なるがゆえに必要な既判力拡張制度と

して構成されなければならないのであり︑

五五

その存在自体が既判力の一般原則の修正を意味しているのである︒

︵承

ところで︑以上の議論は︑承継人に対しても訴訟物の同一性︑先決関係︑矛盾関係の場合に既判力は作用す

るということがありうるのかという問題へと発展する︒

訴訟物たる権利関係の承継が問題とならない例

3 .

4では既判力で確定された訴訟物相互間の先決関係も認められ

ない︒それゆえに︑当事者同一の場合における既判力の作用を単純に当てはめることはできないし︑後述するように

訴訟物の同一性を擬制する説明に頼らざるを得ない︒

しかし︑訴訟物となっていた権利関係について承継があった場 合には︑実体法上の先決関係や矛盾関係を承継人との関係でも想定することができ︑実体法論理を媒介にして

人制度によって第三者に拡張する︶既判力が作用すると説明できるので︑

主張してYを相手にして所有権に基づく引渡請求の訴えを起こした︒ とくに擬制的説明は必要がないのではなか

XYに対する所有権確認の訴えが棄却されたという例で︑Nが既判力標準時後にX

から目的物の所有権を譲り受けたと

22‑1  55 (香法 2002)

(10)

( 4 )  

カの作用が認められるのではないだろうか︒ この例では訴訟物たる権利関係を引き受けた承継人である

z

は ︑

X

Y

に対して第一訴訟で主張できた事実関係を

主張して前訴判決の結論を争うことはできないと解される︒すなわち︑

z

X

からの承継取得を請求原因として主張

する

こと

は︑

X

が標準時において所有権を有していたことを前提とするので︑前訴判決の既判力に反することになる︒

ここでは︑既判力によって確定された所有権がないことが第二訴訟において先決性をもつ︒また︑この例と同じ場合

で ︑

N

Y

を相手にして所有権確認請求の訴えを起こしたという例でも同様の議論が当てはまる︒

また︑前掲の例

1.2

では厳密には訴訟物は同一ではない︒しかし︑既判力の作用という角度からみると︑訴訟物

相互の先決性という論理を媒介にして︵第三者へ拡張した︶既判力が及んでいるのではなかろうか︒従来は無意識的に

( 1 4 )  

訴訟物の同一性から既判力の作用を導いていたようにも思えるが︑実はそうではないと考えられる︒

さら

に︑

一で

なく

X

Y

に対する所有権確認の訴えが認容された後に︑

z

Y

から目的物の所有権を譲り受けたと主張して

( 1 5 )  

所有権確認の訴えを対抗的に起こしたときは実体法的な矛盾関係にあるとして既判力の作用を認めるべきである︒

以上のように︑訴訟物たる権利義務関係承継の場合は︑当事者同一の場合の先決関係︑矛盾関係とパラレルな既判

これに対して︑承継人概念が拡大解釈されている例

3.4

は論理的な説明が困難である︒

ここで困難な問題を引き起こす原因は︑二つの訴訟の訴訟物となっている権利関係が実体法的にも訴訟法的にも同

また︑標準時における

X

Y

間の権利関係の存在は︑裁判における

Z

Y

間の権利関係の存否判断に対して論

理的に先決関係に立つわけではないということに求められる︒先決性を持つのは︑

X

が標準時に当該土地の所有者で

あったということである︒したがって︑既判力の一般原則をそのまま当てはめるならば︑

z

は理由中の判断にすぎな

X

の所有権の存在を否認できるのが原則であり︑あとは争点効の拡張に頼るしかないということになりそうである︒

五六

(11)

外視して請求の趣旨が同じ

五七

︵やや苦しいように思うが︶同

しかし︑訴訟物たる権利関係の承継の場合以上に承継概念を広げる一方で︑判決主文の既判力の拡張を否定すること は承継人制度の意義を結果的に否定することになりかねない︒既判力の主観的範囲の拡張とは︑現象的に見れば︑第

一訴訟の判決効が当事者も請求も異なる第二訴訟へとシフトする形態である︒その結果︑﹁前主である当事者が当該訴

訟物につきもはや主張できない事情は︑承継人と相手方当事者間で主張されている権利関係について承継人において

上野泰男教授は︑﹁攻撃防御方法の遮断が︑承継関係が介在することによって︑相手方が︵又は相手方に対して︶向

けかえなければならない︑承継人と相手方との間の権利関係についてもまた作用する点に︑﹁承継人型﹂既判力拡張の

実際的意味がある﹂とまとめたうえで︑承継人が相手方との関係で主張する訴訟物と前訴で主張された訴訟物とでは

( 1 6 )  

