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就業不能保険における 就業不能 の意味

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■アブストラクト

アメリカにおける就業不能保険は,他の社会保障制度とともに労働者の 就業不能 に伴う収入損失に備える私的契約であるところ,保険事故とし ての 就業不能 の意味について判例が集積し,一定の理解が確立している。

就業不能保険(条項)は,① 本来の職業の(own occupational)就業不能 保険 と② 一般的(general)就業不能保険 に大別され,①の場合には,

被保険者の契約締結時に従事していた職業の職務の全てを完全に遂行できな いこと,そして②の場合には,被保険者の教育,訓練または経験により合理 的に獲得されるいずれかの職業を行うことができない場合に,それぞれ 完 全就業不能 と認められる。さらに,①と②を併用する③ 混合型(com- bined)就業不能保険 がある。わが国で現在みられる所得補償保険もしく は就業不能保険は,その 就業不能 の定義においてアメリカで見られる① および②の定義を採用しているところであるが,今後,アメリカ判例法の整 理で確認された 完全就業不能 の意味を参考にしてそれを検討すべきであ る。

■キーワード

就業不能保険,所得補償保険,完全就業不能

就業不能保険における 就業不能 の意味

アメリカ判例法を参考にして

梅 津 昭 彦

/ 平成27年 月21日原稿受領。

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はじめに

わが国では,労働者が何らかの理由で働けなくなった,つまり就業不能に なった場合に,そのことにより収入が途絶えたまたは減少したときには,労 働者の生活を経済的に支えるためにいわゆる社会保障として所得を補償する 制度が整備されている1)。他方で,損害保険会社が所得補償保険を,生命保 険会社が就業不能保険を提供し,自らの就業不能に対して私的に対応するこ とが可能である2)。このような公的制度と私的な保険との関係については,

特に,ある者が他者(加害者)の行為により就業不能となり,ある者が被害 者として加害者に対する賠償請求の対象として収入の減少分を請求する場合 に,公的制度からの所得補償を得ていたならば,それが賠償額から控除され るか否か,私的な保険者が被保険者である被害者に対して保険給付を行った 場合,当該保険者は被害者の加害者に対する請求権を代位取得するか否かが 問題となってきた3)。その際にまず検討されるべきことは,私的な契約であ

1) 社会保障制度のすべてを紹介することはできないが,労働者が被保険者とし て療養のため労務に服することができない場合に受給する 疾病手当金 制度

(健康保険法第99条),労働者が被保険者として業務上の事由または通勤による 負傷,疾病,障害,死亡等に関して 休業補償給付 を受給する制度(労働者 災害補償保険法第12条の 第 項,14条)がその中心である。

2) 昭和49(1974)年にわが国において損害保険会社が所得補償保険を販売した 当時のその検証については,石田満 所得補償保険 遠藤=林=水本編 現代 契約法大系 担保・保証・保険契約 294頁以下(有斐閣,1984),石田満=佐 藤公平 所得補償保険の構造 田辺=石田編 新損害保険双書 新種保険 379頁以下(文眞堂,1985),参照。

3) このような問題に対して最高裁は,約款に保険者の代位に関する規定のない 損害保険会社の所得補償保険について,それを請求権代位(保険法25条)の問 題として,次のように判断している。 本件所得補償保険は,被保険者の傷害 又は疾病そのものではなく,被保険者の傷害又は疾病のために発生した就業不 能という保険事故により被った実際の損害を保険証券記載の金額を限度として 塡補することを目的とした損害保険の一種というべきであり,被保険者が第三 者の不法行為によって傷害を被り就業不能となった場合において,所得補償保 険金を支払った保険者は,商法662条 項の規定により,その支払った保険金

(3)

る所得補償保険契約または就業不能保険契約の保険契約としての法的性質を いかに解するか,それぞれの給付が損害てん補か否かが問題となろう。その 保険契約の具体的な要素として,両契約において保険事故である 就業不 能 の意味を確定する作業が必要となると考えられる。

そこで,わが国の所得補償保険または就業不能保険がアメリカのそれを範 としていると考えられるところ4),本稿は,労働者が働けなくなった場合の 収入減少に備える保険として,アメリカにおける“Disability Insurance”,

就業不能保険 を取り上げ5),その判例法で具体的に問題となった文言の 解釈についての展開・整理を参考に,就業不能保険における 就業不能

(disability) という保険事故の法的意味を確認する作業を行いたい6)。その ような作業により得られた知見に基づいて,わが国における所得補償保険ま たは就業不能保険における 就業不能 の意味を確認し,具体的事案におけ る判断のための指針となる事項を導くことを本稿の目的とする。

