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法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成 (平成16年度 退職記念号 浅野 裕司 教授 水野 勝 教授) 利用統計を見る

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(1)

法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成

(平成16年度 退職記念号 浅野 裕司 教授 水野 勝

教授)

著者名(日)

武藤 節義

雑誌名

東洋法学

48

2

ページ

69-114

発行年

2005-03-25

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000567/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成

目  次

東洋法学

四 個人法理と団体法理の適用範囲と株式引受・株式譲渡行為の効果  3 契約効果としての債権的対人的効果と社団法上の効果としての株式引受人または株主たる地位の変動  2 株式引受契約・株式︵権利株を含む︶譲渡契約における社団的効果の非独自性・複合性  1 株主たる地位を変動させる法律行為の類型 三 株主たる地位を変動させる法律行為の基本的構成  4 商法第二〇四条第一項但書による株式譲渡制限の定めに違反して為された株式の譲渡について  3 株券発行前の株式譲渡について  2 権利株の譲渡について  1 株式の引受について 二 問題状況 一 はじめに 69

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法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成

     五

54321 

 株式譲渡制限の定めに違反して為された株式譲渡契約の効果  株券発行前の株式譲渡契約の効果  権利株譲渡契約の効果  株式引受契約とその無効・取消の制限  株式引受・株式譲渡行為における契約効果の重層性 株式引受・株式︵権利株を含む︶譲渡契約における契約効果の重層性と社団法理の適用

321

 株式会社における株主たる社員の入退社契約と社団法理の適用  社団をめぐる法律関係の類型化と社団法理の妥当範囲  団体法理︵社団法理︶の特質と個人法理としての民法の適用 はじめに  商法第一九〇条は、株式の引受に因る権利の譲渡は会社に対し其の効力を生ぜず。と規定し、また、商法第二〇 四条第二項は、株券発行前に為したる株式の譲渡は会社に対し其の効力を生ぜず。と定め、これらの譲渡行為の 効果が会社にその効力を及ぽさないことを明文を以て定めている。  更に、条文上規定されてはいないものの商法第二〇四条第一項但書に基づき、定款の定めによる株式譲渡制限 ある会社の株式につきこの譲渡制限の定めに違反して取締役会の承認を得ずになされた株式譲渡の効果について も、前記条文を以て規定されている場合と同様に会社に対しては其の効力を生じないとするのが、判例および通 説であるように見受けられる。 70

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 しかし、条文で規定している﹁⋮⋮会社に対し其の効力を生じない。﹂、或いは﹁⋮⋮会社に対し其の効力が及 ばない。﹂、とする条文や判例の意味をどのように理解するかについては、当事者間および対会社間の法律関係に つき様々な解釈や見解の対立が見られ、その帰一するところが定まっていないのが現状である。  本稿は、これらの間題について、商法第一七五条第九項の規定や同法第一九一条の規定を含めて、法律行為に よる株主たる地位の変動を、権利変動事由たる当該法律行為の特性を明らかにしつつ、統一的に理解するための 理論構成を試みようとするものである。 二 問題状況  法律行為による株主たる地位の変動に関しての商法およびそれら規定をめぐる学説・判例の現在の概況は次の とおりである。

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 1 株式の引受について  商法第一七五条第九項は、﹁民法第九三条但書の規定は株式の申込には之を適用せず。﹂とし、また、商法第 一九一条は、﹁株式を引受けたる者は会社の成立後は錯誤⋮⋮を理由として其の引受の無効を主張し又は詐欺若し くは強迫を理由として其の引受を取消すことを得ず。創立総会に出席してその権利を行使したるとき亦同じ。﹂と 規定し、株式引受行為の無効取消に関する民法の規定の適用を排除もしくは時的に制限している。 71

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法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成  即ち、民法の法律行為に関する無効事由中心裡留保で相手方が悪意か善意であっても心裡留保による意思表示 であることを知りうる事情の下にあったとき無効は、株式引受け行為については適用されないこととされており また明文の規定は設けられていないが、通謀虚偽表示による株式引受け行為の無効の主張も心裡留保に関する民        ︵←︵2︶ 法第九三条但書の場合と同様に適用されないとするのが判例の立場であり学説もこの判例を支持している。  また、商法第一九一条は、株式引受け行為につき、要素の錯誤を理由とする無効の主張や詐欺・強迫を理由と する取消の主張については、その適用を肯定しつつも取消権の行使につき時的な制限を設け、設立登記により会 社が成立した後、またはその前であっても株式引受人が創立総会に出席して株式引受人としての権利を行使した 後は、その株式引受け行為を取消すことができないこととしているのである。  右以外の民法が規定する法律行為の無効取消事由が、株式引受け行為に適用されるか否かについては、明文の 規定を欠いているが、無効事由中、民法第九〇条が規定する無効の適用については、株式引受け行為による株主 権の発生という法律効果が公序良俗に違反することはあり得ず、ただ株式引受け行為の縁由が不法な目的で為さ れた場合に関しそれが不法原因給付としての法律関係が間題となるにすぎない。  もう一つの無効事由として、意思無能力者による株式引受け行為の無効が間題となるが、これを特に論じた学 説や判例は見受けられないが、私法自治の原則どおり効果意思を欠く法律行為として、民法の原則が株式引受け 行為についてもそのまま適用され意思無能力を理由とする無効の主張は、会社成立後でもこれを主張することは 許されると解することでは異論を見ない。 72

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 株式引受け行為の取消に関しては、前記商法が規定する取消事由中、民法は制限能力者の為した行為たること を理由とする法律行為の取消と、その法律行為が詐害行為にあたる場合の取消︵民法第四二四条︶を規定してい るが、これら事由が株式引受け行為に存する場合につき、制限能力者の株式引受け行為については、制限能力者 の保護の観点と、商法第一九一条の取消権行使制限が敢えて規定していないという条文の反対解釈から、これら 制限能力者の為した株式引受け行為についても、民法の原則どおり、その取消権の行使が認められ取消権の行使        ︵3×4︶ 時期についても商法第一九一条のような制限を受けるものではないと解されている。  株式引受け行為の履行として為される出資たる金銭の支払や現物出資の目的物である財産権の移転が、民法第 四二四条第一項が規定する詐害行為にあたる場合の株式引受け行為の取消および出資として出掲した金銭又は財 産権の返還につきその適用を見るか否かにつき、判例は民法第四二四条の適用を認めその主張に時的制限がない       ︵5︶︵6︶ との立場をとっており、通説も判例と同様の見解をとっているが、有力な反対説も主張されている。

東洋法学

 2 権利株の譲渡について  商法第一九〇条は、﹁株式の引受に因る権利の譲渡は会社に対し其の効力を生ぜず。﹂と規定し、権利株の譲渡 行為の効果としての株式引受人たる地位の移転という効果は、少なくとも会社にその効力が及ばないことを条文 上定めている。  ここで言う株式の引受けに因る権利とは、設立中の会社における株式申込を為した申込人たる地位および設立 73

