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青年の新しい環境への適応と自己表明のあり方―関係性に着目して― [ PDF

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1 はじめに 筆者は臨床実習において,障がいのある人の家族が周 りの人に家族に障がいがあることを言えなかったり,専 門機関への相談をためらったりと様々な葛藤を抱えてい ることを学んだ。また,筆者が行ってきた主張性の研究 を通して,アサーティヴに伝える技能の習得よりも「言 いたいけど言えない」気持ちの意味を大切にしながらそ れを伝えるべきか,伝える必要はないのか逡巡すること も重要だと考えた。そして,家族の一員に障がいがある ことが分かったり,病気を発症したりするといった出来 事にどう対応していくのか,どのように支援していくべ きかを明らかにしたいと考え,本研究を行うこととした。 第一章 問題と目的 自己表明とは,自分の考えや気持ちを率直に伝えるこ とである(柴橋,2001)。平木(2015)が人間関係のト ラブルや悩みのほとんどがコミュニケーションの問題で あると述べているように,自己表明のあり方は人と接す るにあたって非常に重要になると考えられる。髙倉ら (2018)の作成した自己表明尺度には,好意的意思の表 明因子,信念に基づく意思の表明因子,困難感の表明因 子の3 つの因子が示された。自己表明のあり方を検討す る際にはこの3因子に分けて着目することができると考 えられる。また,髙濱・沢崎(2012)は,コミュニケー ションをとる相手によって一貫したコミュニケーション パターンを示すだけでなく,場面や相手によってコミュ ニケーションパターンが変容することも考えられ,この 様な変容は誰にでも起こりうる自然なことであると論じ た。つまり,自己表明のあり方も場面や相手によって変 化すると考えられる。 また,自己表明する際には様々な相手が想定される。 三宅(1994)は,日本人の自己を取り巻く人間層を「ウチ・ ソト・ヨソ」に分類し,「ウチの人間は自己のまわりの家 族やごく親しい人々,ソトの人間はごく親しくはないが 自己やウチと関連のある人々,ヨソの人間は自己やウチ とは関係がないが何かのきっかけで関係を持ち得る人々」 と定義した。また,玉瀬ら(2003)は,日本人は相手との 心理的距離に応じて行動を変える傾向にあると述べ,「対 人関係において同じ状況におかれても,それにかかわる 対象が異なることで行動を抑制したり(発揚したり)する 場合に「場」を認知していると表現」するとした。これ らの論をふまえると,日本人は相手との心理的距離をふ まえてウチ・ソト・ヨソのどの人間であるのかを認知し, それに応じて振る舞い方を変化させていると考えられる。 この考えに基づき,青年期と中年期の自己表明のあり方 について髙倉ら(2018)は,ウチ・ソト・ヨソという場 の認知の違いの視点をふまえて検討した。その結果,青 年期では,好意的意思についてはソト>ウチ>ヨソの順 に表明しやすいこと,信念に基づく意思についてはウチ >ソト>ヨソの順に表明しやすいこと,困難感について はウチ>ヨソ,ソト>ヨソの順に表明を行いやすいこと が示唆され,自己表明は相手との関係性によってそのあ り方が変化することが考えられた(髙倉ら,2018)。 ところで北村(1965)は,適応について「主体として の個人が,その欲求を満足させながら環境の諸条件にあ るものに,調和的関係をもつ反応をするように,多少と も自分を変容させる過程である」と述べた。つまり,人 が新しい環境に適応するには多少とも自分を変容させる 必要があると考えられる。このことから,新しい環境へ の適応する際には自己表明のあり方も変化する可能性が 考えられる。そこで本研究においては新しい環境への適 応のプロセスとして大学入学に着目する。大学入学は青 年期の多くが直面しうるものであり,青年が新しい環境 へ適応する際のひとつの例として挙げられるだろう。 そこで,本研究では新しい環境として大学新入生にと っての大学に焦点を当て,大学新入生が大学生活を送る なかでどのように自己表明のあり方を変化させるのかに ついて質問紙調査及びインタビュー調査によって検討す る。その際関係性の視点を取り入れるが,ウチ・ソト・ ヨソの概念は流動的であるため,時期によって想定され る関係性が変化する可能性が考えられる。そのため本研 究では,ウチの人間として「家族」,ソトの人間として「大 学からの友人」,ヨソの人間として「日常的に関わりのな い人」を想定し,この3 つの関係性に対する自己表明の あり方を検討する。また,髙倉ら(2018)の自己表明尺 度の課題として,困難感の表明因子が2 項目と不十分で あることが挙げられる。石黒ら(2016)が自分の力のみ

