腐食センターニュース No. 059 2012 年 2 月 27
原子力発電所「高経年化対策強化基盤整備事業」へのセンターの取り組み概要
(
SCCJ プロジェクト - その1)
腐食センター 服部成雄
1.はじめに 昨年、2011 年 3 月 11 日の東日本大震災に起因する原子力発電所の事故により、我が国 の原子力行政、エネルギー政策は未だ模索状態にあるが、何らかの変化がもたらされるこ とは確かであろう。従って本報告での調査はこの大事故以前に実施されたもので、その位 置づけや用途に不明なところがある。しかし、これまで国内外で蓄積された原子力発電プ ラントの運転経験、構造材料の学術的研究の成果は、現在運転停止中の多くのプラントが 再稼動する場合に備え、あるいは原子力以外のプラントの保全への参考としても価値を失 うことはないと考えられる。本稿はこのような立場で、調査の成果を概説するものである。 国内の原子力発電所は運転開始から 40 年前後となるものが増加する時期に至っており、 今後いかに運転期間を安全に延長して行けるかが、重要な課題となってきた。そこで、原 子力安全・保安院は「高経年化対策強化基盤整備事業」を立ち上げ、高経年化に伴う問題 点と対応を多角的に検討し、整備することとなった。この事業は全国の原子力関連研究機 関を地域ごとのクラスターに分けて実施・展開されている。その内、茨城クラスターのメ ンバーである日本原子力研究開発機構(JAEA)が分担している「応力腐食割れ(SCC)評 価手法の高度化に関する調査研究」の一環として、「SCC 評価手法の現状と課題に関する整 理」の一部を当センターが請け負い、「SCCJ」と呼称して平成 19~22 年の 4 年間実施した。 本報告では、その経緯及び主要な成果について、本稿以降の連載として紹介する。 センターのプロジェクト・チームは運営委員会の辻川副委員長をリーダーとし、吉井、根本、 工藤、服部の各運営委員で構成して実施した。なお、委託元であるJAEA 側とも連携を密 にして実施した。調査結果の詳細は近々、JAEA より“JAEA- Review 2012-007「軽水炉 の応力腐食割れ(SCC)事象とその評価手法-炉内構造物・配管の高経年化事象予測に向けた SCC 評価手法 技術資料集」”として公表刊行される予定なので、ここではあくまでも、そ の内容の概略紹介にとどめ、引用もとは全て上記 Review 報告書とする。 2.取り組み方針 一言で「原子力発電所での SCC」と言っても、その全貌を把握するには体系的に分類・ 整理する必要がある。そこで調査対象とする原子炉タイプを、日本での実用軽水炉である 沸騰水型炉(BWR:Boiling water reactor)と加圧水型炉(PWR:Pressurized water reactor)、 に限定した。Fig.1-1 及び Fig.1-2 は、それぞれ BWR 及び PWR の主要なシステムを示す。 BWR は原子炉炉心部で冷却水を加熱し、直接高温高圧の水蒸気を発生させて、タービン発電機 (SG する。 接す さらに 因や試 炉心支 系ステ 放射線 発・適 却水は 素生成 腐食センタ に供給する G:Steam g 。またこれ る一次系主要 に実機のSC 試験・評価技 支持構造物に テンレス鋼 線の影響も考 適用されてい は基本的に高 成抑制のため ターニュース 。これに対 generator) らの内でも、 要機器とした CC 発生部位 技術が多岐に に使われ、基 とニッケル基 考慮し、Tab いる改良水質 高純度水であ めに水素が、 ス No. 059 して PWR での熱交換 、調査対象系 た。 Fig. 1-1 Fig. 位や、研究で にわたる。そ 基本的にSC 基合金それぞ ble 1-1 に示 質条件も含め あるが、PW また核反応 9 28 は冷却水を によって蒸気 系統・機器は BWR の主要 1-2 PWR でのラボ試験条 そこで材料面 C ポテンシ ぞれの母材と す各炉型での めて検討した WR では水の放 応を制御する を原子炉で高 気を発生させ は安全上重要 要系統構成 の主要系統 条件における 面での調査対 ャルがあると と溶接金属と の標準的な水 た。