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労働環境リスクとモラルハラスメント規制の動向と課題

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(1)

136

彦根論叢 2011 spring / No.387

I

メンタルヘルス

問題の動向

II

「モラルハラスメント」の実態

III

判例の動向

IV

立法的規制のあり方と動向

V

展望

はじめに

 労働環境リスクは、労働現場における労働者の

健康や安全を保障する目的から構想されるもので

あるが

、現行立法の労働安全衛生法は、

1972

、労働基準法第五章「安全及び衛生」から独立

して

制定され、

「労働基準法と相まつて、労働災害

防止のための危害防止基準の確立、責任体制

明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる

等その防止に関する総合的計画的な対策を推進

することにより

職場における労働者の安全と健康

確保するとともに、快適な職場環境の形成を促

進」

(第

1

条)することを目的としている。同法では、

「労働災害の意義(定義)」を「労働者の就業に係

建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等に

より

、又は作業行動その他業務に起因して、労働

者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡すること」

(第

2

条)と定めているように、

1960

年代以降の高度

経済成長による技術革新、産業合理化、施設大

型化による労働災害に対応するものであった。そ

の後、

1980

年代までは、労働安全衛生の主たる対

労働環境

リスクと

モラルハラスメント

規制

動向

課題

*

本稿は、

2010

年度滋賀大学経済学部学術後援基金に よる研究助成の成果の一部である。 1)ベルギー法の「労働でのいじめ・ハラスメント禁止法」に ついては、大和田敢太「ベルギーにおける労働での いじめ・ハラスメント禁止法

(2007

1

10

日法)」 労働法律旬報第

1695

号(

2009

)、 「労働環境リスクの立法的規制」 滋賀大学環境総合研究センター研究年報 第

6

巻第

1

号(

2009

)、 「労働環境リスクに対する立法的規制」 同第

7

巻第

1

号(

2010

)参照。

大和田敢太

Kanta Owada 滋賀大学経済学部

/

教授

論文

(2)

象は、職業性疾病や職業病に向けられたが、今日

労働安全衛生の重要な課題は、過重労働や心

健康およびメンタルヘルスに移ってきている。し

かし

、現行の労働安全衛生法制は、理念や定義

が不十分であり、労働条件との関連、労働者の権

利性が明確ではないという批判を免れない。

 本稿は

*

、労働環境リスクとしての労働安全衛

生の重要課題であるメンタルヘルスとの関連から、

「職場のモラルハラスメント(いじめ・パワーハラ

スメント

)」問題の意義と重要性が位置づけようと

している

動向とその課題を明らかにする。

「職場の

いじめ

・パワーハラスメント」問題を労働環境リス

クの

観点から「モラルハラスメント」として位置づ

けることは

、ベルギー法において経験されているこ

とであるが

1)

、本稿でも、様々な用語と定義で表現

されている

「職場におけるいじめ・パワーハラスメ

ント

」を「モラルハラスメント」として捉え

2)

、その立

法的規制のあり方や課題を提起する。

I

メンタルヘルス問題の動向

 厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策

検討会報告書」

2010

9

7

日)は、以下のように、

メンタルヘルス

問題の中に潜む「職場のモラルハ

ラスメント

」の重要性を明確にした

3)

。検討会の文

書とはいえ、

「職場のいじめ→うつ病→自殺」とい

定式を明記したことは、具体的な事案において、

モラルハラスメント

被害者の自殺の予見可能性を

否定するには相当の特別な事情の存在を要するこ

とになる

4)

 自殺の危機経路は、被雇用者については、以下

のように配置転換が危機経路の主な出発点となっ

ているほか

、昇進、職場のいじめなども挙げられて

いる

① 配置転換→過労

+

職場の人間関係→うつ病

→自殺

② 昇進→過労→仕事の失敗→職場の人間関係

→自殺

③ 職場のいじめ→うつ病→自殺

 他方、この報告書は「職場における心理的負荷

が原因でメンタルヘルス不調に至り自殺したなど

として

、企業に高額な賠償が命じられた民事裁判

例もある。」と述べたが、このような問題意識に

立ちながら対策を推進することには、限界性を指

摘せざるをえない。実際、

「メンタルヘルス不調は、

特に医療関係者以外の者には知られたくないとい

要素もあり、個人情報等については慎重な対応

必要とされる」とも述べ、メンタルヘルス対策の

基本的な方向を、

「労働者の気づきを促す」ことに

求めている。このような傾向は、

「職場における心

理的負荷」によるメンタルヘルスやモラルハラスメ

ントが、構造的問題であることを軽視するものであ

2)一般に、「職場のいじめ」や「パワーハラスメント」などの 用語法が用いられることもあるが、包括的な定義としては 問題があり、本稿では、引用等の場合を除いて 「(職場の)モラルハラスメント」と表現する。 なお、裁判例の掲載誌名の記載の無いものは、 主として判例データベースおよび「労働情報」によった。 3「)メンタルヘルス不調」とは、「精神及び行動の障害に 部類される精神障害や自殺のみならず、 ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、 社会生活及び生活の質に影響を与える可能性のある 精神的及び行動上の問題を幅広く含むもの」と 定義されている。 4)富国生命事件(鳥取地米子支判

2009.10.21

労判

996-28

)は、「うつ病の上司の配慮を欠いた行為が きっかけで発症した」と認定したが、退職については 因果関係(予見可能性)を認めず、 損害賠償の対象外としたが、今後は使用者側にとって 「職場のいじめ→うつ病→自殺」という予見可能性を 否定するための要件が厳しくなることが予想される。

(3)

138

彦根論叢 2011 spring / No.387

出 所

: Violence, harcèlement moral ou sexuel au travail :facteurs de risque organisationnels, Direction générale

Humanisation du travail du SPF Emploi, Travail et Concertation sociale, septembre 2006, pp. 11 et 32.

