色字共感覚と視覚的作業記憶 [ PDF
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(2) かった。しかし,共感覚は知覚現象なのかそれとも長期記. 色との対応付けを調査する課題を実施した。その結果,4. 憶や学習によるものなのか,その発生プロセスはよく分か. 名の参加者を色字共感覚者とみなし,共感覚群とした。. っていない。そして,その段階を確認するために,共感覚. 実験参加者は,すべて大学生であった。共感覚群 4 名(女. 色が視覚探索課題において影響するのかを調査した研究. 性 4 名,男性 1 名 平均年齢 20.25 歳)。共感覚者ではない. (Cheri et al., 2008)がある。この研究では,共感覚色が視覚. 統制群 8 名(すべて女性 平均年齢 21.25 歳)。. 探索を促進すると考えられる状況と同時に,共感覚色によ. 実験刺激には,Macbook のディスプレイ上に円周上に呈. って統制群よりも結果が悪くなると予想される状況も用い. 示される,共感覚者群が共感覚色を誘発する黒色のひらが. て実験を行った。結果として,どちらの状況でも色字共感. なかカタカナ 6 文字を使用した(図 1)。1 文字の大きさは約. 覚者と統制群の間に差異は見られなかった。そして,共感 覚は視覚探索に影響を与えることができない認知のレベル において生じるとし,これは,共感覚は長期記憶や学習に よるものであるという説と一致している。さらに,RSVP 課題を用いて,色字共感覚者が共感覚色を見ることに,選 択的注意が関与しているのかを調査した研究(Rich & Mattingley, 2010)がある。課題では,呈示される一連の刺 激の最後にある着色された 2 つ目の目標刺激について,途 中に提示される 1 つ目の目標刺激文字によって誘発された 共感覚色と一致する色,または一致しない色のいずれかを. 図 1 実験刺激の例. 用いていた。2 つ目の目標刺激が 1 つ目の目標刺激文字の 共感覚色と一致したとき,色字共感覚者は 2 つ目の目標刺. 20mm で視角は 2.9°であった。刺激の偏心度は視角で. 激の検出率が有意に高かった。つまり,実験の結果,選択. 4.3°であり,フォントには Osaka を用いた。また,刺激. 的注意は色字共感覚者が共感覚色を見るために重要な役割. の背景色は白を用い,参加者からディスプレイまでの観察. を果たすことが示唆された。. 距離は約 40cm であった。各参加者における共感覚色を作. 本研究の目的は上記の点に着目し,知覚よりも高次な機 能である視覚的作業記憶において色字共感覚者の見ている. り出す文字は,本実験前に行った文字と色の対応付け課題 に基づいて選定し,実験刺激に用いた。. 色が保持されているのかを調査することである。作業記憶. 参加者の課題は,ディスプレイ上に連続的に呈示される. を調査する理由は,作業記憶が知覚と長期記憶の間の段階. ひらがなかカタカナによって構成された2つの刺激のうち,. であるため,共感覚がどの段階で生起しているのかを明確. 1 か所が異なるかどうかを判断することであった。各ブロッ. にできると考えたからである。共感覚の視覚的作業記憶を. クの試行開始時には,まずディスプレイ中央に Rest と書か. 調べる方法としては,変化検出課題(Luck & Vogel, 1997). れた画面が呈示され,参加者がスペースキーを押すと十字. を用いた。そして,共感覚色が保持されているのかを検討. の注視点が呈示された。そして第 1 刺激が 500ms,ブラン. するために,記憶保持容量で比較する。この記憶保持容量. クが 900ms,第 2 刺激が 500ms 呈示された。第 2 刺激の. を算出することによって,呈示された複数の刺激のうちの. 呈示終了後,参加者は口頭で「同じ」もしくは「違う」と. いくつを記憶できていたのかを明らかにすることができる。 回答を行い,その回答を実験者が別紙に記入した。回答終 了後に再びスペースキーを押し,残りの試行を実施した。. 方法 実験を行う前に,スクリーニングとして共感覚を有して. 試行数は 12 回を 1 ブロックとして,まず練習試行を 2 ブロ ック,そして本試行を 4 ブロックの合計 72 試行 6 ブロック. いるかどうかを尋ねる質問紙(Eagleman et al., 2007)と,ひ. を実施した。各ブロックの間には休憩をはさんだ。実験の. らがなとカタカナ各 46 文字とマンセルカラーシステム 10. 手続きの流れは,図 2 に示す。実験の所要時間は約 20 分で.
