博士後期課程用
(様式4)
学 位 論 文 の 内 容 の 要 旨
氏 名 茂原 美穂 印
Restoration from polyglutamine toxicity after free electron laser irradiation of neuron-like cells
(神経様細胞への自由電子レーザー照射後のポリグルタミン毒性からの回復)
(学位論文の要旨)2,000字程度、A4判
【背景と目的】
ポリグルタミン病は異常伸長したポリグルタミン(polyQ)をもつ神経変性疾患である。原因遺伝子 内のCAGリピートにより異常伸長ポリグルタミンを含むたんぱくを産生する。ミスフォールドした異常 伸長ポリグルタミンたんぱくはβシート構造をとり、細胞毒性を示す。例として、ポリグルタミン病の ひとつであるハンチントン病由来線維芽細胞を分化させると形態的な異常を示す。それらの毒性を担う のは凝集体である。先行研究から中赤外自由電子レーザー(FEL)は69-グルタミンリピートのポリグ ルタミンペプチド(69Q)による凝集体を解離させ、293T細胞内におけるβシート構造の量を減ずること がわかっている。これらの結果から、FELによる神経様細胞内のポリグルタミン凝集体の解離はポリグ ルタミン毒性による神経細胞様の分化阻害を抑制するという仮説を立て、その仮説を検証することを目 的とした。
【方法】
SY-SY5Y細胞とPC12細胞をそれぞれレチノイン酸、神経成長因子を用いて分化させた。PolyQを培 地に添加して分化後の細胞に取り込ませた後、FELを照射し(6.08μm、25分間)、さらに3日間分化 用培地で培養した。同様に未分化の細胞にpolyQを導入し、3日間培養、分化させた。突起1本あたり の長さ、細胞ひとつあたりの突起の数、細胞ひとつあたりの突起の全長の全3項目を定量し、以下の4 群についてANOVA検定を用いて統計解析した。
①69Qを添加していない且つFEL照射していない細胞
②69Qを添加していない且つFEL照射した細胞
③69Qを細胞質内に取り込み且つFELを照射していない細胞
④69Qを細胞質内に取り込み且つFELを照射した細胞
【結果】
分化後の細胞への影響
(1)伸長したpolyQは分化した細胞において形態的退縮を引き起す。
分化後に69Qを取り込んだSH-SY5Y細胞、PC12細胞両者で全項目において形態的退縮を示した(添 付資料図1BCD、図2CDE)。
(2)FELは分化した細胞における伸長したpolyQによる神経退縮を回復させる。
FEL照射そのものは、SH-SY5Y細胞において、突起1本あたりの長さ(図1G)、細胞ひとつあたり の突起の数(図1H)には影響しなかったが、細胞ひとつあたりの突起の全長は短かった(図1I)。
博士後期課程用 69Qを取り込んだ細胞へのFEL照射は突起1本あたりの長さ(図1G)と細胞ひとつあたりの突起の 全長(図1I)を、69Qを添加していない且つFEL照射していない群と同等までに回復させた。細胞ひと つあたりの突起の数(図1H)では、69Qを細胞内に取り込み且つFEL照射した群は、69Qを細胞内に 取り込み且つFEL照射していない群と比べて有意に多かった。
PC12細胞において、FEL照射そのものによる形態的変化はみとめられなかった(図2CDE)。69Q の細胞内への取り込みによる形態的退縮はFEL照射によって69Qを添加していない且つFEL照射なし の群と同等までに回復した。
分化前の細胞への影響
(1)伸長したpolyQは分化前の細胞において形態的退縮を引き起す。
分化前に69Qを細胞内に取り込んだSH-SY5Y細胞では全項目において形態的退縮がみられた。
(2)FELはSH-SY5Y細胞における伸長したpolyQによる分化の妨害を抑制する。
分化前のSH-SY5Y細胞へのFEL照射そのものはその後の分化に影響した。細胞ひとつあたりの突起の 数は少なく、細胞ひとつあたりの突起の全長は短かった(図3DE)。しかし突起1本あたりの長さ(図 3C)において差はなかった。69Qを細胞内に取り込んだ群はFEL照射によって全項目において69Qを 添加していない且つFEL照射していない群と同等までに回復させた(図3CDE)。
【考察】
FEL照射の間のサンプルの温度上昇は1℃以下であるため、副作用としての温度の影響は無視できる ものと考えるが、FEL照射そのものが形態的な副作用を示した。また、たんぱくの放射吸収が他の未確 認の副作用を与えうるという可能性は排除できない。しかし、FEL照射は69Qを有する分化したSH-SY 5Y細胞とPC12細胞において形態的退縮を回復させ、SH-SY5Y細胞において69Qによる分化阻害を抑制 した。これらの結果から、今回のデータはFEL照射によるpolyQ凝集体解離は神経様細胞において凝集 体由来の細胞毒性から回復させるというエビデンスとなる。
異常伸長polyQによる突起退縮に対するFELの保護的な効果の機構として、βシート構造の減少と他 の因子が相乗的に働く可能性がある。この論文ではポリグルタミン病の原因たんぱくではなく、異常伸 長polyQの部分のみを使用してFEL照射の回復効果を証明した。そのため、今後は異常伸長polyQをも つ原因たんぱくを使用した同様の研究が行われる必要がある。