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知識 の習 得 に重 点 を置 いた 道徳 教 育の 研 究

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Academic year: 2021

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(1)

知識 の習 得 に重 点 を置 いた 道徳 教 育の 研 究

-人 間行 動 の自 動 性 に 基づ く授 業 開発 -

序章 本 研 究の 意 義と 構成 ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・

1

第1 節 研 究の 目 的 ・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・

1

第2 節 先 行研 究 と本 研究 の位 置 づけ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・2 第3 節 研 究方 法 と本 論文 の構 成 ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・9

1 研究 の 方法 ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

9

2 本論 文 の構 成 ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

10

第 1 部 知 識習 得 を重 点化 する 論 拠

第1 章 心 情主 義 道徳 教育 の問 題 点 ・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・

13

第1 節 心 情主 義 道徳 教育 成立 の 経緯 ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・13 第2 節 心 情主 義 道徳 教育 の批 判 ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・14 1 日常 の 経験 や 現実 の生 活問 題 を重 視 する 立場 から ・ ・・ ・ ・・ ・・

15

2 知性 を 重視 す る立 場か ら ・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

16

第3 節 道 徳教 育 の課 題と して の 道徳 的 実践 力の 育成 ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・17 第4 節 道 徳的 実 践へ の学 際的 視 点の 必 要性 ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・18 1 着眼 す べき フ ェー ズ ・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・ ・

18

2 道徳 教 育に お ける 学際 的視 点 の必 要 性 ・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・ ・

21

第2 章 人 間行 動 の自 動性 と 道 徳 教育 に おけ る 本 研究 の アプ ロ ーチ の

位置 づけ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・ ・

24

第1 節 人 間行 動 の自 動性 ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・24

1 人間 の 意識 と 行動 ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

24

2 人間 行 動の 自 動性 研究 ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

25

3 自動 性 理論 の 道徳 教育 への 応 用 ・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

30

4 自 動性 理 論応 用へ の批 判 とそ の 吟味 ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・

31

第2 節 自 動性 と 知識 ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・33 1 行 動 と感 情 、情 動、 知識 ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・33 2 人 間 にと っ ての 知識 の特 徴 ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・35 第3 節 道 徳教 育 で習 得す べき 2 つの 知 識 -特 性と 目 標に 関 連し た知 識 と メタ 認 知の ため の知 識 - ・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・36

1 特性 と 目標 に 関連 した 知識 ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・ ・

37

2 メ タ 認知 の ため の知 識 ・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・38 第4 節 宣 言的 知 識と 手続 き的 知 識及 び スキ ーマ 、ス ク リプ

トと の関 係 ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

39

第5 節 現 在の 道 徳教 育に おけ る 本研 究 のア プロ ーチ の 位置 づ け ・ ・・ ・41

第2 部 特 性と 目 標に 関連 した 知 識を 習 得す る題 材群 の 内容 開 発

(2)

第3 章 特 性と 目 標に 関連 した 知 識を 習 得す る題 材群 の 概要 ・ ・・ ・・ ・ ・

48

第1 節 題 材群 を 構成 する 論理 ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・48

1 題材 群 設定 の 目的 ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

48

2 資料 の 取り 扱 い ・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

49

3 題材 群 にお け る授 業の 評価 ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

50

4 学習 指 導要 領 内容 項目 との 関 連 ・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

50

5 対象 学 年 ・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

51

6 キャ リ ア教 育 との 関連 ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

51

第2 節 題 材群 の 全体 構成 ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・52 1 概 要・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・

52

2 各 授業 内 容の 構成 ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・

54

3 構成 上 の留 意 点 ・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

55

第4 章 特 性に 関 連し た道 徳的 ス テレ オ タイ プを 形成 す る授 業 の内 容開 発 ・

59

第 1 節 授 業内 容 を構 成す る原 理 ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・59

1 道徳 的 ステ レ オタ イプ を形 成 する 意 義 ・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

59

2 道徳 的 ステ レ オタ イプ の形 成 のた め の知 識を 習得 す る授 業 ・・ ・・

59

第2 節 徳 性に 関 連し た情 報と し ての 知 識を 習得 する 授 業の 内 容 ・ ・・ ・61

1 題材 「 顔っ て 何の ため にあ る のだ ろ う? 」・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

61

2 題材 「 ふる さ と調 査隊 」・・ ・・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

64

第3 節 意 義と 課 題 ・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・

67

第5 章 ポ ジテ ィ ブ感 情の 形成 と 言語 表 象に よる 客観 性 獲得 の ため の授 業 の内 容開 発 ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・

70

第 1 節 授業 内 容を 構成 する 原 理 ・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・

70

1 ポジ テ ィブ 感 情の 形成 と言 語 表象 に よる 客観 性獲 得 の意 義 ・・ ・・

70

2 知識 の 内容 ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

70

第2 節 目 標関 連 情報 とし ての 知 識を 習 得す る授 業の 内 容 ・ ・ ・・ ・・ ・72

1 道徳 的 行動 の 結果 に対 する ポ ジテ ィ ブ感 情の 形成 と 増幅 を ねら い とす る授 業 ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・

72

2 言語 表 象に よ る目 標設 定と 採 用に お ける 客観 性の 獲 得の た めの 知

識を 習得 す る授 業 ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・

75

第3 節 意 義と 課 題 ・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・

78

第3 部 メ タ認 知 のた めの 知識 を 習得 す る 題 材群 の内 容 開発

第6 章 メ タ認 知 のた めの 知識 を 習得 す る 題 材群 の概 要 ・・ ・ ・・ ・・ ・・

80

第1 節 題材 群 を構 成す る論 理 ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・80

1 題材 群 設定 の 目的 ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

80

(3)

2 資料 の 取り 扱 い ・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

81

3 題材 群 にお け る授 業の 評価 ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

82

4 学習 指 導要 領 内容 項目 との 関 連 ・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

82

5 対象 学 年 ・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

82

第 2節 題材 群 の全 体構 成 ・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・

83

1 概 要・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・

83

2 各 授業 の 内容 ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・

87

3 構 成上 の 留意 点 ・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・

89

第7 章 知 覚的 認 知バ イア スを 統 制す る 道徳 授業 の内 容 開発 ・ ・・ ・・ ・・

91

第1 節 授 業内 容 を構 成す る原 理 ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・91

1 授業 の 目的 ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

91

2 反道 徳 的な 知 覚的 認知 バイ ア ス ・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

92

3 授業 構 成上 の 留意 点 ・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

95

第2節 知覚 的 認知 バイ アス を 統制 す る道 徳授 業の 内 容 ・ ・ ・・ ・・ ・・

97

1 認知 バ イア ス 「異 質性 (外 集 団) の 排斥 」を 扱っ た 道徳 授 業 ・ ・・

97

2 認知 バ イア ス 「性 戦略 の男 女 差」 を 扱っ た道 徳授 業 ・・ ・ ・・ ・・

101

3 認知 バ イア ス 「偏 った 採食 行 動」 を 扱っ た道 徳授 業 ・・ ・ ・・ ・・

103

第3 節 意 義と 課 題 ・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・

108

第8 章 自 己利 得 的認 知バ イア ス を統 制 する 授業 の内 容 開発 ・ ・・ ・・ ・・

111

第1 節 授 業を 構 成す る論 理 ・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・111

1 自己 利 得的 認 知バ イア スを 統 制す る 知識 を習 得す る 目的 ・ ・・ ・・

111

2 学 指導 要 領内 容項 目と の 関連 ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・

113

第2 節 自 己利 得 的認 知バ イア ス を統 制 する 授業 ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・113 1 授業 内 容を 構 成す る原 理 ・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

114

2 授業 構 成上 の 留意 点 ・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

117

3 授業 の 内容 ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・

118

第3 節 意 義と 課 題・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・

126

終章 本 研 究に お ける 成果 と今 後 の課 題 ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・

130

第 1節 本研 究 にお ける 成果 ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・

130

1 道 徳的 行 動を 促す 原理 と して の 自動 性の 応用 ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・

130

2 道 徳的 行 動を 促す 知識 の 提示 ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・

130

3 道 徳的 行 動を 促す 知識 を 習得 す る授 業案 の提 示 ・・ ・ ・・ ・・ ・・

131

第 2節 今後 の 課題 ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・

132

(4)

1

序 章 本 研 究 の 意 義 と 構 成

第 1 節 研 究 の 目 的

本研 究は 、中 学 校段 階 の 道 徳教 育 にお い て道 徳 性 に関 す る知 識 の習 得 を 図る こ とが 、 日 常 的 な 道 徳 的 実 践 力 の 向 上 、 つ ま り 道 徳 的 な 行 動 の 促 進 に つ な が る こ と を 、 社 会 心 理 学 や 脳 神 経 科 学 に お け る 人 間 行 動 の 自 動 性 研 究 及 び 進 化 生 物 学 に お け る 人 類 の 生 物 的進 化研 究 の知 見 を基 盤に して 明 らか に する こと を目 的 とす る 。