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法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成 中の会社から株式申込に対して為された株式の割当によって形成された株式引受人たる地位並びに払込期日に出 資たる金銭の払込または現物出資の給付を為した会社成立前の株式引受人たる地位を含むものと解されている。  この規定は、新株発行という会社の法人格成立後の株式の引受人についても商法第二八○条の一四第二項でも 準用されているので、会社の法人格成立前後を間わず適用されるものであることは明らかである。要は、株式が 成立し、株式引受人が株主たる地位を取得する以前の株式引受人たる地位の譲渡行為については、会社にその効 力が及ばないことを一般的に規定したものと解される。  もっとも、会社の設立時と新株発行の場合とでは、株式引受人が未だ株主とならず株式引受人たる地位にとど まらざるを得ない期問には大きな差があり、会社の設立ではその期間が設立手続で多くの段階的な行為が要求さ れるため比較的長期の時的経過を要することになるが、新株発行では、株式引受人が払込又は現物出資を履行し たときは払込又は現物出資の履行期限である払込期日の翌日株主たる地位を取得するものとされているところか ら︵商法第二八○条の九第一項︶、株式引受人たる地位にとどまる期間は設立時の場合よりも短期間で終了するこ とになる。  それはともかく、権利株の譲渡の効力が会社に及ばないとするこれら規定の解釈をめぐって間題とされるのは、 株式引受人と第三者で約定された権利株譲渡契約の効力としての当事者間の効果と対会社︵設立中の会社を含む︶ の効果である。  条文の文言に沿った解釈では、会社にはその効力が及ばないとされているところから、対会社との効果は無効 74

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東洋法学

とされることになろうが、当事者間の効力と区別して会社にはその効力が及ばないと特に規定しているところか ら、条文上明定されてはいないが、当事者間では権利株譲渡契約の有効性を認める趣旨と解される。  このような理解は、判例学説でもほぼ一致しているが、この条文の解釈適用をめぐって学説上見解の対立が見 られるのは、商法第一九〇条が﹁⋮⋮会社に対し其の効力を生ぜず。﹂とする規定は権利株譲渡当事者がその譲渡 による権利株の取得の効果を会社に主張・対抗できないとしても、会社から譲渡の効果を認めることは可能か、 また、当事者間の譲渡契約の有効性とその対会社に及ぼす効果が原則無効であることとをどう統一的・調和的に 理論構成するかの点である。  この点に関して、通説は当事者間での権利株譲渡契約は有効であるが会社に対しては当事者からその効力を主 張し得ないのみならず、会社からもその効力を認め得ないものと解しているのに対し、少数説ではあるが当事者 から権利株譲渡の効力を会社に対し主張し得ないとしても、会社が自発的に権利株譲渡の効力を認めることを禁 止しているものではないと解し、権利株譲渡禁止の立法趣旨が設立事務の円滑、新株発行における株券事務の円        ︵7︶︵8×9︶ 滑を確保するためのものであることを理由に、通説に反対している。  このような学説上の対立は条文解釈とその立法趣旨からの見解の相違であるが、この間題の理解のためには、 権利株譲渡契約という法律行為につき、譲渡契約という債権契約とその効果として招来される契約上の債権債務 の発生と同時に、権利株と略称されている社団構成員たる地位の移転︵社員権の移転︶という重層的効果を分析 的に検討してその結論を導くべきではないかと考えられる。この点については後記五の入社契約・退社契約にお 75

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法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成 ける債権的効果と社団的効果で詳説することにしたい。  3 株券発行前の株式譲渡について  商法第二〇四条第二項は、﹁株券の発行前に為したる株式の譲渡は会社に対し其の効力を生ぜず。﹂と規定し、 株券の発行前に株券の交付なしで当事者間の意思表示で為された諾成行為としての株式譲渡合意の効果は、会社 に対してその効力を及ぽさない旨規定している。  この規定の﹁⋮⋮会社に対し其の効力を生ぜず。﹂との文言の解釈をめぐって様々な見解が表明されていること は、同様の文言規定である前記商法第一九〇条の場合と同様である。  この条文の文言解釈では、株券発行前であるため、株券の交付抜きで当事者の合意のみで約定された株式譲渡 契約は、合意当事者間では有効であるとしても、株式譲渡合意の効果としての株式移転の効力は会社に及ばない と解される。  この点に関し、当事者間の譲渡契約の有効性を承認することに関して異論がないが、対会社との関係について は、学説上条文の規定どおり無効とする通説に対し、譲渡当事者から会社にその有効性を主張することは許され ないとしても、会社から株券発行前の株式譲渡の効力を認めることは許されると解する有力反対説も見られる。  判例も、昭和四七年の大法廷判決を含めて株券発行前に株券の交付なしに為された諾成的株式譲渡契約の効果        ︵10V︵11×12︶ は会社にその効力を及ぼさないという基本的見解を維持しているものと解される。 76

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東洋法学

 株券発行前に為された株式譲渡契約の効力を論ずるにあたっては、次の点に留意する必要がある。  第一には、株式の譲渡については、株式が株券という有価証券に化体表章されるため、その譲渡については有 価証券特有の譲渡方式として、当該証券である株券の交付をその効力要件として要求していることである。  商法第二〇五条一項はこの意味で、株式の譲渡については、当事者の譲渡合意のほか効力要件として譲渡され る株式の株券を譲渡人から譲受人に交付することを要することとし、株式譲渡行為を一種の要物行為と構成した ものである。  従って、株券発行前は株券が存在せず、株式譲渡の効力要件たる株券の交付という要件を欠くために無効とな るということである。  第二の留意点は、商法第二〇四条第二項が会社に対し其の効力を生ぜずと規定し、対会社との関係では無効と しつつも、譲渡当事者間における株式譲渡合意の効力を否定せずその有効性を認めている点である。  これらの点について、株式譲渡契約という債権債務の発生と、もう一つ当該会社の株主たる地位の譲渡人から 譲受人への移転という社団構成員たる地位の取得とそれからの離脱という法的効果の二側面があり、当事者間で は有効であるが会社にその効力を及ぼさないとの意味は、かかる重層的効果のうち、債権的効果と社団的効果の 双方を含むのかそれとも当事者間の効果と対会社間の効果についてはこれら両効果が異なっていることを意味す るのかを検討することが必要と思われる。  この点については、後記五の入社契約・退社契約における債権的効果と社団的効果で改めて論ずることにする。 77

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法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成  4 商法第二〇四条第一項但書による株式譲渡制限の定めに違反して為された株式の譲渡について  商法第二〇四条第一項但書は、株式譲渡自由という制度的保障の特殊的例外として、定款の定めにより株式の 譲渡には取締役会の承認を要する制限を加えることを認めている。  かかる定款上の規定は、当該株式会社の株主がその有する株式を他人に譲渡するには取締役会の承認を得るこ とが効力要件として要求されることを意味するものと解される。  しかし、同条は、第一項但書による定款の定めに違反して為された株式譲渡行為の効果については直接これを 規定する条項を付加しておらず、また、商法上かかる違反行為についての株式譲渡契約の効力を規定する条文も 設けられていない。  従って、株式譲渡制限の定めのある会社の株主が定款の定めに違反して、取締役会の承認を得ないまま為した 株式譲渡の法律効果については専ら学説・判例にその判断が委ねられている。  しかし、その効果については、学説も対立しているばかりではなく、取締役会の承認を得ないで為された株式 譲渡の効果についての判例に関しても、学説による判示の趣旨についてその見解が必ずしも一致していないのが 現状である。  定款上株式譲渡には取締役会の承認を要する旨の規定が設けられている場合には、商事自治法としての定款の 定めは、当該社団構成員たる株主に一般的覇束力を及ぼすことになるので、取締役会の承認を得ないで為された 株式の譲渡については、会社はその譲渡行為の効果を否認・否定しうることは当然といわなければならない。 78

