博 士 ( 理 学 ) 角 井 敬 知 学 位 論 文 題 名
Taxonomy and Phylogeny of ■
Tanaidaceans (Crustacea: Peracarida) from Japan
(日本産夕ナイス目(甲殻亜門:フクロエビ上目)の 分 類 学 お よ び 系 統 進 化 学 に 関 す る 研 究 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
タ ナ イ ス 目 は フ ク ロ エ ビ 上 目 に 属 す る 水 生 甲 殻 類 の 一 動 物 群 で あ る . 主 に 海 域 に 産 し , 海 産 種 は 極 域 か ら 赤 道 直 下 , 沿 岸 域 か ら 水 深9000mに い た る 深 海 域 ま で 報 告 さ れ る . 世 界 か ら 約1000種 ( う ち 化 石 種13種 ) , 日 本 近 海 か ら は80種 余 り が 報 告 さ れ る , 現 行 の タ ナ イ ス 目 内 の 体 系 は4亜 目34科 か ら な る が , 系 統 関 係 に つ い て は , 多 く の 研 究 が 限 ら れ た グ ル ー プ 間 の 近 縁 性 を 独 立 に 示 唆 す る に 留 ま っ て い る た め , 理 解 が 進 ん で い な い , 2010年 に は 初 め て タ ナ イ ス 日 内 の 分 子 系 統 解 析 が 試 み ら れ た が(Drumm 2010), 現 生3 亜 目 の う ち の2亜 目 , そ の う ち の 少 数 の 科 し か 扱 え て 船 ら ず , 多 く の 系 統 的 仮 説 は 解 決 さ れない まま 残され ている .
本 論 文 は , タ ナ イ ス 類 の 形 態 形 質 に 基 づ く 記 載 分 類 学 的 研 究 お よ ぴ , 分 子 情 報 に 基 づ く 系統進 化学 的研究 の成果 をまと めた もので ある,
第 一 章 で は , タ ナ イ ス 目 の 概 要 と 研 究 材 料 ・ 方 法 に つ い て 述 べ た , 第 二 章 で は , 南 西 諸 島 海 域 よ り 得 ら れ た タ ナ イ ス 類 の 記 載 分 類 を 行 っ た .4未 記 載 種 ,Nesotanais ryuりU釦 曲 Sp.nov.,jmd面 叩aSぬ 瑚a丘ね6a.面ロ甜て峪ぬ設なSp.nov.,B鉛H成硬p轟卩.a.pロSg艫面めあ瑚WS sp.nov. , ぬPUd卿 畑 叩 珊c岬 磁 釘Sp.nov. の 記 載 を 行 っ た . 舶 舶 ぬ ロ ぬ ザ 晦H釦 曲 を 記 載 す る 過 程 でMr昭 ・ ムBaInber,BirdandAngsupanich,2003の 補 完 的 再 記 載 を 行 い , 両 種 の 雄 が 鋏 脚 に 有 す る 溝 列 の 構 造 と 機 能 に つ い て 考 察 を 行 っ た . ま た ,WみsDぬ 田aお 属とAeUぬ 印め廻p珊 属の種 検索表 を作成 した.
