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海外派遣要員の帰任適応に関する一考察--異文化マネジメントの観点から 利用統計を見る

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ネジメントの観点から

著者

中村 久人

著者別名

Nakamura Hisato

雑誌名

経営論集

67

ページ

101-114

発行年

2006-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00004759/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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海外派遣要員の帰任適応に関する一考察

―異文化マネジメントの観点からー

中 村 久 人

はじめに 1 海外派遣要員の勤務サイクルと帰任適応  (1) 海外派遣要員の派遣の意味  (2) 最終プロセスとしての帰任と異文化再適応 2 海外派遣要員の帰任過程の成功に向けて  (1) 帰任過程の分析  (2) 帰任前に行う帰任後の適応に向けての準備  (3) 成功する帰任へのステップ 3 多国籍企業における帰任適応と定着策  (1) 帰任後の組織復帰に影響を与える要因  (2) 帰任後の最良適応  (3) 帰任後の最良の帰任者定着策 おわりに 参考文献

はじめに

多国籍企業における海外派遣要員についての異文化適応訓練の研究は、これまで派遣前や派遣中 における異文化訓練に関するものが中心であり、帰任前後の帰任適応研修に関する研究は誠に不十 分であったといえよう。それは海外派遣者がかつて在籍した母国企業に帰任するのだからそこには 国においても企業においても異文化などは存在しないし、時間の経過によって自然に再適応できる はずであり、たいした問題ではないと企業も派遣要員も軽く考えてきたせいではなかろうか。しか し、現実には帰任後の派遣要員の帰任適応が適切でないために彼らが海外赴任中に蓄積した現地市 場や子会社に関する知識やノーハウなどの貴重な経営資源が生かしきれないばかりか、最悪の場合 離職といった結末になる場合も多々見うけられるのである。企業にとって海外派遣者に掛けた巨額 の費用が当該企業に還元されるどころか巨額のロスとなって跳ね返るのである。 本稿執筆の目的は、グローバル企業の海外派遣要員の業績と経験を母国企業と派遣要員本人の双 方 に 対 し 貴 重 な 経 営 資 源 と し て 役 立 て る た め に も 、 ま ず 多 国 籍 企 業 の 国 際 人 的 資 源 戦 略 (IHRMS)に基づき派遣要員各人に対して最適な帰任適応ができるよう海外勤務サイクルにおけ

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る帰任適応の位置づけを明確にしたい。さらに、海外派遣要員の帰任を成功させるために、帰任過 程を分析した上で、帰任後の適応に影響する要因を明らかにし、帰任前に帰任後に控えてどのよう な対応策を講じるべきかを検討する。また、組織復帰に影響する要因を明確にした上で、いかにす れば海外派遣要員が母国企業で最良の帰任定着を図ることができるのか、またその意義について検 討する。

1 海外派遣要員の勤務サイクルと帰任適応

(1) 海外派遣要員の派遣の意味 多国籍企業にとって従業員(経営管理者、技術者、一般従業員など)を海外の子会社・関連会社 へ派遣することはどのような意味を持っているであろうか。大きく分けて2つの意味があるであろ う。それは多国籍企業としての目標や国際(多国籍)経営戦略およびそれらの下で策定される国際 経営計画に従って、個々の海外子会社の活動を運営・調整・統制するための任務の遂行である。その ためには当該企業は明確な国際経営戦略や国際経営計画を有することが前提となる。これによって 海外派遣要員の海外子会社への派遣目的と任地での業務内容が明確となる。従って、そのような海 外派遣要員の派遣目的と業務内容は、国際企業としての発展段階(輸出段階の企業、マルチドメス ティック段階の企業、多国籍段階の企業、グローバル段階の企業など)1)やヒーナン=パール ミュッターがいう EPRG プロファイルによっても、また業種や企業規模によっても個々の企業ご とに異なるものと考えられる。 もう1つは、海外勤務を通じて派遣要員を国際経営管理や国際業務に精通したグローバルに活躍 できる将来のリーダーに育成することである。海外勤務は世界で通用するリーダーの育成、つまり 技術能力、革新能力、それに情報の交換や伝達といった調整能力や管理能力を兼ね備えた国際的な 人材を育成することである。グローバルに活躍できるリーダーの育成は、すべての企業において最 優先されるべき課題である。海外勤務を通してグローバル・リーダーを育成することの重要性を認 識しない経営幹部は、CEO としての職務に相応しくないといっても過言ではない。21世紀におい て効果的に国際戦略や国際経営計画を策定し実行するためには、経営管理者は海外現地の顧客、サ プライヤー、政府といったステークホルダーや技術などの固有のニーズに対して、また同時に世界 市場の動向にも目を向ける必要がある。また、異なる文化、宗教、民族的背景を持つ人々を理解し 仕事を効果的に行う能力に加え、そのような人々で構成される企業をうまく統率するリーダーシッ プ能力が要求される。これらの能力を身につけることのできない将来の経営管理者で構成される多 国籍企業は、21世紀において生き残ることはできないであろう。 さて、多国籍企業の国際人的資源管理における海外派遣要員の海外勤務は、海外派遣要員の募

