博 士 ( 農 学 ) 高 倉 由 光
学 位 論 文 題 名
Study for control ofplantdiSeaSereSiStanCe bygenetiCengineering
(遺伝子工学による植物病害抵抗性の制御に関する研究)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
近 年、植 物病原 体に対 抗する 手段 として、抗菌性タンパク質をコードする遺伝子を利用して、病害抵 抗性 が増強 した植 物を 作出す ること が可能 になってきた。しかし遺伝子工学による病害抵抗性作物は、未 だ実 用化さ れてお らず 、これ はーつ には発 現する抵抗性の弱さに起因すると考えられる。遺伝子工学を用 いて 分子育 種を行 う利 点は、 種を越 えた遺 伝子を、形質転換できる作物ならば基本的にどの作物にも、短 期間 に導入 するこ とが できる 点にあ る。し かし、遺伝子組換え作物は、それに対するパブリックアクセプ タン スが得 られに くい のが現 状であ る。従 って遺伝子工学を利用した病害抵抗性作物を実用化するために は 、 抵 抗 性 の 強 さ も さ る こ と な が ら 、 用 い る 遺 伝 子 の 安 全 性 に も 留 意 し な け れ ば な ら な い 。 本 研究の 目的は 、植物 の病害 抵抗 性を制御する足掛かりになる基礎的知見を得ることにある。そのた めに 新規な 抗微生 物活 性を有 するタ ンバク 質、あるいは植物の防御反応を誘導するタンバク質性エリシタ ーを 同定し 、それ らの 性質を 解析し た。さ らに、それらを分子育種ヘ応用するために遺伝子をク口ーニン グし 、植物 で発現 させ 、病害 抵抗性 を制御 する能カを含めた機能を解析した。具体的には、植物抵抗性反 応の 下流で 機能す ると 考えら れる防 御関連 タンパク質キチナーゼ、最も上流で機能するタンバク質性エリ シタ ー、ハ ーピン を新 たに同 定し、 それら の性質を分析し、植物における機能を解析した。また食用キノ コから、新規抗菌性夕ンバク質として過酸化水素を発生させる酵素を同定し、その諸性質を明らかにした。
具 体的に は第二 章にお いて、 まず イネ( Oryza sativaL .) の雌蕊からク口ーニングされたキチナー ゼに 関して 述べた 。イ ネの穎 の内部 は開花 と同時に無菌的状態から、外部環境に晒される。しかしこの過 程で 雌蕊等 が病原 菌に 侵され ること は稀で あり、生殖器官特異的な防御機構の存在が示唆される。実際、
これ までに 双子葉 植物 では花 器で特 異的に 発現する防御遺伝子が単離されていた。本研究で同定されたキ チナ ーゼ遺 伝子は ディ ファレ ンシャ ルスク リーニングでク口ーニングされ、コードするタンパク質は、そ の構 造から クラス I キ チナー ゼに 分類さ れ、組 換えタ ンバク 質は 、実際にキチナーゼ活性を示した。本遺 伝子 は、イ ネの雌 蕊、 雄蕊、 鱗被の 伸長ま たは拡大中の組織で強く発現し、葉や根などの器官では殆ど発 現し ていな い、っ まり 植物の 花器で 特異的 に発現 する 初めて のクラスI キチナーゼ遺伝子であった。キチ ナー ゼは菌 類の細 胞壁 構成成 分のー つであ るキチンを分解する溶菌酵素である。これまでにも植物キチナ ーゼ を用い た病害 抵抗 性の増 強例が 報告さ れている。そこで本遺伝子を高発現カセッ卜に接続し、イネに 導入 し、本 遺伝子 を葉 で高発 現して いる形 質転換イネを作出し、病害抵抗性を調査した。その結果、紋枯 れ病 菌(Rhizoctonia solanD に対す るわず かな 抵抗性 が観察 された。しかし、そのレベルはまだ低く、実 用化 には他 の抗菌 夕ン パク質 との同 時発現 が必要 と考 えられ た。