の限度において被保険者が第三者に対して有する休業損害の賠償請求権を取得 する結果,被保険者は保険者から支払を受けた保険金の限度で右損害賠償請求 権を喪失するものと解するのが相当である 。最一小判平成元・ ・19判時 1302号144頁,判タ690号116頁。かかる問題の理解については,神田秀樹・保 険法判例百選48頁以下(2010)に引用の各論文等を参照されたい。

4) 安田火災海上保険株式会社編 傷害保険の理論と実務 247頁以下(海文堂,

1980)。

5) “disability” に対して,岩崎稜先生は 就労不能 の訳語を与えておられた。

岩崎稜監修 M・L・クロフォード/ W・T・ビードルズ 法と生命保険契 約 263頁以下(生命保険文化研究所,1993)。本稿では,他の邦語文献または 約款の使用用語を参考にして 就業不能 と訳す。

6) これまでに,諸外国との比較において所得補償保険または就業不能保険を検 討したものとして,松崎健 所得補償保険に関する考察 生命保険経営60巻 号78頁以下(1992),杉田和也 わが国におけるディサビリティ保険市場の発 展と課題 生命保険経営79巻 号 頁以下(2011),参照。

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アメリカ法における就業不能保険

就業不能保険の展開

アメリカにおける就業不能保険(Disability Insurance)は,一般的に言え ば,被保険者の就業不能による収入損失に備えることを目的とする保険であ 7)。または,肉体的精神的疾病等が原因で被保険者の稼働能力が害された 場合に,就業不能保険は当該被保険者の収入減少を付保することにその目的 があると言われている8)。アメリカにおいて就業不能保険は,1920年代に生 命保険に付加される特約の形で提供された。それは,そのための追加保険料 を徴収し,当該生命保険証券所定の就業不能となった場合に,その後の保険 料の支払いを免除する(waiver),または保険料支払い免除に加えて保険金 額の %程度を給付金として支払うものであった9)。その後,それらの特約 による給付と生命保険とを分離することにより,単独の就業不能保険も販売 されるに至っている10)。また,アメリカにおいても,私的な就業不能保険は 他の公的な社会保障制度等を組み合わせて就業不能に至った人々を支えるセ ーフティーネットの一部となっている11)

7) T. Baker & K. D. Logue, INSURANCELAW ANDPOLICY(3d ed. Kluwer, 2013), at 214.

8) 他にも,その目的は被保険者を職場復帰させることにもあると言われている。

K. S. Abraham & L. Liebman,

, 93 Colum. L. Rev. 75, 81 (1993).

9) ANDERSON ONLIFEINSURANCE (Little, Brown & Co., 1991), at 772. 経済的 背景に基づく理解について,松崎・前掲注6)84‑85頁。

10) R. H. Jerry II & D. R. Richmond, UNDERSTANDINGINSURANCELAW(5th ed.

Matthew Bender, 2012), at 463. 現在でもアメリカでは,生命・健康保険にお ける就業不能保険という場合には,就業不能所得保険(disability income in- surance)と就業不能期間中の生命保険料払込免除(waiver of life insurance premium payment)規定との両者を指す。B. Harnett & I. Lesnick, THELAW OFLIFE ANDHEALTHINSURANCE(Matthew Bender, 2014), Ch. 8, § 8.01[2].

11) アメリカでも,例えば,労働省が管理する失業保険,労働者災害補償法

(5)

さらに,同じヒト保険と考えられる生命保険(life insurance)もしくは健 康保険(health insurance)と就業不能保険との関係も問題とされている。

生命保険も被保険者が死亡したときに稼働能力が全く失われ,特に遺族ない し被扶養者の経済的影響をカバーする目的において就業不能保険との類似性 が認められる。しかし,就業不能保険は被保険者が働くことができなくなっ た場合にその失われた収入を限度として給付金が支払われることによりてん 補原則(the principal of indemnity)に反しないことが確保されるものであ るのに対し,アメリカの生命保険では被保険者の被保険利益の評価額は理論 上制限されないので,かかる原則は問題とならない。そして,健康保険が疾 病または事故という危険をカバーするという意味で,就業不能保険も同様の 危険をその対象とするものであるが,健康保険が被保険者の入院または治療 のために実際に支払った費用(out-of-pocket expenses)をてん補するのに 対し,被保険者が疾病または事故により収入が失われたことによる損失をて ん補するのが就業不能保険であるとその異同が理解されている12)

