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いた(MOUNDand PALMER, 1981)。しかし,その後,南ア
フリカ,イスラエル,サウジアラビア,コートジボワー ル等で本種の発生が報告され,中東,アフリカ諸国にま でその分布域が広がった(EPPO, 2005)(図― 1 参照)。 さらに近年,カリブ海沿岸および南アメリカのセントビ ンセント,セントルシア,バルバドス,トリニダードト バゴ,プエルトリコ,スリナムおよびベネズエラにおい て本種の発生が確認され,ついにはアメリカ本土のフロ リダ州(ハワイ州には以前から分布)でも発生,定着が 確認されるに至っている(NIETSCHKEet al., 2008)。 II 寄 主 範 囲 本種は日本において,チャやカンキツ,ブドウ,カキ, マンゴーなどの果樹の重要害虫となっている。その寄主 範囲は村岡(1988)および大久保(1995)などによる詳 細な調査から,木本性の植物を中心に国内だけで 61 科 200 種を超えることが明らかにされた。それらの中でも, ツバキ科,バラ科,ミカン科,ブドウ科,スイカズラ科, マキ科,カキノキ科,ウルシ科等の植物を特に好むとさ れている。一方,海外では 100 種以上の植物が寄主植物 として挙げられており,野生寄主はアカシア属,ブラウ ネア属,オジギソウ属,ムユウジュ属等を含む主に木本 性のマメ科(Fabaceae)植物であると考えられている (EPPO, 2005)。海外での寄主植物の中には国内で既報 の寄主植物に含まれていないものも数多く報告されてい る。例えば,ライチ,バンレイシ,ロンガン,パッショ ンフルーツ,カカオ等の熱帯果樹植物,トウガラシ,ヒ マワリ,メロン,ニンジン,タマネギ,トウモロコシ等 の作物である(CHANG, 1995 ; CABI, 2007)。その一方で, 海外の報告の一部には類似種の S. oligochatus との誤同 定の可能性があるとの指摘もあり,誤って寄主植物とさ れているケースがあるかもしれないが(MO U N D and PALMER, 1981),本種の実際の寄主植物は 200 種を優に超 えると推測される。また,海外では重要害虫とされてい る寄主植物の中には,国内ではそれほど大きな被害が報 告されていないものもある。例えばインドではラッカセ イ,バラ,トマト等で(ANANTHAKRISHNAN, 1984),インド ネシアではダイズで(MIYAZAKIet al., 1984)本種を重要 害虫であるとする報告がある。 なお,カリブ海沿岸諸国およびアメリカに侵入し,分 は じ め に
チャノキイロアザミウマ Scirtothrips dorsalis HOODは,
世界中で 100 を超える種が記載されている Scirtothrips 属アザミウマの一種であり,主にアメリカに分布する S. citri およびアフリカに分布する S. aurantii とともに 重要な農業害虫として知られている。本種は雌成虫でも 体長が 1 mm に満たない微小な種であり,産雄単為生殖 を行う。日本では一般に yellow tea thrips という英名が 用いられるように,チャの害虫として古くから知られて いる。海外ではやはりチャの害虫であることを連想させ る Assam thrips,それぞれトウゴマ,イチゴが寄主であ ることを示す castor thrips,strawberry thrips などもあ るが,トウガラシのアザミウマという英名 chilli thrips が広く用いられている。日本ではこれまでトウガラシ類 への被害が問題となったことはなく,この英名にはいさ さか違和感があるところであった。しかし,2008 年か ら 09 年にかけて,高知県と沖縄県で本種によるピーマ ンおよびシシトウへの加害が確認されたことに関して, 相次いで病害虫発生予察特殊報が出された。このことに より,期せずして我が国においても chilli thrips という 英名が身近なものとして感じられることになった。本種 の分布域はアジア,オセアニア地域に限られるとされて いたが,近年世界各地で発生が報告されており,コスモ ポリタンな害虫としての地位を築きつつあるようであ る。そこで本稿では,最近における本種の分布拡大の様 子を紹介するとともに,寄主範囲,加害様式と被害,殺虫 剤感受性と防除法等についてこれまでに国内外で得られ ている知見,さらには本種を含む Scirtothrips 属アザミ ウマの遺伝的変異に関する研究の動向について概説する。 I 分 布 の 拡 大 本種は 1919 年にインドにおいて害虫として初めて記 載されたが,80 年代までその分布域はインドを含む南 アジアに加え,北海道を除く日本,朝鮮半島,東南アジ ア,ソロモン諸島およびオーストラリアの一部(クイー ンズランド州)等,アジア,オセアニア地域に限られて Spreading the Distribution of Scirtothrips dorsalis and Recent Trends on its Studies. By Satoshi TODA
(キーワード:チャノキイロアザミウマ,分布拡大,寄主範囲)