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集・選抜から始まり、国内事前研修、赴任後の適応支援、海外派遣者の帰任、国内勤務、海外派遣 要員の募集・選抜、・・・という海外勤務サイクルの中で実施される(図1)。これまでの異文化マ ネジメントの研究では、海外派遣者の選抜や国内事前研修に焦点を当てたものが多かったが、本稿 では最後のプロセスである海外派遣要員の帰任に焦点を当てて検討したい。それは海外派遣要員が 成功裏に帰任を果たせば企業にとっても本人にとっても貴重な経営資源を有効に活用することがで きるからである。その反対に帰任に失敗した場合、本人の落胆やキャリアの挫折はいうまでもなく、 企業にとっても海外派遣者に掛けた多額の費用(例えば、引越費用、渡航費用など移動にかかる費 用や海外勤務手当、住宅手当、教育手当などの諸手当)が無駄になってしまう。 図1  海外派遣要員の勤務サイクル 企業は派遣要員の派遣前研修については熱心であっても帰任については最も見過ごされている海 外勤務の側面である2)。アメリカでは帰任後1年以内に退職する管理者の割合は2割にも達すると いう報告もある。海外勤務が海外派遣要員の後継者育成や管理職育成の一環として計画されている 場合、帰任の失敗は大きな痛手となろう。また、そのような事例が増えてくると企業内の優秀な人 材が海外勤務を回避するようになり、海外派遣要員の確保や派遣が困難となる。またグローバル環 境に対して十分な理解と経験を持つ国際経営管理者が減少する恐れがある。その結果、海外経験の ない経営幹部では十分な国際(多国籍)戦略を的確に策定し、実行することができなくなってしま

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う。多国籍企業の戦略的役割を達成するためにも、海外勤務の成果が帰任後生かされるためにも、 企業は帰任者についての十分な研修と受け入れ態勢を構築すべきである。 (2) 最終プロセスとしての帰任と異文化再適応 既述のように帰任の問題は海外勤務サイクルの最終プロセスであるが、いかに効果的に帰任適応 を成功させるか、換言すれば海外派遣要員の帰任後の効果的な定着と活用についてはこれまで多く の企業において十分な配慮がなされてこなかった。海外赴任者の帰任後の配属、そして彼らの海外 で蓄積した知識や経験をいかに社内に生かすのかについてはほとんどの企業で十分な計画が策定さ れていない。多くの帰任者は帰任後の配属と職務に多大の不安を抱いているのが実情である3) 海外派遣要員の帰任を困難にする大きな要因の一つに異文化の問題がある。海外経験のない人に は母国に帰るのに異文化の問題などあるはずがないと思う人が多いであろう。しかし、ブラック (Black, J.S.)やグレガーセン(Gregersen, H.B)の帰任に関する調査では、アメリカ人派遣者の 60%、日本人の80%、フィンランド人の71%が帰任前より帰任後の異文化適応の方が困難であると 述べている(図2)。また、アドラー(Adler, N.)のアメリカ人派遣要員についての調査でも、帰国 後のカルチャーショックは海外勤務に就いたときのショックより大きいことを示唆している4) 図2  帰任後のカルチャーショック (注)海外赴任した時の適応より、帰任後の適応の方が難かしいと感じる 管理者の%を示している。 (出所)白木三秀・永井裕久・梅澤隆監訳、『海外派遣とグローバルビジネ ス』白桃書房、p.303. 悪いことに海外勤務の経験をもたない経営幹部の多い企業では、「帰国後のカルチャーショック などと寝ぼけたことを言うな。彼らは家に帰ってきただけではないか」といった反応である。帰国 者自身も帰任前は帰任後のカルチャーショックなど考えておらず十分な対策を講じて来なかった人