青年の新しい環境への適応と自己表明のあり方

―関係性に着目して―

キーワード:自己表明,対人関係性,適応,大学生 所 属 人間共生システム専攻 氏 名 髙倉 那々実

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2 では解決できない問題を抱えた場合に,必要に応じて他 者に援助を求めることは重要な対処法略であると述べた ように,援助を求めていることを適切に表明することは 重要であると考えられる。そこで,髙倉ら(2018)の自己 表明尺度に,困難感の表明に関わる適切に援助を求めて いることを表明する項目を追加し,新たな自己表明尺度 を作成する。 第二章 研究1 自己表明尺度の作成 目的 援助要請の項目を追加した自己表明尺度の作成。 方法 1)調査協力者と調査時期 A 大学および B 大学の学生 154 名,5 年制の高等専門 学校生140 名の計 294 名を対象に 2018 年 5 月~2018 年 12 月に質問紙調査を実施した。有効回答者数は 247 名であった。有効回答者の年齢は,15~29 歳 (M =18.44, SD = 2.32)であった。 2)質問紙の構成 ①フェイスシート ②柴橋(2001),髙倉ら(2018),永井(2013)を参考に新たに 作成した自己表明尺度(4 件法) ※「家族」,「大学からの友人」,「日常的にかかわりのな い人々」の三つの属性の人々について回答を求めた。 3)倫理的配慮 本調査は筆者が所属する研究倫理委員 会で承認を得た。なお,調査協力者に対し,書面および 口頭にて研究主旨と個人情報の守秘・匿名性等について 説明を行った。 Ⅲ.結果と考察 「家族」条件,「大学からの友人」条件(以下,友人条件), 「日常的に関わりのない人」条件(以下,非日常条件) のそれぞれの回答を独立したデータとして最尤法による 因子分析を行った。その結果,9 項目が削除され,3 因子 構造が得られた。結果をTable1 に示す。 第三章 研究2 大学生の入学初期における自己表明のあり方の検討 目的 大学生の自己表明の程度が大学入学から7 月まで の間にどのように変化したのか,大学生活への適応感と の関連及び関係性の違いの視点をふまえて質問紙調査に よって明らかにする。 方法 1)調査協力者と調査時期 A 大学 1 年生を対象に質問紙調査を実施した。調査は 5 月中旬と 7 月中下旬に行った。調査協力者 30 名のう ち,有効回答者数は 28 名であった。有効回答者の年齢 は,18~29 歳 (M =19.14, SD = 2.25)であった。 2)質問紙の構成 ①フェイスシート ②研究1 で作成した自己表明尺度 ③大久保(2005)の適応感尺度の各項目の文頭に「大学に おいて」を付け加えた大学生適応感尺度(4 件法) 3)倫理的配慮 研究1 と同様に倫理的配慮を行った。 結果の比較のため,1 回目の調査用封筒に調査協力者の 学籍番号を書いて封緘し,提出するよう求めた。回収し た封筒は研究者が厳重に保管,2 回目の調査前に返却し, 新しい封筒に入った2 回分の質問紙を回収した。 結果 関係性の違い3 群(家族,大学からの友人(以下, 友人),日常的に関わりのない人(以下,非日常))と 7 月の大学適応感高低2 群,時期の違い 2 群(5 月,7 月) を独立変数,自己表明得点の各因子得点の平均点を従属 変数とする三要因分散分析を行った。各変数の平均値と 標準偏差をTable.2,分析結果の一部を Table.3 に示す。 考察 大学適応感や時期の違いに関わらず大学からの 友人に対して最も好意的感情を表明することが示唆され, これは入学初期は大学からの友人と良い対人関係を作っ たり維持するために積極的に好意的感情の表明を行うた めであると考えられた。 また,大学適応感や時期の違いに関わらず家族に対し て最も信念に基づく意思を表明することが示唆された。 信念に基づく意思の表明の背景には自分のことを理解し てほしい気持ちがあることが考えられる(髙倉ら,2018)。 大学新入生が大学に慣れていく途中では過去とのつなが りを大切にすることが重要である(吉良,2001)ことか ら,自分のことを理解してもらうことで家族とのつなが りを維持するために,これまで通り家族に対して最も表 明していることが考えられる。