同一関係にも先決関係にもないけれども︑既判力拡張という仕組みを通じてその同一性を擬制されるのだと説明した︒

この上野説では︑新たに訴訟上主張される請求権

( X

間の権利関係︶

Z

の権

利関

係︶

と同一性を擬制される結果︑その限度で既判力が及ぶのだという考え方が示されている︒これは︑同一

性を擬制される範囲内で第一訴訟の判決効が第二訴訟へとシフトするという意味であろう︒

この説を採用する場合︑同一性が擬制できる限度が問題となる︒上野説自身は明確に述べてはいないが︑前主が相 手方との関係で既判力によって遮断される主張は承継人もまた提出することができず︑遮断されない主張は承継人も 提出することがでぎなければならない︒すると︑同一性が擬制できる限度は︑第一訴訟と第二訴訟とで承継がなかっ たと仮定した場合に︑第一訴訟の既判力が第二訴訟に及ぶ限度ではないかと解される︒別な言葉でいえば当事者を度

︵あるいは重なり合う場合︶

であればよく︑例

3.4

では

問題は︑判決効のシフトをもたらす論理構成である︒ もまた主張できない﹂のだと考えるべきであろう︒

は︑前訴において主張された請求権

( X

Y

22‑1 ‑57 (香法2002)

(12)

( 7 )

上野⑦九三

0

頁の例によった︒

( 8 )

説明のための例は異なるが︑高見②︱ニニ七頁注

( 5

) ︑上野⑯二九八頁︑上野⑦九三一頁から九三二頁︒これに全面的に賛成す

るのが︑中野⑨ニニ五頁以下︒また︑竹下⑤六五七頁︒本文の説明はこれらの論述を筆者なりに整理し直したものである︒ 一訴訟の既判力が第二訴訟に及ぶ限度で肯定できる︒ たに訴訟上主張される請求権は︑前訴において主張された請求権と同一性を擬制される結果︑張された既判力が及ぶ︒同一性が擬制できる限度は︑第一訴訟と第二訴訟とで承継がなかったと仮定した場合に︑第

③  ②  ①  (

5 )  

この拡張された既判力は︑当事者同一の訴 一性を擬制できるであろう︒他方︑

X

Y

に対する所有権に基づく動産引渡請求を認容する確定判決があった場合に︑

Y

から目的動産を譲り受けて占有している

z

に対して

X

が所有権確認を求める訴えを起こしたという例では︑Nは

X

( 1 7 )  

の所有権を争えることになる︒なぜならば︑第一訴訟の判決は所有権を既判力によって確定しないから︑標準時後の

承継がないまま起こされた第二訴訟では

Y

X

の所有権の存在を争えるからである︒

このロジックが一般的に妥当性をもつかどうか︑筆者はなお検証しきれてはいない︒しかし︑今後はこの考え方を

軸にしてその限界を探ることが︑承継人概念の精密化につながるのではなかろうかと考えている︒

以上から︑既判力標準時後の承継人に対する既判力の作用は︑次のようにまとめることができる︒

標準時後の承継制度を通じて︑当事者も訴訟物も異なる後訴に対して前訴判決主文の既判力が拡張する︒

訴訟物となっていた権利義務関係自体の承継が問題となるときは︑

訟類型における実体法上の先決関係や矛盾関係の場合と同様の作用を示す︒

訴訟物となっていた権利関係を先決関係ないし基礎としてそこから派生する権利義務を引き受けた場合は︑新

その限度で第三者に拡

五八

(13)

( 9 )  

( 1 0 )

 

( 1 1 )

 

( 1 2 )

 

五九

丹野⑩二0四六頁から二00頁︑稲葉⑮四七八頁から四八四頁︒

1 0

稲葉⑮四八八頁から四八九頁︒

従来の学説は︑例3Xの所有権を

z

が争えるとするならば︑既判力を拡張する意義はほとんど失われるという危惧を前提にして 論じていた︒しかし︑丹野⑩論文は︑給付判決ではもっばらその執行力が意味を持つので︑こうした危惧自体実務的には空論である

ということを示唆するともいえるだろう︒執行力と既判力とでは両者の目的︑機能が異なる以上︑その及び方を統一的に考える必然

性は乏しく︵坂田・前掲注

( 5

)

一四三頁参照︶︑傾聴に値する考え方である︒しかしながら︑給付請求に対する原告勝訴判決以外

の場面も考察対象に取り込む以上︑従来の学説における理解が維持されるべきであろう

( 1 3 )

