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Academic year: 2021

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氏 名 田 陽子 授 与 し た 学 位 博 士 専攻分野の名称 歯 学

学 位 授 与 番 号 博甲第5947号 学位授与の日付 平成31年3月25日

学位授与の要件 医歯薬学総合研究科社会環境生命科学専攻

(学位規則第4条第1項該当)

学位論文の題目 マウス歯胚の発育に対する抗がん剤の影響についての組織学的および分子 生物学的検討

論 文 審 査 委 員 沢 禎彦 教授 岡元 邦彰 教授 中野 敬介 准教授

学位論文内容の要旨

論 文 内 容 の 要 旨 (2000字 程 度 )

【目的】

近年,医学の進歩により小児がん患者の約8割が治癒し,多くが青年期を迎えている。しかしながら,様々 な晩期合併症が生じることがあり,代表的なものとして,低身長などの成長発達障害,内分泌器や消化器,

循環器,生殖器の機能異常などが報告されている。一方,口腔内では,永久歯胚の欠損、歯根あるいは歯冠 の形態異常を起こす頻度が高いことが知られている。これらは,がん治療に用いられる抗がん剤,アルキル 化剤の投与や放射線照射が原因であることが示唆されているが,発症機序については十分に解明されていな い。今回我々は,歯の形成に対する抗がん剤の影響についてマウス歯胚を用いて組織学的および分子生物学 的検討を行ったのでこれを報告する。

【方法】

(1)動物モデル

マウス実験は,岡山大学大学院医歯薬学総合研究科動物実験委員会の承認を得て行った。妊娠 16 日 齢の ICR マウス雌より,実体顕微鏡下において胎児の下顎第一臼歯を採取し,実験に供試した。

(2)器官培養

胎生16日齢のマウスより下顎第一臼歯の歯胚を採取後,0.5%アスコルビン酸および0.5%ペニシリ ン-ストレプトマイシン含有 BGJb Medium を用いて 37℃, 5% CO2下にて器官培養を行った。培養1 日目にシクロフォスファミド製剤を 0.11 mg/ml, 0.21 mg/ml, 0.42 mg/ml の濃度に分けて添加した。培 養液の交換は隔日で行い,培養7日目,14日目および21日目における歯胚を実験に供試した。

(3)病理組織学的解析

下顎第一臼歯歯胚を 10%中性ホルマリンにて固定し,リン酸緩衝生理食塩水 (PBS) で洗浄後,エ タノールを用いて脱水およびクロロホルムを用いて脱アルコールを行い,パラフィン包埋を行った。

パラフィン包埋ブロックより薄さ 5μm の連続切片を作製し,切片のヘマトキシリンエオジン (Haematoxylin-Eosin; HE) 染色による病理組織学的検討を行った。

(4)蛍光免疫組織学的解析

サイトケラチン14, ビメンチン,Ⅰ型コラーゲン,フィブロネクチンの各タンパク発現の確認のた め,共焦点レーザー顕微鏡を用いた蛍光二重染色法による蛍光免疫組織学的解析を行った。上記の方 法で作製したパラフィン切片を用いて,一次抗体を使用し,4°Cで一晩反応させた。翌日,各標識の 二次抗体を用いて室温で遮光下にて各40分静置後, Hoechst 33342 solution により核染色を行った。蛍

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光免疫染色を行った切片を,共焦点レーザー顕微鏡にて観察を行った。

(5)全 RNA の抽出

歯 胚 の RNA 抽 出 は Acid-guanidinium-phenol-chloroform 法 に 基 づ い て お こ な っ た 。 RNAgents®Denaturing Solution に歯胚を懸濁し,Sodium acetate, 2 M, pH 4.2およびフェノール: クロロ ホルム5:1を添加し遠心分離を行った。この上清を採取し,3 M Sodium acetate およびEthachinmate,

100% Ethanol を添加した。さらに遠心分離を行い,得られた沈殿を70% Ethanolにて洗浄して乾燥後,

Diethylpyrocarbonate (DEPC) 処理水に溶解させた。

(6)cDNA の合成

回収した全 RNA に,Oligo dt , dNTP mix , DEPC 処理水を添加し,65℃で5分間反応させた。1分 間氷上で静置した後, 5×First-Stand Buffer, 0.1M DTT, RNase out, Super ScriptⅢを用いて逆転写反応を行 い, cDNA を合成した。