現 在 の 道 徳 教 育 は 、 価 値 観 が 多 様 化 し 変 化 の 激 し い 社 会 の 中 で 、 思 い や り を 持 っ て 共 に 生 き て い く 道 徳 的 実 践 力 を 養 う も の に な っ て い る と は 言 え な い の が 実 態 で あ る 。 た と え ば 、 各 学 校 現 場 で 実 施 さ れ て い る 道 徳 授 業 の ス タ イ ル の 多 く は 、 読 み 物 資 料 を 用 い 、 物 語 中 の 登 場 人 物 の 道 徳 的 葛 藤 場 面 に お け る 心 情 の 変 容 を 把 握 さ せ る と い う 心 情 面 に 重 点 を 置 く も の で あ り 、 心 情 か ら 実 践 化 を 促 す 働 き か け が な さ れ て い な い 。 ま た 、 学 年 が 上 が る に つ れ て 、 児 童 生 徒 は 読 み 物 資 料 の ね ら い を 察 知 し 、 教 師 が 望 む そ れに 応じ た 答え を 述べ れば よい と いっ た 形式 的な 授業 も 見ら れ るよ うに なる 。

こ う し た 実 態 で は 、 道 徳 教 育 を 受 け た 者 が 仮 に 電 車 や バ ス の 中 で 座 れ な い で い る 高 齢 者 を 見 て も 、 座 席 を 譲 る べ き か ど う か 迷 う ば か り で 、 肝 心 の 必 要 な 行 動 を と る こ と が で き な か っ た り 、 さ も な け れ ば 高 齢 者 の 存 在 は 認 識 し て い て も 譲 ろ う と い う 発 想 さ え持 ち得 な かっ た り と いう 状況 を 生み 出 すこ とに なる だ ろう 。

道 徳 性 は 外 に 発 揮 さ れ て こ そ 意 味 が あ る 。 つ ら そ う な 高 齢 者 を 見 て 、 気 の 毒 だ と い う道 徳的 心 情が い くら 湧い たと こ ろで 、そ れ だけ で終 わ って し まっ ては 何に も なら ず 、 ま た 高 齢 者 の つ ら い 状 態 が 頭 で は 分 か っ て い て も 、 そ の こ と に 共 感 で き な け れ ば 行 動 に 移 す こ と は あ り 得 な い 。 こ の よ う な 状 況 は 、 分 か っ て い て も 道 徳 的 な 行 動 を と る こ と が で き な い 、 さ ら に は 分 か っ て い る の に 他 者 を 傷 つ け る と い っ た 反 道 徳 的 な 行 動 を とっ てし ま う今 日 的な 傾向 に も つ なが っ てい ると 言え る だろ う 。

もち ろん 、学 習 指導 要 領に おい て も「 道徳 の 時間 」が 特設 さ れた 昭 和

33

年 の改 訂以 来 、 道 徳 教 育 の 目 標 の 一 つ と し て 、 多 少 の 文 言 の 違 い は あ っ て も 一 貫 し て 道 徳 的 実 践 力 の 育 成 が 掲 げ ら れ て お り 、 今 次 指 導 要 領 に も そ の 効 果 的 な 育 成 の た め に 具 体 的 に 集 団 宿 泊 活 動 や ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 、 自 然 体 験 活 動 、 職 場 体 験 活 動 等 の 例 を 挙 げ 、 道 徳 授 業 の 工 夫 を 促 し て い る 。 し か し 、 実 際 の 授 業 に 中 で ど の よ う に 工 夫 す れ ば よ い か に つ い て は 各 学 校 に 委 ね ら れ て お り 、 な か な か 効 果 的 な 取 り 組 み が で き て い な い の が 実 情 であ る。

そ こ で 本 研 究 で は 、 道 徳 的 実 践 力 の 育 成 に 向 け て 、 道 徳 性 に 関 す る 知 識 を 題 材 と し て 取 り 上 げ る 授 業 の 意 義 と 具 体 例 を 示 し て い く 。 知 識 の 習 得 を 道 徳 教 育 の 中 で 重 点 化 して いく 理 由は 次 の二 点で ある 。

第 一 に 、 近 年 に お け る 社 会 心 理 学 、 脳 神 経 科 学 、 進 化 生 物 学 と い っ た 自 然 科 学 的 な

分 野 を 含 む 人 間 自 身 に 関 す る 研 究 の 著 し い 進 展 が 見 ら れ る こ と で あ る 。 こ れ ま で 道 徳

教育 の論 拠 とい う のは 、 古 代ギ リ シャ 時 代 以 来の 先人 の 道徳 思 想で あり 、

20

世紀 以降

(5)

2

進展 した 心 理学 的 研究

1

であ った 。 これ ら が指 し示 す 道 徳 的な 知 識と いう のは 言 葉と し て の 道 徳 原 理 で あ る 。 こ れ に 対 し 、 上 述 の 科 学 分 野 は 人 間 そ の も の を 自 然 科 学 的 に 分 析 す る も の で あ り 、 道 徳 性 に つ い て も そ の 起 源 か ら 意 味 、 性 質 、 課 題 ま で 浮 き 彫 り に し て い る 。 こ れ ら の 知 見 に よ る と 、 人 間 の 行 動 と い う の は 、 内 在 化 さ れ た 知 識 に 基 づ く非 意識 的 な傾 向 があ る

2

。つま り自 動性 が 見 られ る。 した がっ て 本 研究 にお け る 道 徳 的 な 知 識 と い う の は 、 道 徳 原 理 と い う よ り も 対 人 認 知 や 対 行 動 認 知 上 の 適 切 な 記 憶 要 素 で あ り 、 リ ソ ー ス と い う こ と に な る 。 こ れ ら の 分 野 で は 大 き な 成 果 が あ り な が ら 、 こ れ ま で こ う し た 知 見 が 道 徳 教 育 に 具 体 的 に 応 用 さ れ る こ と は な か っ た 。 そ れ を 応 用 した 道徳 授 業論 を 展開 する とい う こと で ある 。

第 二 に 、 人 間 行 動 の 自 動 性 を 応 用 す る 形 で 、 道 徳 性 に 関 し た メ タ 認 知 的 な 知 識 を 習 得 さ せ る こ と が 有 効 で あ る と 考 え ら れ る こ と で あ る 。 特 に 中 学 校 段 階 以 上 に な る と 従 来 の よ う な 心 情 を 把 握 す る 授 業 で は 、 心 情 を 汲 み 取 る こ と 自 体 は 平 易 な も の に な り 、 そ の こ と 自 体 に 関 心 を 示 さ な く な る 。 そ こ で 、 な ぜ そ の よ う な 心 情 が 湧 き 起 る の か と い っ た 上 述 の 知 見 を 基 に し た 授 業 を 展 開 す る こ と に よ っ て 、 あ る 場 面 で 起 こ る 心 情 が ど の よ う な 由 来 で 、 ど の よ う な 効 果 を 持 つ も の か と い う メ タ 認 知 的 な 知 識 を 習 得 さ せ る 。 そ の 結 果 と し て 、 自 動 的 に そ の 場 の 負 の 感 情 を 統 制 し た り 、 ま た 逆 に 正 の 感 情 に 基づ いた 行 動を 迅 速に と る こと が でき る よう にし たり し てい く とい うこ とで あ る。

以 上 の よ う に 本 研 究 で は 、 行 動 の 自 動 性 と い う 人 間 の 生 得 的 な 性 質 を 応 用 し て 、 道 徳 的 な 知 識 の 習 得 を 活 用 し て い こ う と す る も の で あ る 。 考 察 は 社 会 心 理 学 や 脳 神 経 科 学 、 進 化 生 物 学 の 知 見 を 基 盤 に し て 展 開 す る が 、 授 業 案 で は そ れ ら の 知 見 や 理 論 を そ のま ま使 う ので は なく 、 身 近な 題 材を 用 い関 心を 高め ら れる よ うに する 。

2

節 先 行 研 究 と 本 研 究 の 位 置 づ け

本 研 究 が 取 り 組 む 道 徳 教 育 に 関 す る 先 行 研 究 は 、 三 つ に 分 け ら れ る 。 第 一 は 道 徳 教 育に お ける 知 識習 得 に つい て の研 究 であ り 、 第二 は

道 徳 的 実 践 力 の 育 成 の た め の 道 徳 授 業 の 研 究 で あ る 。そ し て 第 三 は

上 述 自然 科学 的な 分野 の 知見 を 道徳 教育 に取 り 入れ る 意 義に つい て の研 究 であ る 。

まず 道徳 教 育に お いて 知識 習得 の 必要 性 の 意 義を 示し た 研究 に は次 のも のが あ る。

① 射 場 智 子

(1985).

知 識 の 獲 得 に お け る 道 徳 教 育 の 側 面 九 州 大 学 教 育 学 部 紀 要

(教 育学 部 門)

31,11-19.

② 上 薗 恒 太 郎

(2005).

ヒ ト ゲ ノ ム 研 究 と 学 校 教 育 - 知 識 に 基 づ く 道 徳 上 の 判 断 を 育成 する た め に

道 徳教 育方 法 研究

10, 20-29.

③ 松 下 良 平

(1994).

道 徳 的 規 範 理 解 の 構 造

(1)

- 心 情 主 義 的 道 徳 教 育 論 批 判(Ⅰ

)-

金沢 大学 教 育学 部 紀要

.教育科 学編 43, 221-237.