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 従って、かかる株式譲渡の効力は会社に及ばないとする点については、学説・判例もその見解が原則的に一致 していると解することができる。        ︵13︶  見解の対立があるのは、譲渡当事者間の効力に関してである。  学説では、当事者間の効力も無効とする立場と、当事者間では有効と解されるとする見解が対立している。  取締役会の承認を得ないで為された株式譲渡行為は対会社関係では勿論、当事者間でも無効とする立場は、そ の主たる理由として次の二点をあげている。  第一に、商法第二〇四条第一項は株式の自由譲渡性の大原則を前提として、その自由譲渡制が制限され自由に 譲渡できない場合を定めたものであり、取締役会の承認はかかる会社における株式譲渡の効力要件をなしこれを 欠く譲渡は無効である。しかも、同条同項但書は、その効果として商法第一九〇条や同法二〇四条第二項が規定 しているように無効とされる効力の範囲を対会社関係に限定する規定を設けていない以上、当事者問でも無効と 解すべきである。  第二の理由は、当事者間でも無効と解しなければ、譲渡当事者間では株主たる地位が譲受人に移転することに なり、株主権の行使について対会社間と当事者間では分裂が生じ、株主総会の議決権の行使やその他の共益権の 行使についても解決し難い混乱が生ずることになると指摘する。  これに対し、取締役会の承認を得ないで為された株式譲渡でも、対会社との関係ではその効力は会社に及ばな いとしても譲渡当事者間ではその譲渡合意の効力は生ずると解する立場では、商法第二〇四条第一項但書が定款 79

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法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成 による株式の譲渡制限を許容した立法趣旨は、専ら会社にとって好ましくない者が株主となることを防止するた めの方途としてこれを許容したものであるにすぎないから、株式の自由譲渡性の保障からも、当事者間の効力ま で否定する必要はないと解している。  この点につき判示した基本判例は、最高裁判所昭和四八年六月一五日の第二小法廷判決である︵民集第二七巻       ︵1 4︶ 第六号七〇〇頁︶。  この判決で判例は、定款を以て株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨定められている場合に、その承認 を得ないで株式が譲渡されても、右株式の譲渡は、譲渡当事者間においては有効であると解すべきである、と判 示し、譲渡の効果は会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間においては有効であることを明言し ている。  判決理由として、右判例は、商法第二〇四条第一項但書が定款による譲渡制限の定めを許容した立法趣旨は、 専ら会社にとって好ましくない者が株主となることを防止することにあると解され、株式譲渡自由の原則に照ら し、当事者間の効力は有効と解するのが相当であるというのがその見解である。  この判例の立場は、学説のうちいわゆる相対的効果説の見解を支持しているようにも見えるが、判決内容とし て更に検討を要するのは右判決が述べている﹁⋮⋮譲渡当事者間では有効である⋮⋮﹂という﹁有効﹂の意味で ある。  ここで判決が言う意昧を内容的に確定するためには、株式譲渡行為という法律行為につき、当事者間における 80

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債権契約としての債権債務の発生という効果と、株式譲渡行為によって生ずべき営利社団法人としての株式会社 の社団構成員たる株主たる地位が、譲渡人については退社、譲受人にとっては入社という社団員の地位の変動と いう、法的効果の二側面に分けて、それぞれの効果につきその有効・無効を検討する必要がある。  この点に関しては、次章および第五章の4で改めて論ずることにする。

東洋法学

︵1V ︵2︶ ︵3︶ ︵4︶  昭和二九年一二月二八日、福岡高裁判決、高等裁判所民事判例集第七巻一二号二四七頁所掲では、﹁⋮⋮会社と 通謀して、増資新株の引受と同時に会社に対する既存債権を新株の払込債務に振り替える旨の虚偽の意思表示をな した場合において、商法の規定上、非真意表示ないし通謀虚偽表示たることを理由として株主引受の無効を主張し得 ないが⋮⋮﹂と判示し、株主引受行為についてはその行為の当初から、民法第九四条第一項の適用はなくその無効を 主張しえないとしている。  株式引受行為につき、民法第九四条第一項の適用の有無については、学説は団体法理の適用から前掲︵1︶の判例を 支持し商法第一七五条第九項を類推適用して、当初から無効の主張は許されないと解している︵前田重行、新版注釈 会社法②一八一頁、喜多川篤典、商事判例研究昭和三八年度七二事件評釈︶。  学説では、制限能力者の保護の観点からいずれも株式引受行為を制限能力者が為したことを理由として、会社成立 後や新株発行の増資変更登記の日から一年を経過した後でもその取消しを主張しうると解し異論を見ない︵鈴木竹 雄、新版会社法第三版六二頁、石井照久u鴻常夫、会社法第一巻一一八頁、前田重行、新版注釈会社法②一八二頁︶。  株式引受の履行として為された出資としての金銭の払込または現物出資目的財産権の移転もそれが詐害行為にあ たるときは、民法第四二四条の適用または類推適用により、その取消しと出絹財産の返還を求めうることを認めた判 例としては、大審院判決大正七年一〇月二八日、民録第二四輯一二九五頁、最高裁判所昭和三九年一月二三日判決民 集第一八巻二七頁があり、民法第四二四条による取消しは許されないとする判例としては、昭和三三年七月二五日宇 81

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法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成 ︵5︶ ︵6︶ ︵7︶ ︵8︶ ︵9︶ ︵10︶ ︵1 1︶ 都宮地方裁判所判決下級裁判所民事判例集第九巻七号一四三三頁がある。  株式引受行為についても、民法第四二四条による取消の主張が時的制限を受けることなく許されるとする学説と しては龍田節、商事判例研究第一巻二四頁、田中耕太郎、会社法概論上一八六頁、志村治美、新版注釈会社法②三四 三頁などがあるが、むしろ民法学者では同条の適用を肯定する者が多い。我妻栄、新訂債権総論一七七頁、於保不二 雄、債権総論、新版一八三頁。  学説中、株式引受行為については民法第四二四条の適用はなく、出資行為を詐害行為として取消すことは許されな いと解するものとしては、大隅健一郎H今井宏、新版会社法論上一九九頁、加美和照、新訂会社法八一頁、をあげる ことができる。  商法第一九〇条が規定している﹃⋮⋮会社に対し其の効力を生ぜず。﹂との対会社関係の効力について、権利株譲 渡行為の効果は無効と解することについて、判例︵大審院明治四三年九月二六日判決、民録第一六輯五八三頁、最高 裁判所昭和三三年一〇月二四日判決、民集一二巻一四号三一九四頁︶および学説︵松田二郎“鈴木忠一、条解株式会 社法ω七三頁、小橋一郎、会社法︹改訂版︺五八頁︶などその見解が一致しているが、権利株譲渡の効果を会社の方 からその有効性を認めうるかについてはその見解が分かれている。  権利株の譲渡の効果が当事者間で有効であるとしても、対会社間では無効であるので当事者からは勿論、会社から もその有効であることを認めることは許されないと解す立場としては、前掲松田“鈴木、大隅健一郎n今井宏、新版 会社法論上二五六頁がある。  前掲︵8︶の無効説に反対し、会社から権利株譲渡の有効性を認めることは許されるとするものには、鈴木竹雄、新 版全訂第三版会社法六九∼七〇頁、北沢正啓、新版会社法二〇三頁などがある。  株券発行前の株式譲渡行為の効力は、会社に及ばないとする商法第二〇四条第二項の解釈をめぐる学説上の対立 は、商法第一九〇条の解釈をめぐる学説上の対立と軌を一にしており、その有効性を会社からも認めることは許され ないとする立場としては、前掲大隅“今井ω三七〇頁、上柳克郎、新版注釈会社法③七三頁。  前掲︵10︶の見解とは反対に、対会社との効力につき、譲渡当事者から会社に対しその有効性は主張し得ないとし 82