BWR 、 放射線分解 ホウ酸とそれ 2 高温高圧水と せて、タービ 要な、放射能 統 る、材料、水 対象を、圧力 と考えられる とした。環境 水質条件なら PWR のいず (ラディオリ れによるpH 2012 年 2 月 とし、蒸気発 ビン発電機に 能を含む冷却 水質環境、力 力バウンダリ るオーステナ 境要因は、隙 らびに、種々 ずれでも一次 リシス)によ H の低下を弱 発生器 に供給 却水に 力学要 リーや ナイト 隙間や 々に開 次系冷 よる酸 弱アル
腐食センターニュース No. 059 2012 年 2 月 29 カリ側で調整するために水酸化リチウムがそれぞれ微量添加されている。また力学要因と しては、内圧・自重等による静的応力、運転サイクル等に伴う繰り返し負荷、溶接残留応 力、加工残留応力、切り欠き・き裂先端での応力集中・応力拡大係数(K 値)などに着目 することとした。 Table 1-1 BWR と PWR の一般的な水質条件 実機冷却水* BWR •高純度水: 288℃、~8MPa •pH: 5.6 - 8.6(at 25℃) •DO: 200ppb [HWC では数十 ppb 以下] •DH: 20ppb [HWC では約 50ppb] •導電率: ≤ 0.1μS/cm PWR 一次 • ≤ 340℃、~17MPa •pH: 4.2 - 10.5(at 25℃) B(50 - 1100ppm)、Li(0.2 - 2.2ppm) [連動的に濃度制御] •DO: ≤ 5ppb •DH: 2 - 3ppm •導電率: 1 - 40μS/cm (at 25℃) 二次 •低 DO 還元水質 (AVT 水質: NH4OH, N2H4処理) • ≤ 290℃、~7.5MPa •pH: 8.8 - 9.3(at 25℃) •DO: ≤ 5ppb •導電率: 2 -6μS/cm
*
DO:溶存酸素(Dissolved oxygen) DH:溶存水素(Dissolved hydrogen) 調査の進め方として、検討資料は次に示すが、まず SCC 対策に腐心している電力会社の 取り組みの現状や課題を聴取することから始めた。BWR、PWR を保有する電力会社いく つかを訪問し、各社でこれまで経験したSCC 事例や海外情報を参考とした予防保全の考え 方などについて説明を受け、また今後の研究開発に関する要望事項も聴取した。 調査に用いた文献、資料は次のとおりである。 初年度は期半ばからの着手という時間的制約もあり、電力会社からの提供資料、及び「材 料と環境」講演予稿集から、主としてSCC 発生・進展評価技術に関連するものを選んで用 いた。 第二年度からは、 ・ 1983~2009 年の軽水炉材料環境劣化国際シンポジウム論文集(Proceedings of the International Symposium on Environmental Degradation of Materials in Nuclear Power Systems – Water Reactor)・ フランスで開催の通称「Fontevraud 国際会議」:PWR 材料シンポジウム(Contribution of Materials Investigation to the Resolution of Problems Encountered in Pressurized Water Reactor [後に改称])