吉村③一四九頁は︑承継人に対する既判力拡張が︑訴訟物の同一性︑先決関係︑矛盾関係の場合に限って作用するかどうかはっき

りしないところがあったと指摘する︒

( 1 4 )

新堂幸司﹃新民事訴訟法︵第2

00

(

10 0

一年︶の先決関係の項を参照︒

( 1 5 )

竹下⑤六五九頁︒

( 1 6 )

上野⑦九三二頁注

( 4 8 )

︒これを受けて︑中野⑨ニニ五頁から︱︱︱︱六頁は︑﹁同一当事者間であっても前訴の訴訟物と後訴のそれと

の間に先決関係・矛盾関係がある場合に︑後訴の訴訟物は前訴の訴訟物と異なるにも拘らず︑既判力により後訴の訴訟物について︑

あたかも前訴の訴訟物についてと同じく主張できなくなるような攻撃防御方法は︑承継人のまたは承継人に対する請求についても︑

既判力がシフトして︑遮断される﹂と説明している︒この説明は率直にいって筆者には理解が困難であるが︑既判力拡張の場面では

訴訟物が異なるけれども既判力が及ぶのだということを示そうとしているのであろうか︒

( 1 7 )

( 4 8 )

︑上野⑯二九八頁︑中野⑨ニニ六頁からニニ七頁︒

22~1 59 (香法2002)

(14)

この問題については︑形式説と実質説という二つの考え方があるといわれている︒形式説は︑既判力標準時後に占

( 1 8 )  

有や登記を承継したという形式だけでその第三者を承継人と扱う見解である︒この見解の意味することは︑既判力あ る判断を受けた前主と相手方との間の権利関係を承継人は争うことができないが︑承継人が取得した固有の実体的な

地位は後訴で裁判上の判断を受ける資格があるということである︒これに対して実質説は︑固有の法的地位をもって を引き受けた第三者︵民二

00

条二項︶も同様である︒

その他にも︑買主が売主を相手にして不動産の引渡請求訴訟で勝訴したが︑売主が第三者に同一不動産を二重譲渡

し︑第三者が登記を備えた場合︵民一七七条︶

︵ 例 7)

︵ 例 6)

形式説と実質説

承継人に対する前訴判決の既判力の作用をめぐっては︑

方当事者に対して固有の法的地位を主張できる場合を理論的にどのように説明するのかということが︑比較的以前か

ら論じられてきた︒具体的には次のような類型が問題とされる︒

XYに対する所有権に基づく動産引渡請求訴訟で敗訴したY

から目的物を譲り受けた第三者

z

が善意取得を主張する

場合︵民一九二条︶

XYに対する虚偽表示を理由とした抹消登記請求訴訟で認容判決確定後に︑Yから善意の第三者

z

に移転登記がなされ

た場合︵民九四条二項︶

や︑占有回収の訴えの敗訴被告から訴訟係属を知らずに目的物の占有

四 承 継 人 固 有 の 抗 弁 の 扱 い 方

さらに︑前主から目的物の占有や登記を得た第三者が相手

六〇

(15)

 

相手方当事者に対抗できる第三者は当事者の地位を引き受けたとはいえず︑既判力の拡張をはじめから受けないもの とする︒実質説では︑前訴判決が確定した権利関係を第三者が争えることになり不当であること︑第三者の主観など

( 2 0 )  

の実体的事情によって既判力の範囲が左右されることは既判力の性質に反するなどの難点があるとされ︑現時点の支

2 1

)

配的見解は形式説を支持するに至っている︒

これに対して︑実質説もなお根強く主張されていることにも注意すべきである︒その代表例は︑依存関係に既判カ

( 2 2 )  

拡張の根拠を求めつつ固有の抗弁については実質説を主張する上田徹一郎教授の所説である︒上田説によれば︑固有 の抗弁は前主に依存しない第三者独自の地位であり︑前主と第三者との依存関係の有無を決するに当たっては︑前主 との依存性を示す占有や登記の承継だけではなく︑実体的な依存関係が存在しないことになる原因の有無も含めて判 断しなければならないとされる︒この立場は︑前主に依存しない第三者独自の地位がないということが第三者に対す る既判力拡張の正当化原因であるとすれば︑独自の地位の有無は既判力拡張の論理的前提になるはずだという考え方

に立っていることになる︒

しかし︑上田説とは異なり︑承継人の範囲決定基準と固有の抗弁の問題とは切り離して考えるべきではないかと思

われる︒例えば例

6

のように善意取得が主張される場合︑上田説では依存関係が切断されることで既判力が及ばない

( 2 4 )  