大学からの友人に対して も自分のことを理解してもらうことで関係を深めたい気 Table1.自己表明尺度因子分析結果 第1因子 第2因子 第3因子 共通性 1 ( 27 ) 相手を励ましたいと思ったときは励ましの言葉をかける .98 -.07 -.05 .84 2 ( 26 ) 相手の努力や労苦に対して大変だなと思ったときはその気持ちを伝える .90 .00 -.06 .75 3 ( 24 ) 相手の意見に賛成だと思ったときはそのことを伝える .86 .13 -.13 .70 4 ( 23 ) 相手を慰めたいと思ったときは率直に慰めの言葉をかける .81 -.01 .00 .66 5 ( 30 ) 相手にほめられて嬉しいときはその気持ちを素直に表す .73 -.04 .06 .56 6 ( 28 ) 相手に好意を持った場合、素直に好意を示す .66 -.06 .16 .55 7 ( 1 ) 相手のしたことがいいなと思ったときはその気持ちを言葉で表す .55 .04 .19 .51 8 ( 7 ) 相手に強く言いすぎて悪かったと思ったときはその気持ちを伝える .43 .01 .20 .52 9 ( 16 ) 相手の行動が自分にとって迷惑だと思うときはその相手に「やめて」と言う .03 .78 -.04 .60 10 ( 19 ) 周りに迷惑な行動をしている相手にははっきり注意する .02 .73 .05 .59 11 ( 11 ) 相手の考えに賛成できないとき「私はそうは思わない」とはっきり言う -.01 .72 .08 .57 12 ( 10 ) 相手にどう言われようと正しいと思うことは自分の信念を貫く .00 .69 -.17 .36 13 ( 20 ) 相手に自分のものを貸してと頼まれても貸したくないと思えば断る -.05 .68 -.15 .34 14 ( 14 ) 貸したものをいつまでも返してくれない相手には「返して」とはっきり言う .02 .65 .05 .47 15 ( 3 ) 分担した仕事をしようとしない相手にははっきり注意する -.01 .58 .21 .52 16 ( 21 ) 相手の無神経な言い方で傷ついたときは自分の気持ちを はっきり言う .02 .52 .21 .46 17 ( 5 ) 悩みが自分ひとりの力ではどうしようもなかった時は、相談する .00 -.05 .90 .76 18 ( 12 ) つらいときやくるしいときはその気持ちを相手に伝える -.03 .02 .85 .71 19 ( 13 ) どうしていいかわからないことがあって困ったときは相手に相談する .05 -.05 .85 .73 20 ( 22 ) 少しつらくても、自分で悩みに向き合い、それでも無理だったら相談する .12 -.07 .74 .61 21 ( 18 ) 一人ではできないようなことで困っているときは手伝ってと相手に頼んでみる .20 .16 .47 .53 因子間相関 第1因子 .47 .68 第2因子 .61 第1因子 好意的感情の表明(α=.92) 第2因子 信念に基づく意思の表明(α=.88) 第3因子 援助希求の表明(α=.91) 注1:括弧内の数字は質問紙で提示された項目を示す。

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3 持ちはあるものの,相手と気持ちや考えが異なる場合に は衝突のきっかけになる可能性も考えられる。そのため, 大学からの友人に対しては家族に対してよりも信念に基 づく意思の表明に慎重になる可能性が推察される。 さらに援助希求の表明を行うためには援助が期待でき る存在が必要であると考えられる。大学からの友人と関 係が深まるなかで,援助が期待できるようになったこと が5 月から 7 月の大学からの友人に対する援助希求の表 明の高まりにつながったと推察される。また,7 月の大 学適応感が高い人は大学における友人関係も良好である と考えられ,適応感が低い人より友人に対して援助希求 の表明を行うことができたと考えられる。そして大学と いう新しい環境では日常的に関わりのない人と出会う機 会が多く,周りに日常的に関わりのない人しかいない状 況も考えられる。7 月の大学適応感が高い人は,最初は 日常的に関わりのない人であった大学からの友人に援助 希求の表明を受け入れてもらえた経験を積み重ねている 可能性が考えられ,その経験が7 月に日常的に関わりの ない人に対して援助希求の表明をより行えるようになっ たことにつながった可能性が推察される。 