④ 松 下 良 平

(1994).

道 徳 的 規 範 理 解 の 構 造

(2)

- 心 情 主 義 的 道 徳 教 育 論 批 判(Ⅰ

)-

(6)

3

金沢 大学 教 育学 部 紀要

.教育科 学編 43, 239-252.

⑤ 松 下 良 平

(1995).

知 行 不 一 致 現 象 の 原 因 と そ れ へ の 教 育 的 対 応 法 - 心 情 主 義 的 道徳 教育 論 批判

(Ⅱ)- 金 沢大 学 教育 学 部紀 要.教育 科学 編 44, 227-246.

⑥ 松 下 良 平

(1995).

近 代 と い う 状 況 に 組 み 込 ま れ た 教 育 理 論 - 心 情 主 義 的 道 徳 教 育論 批判

(Ⅲ)- 金沢 大学 教育 学 部紀 要.教 育科 学編 44, 247-267.

⑦松 下良 平 (2002). 知る こと の 力- 心 情主 義の 道徳 教 育を 超 えて

勁草書 房

① の 研 究 に お い て 射 場 は 、 デ ュ ー イ 及 び ピ ー タ ー ズ の 主 張 に 即 し て 、 道 徳 教 育 に お い て 対 象 と さ れ る 知 識 は 他 の 教 授 活 動 に お い て 対 象 と さ れ る 知 識 か ら 分 離 さ れ る も の で は な く 、 各 教 科 等 の 教 授 活 動 に お け る 知 識 の 獲 得 そ の も の が 、 同 時 に 道 徳 的 性 質 を 心 理 的 に も た ら し う る も の で あ る こ と を 示 し 、 学 習 活 動 が 子 ど も 自 身 の 興 味 や 知 的 興 奮を 伴う も ので な けれ ばな らな い とし て いる 。

②の 上薗 の 研究 で は、2003 年に ヒ トゲ ノム 塩基 配列 解 読が 完 了し たこ と の 影 響は 人 間 の あ り 方 に 及 ぶ こ と か ら 、 こ の 分 野 の 知 識 水 準 を 高 め る 必 要 が あ り 、 科 学 に 関 わ る 教科 書に 倫 理に 関 する 記述 を 、ま た 道徳 、倫 理等 にお い て科 学 の記 述を 行う「 冗 長性 」 を 取 り 入 れ る べ き で あ る と 主 張 し て い る 。 さ ら に 上 薗 は 、 道 徳 教 育 に お い て 道 徳 学 習 指 導 要 領 に 示 さ れ て い る 指 導 項 目 に 準 じ た 形 式 的 な 授 業 や 読 み 物 資 料 を 用 い た 躾 に 終 始 し が ち な 授 業 の 殻 を 破 る た め に も 、 科 学 の 成 果 を 管 理 す る 学 校 教 育 が 必 要 で あ る と して いる 。

③か ら⑦ の 松下 の 研究 で は 、道 徳原 理と は 、ある 一般 化 され た 行為 がも たら す 結果 、 帰 結 を ど の よ う に 価 値 づ け る か と い う 相 互 主 観 的 な 一 致 の 産 物 で あ り 、 そ れ を 知 識 と し て 理 解 す る と い う こ と は 、 あ る 行 為 の 結 果 に つ い て 身 に し み て 実 感 す る よ う な 共 同 体 に お け る 実 践 を 重 ね る こ と に よ っ て 、 他 者 の 背 景 に あ る 物 質 的 、 観 念 的 条 件 を 自 ら のも のと 関 連づ け なが ら あ らた め て 構 成 する こと であ る 、と 主 張し てい る

3

こ れ ら の 知 識 習 得 の 意 義 に 関 す る 射 場 と 松 下 の 先 行 研 究 で は 、 道 徳 性 を 育 成 し て い く た め の 知 識 と い う の は 、 各 教 科 で 習 得 す る 知 識 そ の も の で あ り 、 道 徳 原 理 そ の も の で あ る と い う 、 い わ ば 伝 統 的 な 見 解 に つ い て の 再 認 識 を 行 っ て い る と い う こ と が 言 え る だ ろ う 。 知 識 を 増 大 さ せ る こ と が 具 体 的 な 行 為 が 求 め ら れ る 道 徳 判 断 を 向 上 さ せ る こ と は 間 違 い な い が 、 射 場 が 本 論 で も 指 摘 し て い る よ う に 、 そ れ に は 学 習 者 の 主 体 性 が 重 要 な ポ イ ン ト に な っ て く る 。 そ の た め に は 主 体 性 を 促 す 学 習 内 容 が 求 め ら れ る こ と に な る が 、 現 状 で は 受 動 的 な 知 識 習 得 の 傾 向 が 強 い の で は な い だ ろ う か 。 知 識 な ら 何で もよ い とい う わけ には いか な いだ ろ う。

ま た 道 徳 原 理 と そ れ に 関 し た 行 動 に つ い て の 知 識 を 習 得 さ せ る こ と は 、 確 か に 重 用

で あ り そ の こ と を 体 験 的 に 習 得 さ せ よ う と い う ロ ー ル プ レ イ イ ン グ を 取 り 入 れ た モ ラ

ルス キル ・ト レー ニ ン グ

4

とも共 通 する 部 分が ある だろ う。 この 有 効 性を 否定 す るも の

で は な い が 、 そ れ で も 感 情 に 流 さ れ 衝 動 的 な 反 道 徳 的 行 動 を と っ て し ま う こ と が な く

な る こ と は な い 。 あ る 行 為 の 帰 結 と し て 問 題 が 起 こ る の は 深 く 理 解 し て い て も 、 な ぜ

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4

その よう に 振る 舞 って しま うの か 、と い った 部分 まで 知 識を 掘 り下 げる 必要 が ある 。 一 方 、 上 薗 は 科 学 的 な 知 識 を 道 徳 や 倫 理 の 学 習 に も 取 り 入 れ る 必 要 性 を 指 摘 し て い る 。 科 学 の 進 歩 が 人 間 の あ り 方 さ え も 変 え て し ま い か ね な い 現 代 社 会 に あ っ て は 、 そ う し た 成 果 を 上 手 に 取 り 扱 っ て い く 教 育 が 必 要 と な る だ ろ う 。 本 研 究 は そ の 延 長 で あ り、 さら な る深 化 を目 指す もの と 言え る 。

次 に 道 徳 的 実 践 力 の 育 成 を テ ー マ に し た 先 行 研 究 で は 次 の も の が 挙 げ ら れ る 。

① 名 越 早 苗 (2006). 道 徳 的 実 践 力 を 高 め , 道 徳 的 実 践 を 促 す 道 徳 教 育 の 展 開 - 対 話 に よ る 道 徳 に 時 間 の 指 導 の 工 夫 を 通 し て - 広 島 県 立 研 究 セ ン タ ー 研 究 紀 要 33.

121-140.

② 神 崎 英 紀 (2010).「 生 き る 力 」 と 道 徳 教 育 - 道 徳 的 実 践 力 の 育 成 に 向 け て - 大 分 大 学 教 育 福 祉 学 部 研 究 紀 要 32(1), 119-127.

③ 矢 部 薫 (2010). 道 徳 的 実 践 力 を 育 て る 道 徳 授 業 の あ り 方 教 師 養 成 研 究 紀 要 4, 233-247

④ 神 崎 英 紀 (2011). 道 徳 的 実 践 力 の 課 題 -R.M.ヘ ア の 道 徳 的 思 考 の 二 層 理 論 を 手 が か り に し て - 道 徳 と 教 育 329, 32-40.

⑤ 戸 田 浩 暢 (2013). 生 徒 指 導 に 関 わ る 道 徳 教 育 の 在 り 方 - 対 話 に よ り 道 徳 的 実 践 力 を 促 す 指 導 の 工 夫 - エ リ ザ ベ ト 音 楽 大 学 研 究 紀 要 33, 15-27.