のだという説明がなされている︒しかし︑第三者は前主とはまったく無関係に目的物の占有を取得したのではなく︑

実体的権利という中身がない前主の外観を信頼した上で取引関係に入ったことが善意取得の要件になっている︒ 4

とし うことは︑実体法は善意取得による所有権の取得を原始取得としているが︑前主との依存性が善意取得によって消滅

( 2 5 )  

してしまうわけではないのではなかろうか︒そうであれば︑実質説は依存関係説の論理的な帰結であるという理解は

必ずしもあてはまらず︑実質説と形式説の当否という論点はなお別の角度から分析する必要があるのではなかろうか︒

22‑1 ‑61 (香法2002)

(16)

張の有無を決めるべきであり︑ ﹁実質説対形式説﹂は無用な議論か

ところで︑最近︑このように実質説と形式説とを対比して論じることは無用なのではないかという議論が行

このような議論のさきがけとなったのが本稿でしばしば紹介︑検討した上野説である︒この説は︑既に述べたよう

に︑前訴当事者とまったく同一の立場から第三者も既判力を受けるのとは異なり︑

既判力は前訴当事者間の権利関係の有無を争えなくなるにすぎないという構造であるとする︒そして︑このような構 造を論理的に詰めてゆけば︑前主と相手方当事者間の既判力で確定された権利関係は争えないが︑固有の抗弁は既判

( 2 6 )  

カ標準時後の問題として後で提出できるという形式説に至るのは当然だとする︒他方で実質説は前主である当事者と

( 2 7 )  

口頭弁論終結後の承継人概念とは適合しないとする︒この説は︑ロ第三者の地位とを同一視する発想の帰結であり︑

頭弁論終結後の承継人に対する既判力拡張という場面における実質説と形式説の対立という構図を形式説の優位とい

う形で結果的に否定するものである︒また︑上述した上田説との対比では︑既判力の及び方の問題である実質説・形

式説の問題は承継人の範囲決定基準の問題から意識的に切り離して考察されているという特徴がある︒

次に︑伊藤慎教授は︑後訴当事者︵第三者︶がどのような権利関係や法律上の地位を主張するかによって既判力拡

一般的に後訴当事者を承継人として扱うべきかどうかを論じる理由はないとして︑実

( 2 8 )  

質説と形式説を対比することに疑問を呈している︒この説によれば︑例えば例

7において

X

z

に対して起こした

Y z

間移転登記の抹消ないし直接の移転登記を求める後訴で︑

ることは既判力に反するという意味では承継人として扱われる︒

前訴判決の訴訟物に関する判断となんら矛盾しないから既判力が作用する余地はなく︵既判力が拡張されるべき対象 わ

れて

いる

( 1

)  

口頭弁論終結後の承継人に対する

Z

X

Y

間の売買契約による

X

の所有権喪失を抗弁とす

しかし︑民法九四条二項の適用を主張することは︑

r. 

(17)

のみ注目していることになる︒ まることであるとする︒この説も形式説対実質説という議論自体の無用さを説くが︑の地位が主張される場合は実質説が優位するという結論に至っている︒

J ‑

がなく︶︑したがって承継人たり得ないと論ずる︒そして同じことは第三者に固有の法的地位がある場合一般に当ては

上野説と異なり︑固有の法律上

以上二つの見解の分岐点は︑第三者固有の法的地位の主張があった場合に︑例7ーであれば

X

Y

に対

する

︵虚

偽表不を理由とした︶抹消登記請求権の存在を確定した判決の効果に対して積極的な意義を認めるかどうかという点 に求められる︒上野説では︑後訴当事者は︑前訴判決の既判力に導かれて

X

Y

間の権利移転行為が虚偽表示に基づく

ことを前提にして主張立証をしなければならなくなると考えられていると思われる︒これに対して伊藤説では︑後訴

z

が前訴判決と矛盾する主張をしない以上既判力は意味をもたないとするから︑この説では既判力の消極的作用に 承継人に対する既判力の作用は︑当事者同一の場合における訴訟物の先決関係の場面に類似するのではないかと考

えられる︒本稿三3

した

( 3

)  

では︑訴訟物たる権利関係自体の承継の場面で先決関係的に既判力が作用することを指摘 それ以外のいわゆる占有・登記承継の場合も︑第一判決を前提にして第二訴訟の審理が行われるという意味で