ところで,アメリカでは,疾病または事故を原因とする就業不能による労 働者の損害回復のための私的な就業不能保険について,不法行為法もしくは 公的社会保障制度との関係から,私的な就業不能保険市場は余り活発でない との理解があった13)。その点に関し,特に就業不能保険という保険商品の特

(Workersʼ Compensation Law)に基づく労働者災害補償,政府が支援する社 会保障(Social Security Disability (SSD))および補足的所得補償(Supple- ment Security Income (SSI)),または退役軍人協会(Veterans Association)

がそのメンバーを支援するものがある。NEWAPPLEMAN INSURANCELAW PRACTICEGUIDE(Matthew Bender, 2014), Ch. 35, § 35.07[1]. 松崎・前掲注 6)87‑88頁。ただし,アメリカ人を不幸(misfortune)から守るセーフティー ネットの一部を構成するすべての保険種目の中で,就業不能保険は最も不完全 である(incomplete)とも言われる。T. Baker & K. D. Logue, note 7), at 214.

12 ) R. H. Jerry II,

, J. L., Med. & Ethics 80, 81 (2007).

13) K. S. Abraham & L. Liebman, note 8), at 98.

(6)

性に起因する指摘が興味深い。すなわち,かかる就業不能保険には,他の保 険商品と同様に,いわゆる逆選択(adverse selection)とモラルハザード

(moral hazard)の問題が潜んでおり,保険会社は高い保険料で販売するこ とを望んでいることが指摘されている。具体的に,疾病等により就業不能に なるリスクが高いと考える者がかかる保険を購入しようとし,その結果,標 準的またはリスクの低い保険契約者にとっては保険料が高額になり,そのよ うな逆選択の脅威は,就業不能保険を市場へ供給することの制約となってい 14)。他方で,就業不能保険により保護されている被保険者が,付保されて いないならば行使するであろう注意の程度より少ない注意をもって行動する 傾向が顕著であるという意味でのモラルハザードの存在は,保険者が就業不 能保険市場に参入することを躊躇させているという15)

就業不能保険の種類

就業不能保険の保険担保は,完全就業不能(total disability)を原因とす る損失に対して付保することを目的としている16)。そこで,以上のような就 業不能保険が販売されている状況の中で,アメリカでは就業不能保険により 付保されている被保険者が就業不能か否か,就業不能という保険事故をどの ように解するのか,判決例で問題となったそれに関する条項の解釈と適用が 注目される。

就業不能保険に基づく給付要件は,被保険者が就業不能となった(dis-

14) K. S. Abraham & L. Liebman, note 8), at 102‑03 ; J. Kind,

, 108 Nw. U. L. Rev. 639, 648 (2014); R. H. Jerry II & D. R.

Richmond, note 10), at 463.

15) T. Baker & K. D. Logue, note 7), at 214 ; K. S. Abraham & L. Liebman, note 8), at 103. また,潜在的保険契約者は自己が就業不能となるリスク について不十分な認識またはわずかな関心しか有していないという 心理的要 因(psychological factors) が,就業不能保険のニーズを抑制しているとも指 摘されていた。 ., at 104‑05.

16) K. S. Abraham & L. Liebman, note 8), at 81.

(7)

abled)ことであり,当該被保険者が就業不能か否かについて,実際の保険 証券では,以下のような就業不能条項に分類することができる17)。そして,

それぞれの条項において,完全就業不能(total disability)の意味が問題と なる18)

⑴ 本来の職業の就業不能条項と一般的就業不能条項

に,被保険者の本来の職業(own occupational)を担保する条項が就 業不能保険証券に規定される。それは,被保険者が本来の(own)または本 職である(regular)職業を行うことに関するものであり,例えば,1970年 代には完全就業不能を, 被保険者を完全にかつ継続的に(wholly and con- tinuously)就業不能とし,被保険者がその職業に関する職務の全てを遂行 することができない ことと定義する保険証券がある19)。また,それを 従 業員が,疾病または傷害によって,その職業に関するいかなるあるいはすべ ての職務を遂行することが全く(complete)できなくなること とする場 合もあれば20),やや柔軟な定義条項として, 被保険者がその本職に従事す ることを全体として(wholly)妨げるほどの就業不能 と規定するものもあ 21)。具体的事案として,Hangarter v. Provident Life & Accident Ins. Co. 事 件では22),日頃,30人から50人程度の患者を診ていた指圧療法士(chiro- practor)であった Hangarter が,生命保険会社から個人 本来の職業

17) B. Harnett & I. Lesnick, note 10), Ch. 8, §8.02.