図表

1

「職場における暴力およびハラスメントに対する組織的要因」

(4)

。ベルギーの法制は、モラルハラスメントの構

造性を前提に対策を講じているが、それを例示し

たものは

、図表

1

のとおりである

 そもそも、厚生労働省が、

「職場におけるメンタ

ルヘルス対策検討会」を立ち上げる背景となった

危機感は、自殺問題と労災認定状況として把握さ

れている

。自殺に関する統計資料は、

<

図表

3>

ある

5)

5)図表について出所の明記のないものは、 「職場におけるメンタルヘルス対策検討会」(

5

31

日) 提出資料である。

図表

3

「自殺者統計」

職業別自殺者数       

(単位:人)

総数

家族従事者

自営業・

被雇用者・

勤め人

無職

不詳

学生・生徒等

無職者

平成

21

(構成比)

100.0

32,845

%)

9.7

3,202

%)

27.9

9,159

%)

2.9

945

%)

57.0

18,722

%)

2.5

817

%)

平成

20

(構成比)

100.0

32,249

%)

9.9

3,206

%)

27.9

8,997

%)

3.0

972

%)

56.7

18,279

%)

2.5

795

%)

増減数

(構成比)

+596

(−

0.2

4

+162

0

(−

0.1

27

+0.3

+443

+22

0

増減率(%)

1.8

0.1

1.8

2.8

2.4

2.8

出所:警察庁「自殺の概要」

原因・動機特定者の原因・動機別      

(単位:人)

家庭問題 健康問題

生活問題

経済・

勤務問題 男女問題 学校問題

その

平成

21

4,117

15,867

8,377

2,528

1,121

364

1,613

平成

20

3,912

15,153

7,404

2,412

1,115

387

1,538

増減数

205

714

973

116

6

23

75

増減率(%)

5.2

4.7

13.1

4.8

0.5

5.9

4.9

注)遺書等の自殺を裏付ける資料により明らかに推定できる原因・動機を自殺者一人につき

3

つまで計上可能としたため、原因・動機特 定者数の原因・動機別の和と原因・動機特定者数(

24,434

人)とは一致しない。 出所:警察庁「自殺の概要」

勤務問題      

    

(単位:人)

仕事の失敗

人間関係

職場の

職場環境の

変化

仕事疲れ

その

平成

21

456

547

334

700

491

出所:警察庁「自殺の概要」

(5)

140

彦根論叢 2011 spring / No.387

 労災認定状況については、

<

図表

4>

示してい

。この数字の分析は慎重でなければならないが、

過労死事案(脳血管疾患及び虚血性心疾患等)

労災補償状況(

2009

(平成

21

)年度分)と比較

すると

、過労死事案は、請求件数(

767

)

は少ない

、支給決定件数・認定率(

293

件、

41.3%

)は上

回っている。また、精神障害等の労災認定率では、

自殺によるものが高率(

45.0%

)であることは、自

殺にまで追い詰められた状況でようやく労災認定

進んでいることを示しており、逆にそこまで深刻

化しないと労災認定が消極的であるという現状の

問題点を示している。

 さらに、

「精神障害等で労災認定された事案」

における

1

月平均の時間外労働時間数別資料」

物語っていることは、まず、

20

時間未満」が事

案数として最多であることは、精神障害が「時間外

労働」の長短と関係なく、その意味では、長時間

労働と結びつくことなく起こりうることを示してい

。しかし、

20

時間以上の区分では、時間外労働

時間数と件数との相関関係が現れており、また、

自殺の比率も高くなっていることは、長時間労働と

精神障害との因果関係を明らかにしているので

ある

 他方、

「過去

1

年間にメンタルヘルス上の理由に

より

連続

1

月以上休業又 は 退職した 労働者

2007

年)」についての統計が、図表

5

である

 なお、公務員については、人事管理の責任を負

省庁や公的組織によって、年次報告が公表され

ている

。全国の公立学校の教育職員病気休職者

数(

2009

年度)は、

8,627

人(在職者比

0.94%

)、う

精神 疾 患 に よる 休 職 者数 は、

5,458

人( 同

0.60%

)である

6)

。また、地方公務員の一般職職員

(警察・教育職員を除く)については、長期病休者

占める疾病分類で「精神および行動の障害」割

6)文部科学省「(平成

21

年度)教育職員に係る 懲戒処分等の状況について(」

2010

12

24

日)。 この資料は、「教職員の人事管理」における 「懲戒処分等及び分限処分の状況の調査結果」の中に 「病気休職者数等の推移」を扱い、 「教育職員のメンタルヘルスの保持にかかる取組状況」を 位置づけるものであるが、メンタルヘルス問題の 位置づけの問題性を端的に象徴している。 ちなみに、国家公務員の人事行政に関する 年次報告書である「(平成

21

年度)公務員白書」では 「メンタルヘルス対策の充実等」の項目において 「「パワーハラスメント(職権」 などのパワーを背景にして、 本来の業務の範疇を超えて、継続的に人格と尊厳を 侵害する言動を行い、それを受けた就業者の働く環境を 悪化させ、あるいは雇用について不安を与えること) 問題についても、部下の心の健康保持の観点」からの 取組としている。狭隘な観点からの意義づけによる 定義と対応策になっている。

(件)

年度

区分

平成

17

年度 平成

18

年度 平成

19

年度 平成

20

年度 平成

21

年度

精神障害等

請求件数

656

819

952

927

1136

決定件数

449

607

812

862

852

うち

支給決定件数

(認定率)

28.3

127

%)

33.8

205

%)

33.0

268

%)

31.2

269

%)

27.5

234

%)

うち

自殺

請求件数

147

176

164

148

157

決定件数

106

156

178

161

140

うち

支給決定件数

(認定率)

39.6

42

%)

42.3

66

%)

45.5

81

%)

41.0

66

%)

45.0

63

%)

図表

4

1

:精神障害等の労災補償状況

(6)

      

(件) 

年度

区分

平成

20

年度

うち自殺

平成

21

年度

うち自殺

20

69

7

16

3

20

時 間 以 上 ∼

40

時 間 未 満

9

4

6

0

40

時 間 以 上 ∼

60

時 間 未 満

10

4

5

2

60

時 間 以 上 ∼

80

時 間 未 満

15

7

8

2

80

時 間 以 上 ∼

100

時 間 未 満

22

8

12

3

100

時 間 以 上 ∼

120

時 間 未 満

31

15

24

13

120

時 間 以 上 ∼

140

時 間 未 満

24

7

20

10

140

時 間 以 上 ∼

160

時 間 未 満

10

4

11

2

160

20

5

9

4

59

5

123

24

269

66

234

63

出所:厚生労働省「精神障害等の労災補償状況」(

2010

6

14

日)

図表

4

2

:精神障害等で支給決定された事案(

1

か月平均の時間外労働時間数別)

図表

5

:過去

1

年間においてメンタルヘルス上の理由により連続

1

ヵ月以上休業又は

退職した労働者数割合(単位%)

(事業所規模)