① の 研 究 に お い て 名 越 は 、 道 徳 的 実 践 力 は 、 他 者 と の 対 話 を 通 し て 自 分 自 身 と の 対 話 を 深 め て い く こ と に よ っ て 育 成 す る こ と が で き る と し 、 道 徳 授 業 の 中 で 他 者 と の 対 話 を 促 進 し て い く 話 し 合 い 活 動 を 工 夫 し な が ら 取 り 入 れ て い く 必 要 性 を 述 べ て い る 。

② の 神 崎 の 研 究 で は 、 ま ず 文 部 科 学 省 学 習 指 導 要 領 中 の 道 徳 教 育 及 び 道 徳 の 時 間 の 目 標 の 内 容 と し て 、 次 の よ う な 問 題 点 を 指 摘 し て い る 。 第 一 に 道 徳 の 時 間 の 目 標 と し て 記 述 さ れ て い る 「 道 徳 的 価 値 の 自 覚 」 と 「 道 徳 的 実 践 力 」 に つ い て 、 両 者 が 並 列 な の か 、 あ る い は 一 方 が も う 一 方 を 包 含 す る の か と い っ た 関 係 が 不 明 確 で あ る こ と 。 第 二 に こ の う ち の 道 徳 的 実 践 力 の 定 義 が 、 道 徳 教 育 の 目 標 概 念 と し て の 道 徳 性 と 同 じ 内 容 で あ る こ と 。 第 三 に 学 習 指 導 要 領 全 体 と の 関 連 で 言 え ば 道 徳 的 実 践 力 の 育 成 こ そ が 道 徳 の 時 間 の 目 標 で あ る と 言 え る に も か か わ ら ず 、 学 習 指 導 要 領 に お け る 内 容 項 目 に は 道 徳 的 実 践 力 に 対 応 す る 内 容 は 何 も 示 さ れ て い な い こ と 。 そ し て 、 学 習 指 導 要 領 で は 「 道 徳 的 価 値 の 自 覚 」 に つ い て の 説 明 に 終 始 す る だ け で 、「 道 徳 的 実 践 力 」に つ い て の 説 明 が 不 十 分 で あ り 、肝 心 の 道 徳 的 行 動 を 決 定 す る 行 為 者 の 視 点 を 欠 い て い る 、 と し て い る 。 そ の 上 で 道 徳 の 時 間 に お い て 道 徳 的 実 践 力 を 育 成 す る 方 向 と し て 、 道 徳 問 題 の 特 徴 を 理 解 す る こ と と 、 そ れ に 対 す る 行 為 者 と し て の 対 応 策 を 考 え 出 す こ と が で き る よ う に し て い く こ と の 必 要 性 を 述 べ て い る 。 ま た 同 じ く ④ の 神 崎 の 研 究 で は 、 前 段 で ③ に お け る 学 習 指 導 要 領 の 問 題 点 を 再 度 指 摘 し た 上 で 、 道 徳 的 実 践 力 の 育 成 を 考 え る 手 が か り と し て ヘ ア の 道 徳 的 思 考 の 二 層 理 論 を 取 り 上 げ て い る 。 そ れ に よ れ ば 、 道 徳 的 思 考 は 道 徳 問 題 に 直 面 し た 際 に 、 状 況 を 把 握 し 適 切 な

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道 徳 規 則 を 適 用 し て 解 決 を 図 る 「 直 観 的 な 道 徳 的 思 考 」 と 、 道 徳 的 葛 藤 状 況 の よ う な 従 来 の 道 徳 規 則 で は 対 処 で き な い 事 態 に お い て 、 新 し い 原 則 を 決 定 し て い く 「 批 判 的 な 道 徳 的 思 考 」 に 区 別 で き る 。 こ の 分 析 に 従 え ば 、 道 徳 的 実 践 力 を 育 成 す る 授 業 と し て 一 般 性 の 程 度 が 高 く 、 単 純 な 形 で 定 式 化 で き る 直 観 的 な 道 徳 規 則 を 教 え る も の と 、 状 況 分 析 、 選 択 肢 の 案 出 、 結 果 の 予 測 と 選 択 と い う 局 面 か ら 成 り 立 つ 批 判 的 な 道 徳 的 思 考 の 方 法 を 教 え る 道 徳 教 育 が 構 想 さ れ る 。

③ の 矢 部 の 研 究 で は 、 現 在 の 道 徳 授 業 の 多 く は 、 ね ら い が 曖 昧 で 資 料 と の 関 連 が 浅 い 上 に 深 く 考 察 し な く て も 教 師 が 望 む 答 え が 見 つ か る 資 料 を 扱 っ て お り 、 さ ら に 展 開 に つ い て も 心 情 を 読 み 取 り 、 共 感 的 理 解 を 図 ろ う と す る だ け の も の に な っ て い る た め 、 道 徳 的 実 践 力 が 育 成 さ れ て い な い と し て い る 。 こ れ ら を 踏 ま え た 上 で 、 道 徳 的 実 践 力 を 養 う 道 徳 授 業 と し て 、 ね ら い を 明 確 に し て か ら 、 そ れ と 関 連 の あ る 資 料 を 選 択 し 、 子 ど も が 考 え や す く す る 工 夫 を し な が ら 他 者 と 考 え を 積 極 的 に 出 し 合 う 授 業 を 構 想 し て い る 。

⑤ の 戸 田 の 研 究 で は 、 生 徒 指 導 と 道 徳 教 育 の 密 接 な 関 係 を 確 認 し た 上 で 、 道 徳 的 実 践 力 を 高 め て い く 道 徳 の 時 間 を 展 開 す る に は 、 ど の よ う な 形 で 生 徒 指 導 の 機 能 を 生 か し て い け ば よ い か に つ い て 論 究 し て い る 。 具 体 的 に は 児 童 生 徒 が 他 者 と の 対 話 の 中 で 、 新 た な 問 い に 出 会 い 、 自 己 内 対 話 を 深 め る 話 し 合 い 活 動 の あ り 方 に つ い て 、 道 徳 の 時 間 に お け る 一 つ の 方 向 性 を 示 し て い る 。

こ れ ら の 研 究 の 中 で 、 ま ず 注 目 す べ き は 神 崎 が 指 摘 し て い る 学 習 指 導 要 領 に お け る 道 徳 的 実 践 力 に つ い て の 内 容 の 曖 昧 さ 、 不 十 分 さ で あ ろ う 。 こ れ に よ り 現 場 で の 多 く の 道 徳 の 授 業 が 心 情 の 理 解 、 把 握 で 終 わ っ て い る と い う 現 実 と い う の は 、 そ も そ も 学 習 指 導 要 領 が 道 徳 的 価 値 の 説 明 に 終 始 し て い る か ら で あ る 、 と い う 構 図 が 浮 か び 上 が っ て く る 。 そ こ で そ の 構 図 の 確 認 は と も あ れ 、 実 際 問 題 と し て 道 徳 的 実 践 力 を 育 成 し て い く 方 法 が 求 め ら れ て く る の で あ る 。 道 徳 的 実 践 力 を 育 成 す る 具 体 的 な 授 業 方 法 と し て 共 通 の も の は 、 他 者 と の 対 話 や 話 し 合 い 活 動 を 推 進 す る 形 式 で あ る 。 こ れ ら の 活 動 が 自 己 と の 対 話 を 促 し 、 新 た な 道 徳 的 原 則 を 決 定 し て い く こ と に な る 。

た だ し こ れ ら の 方 法 論 に つ い て 、 そ の 重 要 さ は 認 め る も の の 目 新 し さ は な い 。 日 本 で は コ ー ル バ ー グ の 道 徳 性 の 認 知 発 達 理 論 に 基 づ い た い わ ゆ る ジ レ ン マ 資 料 を 用 い た 討 論 中 心 の 道 徳 授 業 も 活 発 に 行 わ れ て お り5、ま た 通 常 の 道 徳 授 業 に お い て も 、ど の 教 師 で あ れ 児 童 生 徒 同 士 の 意 見 交 換 を な る べ く 積 極 的 に 行 う 努 力 は し て い る と 思 わ れ る 。 道 徳 的 実 践 力 の 育 成 の 必 要 性 は 多 く が 認 め な が ら も 、 そ の 具 体 的 な 方 法 に つ い て は 考 え あ ぐ ね て い る の が 実 態 と も 言 え る だ ろ う 。

次 に 社 会 心 理 学 や 脳 神 経 科 学 、 進 化 生 物 学 の 自 然 科 学 的 な 知 見 を 道 徳 教 育 に 取 り 入 れる 意義 を 示し た 研究 には 次の も のが あ る。

①遠 藤 均

(2003).

脳科 学か ら 道徳 教 育を 考え る 道 徳と 教 育

316・317, 222-236.

②藤 川洋 子

(2009).

発達 障害 と 少年 非 行 障害 者問 題 研究

137, 39-45.

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③ 菱 刈 晃 夫

(2008).

セ ン ス ・ オ ブ ・ ワ ン ダ ー を 育 む 道 徳 教 育 に 向 け て - 道 徳 性 の 生 物 学的 基礎 づ けか ら - 初等 教育 論 集

9, 14-36.

④虫 明 茂

(2008).

脳科 学と 道 徳教 育

道 徳と 教育

326, 121-131.

⑤森 久 佳

(2001).

「無 意識 性 」の 視 点に よる デュ ー イ教 育 理論 の見 直し 教育 学論 集

27, 59-80

⑥ 森 岡 正 博

(2013).

道 徳 性 の 生 物 学 的 エ ン ハ ン ス メ ン ト は な ぜ 受 け 容 れ が た い の か

-サ ヴァ ァ レス キ ュを 批判 する -

現 代生 命哲 学研 究

2, 102-113.

⑦永 野文 一

(2006).

進化 ・道 徳 ・教 育

道 徳教 育学 論 集

13, 81-99.

⑧永 野文 一

(2008).

道徳 性の 発 達と 進 化 道徳 教育 学 論集

14, 47-63.

⑨ 田 中 泉 吏

(2007).

道 徳 性 の 進 化 - 生 物 学 の 哲 学 の 観 点 か ら -

遺 伝 ・ 別 冊

20, 156-160.