18) アメリカの公的労働者災害補償制度では,部分的(partial)就業不能の場合 にも保護を認め保護範囲を広くしているものもあるが,私的な就業不能保険で は多くが 完全就業不能 を担保要件としている。R. H. Jerry II & D. R.

Richmond, note 10), at 463‑64.

19) Martin v. Pilot Life Ins. Co., 228 S. E. 2d 550, 551 (1976).(被保険者は医者)

20) Russell v. Prudential Ins. Co. of Am, 437 F. 2d 602, 604 (5th Cir. 1971).(被保 険者は商品配送センターの販売員)

21) Francois v. Mut. Life Ins. Co. of M. Y., 405 So. 2d 1292, 1293 (La. Ct. App. 1981).

(被保険者は家族経営のインテリア会社のマネージャー)

22) 373 F. 3d 998 (9th Cir. 2004).

(8)

業不能保険証券を購入した。その後,彼女は肩の痛みに悩まされ,また交通 事故に巻き込まれたことにより,その痛みが消えることはなかった。同事件 裁判所は,次のように述べている。 本件の保険証券は 完全就業不能 を,

いずれかの他の有給の職業に従事 できなくなることではなく,被保険者 の職業の 重要な職務(important duties)を遂行できなくなること と定 義した。Hangarter の保険証券は,被告の主張するように他のなんらかの

(any)職業ではなく,指圧療法士としての彼女の職業を遂行する彼女の能 力の損失に対して Hangarter を保護する本来の職業の保険証券であった 23)

この種の保険における被保険者の 職業 は,被保険者が特定の職場でそ の特定の仕事において遂行している職業に制限する。例えば,外科医がその 手に傷害を負った場合には,その者が手の使用を強いられない他の医療分野 の仕事を始めたとしても, 本来の職業の 就業不能保険証券の下では 完 全就業不能 とみなされ,給付金の支払いを受ける権利が認められる24)。被 保険者がその本来の特定の職業の重要な職務を実質的に遂行できない場合に,

被保険者は完全に就業不能であり,当該被保険者がその職務のうちいずれか を行うことができるという事実は,彼が基本的に重要な活動を十分に行うこ とができない限り,問題とならない25)

に,一般的(general)就業不能を担保するタイプの条項がある。か かる条項は,被保険者が本来の職業であるか否かによらず,いずれの(いか なる)(any)職業にも就くことができない場合にのみ給付がなされるもの である。例えば,このタイプの就業不能保険においては,完全就業不能を 被保険者が教育,訓練または経験により合理的に獲得される(reasonably qualified by education, training or experience)有給の職業または雇用に従事 できないほどの完全就業不能 26),または 被保険者が訓練,教育または経

23) ., at 1007.

24) NEWAPPLEMANINSURANCELAWPRACTICEGUIDE, note 11), Ch. 35,

§35.07[2][a][ⅲ].

25) B. Harnett & I. Lesnick, note 10), at Ch. 8, §8.04.

26) Chalmers v, Metropolitan Life Ins. Co., 272 N. W. 2d 188, 190 (1978).(被保険

(9)

験により獲得されるいずれかの有給の職業の職務を実質的に十分に遂行する ことができないこと と定義している27)。すなわち,被保険者が,今までど おりの仕事場で働くことができないとしても,当該被保険者にとっていくつ かの相応しい職業の中からいずれかの仕事を行うことができるならば,それ は完全就業不能ではない。ただし,当該被保険者にとって屈辱的であっても 何らかの仕事ができる場合には完全就業不能とは認められない,ということ ではない28)。一般的就業不能は,本来の職業の就業不能よりも広い概念とい うことになろう。

以上 つのタイプの就業不能保険証券の分類について,先例的判決と評価 されているのは次のような判例である。1942年にカリフォルニア州最高裁判 所は,Erreca v. W. States Life Ins. Co. 事件において29),本来の職業の就業不 能保険と一般的就業不能保険それぞれにおける 完全就業不能 を明確に区 別し示し,それは画期的判決と評されている。大規模農場で穀物栽培や家畜 飼育を行う農業経営者であった被保険者 Erreca は,落馬して右足を複雑骨 折し,肺塞栓症,潰瘍の肥大等の症状が現れ,就業不能となったと主張した。

当該生命保険証券に付帯されている就業不能給付に関する条項には,被保険 者が60歳の誕生日前に完全かつ継続的な(total and permanent)就業不能が 生じた場合には, 年間は月200ドル,そしてその後就業不能が続く限り月 100ドルが被保険者に支払われる旨が規定されていた。また, 完全就業不能