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が多いのである。しかし、3年から5年に及ぶ平均的な海外勤務期間を終えた場合でも、帰任者を 巡る諸環境は大きく変化するのである。例えば、社内の事情、業務事情、技術の進歩といった組織 要因、仕事要因のみならず政治体制、交通機関、社会システム、教育システム、食生活などの外的 要因も変化する。また、海外派遣要員自身も派遣先での異文化適応によって本人の意識・無意識に 関係なく大きく変化するのである。ある意味では派遣先にうまく適応すればするほど、帰任の際の 異文化適応がそれだけ困難になるという皮肉な現象も生じる。ともあれ海外派遣要員が想定してい た国内の職場や社会の環境は海外赴任時のものであり、帰国前は得てしてこの赴任時のシチュエー ションを美化する傾向がある。 異文化適応プロセスについては、文化変容カーブとしてホフステッド(Hofstede, G.)やハリス (Harris, P.R.)とモーラン(Moran, R.T.)らが、縦軸に感情の動き、横軸に時間の経過(多幸症、 カルチャーショック、文化変容、安定した状況)を採り説明しているが、これは赴任時および赴任 中の文化適応プロセスであり、帰任前後については触れていない5)。ブラックとメンデンホール (Mendenhall, M.)は派遣先の異文化に適応した後に再び自国の文化に適応するプロセスも含めて 考察対象としている(図3)6)。この再適応期のカルチャーショックの振幅をいかにしてなだらか に、そしてその期間を短縮するかが鍵となる。 図3 海外派遣要員のカルチャーショックから異文化適応へのプロセス 1:ハネムーン期(~3ヶ月) 3:適応期(10ヶ月~2年) 5:カウンター・カルチャーショック期  2:カルチャーショック期(3~9ヶ月)  4:成熟期(2年以降)  6:再適応期

 (出所)田中利佳著『日系多国籍企業における企業内教育訓練』創成社、p.109.(Black, J.S. & Mendenhall, M.E.,

Cross-cultural Training Effectiveness, Academy of Management Review, Vol.15, No. l, 1990, pp.113-119.

2 海外派遣要員の帰任過程の成功に向けて

(1) 帰任過程の分析

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の状態ではないのである。帰任前後の環境が海外勤務以前や勤務中の状況と比較してどのように変 化したかを「帰任過程」として分析してみよう。海外勤務以前においては、言うまでもなく本国に おいて有効に機能するメンタリティーと適切な日常の行動様式を身につけている。そして派遣先国 に赴任した後は異文化適応に努め、その国で有効な新たなメンタリティーと適切な日常の行動様式 の習得に努める。こうして海外派遣要員は帰任時には、かつて本国にいた時よりは拡大したメンタ リティーや日常の行動様式を身につけて帰国する。しかし、それらには本国ではマッチしないメン タリティーや不適切な日常の行動様式が含まれているため再適応のためのカルチャーショックに悩 むこととなる。 ハリス=モーランやフェラーロ(Ferraro, G.P.)などはこれを「リエントリーショック」(reentry shock)、「逆カルチャーショック」(reverse culture shock)あるいは帰国(U ターン)ショックと いっている。カウンター・カルチャーショックやリエントリートラブルという人もある。いったん 国外から自分の文化を他人の目でみた後であるから、これも赴任期間中のカルチャーショックに負 けず劣らず深刻に長期にわたって続くことがある。多国籍企業ではこれが次第に大きな問題になり つつあり、帰任を効果的に行うためのカウンセリングも必要になっている。帰任直後には、例えば 社内でどこか自分が軽んじられているとか、損をしているとか、キャリアに傷がついたといった感 情に駆られる者もいれば、お手伝いも雇えなくなったとか、かの地では一流人士と付き合っていた のにといった感傷に浸る者もいる7) また、ブラックらの研究によれば、仕事以外では日本人男性の場合、海外勤務中に妻や子供と強 い絆に結ばれた新しい家族観を抱くようになるが、帰国するとこれらの絆は薄くなり、赴任先で経 験した夫や父親としての役割を奪い取られたと感じる人が多いと述べている。 (2) 帰任前に行う帰任後の適応に向けての準備 帰任後の適応を成功させるには帰任前(海外勤務中)から周到な準備が必要である。海外派遣要員 が赴任前に事前適応に努めるように、帰国前の場合にも本国復帰のための事前適応が重要である。 では帰任後どのような分野の何に対して適応すべきなのであろうか。それは大きく分けて3つの分 野への適応である。1つ目は本国での新しい仕事への適応、2つ目は本国の上司、同僚、友人と いった人々との対人適応(人間関係)、3つ目は仕事以外のその他生活環境(住宅事情、妻の就職先、 子供の学校など)への適応である。 従って、帰任前においてこれら3つの分野について十分な情報をいかにして獲得するかが帰任を 効果的に行う鍵となる。本国や帰任先の本社についての情報源は、①海外勤務中の本社との仕事上 のコミュニケーション、②本国の元上司などの後見人、③本国への一時帰国、④帰任前の研修やオ