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︵1 2︶ ︵13︶ ︵14︶ ても、会社からその有効であることを認めることは許されると解するものとしては、石井照久U鴻常夫、会社法㈹ 二二四頁、鈴木竹雄聴竹内昭夫、会社法一二四頁、六七頁などがある。  株券発行前の株式譲渡行為の効果について、判例︵最高裁判所昭和三三年一〇月二四日判決、民集第一二巻三一九 四頁、最高裁昭和四七年コ月八日大法廷判決、民集第二六巻一四八九頁を含めて基本的に対会社関係では無効であ るとの立場をとり、但し前記大法廷判決では、信義則上対会社関係で譲渡の効力が及ぶ場合がありうることを認めて いる。  定款による株式譲渡制限の定めある会社の株主が取締役会の承認を得ないまま株式を譲渡した場合の効果につい て、その株式譲渡の効果は会社に及ばないとする点では、学説および判例の見解は基本的に一致していると見られる が、当事者間の効果として債権契約としての有効性を認めるか否か、更には当事者問では有効と解した場合に株式移 転の効果につき当事者間でこれを認めることができるか否かについて様々な見解の対立がある。  かかる違反行為たる株式譲渡は会社に対する関係では勿論、当事者間でも無効と解さざるを得ないとするのは、小 町谷操三”菅原菊志、商法講義会社②一八二頁に代表される見解である。これに対し会社に対する関係では効力が認 められないとしても、譲渡当事者間では有効と解する立場のうち、債権契約としての効果は認められるが、株主たる 地位の移転の効果まで認められるものではないとする見解︵今井宏、ジュリスト﹁商法の争点1﹂七四∼五頁︶と当 事者問でその債権的効果は勿論株主たる地位の移転という社団的効果も生ずるとする見解︵酒巻俊雄、服部先生古稀 記念論文集﹁株主譲渡制限の機能と限界﹂四四九頁︶に更に分かれている。  この点に関する判例としては、会社との関係では株式移転の効果は及ばないから、当事者間でもその移転の効果は 認められないとする最高裁昭和六三年三月一五日判決が先行していたがその後当事者間では有効なものとして株式 の権利移転の効力が生ずると判示するに至っている︵最高裁判所昭和四八年六月一五日判決、民集第二七巻七〇〇 頁︶。しかし、この判決で判示した、﹁⋮⋮当事者間においては有効である⋮⋮﹂との意味と内容について、学説上そ の理解と評価が一致していない。 83

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84 法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成 三 株主たる地位を変動させる法律行為の基本的構成  1 株主たる地位を変動させる法律行為の類型  営利社団法人たる会社構成員としての社員の地位を変動させる原因は、清算結了や社員の死亡などをはじめと して出資の引受や持分・株式の譲渡など様々な事由が存在し、これら法律原因によって、形成中の会社を含めて、 その社団における社団構成員の入社、退社という変動が生ずる。  このうち、法律行為による社員たる地位の変動を株式会社について取り上げてその法律行為の類型およびその 法律構成と効果をここでは検討してみることにしたい。  会社の設立前の権利能力なき社団構成員としての地位の取得行為としては、株式の引受やその出資の払込によっ ていわゆる権利株といわれる株式引受人たる地位を取得し、法上一定の制限があるとしても株式引受け行為の無 効・取消により株式引受人たる地位を失い、また権利株の譲渡により株式引受人たる地位の変動が生ずる。  また、会社成立後にあっても新株の引受けとその出資の履行や株式譲渡によって当該株式会社における社団構 成員たる地位の取得や入・退社という社団員としての地位の変動が生ずることになる。  これら株式引受人や株主たる地位の変動を生じさせる法律行為は、株主引受け行為の無効・取消の場合を除き、 通常は、発起人と株式引受人間の株式引受契約、株式引受人と第三者間の権利株譲渡契約、あるいは会社と株式 引受人との間の新株引受契約や、株主と第三者間の株式譲渡契約といういずれも債権契約として約定される。そ

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東洋法学

の外形的表現形態は当事者間の債権契約がとられているところに共通性が認められる。  即ち、株式引受け行為についてはその申込に要式性が要求されているものの︵商法第一六九条、同第一七五条 第一項、同第二八○条の二二第四項︶、株式引受人の引受申込と発起人もしくは会社の申込者に対する承諾たる意 味を有する割当という行為、換言すれば申込と承諾によって成立するとされており、権利株の譲渡にあっては、 株式引受人とその権利株の譲受人間における権利株を譲渡し譲渡を受ける旨の対人的合意によって為される。  また、株式の譲渡は、譲受人に対する譲渡株式の株券の交付という要件が附加されているものの、当事者間に おける株式譲渡契約という債権契約によって為される。  しかしこれら法律行為は外形的表現形態としては債権契約の形式をとってはいるものの、その法律行為による 本来的究極的目的は、株式会社という社団の構成員たる地位の取得または移転を生じさせるという点にあること も共通している。  従って、これら一連の法律行為については、債権契約としての効果と、当事者がその契約によって生ぜしめる ことを意図している社員権の発生または移転という社団法上の社団行為としての効果の両面を分けて、その相互 関係を含めて法的構成や法律効果を検討する必要があることになる。 2 株式引受契約・株式︵権利株を含む︶譲渡契約における社団的効果の非独自性・複合性 商法および会社法もその範囲に含まれている私法分野においては、権利義務や法律関係の形成は、 法上の制限 85