第四章 研究3 大学新入生の自己表明のあり方に 関するインタビュー調査 目的 大学生の自己表明の程度が入学から12 月までの 間にどのように変化したのか,生活への適応感との関連 及び青年をとりまく人々との心理的距離の視点をふまえ, そのプロセスをインタビュー調査によって明らかにする。 方法 1)調査協力者と調査時期 研究2 の調査協力者から調査協力者を募集し,12 月中 下旬に質問紙調査,インタビュー調査を実施した。調査 協力者は6 名であった(18~29 歳,M =20.50, SD = 4.07)。 2)調査の手続き 調査前に研究2 で使用した質問紙へ の回答を求めた。質問紙の結果をもとに,調査協力者そ れぞれの5 月,7 月,12 月時点の自己表明の程度の推移 のグラフを調査者が作成,面接は作成したグラフを参照 しながら行った。インタビューの流れをTable4 に示す。 3)倫理的配慮 調査協力者に対し,研究主旨と個人情 報の守秘・匿名性,記録方法等について説明を行った。 IC レコーダーでの記録は同意を得てから行った。 4)結果と考察 本発表においては学生 D および E の事例を取り上げ る。なお,事例D,E の自己表明尺度の因子ごとの平均 点および大学適応感尺度の合計得点の推移を Table5, Table7 に,語りの一例を Table6 および Table8 に示す。 過去の経験から他者との打ち解けられなさを感じなが らも,大学において友人関係を築き,大学への適応感を 維持している学生 D の事例 D は大学入学前までの友人関係や家族関係に対しては ネガティブな感情を抱いており,自らの能力と大学との ギャップや年齢からくる停滞感から大学に対するやるせ なさを抱いていると考えられる。しかし大学における新 たな対人関係は良好なものを築くことができており,そ のことによって D の大学適応感が維持されていること, 「ため息を毎日つきながらでもあと一歩頑張」ることが できていることが推察された。また,D の大学からの友 人に対する援助希求の表明得点がわずかではあるが7 月 ①調査者が作成した自己表明のグラフを参照しながら,グラフの推移について率直な感想を尋ねる。 ②5月から7月及び7月から12月にかけての自己表明の程度の変化について, その変化の理由やきっかけであると対象者が考えるエピソードを尋ねる。 ③ ①~②を通して,他に思い浮かぶエピソード等があれば尋ねる。 ④ ①~③の流れを,因子ごとに繰り返し行う。 ⑤ 面接全体を通しての感想を尋ねる。 Table4.インタビュー調査の流れ 適応感 時期 M SD M SD M SD 5月 2.83 .43 2.96 .59 2.61 .77 7月 2.92 .56 3.41 .40 2.82 .59 5月 2.69 .45 3.01 .60 2.61 .71 7月 2.73 .48 2.82 .53 2.38 .78 5月 2.90 .59 2.42 .36 2.18 .55 7月 3.03 .46 2.67 .26 2.43 .40 5月 2.89 .49 2.60 .47 2.30 .67 7月 2.85 .50 2.49 .50 2.32 .70 5月 2.73 .60 1.84 .57 1.93 .61 7月 2.76 .67 2.83 .62 2.37 .80 5月 2.66 .58 1.99 .41 2.09 .67 7月 2.69 .57 2.36 .53 1.77 .60 信念に基づく意 思の表明因子 高群 低群 援助希求の表明 因子 高群 低群 家族 友人 非日常 好意的感情の 表明因子 高群 低群 Table2.平均値と標準偏差 Table3.各因子ごとの分析(結果一部) 好意的感情の 表明 F(2,52) = 16.82 p < .001 家族<友人*, 非日常<友人* 信念に基づく 意思の表明 F(2,52) = 26.55 p < .001 家族*>友人*> 非日常* 二次の 交互作用 F(2,52) = 4.51 p < .05 友人 F(1,26) = 7.38 p < .05 非日常 F(1,26) = 6.59 p < .05 高群 F(2,26) = 14.90 p < .001 低群 F(2,26) = 5.76 p < .01 友人 7月 F(1,26) = 4.68 p < .05 高群>低群* 非日常 7月 F(1,26) = 5.03 p < .05 