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リエンテーション、などに求めることができる8) まず、海外勤務中の本国との仕事上の重要なやり取りや情報交換は信頼のできる本社の最新情報 として貴重である。2つ目の後見人または保護者(メンター)とは公式または非公式に指名された 人で、例えば赴任前の上司などが務めるものである。こうした後見人からの、例えば組織や戦略上 の変更、職場の変化、昇進の機会、仕事や本社に関連した一般情報などは海外勤務者と本社との情 報ギャップを埋める有力な情報となる。海外派遣要員の後見人指名は多国籍企業においてそれほど 一般的ではないが、後見人がついている者はついていない者より職場にうまく適応する確率が高い といえる。3つ目の本国への一時帰国時の本社での情報も重要な帰任先についての情報源である。 その意味では企業は帯同家族まで含めた派遣要員の一時帰国手当を支給し、帰国休暇も義務づける べきであろう。 最後の帰任に向けての研修やオリエンテーションも有益な情報源である。こうした研修やオリエ ンテーションは職場への適応だけでなく、本国の人々との人間関係や新らしい環境への再適応を促 すことになる。しかし、帰任前研修やオリエンテーションは多くの派遣要員から要請されているに もかかわらず、実施している多国籍企業は意外に少ないのが実情である。ブラックらの調査によれ ば、アメリカ人派遣要員の64%、日本人の92%、フィンランド人の77%が帰国前に何のトレーニン グも受けていなかったという。 (3) 成功する帰任へのステップ ここでは多国籍企業は海外派遣要員の帰任を成功させるために何をしなければならないのかにつ いて検討する。冒頭の「海外派遣要員の派遣の意味」で述べた子会社での運営・調整・統制の業務遂 行や将来の国際経営管理者の育成といった派遣目的やその成果を帰国後本社に還元するためにも帰 任への効果的な対策は重要である。 既述のように派遣要員が帰任前に行うべき帰任後の適応準備に関して、本国・本社に関する4つ の情報源を検討したが、企業側としてはそれらの情報を効果的に伝達し、帰任者の期待を正しく形 成することが肝要となる。ここでは企業側からみたこれらの情報源について再検討してみよう。 まず企業側としては正しい情報を海外勤務中および帰任前の派遣要員に伝える方策が講じられな ければならない。また、派遣要員の期待が満たされ、帰国後の職場でもまたそれ以外の環境でもう まく適応できるよう適切な情報が提供される必要がある。 本国本社の後見人は、既述のように海外勤務中において派遣要員に重要な情報を提供することが できる。また、企業としては帰任前の少なくとも6ヶ月前に社内に後見人と人事部の責任者から成 る帰任支援チームを結成すべきであろう。できればそれらの後見人や人事部の責任者は海外勤務の

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経験者であることが望ましい。 本国への一時帰国については、特に派遣要員の赴任直前の帰国はより正確に本国の状況を知り得 る機会を提供するので奨励されるべきである。多国籍企業では有給の帰国休暇制度を持つ企業は多 いが、帰国休暇を義務づけている企業はそれほど多くない。従って、帰国休暇を義務づけることが 派遣要員と企業側の双方にとって有益なものとなり得よう。 企業の提供する帰任前の研修やオリエンテーションについては、単に帰任のためのパンフレット を本人に渡すだけでは効果はない。具体的内容としては、帰国後の住宅事情、収入の変化、物価、 税制、配偶者の就職事情、子供の学校などが帰任者の求めている情報である。企業の提供する情報 はこれらの情報をカバーするとともに、帰任者に過大な期待を抱かせないように、場合によっては 本国の人々が概して派遣要員の派遣先での国際的な経験に興味を示さない場合もあることを前もっ て伝えておくべきであろう。 しかし、問題は誰がどのようにして帰任前の派遣要員にそのような研修やオリエンテーションを 行うかということである。派遣前の研修やオリエンテーションでは世界各国に赴任する数名の予定 者が一堂に会することも可能であったが、帰任の場合さまざまな時期に海外の子会社から個々ばら ばらに帰国することになるのである。このような場合の一方策として、企業独自の情報や帰任に関 する一般的情報をビデオテープにして帰任者に送付し学習してもらうやり方がある。さらに場合に よっては、派遣先地域別に年間を通じて定期的に開催する企業同士の合同研修プログラムを立ち上 げ、それに該当者を参加させることなどが現に実施されている9) 最後に、以上の項目に加えて、あるいはそれ以上に重要なのは本国・本社側での職場環境の準備 である。帰任支援チームは派遣要員と頻繁に連絡を取り、帰任後の本人のキャリア・パスの中で海 外勤務中修得した国際管理者としてのスキルや知識を帰任後も生かせるよう配慮することである。 海外勤務をうまくこなした帰任者は、現地では自律性が高く、責任も大きな仕事をやってきた自負 もあるし、帰任後はより幅広い見識を活用できるやりがいのある仕事を求めている。企業は帰任者 の海外での貢献に対してこれを排除したり、無視したりすべきではなく、彼らに感謝の意をもって 接するべきである。