は︑第一判決の既判力がいわば先決的に作用していると見ることができる︒

そこで︑後訴当事者及び裁判所は前訴判 決の判断を前提にしなければならないという既判力の積極的作用が︑第三者によって固有の法的地位が主張される場 合にもなお意味を持つものと考えておきたい︒すなわち︑例

7

では

X

Y

間の権利移転行為が虚偽表示であることを前

提にして

X

Z

も後訴における主張立証を組み立てなければならないのであり︑

体的な地位の主張の成否のみが後訴の争点となるのではないだろうか︒

( 2 )  

その結果として︑第三者に固有の実 このことを︑伊藤説と類似の議論を展開する丹野達教授の所説を参照しつつ別な角度から考えてみたい︒丹野説は

22‑1  63 (香法2002)

(18)

( 2 9 )  

次のようなものである︒例7

で ︑ れたとすると︑

X

の所有権喪失を抗弁とし︑

程では既判力が問題となる余地がないとするのである︒確かに要件事実論ではそういうことになるのであろう︒しか

しこれは不自然な議論であり︑

な審理だからである︒この例では︑当事者も裁判所も紛争の実体は虚偽表示を前提としていることを認識しているは

ずである︒それにもかかわらず︑

らないのだろうか︒拡張された既判力が

Z

へと及んでゆくことで︑このような実体に合わない無意味な主張立証が許

されないことになるのではなかろうか︒言い換えれば︑善意者保護規定の適用問題に争点を早期に絞り込むために既

( 3 0 )  

判力が意味を持つのであり︑このような既判力の働き方は形式説によってのみ説明することができる︒既判力はこの

場合問題とならないとか︑既判力拡張自体無意味だというような議論は疑問といわざるをえないであろう︒

( 3 ) 以上の議論によれば︑承継人に固有の抗弁が問題となる場合には︑形式説に至るということになるのではな

( 3 1 )  

かろうか︒その意味では︑形式説の勝利によってこの論争は終結したというべきであり︑また︑この論争には大きな

しか

し︑

X

Z

に対する

Y

Z

間移転登記の抹消請求ないし直接の移転登記請求訴訟が起こさ

X

は請求原因として

X

の所有権の存在と

Z

名義の登記の存在を主張し︑

X

が再抗弁として虚偽表示を主張し︑

まさに要件事実論の弊害ではなかろうか︒なぜならば︑

すでに見たように学説上はなお実質説を維持する見解も有力であり︑

z

X

z

が再々抗弁として善意性を主張する︒以上の過

Y

間の売買契約による

z

の抗弁を許すこと自体無駄

なぜわざわざそのような実体に合わない争点形成を︵いったんは︶許さなければな

そのことは理解できないわけではな

い︒承継人の範囲について大きな対立のない中で︑承継人に対する既判力の及び方としては形式説しかありえないと

いう立場を純粋に追究してゆくならば︑既判力拡張を受ける承継人の範囲は広くとらえられてゆく一方で︑既判力拡

張の実質的根拠がますます見えにくくなるということへの疑問を実質説は投げかけているのではないかと思えるから 意味はないというべきなのかもしれない︒

六四

(19)

( 1 8 )

この考え方は山木戸・前掲注

( 3 )

)

t

四六頁から四七頁によってはじめて明確にされ︑小山・前掲注

( 3 )

判例︵最一判昭

41

.6

.2

判時四六四号︱︱五頁︑最一判昭

4 8

. 6

. 2

1 民集︱︱七巻六号七︱二頁︶は実質説であるといわれる︒しか

し︑四一年判決の判ホはあまりにも簡単であり︑それだけではどのような考え方に立つのかははっきりしない︒ただし︑この判決の

担当調査官と思われる安倍正一︱‑﹁判批﹂判タ一九九号六五頁以下︵一九六七年︶の説明とそこに掲載されている一︑二審判決の論旨

は今から見れば実質説に位置付けることはできよう︒また︑四八年判決では直接は執行文付与の当否が問題となっているので︑既判

力拡張の場面での先例と単純に見なすわけには行かない︵中野⑨ニ︱九頁参照︶︒

( 2 0 )

実質説と形式説と名づけるかは別として︑このような二つの考え方がありうるということは︑上田徹一郎﹁原始取得と既判力の主

観的範囲拡張の限界﹂関学一

0

巻︱二号五三五頁︵一九五九年︶面判決効の範囲三二頁以下]で既に論じられていた︒その後︑新堂幸

司﹁既判カ・執行力を受ける口頭弁論終結後の承継人とはいかなる範囲のものか﹂法教第一期一号︱二六頁以下(‑九六一年︶[訴

訟物と争点効︵上︶ニニ七頁以下(‑九八八年︶一が︑﹁実質承継人説﹂と﹁形式承継人説﹂と命名し︑同﹁訴訟当事者から登記を得た

者の地位(‑︱)﹂判評一五三号一〇八頁

10

九頁以下(‑九七一年)[訴訟物と争点効︵上︶二九七頁以下]が改めて形式説と実質説

と名づけて対比し︑形式説の優位性を論じたという経緯がある︒

( 2 1 )