0.4

5,000

人以上

0.6

1,000

4,999

0.8

300

∼ 

999

0.6

100

∼ 

299

0.5

50

∼ 

99

0.4

30

∼ 

49

0.3

10

∼ 

29

0.2

過去

1

年間においてメンタルヘルス上の理由

により

連続

1

月以上休業又は退職した労働

者がいる事業所の割合

7.6

出所:「労働者健康状況調査」

(7)

142

彦根論叢 2011 spring / No.387

合は

47.1%

、職員

10

万人当たりの長期病休者率で

1,148.8

人(

2009

年度)と公表されている

7)

。い

ずれの

統計においても、休職者数・比率の増加傾

向が顕著である。

 これらの数字は、民間のシンクタンクや調査機

関の発表している数字

8)

のうち

「欠勤・休職率」

はほぼ一致しているが、

「メンタルヘルス不調のた

1

月以上欠勤・休職している社員の有無」につ

いて

「いる」と回答する企業は、

63.5%

であり

、この

数値の方が深刻な実態を反映している。

 こうした実態について、厚生労働省は、

「自殺・

うつ

病経済損失資料」を公表している

(図表

6

)。こ

うした

試算自体は根拠のある計算方式に基づい

算出されているのであるとしても、

「経済的損失」

という側面だけが強調されることは、自殺やうつ病

直面した当事者にとって、金銭では換算できな

い問題の深刻さ、その人間の存在自体を脅かして

いる

損害や人格的侵害を見失う畏れがあることを

強調しておきたい

9)

 また、企業アンケート調査からは、メンタルヘル

問題に対する企業内での取組についての問題

点が明らかになっている。

 図表

7

、厚生労働省調査では、

「心の健康対策

(メンタルヘルス)に取り組んでいない理由」の中

、取り組むことを前提とした理由とは別に、

「取り

組み方が分からない」が全体で

42.2%

を占めてい

。また、取り組んでいる場合でも、外部スタッフ・

外部機関への依存傾向が強いことが特徴である。

厚生労働省内では、外部専門機関への依嘱を条

件に、産業医の設置を免除する案が検討されてい

るとも

伝えられている。これは、後述する、モラルハ

ラスメント

対策とも共通する問題点である。

 また、日本生産性本部「『メンタルヘルスの取り

組み』に関する企業アンケート調査結果」では、メ

ンタルヘルス問題でも正規社員と非正規社員との

格差の存在が裏付けられている(図表

8

)。また、

「心の病の多い」年代は、

30

代、

40

代に集中してい

7(財)地方公務員安全衛生推進協会) 「地方公務員健康状況等の現況 平成

22

11

月」。 この調査の疾病分類表は、

ICD-10

2003

年版) (国際疾病分類)に基づく総務省告示 「統計調査に用いる産業分類並びに疾病、 傷害及び死因分類を定める政令第

3

条に基づく 分類の名称及び分類表」によるが、 「精神および行動の障害」は「・統合失調症・躁病 ・躁うつ病・うつ病・神経症性障害・アルコール依存症、 精神障害・その他の精神及び行動の障害」を指す。 他に「自律神経系の障害」を含む「神経系の疾患」や 「・めまい感・不明熱・頭痛」などの 「他に分類されないもの」の分類項目がある。 メンタルヘルスを「疾病」からの アプローチだけで把握すると、見落とす事例が 多分に多いことも示唆している。 8)労務行政研究所「企業におけるメンタルヘルスの実態と 対策」(

2010

8

31

日、

252

社回答)によれば、 「メンタルヘルス不調のため

1

カ月以上欠勤・休職している 社員の全従業員に対する割合」は、平均で

0.45%

である。 なお、滋賀労働局が滋賀県内の事業所を対象にした調査 「メンタルヘルス対策自主点検結果」(

2010

9

月現在)では、 「ここ

1

年に、心の健康問題が理由で欠勤したり 休職した労働者がいる事業所」は

59.0%

、 「現在メンタルヘルスケアが必要な(又は必要と思われる) 労働者がいる事業所」は

56.1%

と公表されている。

自殺死亡がゼロになること

による所得の増加

うつ病による自殺や休業が

なかった場合、労災補償給

付の減少

うつ病がきっかけとしての

休業がなくなることによる

賃金所得の増加

失業がなくなることによる

求職者給付の減少

生活保護費受給や医療費

がなくなった場合、生活

保護費、医療費の減少

1兆9028

億円

456

億円

1094

億円

187

億円

6017

億円

計 

2

6782

億円

図表

6

「自殺・うつ病経済損失資料」

出所:厚生労働省「自殺総合対策会議」(

2010

9

7

日)

(8)

心の健康対策(メンタルヘルスケア)に取り組んでいない理由

区分

心の健康対策(メ

ンタルヘルスケア

取り組んでいな

事業所計

取り組んでいない理由(複数回答)

取り組み方

がわからな

経費が

かかる

必要性を

感じない

関心がない

労働者の

専門

スタッフが

いない

その

不明

平成

19

66.4

100.0

42.2

12.1

28.9

27.7

44.3

17.5

0.7

(事業所規模)

5,000

人以上

[−]

 −

1,000

4,999

4.5

100.0

34.5

21.0

6.2

17.6

50.3

23.2

300

∼ 

999

17.0

100.0

38.1

16.9

10.6

16.3

50.0

22.9

1.9

100

∼ 

299

35.9

100.0

39.9

11.6

17.3

23.9

53.5

17.8

0.5

50

∼ 

99

54.8

100.0

38.9

12.5

19.0

31.5

52.9

14.7

1.6

30

∼ 

49

63.2

100.0

40.3

17.8

24.3

29.4

48.9

17.3

0.2

10

∼ 

29

70.8

100.0

42.9

11.1

31.0

27.3

42.4

17.7

0.8

平成

14

76.5

100.0

39.9

19.9

26.9

30.2

46.1

7.9

注:[ ]は、全事業所のうち「心の健康対策(メンタルヘルスケア)に取り組んでいない事業所」の割合である。 出所:「労働者健康状況調査」

図表

7

:企業内でのメンタルヘルスの取組の実情

心の健康対策(メンタルヘルスケア)のための専門スタッフの有無及び配置状況別事業所割合

(単位:%)

区分

心の健康対策

(メンタルヘル

スケア

)に取り

組んでいる事

業所計

専門

スタッフが

いる

専門スタッフの種類(複数回答)

産業医

産業医

以外の

医師

保健師

又は

看護師

衛生管理

者又は衛

生推進者

カウン

セラー

その

タッフは

専門ス

いない

不明

平成

19

33.6

100.0

100.0

52.0

)(

56.5

) (

9.6

)(

22.5

)(

30.7

)(

27.1

)(

13.5

48.0

0.1

(事業所規模)