第 三 章 で は ,A形 め ぬ 田a嵒a. ムsビ 凹 め くRichardson,1899) の所 属 を 明 ら かに し た . 本 種は 所 属 し て い る ′ranaidae科 の 共 有 派 生 形 質 状 態 の ー っ で あ る , 歩 脚 座 節 の 喪 失 を示 さ ず , 歩 脚 座 節 を 有 す る こ と がK:u88ak血 とTzareva(1974) に よ り 報 告 さ れ て い た . し か し 後 に Sieg(1980a) は 本 種 が 歩 脚 座 節 を 喪 失 し て い る と 記 載 し た . 歩 脚 座 節 の 喪 失 は , タ ナ イ ス 日 内 に お い てTanaidae科 の み が 示 す 形 質 状 態 で あ る こ と か ら , 本 種 が 歩 脚 座 節 を 有 し て い た 場 合 , 所 属 に つ い て 疑 問 が 生 じ る . 今 回 , 北 海 道 よ り 得 ら れ た4.aムsc凹 別 嵒 を 用 い て , 分 子 系 統 学 的 手 法 か ら 本 種 の 所 属 を 検 証 し た . 採 集 さ れ た 標 本 に は こ れ ま で 報 告 の 無 か っ た 雄 個 体 が 含 ま れ た の で , そ の 記 載 も 行 っ た ,18SrRNA遺 伝 子 の 部 分 配 列 情 報 に 基 づ ぃ た 分 子 系 統 樹 は , イ .aあ 閲 釦 曲 がTIanaidae科 に 属 す る こ と を 強 く 支 持 し た . 形 態 観 察 で は ,Khssak血 とTzareva(1974) の 記 載 ど お り 本 種 が 歩 脚 座 節 を 有 す る こ と と , TaIlaidae科 の 他 の 共 有 派 生 形 質 状 態 を 示 す こ と が 再 確 認 さ れ た , 以 上 の こ と か ら ,4, aムs― 曲 はTlanaidae科 に 所 属 さ せ る の が 妥 当 で あ る と 考 え ら れ た の で ,Tlan虹dae科 の 判 別 文 の 修 正 を 行 っ た . ま た4.aム 開 館8嵒 の 歩 脚 座 節 は 半 円 形 で あ り , 他 の タ ナ イ ス 類 が 有 す る 円 形 の 歩 脚 座 節 と は 異 な る 形 状 を 示 す こ と が 今 回 明 ら か に な っ た . 第 四 章 で は , タ ナ イ ス 目 内 の 分 子 系 統 解 析 を 行 っ た , こ れ ま で タ ナ イ ス 日 内 の 亜 目 階 級 に は 2仮 説 が 提 唱 さ れ て い る . Lang(1956) は 現 生 種 に つ い てMonokonophoraと
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Dikonophora
の
2亜目体 系を提唱 した.
Sieg (1980b)は化石種までを含んだ4 亜目体系を 提唱した. Sieg (1980b) の体系下で現生種は,Apseudomorpha 亜目,Neotanaidomorpha 亜目 ,Tanaidomorpha 亜目の3 亜目に分けられ,′ranaidomorpha 亜目はさらにTanaoidea 上科 とParatanaoidea 上科の2 上科に分けられる.現在タナイス類研究者に広く認められ ているのは,Sieg (1980b) の体系である,これら2 体系で大きく異なるのは,Neotanaidae 科の 系統的 位置であ るが, 本科の系 統的位 置については異なる3 仮説が存在している,
Lang (1956)
はNeotanaidae 科が現 行のParatanaoidea 上科と 姉妹群 を形成し ,現行 の
Tanaoidea上科と ともに
Dikonophora亜 目として まとまると考えた.Lauterbach (1970) と
Gardiner (1975)はLang (1956) の体 系を支 持したう えで,Neotanaidae 科は 現行の
′ranaoidea 上科とParatanaoidea 上科全体の姉妹群であると考えた,Sieg (1984 )は自身 の 提 唱し た 現 生
3亜 目 の 体系 の 下 ,Neotanaidae 科は
Neotanaidomorpha亜目を 構成す る唯 一の科 であり,
Apseudomorpha亜目と近縁であると考えた,本章では,