高橋宏志﹃重点講義民事訴訟法︵新版︶﹄五八七頁︵二

00 0

年︶︑小山昇﹁民事訴訟法︵新版︶﹄ニ︱五頁(︱

1 0

0

五八頁︑小室ほか⑧一三七頁︑吉野正︱︱一郎﹃集中講義民事訴訟法︵第三版︶﹂二八六頁二九九八年︶︑日比野泰久﹁口頭弁論終結後

の承継人﹂鈴木重勝・上田徹一郎編﹃基本問題セミナー民事訴訟法﹄三三二頁︑三三七頁(‑九九八︶︑林屋礼︱‑﹃新民事訴訟法概

要﹄四五三頁︵二

00 0

年︶︑吉村徳重ほか﹃講義民事訴訟法﹄三七四頁[井上治典](二

o

o

( 2 2 )

上田④三三九頁︑上田⑥二八七頁︑上田⑪一五七頁以下︑上田﹃民事訴訟法︵第三版︶﹄四七九頁︵二

00

一年︶︒なお︑三ヶ月章

﹃民事訴訟法︵三版︶﹄︱︱一三頁からニ︱四頁(‑九九二年︶も依存関係説と実質説を結びつける立場をとる︒他方︑林屋礼ニ・河

( 1 9 )

 

めぐる議論に戻らざるを得ない︒ で

ある

この疑問に正面から応答するためには︑

結局

六五

一七五頁以下がこれに続

口頭弁論終結後の承継人に対する既判力拡張の実質的根拠を

22‑1 ‑65 (香法2002)

(20)

野正憲編﹃民事訴訟法﹂二四七頁[加波倶二

すれば実質説の構成に至りうることを示す︒

( 2 3 )

稲葉⑮四七八頁参照︒

( 2 4 )

上田・前掲注

( 1 8 )

論文︑上田①一六

0

頁︑上田④三三九頁︑上田﹃民訴法﹄四七九頁︒

( 2 5 )

この点の説明方法について︑谷口安平﹃口述民事訴訟法j三五三頁(‑九八七︶参照︒

( 2 6 )

上野⑦九ニ︱頁から九二三頁︒

( 2 7 )

上野⑦九ニ︱頁︑中野⑨ニニ︱頁︑ニニ五頁以下︒

( 2 8 )

伊藤⑫四一三頁以下︑伊藤⑭二四六頁から二四七頁︑伊藤﹃民事訴訟法︵補訂第2版︶﹄四七九頁から四八一頁︵二

00

( 2 9 )

丹野⑩二

0

四八頁から二

0

四九頁︒なお︑発表年代では丹野論文が伊藤説に先行するが︑伊藤説が丹野説に影響を受けたものなの

かどうかは判然としない︒

( 3 0 )

松本博之・上野泰男﹃民事訴訟法︵第2版︶﹄四二六頁から四二七頁[松本]︵二

o

゜二生はそのような趣旨か

o

さらにいうと︑例7

で ︑

Xは虚偽表示に代えて無権代理など第三者に対抗できる主張に差し替えることができるのかという問題は

理論上残される︒この問題について︑前提は異なるが︑高橋・前掲注

( 1 9 )

五八八頁から五八九頁参照︒

7で前訴請求が虚偽表示に基づくことは判決理由中の判断に止まるという前提に立つ見解もあると思われるが︑本稿は判

決主文の既判カレベルで解決できると理解している︒

( 3 1 )

訴訟上主張される返還請求権が債権的請求権か物権的請求権かで既判力の及び方が異なるかという有名な論争があるが︑別に検

討するつもりである︒なお︑前訴を理由づける法的観点としては債権的請求権しか考えられないという事例では︑X

Y 間の債務Z

者地位の承継について主張立証責任を負うものと考えられる︵稲葉⑮四八一頁から四八二頁参照︶︒しかしこれは既判力の及び方の

問題とは場面が異なり︑形式説の当否とは直結しないのではなかろうか︒これに対して︑二つの法的観点が競合する場合は形式説の

処理方法に従えばよいものとさしあたり考えておく︒ は︑適格承継説でも当事者適格の基礎となる実体的な法的地位に注目

六六

(21)