5,000

人以上

100.0

100.0

100.0

100.0

)(

77.0

)(

79.0

)(

63.2

)(

30.9

)(

67.1

)(

25.2

1,000

4,999

95.5

100.0

100.0

94.8

)(

78.0

)(

42.4

)(

71.0

)(

29.1

)(

52.6

) (

4.2

4.6

0.5

300

∼ 

999

83.0

100.0

100.0

80.4

)(

69.5

)(

17.8

)(

46.7

)(

31.3

)(

36.1

) (

9.2

19.6

100

∼ 

299

100.0

64.1

100.0

73.2

)(

59.4

)(

12.4

)(

30.5

)(

38.6

)(

26.1

)(

10.0

25.8

0.0

50

∼ 

99

100.0

45.2

100.0

67.3

)(

64.0

)(

11.4

)(

23.3

)(

40.0

)(

22.9

)(

13.1

32.7

0.0

30

∼ 

49

100.0

36.8

100.0

53.2

)(

59.2

) (

5.6

)(

16.4

)(

25.6

)(

30.0

) (

6.3

46.8

10

∼ 

29

100.0

29.2

100.0

45.0

)(

50.1

) (

8.7

)(

20.5

)(

28.0

)(

26.9

)(

16.7

54.9

0.1

平成

14

23.5

100.0

100.0

49.8

)(

59.2

)(

12.3

)(

35.1

)(

32.9

)(

27.1

) (

9.2

50.2

注:[ ]は、全事業所のうち「心の健康対策(メンタルヘルスケア)に取り組んでいる事業所」の割合である。 出所:「労働者健康状況調査」

(9)

144

彦根論叢 2011 spring / No.387

(図表

9

)が、これは、

「労働の二極化」によって、

30

代と

40

代の男性正社員の長時間労働化の反

映でもある。メンタルヘルス不調の原因として、長

時間労働・過重労働の弊害を指摘しなければな

らないのである

9)フリーター問題についても、その経済的影響と 社会全体の経済的損失の試算が公表されているが (例えば、

http://www.ufji.co.jp/publication/report/

2003/03116.pdf

)、格差が経済的側面にとどまらず、 社会的排除に結びつくことに留意すべきである。 ちなみに湯浅誠『反貧困−「すべり台社会」からの脱出』 (岩波新書、

2008

)は、「教育課程からの排除、 企業福祉からの排除、家庭福祉からの排除、 公的福祉からの排除、自分自身からの排除」の 五重の排除を指摘する(

59

頁以下)。

図表

8

「メンタルヘルス対策の対象」

図表

9

「心の病の最も多い年齢層」

出所:日本生産性本部「『メンタルヘルスの取り組み』に関する企業アンケート調査結果」(

2010

8

6

日)

(10)

 「労働時間等設定改善指針」(

2008

年厚生労

働省告示第

108

号)でも、

「近年は、過去に労働時

間短縮の目標として掲げられてきた年間総労働時

1,800

時間にほぼ近い水準である、おおむね

1,800

時間代前半で推移している。しかしながら、

その

内実を見ると、全労働者平均の労働時間が

短縮した原因は、主に、労働時間が短い者の割合

増加した結果であり、いわゆる正社員等につい

ては

2,000

時間前後で推移しており、依然として労

働時間は短縮していない。」と述べているところで

ある

。この「労働の二極化」によって、特に週

60

間以上労働する者の比率は、

1995

年の

16.8%

2005

年の

18.0%

増え、

30

代男性では

23.5%

40

代男性では

21.6%

という

高率であり、ここにメン

タルヘルス

不調から過労死・精神障害発生の温

床が放置されているのである。

1992

年制定の「労

働時間短縮 の 促進に関する臨時措置法 」が、

2005

年に年間の労働時間目標を外し、労働時間

政策の重点を時間短縮から健康保護に移したも

のの

、かえって、健康破壊を進行させたのであった。

改めて、長時間労働・過重労働規制のための実効

的措置の必要性を指摘する必要がある。

 こうした、メンタルヘルス問題にたいして、政策

的対応は不十分であるとともに、多くの問題点を

孕んでいる。

「労働者の心の健康の保持増進のた

めの

指針」(

2006

3

31

日厚生労働省公示第

3

号)は、以下のように指摘し、メンタルヘルス問題

「病気」の領域だけで取り組むべき問題ではな

いことを

認めてはいる。メンタルヘルス不調を「心

病気」と表現することもあるが、治療の対象とす

るあまり

、その社会的構造的原因を曖昧にする傾

向を戒めなければならない

10)

 職場に存在するストレス要因は、労働者自身の

力だけでは取り除くことができないものであること

から

、労働者の心の健康づくりを推進していくた

めには

、事業者によるメンタルヘルスの積極的推

進が重要であり、労働の場における組織的かつ計

画的な対策の実施は、大きな役割を果たすもので

ある

③ 人事労務管理との関係

 労働者の心の健康は、体の健康に比較し、職

場配置、人事異動、職場の組織等の人事労務管

理と密接に関係する要因によって、より大きな影響

受ける。メンタルヘルスケアは、人事労務管理

連携しなければ、適切に進まない場合が多い。

 しかし、京都労働局発表「京都府内の精神疾患

による労災の申請件数」では、

「発病原因について

、いじめやパワハラ、セクハラなど対人関係のト

ラブルが

15

件で最多」「人手不足で相談相手もお

らず

、ひとりで職場の人間関係に悩む若者が多い

のではないか

?