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法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成 がない限り、当事者の自由に表明された意思に基づきそのとおりの変動を認めるという私法自治の原則によって 律せられ、法律行為の効果としての権利変動は当事者の表明した意思表示の如何にかかっている。  社会関係が極端にまで分業化が進んでいる現代社会では、私的財産関係が交換経済システムによって支えられ ていることから、これを法的に構成した債権契約として当事者の法律関係が形成されるのが通例である。  しかし、食料品の購入の場合の典型例によっても明らかなように、外形的表現形態が売買契約という債権契約 の形態をとりながらも、少なくとも買主という一方当事者の究極的目的は食料品という動産の入手、即ち動産所 有権の取得という物権変動を招来することである。  このように当事者間で約定された債権契約に債権債務の変動のほかに物権や社員権あるいは知的財産権などの 変動を生ぜしめる効果意思が含まれている場合が多く見受けられるのが常態である。  これらの場合、私法自治の原則・法律行為自由の原則からすれば、外形的表現形態としては債権契約として約 定された法律行為であっても、その法律行為を組成する意思表示の中に債権債務の変動のほかに物権・社員権・ 知的財産権などの権利変動を生じさせようという効果意思が、複合的に内包されていることが明示的に認められ る場合には、これら債権契約とは別に債権・債務の履行ないし給付としてなされる物権などの変動を生じさせる 物権合意、社団行為あるいは特許権譲渡合意などを改めて別個に約定することを要するものではないと解されて いる。  この点については、物権行為の非独自性として物権変動に関しては、学説および判例上でも広く承認されてい 86

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︵15︶ る。  従って、株式の引受、株式の譲渡という法律行為についても、同様に私法自治・法律行為自由の原則が妥当す るものと解する前提からすれば、それら法律行為が外形的表現形態として債権契約として為されている場合であっ ても、それら法律行為の効果意思に債権債務の変動と同時に株式会社の社員たる地位を変動させる効果意思が明 示的に含まれていることが観取されるときは、かかる一個の株式引受け行為や株式譲渡行為の効果として、当事 者間における債権債務の変動のほか社団法上の社員たる地位の変動たる株式の取得や移転という権利変動が生ず るものと解され、社団法上の社員たる地位を変動させる法律行為は、当事者間の債権契約としての合意とは別に 社団契約として別個独立した法律行為として為されることを必ずしも要するものではないと解することが妥当で ある。  このような立場に立てば、株式の引受とその割当という法律行為の効果としては債権契約としての効果として、 株式引受人は割当を受けた株式につき出資としての金銭の支払や現物出資の目的物を引渡す債務を負うことにな り、会社は出資を履行した株式引受人に株主たる地位を取得させ且つ株券を発行交付する債務を負うこととなる と同時に、社団法上の効果として株式引受人が会社の設立登記や払込期日の経過をまって当該株式会社の株主た る地位が認められることになる。  権利株や株式譲渡行為についても同様にそれら法律行為の債権契約の効果として、譲渡人は譲受人に対して株 式引受人たる地位や株主たる地位を移転取得させる債務を負い、これに対し譲受人はそれが権利株や株式の売買 87

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法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成 ならば対価としての代金支払義務を負うと同時に社団法上の効果として株式引受人たる地位の移転や株主たる地 位の移転という権利変動の効果を生ずることになる。但し、権利株の譲渡については商法第一九〇条やこれを準 用する同法第二八O条の一四第一項の規定があることから社団法上の効果は制限を受けることになるが、これら 制限の効果をどう解するかは改めて論ずることにする。  ここで指摘しておきたいのは、以上述べたように、株式引受け行為や権利株または株式譲渡行為は、いずれも 債権契約として約定されてはいるが、その行為については債権契約と構成される側面と社団契約と構成される側 面との両側面を有し、社団契約としての効果を生じさせる法律行為は右債権契約とは別個独立した行為として為 されることを必ずしも要せず、株式引受、権利株もしくは株式譲渡契約という具体的には一個の行為によって認 められるその非独自性とそれら法律行為の効果の複合性があるということである。  3 契約効果としての債権的対人的効果と社団法上の効果としての株式引受人または株主たる地位の変動  この論稿で取り上げている法律行為の効果を規定している商法第一九〇条や同第二〇四条第二項の規定をみる と、いずれも﹁⋮⋮会社に対し其の効力を生ぜず。﹂として、それら行為の効果については、文言上社団法上の効 果としての株式引受人もしくは株主たる地位変動について定めているにすぎず、それら行為の債権契約としての 効果については明言していない。  そこで、定款による譲渡制限の定めある会社の株式をかかる制限に違反して譲渡した場合を含めて、これら法 88

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律行為の債権契約としての効果と社団契約としての効果をここでは検討することにする。  商法第一九〇条、同第二〇四条第二項および商法第二〇四条第一項但書に基づく譲渡制限の定款の定めなどは、 いずれも公序良俗違反の具体的類型化ではなく、専ら設立中の会社もしくは成立後の会社が進めている株式の発 行などの画一・明確化や会社にとって好ましくない株主の参入を回避するというために設けられた規定であるこ とから、違反行為として為された法律行為としての債権契約の効果まで無効とする強行規定性を有するものでは       ︵16︶ ないと解するのが多数説・判例である。  これら現在の支配的見解に立てば、当事者間の効果としての債権債務の発生は認められ、前記規定が会社に対 してその効力は生じないと規定し言外に当事者間における契約効果を認めている規定の趣旨に合致することにな り、また、株式譲渡制限の定めのある会社の株式につき取締役会の承認を得ないで為された株式譲渡行為の効果 についても、譲渡当事者間の債権契約の効果は有効としてこれを肯定する多数説・判例の見解とも合致すること になる。但し、この場合いずれも当事者間の効果としてはその有効性を認めるという法的効果の範囲について、 債権契約としての効果のほかに、当事者間に限定するとはいえ権利株の移転や株主としての地位の移転という社 団的効果まで含ましめることができるか否かは、更に検討を要する間題である。  これに対し、権利株の譲渡、株券発行前の株式の譲渡や譲渡制限の定めのある会社の取締役会の承認を得ずに 為された株式譲渡行為の権利株や株式の移転という社団法上の社員たる地位の移転という効果については、明文 の規定のある場合について、対会社との関係では社員たる地位の移転という効果が生じないことは規定の文言上 89

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法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成 明らかである。  明文の規定を欠く商法第二〇四条第一項但書に基づく譲渡制限違反行為として為された株式譲渡行為の社団法 上の効果としての株主たる地位の移転という実体的権利移転︵会社に対する対抗要件を別として︶の効果につい ても会社に対しこれを主張することは原則として許されないと解されていることは、規定上効力が及ばないと明 文を以て定められている場合と同様である。  しかし、この社団法上の効果としての株式引受人もしくは株主たる地位の移転という効果につき、当事者間で は債権契約としての債権債務の発生のほか、かかる社員たる地位の移転という効果も生ずると解する説も有力で あることは、前記間題状況で紹介したところであり、判例も当事者間では社員たる地位の変動を認めたとも受け 取れる判示をなしている。  これら当事者間における社団関係における社員たる地位の変動の効果は、会社からその社団構成員たる地位の 取得の効果が認められない以上、当事者たる譲渡人・譲受人間で認められると解しても、社団構成員たる地位の 変動が生じない以上、説明としてはあり得ても社団という観点からは何ら意味をもつものではない点に留意する 必要がある。  当事者間では譲渡人に対し譲受人が株式引受人たる地位を取得させよという対人的請求権や、株主たる地位を 取得させよという対人的請求権として社員権の変動が間題となるにすぎず、これはとりも直さず譲渡行為の債権 契約としての効果にほかならない。 90