(total disability) を, 被保険者が身体的傷害または疾病により完全な

(wholly)就業不能となり,そのことにより,被保険者がいかなる職業に就 くことも妨げられる,または収入を得るためにいずれかの仕事も行うことが できなくなること と定義されていた。

そこで,同事件裁判所は,上記 つのタイプの条項(保険)について以下 者は飛行機操縦士)

27) Mason v. Conn. Gen. Life Ins. Co., 367 So. 2d 1374, 1377 (Ala. 1979).(被保険者 はルート(地域)セールスマン)

28) B. Harnett & I. Lesnick, note 10), at Ch. 8, §8.03[1].

29) 121 P. 2d 689 (1942).

(10)

のように述べており,その部分がその後の判決例においても引用されている。

一般的(general)または本来の職業ではない(non-occupational)就 業不能を付保する保険証券と,本来の職業の就業不能(occupational dis- ability)について保険給付を提供する保険証券との間の区分を裁判所は行 っていないので,判例においては大きな混乱が見られる。後者の種類の保 険の下では,その保険担保は,特定の職業の職務に限定されている,そし て被保険者は,特定の仕事人(workman)として保護されている。他の 職業の仕事を行うことができる彼の能力にかかわらず,その者は,彼が所 定の職業,一般に,当該保険が引き受けられたときに彼が従事していた仕 事に属する職務を果たすことが完全かつ継続的に(totally and perma- nently)不能となっているという証拠に基づき就業不能給付を得る権利が 与えられる。この種の保険で用いられている典型的な言葉遣いは, 当該 傷害により被保険者が彼の職業に伴ういずれかのもしくはすべての種類の 職務を行うことをできなくさせる場合に,完全就業不能は存在する とい う文言である。本来の職業の就業不能保険に付保されているリスクは特定 されたものであり,その保険料も通常は高額である。

他方,本来の職業ではないまたは一般的就業不能保険は,いかなる職業 の仕事も被保険者が行うことをできなくする完全かつ継続の(total and permanent)就業不能をてん補するものである。被保険者は,特定の仕事 人としてではなく,人(man)として付保されている,そして被保険者が いかなる有給の職業または仕事にも従事できないという証拠に基づいての み給付を受けることができる。この種の保険担保は,通常,被保険者に保 険料支払いを免除する権利を与え就業不能が生じたときに給付金支払いを 受ける権利を与える生命保険の付属約款として含まれている。当該リスク は生命保険証券に副次的なものであり些細なものであるので,その保険料 は通常低額である。本来の職業の就業不能保険条項の文言と比較するなら ば,一般的就業不能保険条項は,完全就業不能を, 被保険者が収入を得

(11)

るための何らかの仕事を行うことが完全に(wholly)できなくなっている ときはいつでも を意味するものとして定義されている。30)

完全就業不能 という文言は,無能であること(helplessness)とい う絶対的な状況を意味しない。通常のまたは慣例的な方法で,事業あるい は職務を行うために必要な実質的かつ重要な行為を被保険者が行うことを で き な く す る 就 業 不 能 を 意 味 す る。保 険 保 護 は,被 保 険 者 が 時々 の

(sporadic)仕事を行うことができる,または事業活動に付随する単純な もしくはささいな注意をむけることができることを理由に,完全就業不能 規定の下では排除されない。言い換えれば,被保険者は,その雇用に関係 のある仕事の実質的部分を身体的にかつ精神的に行うことができる場合は,

完全には就業不能ではない。31)

以上の判示の中で確認されているように,被保険者が疾病または傷害によ り全く働くことができないという意味の 無能であること(helplessness)

は,一般的就業不能保険に関して,多くの裁判所の傾向として 完全就業不 能 であることを証明するためには要求されていない32)

⑵ 混合型就業不能保険

そして,最近は,特に団体保険において,本来の職業の就業不能条項と一 般的就業不能条項を組み合わせた形態をとるものがあり,それは混合型

(combined)またはハイブリッド型(hybrid)の就業不能保険といわれる。

すなわち,混合型就業不能保険は,就業不能が始まってから一定期間は,そ の 職業 はかかる職業不能が始まった時点での当該被保険者の職業を意味 する本来の職業の就業不能条項が適用され,その後は一般的就業不能条項に

30) ., at 693-95.

31) ., at 695.

32) R. H. Jerry II & D. R. Richmond, note 10), at 465.