Neotanaidae科の 系統的 位置につ いて, 分子系統 学的手 法を用いて検証を行った.18SrRNA 遺伝子の 部分配列情報に基づぃた分子系統樹は,解析方法により樹形に差が見られたが,いずれの 場合 も,Neotanaidae 科が
Tanaoidea上 科と姉妹 群を形 成するこ とを強く 示した.この 結果は,これまで提唱されていたいずれの系統仮説とも異なり,同時にSie 写(1980b )の現 生 三 亜目 の 体 系 を否 定 す るも の で あっ た . 得られ た分子 系統樹を もとに ,さらに ,
Apseudomorpha亜 日 内 に 独 立 に 進 化 し た
2系 統 が 存 在 す る と い う 仮 説 と ,
Apseudomo坤ha 亜目 に属す るSphyrapodidae 科の系統 的位置 に関する 仮説に っいても議 論を 行った ,Gutu く2006 ) は
Apseudomo坤ha 亜日内 には第一歩脚底節茄よぴ胸節側部の 棘状 突起の 有無で区 別できる独立の2 系統が存在すると提案した.しかしDrumm (
2010) の系 統樹で は2 系 統がそ れぞれ単 系統を形 成しな かった. 今回の 結果はDrumm (
2010) と同様であり,やはりG11 沁(2006 )の仮説を支持しなかった.Sphyrapodidae 科について は, 形態類 似度から ,同じ 亜目に属 するKamapseudidae 科との近縁性と,異なる亜目に 属す るNeotanaidae 科との 近縁性が 提唱さ れていた .今回,最節約法,最小進化法,最 尤 法 を 用 い た 解 析 に お い て
Sphyrapodidae科 は
Kamap8eudidae科 を 除 い た
Apseudomo坤
ha亜 目 と 姉妹 群 を 形成 し ,
Kamapseudidae科お よ ぴ
Neotanaidae科と の 近縁 性は支 持されな かった.唯一ベイズ法を用いた解析においてのみKauiapseudidae 科 と の 近縁 性 が 示 唆さ れたが, やはり
Neotanaidae科 との近縁 性は支持 されな かった.
以上の通り,本論文では,4 未記載種の記載を行い,んでめぬ皿a 由a ム8c 印別活および
Neotanaidae科 の 系 統 的 位 置 に つ い て 分 子 系 統 学的 手 法 を用 い て 明ら か に した .
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨
主 査
教 授
Matthew H.DICK副 査
教 授
片 倉 晴 雄 副 査
教 授
堀 口 健 雄 副 査
准 教 授
柁 原
宏
学 位論 文 題名
Taxonomy and Phylogeny of 一 I 一
Tanaidaceans (Crustacea: Peracarida) from Japan
( 日 本 産 夕 ナ イ ス 目 ( 甲 殻 亜 門 : フ ク ロ エ ビ 上 目 ) の
分 類 学 お よ び 系 統 進 化 学 に 関 す る 研 究 )
タ ナ イ ス 目(Tanaidacea)は 主 と し て 海 域 に 産 する 小型 水 生甲 殻類 で 、こ れま で 世界 から 約1000種、 日 本 か ら80種 余り が 報告 され て いる が、 現 在も 未記 載 種が 多く 存 在す るグ ル ープ であ る 。本 目に お いて は4亜 目5 上 科34科か ら なる 高次 分 類体 系が 広 く受 け入 れ られ てき た が、 これ ら高次分類群問 の系統関係には不明 な点が 多 く残 って い た。 著者 は日本 産タナイス日を対象 として分類学的、 系統学的研究を行 い、本論文にまとめ た。論 文 は タ ナ イ ス 目 の 概 要 に つ い て 述 ぺ た 第 一 章 、 各 章 の 内 容 を ま と め た 第 五 章 を 含 む 計 五 章 か ら な る 。 第二 章に お いて は南 西 諸島 海域 か ら得 られ た4新 種 が記 載さ れ てい る。 南 西諸 島海 域 は沿岸域から深 海域に 至 るま で多 様 な海 洋環 境 を保 有し て いる もの の 、こ れま で 本海 域か ら のタ ナイ ス 類の 報告は5報10種に 限られ て おり 、十 分 な研 究が 進 んで いた と は言 い難 い 。そ こで 著 者は 本海 域を対象に採集 調査を行い、2科4未 記載種 を 確認 し、 そ れぞ れNesotanaおザ 心yH駟 蝣、Jhdぬ 。