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 同様の法的構成として参考になるのは、他人物売買としての不動産売買契約や不動産賃借権の背信的無断譲渡 の場合の当事者間の効果とその契約が売買不動産の所有権や当該不動産の賃貸人に及ぼす効果である。  他人物売買の効果については、売買契約当事者間では債権契約としては有効に成立し、その効果として買主は 売主に対し売買代金支払債務を負い、売主は買主に対して他人所有不動産につきその所有権を取得して買主に移 転し且つそれら一連の所有権移転登記手続債務を負担するものとし、売員当事者問での有効な対人的請求権が発 生することを認めている。しかし、その売買契約という法律行為に内包されている売買目的不動産所有権移転合 意という物権合意の効果は、その不動産の所有権が売主以外の者に帰属している以上物権合意の効果としての目 的不動産所有権の移転は生ぜず、当該不動産の所有権者にその物権変動の効果を及ぼすものではない。その意昧 では当該不動産所有者との関係では無効であって、売主が所有者から不動産所有権を取得したときに売買不動産       ︵17︶ 所有権が買主に移転するという物権合意の効果が生ずるものと解されている。  ここでは、当事者間の債権契約の効果は有効であるが物権効果としての不動産所有者にはその効力を及ぼさな いとする法的効果の構成がとられており、商法第一九〇条など前記の商法の規定が当事者聞での契約効果は有効 としても会社にその効力を及ぼさないとする規定の意味する法的効果の構成の相似性を見ることができる。  他人物売買における当事者間の債権契約の効果は有効であるが、この当事者間の有効性は売主・買主問の対人 的効果としての有効性を意味するにとどまり、売主と買主間において他人所有物である売買目的不動産所有権移 転という物権合意の効果までその有効性を主張しうるものでないことは明らかである。まして買主が契約当事者 91

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法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成 ではない不動産所有者に当該不動産売買による不動産所有権移転の効果を主張することが認められないのは勿論 である。  このように他人物売買の効力の法構成を参考にすると、商法における権利株の譲渡や株券発行前の株式の譲渡 について法が当事者間の譲渡契約は有効であるとしても会社にその効力が生じないと規定した趣旨は、当事者間 の譲渡契約は債権契約としての有効性は認めうるが、その譲渡合意に内包されている社員権の移転という社団法 上の権利変動の効果、即ち、株式引受人たる地位、株主たる地位の譲渡人から譲受人への移転の効果は生ぜず当 事者間で有効とする法的効果には社団法上の効果まで含むものではないと構成することができる。  また、先にあげた不動産賃借権の背信的無断譲渡では、不動産賃借人と賃借権の譲受人間の賃借権譲渡契約の 債権契約としての効果は契約締結当事者間における対人的権利義務は有効にその発生が認められ、賃借権の譲受 人は原賃借人である譲渡人に対し当該不動産を賃借使用させよという債権や賃借使用のための不動産の引渡を請 求する債権を有し、譲渡人たる原賃借人は譲受人に対し右譲受人が有する請求権に対応する債務を負うことにな る。しかし、かかる不動産賃借権の背信的無断譲渡契約の有効性は契約当事者間の効果として認められるにとど まり、契約当事者ではない当該不動産の賃貸人にその効力を及ぼすものではなく、賃借権の譲渡による譲受人の 不動産についての賃借使用権の適法化が生ぜず、譲受人は原賃貸人に対して当該不動産の賃借権を主張すること は認められないし、原賃貸人は賃借権の譲渡人たる原賃借人との間の賃貸借契約を解除するなどの行為を要する までもなく、また、賃借権の背信的無断譲渡契約の存否を間題とするまでもなく譲受人の当該不動産についての 92

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      ︵18︶ 使用・占有を排斥することが認められると解されている。  即ち、賃貸人の承諾を得ないで為された背信的な賃借権の無断譲渡契約では、譲渡当事者間での対人的債権債 務発生原因としての債権契約としての効果は有効であるが、契約当事者ではない賃貸人との関係ではその効果は 及ばないという法律効果の構成がとられているのである。  このような法構成は、そもそも債権・債務は特定当事者間における対人的請求権・対人的給付義務である特定 の債権者と特定の債務者にその法的効果を及ぽすにすぎないという人的範囲の限定があり、当事者の合意によっ て発生する契約上の債権・債務は合意当事者にのみその法的効果を及ぼすのが原則であり、賃貸借契約における 賃貸人の賃貸目的物を使用収益をなさしめる債務は、当該賃貸借契約における賃借人に対する対人的義務であっ て、契約上の賃借人以外の者に対してはかかる義務を負うものではないとするところに由来している。  商法第二〇四条第一項但書に基づき、定款の定めにより株式の譲渡には取締役会の承認を要する旨の株式譲渡 の制限が設けられている会社の株式の譲渡において、かかる定款上の定めに違反して、取締役会の承認を得ない で為された株式譲渡契約の効果について、その効力は会社との関係では原則として及ばないが、当事者間では有 効であると解されており、その当事者間では有効であるという意味を如何に解するかについては様々な意見の対 立があることは前述したとおりである。  株式譲渡制限の定めに違反して為された株式譲渡契約の効力の基本的法構成を、賃借権の背信的無断譲渡の効 果についての法構成を手がかりとして検討してみると、両者は共に本来的権利主体である取締役会などの承認・ 93

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法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成 同意・承諾を要する法律変動原因につき、いずれもこれを得ていないという共通性が認められる。  両者の異なる点は株式譲渡制限違反行為にあっては株主たる地位の移転︵株式会社という社団構成員たる社員 の入社・退社︶という社団法上の効果、賃借権の背信的無効譲渡にあっては賃貸借契約上の賃借人たる地位の移 転︵対入的請求権者としての賃貸借契約上の賃借権の特定承継︶にあるが、この両者の差異は、法的効果の構成 に本質的な変更を及ぽすものではないと思われる。  賃借権の背信的無断譲渡にあっては、譲渡契約当事者間では、賃貸人の承諾がないにも拘らず譲渡人と譲受人 間では当該賃貸目的物について譲渡契約の効果として賃借人の地位の移転という契約の特定承継の効果が認めら れるが、これら当事者で認められる賃貸借契約における契約当事者である賃借人たる地位の承継の効果は、賃貸 人に及ばないことは先に指摘してきたとおりである。  即ち、契約当事者間では有効であるが、契約当事者ではない賃貸人との関係では譲渡契約の効力は及ばないと の法的効果の構成がとられている。  この法的効果の構成を参考にして、株式の譲渡制限の定めのある会社の株式を取締役会の承認を得ずに為され た株式の譲渡行為効果については、当事者間の対人的効果︵債権契約としての効果︶は有効であり、株式譲渡行 為に内包されている株式会社という社団の構成員たる地位の移転︵株式の移転︶という社団法上の効果は、株式 譲渡契約の当事者ではない会社には及ばない、とその法的効果を構成することができる。  この場合、当事者間でその有効性が認められる当事者問の効果を、譲渡人と譲受人間で譲渡人が譲受人に対し 94