(7)リアルタイム PCR による定量的遺伝子解析

得られた cDNA を鋳型として, サイトケラチン 14,ビメンチン, Ⅰ型コラーゲン, フィブロネクチ ンの各タンパクをコードする遺伝子の発現量を SYBR green を用いた Real-time Quantitative Reverse transcription-PCR (Real-time qRT-PCR) 法により調べた。遺伝子増幅反応ならびに蛍光強度の測定には StepOnePlusTM を使用した。Real- time qRT-PCR の条件は添付の指示書に従い設定した。目的遺伝子の 発現量は,β-actin を内部標準として補正した。

【結果および考察】

HE 染色の結果から,シクロフォスファミド製剤による歯胚形成への影響は,0.21 mg/ml添加群ではエナ メル芽細胞や象牙芽細胞の配列の乱れなど局所の細胞において認められ, 0.42 mg/ml添加群では歯胚の形 態異常など歯胚の広範囲に影響が認められた。蛍光免疫染色の結果より,シクロフォスファミド製剤の添加 により,サイトケラチン14とⅠ型コラーゲンは,培養14日目において発現の低下が認められ,また,ビメ ンチンとフィブロネクチンは,培養21日目において発現の低下が認められた。qRT-PCR の結果から,サイ トケラチン14は,発現に有意な増加が認められた。ビメンチンは,培養21日目で発現に有意な低下が認め られた。Ⅰ型コラーゲンは,培養7日目,14日目で発現に有意な低下が認められたが,21日目では有意な 低下は認められなかった。フィブロネクチンは,培養21日目で,発現に有意な低下が認められた。

以上の結果より,シクロフォスファミド製剤により,エナメル芽細胞や象牙芽細胞が傷害されることで,

配列に乱れが生じ,歯冠の形態異常,象牙質の形成量の低下などの組織学的な影響が現れることが示唆され た。また,シクロフォスファミド製剤により,サイトケラチン14とⅠ型コラーゲンは鐘状期前期に影響が 現れ,ビメンチンとフィブロネクチンは,鐘状期後期に影響が現れることが示唆された。

本研究から,歯胚形成期における抗がん剤の投与により,上皮組織と間葉組織の双方に影響を与え, 抗が ん剤の投与がマウスの歯胚の形成における歯冠の形成および歯根の形成に関与することが示唆された。

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論文審査結果の要旨

化 学 療 法 を 経 験 し た 小 児 が ん の 長 期 生 存 者 に お け る 永 久 歯 の 形 成 障 害 が 問 題 と な っ て い る 。 化 学 療 法 プ ロ ト コ ル で も 特 に 増 殖 細 胞 のDNA鎖 に ク ロ ス リ ン ク を 発 生 さ せ る ア ル キ ル 化 剤 が 原 因 と さ れ る が 、歯 胚 に 対 す る 作 用 機 序 は 十 分 に 解 明 さ れ て い な い 。今 回 我 々 は ,ア ル キ ル 化 剤 の 一 つ で あ る シ ク ロ フ ォ ス フ ァ ミ ド が 歯 の 形 成 に 与 え る 影 響 に つ い て ,マ ウ ス 歯 胚 を 用 い て 組 織 学 的 お よ び 生 化 学 的 検 討 を 行 っ た 。

本 実 験 は ,岡 山 大 学 大 学 院 医 歯 薬 学 総 合 研 究 科 動 物 実 験 委 員 会 の 承 認 を 得 て 行 っ た 。胎 生 16日 齢 の マ ウ ス よ り 下 顎 第 1 臼 歯 の 歯 胚 を180個 採 取 後 ,BGJb Mediumを 用 い て37℃ ,5%