(3) 考察. あった。. 本実験を実施するにあたって,色字共感覚者の視覚的作 業記憶に保持されるそれぞれの文字に共感覚色が結びつい ているならば,色変化条件における文字の変化には色無変 化条件よりも気づきやすくなり,記憶保持容量が大きくな るのではないかという予測を立てていた。また,色字共感 覚者ではない統制群においては,実験刺激の文字に共感覚 色を感じることはないので, 2 つの条件間での記憶保持容量 図 2 実験の流れ. に変化は見られないと考えていた。共感覚群に対する実験 の結果では,参加者 1~3 においては予測と異なっており, 色無変化条件における記憶保持容量が大きくなっていた。. 結果. そして,参加者 4 においては実験前の予測と同様の傾向が. 共感覚群の記憶保持容量を図 3,統制群を図 4 に記す。. 見られた。そこで,予測を確かめるために,記憶保持容量 について実験条件(色無変化条件/色変化条件)×実験参加者 (共感覚群×統制群)の 2 要因分散分析を行った。その結果, いずれの主効果,および交互作用も有意ではなかった。 共感覚群と統制群の実験結果を比較すると,共感覚群で は条件間での記憶保持容量の差がみられそうであったため, t 検定を行った。まず,各参加者の色変化条件の正答率から 色無変化条件の正答率を引いた値の絶対値について,共感 覚群と統制群の間で対応のない t 検定を行うと,片側検定 の結果 5%水準で有意であった(p=0.0328)。さらに,各参加 者の色変化条件の記憶保持容量から色無変化条件の記憶保 持容量を引いた値の絶対値についても同様に対応のない t. 図 3 共感覚群の記憶保持容量(N=4). 検定を行うと,片側検定の結果 5%水準で有意であった(p= 0.0489)。 以上の結果,色字共感覚者においては,共感覚色の変化 が視覚的作業記憶の保持容量に変動をもたらすことが示唆 された。共感覚群 4 名のなかで条件によって違いが見られ た要因としては, 参加者1~3が連想型(Associator)であり, 4 が投影型(Projector)であるという違いあったことが挙げ られる。1~3 の参加者において予測と異なる,色無変化条 件において記憶保持容量が下がるという結果が得られた要 因としては,連想型では共感覚が直接的な視覚経験として は感じられず,共感覚色と文字の形態とを分けて記憶しよ うとする方略を採用した可能性が考えられる。つまり,第 1 刺激において刺激文字 6 つとイメージとして感じられる共. 図 4 統制群の記憶保持容量(N=8). 感覚色 6 文字分をそれぞれ別々に,全部で 12 カテゴリの文 字の特徴として記憶したために,第 2 刺激の文字のために.
(4) 使用できる記憶容量が低下したということである。そのた. 引用文献. め,文字と色が同時に変化する色変化条件においては予測. Cheri, C., Chopping, S. & Morgan, M.J. (2008).. と反して記憶保持容量が小さくなるという結果が出た可能. Synaesthetic colours do not camouflage form in visual. 性がある。そして,参加者 4 においては,投影型であった. search. Proceedings of the Royal Society of London B,. ため,文字と共感覚色を 1 つの物体として記憶することが. 275, 841-846.. でき,第 1 刺激において目に見える 6 つの文字と共感覚色. Cytowic, R.E. & Eagleman, D.M. (2009). Wednesday is. をそのまま 6 つのカテゴリとして記憶し,その後の第 2 刺. indigo blue: Discovering the brain of syneasthesia.. 激でも見たままの文字と色を 6 つのカテゴリとして記憶し. Cambridge, MA: The MIT Press. (リチャード・E・シ. たのであろう。その結果,予測したとおりに文字と色の変. トーウィック 山下篤子訳 (2002). 共感覚者の驚く. 化が同時に起きる色変化条件において記憶保持容量が大き. べき日常: 形を味わう人,色を聴く人 草思社). くなった可能性が考えられる。. Eagleman, D.M., Kagen, A.D., Nelson, S.S., Sagaram, D.. 本研究では,色字共感覚者の視覚的作業記憶を調査する. & Sarma, A.D. (2007). A standerdized test battery for. ことによって,共感覚がどの段階で生起しているのかを明. the the study of synesthesia. Neuroscience Methods,. 確にすることを目的としていた。そして,実験の結果,共. 159, 139-145.. 感覚色の呈示条件によって色字共感覚者の記憶保持容量に. Harrison, J. (2001). Synaesthesia: The strangest thing.. 変化が見られた。つまり,共感覚は視覚的作業記憶という. New York: Oxford University Press. (ジョン・ハリソン. 知覚と長期記憶の間にある段階で生じている可能性が示さ. 著 松尾科弥子訳 (2006). 共感覚 もっとも奇妙な. れ,これは,Cheri et al.(2008)の実験結果とは異なるもの. 知覚世界 新曜社). であった。Cheri et al.の実験では,色字共感覚者の共感覚. Maurer, D. (1997). Neonatal synaesthesia: Implications. 色の見え方の 2 つのタイプの投影型と連想型について区別. for the processing of speech and faces. Baron-Cohen,. を行っていなかったため,実験結果に影響が出たのではな. S. & Harroson, J. (Eds.) Synaesthesia classic and. いかと考えられる。Cheri et al.の研究のみではなく,投影. contemporary. 型と連想型について区別をしない研究は多く見られる。こ. 224-243.. readings.. Blackwell. Publishers,. の 2 つのタイプを区別して研究を行うことは,共感覚の生. Luck, S.J. & Vogel, E.K. (1997). The capacity of visual. 起理論を明らかにするためには必要なのではないかと考え. working memory for features and conjunctions.. られる。また,本研究の実験で用いた変化検出課題では,. Nature, 390, 279-281.. 刺激の呈示時間が一瞬であったため,刺激として用いた 6. Ramachandran,. V.S.. &. Hubbard,. E.M.. (2001a).. つのひらがなかカタカナという比較的高次の視覚情報を記. Synaesthesia: a window into perception, thought and. 憶することは困難であったと考えられる。しかし,結果と. language. Consciousness Studies, 8, 3-34.. して,条件によって記憶保持容量に変動をもたらすことが. Rich, A.N. & Mattingley, J.B. (2010). Out of sight, out of. 示唆されたため,Ramachandran & Hubbard(2001)が提唱. mind:. していたように,共感覚が脳における比較的低次のレベル. synaesthetic colours. Cognition, 114, 320–328.. で生じているという理論と整合すると考えられる。. The. attentional. blink. can. eliminate. Smilek, D., Dixon, M.J., Cudahy, C., & Merikle, P.M. (2002).. Synesthetic. color. experiences. memory. Psychological Science, 13, 548-552. influence.
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