腐食センターニュース No. 059 2012 年 2 月 30 ・ Corrosion NACE 講演概要集 のそれぞれから、調査対象事項に関連する文献を合計で約 500 件選んで検討した。これら 以外でも、必要に応じて国内外学協会誌やインターネット等での公開資料を調査に加えた。 3.調査検討事項 (1) SCC 発生・進展評価技術 (2) 実機 SCC 事例 (3) SCC 発生・進展要因とメカニズム (4) 研究室データ・知見と実機事象との相関性 (5) 調査結果の総合評価と今後の課題 本稿では(1)及び(2)の要点について、SCCJ メンバーからのコメントも得て以下に 述べる。次回以降は、根本、工藤、吉井の各委員に執筆への分担・協力をお願いすること とする。なお、JAEA への最終報告書では、初学者へのガイドとして、辻川副委員長執筆 のSCC の基礎的解説を含めたが、ここでは割愛して別途、センター・ニュース記事の案と して検討していただきたい。 4.調査結果の要点 (1)SCC 発生・進展評価技術 SCC 発生評価法としては、Table 1-2 に例を示すように定荷重型、定ひずみ型、低ひず み速度型などがあり、いずれも負荷条件、環境条件によって加速評価することが多い。 定ひずみ型、低ひずみ速度型が材料間のSCC 感受性の相対的な比較評価に適しているの に対して、定荷重型は材料比較とともに、SCC の負荷応力依存性や環境水質の影響など を破断時間という寿命値で評価することができる。ただし、PWR の SG 伝熱管のような 薄肉チューブ材では定荷重型試験片の作製が困難なため、定ひずみ型である Reversed U-bend(逆 U 字曲げ)試験が寿命評価にも用いられている。 SCC 進展速度評価法としては、Table 1-2 および Fig. 1-3 に示すような手法があり、き 裂進展にともなって応力拡大係数 K 値が増大するもの、減小するもの、き裂深さによら ず一定のものなど、種々なタイプの試験法がある。その中でもコンパクト・テンション (CT)試験は比較的簡便なことから最も広く用いられている。しかし、素材形状によっ て試験片サイズが多様(1/2CT、1/4CT、ラウンド CT など)であり、試験条件やき裂深 さのモニター/測定法が標準化されておらず、現在、本協会の原子力小委員会でその標 準化、JIS 化の検討が進められている。さらに、CT 試験は通常 K 値増大型であり、必ず しも実機での SCC 挙動を適正に反映していないことが多い。例えば、実機での SCC 進 展の応力要因は溶接残留応力など定ひずみ状態であることが多く、こういう場合は K 値 一定または減小型と考えられる。従って、CT 試験によって過酷側のデータを得て進展評 価線図を作成するのも安全側評価手法の一つといえるが、実際的な実機評価においてはK 値一定や減小型の試験データと併せて評価することが重要である。こういった評価手法 の組み合わせの中で、材料や水質の改良効果を把握し、維持規格などに反映させていく
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ことが望まれる。なお、実機のSCC は多くの試験で扱われている貫通き裂でなく、通常 は表面き裂として発生・進展するので、重要なデータに対してはFig. 1-3(e)の Lee James 式の試験で検証することも重要と考えられる。 Table1-2 SCC の発生、進展評価試験方法 分類 試験手法 特徴 定荷重試験 単軸定荷重引張り試験 本来SCC 発生挙動評価用として実施 されているが、試験後のき裂深さを試 験時間で除した値で、進展速度の簡易 比較をしている場合がある。 定変位試験 Uベンド・ダブルUベンド・ 逆U ベンド試験 隙間付き定ひずみ曲げ (CBB)試験 3 点/4 点曲げ試験、C-リン グ試験 低ひずみ速度
試験 Slow strain rate test(SSRT)試験