CO2下 に て 器 官 培 養 を 行 っ た 。 培 養1日 目 に シ ク ロ フ ォ ス フ ァ ミ ド を0.11mg/ml,0.21mg/ml, 0.42mg/mlの 濃 度 で そ れ ぞ れ 添 加 し ,培 養7日 目 ,14日 目 お よ び21日 目 に お け る 歯 胚 を 実 験 に 供 試 し た 。 培 養1日 目 ,14日 目 ,21日 目 に お け る 歯 胚 の パ ラ フ ィ ン 切 片 を 作 製 し , ヘ マ ト キ シ リ ン エ オ ジ ン 染 色 を 行 っ た 。 そ の 結 果 ,0.21mg/ml添 加 群 で は エ ナ メ ル 芽 細 胞 や 象 牙 芽 細 胞 の 配 列 の 乱 れ が 認 め ら れ ,0.42mg/ml添 加 群 で は , 歯 胚 全 体 の 発 育 不 全 が 認 め ら れ , 基 底 膜 の 破 壊 , エ ナ メ ル 芽 細 胞 お よ び 象 牙 芽 細 胞 の 極 性 の 低 下 や 配 列 の 乱 れ が 顕 著 に 認 め ら れ た 。 こ の 結 果 か ら ,0.42mg/ml添 加 群 で は 歯 胚 へ の 影 響 が 大 き す ぎ る と 判 断 し , 今 後 の 実 験 は , シ ク ロ フ ォ ス フ ァ ミ ド の 濃 度 を0.21mg/mlに 設 定 し て 行 っ た 。CK14, ビ メ ン チ ン , Ⅰ 型 コ ラ ー ゲ ン , フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン の 発 現 を 確 認 す る た め , 蛍 光 免 疫 染 色 を 行 っ た 。 そ の 結 果 , 添 加 群 に お け るCK14と Ⅰ 型 コ ラ ー ゲ ン の 発 現 は , 非 添 加 群 と 比 較 し て , 培 養14日 目 で 低 下 が 認 め ら れ ,ビ メ ン チ ン と フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン の 発 現 は ,培 養21日 目 に お い て 低 下 が 認 め ら れ た 。 次 に , 歯 胚 の 全 RNA を 抽 出 し , 定 量PCRを 行 っ た 。 そ の 結 果 , 非 添 加 群 と 比 較 し て , 添 加 群 に お け るCK14の 発 現 量 は ,培 養7日 目 ,14日 目 ,21日 目 に お い て 有 意 な 増 加 が 認 め ら れ , ビ メ ン チ ン お よ び フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン の 発 現 は , 培 養21日 目 で 有 意 な 低 下 が 認 め ら れ た 。

Ⅰ 型 コ ラ ー ゲ ン の 発 現 は ,培 養 7 日 目 ,14日 目 で 有 意 な 低 下 が 認 め ら れ た が ,21日 目 で は 認 め ら れ な か っ た 。CK14が ,定 量PCRで は 有 意 な 差 が 認 め ら れ な か っ た こ と は ,RNA抽 出 の 際 に 周 囲 組 織 が 混 在 し た た め と 考 え ら れ た 。ま た ,フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン の 発 現 は ,免 疫 染 色 で は 有 意 な 差 が 認 め ら れ な か っ た こ と は ,歯 胚 に お け る フ ィ ブ ロ ネ ク チ ン の 発 現 が ,内 エ ナ メ ル 上 皮 直 下 の 基 底 膜 に 限 局 し て い る た め ,検 出 で き な か っ た 可 能 性 が 高 い と 考 え ら れ た 。こ れ ら の 結 果 か ら ,シ ク ロ フ ォ ス フ ァ ミ ド が 培 養 初 期 に 作 用 す る こ と に よ り ,Ⅰ 型 コ ラ ー ゲ ン と ビ メ ン チ ン の 発 現 に 影 響 を 与 え る こ と が 示 唆 さ れ た 。

本 研 究 か ら ,シ ク ロ フ ォ ス フ ァ ミ ド は お そ ら く 内 エ ナ メ ル 上 皮 細 胞 と 歯 乳 頭 細 胞 の 正 常 な 増 殖 と 分 化 を 阻 害 す る た め ,そ こ か ら 分 化 す る エ ナ メ ル 芽 細 胞 と 象 牙 芽 細 胞 の 規 則 的 配 列 と タ ン パ ク 産 生 の 障 害 を 引 き 起 す 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。

本論文は,アルキル化剤による永久歯形成障害のメカニズムを解明する上で重要な知見を示している。

よって,審査委員会は本論文に博士(歯学)の学位論文としての価値を認める。

参照

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