① の 遠 藤 の 研 究 で は 、 た と え ば 混 雑 す る 電 車 内 で 座 席 に 寝 転 び 場 所 を 占 有 す る と い っ た 他 者 の こ と を 配 慮 し な い 若 者 の 自 己 中 心 的 な 行 動 は 、 脳 の 機 能 の 一 部 が 低 下 す る こ と に よ っ て 発 生 し 得 る 、 と い う 報 告 を 取 り 上 げ 、 自 ら の 経 験 も 踏 ま え な が ら 、 道 徳 的 な 指 導 に お い て も 脳 内 の 報 酬 系 と 罰 系 へ の 刺 激 を 適 宜 考 え な が ら 、 行 う べ き で あ る と述 べて い る。

② の 藤 川 の 研 究 で は 近 年 の 特 異 な 少 年 犯 罪 に つ い て 、 広 汎 性 発 達 障 害 を 主 と す る 発 達 障 害 が 鑑 定 や 鑑 別 、 診 断 さ れ る こ と が 続 い て い る こ と を 受 け 、 少 年 非 行 と 発 達 障 害 と の 関 係 に つ い て 考 察 を 行 っ て い る 。 近 年 の 研 究 に よ れ ば 児 童 期 開 始 型 の 方 が 青 年 期 開 始 型 よ り も 暴 力 的 犯 罪 の 頻 度 が 有 意 に 高 い こ と が 報 告 さ れ て い る 。 ま た 脳 神 経 科 学 の爆 発的 進 歩に よ り「 社会 に迷 惑 を及 ぼ す脳 」「道 徳 とか 倫理 観 が 育ち にく い 脳 」と い う テ ー マ に 関 心 を も つ 脳 神 経 科 学 者 も 出 て き て い る 。 こ う し た 傾 向 は 差 別 や 偏 見 を 生 む 危 険 性 に つ な が る も の で も あ る 。 藤 川 は 言 語 に よ る 精 神 療 法 や 道 徳 教 育 に よ っ て 神 経 回 路 の 変 化 や 血 流 の 改 善 を 促 し た と い う 報 告 を 紹 介 し 、 生 得 的 要 因 の 指 摘 が 人 々 を 不 安 に 陥 れ る こ と の な い よ う に 配 慮 す る べ き で あ る こ と と 併 せ 、 予 防 的 な 教 育 や 犯 罪

(少 年) に 対す る 処遇 は脳 の特 性 を考 慮 に入 れる べき で ある と して いる 。

③ の 菱 刈 の 研 究 で は 、 こ の 研 究 に お い て 人 間 の モ ラ ル ・ セ ン ス ( 道 徳 感 覚 ) は 、 生 物 学 的 な 自 然 の 中 に 基 礎 を も つ も の で あ り 、 工 学 の 基 礎 に 物 理 学 が あ る の と 同 様 に 倫 理学 の基 礎 に生 物 学が ある のは 当 然で あ る、 と指 摘し て いる 。 さら に生 物学 者 の

E.O.

ウ ィ ル ソ ン や 脳 神 経 科 学 者 の ガ ザ ニ ガ の 知 見 を 示 し な が ら 、 人 間 の 道 徳 性 は 本 能 と し て 進 化 し 、 道 徳 的 判 断 の ほ と ん ど は 脳 に よ る 自 動 操 縦 に よ っ て な さ れ て い る と し て い る 。 そ し て 人 間 の モ ラ リ テ ィ の 探 求 と 教 育 は 、 人 間 に よ る 生 物 と し て の 人 間 自 然 へ の セ ン ス ・ オ ブ ・ ワ ン ダ ー ( 神 秘 さ や 不 思 議 さ に 目 を 見 は る 感 性 ) に よ っ て は じ め て 覚 醒さ せら れ ると 述 べて いる 。

④ の 虫 明 の 研 究 で は 、 科 学 技 術 が 高 度 に 発 達 し た 現 代 に お い て は 、 教 員 は 科 学 技 術

リ テ ラ シ ー 、 中 で も 近 年 進 歩 の 著 し い 脳 科 学 技 術 リ テ ラ シ ー を 身 に つ け る こ と が 不 可

欠で あり 、 道徳 教 育 に 関し て興 味 深い 脳 科学 の知 見も 見 られ る が、 たと え ば

3

歳 児神

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話 の よ う な 疑 似 脳 科 学 的 情 報 も 跋 扈 し て い る 現 状 か ら す る と 、 そ れ を 無 批 判 に 取 り 入 れる ので は なく 、 慎重 な態 度で 接 する べ きで ある と述 べ てい る 。

⑤ の 森 の 研 究 で は デ ュ ー イ 自 身 は 「 無 意 識 性 」 と い う 表 現 を 用 い て い な い も の の 、 彼 の 教 育 理 論 で は 「 無 意 識 性 」 を 重 要 視 し て い る と 考 え 、 そ の 教 育 効 果 に つ い て 分 析 し て い る 。 デ ュ ー イ は 教 育 を 「 経 験 の 改 造 な い し 再 構 成 す る 過 程 で あ る 」 と 定 義 し て い る が 、 人 間 は 共 同 生 活 に 参 加 す る こ と で 「 無 意 識 的 に 」 教 育 的 、 形 成 的 な 影 響 を 受 け る 。 つ ま り こ の 場 合 の 「 無 意 識 性 」 と は 教 育 さ れ る こ と を 意 識 せ ず に 教 育 さ せ る 状 態 の こ と で あ る 。 ま た デ ュ ー イ は 教 育 を 附 属 的 な い し 偶 然 的 な イ ン フ ォ ー マ ル ・ エ デ ュ ケ ー シ ョ ン と 意 図 的 な フ ォ ー マ ル ・ エ デ ュ ケ ー シ ョ ン の 二 つ の 形 態 に 分 け て お り 、 学 校 に お い て は そ の 「 無 意 識 性 」 を 考 慮 し て 環 境 を 統 制 す る と い っ た 対 応 が 必 要 で あ る 、 と し て い る 。 こ こ で 言 う 「 無 意 識 性 」 と は 自 然 科 学 的 視 点 に 基 づ く も の 、 と い う わけ では な いが 、 教育 的効 果と い う点 で は本 研究 と大 い に共 通 する 面が ある 。

⑥ の 森 岡 の 研 究 で は サ ヴ ァ レ ス キ ュ ら が 唱 え て い る 道 徳 性 の 生 物 学 的 エ ン ハ ン ス メ ント

(moral bioenhancement)につ いて 批 判 的に 考察 を して い る。 道徳 性の 生 物学 的エ

ン ハ ン ス メ ン ト と は 、 人 間 の 道 徳 性 を 高 め て い く に は 教 育 と い っ た 伝 統 的 な 手 法 だ け に よ る の で は な く 、 遺 伝 的 、 生 物 学 的 な 手 法 に よ る エ ン ハ ン ス メ ン ト が 必 要 で あ り 、 具 体 的 に は 今 後 の 可 能 性 も 含 め 薬 物 治 療 や 遺 伝 子 操 作 、 脳 へ の 磁 気 等 に よ る 刺 激 に よ っ て な さ れ る べ き で あ る と す る も の で あ る 。 サ ヴ ァ レ ス キ ュ ら は 現 代 に お い て は 少 人 数 で も 大 量 破 壊 兵 器 を 手 に す れ ば 全 世 界 を 破 滅 さ せ る こ と も で き る 状 況 が あ る こ と か ら 、 道 徳 性 の 生 物 学 的 エ ン ハ ン ス メ ン ト の 必 要 性 を 説 い て お り 、 犯 罪 者 な ど の 個 人 に 適 用 さ れ る 場 合 と あ る 地 域 全 住 民 に 適 用 さ れ る 場 合 が あ る と し て い る 。 森 岡 は こ の 主 張 に 対 し て 、 そ の 適 用 を 免 れ る 者 が 出 た 場 合 、 道 徳 性 を 増 強 さ れ た 人 々 を 不 当 に 支 配 す る 可 能 性 が あ る 、 ま た 道 徳 性 を 増 強 さ れ る こ と に よ り 時 に は 暴 力 に 基 づ い た 強 制 力 を 発 揮 し な け れ ば な ら な い 警 察 や 軍 隊 は 任 務 が 遂 行 で き な く な る 、 さ ら に そ う し た 人 々 は 道 徳 的 に 敏 感 に な り 、 不 幸 な 境 遇 に あ る 人 々 に 対 し て 有 効 な 働 き か け が で き な い 場 合 、 自 分 の 力 で は 限 界 が あ る に も か か わ ら ず 過 度 に 自 責 の 念 に と ら わ れ 苦 し む こ と に な る 、 と い う 点 を 挙 げ 、 そ の 現 実 性 に 強 く 疑 問 を 投 げ か け て い る 。 森 岡 は 義 務 教 育 に お け る 道 徳 教 育 に は 生 物 学 的 エ ン ハ ン ス メ ン ト に は な い 人 間 精 神 の 内 部 に 道 徳 的 統 合 性 の 核 心 を 持 た せ 、 道 徳 的 判 断 を 自 ら の 支 配 下 に よ っ て 下 し 、 道 徳 的 判 断 の 当 事 者の 生活 史 にお け る統 合性 を持 た せる と いう 面が あり 、 その 重 要性 を指 摘し て いる 。