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譲渡株式に基づく株主たる地位を移転させる債務、逆に譲受人が譲渡人に対し譲渡株式に基づく株主たる地位を 移転せよという請求権や会社に対し株主たる地位の承継を主張・対抗できるようにするために取締役会の承認を とることおよび株主名簿の名義書換手続をとることを求める請求権の発生を見るということのほかに、譲渡当事 者間たる譲渡人と譲受人間では株式譲渡に基づく株主たる地位の移転という社団法上の効果も認められるのか否 かが更に問題である。  営利社団法人たる株式会社の社団構成員たる地位の変動、株式の譲渡にあっては、譲渡人については社団から の退社、譲受人にとっては入社という社団構成員の変動は、社団レベルでその効果が認められない限り、実体的 権利変動の効果は何ら意味を持つものではなく、社団にはその効果を及ぽさないが、譲渡当事者間に限って株主 たる地位の移転の効果が認められるという解釈は何ら実質的効果をもたらすものでないことを留意しなければな らない。  このように見てくると、譲渡制限の定めのある会社の株式を取締役会の承認を得ないで譲渡した場合の譲渡行 為の効果の法構成は、債権契約としての当事者間の効果と、社団法上の株主たる地位の特定承継としての移転と いう対外的効果を分けて、当事者間ではその債権契約としての効果は認められるが、社団法上の効果としての株 主たる地位の移転という効果は、対会社との関係では効力が及ばないことは勿論、譲渡当事者間でも譲受人が譲 渡人に対し株主たる地位を取得し会社に対しこれを対抗できるための諸手続をとることを請求する債権は有する が、会社との関係を抜きにして当事者間での株主たる地位の移転の効果は生ずるものではないと構成することが 95

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法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成 妥当である。 ︵15︶ ︵16︶ ︵17︶ ︵18︶  物権行為につきその独自性を要するものではないとする見解は現在の学説・判例であると言うことができる。学説 では、我妻栄・有泉享補訂﹁新訂物権法︵民法講義n︶五七頁以下をはじめとして、舟橋諄一﹁物権法﹂︵法律学全 集一八︶八二頁以下、川島武宣﹁所有権法の理論新版﹂︵岩波書店︶二四八頁以下などが支配的見解となっており判 例も﹁⋮⋮不動産の売買契約においては、その契約完結と同時にその目的物の所有権は移転する⋮⋮﹂と判示して物 権行為についてはその独自性が要求されるものではないことを判示した大審院大正二年一〇月二五日判決︵民録一 九輯八五七頁をはじめとして最高裁判所昭和三三年六月二〇日判決︵民集一二巻一〇号一五八五頁︶など物権行為に 独自性を要しないとする点で判例の立場は一貫している。  学説としては河本一郎﹁現代会社法新訂六版﹂一四六頁、鈴木竹雄旺竹内昭夫﹁会社法﹂︵法律学全集二八︶一二 四頁以下、判例には前掲最高裁判所昭和四八年六月一五日判決がある。  具体的一個の法律行為によっても債権債務の変動と同時に物権変動の効果も認められるとする学説・判例の見解 は、前掲︵15︶に紹介したとおりである。       学説としては、我妻栄﹁債権各論中一﹂︵民法講義V︶四五六頁以下、星野英一﹁借地・借家法﹂︵法律学全集26︶ 二八七頁以下があり、判例では大審院昭和二年四月二五日判決︵民集六巻一八二頁︶のほか最高裁判所昭和二六年五 月三一日判決︵民集五巻六号三五九頁︶などをあげることができる。 96

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四 個人法理と団体法理の適用範囲と株式引受・株式譲渡行為の効果

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 1 団体法理︵社団法理︶の特質と個人法理としての民法の適用  現在、社会事象の法構成にあっては、法主体としての権利能力者を自然人のほかに法人という法主体を認める のが共通の原則である。  自然人を法主体として法律関係を構成する場合には、一対一の法律関係としてその構成を試みれば足りるのが 原則であるが、法人中、社団法人の場合には、多数の構成員を以て組成される人的集団に一個の法人格を認めて いることから、その法的構成においては多数人を内包する人的集団を単に法人という法上単一の権利能力者を主 体とする対外的権利・義務もしくは法律関係は、自然人を法主体としてなされる法構成の場合と異なり、社団構 成員に及ぽす法的効果を含めてその法構成を構想することが要求される。  自然人を法主体として法構成する場合に適用される原則を個人法理というとすれば、社団法人を法主体として 法構成する原則を団体法理もしくは社団法理ということができる。  個人法理では、当事者たる自然人間における権利義務としての法構成による利益の衡平と紛争の解決の個別的 具体的な妥当性を目的として法的効果を測定することになるが、団体法理の下にあっては、団体構成員個々の有 する権利利益の保護のほかに、独立法人格者としての社団を法主体とする団体そのものの法律関係の統一且つ画 一的な法構成が法律関係の明確確定性と法律関係の安定性の要請がこれに加わり、団体法理の特色をなすことに 97

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法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成 なる。  団体法理の特色としては、団体目的の達成、団体としての維持存続という要請から、個人法理に比して、法律 関係の画一的確定、団体構成員の平等の原則、多数決の原則、権限の機関分属化などの特質を有し、個人法理の       ︵19︶︵20V 原則がこれら特質によって修正されることになると指摘されている。  これら個人法理に対する団体法理の特質については、拙稿﹁会社法における個人法理と団体法理の交錯﹂︵﹁東 洋﹂第四〇巻第八号三〇頁以下︶で論じているので、ここでは論説を省略する。  2 社団をめぐる法律関係の類型化と社団法理の妥当範囲  社団をめぐる法律関係についても個人法理がその適用を全く排斥されるわけではなく、むしろ個人法理の原則 的適用を前提としつつそれを団体法理の適用によって修正して社団をめぐる法律関係の規律を図っているという ことができる。  このため、社団法人をめぐる法律関係では、原則である個人法理の規定がそのまま適用され団体法理の修正を 受けない法律関係と、個人法理による規定を原則として適用しつつ団体法理による修正が一部加えられる法律関 係と、個人法理に基づく規定の適用が排除され団体法理に基づく規定によってのみ律せられることになる法律関 係とにその法律関係を類型化して、個人法理に基づく民法の規定が適用される法律関係、民法の適用の上に商法 による団体法理の規定などの一部修正適用を見る法律関係および民法の規定の適用が排除され商法の団体法理に 98

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基づく規定のみが適用される法律関係というようにその妥当領域を明らかにすることが必要である。  会社をめぐる法律関係につき前記類型化をここで全てに亘って行うことは本稿の目的とするところではないの で、類型化の上でその典型を二ー三例示してみることにすると、民法の規定がそのまま適用される法律関係の例 としては、会社の営業活動として為される対外取引行為としての製品などの第三者との間の売買契約や会社が原 告として訴を提起するに際し弁護士に訴訟を委任する委任契約は、社団たる会社が独立法人格者として為すその 対外的法律関係であって、社団たる会社の内部関係に影響を及ぽさない法律関係として、団体法理の修正を要せ ず、専ら私法の一般原則法である民法の規定の適用によって規律さるべき事項である。  次に、民法の原則的適用を認めつつも団体法理に基づく一部修正を要する法律関係としては、株式の引受やそ の譲渡行為がある。これら法律関係は、社団構成員たる地位の変動という社団に影響を及ぼす効果を含むと同時 に、対外的第三者や設立中の会社や成立後の会社との間で個人的契約関係が成立し、社団関係と同時に独立法主 体としての契約当事者間に個人的な法律関係が形成されるからである。  第三には、それら法律関係の効果が専ら社団としての会社内部もしくは会社と会社構成員に限定して及ぶか、 もしくは会社という社団に限定された法律効果の反射効として対外的第三者に及ぶという波及的効果を伴うにす ぎないため、個人法理としての民法の規定の適用は排斥され、団体法理に基づく商法の規定のみが適用されると いう法律関係の類型をあげることができ、これには、株主総会における取締役の選任行為や、株式会社の組織変 更行為、取締役会での業務執行の決定行為などがある。 99