高群>低群* 5月 F(2,26) = 24.97 p < .001 家族>友人* 家族>非日常* 7月 F(1.26,4.55) = 4.84 p < .05 友人>非日常* 5月 F(2,26) = 12.87 p < .001 家族>友人*, 家族>非日常* 7月 F(2,26) = 8.75 p < .01 家族>非日常*, 友人>非日常* 高群 友人 F(1,13) = 36.56 p < .001 7月>5月*** 低群 友人 F(1,13) = 5.62 p < .05 7月>5月* 関係性の主効果 関係性の主効果 援助希求の 表明 * = p < .05, ** = p < .01, *** = p <.001 関係性 高群 低群 適応感×時期 関係性×時期 適応感×関係性×時期 適応感 時期 単純・ 単純 主効果 単純 交互作用

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4 から12 月にかけて高くなっていることから,D は今後 も大学からの友人との仲を深め,打ち解けられなさを解 消していく可能性が推測される。 仲良くなるほど友人に言いたいことが言えなくなるも, そのことを友人に打ち明けることができた学生 E の事例 友人に「仲良くなるほど言えなくなる」自己表明のあ り方はE 自身ずっと悩んできたものであり,大学におい て新たな友人関係を築くなかで改めて直面したと考えら れる。そしてそのような状況が一因となり E は 7 月に 大学への適応が難しくなったことが推察される。しかし, 「何でも話せる存在」である家族と積極的に自己表明を 行えるような安定した関係を維持できていたことで家族 とのつながりを再確認したこと,大学からの友人とお互 いの自己表明のあり方について相談し合い,どんな自己 表明のあり方も一長一短であると理解できたことが,そ れ以上大学への適応感を低下させず,12 月まで適応感を 維持する一因となった可能性が考えられた。 第五章 総合考察 研究3の事例から,ある環境において自己表明を行え なくなってしまっても,その環境以外の対人関係におい て自己表明を行うことができたり,自己表明を行える存 在がいることを再確認したりすることで,その環境にお いても自己表明ができるようになったり,自己表明がで きないままでも不適応にならず生きていくことができる 可能性が推測された。さらに研究2では示唆されなかっ た信念に基づく意思の表明の程度の時期による違いに関 する語りが研究3においてみられた。今後は調査協力者 の数を増やしたうえで再度検討する必要があると考えら れる。 引用文献 平木典子(2015) アサーションの心 自分も相手も大切にするコミュ ニケーション,朝日新聞出版 三宅和子(1994) 日本人の言語パターン-ウチ・ソト・ヨソ意識-,筑波大 学留学生教育センター日本語教育論集,9,29-39. 永井智(2013) 援助要請スタイル尺度の作成-縦断調査による実際の援 助要請行動との関連から-,教育心理学研究,61,44-55 柴橋祐子(2001)青年機の友人関係における自己表明と他者の表明を望 む気持ち,発達心理学研究,12,2,123-124 石黒良和・榎本玲子・山上精次・藤岡新治(2016) 援助要請と生活適応 感の関連性~自尊感情と他者軽視の観点から~,専修人間科学論集 心理学篇 6,1,31-40 吉良安之(2001) 入学期の特徴 鶴田和美(編) 学生のための心理相談, 培風館,12-23 北村晴朗(1965) 適応の心理 誠信書房 髙濱怜美・沢崎達夫(2012) 非主張性研究の現状と課題,目白大学心理 学研究,8,63-72 髙倉那々実・志方亮介・古賀聡(2018) 場の認知(ウチ・ソト・ヨソ)の 違いによる自己表明のあり方の検討―青年期と中年期の比較から―, 九州大学心理学研究,19,43-50 玉瀬耕治・馬場弘美(2003)アサーションに及ぼす場の認知の影響に関 する研究.教育実践総合センター研究紀要,12,43-50 大久保智生(2005) 青年の学校への適応感とその規定要因-青年用適応 感尺度の作成と学校別の検討-,教育心理学研究 53,307-319 Table7.学生 E の質問紙調査結果 因子名 関係性 5月 7月 12月 家族 4.00 4.00 3.75 友人 3.75 4.00 4.00 非日常 2.63 4.00 4.00 家族 4.00 3.75 3.63 友人 3.14 2.13 2.13 非日常 3.00 3.00 3.25 家族 3.00 4.00 3.60 友人 3.60 1.20 2.00 非日常 2.00 2.20 3.00 87.00 102.00 94.00 適応感合計 好意的感情の 表明 信念に基づく 意思の表明 援助希求の 表明 Table5.