pasぬrロa丘函 ろaム 口 口朋sむ.a幽、Be口出叩轟P旧p恥 gH血め′Dnゲz|&Pcロ印耐な曽rとして記載した 。このうちAを即ねロaね属は日本初報告、Jhd抽印asぬrロa丘函属 は 北 太 平 洋 初 報 告 で あ っ た 。 舶sDぬ 口a由r. 門 | 竃yu凹sお を 記 載 す る 過 程 でNruぎ 出Bamber,Birdand Ang8upanich,2003のタ イプ 標 本と 比較 観 察し たと こ ろ、 後者 の 雄の 鋏脚 に おい て原 記 載と異なる点が 確認さ れたため〃 .′ 雪 血の雄鋏脚を再記載した。この他著者はWみsD臼ロaお属およびj)seU成即白ぱ叩us属の全種の検 索表を作成 している。
第 三 章 で はA地 め ぬ ロaおabsc飽 む の 雄 を 記 載 する と共 に 、本 種の 系 統学 的位 置 にっ いて 検 証し てい る 。 4朋め ぬ ロaおaムsc印8おはタ ナイス上科に所属す るとされていたも のの、本上科の定 義形質のーっである 歩脚座 節 の 形 質 状 態 に つ い て は 、 欠 損 す る と い う 記 述 (Sie醫1980) と 定 義 に 反 し 座 節 が 存 在 す る と い う 記 述
(Kussakin&Tzareva1974)が 混在 し てお り、 本 種の 上科 へ の所 属に は 疑問 があ っ た。 そこ で 著者 は本 種 の 所 属を 検証 す るた めに 、歩脚 の走査型電子顕微鏡 観察と分子系統解 析を行った。詳細 な電子顕微鏡観察の 結果、
本 種は 歩脚 座 節を 持っ ている ことが確認され、ま た分子系統解析の 結果からは本種が 残りのタナイス上科 の種と 単 系統 群を 構 成す るこ とが示 された。これらのこ とから4.aあs甜ロsおのタナイス上 科への所属が確かめ られた た め、 歩脚 座 節に 関す るこれ までのタナイス上科 の定義の修正を行 った。また、著者 が採集した標本には 、これ ま で 知 ら れ て い な か っ た 本 種 の 雄 個 体 が 含 ま れ て い た た め 、 そ の 記 載 も 行 っ て い る 。 第四 章で は 、ネ オタ ナイス 科の系統学的位置と タナイス日内の高 次分類体系に関す る議論が行われてい る。現 生 のタ ナイ ス 目で は、 アプセ ウデス上科を含むア プセウデス亜目、 ネオタナイス亜日 、パラタナイス上科 とタナ イ ス 上科 を含 む タナ イス 亜 目か らな る3亜 目3上 科 の体 系が 支 持さ れて き た。 しか し 、こ れら 高 次分 類群 間 の 関 係に つい て は形 態形 質に基 づぃた三つの異なる 系統仮説が提唱さ れてきたが、分子 データに基づぃた系 統解析 は 行わ れて い なか った 。 そこ で著 者 は、3亜目3上科 に属 す る現 生種 を材料に含んだ 分子系統解析を行い 、現行 の 高 次 分 類 体 系 を 検 討 し た。 得 られ た18SrRNA遺 伝子 の部 分 配列 情報 に 基づ く系 統 樹か らは 、 ネオ タナ イ ス 亜 目と タナ イ ス亜 目が 単系統 となること、ネオタ ナイス亜目がタナ イス亜目のタナイ ス上科と姉妹群を形 成する
ことが強く支持されたー方、アプセウデス亜目が単系統か否かについては決定できなかった。この結果はこれま で形態形質に基づいて提唱されてきた三っの系統仮説のいずれとも異なっていた。著者は、タナイス亜目が側系 統的となった今回の解析結果に基づぃて現行体系の修正を行った。すなわち、ネオタナイス亜目とタナイス亜目 が多くの共有形質を持ち、なおかっ、ネオタナイス科、パラタナイス上科、タナイス上科が複数の形質によって 明瞭に区別されるという形態学的特徴も考慮した上で、ネオタナイス亜目をタナイス亜目内の上科に格下げし、
2亜日4上科とする高次分類体系を新しく提唱した。
これを要するに、著者は、4種の新種記載を通して日本産タナイス類の多様性理解に貢献するとともに、タナ イス日内の関係の大きな枠組みを分子系統学的手法により初めて明らかにした。このことはタナイス類の分類 学・系統進化学の発展に対して貢献するところ大なるものである。よって著者は、北海道大学博士(理学)の学 位を授与される資格のあるものと認める。
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