3 多国籍企業における帰任適応と定着策

(1) 帰任後の組織復帰に影響を与える要因 ここでは海外派遣要員の帰任後の帰任適応に影響を与える要因について検討してみよう。ブラッ クらは、これらの要因を4つのグループ要因に分類しており、それらの要因が一体となって帰任後 の帰任者の仕事や人間関係や一般的環境に対する適応に影響を及ぼす関係を明らかにしている10)

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この帰国後の帰任復帰に影響を与える要因は、①個人的な要因、②仕事上の要因、③組織上の要因、 ④仕事以外の要因の4つである。 まず個人的な要因については、海外赴任時にも重要な要因とみられた個人的な要因が帰任後の適 応においても影響を及ぼす。具体的には、自分自身を信じて外国人や新しい環境を効果的に処理す る能力である「自己志向的因子」(self-oriented factor)、人々と出会い、交流し、共感できる能力で ある「関係性志向因子」(relational factor)および文化の目に見えない地図やルールを理解する個人

的な能力である「知覚思考的因子」(perceptual oriented factor)などである11)。しかし、皮肉なこと

に、派遣先での適応がうまくいけばいく程、帰任時の再適応が難しくなるというジレンマの存在を 指摘する研究もある。さらに、本国とは文化的に大きな相違がある国に滞在したり、10年を超えて 長い期間海外に勤務したような場合にも、帰任適応にはそれだけ大きな困難が伴うといわれている。 2番目の仕事上の要因については、スムーズな帰任を阻害する次のような多くの要因が存在する。 ①派遣要員に対する帰任の辞令発行が十分な時間的余裕を持って行われていない、②帰国前に帰国 後の仕事が明確に伝達されない、③帰国後の仕事に関して明確な役割と職務記述を伴うものが少な い、④派遣期間中の海外勤務に比べて国内での地位の自律性や権限が小さくなる、⑤期待していた 昇進が実現しない場合が多い、⑥海外勤務で修得した国際的な知識、スキル、外国語が帰任後の仕 事に生かされない。企業が帰任者に働きがいを与えるためにはこれらの阻害要因を一つ一つ改善す る必要がある。企業から明確に計画された仕事、かなり大きな裁量権、仕事のやり方についての一 貫した指示が与えられれば、派遣要員は帰任後、本社により大きな忠誠心を示すことになろう。 3番目の組織上の要因についても、多くの阻害要因が存在する。例えば、帰任過程において、派 遣要員に対し帰任後の地位、将来のキャリア、帰任後の金銭的報酬、税金補助など帰任後の適応に 重大な影響を与える事項について曖昧にされている。特に、金銭的報酬については、帰国後に生活 水準が低下するのではないかと不安に駆られる帰任者が多い。さらに、帰任後の適応を促進すると 思われる研修やオリエンテーションがほとんど行われていないなどである。 帰任者の帰任後の組織忠誠心に影響する重要な組織上の要因の一つは、本社が国際的な経験や国 際的視野にどの程度の価値を置いているかということである。帰任後に与えられた仕事、直属上司 や同僚の態度、国際的な経験に対する報酬制度、帰国後の昇進の程度などについての評価が帰任者 の組織忠誠心を左右する12) 最後の仕事以外の要因では、帰国後の生活環境、例えば社会的地位、住宅問題、妻の就職先、子 供の学校などが関心事である。特に帰国後の社会的地位の低下や住宅事情に関する不安が帰任者の 本国適応への阻害要因となる。ある帰任者の調査では、アメリカ人の54%、日本人の47%、フィン ランド人の27%が海外勤務中の地位に比して、帰任後、社会的地位が低下したと回答しており、地