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法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成  個人法理と団体法理の妥当領域についてその適用を受ける法律関係の類型化には見解の相違があるのは当然の ことではあるが、これら見解の相違をひとまず置くとしても、第二類型に属する民法の規定の適用を原則として 認めつつも、それら法律行為の効果が社団関係に影響を及ぼすことから、民法の規定する法律効果を団体法理に よって一部修正する場合に、どのような効果をどう修正することが認められるか、またその修正が認められるの はどのような法構成によるのかが明らかでなければならない。  この論稿で取り上げた、権利株の譲渡や株式の引受・株式の譲渡および株式引受行為の取消の主張などの行為 は、いずれも右第二類型に属する法律関係として問題とされているものである。  3 株式会社における株主たる社員の入退社契約と社団法理の適用  株式の引受け行為は、引受けた出資の履行義務という債権債務を発生させると同時に、社団法人たる株式会社 に入社してその社団構成員たる身分を取得する社団法上の入社契約たる側面を有していると解する点については      ︵20︶ 異論を見ない。  また、株式引受け行為の取消は、株式引受人たる地位または株主たる地位を取得するに至った原因行為たる法 律行為を取消すことによって入社契約の効果を失わせ、設立中の会社や成立後の会社の社団構成員から離脱する 退社行為である。  権利株の譲渡や株式の譲渡はその譲受人が会社ではなく第三者であることが通例であるとしても、効力発生障 100

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害事由がなければ、当事者の譲渡合意として為されている意思表示には株式引受人たる地位または株主たる地位 を譲渡人から譲受人に移転するということであるので、譲渡人にとっては退社、譲受人にとっては入社という社 団法上の効果を生ずることになる。  このような社団法上の構成員の変動を伴うが故に、当事者間の合意に原則として個人法理としての民法の規定 を適用しつつも、その社団関係に及ぽす効果については社団法理からする一部修正のために、商法第一七五条第 九項、同第一九〇条、同第一九一条、同第二〇四条第二項が民法に対する特則規定を設けて、社団形成・維持や 団体的手続の統一・迅速・画一明確性を図ろうとしたものと解される。  右明文の規定が設けられている場合には、団体法理による個人法理の一部修正は明らかであるが、株式引受行 為の取消権行使に関する民法第九四条の適用については、団体法理によるその規定の適用を排除するという判 例・学説の立場は、商法第一七五条第九項の類推適用という法上の根拠を示しつつも、その本来的意味はかかる 行為につき無効の効果を認めることは社団からの退社という社団法上の効果を招来するものであることから、商 法第一七五条第九項が規定している場合と同視しうると解しているところにあるというべきである。  従って、明文の規定を欠く、定款の譲渡制限の定めに違反して為された株式譲渡行為についても、それが社団 構成員たる株主の入社・退社という社団法上の効果を伴う行為であるので、個人法理である民法の規定の適用・ 解釈のみによるべきではなく、社団法理に基づく修正をその法構成について加えるべきものと思う。  それでは、個人法理と団体法理が交錯する法律行為につき如何なる部分を民法の規定の適用に委ね、如何なる 101

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法律行為による株主たる地位の変動とその法的構成 部分につき団体法理の修正規定の適用ないし解釈に委ねるかということが間題となるが、先に分析したように検 討対象として取り上げた法律行為は、いずれも当事者間の契約として合意され︵但し、商法第一九一条の場合を 除く︶、その合意が債権契約たる側面と社団契約たる二面性を有しているところから、当事者間の債権契約として の効力については、民法の規定によりその法的効果を構成し、社団法上の効果を招来する社団契約の側面につい ては社団法理によってその法的効果を構成するという原則によるべきである。  これは、法文の根拠に基づかない理論ではなく、商法第一七五条第九項、同第一九〇条および同第二〇四条第 二項はいずれも右の原則的立場に立った規定であることが観取される。  このように解すれば、権利株の譲渡、株券発行前の株式の譲渡、株式譲渡制限違反の株式の譲渡は、当事者間 の債権契約としての効果は有効であるが、対会社との効果、即ち、社団構成員の地位の変動を生ぜしめる社団契 約としての効果は、団体法理の適用を受けて有効性は認められないということになる。 パ 19 ) ︵20︶  団体法の特質については、松本黙治﹁日本会社法論﹂三三頁以下、上柳克郎﹁商法の争点﹂︵ジュリスト増刊四−一 総則・会社︶二二頁、団体法理の適用については、上柳克郎﹁新版注釈会社法①﹂六頁以下について詳しい紹介があ る。  株式引受契約や株式譲渡契約が及ぽす社団法上の効果についてはその債権契約としての効果のほか、株主たる地 位の取得・移転という権利変動という社団員の地位の変動という社団法上の効果を伴うものであることは諸説が一 致して認めており、学説としては、鈴木竹雄﹁新版会社法全訂三版﹂一〇七頁、上柳克郎﹁新版注釈会社法﹂五五頁 102

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以下、判例としては、最高裁判所昭和四五年七月一五日大法廷判決︵民集二四巻七号八〇四頁︶などを代表的見解と してあげることができる。但し、右判例は有限会社の社員の持分の譲渡の効果について判示したものであるが、判示 内容としては株式譲渡と本質的に同一である。 五 株式引受・株式︵権利株を含む︶譲渡契約における契約効果の重層性と社団法理の適用

東洋法学

 1 株式引受・株式譲渡行為における契約効果の重層性  学説・判例も株式引受行為や株式引受行為が法上の障害事由なく有効に為されたときは当事者問に合意内容ど おりの債権・債務が生ずるとともに、株式の移転や株主たる地位の取得という社団法上の効果も同時に生ずると いう見解に立っている点では一致している。  これを適法に為された株式の売買を例として具体的に分析すると、次のようになる。  当事者間で、甲社の株式一万株を売買する株式の売買契約が締結され、売主Aから買主Bに譲渡株式の株券が 交付された場合、A・B間の株式譲渡契約の債権契約の効果としてAのBに対して売買代金支払請求権が発生し、 買主Bはこれに対し売主Aに対して譲渡株式による甲社の株主一万株たる地位の移転、その地位の会社に対する 対抗要件たる株主名簿の名義書換手続に協力すべきことを請求する権利である債権を契約効果として有すること になり、これら契約上の効果は、契約当事者であるA・Bという二当事者間の対人的効果であるので、個人法理 103

参照

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