」というコメントが付された

11)

 また、厚生労働省のシンクタンク的役割を果た

している

労働政策研究・研究機構の報告書「個別

労働関係紛争処理事案の内容分析−雇用終了、

いじめ

・嫌がらせ、労働条件引下げ及び三者間労

務提供関係−」では、とくにメンタルヘルスに関し

「近年の労働問題への関心の高まりの中で、

ジャーナリストによる職場の実態の告発なども多

出版され、その中に個別労働紛争の実例も多く

収録されているが、いずれもエピソード的に語ら

れるにとどまり

、今日の職場で発生している紛争

全体像を示しているとは言いがたい。」

12)

行政

機関による問題把握の優越性を強調し、民間から

問題提起を真摯に受け止める姿勢を欠如して

10「)エコノミスト(」

2010

11

2

日号)の特集 「困っていませんか−職場のうつ」では、 「過労型のうつ病」とは別の「未熟型うつ」の増殖を指摘し、 「サボリか、病気か」と同視している。 医学的な判断基準に依存し、 その原因を正当に評価しえていない。 病気の類型と法的判断を混同することはできない。 11)京都新聞

2010

6

15

日。 12)労働政策研究報告書

No.123

2010

) まえがき(稲上毅)

(11)

146

彦根論叢 2011 spring / No.387

いることを

言わずもがなに述べている。こうした対

応からは、深刻な現状と問題点を正しく捉え、適

切な方向性を打ち出すことは出来ないことは明ら

かであろう

。モラルハラスメントをメンタルヘルス

問題の視点からだけではなく、労働問題として、労

働条件の問題、労働者の権利侵害の問題として

把握する必要がある。

II

「モラルハラスメント」の実態

 モラルハラスメントの現状の問題性が、メンタ

ルヘルス

問題の中に潜んでいることは断片的にふ

れてきたが

、モラルハラスメント自体の実態も近

時明らかになりつつある。

 まず、行政機関が公表している統計の中で、モ

ラルハラスメント

(いじめ・嫌がらせ)が占める比

重はきわめて大きいものとなっている。個別労働関

係紛争解決促進法に基づく個別労働紛争解決

制度の施行状況として、厚生労働省が毎年公表し

ている

各都道府県労働局( 総合労働相談コー

ナー)で受理した相談事例のうち「民事上の個別

労働紛争相談件数」では、

2009

年度分では、

「い

じめ・嫌 がらせ」 件数 は、

35,759

件で全体 の

12.7%

占め、普通解雇や労働条件の引下げに

次いで高い比率である(図表

10

)。

「都道府県労働

局長による指導・助言申出件数」でも「いじめ・嫌

がらせ

」は普通解雇に次ぐ比率(

12.3%

)であり、

「紛争調整委員会によるあっせん申請受理件数」

では

最大の内訳比率(

12.9%

)となっており、厚生

労働行政の現場で「職場のいじめ・嫌がらせ」問

題が最重要な課題となっていることを示している。

図表

10

「民事上の個別労働紛争相談の内訳」

0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80 100 17.0% 5.8% 1.9% 1.3% 1.0% 15.9% 1.9% 0.7% 3.1% 6.3% 18.5% 15.8% 6.8% 3.4%0.7% 2.7% 15.2% 0.8% 1.4% 1.2% 7.4% 14.7% 15.5% 8.1% 1.5% 1.7% 0.8% 15.4% 2.9% 0.7% 0.8% 2.9% 15.9% 0.9% 1.5% 1.7% 8.9% 16.6% 17.4% 10.3%1.5% 1.8% 0.8% 16.9% 3.1% 0.7% 3.4% 7.3% 12.8% 23.8% 22.9% 12.5% 7.7% 3.6% 3.5% 17.3% 12.5% 15.5% 13.4% 12.0% 15.5% 4.8% 3.5% 8.4% 13.1% 25.0% 24.5% 13.5% 9.4% 3.5% 4.8% 15.1% 12.7% 12.8% その他 いじめ・嫌がらせ 雇用管理等 募集・採用 育児・介護休業等 その他の労働条件 雇止め 採用内定取消 出向・配置転換 退職勧奨 労働条件の引下げ 解雇 0.7% 0.7% 0.8% 1.4% 1.7% 0.7% 1.3% 1.5% 0.7% 1.1% 1.4% 0.7% 3.3% 7.0% 16.0% 27.1% 26.1% 14.0% 7.2% 3.4% 28.6% 29.8% 21年度 20年度 19年度 18年度 17年度 16年度 15年度 14年度

(12)

 これらの集計では、かつては「セクシャルハラス

メント

」の分類項目があったが、

2005

年からは削

除されている。男女雇用機会均等法関連の相談

関する統計(

2009

年度)では、第

11

条関係(セク

シャルハラスメント

)は、

11,898

件で全体の過半数

51.1%

)を占めている。ハラスメント問題という観

点から見れば共通性があり、

「ハラスメント・いじ

」関係は、労働相談の圧倒的多数となっている

のである

 なお、セクシャルハラスメントの位置づけという

統計上の問題とは別個に、モラルハラスメントとセ

クシャルハラスメントの

関係を、その定義、法的規

制のあり方についてどのように捉えるのかに関わる

重大な問題を孕んでいる。後述の立法的規制のあ

方でふれることにする。

 行政機関におけるモラルハラスメント問題の統

計的集約のこのような傾向は、民間の調査機関に

よっても

、また労働組合や労働相談によっても確

認できる。

 労働弁護団が

2010

12

4

日を中心に実施し

「全国一斉労働トラブルホットライン」では、相

談件数

126

件のうち、

「いじめ・嫌がらせ・差別」

19

件(

15.1

)を占めており、労働局調査結果と符

合する。

 大規模な調査として、自治労による「パワー・ハ

ラスメント

10

万人調査」がある

13)

。かつて「(労働

組合組織の実施した)相談内容の集計に「いじめ」

とか

「パワハラ」

「メンタルヘルス」などの言葉があ

まり

出てきていないことだ。」という指摘があった

だけに

14)