チャノキイロアザミウマの分布拡大と最近の研究動向
顫
と田
だ さとし聡
チャノキイロアザミウマの分布拡大と最近の研究動向 453 ―― 45 ―― いるが,国内外において各種殺虫剤に対する本種の感受 性低下が報告されている。インドではトウガラシ個体群 で合成ピレスロイド剤に対する感受性低下が報告されて いる(PRASADet al., 1994)。一方,国内でもチャ個体群 で有機リン剤,カーバメート剤,ネライストキシン剤, 合成ピレスロイド剤等多岐にわたる殺虫剤の防除効果の 低下が問題になっていたが(河合,1997),近年ブドウ 個体群においても一部の殺虫剤に対して感受性の低下が 報告されるなど(柴尾ら,2006),今後本種の防除に影 響を及ぼす問題となる可能性もある。 他の防除方法としては,物理的防除として,カンキツ で光反射シートの地面被覆による防除効果が示されてい る(土屋ら,1995)。また,天敵を利用した生物的防除 を視野に入れた研究もなされている。例えば,土着天敵 の候補として卵寄生蜂のアザミウマタマゴバチや捕食性 天敵のコウズケカブリダニなどについて調査が行われ, 野外での発生消長がチャノキイロアザミウマに同調する ことなどが明らかにされている(SHIBAOet al., 2000 ; 2004)。一方,近年本種の侵入・定着が確認されたアメ リカでは,施設栽培のトウガラシにおけるククメリスカ ブリダニおよびスワルスキーカブリダニの天敵としての 有効性が調査され,スワルスキーカブリダニが極めて高 い防除効果を示すことが示されている(ARTHURSet al.,
2009)。 布を拡大しているチャノキイロアザミウマ個体群はトウ ガ ラ シ を 加 害 し , 甚 大 な 被 害 を 及 ぼ し て い る (NIETSCHKEet al., 2008)。 III 加害様式と被害 本種は新葉,新梢,幼果などを好んで摂食し,花粉を 好み花に多く集まるハナアザミウマ類とは加害部位が異 なる。また,硬化した葉や果実は加害しない。本種の加 害を受けた葉や新梢には褐変あるいは萎縮などの症状が 現れる。また,カンキツ,ブドウ,カキ等の果実の加害 部位はコルク化し,カスリ状あるいはケロイド状の症状 を生じ,商品価値を著しく損なう。こうした被害の出方 はピーマン,トウガラシ等の果菜類でも同様である。一 方,バラを加害するとされているインドなどの個体群は 成幼虫がともにバラの花弁の間に隠れて花弁自体を摂食 するため,花の外観が損なわれ,商品価値が著しく低下 するとされている(DURAIMURUGANand JAGADISH, 2004)。
また,現在のところ国内では未報告であるが,海外に おいて本種は Groundnut bud necrosis virus(GBNV), Groundnut chlorotic fan ― spot virus(GCFSV),Groundnut yellow spot virus(GYSV)といったトスポウイルスを媒 介し,ラッカセイに病害を発生させるとされている(津 田,2006)。 IV 殺虫剤感受性と防除 本種の防除は殺虫剤による化学的防除が中心となって イスラエル コートジボ ワール サウジアラビア 南アフリカ セントビンセント セントルシア バルバドス トリニダードトバゴ ベネズエラ アメリカ (フロリダ) プエルトリコ スリナム 図 −1 チャノキイロアザミウマの分布域
MOUNDand PALMER(1981)で示された分布域をベースに,EPPO(2005),CABI(2007)および NIETSCHKEet al. (2008)で報告された国を追加.採集記録のある国・地域は塗りつぶし,近年分布拡大が確認された地域は国名
植 物 防 疫 第 63 巻 第 7 号 (2009 年) 454 ―― 46 ―― 進めていく中で,海外で主たる野生寄主とされている木 本性のマメ科植物上の個体群と農作物を加害する個体群 との関係,最近高知県および沖縄県で見つかったピーマ ンやトウガラシを加害する系統の位置付けについても明 らかになることが期待される。 また,日本では当初,チャノキイロアザミウマはチャ の害虫として認識されていたが,その後カキ,ブドウ, カンキツと加害を受ける植物が増えていったという経緯 がある。その原因として寄主選好性の異なるバイオタイ プの出現や異系統の侵入という説がかねてより取り沙汰 されてきた(例えば,村岡,1988)。今後本種の遺伝的変 異を明らかにする過程において,これらの仮説を裏付け るような何らかのヒントが見つかることも期待したい。 最後に,最近問題となっているピーマンやトウガラシ を加害する系統については,今のところその寄主範囲な ど生態的な形質については不明である。海外で報告され ているような諸形質を有しているとすれば,他の作物に 影響を及ぼす可能性も否定できない。したがって,今後 の発生動向には十分な注意が必要であることを付け加え ておきたい。 引 用 文 献
1)ANANTHAKRISHNAN, T. N.(1984): Bioecology of Thrips, Indira, Publishing House, Michigan, 233 pp.