従来の学説

六七

前訴手続に関与する余地がなかった口頭弁論終結後の承継人に対する既判力拡張はどのような理由から正当化でき

るのであろうか︒今までの学説の流れは次のようにまとめることができるであろう︒

( 3 2 )  

まず︑適格承継説の系譜に属する学説は︑どのような第三者に対して前訴判決の結果を引き受けさせるのが妥当か という観点から既判力拡張制度を考察するものだと評価できる︒確かに︑紛争主体たる地位の発展という基準を提唱 した新堂説では︑第三者の手続保障と紛争解決の実効性のバランスを図るという観点が意識されていたが︑どちらか といえば既判力拡張による紛争解決の実効性を強調する発想のほうが強く︑前訴判決の既判力が及ぶ口頭弁論終結後

の承継人の範囲をかなり広く把握する可能性を秘めたものであったといえるだろう︒このような評価を前提にして︑

適格承継説は前訴手続過程に関与しなかった第三者に対して既判力が拡張されることの実質的な正当化要素を指摘し

たものとはいいがたいとの批判を受けることになった︒

そこで︑既判力標準時後の承継人についても何らかの手続保障の有無を考えようとする立場が出現する︒上田説に 代表されるような依存関係に注目する立場は︑前主と第三者との間にある一定の依存関係がある場合には第三者の手

( 3 5 )  

続保障が代替的に充足していると評価する︒しかし︑承継人と前主との間に依存関係があればなぜそのように評価で きるのかを論理的に説明することはかなり困難である︒この点︑当事者間の訴訟が有効な実体法上の処分に対応する ような十分な手続保障の下に展開した以上は訴訟物に関して第三者に独自の法的利益はないということから既判力拡

五口頭弁論終結後の承継人に対する既判力拡張の実質的根拠

22  1 ‑67 (香法2002)

(22)

束力を正当化するほかないであろう︒

一定

( 3 6 )  

張を正当化する考え方もある︒これは手続保障の実体に踏み込んだ説明である︒しかし︑訴訟追行を実体法上の処分

( 3 7 )  

と同一視する発想は一般的な支持を受けるには至っていない︒

このように︑既判力拡張を正当化できるだけの手続保障の実体を提示することが困難であるということから︑結局︑

第三者に対する既判力拡張の実質的な正当化要素を承継人概念の中に盛り込むことを断念する傾向が強まっているよ

( 3 8 )  

うに見える︒その結果として︑依存関係説でも︑口頭弁論終結後の承継人に対する既判力の拡張は既判力によって確

定された権利関係の安定性確保のために立法者が決断した結果だという説明と結びつく傾向にある︒

前主と相手方当事者の間に下された確定判決の内容を争えないという限度で承継人は既判力による不利益な

拘束を受ける︒このような拘束力については︑前主の訴訟追行によって形成された実体的・訴訟的な地位ないし法的

利益の第三者への移転があった場合には代替的な手続保障があったものと評価すべきであり︑また︑このような拘束

力を肯定することが関係当事者間の公平性にかない︑紛争解決の実効性が保たれるものと考えるべきであろう︒

次に手続保障の中身であるが︑後に承継があることを考慮して訴訟活動をすることを前主当事者に期待することは

できず︑前訴判決の内容上の正当性が承継人にとっても十分に担保されているということはできない︒したがって︑

承継人について訴訟当事者と同等レベルの手続保障を観念することはまず困難であり︑前主と相手方当事者の間にお

ける権利義務関係について具体的な手続保障を考えれば考えるほど迷路に迷い込むというほかない︒やはり︑

法的地位の承継があったところに最低限度の代替的な手続保障があったと擬制することで承継人にとって不利益な拘

( 1 )  

2検

六八

(23)

ただ︑承継人に対して働く遮断効の実体を見るならば︑

六九

承継人は︑判決によって確定された前訴の訴訟物の 存否を争えないだけではなく︑前訴判決の理由中の判断に反する主張に基づいて後訴での訴訟物に関する主張を基礎 づけることはできないという見方によってはかなり強い拘束を受けるのである︒このような拘束を代替的な手続保障

( 3 9 )  

の擬制によって常に正当化できるかどうかは問題ではないかと思われる︒とくに︑前主が一定の攻撃防御方法につい て自白などの処分的な訴訟行為を行っていた場合︑承継人はそれに拘束される理由はないとして︑前主の権利義務に

( 4 0 )  