、モラルハラスメント問題に対して労働

組合組織の側から積極的な取り組みが見られる

動向は評価に値しよう。自治労調査は、具体的な

ハラスメント

行為の分類による集計、ハラスメント

事実が職場環境に及ぼす影響の評価を明らか

する

点や被害行為だけでなく加害行為も対象にし

ている

点など、従来の調査にはない特徴があるが、

ここでは、主要な結果を引用して、自治体職場固

有の問題の有無は別としても、現在の全体的な状

況を反映したものとして把握することにする。調査

によれば

「過去

3

年間でパワハラを受けた人」は

21.9%

3

年より以前も含めて「パワハラを受けたこ

とがある

人」も含めると、

「パワハラを受けた人」の

割合は

32.5%

にも

達している(図表

11

)。その「パワ

ハラ

」の行為種別の詳細な分類が図表

12

である

パワハラの

行為類型とパワハラの認識度との相関

関係を明らかにしようとしたのは、図表

13

である。

パワハラ

行為を受けた後の職場の状況は、図表

14

示している。被害者が「職場でとった行動」は、

図表

15

であるが

、ここでは、組合も含めて、相談窓

口や担当部署に相談したとする者の比率は極め

少ないという問題状況を裏付けている。他方、自

治労調査のユニークな点は、加害行為について設

問(図表

16

)である。自治労側では、

「職場別で大

きな

違いはないが、消防署では、

「性格や容貌をか

らかったり非難する」

「大声で感情的にしかる」、清

掃センターでは「性格や容貌をからかったり非難

する

」がやや多くなっている。パワハラだと思わず

自分がやったと回答している可能性もあり、こう

した

行為をする職場の雰囲気があることも考えら

れる

。」と総括していることは気になるところである。

13)調査票ベースで、配布数

103,827

枚、 有効回収数

62,243

枚であり、これだけの大規模な調査は 画期的である(「自治労パワー・ハラスメント

10

万人 実態調査報告書」自治労賃金資料

No.191

2010

))。 本調査では、「パワー・ハラスメント」の定義として 「職場のハラスメント研究所」の定義も引用しながら、 「職場において、地位や人間関係で弱い立場の相手に対して、 繰り返し精神的又は身体的苦痛を与えることにより、 結果として働く人たちの権利を侵害し、職場環境を 悪化させる行為」(狭義の「パワハラ」概念)としている。 他方、調査項目の中では「パワハラの行為者」として 「同僚、部下・後輩、住民・利用者」の選択肢 (広義の「パワハラ」概念)を設けているように、 「パワハラ」概念の定義性は曖昧である。そのために、 本稿では、「モラルハラスメント」概念を用いている。 14「急増) する雇用問題の裏に潜む「いじめ」と

(13)

148

彦根論叢 2011 spring / No.387 過去3年間でパワハラを受けたことの有無 総 計 18.5 10.6 66.2 62243 3.4 3.5 16.3 9.7 69.5 1.31.1 3.2 21.3 11.6 62.2 1.8 21.9 19.7 27605 24.5 男性 女性 性 別 34565 過 去 3 年 間 に 受 け た 計 件 数 無 回 答 受 け た こ と は な い 3 年 よ り 以 前 に 受 け た 重 大 か ど う か は わ か ら な い が 受 け た 重 大 な パ ワ ハ ラ を 受 け た 過去3年間の職場での言動について(〈自分が受けた〉の比率) 20 (%) 10 16.4 13.3 12.8 10.3 9.9 8.3 7.8 7.5 7.0 6.6 5.5 4.1 3.9 総 計 (件数=62243) 1.2 2.3 0 大 声 な ど 感 情 的 に し か る さ さ い な ミ ス を し つ こ く し か る 意 向 を 無 視 し た 一 方 的 な 指 示 を す る 性 格 や 容 貌 を か ら か っ た り 非 難 す る 悪 口 や 陰 口 で 足 を 引 っ 張 る 必 要 以 上 に 仕 事 の 監 視 や 関 与 を す る 人 と し て み ず 馬 鹿 に し た 態 度 を と る 無 能 扱 い し た り わ ざ と 低 評 価 を す る 仕 事 仲 間 と み な さ な い 対 応 を す る 指 示 を し な か っ た り 決 裁 を 遅 ら せ る 配 置 な ど で 不 利 益 な 取 り 扱 い を す る 暴 力 や 身 体 的 虐 待 を 加 え る そ の 他 パ ワ ハ ラ と 思 わ れ る も の 無 理 難 題 を い っ て お ど す 休 暇 不 承 認 や 残 業 強 制 を わ ざ と す る

図表

11

「パワハラの被害経験」

図表

12

「パワハラの被害行為種別」

(14)

過去3年間に受けたこと別にみたパワハラの度合い(過去3年間にパワハラを受けた方) 重 大 な パ ワ ハ ラ を 受 け た 件 数 重 大 か ど う か は わ か ら な い が 受 け た 過 去 3 年 間 に 受 け た こ と 暴力や身体的虐待 を加える 無 理 難 題をいって おどす 人としてみず馬鹿に した態度をとる 配置などで不利益 な取り扱いをする 無能扱いしたりわざ と低評価をする 休暇不承認や残業 強制をわざとする 仕事仲間とみなさな い対応をする 必要以上に仕事の 監視や関与をする 指示をしなかったり 決裁を遅らせる 悪口や陰口で足を 引っ張る 性格や容貌をからか ったり非難する ささいなミスをしつこ くしかる 意 向を無 視した一 方的な指示をする 大声など感情的に しかる 43.2 56.8 38.8 30.8 30.4 29.9 29.3 29.2 27.5 26.9 25.9 22.8 22.3 22.2 20.7 61.2 69.2 69.6 70.1 70.7 70.8 72.5 73.1 74.1 77.2 77.7 77.8 79.3 558 2118 3832 2438 3689 1851 3452 4013 2995 4178 3735 5726 5844 6720 パワハラ行為を受けた後の状況(過去3年間にパワハラを受けた方・4つ以内選択) 過去3年間に受けた計 (N=13616) うち男性 (N=6818) (N=6773)うち女性 気 分 が 沈 ん で ゆ う う つ に な っ た 相 手 に 気 を 使 い 避 け る よ う に な っ た 転 勤 ・ 異 動 し た く な っ た な る べ く 気 に し な い よ う に し た 仕 事 に 集 中 で き な く な っ た 情 け な い 気 持 ち で 自 分 を 責 め た 心 療 内 科 ・ 精 神 科 に 通 院 し た 不 愉 快 で 頭 に き た 辞 め た く な っ た 休 み が ち に な っ た そ の 他 と く に な い 死 に た く な っ た (%)70 60 50 40 30 20 10 0 58.4 52.1 64.8 53.6 57.9 49.2 44.4 39.1 49.8 35.6 37.6 33.6 34.0 25.6 42.4 27.0 27.6 26.3 24.3 26.7 21.9 21.2 16.0 26.5 7.7 8.4 7.0 5.36.54.9 5.7 6.9 3.6 4.33.65.0 2.23.41.0 58.4 52.1 64.8 53.6 57.9 49.2 44.4 39.1 49.8 35.6 37.6 33.6 34.0 25.6 42.4 27.0 27.6 26.3 24.3 21.9 21.2 16.0 26.5 7.7 8.4 5.3 6.5 4.9 5.7 6.9 3.6 4.33.65.0 2.23.41.0 26.7 7.0

図表

13

「行為類型と認識度」

図表

14

「パワハラと職場環境」

(15)