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第 三 章 で は 、 よ り 強 カ な 抗 菌 性 夕 ン パ ク 質 を 見 出 す た め 、 菌 類 、 特 に 食 用 キ ノ コ か ら 、 抗 菌 性 夕 ンパ ク 質 の 選 抜 を 行 っ た 。 こ れ ま で に 食 用 キ ノ コ 類 か ら の 抗 菌 性 タ ン パ ク 質 の 研 究 例 は ほ と ん ど 知 ら れ て いな い 。 菌 類 を 用 い た 理 由 は 、 菌 類 の 溶 菌 夕 ン パ ク 、 例 え ば キ チ ナ ー ゼ は 、 植 物 の そ れ に 比 較 し 、 活 性 が 高い た め で あ る 。 ま た 食 用 キ ノ コ を 用 い た の は 、 菌 類 の 中 で も 食 品 と し て 安 全 性 の 高 い も の を 材 料 に 選 定 した た め で あ る 。 こ の 研 究 で は 、 食 用 キ ノ コ 類 か ら 抗 菌 性 を 有 す る タ ン パ ク 質 を 見 い だ し 、 そ の 遺 伝 子 を 作物 で 働 か せ 、 抵 抗 性 を 付 与 す る 技 術 を 開 発 す る こ と を 目 標 と す る 。 こ れ が 成 功 す れ ば 、 食 品 と し て 安 全 性が 高 く 、 し か も 低 農 薬 で 栽 培 可 能 な 作 物 を 作 出 す る こ と が 可 能 に な る 。 ま ず 、 イ ネ の 最 重 要 病 害 で あ る いも ち 病 菌 、 紋 枯 れ 病 菌 を 用 い たiロ vitro抗 菌 ア ッ セ イ 系 を 確 立 し た 。 こ れ を 利 用し て、 食 用キ ノ コ群 の 選抜 を 行 っ た と こ ろ 、 マ ツ タ ケ (Tricholoma matsutake)の子 実 体に 非 常に 強 い抗 菌 活性 を見 出 すこ と がで き た。
マ ツ タ ケ に 見 出 さ れ た 高 い 抗 菌 活 性 は タ ン バ ク 質 に よ る も の で あ る こ と が 分 か り 、 そ の タ ン パ ク 質 を 精製 し た と こ ろ 、 そ の 部 分 ア ミ ノ 酸 配 列 が ピ ラ ノ ー ス オ キ シ ダ ー ゼ と い う 酵 素 と 相 同 性 を 示 し た 。 さ ら に 精製 し た マ ツ タ ケ 抗 菌 夕 ン パ ク 質 に は 実 際 に 強 い ピ ラ ノ ー ス オ キ シ ダ ー ゼ 活 性 が あ る こ と が 判 明 し た 。 こ の酵 素 は 、 糖 を 酸 化 す る 過 程 で 過 酸 化 水 素 を 発 生 さ せ る 酵 素 で あ り 、 こ の 過 酸 化 水 素 が 抗 菌 活 性 の 原 因 で ある こ と を 突 き 止 め た 。 前 述 の 如 く 、 過 酸 化 水 素 は 植 物 の 防 御 反 応 に お い て 、 直 接 的 な 抗 微 生 物 活 性 の 他 、防 御 反 応 の シ グ ナ ル 分 子 と し て も 働 く 。 マ ツ タ ケ ピ ラ ノ ー ス オ キ シ ダ ー ゼ を 、 病 害 抵 抗 性 の 分 子 育 種 に 利用 す る た め 、 そ の 遺 伝 子 を ク ロ ー ニ ン グ し た 。 こ れ ま で に 植 物 に グ ル コ ー ス オ キ シ ダ ー ゼ を 導 入 し 、 植 物に 過 酸 化 水 素 を 発 生 さ せ 、 複 合 病 害 抵 抗 性 を 付 与 し た 例 が 報 告 さ れ て い る 。 ピ ラ ノ ー ス オ キ シ ダ ー ゼ も 同様 の 戦 略 が 応 用 で き る と 考 え ら れ る 。
第 四 章 で は 、 植 物 病 原 細 菌 由 来 の タ ン バ ク 質 性 エ リ シ タ ー で あ る ハ ー ピ ン を 導 入 し た 植 物 に 関 し て述 べ る 。 エ リ シ タ ー は 植 物 抵 抗 性 反 応 の 最 上 流 の ス イ ッ チ を 入 れ る 分 子 で あ り 、 ハ ー ピ ン を 植 物 で 発 現 させ る と 、 上 述 の 一 連 の 抵 抗 性 反 応 が 作 動 し 、 広 い ス ベ ク 卜 ラ ム の 病 害 抵 抗 性 を 与 え る 可 能 性 が あ る 。 こ れま で に 、 ハ ー ピ ン を 注 入 あ る い は 噴 霧 処 理 し た 植 物 で は 、 全 身 獲 得 抵 抗 性 が 誘 導 さ れ 、 病 原 体 に 対 す る 抵抗 性 が 増 強 す る こ と が 示 さ れ て い た 。 