(12)

基づく給付がなされる保険として構成されている33)。例えば,Colonial Life

& Accident Ins. Co. v. Whitley 事件において問題となった給付金支払い条項 は,以下のようなものであった34)

本保険証券所定の傷害を被保険者が被り,当該傷害が,他の全ての原 因から独立して,事故から30日間,被保険者が被保険者の職業に伴ういず れかのそして全ての職務を履行することを,完全に(wholly)かつ継続的 に( continuously )不 能 に す る 場 合 に は,会 社 は, 初 期 の 就 業 不 能

(Initial Disability) について保険証券表に記載の期間および利率で補償 金(indemnity)を支払うものとする。そしてそれ以降は,被保険者がそ の傷害によって,教育,訓練および経験により獲得された有給のいずれか のおよび全ての職業または雇用に従事することを継続的かつ完全に(to- tally)に不能にされもしくは妨げられている場合には,会社は, 長期就 業不能(Long-Term Disability) について保険証券表に記載の期間およ び利率で月毎に補償金を支払うものとする 35)

同 事 件 裁 判 所 は,い ず れ か の 職 業 に お い て 完 全 に 就 業 不 能 で あ る

(wholly or totally disabled) かについて, 被保険者が,その教育,訓練お よび経験を理由として合理的に獲得される職業もしくは事業の遂行に,通常 の方法で,必要な実質的かつ重要な行為の 以上を行うことができないなら ば,いずれかの職業における職務を遂行するためには,完全に(wholly)就 業不能である と判断した36)。また,2011年の Meyer v. CUNA Mut. Ins.

Society 事件における就業不能保険証券では37),完全就業不能(total disabil-

33) B. Harnett & I. Lesnick, note 10), at Ch. 8, §8.05.

34) 664 S. W. 2d 488 (1984).

35) ., at 490.

36) ., at 490. 本事件の被保険者は,高齢者ケアを提供する施設の准看護師

(practical nurse)であった。彼女は,1978年 月の夜に,高齢者をベッドか ら抱え上げたところ耐えきれずその高齢者が彼女の上に落ちて彼女は膝に傷害

(13)

ity)を 就業不能の最初の12ヶ月の間は,メンバーが医学的に判断された 疾病によるもしくは事故による身体的傷害を理由としてその就業不能が始ま った日のその職業の職務の全てを実質的に遂行できないことを意味する。就 業不能の最初の12ヶ月後は,当該定義は変更され,メンバーに,その職業,

または(or)教育,訓練もしくは経験により合理的に獲得されたいずれかの 職業の職務をいずれも遂行できないことを要求する と定義する文言が盛り 込まれていた38)。鉄道制動手および車掌として働いていた被保険者の本職で ある(regular)職業の職務を遂行できない被保険者に対して,12ヶ月以上 の就業不能給付金を支払った保険者は,座業の(sedentary),軽い(light)

もしくは中程度の(medium)職務に関する他の適切な職業を遂行できるよ うになったことを理由として,給付金の支払いを停止した。それに対し,被 保険者は,被保険者の本来の職業を遂行できないか,または(or)いずれか の職業をも遂行できない場合のうち,本来の職業を遂行できないのであるか ら継続して給付金を受領することができる権利が与えられた,と主張した。

同裁判所は,当該定義規定が曖昧であり(ambiguous),その場合には被保 険者有利に解釈すべきとした。すなわち,12ヶ月経過後は,被保険者の本来

を負った。当該施設のドクターから痛み止めを処方され,その後も賃金を満額 支給されるような通例スケジュールどおりの仕事をこなすことを望み次の勤務 日にも仕事をこなしたが,彼女の症状は改善することなくますます悪化してい った。1979年 月,再びドクターに診てもらったところ,そのドクターは,彼 女がいつもの職務をこなすことができない程度に症状が悪化しているので,仕 事を辞めるようアドバイスした。彼女はそのアドバイスに従い直ちに退職し,

保険会社に対して本保険に基づく給付金の請求を行った。

37) 648 F. 3d 154 (3d Cir. 2011).