破壊力学的試 験 コンパクト・テンション (CT)試験 CT 試験は実機での SCC との機構的な 同一性に疑問があるが、最も広く用い られているSCC 進展評価法である。 照射材を扱う場合など試験条件の制 限からサブサイズや円盤状の小型試 験片を用いることもある。負荷方法に よってK 値の変化モードを変えること ができる。 サブサイズドCT 試験 ラウンドCT 試験 ウェッジ・オープニング・ ロード (WOL)試験 基本はCT に類似するが、外部負荷で はなく、試験片開口部を楔やボルトで 広げることで一定変位を付与するの で簡便である。通常き裂進展とともに K 値は低下していく。 ダブル・カンチレバー・ビ ーム (DCB)試験 WOL に類似するが、荷重点とき裂部 の距離を長くとることで、き裂進展に よるK 値の低下を軽減している。 K 値一定型 Contoured DCB (CDCB)試験 試験片形状を特殊なものとすること により、き裂進展によるK 値の低下を DCB 試験より更に小さくしている。 リー・ジェイムス式試験 他の破壊力学的試験がいずれも貫通 き裂を扱っているのに対して、ウェブ 部からの予き裂を試験対象部まで進 展させた後、ウェブを除去することで 表面き裂の進展挙動を評価する。この 点で、実構造物でのSCC に近いき裂 の観測ができるという側面がある。 センター・クラック引張り (CCT)試験 板状試験片のゲージ部中央に軸に直 行する疲労予き裂を設け、そこからの SCC 発生・進展を測定する。最も簡便 な破壊力学的試験と言える。 実機模擬試験 実パイプ試験 実機使用と同種の短尺パイプを溶接 で多数繋ぎ合わせたスプール内に炉 水模擬の高温水を流し、軸方向引張り 荷重を付与してSCC を発生・進展さ せる。試験期間中に、電位差計法やUT 等でのSCC 挙動の測定が可能。 モック・アップ試験 上記と同様な考え方で、対象機器、部 位の実寸または縮小モック・アップ試 験体を製作し、炉水模擬環境でのSCC 挙動をモニター・測定する。
(a) (c) D (e-1) W 腐食センタ ) CT 試験(形 CCB 試験 Lee James Web ターニュース 形状、寸法多様 式試験 Fig. 1-ス No. 059 様) -3 各種き裂 9 32 (b) (d (e 裂進展試験で ) WOL 試験 d) DCB 試験 e-2) ウェブか での試験片形 2 験(ボルト方式 験 から予き裂導 形状 ボルト穴 2012 年 2 月 式) 入後ウェブを を除去
腐食センターニュース No. 059 2012 年 2 月 33 (2)実機SCC 事例 本稿以降の連載では多種の材料を扱うので、ここで Table1-3 にそれらの規格組成を まとめて示しておく。 Table 1-3 国内の軽水炉で用いられているステンレス鋼及びニッケル基合金 (a) ステンレス鋼 規格(mass%) C Si Mn P S Ni Cr Mo Fe Others SUS304 ≤0.08 ≤1.0 ≤2.0 ≤0.045 ≤0.030 8.0-10.5 18.0-20.0 - bal. SUS304L ≤0.03 ≤1.0 ≤2.0 ≤0.045 ≤0.030 9.0-13.0 18.0-20.0 - bal. SUS316 ≤0.08 ≤1.0 ≤2.0 ≤0.045 ≤0.030 10.0-14.0 16.0-18.0 2.0-3.0 bal. SUS316L ≤0.03 ≤1.0 ≤2.0 ≤0.045 ≤0.030 12.0-15.0 16.0-18.0 2.0-3.0 bal. SUS316(NG) ≤0.020 ≤1.0 ≤2.0 ≤0.040 ≤0.030 10.0-14.0 16.0-18.0 2.0-3.0 bal. N≤0.12 C+N ≤0.13 (NG): Nuclear Grade (工事認可上は「SUS316」と表記)
(b) ニッケル基合金 規格 (mass%) C Si Mn P S Ni Cr Fe Cu Nb (+Ta) Ti Others Alloy 600 (NCF600) ≤0.15 ≤0.50 ≤1.00 ≤0.03 ≤0.015 bal. 14.0-17.0 6.0-10.0 ≤0.50 - - Alloy 600M(1) (A社仕様) ≤0.15 ≤0.50 ≤1.00 ≤0.03 ≤0.015 bal. 14.0-17.0 6.0-10.0 ≤0.50 2.0-3.0 ≤0.50 N-bar* ≥ 12 Alloy 600M(2) (B社仕様) ≤0.15 ≤0.50 ≤1.00 ≤0.03 ≤0.015 bal. 14.0-17.0 6.0-10.0 ≤0.50 1.0-2.0 ≤0.15 Alloy 182 DNiCrFe-3 ENiCr-3 ≤0.10 ≤1.00 5.0-9.5 ≤0.03 ≤0.015 bal. 13.0-17.0 ≤10.0 ≤0.50 1.0-2.5 - Alloy 82 DNiCrFe-3 ERNiCr-3 ≤0.10 ≤0.50 2.5-3.5 ≤0.03 ≤0.015 bal. 18.0-22.0 ≤3.0 ≤0.50 2.0-3.0 ≤0.75 Alloy 690 (NCF690) ≤0.05 ≤0.50 ≤1.00 ≤0.03 ≤0.015 bal. 27.0-31.0 7.0-11.0 ≤0.50 - - Alloy 152 (ENiCrFe-7) ≤0.05 ≤0.75 ≤5.0 ≤0.03 ≤0.015 bal. 28.0-31.5 7.0-12.0 ≤0.50 1.0-2.5 - Alloy 52 ERNiCrFe-7 ≤0.04 ≤0.50 ≤1.0 ≤0.02 ≤0.015 bal. 28.0-31.5 7.0-11.0 ≤0.30 ≤0.1 - Al+Ti ≤1.5 * N-bar: 安定化パラメータ≡ 0.13{2・mass%Nb+mass%Ti)/mass%C }
Alloy 600M (1)/600M (2): BWR で Alloy 600 の改良材として使用。共金溶接材料としては Alloy 82/182
腐食センターニュース No. 059 2012 年 2 月 34 BWR Fig. 1-4 は BWR 一次系の構造物、配管で経験された主要な SCC 事例とその発生箇 所を示す。1970 年代半ばから 304 ステンレス鋼などでの、いわゆる粒界 Cr 欠乏によ る鋭敏化型粒界SCC(IGSCC)が再循環系配管や炉内構造物の溶接熱影響部(HAZ)に 多発した。これに対しては材質面(主として鋭敏化抑制のための低C 化)や引張り残 留応力の改善(管内面水冷溶接 [HSW:Heat sink welding]、高周波加熱応力改善 [IHSI:Induction heating stress improvement] など)、さらには炉水への水素添加で 腐食電位(ECP)を下げる水素注入運転(HWC:Hydrogen water chemistry)など が開発・適用されて一定の改善効果が得られた。
しかし 1980 年代以降、IGSCC は 600 合金製の、シュラウドヘッドボルト、アクセ スマンホールカバー、各種ノズルの異材溶接部の182 系溶接金属などの構造物に波及 した。当初は隙間条件と高導電率の重畳を要因とする見方もあったが、これらの条件 下にないシュラウドサポートや炉底部のCRD(制御棒駆動:Control rod drive)貫通部 スタブにまで拡大し、BWR 炉水条件では 600 合金、182 系合金が IGSCC 感受性を 有することは否めない事実となった。 さらに1990 年前後からは、「耐SCC 性ステンレス鋼」と位置づけられていた原子力 仕様の低C ステンレス鋼においても、鋭敏化型 IGSCC のように貫通リークに至っては いないものの、SCC の発生・進展が確認され、そのメカニズム解明と対策技術の確立 が必要となった。 600 合金等のニッケル基合金については、基本的な材質要因は初期のステンレス鋼と ほぼ同様な粒界Cr 欠乏による鋭敏化であること、母材 HAZ だけでなく 182 合金系の 溶接金属は、より高いSCC 発生感受性と凝固柱状晶界面での高い進展速度を示すこと などが明らかにされた。 低C ステンレス鋼での SCC 発生・進展メカニズムは現在でも十分解明されたとは言 えないが、少なくとも材料の最終表面仕上げや、製作途中で導入される冷間加工と残 留応力が主要因であることは確認されている。