⑦ の 永 野 の 研 究 で は 進 化 の 観 点 か ら 人 間 を と ら え た 事 実 を 学 校 で は 学 び 教 え ら れ る こ と が な い 現 実 か ら 、 そ こ か ら ア プ ロ ー チ し た 場 合 、 道 徳 教 育 に つ い て も 変 容 を 迫 ら れ る 可 能 性 に つ い て 論 及 し て い る 。 さ ら に 自 ら の 遺 伝 子 を 残 す こ と が 生 物 の 根 本 的 な 生 存 の 目 的 で あ る と い う 利 己 性 と 定 言 命 法 と し て の 純 粋 な 道 徳 と の 矛 盾 を 挙 げ な が ら も 、 社 会 の 構 成 者 が 徳 な ら ぬ 「 得 」 を 享 受 す る 利 他 行 動 を 促 し て い く に は 、 人 間 の 道 徳 性 の 生 得 性 と 個 人 の 遺 伝 的 差 異 を 考 慮 し た 道 徳 教 育 の 必 要 性 が あ る こ と を 唱 え て い る。

ま た ⑧ に お け る 永 野 の 研 究 で は 進 化 生 物 学 や 脳 神 経 科 学 の 知 見 か ら 、 ま ず 進 化 の 事

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実 は 人 の 力 で は 変 え る こ と が で き な い が ゆ え に 、 こ れ 以 外 に 道 徳 性 の 基 盤 を 構 築 す る も の は な い と し て い る 。 そ の 上 で 感 情 に つ い て 、 ヒ ト が 生 き 物 と し て 生 き て い く の に 進 化 的 に 適 応 し た 機 構 で あ る が 、 そ れ は 本 来 生 命 状 態 を 監 視 し て 命 を 長 ら え さ せ る た め の も の で あ り 、 道 徳 性 を 構 築 す る た め に あ る の で は な い 。 し た が っ て 、 様 々 な 状 況 の 処 理 の た め に そ れ と 関 係 す る 特 定 の 感 情 や 情 動 を 「 正 し く 」 発 動 さ せ 、 集 団 を 維 持 す る た め の 技 と し て の 道 徳 性 を 発 揮 さ せ る た め に は 、 そ れ に 至 る 回 路 を 人 為 的 に 構 築 し て や ら ね ば な ら な い 、 と 述 べ て い る 。 そ し て さ ら に ヒ ト の 知 性 や 道 徳 性 に よ っ て 維 持さ れる 共 同体 の 人数 は

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人 程度 とみ ら れる こと か ら、 そ の人 数を はる か に凌 駕 す る 現 在 社 会 に お い て 、 か つ て は 進 化 的 に 適 応 的 で あ っ た ネ ポ テ ィ ズ ム ( 身 内 び い き ) や ゼ ノ フ ォ ー ビ ア ( 外 国 人 嫌 い ) を 克 服 し 、 い か に 「 道 徳 」 を 構 築 す る か が 道 徳 教 育 の課 題で あ る、 と 指摘 して いる 。

⑨ の 田 中 の 研 究 で は 、 道 徳 性 の 進 化 に つ い て 科 学 哲 学 の 一 分 野 で あ る 生 物 学 の 哲 学 の 観 点 か ら 考 察 を 行 っ て い る 。 自 ら の 利 得 を 犠 牲 に し て 他 者 の 適 応 度 を 上 げ る 利 他 行 動 の 進 化 の 重 要 な 要 因 の 一 つ は 、 裏 切 り に 対 す る 罰 行 動 ( 利 他 的 罰 ) で あ る が 、 こ の 行 動 に は コ ス ト が か か る た め フ リ ー ラ イ ダ ー の 問 題 が 生 じ て し ま う 。 し か し 言 語 に よ る 「 評 判 」 が 存 在 す れ ば 、 利 己 的 個 体 に た と え ば 「 村 八 分 」 と い っ た 低 コ ス ト の 罰 が 与 え ら れ る こ と に な る 。 田 中 は 直 接 道 徳 教 育 に ま で 踏 み 込 ん で は い な い が 、 こ の 言 語 に よ る 「 評 判 」 は 教 育 的 な 要 素 も 自 ず と 含 む こ と に な り 、 道 徳 教 育 に も 大 き な 示 唆 を 与え るも の とな っ てい る。

こ れ ら の 道 徳 教 育 に 自 然 科 学 的 な 知 見 を 取 り 入 れ た 先 行 研 究 で は 、 人 間 の 道 徳 性 が 生 物 学 的 な 基 盤 を 持 つ も の で あ り 、 脳 の 機 能 と し て 道 徳 性 ま た 反 道 徳 性 と い う も の が 存 在 す る も の で あ る と い う こ と を 明 確 に 指 摘 し て い る 。 そ し て 、 こ う し た こ と が 明 ら かで ある 以 上、それ を 踏ま えた 何 らか の 社会 的な 対応 が 必要 と なる こと を訴 え てい る 。 そ の 主 要 な も の の 一 つ が 道 徳 教 育 で あ る 。 具 体 的 に 道 徳 教 育 の 分 野 で ど の よ う な 知 見 を 取 り 入 れ る べ き か と い う 議 論 は ま だ 本 格 的 に は 起 こ っ て い な い が 、 現 状 か ら 考 え れ ば そ の 必 要 性 は 日 に 日 に 高 ま っ て い る と 言 え る だ ろ う 。 本 研 究 は 、 以 上 の 内 容 に 関 し て 、 ど の よ う な 知 見 を 知 識 と し て 取 り 入 れ て よ い の か と い う こ と を 中 心 に 論 説 を 展 開 し て い く が 、 こ れ ら の 先 行 研 究 を 道 徳 教 育 の 分 野 で 具 体 化 し て い く 先 駆 け と な る も の であ る。

以上 の先 行 研究 に 対し て本 研究 に は、 次 のよ うな 意義 が ある 。

第 一 に 、 道 徳 教 育 に 自 然 科 学 的 な 視 点 を 取 り 入 れ 、 学 際 的 な ア プ ロ ー チ を 行 っ た こ

と で あ る 。 道 徳 性 に 関 す る 研 究 は 自 然 科 学 各 分 野 で 進 め ら れ て お り 、 多 く の 成 果 を あ

げ て い る 。 た と え ば 人 間 の 道 徳 性 そ の も の に は 、 互 恵 的 利 他 行 動 を 性 質 を 獲 得 し た 個

体 の 方 が そ う で な い 個 体 よ り も 適 応 的 で あ る 、 つ ま り 繁 殖 に 有 利 で あ る 。 ま た 道 徳 的

高 揚 感 を 実 感 す る と き 、 脳 内 に は 信 頼 の ホ ル モ ン と 言 わ れ る オ キ シ ト シ ン が 分 泌 さ れ

て い る と い う こ と が 明 ら か に な っ て い る 。 こ う し た 生 物 と し て の 人 間 の 生 得 的 な 性 質

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や 機 能 は 、 育 成 す べ き 道 徳 性 の 妥 当 な 指 標 と な る も の で あ る 。 こ れ ま で の 社 会 の 中 で 徳 目 と し て 挙 げ て き た 内 容 と い う の は 、 あ る 民 族 や 国 家 の 中 で 形 成 さ れ て き た も の で あ る 。 そ の た め ど う し て も 恣 意 的 な 側 面 が 生 ま れ 、 他 民 族 や 国 家 と 相 容 れ な い 面 も 見 ら れ る こ と に な る 。 そ れ が 争 い に つ な が る こ と も し ば し ば で あ っ た 。 も ち ろ ん 共 通 し た 普 遍 的 な 徳 目 も 存 在 す る が 、 自 然 や 環 境 全 体 ま で 視 点 を 引 き 上 げ れ ば 、 や は り 人 間 のと して の 恣意 性 が 露 わに なり 、環 境破 壊 と いっ た問 題 を引 き 起こ して いる 。そ こで 、 よ り 普 遍 的 な 視 点 と し て の 道 徳 性 の 内 容 を 生 物 と し て の 人 間 の 生 得 性 や 機 能 に 求 め る の で あ る 。 生 物 と し て の 人 間 に 民 族 や 国 家 は な く 、 そ の 位 置 づ け は 環 境 の 中 の 一 個 の 生 物 に す ぎ な い 。 自 然 環 境 の 中 に お い て も 人 間 社 会 の 中 に お い て も 偏 り の な い 道 徳 性 の内 容が 挙 げら れ るこ とに なる 。