38) ., at 162-63. 鉄道組合(Union Railroad)の鉄道制動手(railroad brake- man)および車掌(conductor)であった James Meyer は,自身の自動車購入 ローンに関連して,CUNA 保険相互組合が信販会社対して発行した団体保険 に従い,就業不能信用保険(credit disability insurance)を締結した。当該保 険では,Meyer が完全就業不能になった場合には,CUNA 組合が Meyer の自 動車ローン未履行債務を保証している信販会社に支払いがを行われるものであ った。

(14)

の職業が遂行不能,または(or)いずれかの職業が遂行不能であれば,給付 要件は満たされるとした39)

わが国における就業不能の意味

所得補償保険・就業不能保険における 就業不能 の定義

現在わが国において損害保険社会が提供している所得補償保険において,

その約款では,被保険者の 就業不能 を次のように定義している。

身体障害を被り,次の①または②のいずれかの事由により保険証券記載 業務に全く従事できない状態をいいます。

① その身体障害の治療のため,入院していること。

② ①以外で,その身体障害に対して,医師(注)の治療を受けている こと。

ただし,対象期間が 年を超える契約である場合において,支払対 象外期間終了日の翌日から起算して24か月経過後については,被保険 者がその経験,能力に応じたいかなる業務にも全く従事できないこと をいいます。

なお,被保険者がその身体障害に起因して死亡した後もしくはその 身体障害が治ゆした後は,いかなる場合であっても,この保険契約に おいては,就業不能とはいいません40)

(注) 医師

被保険者が医師である場合は,被保険者以外の医師をいいます。以 下同様とします。

以上のような典型的と思われる定義規定は,昭和49年に所得補償保険の販

39) ., at 168.

40) 損害保険ジャパン日本興亜株式会社 所得補償保険普通保険約款 第 条。

東京海上日動火災保険株式会社 所得補償保険普通保険約款 第 条において も,同様の定義規定を置いている。

(15)

売が開始された当時の約款所定の定義とさほど違いはない41)

他方で,生命保険社会が販売している就業不能保険において,その約款で は,被保険者の 就業不能 を次のように定義している。

この保険契約において 就業不能状態 とは,被保険者が傷害または疾 病により,日本国内の病院もしくは診療所への治療を目的とした入院また は日本の医師の指示により在宅療養をしており,少なくとも か月以上,

いかなる職業においても全く就業ができないと医学的見地から判断される 状態をいいます。なお,被保険者が死亡した後は,いかなる場合でも就業 不能状態とはいいません42)

アメリカ法との若干の比較検討

Ⅱにおいて整理し確認されたアメリカの就業不能保険における 就業不 能 の定義と判例において解釈された理解に基づき,わが国の 就業不能 の意味を若干検討してみたい。

以上のような 就業不能 の定義規定のうち,損害保険会社の所得補償保 険約款はいわゆる混合型就業不能保険条項と考えられる。すなわち, 年を 超える契約を締結できることを前提に,最初の 年間については 保険証券 記載の業務に全く従事できない状態 ,すなわち被保険者の特定の業務・職 業について 完全就業不能 の場合に保険金を支払うものとし, 年を超え た場合には, 被保険者がその経験,能力に応じたいかなる業務にも全く従 事できない 場合を 就業不能 として保険事故を広く解している43)。他方 の生命保険会社が提供する就業不能保険は, いかなる職業においても全く 就業ができない 場合を就業不能としていることから,一般的就業不能保険 41) 石田=佐藤・前掲注2)384頁。なお,東京海上日動火災保険株式会社編著

損害保険の法務と実務 109頁以下(きんざい,2010)も参照。

42) ライフネット生命保険株式会社 就業不能保険(無配当・無解約返戻金型)

普通保険約款 第 条。

43) 石田=佐藤・前掲注2)385頁。

(16)

条項と理解することができる。その場合, いかなる職業 の適用または解 釈については,当該被保険者の経験および能力に応じたいずれかの職業と理 解することが合理的であろう44)

就業不能の要件として,被保険者がその身体障害のため入院している場合 と,その身体障害に対して医師の治療を受けている場合を明確にしている。

すなわち,被保険者が保険金を請求する場合に,医学的にも就業不能である ことが入院または医師の治療を受けていることでかかる要件が満たされるこ とになる。この点で,アメリカにおいては, 完全就業不能 の定義規定に おいて類似の観点が問題となった事件があった。その事案の就業不能保険証 券には, 完全就業不能とは,傷害または疾病を理由に,被保険者の本職

(regular occupation)に従事することができないことをいう。ただし,被保 険者が医師の通常の治療および手当てを受けていない期間については,完全 就業不能とはみなされない と規定されており,それは,当該被保険者が保 険者の求める外科手術を受けないことを理由に給付金の支払いを拒絶された 判例として注目されている45)。同事件裁判所は, 医師の通常の治療および 手当て という文言が明瞭かつ明確な文言であり,その文言自体を超えて被 保険者に外科手術を要求するよう解釈することはできないとして,その文言 には外科手術は含まれないと判断して保険者の主張を退けた46)。このような 44) なお,このような定義規定にした理由について,①給付原因を厳格にするこ とで保険料を低く設定するため,②被保険者の職業変動に柔軟に対応すること で長期保障を実現するため,③固有の職業条項とすると職業変動により解約失 効率が高くなり,早期の解約失効は収益に悪影響を与えるリスクがあるためで あると説明されている。杉田・前掲注6)17‑18頁。