150

彦根論叢 2011 spring / No.387 過去3年間に受けた計 (N=13616) うち男性 (N=6818) (N=6773)うち女性 パワハラに対して職場でとった行動(過去3年間にパワハラを受けた方・2つ以内選択) 職 場 の 先 輩 や 同 僚 に 相 談 し た 職 場 の 上 司 に 相 談 し た 相手 に 嫌 だ と わ か ら せ よ う と し た 担 当 部 署 や 窓 口 に 相 談 し た 弁 護 士 な ど 職 場 外 の 機 関 に 相 談 し た 職 場 で は 何 も し な か っ た 50 40 30 20 10 0 (%) 相 手 に 抗 議 し た 組 合 に 相 談 し た そ の 他 42.5 34.0 19.4 22.1 16.7 13.6 15.2 11.9 13.5 15.7 11.4 4.2 4.3 4.1 2.42.32.5 1.0 1.2 0.9 5.14.35.9 40.4 45.4 35.4 25.7 42.5 34.0 19.4 22.1 16.7 15.2 11.9 13.5 15.7 11.4 4.2 4.3 4.1 2.42.32.5 1.0 1.2 0.9 5.14.35.9 40.4 45.4 35.4 25.7 13.6

図表

15

「パワハラへの対応」

過去3年間の職場での言動について(〈自分がした〉の比率) 10 5 0 (%) 総 計 (件数=62243) 5.7 3.9 3.7 1.4 1.3 1.2 1.2 1.0 1.0 0.5 0.5 0.4 0.4 0.1 5.3 大 声 な ど 感 情 的 に し か る さ さ い な ミ ス を し つ こ く し か る 意 向 を 無 視 し た 一 方 的 な 指 示 を す る 性 格 や 容 貌 を か ら か っ た り 非 難 す る 悪 口 や 陰 口 で 足 を 引 っ 張 る 必 要 以 上 に 仕 事 の 監 視 や 関 与 を す る 人 と し て み ず 馬 鹿 に し た 態 度 を と る 無 能 扱 い し た り わ ざ と 低 評 価 を す る 仕 事 仲 間 と み な さ な い 対 応 を す る 指 示 を し な か っ た り 決 裁 を 遅 ら せ る 配 置 な ど で 不 利 益 な 取 り 扱 い を す る 暴 力 や 身 体 的 虐 待 を 加 え る そ の 他 パ ワ ハ ラ と 思 わ れ る も の 無 理 難 題 を い っ て お ど す 休 暇 不 承 認 や 残 業 強 制 を わ ざ と す る

図表

16

「パワハラの加害行為種別」

出所(図表

11

∼図表

16

:

自治労賃金資料

No.191

2010

)、

8

頁以下。

(16)

 ところで、こうした調査結果は、公的機関や労

働組合に何らかの繋がりや立場のある被害者か

らの

声の反映である。それは、公的機関に訴えるこ

とが

可能であるという

「情報」を持っている人やその

「勇気」を持ちえた人、あるいは問題解決の可能性

積極的な姿勢を示している組織内部の構成員

の声の反映に過ぎない。そうした「アンテナ」に触

れることのない

立場の人々の実情にも目を向ける

努力が求められるところである。その意味で、民間

団体 の「 職場 のモラル・ハラスメントをなくす

会」

15)

実施している電話相談の結果からは(図

17

)、より深刻な実情が浮き彫りにされている。

「職場のモラルハラスメントをなくす会」が電話相

談を受けた過去

3

年間の

150

件以上の事例の分析

であるが

、モラルハラスメントの具体的な内容が

明らかになっていることとともに、相談者の側が、

公的機関や労働組合組織から離れた立場にあっ

、対処方法や解決手段についての知識そのもの

必要とすること以上に、訴えを受け止めてくれる

相手を求めているという、被害者が孤立した状態

置かれている実情が窺われる。

15

http://www.morahara.org.

図表

17

「いじめ・モラハラ行為の内容(なくす会)」

⑧その他 19 件数 ⑦違法業務強要 2 ⑥セクハラ 2 ⑤労働条件差別 7 ④無視 7 ③仕事取りあげ・職場八分 8 ②退職強要 16 ①人格攻撃(暴言・罵倒・  からかい・叱責)  43 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 ⑥会とのコンタクト 11 ⑤交渉依頼 5 ④話を聞いてほしいこと自体 9 ③資料 9 ②紹介(弁護士・カウン    セラー・公的機関)  14 ①アドバイス 40 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 件数 (対処方法 31,いじめ・ モラハラの該当確認 7, その他 2) 「相談内容(被害者が求めること()なくす会)」 出所:「職場のモラル・ハラスメントをなくす会」ニュースレター

No.9(2010)

29

頁。

(17)

152

彦根論叢 2011 spring / No.387

 モラルハラスメントに対して、裁判の場で救済

する

可能性がかなり拓かれ、行政機関も相談窓口

設け、労働組合組織や民間団体も積極的な対

応策を講じようとしている現状ではあるが、そのよ

うな動向や情報に接する機会もないままに、半ば

泣き寝入りに近い立場に置かれている被害者が相

当いること、そのような被害者に対してどのような

救済制度を講じるのかを留意する必要がある。

 他方、相談体制や救済制度における問題点に

ついては

「「社内(相談)窓口があっても相談は社

外に」、

「メンタルヘルス問題に苦しんで、相談に辿

着くまでの時間が長すぎるために、相談する前

悪化させてしまうケースが散見」」などと指摘さ

れている

16)

。また、メリルリンチ事件

17)

では

「自己

受けた嫌がらせに対する救済のため社内手続

きを利用する」ために「原告の主張をまとめた面談

書面・その裏付け資料」を弁護士に交付して、相

談したことが、従業員としての「秘密保持義務」違

反に問われたものである。こうした現状は、職場に

おけるモラルハラスメント

規制の制度について、当

事者に委ねるのではなく、何らかの法的保護や社

会的規制を必要としていることを物語っている。

III

判例の動向

 モラルハラスメントに関する判例動向について

は、紙幅の関係もあり、別稿を準備しており、本稿

では

、この

10

年間の判例におけるモラルハラスメ

ント

事例をまとめた一覧表を引用しておくにとどめ

。この表では、救済方法、責任主体、加害者、言

動類型の区分による分類を目的とし、典型例を整

理している。

 このハラスメント関係の裁判例は近年増えつつ

あるが

「職場のモラル・ハラスメントをなくす会」

、大阪弁護士会所属の労働弁護士を対象に

行った「職場のハラスメント相談アンケート」で

18)