し か し な が ら 、 ハ ー ピ ン 遺 伝 子 を 発 現 す る 形 質 転 換 植 物 は 報 告 さ れて い な か っ た 。 本 研 究 で は ラ イ ラ ッ ク 枝 枯れ 細 菌病(Pseudomonas syringae pv syringae LOB2―1) 由来 の ハー ピ ン 遺 伝 子 を ク 口 ー ニ ン グ し 、 植 物 で 作 動 す る プ 口 モ ー タ ー に 接 続 、 夕 パ コ(Nicotiana tobacum)と イ ネ に 導 入 し た 。 そ の 結 果 、 ハ ー ピ ン を 細 胞 内 に 高 発 現 す る 植 物 は 形 態 的 に 正 常 で 、 種 子 稔 性 も 正 常 範 囲 であ っ た 。 形 質 転 換 夕 バ コ の 葉 に 、 う ど ん こ 病 菌 (Erysiphe cichoracearum)を 接 種 し た と こ ろ 、 興 味 深 い こ と に 、4ー5日 で 、 過 敏 感 反 応 様 の 壊 死 斑 が 形 成 さ れ た 。 壊 死 斑 の 生 じ た 個 体 の 多 く に お い て 、 う ど ん こ病 に 対 す る 抵 抗 性 が 増強 し てい た。 防 御関 連 夕ン バ ク質 群(PR−la,Q,S) の 発現 誘 毎は 、非 組 換え 体 に比 較 し、
組 換 え 体 の 方 が 早 か っ た 。 ハ ー ピ ン は 細 胞 膜 の 外 側 で 認 識 さ れ る と 考 え ら れ て い る の で 、 以 上 の 結 果 の説 明 の ー つ と し て 、 植 物 細 胞 内 に 蓄 積 し て い た ハ ー ピ ン が 、 病 原 菌 感 染 に よ っ て 細 胞 外 に 流 出 し 、 そ こ で初 め て 植 物 に 認 識 さ れ 、 抵 抗 性 反 応 が 流 れ た 、 と い う 推 論 が 可 能 で あ る 。 一 方 、 ハ ー ピ ン を 導 入 し た イ ネで は 、 過 敏 感 反 応 は 観 察 さ れ な か っ た も の の 、 い も ち 病 菌(Magnapor the gr isea)に対 す る有 意 な抵 抗 性が 確 認 さ れ た 。 以 上 の 結 果 か ら 、 ハ ー ピ ン 導 入 に よ っ て 、 夕 パ コ で は 過 敏 感 反 応 と 誘 導 抵 抗 性 が 、 イ ネ では 誘 導 抵 抗 性 が 付 与 さ れ た こ と が 示 さ れ た 。 こ う し て 、 細 菌 の タ ン バ ク 質 性 工 ル シ タ ー で あ る ハ ー ピ ン の遺 伝 子 を 発 現 さ せ る こ と に よ る 病 害 抵 抗 性 付 与 の 可 能 性 が は じ め て 実 験 的 に 示 さ れ た 。 本 研 究 を 通 じ 、 植 物 の 花 に お け る 防 御 遺 伝 子 の 特 異 的 発 現 、 担 子 菌 に お け る 防 御 因 子 と し て の 役 割を 担 い 得 る 過 酸 化 水 素 発 生 酵 素 の 存 在 が 明 ら か と な り 、 そ れ ら の 遺 伝 子 に よ る 植 物 の 改 良 の 可 能 性 が 指 摘さ
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れ た 。 さ ら に 植 物 ― 微 生 物 相 互 作 用 に 重 要 な 役 割 を 果 た すェ リ シ タ ー 分 子 が 、植 物 種 を 越 え て 効果 の あ る こ と が 判 明 し 、 そ の 作 用 機 作 の 一 端 を 解 明 す る こ と が 出 来た 。 即 ち 、 自 然 界 の多 様 な 防 御 機 構 は、 種 を 越 え て 効 果 の あ る 可 能 性 が 指 摘 さ れ 、 一 部 に つ い て は そ の 潜在 能 カ を 明 示 す る こと が 出 来 た 。 こ れら の 知 見 は パ ブ リ ッ ク ア ク セ プ タ ン ス の 問 題 が 解 消 さ れ た 後 、 品 種育 成 、 特 に 病 害 抵 抗性 の 分 子 育 種 に 大き く 貢 献 で き る と 考 え ら れ る 。 ′
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