なお、この非鋭敏化型IGSCC の進展は 主応力方向に支配され、き裂が耐SCC 性の高い溶接金属部(フェライト相の量や分散 状態に依存)に達すると、明確な進展速度の低下や滞留を示すことが、貫通・リーク に至らないことの一因と考えられている。 これら SCC への対策として、ニッケル基合金では C を Cr 炭化物となる以前に十分 安定化させるためにNb の添加・増加が図られ、ステンレス鋼では表面仕上げ加工や冷 間加工の管理による組織及び残留応力面での改善が行われている。両合金系で、特に 炉内構造物等ではピーニング(ウォータージェット、レーザ、ショット)による表面 引張り応力の圧縮化が、SCC 発生緩和の対症療法的な対策として国内で適用されてお り、海外でも採用が検討されつつある。一方、水質面では、水素注入量を高めたHWC や、Pt、Rh など貴金属の触媒作用で HWC の ECP 低下効果を飛躍的に高める貴金属
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注入(NMCA:Noble metal chemical addition)運転が実用化されている。さらには TiO2の光触媒作用(チェレンコフ光等)に着目した、TiO2コーティングも有力なSCC 低減手法の一つとして注目されている。 Fig. 1-4 BWR において SCC が確認された主要機器、部位 PWR Fig. 1-5 は PWR 一次系の機器、構造物で経験された主要な SCC 事例とその発生箇 所を示す。BWR が配管の鋭敏化型 IGSCC に悩まされていたとほぼ同時期に、PWR ではニッケル基合金製の蒸気発生器(SG)伝熱管の、主として二次側(外面)からの 多様な腐食損傷が深刻な問題となっていた。これは 600 系あるいは 800 系合金製伝熱 管に対して、二次系水質改善が欧米各国でそれぞれに進められていたという背景もあ り、粒界アタック(IGA)、粒界腐食(IGC)、IGSCC、デンティング(炭素鋼製管支 持板の支持穴部での腐食生成物の膨張で、管が締め付けられて変形する事象)、ウェス テージ(管板や管支持板の伝熱隙間部での腐食性イオン種、不純物の局部濃縮で生ず る腐食減肉)などであった。最終的には二次系水質を全揮発性化学処理 [アンモニア、
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ヒドラジン等による脱酸素とpH 調整:AVT(All volatile treatment)]処理がこれら 損傷の多くに対する有効な対策として広く採用された。管と管板の拡管取り付け部で は、隙間条件と残留応力分布の改善を狙って、拡管の方法、範囲、強さなどの調整も 種々検討されたが、あまり決定的な対策とはならなかったようである。材質面では、 受け入れまま材MA600(MA: Mill annealed 600)合金から、特殊熱処理材(TT: Thermally treated:粒界に Cr 炭化物を分散析出)TT600 合金、さらには高 Cr の 690 合金への材質変更も一部のプラントで適用された。 以上が PWR の初期での主要な SCC 問題であったが、十分な水素が添加されている ために SCC 発生はないと思われていた一次系水質環境においても、1980 年代から SG 伝熱管内面を始めとして、いくつかの機器、構造物のニッケル基合金や一部のオース テナイト系ステンレス鋼でSCC(PWSCC::Primary water SCC)が報告されるよう になってきた。SG 伝熱管では前述のデンティングや拡管で塑性変形した管内面に PWSCC が生じ、SG や原子炉容器(RV)の出入り口管台(容器と配管を繋ぐノズル 部で、異材溶接にニッケル基合金溶接材料を用いることが多い。)、RV 上蓋の制御棒 駆動機構(CRDM:Control rod drive mechanism)貫通部、炉底部の計装ノズル取り 付け部などでは、182 系合金溶接金属から発生した PWSCC が 600 合金母材にまで進 展した事例が国内外で報告されている。