「職場のいじめ、モラルハラスメントやパワー

ハラスメント

」に関する相談を受けたと回答した弁

護士全員(

5

名)が、

「受任しなかった」と答えている。

裁判事例として表面化していない事例が相当数に

上っていることを物語るとともに、裁判上の救済に

はハードルが

高いこと、法的解決システムが整備

されていないことを

示している。立法的規制を必

要とする所以である。

IV

立法的規制のあり方と動向

 モラルハラスメントの深刻な実情に対して、前

掲の一覧表にあるように、労災認定として、あるい

損害賠償訴訟として、司法上の救済が行われて

いる

。しかし、その法的な根拠や定義等について

、未だ混沌とした状況にあり、今後、立法的規制

必要な段階を迎えている。ここでは、立法的規

制のあり方やその重要な論点について、整理してお

。判例動向は、Ⅲにおいて対象とする課題であ

るが

、必要最小限の引用を行っている。

1

:モラルハラスメントをめぐる

法的規制の現状

 「いじめ」や「パワハラ」という概念は、判決です

でに

取り上げられ、その事実自体が法的保護の対

象とされ、すでに法的概念として認知されている。

その

根拠や制度として、安全配慮義務、労災制度

注目することとする。

16)前掲

Business Labor Trend

28-29

頁。

17)東京地判

2003.9.17

労判

858-57

。 判決は「原告が本件各書類を弁護士に開示、 交付したのは、自己の救済を求めるという目的のためであり、 それは不当な目的とはいえない・・・・原告が秘密保持義務に 違反したとはいえない」と判示した。 18「労働弁護士」)

240

名を対象に

2007

8

月に実施した アンケートであるが、回収率が低かったため(

2.5%

)、 結果は公表されていない。

(18)

事件名 裁判所・日 概要 判旨 分類 中郷村 新潟地高田支

2000.12.7

判例地方自治

215-77

勤務先の役場で具体的な仕事を決めな いまま配置転換され仕事を与えられない などのいじめを受けた。 「合理的な理由がなく違法」として村の 賠償責任(

60

万円)。 【損害賠償型】(村) 《上司によるいじめ》 『配転・仕事取りあ げ』 不動産会社 東京地裁

2001.11.26

約電話で顧客訪問の約束を取り付ける仕

1

年間にわたり、教育係の上司の下で 事をしていたが、上司からいつも「遅刻が 多い」「やる気がない」「成績が上がらな い」など怒鳴りつけられていた。さらに上 司は素手やボクシンググローブで顔を 殴ったり、たばこの火を手に押し付けたり したほか、ガスライターのガスを首に吹き 付けて凍傷を負わせたり、オイルを机の 上にまいて火を付けることもあった。 「いじめをしていたのは明らか」(元上司 に)損害賠償(

50

万円)。 【損害賠償型】(上司実行者) 《上司によるいじめ》 『叱責・暴力』

JR

西 大阪地裁

2001.12.26

労判

858-163

「夏期多客安全輸送期間中の指導」とし て、踏切の両側に描いた

1

メートル四方 の白線枠内で横断者に安全指導するよ う指示され、長いときには

1

日約

8

時間に わたり計

5

6

日間、いすも用意されず作 業をさせられた。 「著しく過酷で、使用者の裁量権を逸 脱し違法」損害賠償(

44

万円)。 【損害賠償型】 (会社・上司) 《使用者によるいじ め》・『懲罰的業務』 川崎市水道 局 横浜地川崎支

2002.6.27

労判

832-61

東京高裁

2003.3.25

労判

849-87

異動後、課長や係長、主査から「何であ んなのがここに来たんだよ」「顔が赤く なってきた。そろそろ泣きだすぞ」などと言 われた。休みがちとなり、別の課に異動 後、自宅で首つり自殺。課長らを名指しし 「うらみながら死にます」などと書かれた 遺書が残されていた。 課長を「いじめを制止せず同調した」、 被告ではない当時の課長も「調査や善 後策を怠った」とし、この

2

人の安全配 慮義務違反が自殺を招いたとし市の 損害賠償責任(

2,300

万円)。課長ら被 告

3

人の賠償責任について、国家賠償 法の観点から「公務員個人は負わな い」とした。 「上司

3

人が言動によるいじめを行っ た」と判断した上で、自殺との因果関係 も認定。 【損害賠償型】(市) 《上司によるいじめ》 『暴言』 北本病院 さいたま地裁

2004.9.24

労判

883-38

同僚らは男性に使い走りをさせたり、帰 宅後に呼び出すなどのいじめを

3

年近く 繰り返し、自殺の原因をつくった。 「いじめを

3

年近く繰り返し、自殺の原 因をつくった」と認定。男性に

1,000

万 円の賠償命令、病院側も職員の安全 配慮を怠ったとして、うち

500

万円につ いては連帯して支払う義務。 【損害賠償型】 ( 同僚実行者・使用 者) 《同僚によるいじめ》 ・『支配隷属』 京都サラ金 京都地裁

2006.4.27

労判

920-66

従業員が、職場の食事会の際、上司

(

課 長)からセクハラ行為を受け、それに抗 議したところ、その報復として「君の悪い 噂がぽっぽっと出てるぞ。ここにいられな くなるぞ」などといった圧力や退職を強 要するようなパワハラを受けるようにな り、精神的、身体的に体調を崩し、休業 せざるをえなくなった。 「食事会でのセクシャルハラスメント及 び退職を示唆するようなパワーハラス メントにより」精神的、身体的症状の 発生、程度、その期間を踏まえると、不 法行為を理由とする損害賠償として

110

万円(うち弁護士費用

10

万円)、体 調を壊し、休業せざるをえなくなった 期間の賃金支払義務。 【損害賠償型】 (使用者) 《上司によるいじめ》 ・『セクハラ抗議の 報復』

JR

西日本 広島支社 最三

2007.6.28

上司に反抗したことを理由に日勤教育を 受けさせられた。 日勤教育の一部を不当労働行為と認 め、損害賠償(

57

万円)。 【不当労働行為・損 害賠償型】(会社) 《使用者によるいじ め》・『懲罰的業務』

JR

西日本 大阪地裁

2007.9.19

労判

959-120

勤務中にミスを犯した社員に行う「日勤 教育」「日勤教育の必要はなく、除草など を命じられ精神的苦痛を受けた」。 「日勤教育の必要はなく、除草などを 命じられ精神的苦痛を受けた」と指摘 し、「掃除や清掃をさせたのは違法」、 損害賠償(

18

万円)。 【損害賠償型】 (会社)・ 《使用者によるいじ め》・『懲罰的業務』

図表

18

「判例における職場のモラルハラスメントの事例」

図表 1 : 「職場における暴力およびハラスメントに対する組織的要因」

参照

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