45) Heller v. The Equitable Life Assurance Society of the U. S., 833 F. 2d 1253, 1255 (1987). 心臓血管疾患についての専門医である Heller は,Equitable 社の 就業不能収入保険(disability income policy)を締結した。その後,彼は毛根 管症候群(carpal tunnel syndrome)の診断を受けるほどの痛みと不具合を左 手に感じる状態となった。そのため,彼は当該専門医としての施術を行うこと ができなくなり,Equitable 社に給付金の支払請求を行った。Equitable 社は,

最初は給付金の支払いを行ったが,Heller が同社の求める毛根管手術を受ける ことを拒絶したために,その支払いを停止した。

(17)

判断に対して,保険者の給付金支払い条件として被保険者に対してどの程度 の医学的治療または手術を要求することができるか明確ではないが,被保険 者に通常の(routine)もしくは危険性の低い(low-risk)治療を要求するこ とを給付金支払いの条件とすることは認められるであろうと考えられてい 47)

わが国における約款所定の 就業不能 についての定義規定も,被保険者 が 全く従事できない もしくは 職業において全く就業できない ことを 要求しており,それは被保険者が 完全就業不能 であることを意味すると 考えられるので,アメリカ判例法の事例は参考となろう。また,アメリカに おける事例のように,所得補償保険または就業不能保険における 就業不 能 という保険事故が発生しているか否かは,具体的事案,具体的被保険者 に即して判断されることになろう。

結 び

アメリカにおける就業不能保険の 就業不能 または 完全就業不能 と いう文言は曖昧(ambiguity)な言葉であり,アメリカ判例法はその解釈に おいて被保険者有利の解釈原則を採用する傾向にある48)。ただし,Ⅱにおい て確認されたように 完全就業不能 は一定程度確立した内容として理解さ

46) ., at 1257.

47) R. H. Jerry II & D. R. Richmond, note 10), at 465‑66. また,保険者は被 保険者が給付金支払期間中に継続して就業不能である(continued disability)

ことの証拠を被保険者に対して提出するよう求めることができる,そして被保 険者が継続して就業不能であるかについて保険者の医的アドバイザーの検査を 被保険者に受けさせることができる旨の規定がある就業不能保険約款に基づき,

それを被保険者が拒絶したので給付金の支払いを停止した事案において,この ような保険者の行為は当該約款上合法であると認められている。Erreca v. W.

States Life Ins. Co., 121 P. 2d 689, 697-98 (1942).

48) T. Baker & K. D. Logue, note 7), at 32, 40‑41. この点についての一般的 理解として,梅津昭彦 アメリカ法における保険証券の解釈原則 文言の あいまいさ を中心として 保険学雑誌第559号126頁以下(1997)を参 照されたい。

(18)

れてきている。わが国において保険事故としての 就業不能 が争点となっ た場合には,アメリカ判例法における事例の適用が参考となると思われる。

そして,アメリカにおいて私的保険以外の分野でも労働者の 就業不能 に 対する保護制度において 就業不能 の定義が試みられている49)。したがっ て,他の制度との関係を明らかにする作業も欠かせないであろう。

わが国においても所得補償保険または就業不能保険の浸透状況も見据えた うえで,また他の公的制度との関係をも考慮しつつ,この分野の研究を深め ていかなければならないと考える。

(筆者は新潟大学大学院実務法学研究科教授)

49) 例えば,アメリカにおいて社会保障法(Social Security Act)第423条第(d) 項では, 就業不能(disability) とは, 死に至ることが予想される,または 12ヶ月を超える期間続いているもしくは続くことが予想される医学上判定され た身体的または精神的障害を理由として実質的に有給の活動が行えないこと をいうと定義する。42 U. S. C. S. §423(d)(1)(A).また NAIC の事故および 疾病保険のモデル法規則(Model Regulation to Implement the Accident and Sickness Insurance Minimum Standards Model Act)では,保険証券の定義に 関するその第 条第 N 項第(1)号において, 完全就業不能 について, 完全 就業不能の一般的定義は,教育,訓練または経験を理由に獲得したまたは獲得 するいかなる雇用もしくは職業に従事していないことを完全に就業不能である と要求する以上の制限的なものであってはならない と規定している。

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