第 二 に 、 道 徳 教 育 に お け る 知 識 の 扱 い の 新 し い 切 り 口 を 示 し た こ と で あ る 。 こ れ ま で 道 徳 教 育 に お い て 知 識 と い え ば 、 そ れ は 道 徳 原 理 そ の も の の こ と で あ り 徳 目 の 内 容 の こ と で あ っ た 。 そ の た め 、 こ う し た 知 識 を 習 得 さ せ る と い う こ と は 内 容 を 伴 わ な い 言 葉 だ け の 道 徳 性 の 育 成 と な り 、 ま た 自 ら が 主 体 的 に 内 面 化 す る こ と の な い 規 範 の 注 入 と な っ て し ま っ た 。 本 研 究 で は 、 人 間 の 行 動 は 必 ず し も 意 識 的 な も の で は な く 、 他 者 の 模 倣 や 内 在 化 さ れ た 知 識 、 ま た 習 慣 に よ っ て 自 動 化 さ れ て い る 面 が あ る 、 と い う 科 学 的 知 見 を 基 盤 に 道 徳 教 育 の あ り 方 を 考 察 す る 。 こ の 知 見 か ら す る と あ る 対 象 や 事 象 に 遭 遇 し た と き の 行 動 は 、 そ れ に 対 応 す る 脳 内 に 蓄 積 さ れ た 知 識 に よ っ て 決 ま っ て く る こ と に な る 。 し た が っ て 本 研 究 で い う と こ ろ の 知 識 と は 、 そ の 場 に お け る 状 況 や 行 動 を 道 徳 性 に 基 づ い て 認 知 し て い く リ ソ ー ス で あ り 、 道 徳 教 育 に よ っ て 道 徳 性 に 基 づい た知 識 の貯 蔵 庫を 豊か にし て いく こ とに なる ので あ る。

第 三 に 、 本 研 究 で 示 す 道 徳 授 業 の 取 り 組 み や す さ で あ る 。 心 情 の 変 容 を 把 握 す る ス タ イ ル の 道 徳 授 業 へ の 批 判 と し て 、 こ れ ま で い く つ か の タ イ プ の 授 業 が 提 案 さ れ て き た

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。だが これ らの 授 業 では 計画 や 準備 に 時間 がか かり 、日 常 の 中 で はな かな か 実施 が 容 易 で は な い 、 ま た 大 が か り に な っ て し ま う 分 、 実 際 の 授 業 を 進 め る 難 易 度 が 増 す と い う 難 点 が あ っ た 。 本 研 究 に お い て 示 す 道 徳 授 業 で は 、 上 述 し た よ う に 道 徳 性 に 関 連 し た 知 識 を 習 得 す る も の な の で 、 取 り 組 み そ の も の は 平 易 で あ る 。 も ち ろ ん 取 り 上 げ る 知 識 の 内 容 に つ い て は 関 連 す る 教 科 領 域 で も 取 り 上 げ た 方 が 効 果 的 で は あ る が 、 別 に 統 合 的 に プ ロ グ ラ ム を 組 ま な け れ ば な ら な い わ け で は な い 。 授 業 そ の も の の 取 り 組 みは 大が か りに す る必 要な く

7

、こ れま で とは 全く 異な っ たア プ ロー チの 道徳 授 業を 行 うこ とが で きる わ けで ある 。

3

節 研 究 方 法 と 本 論 文 の 構 成 1 研 究 の 方 法

本 研 究 で は 、 次 の 各 学 問 分 野 の 知 見 を 基 盤 と し て 考 察 を 進 め る 。 ま ず 、 人 間 の 道 徳

(13)

10

性 の 起 源 と 発 達 に つ い て は 、 進 化 生 物 学

8

の 研 究 の 成 果 を 基 と す る 。 進 化 生 物 学 で は 、 人 間 を 含 む 現 在 の す べ て の 生 物 の 形 質 的 、 生 理 的 、 さ ら に 人 間 の 場 合 の 心 理 的 な 特 性 と い う の は 、 こ れ ま で の 地 球 の 長 い 歩 み に お け る 様 々 な 環 境 の 変 化 に 適 応 し て き た 結 果 で あ る と し て い る 。 こ の よ う な 進 化 生 物 学 に お け る 道 徳 性 の 定 義 と し て は 、 自 ら の 適応 度を 犠 牲に し て他 者の 包括 的 な適 応 度を 上昇 させ る 行為 、 とい うこ とに な る。

また 人間 の 道徳 性 の 解 剖学 的な 機 能 に つ いて は、現在 で は

fMRI

( 機能 的磁 気 共鳴 画 像 診 断 装 置 ) 等 の 機 器 の 発 達 に よ り 非 侵 襲 的 に 脳 の 活 動 を 把 握 で き る よ う に な る な ど 格段 の進 歩 を遂 げ てい る 脳 神経 科 学の 研 究成 果 を 基盤 と する 。

そ し て そ の 上 で 道 徳 的 実 践 力 の 育 成 に 道 徳 的 な 知 識 の 習 得 が 有 効 で あ る こ と を 論 究 し 、 そ れ に 基 づ い た 授 業 の 開 発 を 図 っ て い く こ と に つ い て は 、 人 間 の 社 会 的 な 行 動 に つい て分 析 する 社 会心 理学 、中 でも

Bargh

を中 心と し た 人 間 行動 の非 意識 的 な自 動 性 研究 の成 果 に基 づ いて いく 。

2 本 論 文 の 構 成

人 間 の 自 動 性 研 究 の 成 果 に 基 づ い た 道 徳 授 業 を 展 開 す る 本 論 文 の 構 成 は 以 下 の 通 り であ る。

第 1 部 は 、 道 徳 的 な 実 践 力 を 高 め る 、 つ ま り 道 徳 的 な 行 動 を 促 し て い く た め に は 、 道 徳 教 育 に お い て 科 学 的 知 見 に 基 づ い た 学 際 性 が 必 要 と な る こ と を 明 ら か に し 、 本 研 究の 論拠 で あり 原 理と なる 人間 行 動の 自 動性 研究 につ い て概 説 する 。

1

章 で は、 現在 学 校現 場で の 主流 に なっ てい る、 い わゆ る 心情 主義 道徳 教 育に つ い て 様 々 な 批 判 を 紹 介 し な が ら 整 理 し 、 道 徳 的 実 践 力 に 結 び つ か な い と い う 問 題 点 を 指 摘 す る 。 そ し て 道 徳 的 実 践 力 を 育 成 し て い く た め に は 、 人 間 の 道 徳 性 と 行 動 に つ い て学 際的 な 視点 を 持つ こと が必 要 であ る こと を論 究し て いく 。

第 2 章 で は 、 本 研 究 に お け る 原 理 と な る 人 間 行 動 の 自 動 性 研 究 に つ い て 概 説 し 、 そ の 上 で 、 そ れ を 応 用 し た 知 識 を 習 得 す る 道 徳 教 育 の 必 要 性 を 論 究 し て い く 。 自 動 性 研 究に つい て 概説 す るの は 、社 会心 理 学 、脳 神 経科 学 、進 化 生物 学の 各研 究分 野 であ る 。 こ れ ら の 知 見 か ら 、 人 間 の 行 動 と い う の が 、 自 ら の 意 志 に 基 づ い た も の で は な い 非 意 識 的 な 面 が い か に 大 き い か と い う こ と が 明 ら か に な る 。 そ し て 人 間 行 動 の 自 動 性 を 応 用 す る 形 で 、 道 徳 的 な 行 動 を 促 し て い く た め に 必 要 と な る 「 特 性 と 目 標 に 関 連 し た 知 識」 と「 メ タ認 知 のた めの 知識 」 の2 つ 知識 内容 を 提 示 する 。

第 2 部 は 、 第 2 章 で 挙 げ た 「 特 性 と 目 標 に 関 連 し た 知 識 」 を 習 得 す る 4 つ の 具 体 的 な授 業案 を 、教 科 でい えば 単元 に 当た る 題材 群と して 示 して い く。

第3 章で は 、 「 特 性と 目標 に関 連 した 知 識」を習 得す る 道徳 授 業の 具体 的な 目 的と し

て 「 道 徳 的 ス テ レ オ タ イ プ の 形 成 」 と 「 ポ ジ テ ィ ブ 感 情 の 形 成 と 言 語 表 象 に よ る 客 観

性 の 獲 得 」 と い う 2 つ を 設 定 し 、 そ れ に 応 じ た 題 材 群 を 示 す 。 そ し て 人 間 行 動 の 自 動

性 を 題 材 群 の 中 で ど の よ う に 応 用 し て い く か に つ い て 論 究 し た 上 で 、 題 材 群 の 全 体 構

(14)

11

成を 提示 し てい く 。

第4 章で は 、「特 性 と 目標 に関 連 した 知 識」を習 得す る 道徳 授 業 の 題材 群の う ち 、第 3章 で挙 げ た「道 徳 的 ステ レオ タ イプ の 形成 」を目 的 とす る2 つ の 授業 案を 提 示す る。

道 徳 的 ス テ レ オ タ イ プ を 形 成 す る 2 つ の 授 業 の 具 体 的 な テ ー マ は 、 今 日 的 な 状 況 を 踏 まえ 、一 つ は「 顔 の美 醜」 であ り 、も う 一つ は「 高齢 者 」で あ る。