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位の向上を経験したのは、この3カ国の帰任者全体の4%にも満たなかったという13) 住宅問題については、住宅事情の変化が帰任後の適応に大きな影響を及ぼす。日本企業でも自分 の家を海外赴任時に売却した人は、バブル期以前に帰任した場合、海外手当ての蓄積などもあり、 帰国後楽に家を購入できたが、バブル華やかなりし頃の帰任者は土地や住宅が高騰した後でとても 購入は無理であった。また、赴任前アメリカ人配偶者の場合仕事をやめていくので、帰国後の再就 職が大きな問題である。これに対して日本人の場合は概して子供の学校問題(進学問題)の方に関 心があるといえよう。 (2) 帰任後の最良適応 どのようなタイプの帰任者が帰国後最良の適応を果たすことができるのであろうか。アドラーは 帰任者のタイプを次の3つに分けている14)。①再びうまく適応する帰任者、②外国人扱いされる帰 任者、③順向型の帰任者である。最初の「再びうまく適応する帰任者」は本国志向が強く海外志向 の弱いタイプである。たとえ異文化に関して修得したスキルや知識があっても、帰任後は海外勤務 を経験したことのない社員のように振舞う。彼らは海外勤務の経験が本国での仕事や生活改善に役 立つ可能性を否定する。帰任者がこのような態度をとる大きな理由の一つは本社の組織文化である。 帰任者の上司も彼の海外経験で得た管理上のスキルや知識、幅広い見識といったものを評価しない ので、帰任者のこの態度に満足することが多い。帰任者の修得した貴重な無形資産が本社に還元さ れないのであるが、日本企業ではこのタイプが一番多い。 2番目の「外国人扱いされる帰任者」は帰国後も本国志向が弱く海外志向の強いタイプである。 このタイプの帰任者は外国にいる間は外国の文化や生活スタイルに同化を図り「現地人になりきる」 傾向がある。帰国しても外国文化の余韻に浸り、それを自国文化より優れたものと信じている。そ のため国内環境に復帰・適応できず人間関係も行き詰まり、外国人扱いされるようになる。本社で は彼を無能力者と評価してしまう。そのため彼の修得した国際的なスキルや知識は国内では日の目 を見ることはないし、本社に貢献することもない。 最後の「順向型の帰任者」は本国志向も海外志向も双方ともに強いタイプである。順向型の帰任者 は、本国での以前の経験と自分が外国で修得した異文化のスキルや知識、外国市場の知識、技術的 スキル、外国語能力などを融合させ、現在の本国の環境内で新しいシナジー的な認識の方法と仕事 のやり方を創造することができる。本国と外国におけるそれぞれの理解と仕事のやり方を統合する このシナジー的アプローチによって、帰任者は同僚や顧客とより効果的に働き、より広い範囲の代 替案に基づいて意思決定し、行動の世界だけでなく思考の世界においてもリーダーとして行動する ことができる。

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いうまでもなく3つの帰任者のタイプでは、「順向型の帰任者」が一番望ましく本国・本社への最 適な適応と貢献が達成できる理想的な人材である。このような人材の帰任者に占める割合を増加さ せることが多国籍企業の競争力向上に繋がるものといえよう。しかし、このような順向型帰任者の 経験と能力を顕在化させるには本社側の組織文化の国際化、つまり「内なる国際化」が推進される 必要がある。 次にやはり帰任者の最良の適応に関して、ブラックらのいう「機能的人材定着」(functional retention)の概念について検討してみよう15)。彼らは帰任者がとる4つの一般的行動パターンを帰 任過程において発見している。図4の帰任の結果に示すように、多国籍企業は帰任者が左上の象限 の「機能的人材定着」になることを望んでいる。機能的人材定着が可能となる条件は帰任適応度が 高いこと、組織忠誠心(コミットメント)が高いことの2つである。高い帰任後の適応は高い仕事 業績に繋がる。また組織に対する帰任後の高い忠誠心は企業に定着する強い意識に結びつく。企業 としても費用のかかる海外勤務から派遣要員を帰国させた後、その投資に対して十分な回収を得る ためにも、彼らの成長した国際経営のスキルや知識を活用するためにも、機能的人材を帰任後自社 内に定着させることが最善である。しかし、残念ながら、多くの企業でこのカテゴリーに属する帰 任者があまりにも少なすぎるのが現実である。 図4 帰任の結果

組織コミットメント(忠誠心)

      高い       低い (出所)白木三秀・永井裕久・梅澤隆監訳『海外派遣とグローバルビジネス』白桃書房、p.355. 帰 任 適 応 度 が 高 く て も 帰 任 後 の 組 織 忠 誠 心 が 低 け れ ば 「 機 能 障 害 的 離 職 」(disfunctional turnover)になってしまう。これは帰任後の仕事にも本国の人々との人間関係にも、さらに本国で の一般環境にもうまく適応しているが、本社への強い忠誠心を示さない状況である。このような高 業績者が辞めると、投資したものを失うだけでなく多国籍企業としての国際戦略目標の達成に多大 の損失となる。企業側はそのような人材が離職しないで機能的人材定着に移行できるよういろいろ