学生 D の質問紙調査結果 Table6.学生 D の語りの抜粋 因子名 関係性 5月 7月 12月 家族 2.88 2.75 2.75 友人 4.00 3.75 3.75 非日常 2.88 3.25 2.88 家族 4.00 3.88 4.00 友人 2.50 2.50 2.63 非日常 2.50 2.50 2.25 家族 2.00 2.60 2.20 友人 2.40 2.40 2.60 非日常 1.40 2.00 1.00 87.00 102.00 94.00 好意的感情の表明 信念に基づく意思 の表明 援助希求の表明  適応感合計 Table8.学生 E の語りの抜粋 学生E(22歳,男性,一人暮らし,県外出身) 「なんか知らない人のなかに入れられた時はすごい喋れるんですけど、仲良くなっ てくると気を遣って言いたいこと言えなくなってくるんです」 「やっぱり仲良くなった後の方が、深く付き合えば付き合うほど嫌われたくないっ ていうのが強くなって喋れなくなっていくんだと思います」 「仲良くなればなるほどというか言えなくなるっていうのはけっこう悩んでて」 「今仲いい友達いるんですけど、その人はもうまったく逆で、そういう(知らない 人ばかりの場所)とかだと全く喋れないけど、仲良くなるとすごくしゃべれるみた いな。どっちがいいかなって話を(笑)」 「家族はほんとに別なんです。もう他人じゃない、ほんとに他人じゃなくて。家族 はほんとに何でも言える」 「いやでも家族は家族、変わらないじゃないですか。友人だと友人って嫌われたら 友人じゃなくなるじゃないですか。やっぱり絶対何を言っても変わらないっていう 自信があれば言えると思うんですけど、そういう人はまだ…はい。全部言える人と かまだ出たことないですね」 自己表明 のあり方 に関する 悩み 家族に 対する思 「どちらかといえば自分の両親の場合はまだ元気な年ではあるし,一年二年ではそ んな状態も変わんないだろうっていうのもあるんで,どちらかというとそのちょっ と距離を置いてたいというのが勝ってしまいますね」 「まあ結局親の言うことを嫌々ながら聞いてた結果ろくなことにならなかったって いうのは正直なところありますしね」 これまで の対人関 「大学院とかでもやっぱりどちらかというと人に振り回される経験が多かったとか も影響してんのかもしれないですよね。うーん。なんか大体の噂話とかは漏れるも んだとかもまあ経験としてあるので,なんかこうあと勉強で生きてきてる人たちの 癖とかもわかってきてるので。どこまで信用していいかというかこの人たちしゃべ るなとかあるじゃないですか。(苦笑)。 「だからいかに29歳としてなじむかみたいなところですよね,やっぱり19,20のふ りをしてるんじゃなくて,29の人間としていかに交われるかみたいなところで考え てる気がします。無理はしないけど入っていきたいみたいな」 「中学からの友人って,こうなんと言うんですかね,思ったらこうずばっと言える ような時代からの付き合いだからそれが続いているって感じで,大学からだと最初 からなんかちょっと,こう他人感があります,ちょっとよそよそしい感じからのス タートだったんで,自分の場合はですね。なのでー,だから言いにくいっていう感 じかもしれないですね」 援助希求 の表明の あり方 「あんまり人との距離感が近い方ではないんですよね。もともとね。うーん,だか ら打ち解けて話してるって思える瞬間がないですよね,原則(…)相談する前にな んとか自分で一人でなんとかするほうではあるし,どうにもならなかったらまあそ れはそれでしょうがないって思ってしまう方なので。相談するくらいならまあそれ はそれでいっかって思ってしまう方ではあるんですよね」 「やっぱまあ30手前になるといろんな意味でまあ停滞感みたいなのがやってくるの で。うーん。なんかそれとあいまってなんとも言えない気分にはなりますけどね」 「まあため息を毎日つきながらでもあと一歩頑張ろうみたいなのの繰り返しですよ ね。まあそんな感じですかね,毎日(苦笑)」 日々の辛 学生D(29歳,男性,一人暮らし,県外出身) 家族への 思い 大学から の友人へ の思い

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