2)ARTHURS, S. et al.(2009): Biol. Control 49 : 91 ∼ 96.
3)CABI(2007): Crop Protection Compendium(http://www.cabi. org/compendia/cpc/).
4)CHANG, N. T.(1995): Thrips Biology and Management. Plenum Press, New York, p. 105 ∼ 108.
5)DURAIMURUGAN, P. and A. JAGADISH(2004): Food Agric. Environ.
2 : 187 ∼ 189.
6)EPPO(2005): EPPO Bulletin 35 : 353 ∼ 356.
7)HODDLE, M. S. et al.(2008): Ann. Entomol. Soc. Am. 101 : 491 ∼ 500.
8)河合 章(1997): 植物防疫 51 : 587 ∼ 589. 9)MIYAZAKI, M. et al.(1984): Kontyû 52 : 482 ∼ 486.
10)MOUND, L. A. and J. M. PALMER(1981): Bull. Entomol. Res. 71 : 467 ∼ 479.
11)村岡 実(1988): 佐賀果試研報 10 : 91 ∼ 102.
12)NIETSCHKE, B. S. et al.(2008): Florida Entomol. 91 : 79 ∼ 86. 13)大久保宣雄(1995): 長崎果樹試研報 2 : 1 ∼ 15. 14)PRASAD, V. D. et al.(1994): Entomon 19 : 77 ∼ 79.
15)RUGMAN― JONES, P. F. et al.(2006): J. Econ. Entomol. 99 : 1813 ∼ 1819.
16)SHIBAO, M. et al.(2000): Entomol. Sci. 3 : 611 ∼ 613. 17)――――(2004): Appl. Entomol. Zool. 39 : 727 ∼ 730. 18)柴尾 学ら(2006): 応動昆 50 : 247 ∼ 252.
19)TODA, S. and S. KOMAZAKI(2002): Bull. Entomol. Res. 92 : 359 ∼ 363.
20)―――― and T. MURAI(2007): Appl. Entomol. Zool. 42 : 309 ∼ 316. 21)土屋雅利ら(1995): 応動昆 39 : 219 ∼ 225. 22)津田新哉(2006): 植物防疫 60 : 597 ∼ 601. V 遺 伝 子 解 析 本種の遺伝子解析に関しては,これまでに他種との識 別のための遺伝子診断法開発を目的とした研究を中心に 行われてきており(TODAand KOMAZAKI, 2002 ; RUGMAN―
JONES et al., 2006),リボゾーム DNA の ITS 領域を用い
た PCR ― RFLP 法により,同所的に存在する他種,さら には同属他種との識別が幼虫段階でも可能になってい る。一方,HODDLEet al.(2008)はミトコンドリア COI
遺伝子および 28S リボゾーム RNA ― D2 領域遺伝子の塩 基配列を基に,チャノキイロアザミウマを含む 18 種の Scirtothrips 属アザミウマの分子系統解析を行っている。 この中でチャノキイロアザミウマに関しては 6 カ国(イ ンド,タイ,台湾,オーストラリア,南アフリカおよび 日本)のトウゴマなどの草本性植物,ブドウ,カンキツ, マンゴー等の果樹,あるいは木本性のマメ科植物から採 集された計 9 個体群が用いられている。最節約法あるい は形態データと組み合わせたベイズ法で推定された系統 樹の両方において,チャノキイロアザミウマは単系統性 を示さず,二つあるいは三つの独立したグループに分か れるということが示されている。それらは分子レベルで は区別できるが,形態的には見分けることができないと されており,“チャノキイロアザミウマ種群” という表 現が用いられている。RUGMAN― JONESet al.(2006)も
ITS 領域の多型解析を行う中で,チャノキイロアザミウ マ個体群間に極めて大きな変異の存在を指摘しており, そのレベルはホストレースと見なすにはあまりに大きす ぎるとしている。ただし,寄主選好性との関係,あるい は生殖隔離の有無などについては明らかにされておら ず,現在筆者らはその解析を進めているところである。 お わ り に 近年,他のアザミウマ種において,種内変異形質の遺 伝的背景が分子系統解析により明らかにされている。筆 者らはネギアザミウマ Thrips tabaci LINDEMANが少なく
とも三つのグループに分かれ,それらは生殖型あるいは 寄主選好性の違いにより説明できることを明らかにして いる(TODAand MURAI, 2007)。最近チャノキイロアザミ
ウマで明らかになってきた遺伝的分化にも寄主選好性を はじめとする何らかの種内変異形質と関係があることも 十分予想される。今後本種の遺伝的変異に関する研究を