機能的人材定着

   高業績    強い定着意識

機能障害的離職

   高業績    弱い定着意識

機能障害的定着

   低業績    強い定着意識

機能的離職

   低業績    弱い定着意識 高い       低い   

帰任

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なインセンティブを工夫すべきである。 さらに「機能障害的定着」は、組織への忠誠心は高いが帰任適応度が低い場合である。強い定着意 識はあっても帰任適応度が低いために低業績しか上げられない帰任者である。このパターには、① 不適格者が勤務に派遣された、②適切な帰任後の研修がなされていない、③帰任後の仕事が適職で ない、などの原因が挙げられる。企業としてはこのタイプの帰任者の適応度を高めるため原因別の 支援対策が必要である。 最後の「機能的離職」(functional turnover)は帰任適応度と組織忠誠心がともに低い状態である。 従って、帰任後の業績は低く、定着意識も弱い状態である。このような帰任者が離職していくのは 仕方のないことだが、不適格者が選抜され派遣された可能性はある。 もし、このタイプの離職者が増加するようであれば最初の選抜段階とその決定に抜本的な見直し が必要である。 (3) 帰任後の最良の帰任者定着策 最後に、海外勤務からの帰任者がいかにすれば帰国後も国内で高い忠誠心を持って定着し高い業 績を維持できるかについて検討したい。既にいくつかは触れてきたが、ここでは帰任過程での帰任 者定着のための諸施策を総括してみよう。一言でいえばそれは海外勤務を高く評価する組織作りで あり、それが帰任者の組織忠誠心と業績を高める最も重要な要素となり、定着を促す最良の方策と なり得る16) 特に高業績を上げた帰任後の昇進や役員への昇格は他の従業員にも企業が海外勤務を重視してい ることを知らせる重要な手がかりとなる。国際的な経験を昇進の必要条件に加えることができれば 内なる国際化はさらに進展する。例えば、シティーコープ社では海外勤務を完了した帰任者を昇進 させており、その結果、本国の観点よりも国際的観点が全社的に貫かれている。また、報酬に関し ても赴任中のみならず帰任後も収入の実質的低下を来たさない配慮が必要である。さらに、帰任前 後に企業が実施する研修やオリエンテーションは、帰任者にとって本国でのカルチャーショックの 緩和に役立つだけでなく、企業がいかに帰任の困難さを認識してくれているかのシグナルとして映 るのである。 また、帰任後の適切な仕事の割り当ても、企業が国際勤務による経験や国際的な視野を重視する 立場を裏づけることになる。帰任後に海外勤務中の知識やスキルがまるで活用できない職位に任命 されたら、たいていの帰任者の忠誠心と仕事への動機づけは低下するであろう。そのような事態を 避けるため企業は帰任者に最適なポジションを計画し提供する努力をすべきである。そのことで企 業が海外の経験を高く評価していることを帰任者に伝達することができる。そうした努力は企業内

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に後見人と人事部責任者によって構成される帰任支援チームによって、帰任前から帰任者と連絡を とりながら、本人の仕事目標の達成状況や修得した新しい知識やスキル、現時点でのキャリア上の 関心事などを把握した上で、それらを帰任後の仕事とマッチングさせるよう十分な配慮がなされる べきである。可能ならば、帰任後のポジションには海外勤務時と同じかそれ以上の難しい課題と自 律性を与えるべきである。海外では大きな責任と自律性を持つ要職をこなしてきたのである。また、 ブラックらによれば帰任後の最適な仕事は帰任者と本社の帰任支援チームによって作られるもので あって自動的に出てくるものではないといっている17) 最後に既述の機能障害的離職者の離職を回避し、高い組織忠誠心を持つ機能的人材に転換させる ための方策はあるであろうか。一般的に機能障害的離職者になりやすいのは、長期にわたる国際勤 務を経験した帰任者、本社での勤務期間が短い帰任者、本国と極端に異なる国からの帰任者などに 多い。ブラックらはこれらの人々をハイリスク帰任者といっている。これらの帰任者は派遣先と国 内との乖離が勤務中に拡大し、本国や本社を間違って理解してしまう可能性が極めて高くなる。そ のため帰国した時の本社への忠誠心は低くなる。特に、国際的経験の豊富な帰任者は、国際的な経 験の重要性とその価値についての企業側の言動の不一致に敏感である。これらの機能障害的離職者 を失うことは企業にとって多大の損失であり、機能的人材定着に取り込めるよう重点的配慮が必要 である。