第5 章で は 、 「特 性 と 目標 に関 連 した 知 識」を習 得す る 道徳 授 業の 題材 群の う ち、 「 ポ ジ テ ィ ブ 感 情 の 形 成 と 言 語 表 象 に よ る 客 観 性 の 獲 得 」 を 目 的 と す る 2 つ の 授 業 案 を 提 示 す る 。 こ の う ち 一 つ は 道 徳 的 な ポ ジ テ ィ ブ 感 情 を 形 成 す る た め に 、 道 徳 的 な 判 断 、 行 動 が 多 く の 人 々 の 心 を 動 か し た 歴 史 的 な 逸 話 を 取 り 上 げ る 。 も う 一 つ は 道 徳 的 な 行 動 が 求 め ら れ る 場 面 に お い て 、 そ の 状 況 を 端 的 に 示 し 行 動 の 契 機 と な る 具 体 的 な 言 語 表 象 、 つ ま り あ る こ と わ ざ を テ ー マ に し 、 そ の 内 容 に 即 し た ス ト ー リ ー を 資 料 と す る 授業 であ る 。

第 3 部 は 、 2 つ 知 識 内 容 の う ち の 「 メ タ 認 知 の た め の 知 識 」 を 習 得 す る 6 つ の 具 体 的な 授業 案 を題 材 群と して 示し て いく 。

第6 章で は 、 「メ タ 認 知の ため の 知識 」によ って 統制 し てい く 認知 バイ アス と して「 知 覚 的 認 知 バ イ ア ス 」 と 「 自 己 利 得 的 認 知 バ イ ア ス 」 を 挙 げ た 上 で 、 認 知 バ イ ア ス の 提 示 構 成 を 含 め た 全 体 構 成 を 示 す 。 そ し て こ の 題 材 群 に お い て 人 間 行 動 の 自 動 性 を ど の よう に応 用 して い くか を論 究す る 。

第7 章で は 、「 メタ 認 知の ため の 知識 」を 習 得す る 道 徳 授業 の うち 、反道 徳的 な「知 覚 的 認 知 バ イ ア ス 」 を 具 体 的 に 3 点 挙 げ た 上 で 「 知 覚 的 認 知 バ イ ア ス 」 を 統 制 す る 授 業案 をそ れ ぞれ に 対応 した 形で 3 つ提 示 する 。

第8 章で は 、「メ タ 認 知の ため の 知識 」を習 得す る道 徳 授業 の うち 、反 道 徳的 な 自己 利 得 的 認 知 バ イ ア ス を 具 体 的 に 4 点 挙 げ た 上 で 、 そ れ ら に 対 応 す る も の と し て 「 自 己 利得 的認 知 バイ ア ス 」 を統 制す る 授業 案 を3 つ提 示す る 。

終 章 で は 、 道 徳 教 育 に お け る 本 研 究 の 成 果 を 確 認 し た 上 で 、 課 題 と な る 部 分 を 挙 げ る。

1

特に 日本 にお い ても 大き な影 響 を与 え たの は コ ール バ ーグ(Kohlberg,L.)を中 心 に研 究が 展開 さ れた 認 知的 発達 理論 で ある 。

2

バー ジ

(2009)を 参照 。

3

松下 は一 般書 の 形と して も同 主 張を し てい る( 松下

,2011)。

4

たと えば 林泰 成

(2008)。

5

たと えば 荒木

(1988)。

6

註2 で挙 げた も の以 外と して は 、 た と えば 押谷 由夫 に よる 他 の教 科、 領域 と も関 連

づけ た総 合 単元 的 な道 徳学 習、伊 藤啓 一に よ る道 徳的 価 値と 個 性的・主 体的 な 価値 表

(15)

12

現や 価値 判 断の 受 容を 組み 合わ せ た道 徳 授業 の統 合的 プ ログ ラ ムが 挙げ られ る 。

7

もち ろん 準備 す る資 料は 授業 ご とに 必 要な ので 、 何 の 準備 も なく すぐ に取 り 組め る わけ では な い。

8

人間 の心 理を 進 化の 立場 から 研 究す る 分野 は 、 進化 心 理学 と して 進化 生物 学 の中 の 一つ の学 問 領域 を 形成 して いる 。ただ し 両 者 の区 別は 曖 昧な 点 があ り、ほぼ 同 義と し て扱 われ こ とも 少 なく ない 。本 研究 で は道 徳 的な 心理 を 取り 上 げる とい うこ と では 進 化心 理学 を 中心 に して 考察 する こ とに な るが 、肉 体的 生理 的 な形 質 の進 化と い う面 に も視 点を 当 てる こ とも ある ため 、よ り 幅広 い 領域 とし て 進化 生 物学 の知 見を 研 究の 基 盤の 一つ と する 。

< 文 献 >

荒 木 紀 幸(1988).『 道 徳 教 育 は こ う す れ ば お も し ろ い ― コ ー ル バ ー グ 理 論 と そ の 実 践 』北 大 路 書 房

バ ー ジ,J.A. 及 川 昌 典 木 村 晴 北 村 英 哉 編 訳(2009). 『 無 意 識 と 社 会 心 理 学 ― 高 次 心 理 過 程 の 自 動 性 』 ナ カ ニ シ ヤ 出 版

林 泰 成 (2008). 『 小 学 校 道 徳 授 業 で 仲 間 づ く り ・ ク ラ ス づ く り モ ラ ル ス キ ル ト レ ー ニ ン グ プ ロ グ ラ ム 』 明 治 図 書

松 下 良 平(2011). 『 道 徳 教 育 は ホ ン ト に 道 徳 的 か ? - 「 生 き づ ら さ 」 の 背 景 を 探 る 』 日 本 図 書 セ ン タ ー

(16)

13 表1-1 『小学校道徳 読み物資料集』活用例の発問内容の分析 (筆者作成)

表1-2 『中学校道徳 読み物資料集』活用例の発問内容の分析 (筆者作成)

1

部 知 識 習 得 を 重 点 化 す る 論 拠

第 1 章 心 情 主 義 道 徳 教 育 の 問 題 点

第 1 節 心 情 主 義 道 徳 教 育 の 問 題 点 と 成 立 の 経 緯

現 在 全 国 の 学 校 で 行 わ れ て い る 道 徳 教 育 は 、 読 み 物 資 料 を 使 い 資 料 中 の 登 場 人 物 の 心 情 を 把 握 さ せ る こ と に 主 眼 を 置 く い わ ゆ る 心 情 主 義 が 中 心 と な っ て い る 。 こ の 方 針 は 各 学 校 、 教 員 の 自 発 的 な も の と い う よ り 、 文 部 科 学 省 の 指 導 の 下 に 進 め ら れ て い る のが 実際 で ある 。 これ は次 のこ と から も 明ら かで ある 。

文 部 科 学 省 が

2011(

平 成

23)年に 発 行 した 『 小 学 校道

徳 読 み物 資料 集』で は、小 学 校 学 年 別 の 読 み 物 資 料 を

29

編 、 同 じ く

2012( 平 成 24

) 年 に 発 行 し た 『 中 学 校 道 徳 読 み 物 資 料 集 』 で は 、 読み 物資 料を

16

編掲 載し て い る が 、 い ず れ も そ の 後 半 部 分 に 各 資 料 の 活 用 例 が 示 さ れ て い る 。 そ の 中 で の 発 問 例 の 内 容 は 表 1 - 1 及 び 表 1

- 2 に 示 し た と お り で あ る 。 小 学 校 、 中 学 校 と も 一 回 の 授 業 に お け る 発 問 例 の 数 は 3

~ 4 程 度 で あ る が 、 小 学 校 で は 読 み 物 資 料 中 の 主 人 公 や 登 場 人 物 が 、 あ る 場 面 に お い て「 どん な こと を思 っ たか 、考 え たか 」「ど んな 気持 ち(思 い)だ った か、気 持ち(思 い)で いる か 」を 問う もの が

95%と ほと ん どを 占め て いる 。これ に対 して 中 学校 で は、

同発 問 が

63%とな る 一方 、小学 校で は 見ら れな かっ た「 ど う して(ど の よう に考 え て)

した のか 、 思っ た のか 」と いう 発 問が 全 体 の

27%を占 め るよ う にな っ て い る。

こ の 違 い と し て は 中 学 校 段 階 で は 、 単 に 心 情 を 問 う だ け で な く 、 行 動 や 思 考 の 理 由 を 具 体 的 に 考 え さ せ る 、 と い う 意 図 が 見 ら れ る 。 し か し 、 発 問 と し て 考 え て み る な ら ば 、 資 料 中 の 具 体 的 な 事 実 を 答 え る だ け で は 、 単 な る 文 章 の 読 み 取 り に な っ て し ま う の で 、 結 局 は 心 情 を 把 握さ せる こ とに な る。

こ の よ う に 心 情 主 義 が 中 心 と な っ て い る 道 徳 授 業 で あ る が 、 学 校 現 場 の 教 員 は そ の 効 果 を 認 め 肯 定 し て い る と は 言 え な い 状 況 が あ る 。

発 問 例

ど ん な こ と を 思 っ た か 、 考 え た か

ど ん な 気 持 ち だ っ た か 、 気 持 ち で い る か

ど う し て( ど の よ う に 考 え て )し た の か 、思 っ た の か

そ の 他

103 43 55 0 5

42% 53% 0% 5%

発 問 例 数

ど ん な こ と を 思 っ た か 、 考 え た

ど ん な 気 持 ち だ っ た か 、

気 持 ち で い る か

ど う し て( ど の よ う に 考 え て )し た の か 、思 っ た の

そ の 他

51 51 24 8 14

47% 16% 27% 8%

参照

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