関する攻撃防御方法を改めて提出して争う余地があるのかどうかという問題が生じてくるであろう︒

この問題については︑訴訟物となった権利義務自体の承継があった場合を既判力の拡張のみで説明し︑それを超え

た場面では既判力と争点効の拡張の一一本立てによって説明する考え方が解決の方向を示すようにも見える︒すなわち

争点効は主要争点として争われ判決理由で判断された事項をその対象とするので︑前訴判決の理由中の判断に反する 主張に基づいて後訴での訴訟物に関する主張を基礎づけることはできないとされる場面を絞り込むことができるので はないかとも思えるのである︒しかし︑承継人自身はその争点を争ったわけではない以上は︑争点効の拡張要件とし ても既判力拡張と同様に前主による代替的な手続保障の充足を持ち出すほかなく︑既判力と争点効の拡張の二本立て によって説明するからといってそれぞれの正当化要因が異なると解することができるとは思えない︒また︑前主が自 白など処分的な訴訟行為を行っていたからといって争点効の不利な拡張を一切否定すると︑今度はかえって相手方当

( 4 2 )  

事者との公平性を害することになるのではなかろうか︒

このように考えると︑少なくとも敗訴者側について訴訟物となった権利義務自体の承継を超える類型が問題となる 場合については︑前主と第三者との間における法的利益の移転や依存性の有無を厳格に把握する方向性はなお魅力的 である︒しかしながら︑今までの学説が承継人の範囲を拡張して考える際に想定していた主要な例は例

3

のようない

( 2 )  

22‑1‑69 (香法 2002)

(24)

( 3 2 )  

込むことができるのではないだろうか︒ わば執行妨害タイプの事例であり︑前主が敗訴していれば実体法上承継人もほぼ勝ち目がないと考えられることが︑承継人の範囲を拡張するという傾向が是認されてきた原因であったとも考えられる︒そして︑既判力拡張原因である承継の事実と第三者が独自に有する実体的な地位については主張立証の機会が保証されることによって︑承継人の第二訴訟における手続的地位が大きく損なわれることがないということも承継人を広く把握することを正当化する大きな要因であろう︒現在の既判力理論ではそれ以上の具体的な手続保障の充足を承継人について問題とするのは困難と

( 4 4 )  

いわざるを得ない︒ただ︑訴訟物となった権利義務自体の承継を超える類型が問題となる場合︑本稿三

3

④で扱った

訴訟物の同一性が擬制される範囲を厳格に解釈することによって承継人が不利益な拘束を受ける範囲はある程度絞り

承継人の範囲確定基準に関しては︑﹃実務民事訴訟講座︵第三期︶第八巻﹄掲載予定の拙稿を参照︒

適格承継説は︑﹁当該の訴訟物につき当事者たるべき適格︵実質的に︑紛争主体たる適格といってもよい︶を原告または被告から

伝来的に取得した者﹂︵中田淳一﹁既判力︵執行力︶の主観的範囲﹂中田淳一・三ヶ月章編﹃民事訴訟法演習ー﹄二

00

頁︑二

0

頁︵一九六三年︶︶を承継人とする考え方だとまとめることができる︒これは︑訴訟状態説と権利実在説を前提とし︑訴訟状態の考

慮を実体上の法律関係に反映させて既判力により実在化するに至った権利義務関係の移転ということが承継人に対する既判力拡張

の根拠だとする兼子説の発想を引き継ぐ考え方である︒この考え方は︑一九三一年に発表された大判昭和

5. 4. 24

判批で初めて表

明された︵兼子一﹃判例民事訴訟法﹄三

0

一頁(‑九五

0

年︶に所収︶︒なお兼子説の理解の仕方については︑小山・前掲注

( 1 )

二三一頁から二三二頁参照︒

( 3 3 )

新堂・前掲注

( 1 8 )

論文三三一頁以下参照︒

( 3 4 )

上田①一八六頁以下︵債権的請求権について承継が成立するとの考え方についての批判︶︑吉村③一六七頁︑上田④三三七頁以下

七〇

参照

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断するだけではなく︑遺言者の真意を探求すべきものであ

江口 文子 主な担当科目 現 職 消費者法 弁護士 現代人権論. 太田 健義

また、特 特定 定切 切盛 盛土 土を を行 行う う場 場合 合に には は、 、一 一般 般承 承継

(A-2 級) 起動・停止 屋外設置位置 スイッチ操作 MUWC 接続口外側隔離弁 1(A) 弁閉→弁開 屋外接続口位置 手動操作 MUWC 接続口外側隔離弁 2(A) 弁閉→弁開 屋外接続口位置