おわりに

これまで海外派遣要員の帰任適応の諸側面について述べてきた。第1節では海外派遣要員の派遣 の意味および最終プロセスとしての帰任の位置づけと異文化再適応との関係で帰任問題の重要性に ついて考察した。第2節では海外派遣要員の帰任過程を成功させるための帰任過程について分析し、 帰任前から帰任後の適応について帰任者はどのような情報源と手段を使って準備をすべきかについ て検討した。さらに、そのために企業側はどのような支援を行うべきかについても考察した。 第3節では、帰任後の組織復帰に影響を与える要因として個人的な要因、仕事上の要因、組織上 の要因、仕事以外の要因の4つの要因を抽出しそれぞれの分析を行った。帰任後の最良適応では、 イメージとしてアドラーのいう順向型帰任者とブラックらのいう機能的人材定着の概念について検 討した。最後に帰任後の最良の帰任者定着について総括した。 海外勤務サイクルの最終プロセスである帰任は、海外赴任時に勝るとも劣らない重要性を有して いる。にもかかわらず、帰任の問題は最も見過ごされている海外勤務の側面である。残念ながら帰 任後に退職する人は予想以上に多いのが実情である。多額の費用が海外派遣要員に投資されたにも かかわらず、退職してしまえばその投資コストは大きな無駄となり、その上派遣要員が赴任中に修

(15)

得した国際経営に関する知識、現地市場の知識、技術的スキル、異文化適応能力、外国語能力など

は水泡に帰してしまう。そして最悪の場合、それら帰任者は能力を高く評価してくれる競争企業に

転職してしまうケースもある。海外勤務サイクルの最終プロセスを入念に考察する意味は実にここ

にあるといえよう。

参考文献

 1 Black, J.S, Gregersen, H.B., Mendenhall, M.E., and Stroh, L.K., Globalizing People through International Assignments, Addison-Wesley Publishing Company, Inc., 1999. (白木三秀・永井裕久・梅澤隆監訳、 国際ビジネ スコミュニケーション協会翻訳協力『海外派遣とグローバルビジネス』白桃書房、2001年、31-36ページ)  2 Ibid.(前掲邦訳書、23ページ)

 3 Ibid. (前掲邦訳書、29ページ)

 4 Adler, N., International Dimensions of Organizational Behavior, South-Western Publishing Co. 1991, pp.232-235.(江夏健一・桑名義晴監訳、IBI 国際ビジネス研究センター訳『異文化組織のマネジメント』マグロウヒ ル、1992年、233-236ページ)

 5 Hofstede, G., Cultures and Organization: Software of the Mind, McGraw-Hill International (UK) Limited, 1991. (岩井紀子・岩井八郎訳『多文化世界』有斐閣、1995,223ページ);Harris, P.R. and Moran, R.T., Managing

Cultural Differences, Gulf Publishing Co.,1979, p.166.(国際商科大学国際交流研究所監訳『異文化経営学』ぺ

りかん社、1983年、247ページ)

 6 Black, J.S. and Mendenhall, M.E., Cross-cultural Training Effectiveness, Academy of Management Review, Vol.15, No.1,1990, pp.113-119;田中梨佳著『日系多国籍企業における企業内教育訓練』創成社、2005年、109-111 ページ

 7 Harris, P.R. and Moran, R.T., op. cit., p.94.(前掲邦訳書、144ページ);Ferraro, G.P., The Cultural Dimension of

International Business, Prentice Hall, Inc., 1990.(江夏健一・太田正孝監訳、IBI 国際ビジネス研究センター訳

『異文化マネジメント』同文舘、1992年、265ページ)

 8 Black, J.S., Gregersen, H.B., Mendenhall, M.E., and Stroh, L.K., op.cit., (前掲邦訳書、312-317ページ)  9 Ibid.(前掲邦訳書、337-338ページ)

 10 Ibid.(前掲邦訳書、312-317ページ)  11 Ibid.(前掲邦訳書、179-180ページ)  12 Ibid.(前掲邦訳書、362-367ページ)  13 Ibid.(前掲邦訳書、326ページ)

 14 Adler, N., op. cit., pp.241-243.(前掲邦訳書、242-244ページ)

 15 Black, J.S., Gregersen, H.B., Mendenhall, M.E., and Stroh, L.K., op.cit.,(前掲邦訳書、353-357ページ)  16 Ibid.(前掲邦訳書、368-375ページ)

 17 Ibid.(前掲邦訳書、373-374ページ)

参照

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