ステンレス鋼では、温度の高い加圧器ヒータ 部品やSG 入り口管台セーフエンド(管台溶接部の配管側短管)で PWSCC と見られ る割れが発見されるに至っている。 SG については、先の二次側腐食損傷に加えての PWSCC により施栓率が高くなって 熱交換機能が限界に近づいたことで、あるいは予防保全策として全取替えが多くのプ ラントで実施された。RV では上蓋の CRDM 貫通部での PWSCC によるリークが多発 し、目視点検の困難さもあってRV 材(低合金鋼)がリーク水中のホウ酸によって著し く腐食してしまった例もあって、国内外のプラントで上蓋の取替えが広く実施された。 また、国内では予防保全としてRV の全取替えを採用したプラントもある。 これらの機器取替えや割れ部の削除/肉盛補修に際しては、600 合金や 182 系合へ の代替として、耐SCC 性の高い 690 合金やその共金溶接材料(152 系や 52 系)を採 用していることが多い。また多くの国内プラントではBWR の場合と同様に、溶接部の 表面残留応力改善にピーニング(ウォータージェット、レーザ)を施工することでマ ージンを高めている。 PWSCC の発生・進展メカニズムは未だ解明の途上にあるが、モックアップも含む ラボ試験の結果などを基に上記のような材質や応力面の改善策が適用されている。な お、SG伝熱管に関して述べたTT600 合金は MA600 合金より耐 SCC 性が改善されて いるが、容器の管台など溶接施工を伴う部位ではTT 処理の効果がなくなり、182 系溶 接金属から発生したSCC の進展を食い止めることはできない。 一方、一次系水質についても PWSCC 緩和の検討が種々なされているが、後報で詳
腐食センターニュース No. 059 2012 年 2 月 37 述するとおり環境側因子の影響は、燃料の健全性や作業者の被曝管理にも絡んで複雑 なため、現状では決め手となる条件は確立されていない。水素添加量、B/Li 比、pH、 Zn 注入などが PWSCC に影響すると考えられているが、適正値について十分な見解の 一致に至っていない。温度が高いほどSCC が生じやすいことはほぼ明らかにされてい るが、運転温度を変えることは困難で、結局のところSCC 発生のポテンシャル部位を 摘出する判断に活かされているに過ぎない。 ステンレス鋼の PWSCC は、加圧器のヒータ部品や SG 出口管台セーフエンドに散 見されているが、現状では冷間加工や強表面仕上げ加工を受けた高温の部位に限られ ており、これがニッケル基合金でのようなコモン・モ-ド損傷と捉えるべきかどうか も含めた詳細な検討が進められている。 Fig. 1-5 PWR において SCC が確認された主要機器、部位
腐食センターニュース No. 059 2012 年 2 月 38 (3)まとめ 調査全体のまとめは本連載の最後に示すが、ここでは上記(1)、(2)の範囲でラボ でのSCC 発生・進展評価と実機での SCC 挙動との相関について簡単にまとめておく。 BWR のステンレス鋼及びニッケル基合金、PWR のニッケル基合金について、ラボの 加速試験でSCC 感受性を示したものは実機でも割れが確認され、材料の種類や処理条件 による感受性の序列もほぼ良い相関を示すと言える。き裂進展についても、材料や環境 条件の比較評価には、ラボ試験での結果が実機での優劣に対応しており、定性的な相関 性はあると考えられる。但し、き裂進展速度の予測という点では、現在広く用いられて いるCT試験は、基本的にき裂深さとともにK値が増大するタイプのもので、実機での SCC 挙動に対応しない場合が多いと考えられる。従って実機の構造健全性評価に用いる SCC 進展線図においては、実構造物での作用応力の分布やき裂進展に伴う K 値の変化傾 向、また環境緩和技術の適用効果なども定量的に反映し、安全側かつ合理的なものであ ることが求められる。なお、PWR のステンレス鋼については、ラボでの再現性も含めて 主な影響因子を明らかにしていく必要がある。