• 検索結果がありません。

改革・開放後の中国社会と日本語の役割

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "改革・開放後の中国社会と日本語の役割"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

改革・開放後の中国社会と日本語の役割

佐 藤 和 之

日本への入国目的とアジアの期待

法務省は、99 年末の外国人登録者数は 156 万人で、過去最高になったことを報告した1)。また、

同年の外国人入国者数(再入国者を含む)は 490 万人で、こちらも過去最高であった。地域別に見 てみると、その6割が韓国・台湾・中国・香港・フィリピンといったアジアの国々からの入国者で あり、さらに入国目的を新規入国者にしぼって見てみると「留学(69千)」や「就学(35千)」をあ げる者が多くなっていた。そこに特徴的なことは、中国(台湾・香港を除く)からの入国者が圧倒 的に多いということである。たとえば留学目的全体の 37 %、および就学目的全体の 50 %が中国か らの入国者であった。同様の傾向は研修目的においても認められ、同目的全体の 46 %がやはり中国 籍の人たちによって占められていた。

一般に、就学目的2)の場合だけでなく留学目的の場合にも、6か月から2年程度の日本語教育を受 けた後で高等教育機関へ進学することになっている。文化庁によれば、99 年末の日本国内における 日本語学習者の数は 93 千人で、10 年前(72 千人、1989 年)の 1.3 倍になったことを報告する3) このことを出身地域別に見てみると、そのほとんど(73 %)がアジアからの人たちであり、さらに その約半数(34千人)は中国籍の人たちであった。国際交流基金によれば、98年の中国国内におけ る日本語学習者数は 246 千人であり、英語につぐ(第2位)学習者数になっているという4)。このこ とについてもう少し触れれば、中国の初中等教育で日本語を学んでいる児童・生徒数は上述 246 千 人のうちの 117 千人であり、とくに初等教育から日本語教育を実施している学校は遼寧省や吉林省、

黒竜江省に多く、大連市だけでも 10 千人を超えていることを同市教育学院が報告している。北京外 国語大学の徐は、こういった中国での日本語教育事情について「長年の努力を通して、わが国にお ける日本語研究と日本語教育事業は基礎段階、成長段階を経て、すでに成熟段階に入っている」と まとめる5)

このような、日本への入国者や日本語学習者の増加は、その経済力に見合った役割を日本に果た して欲しいという期待の表れであり、さらに現実の数値は、アジア、とくに中国との関係において 考えられるべきことを示唆している。

日本の経済力と日本人の出国先

視点を変えて日本人の出国先について見てみる。99 年現在、3ヶ月以上海外に滞在している日本

(2)

人(海外在留邦人)は 7558 万 5 千人であった。89 年の海外在留邦人の数は 5869 万 7 千人であった から、この 10 年間で 1.3 倍になったことになる。ちなみに在留邦人が多い上位3都市はニューヨー ク、ロサンゼルス、ロンドンであった。また同年に日本を出国した人は1635万8千人いて、もっと も多い出国先はアメリカであり、その割合は出国者全体の 45 %となっていた。韓国、中国、タイと いった国々がこれに続くが、2位以下のこれらアジアの国々への出国者をすべて足しても、まだア メリカへの出国者の方が多いという現実があった6)。ちなみに在留邦人が多い中国の都市(香港を 除く)を調べていくと、上海の6千人がもっとも多く(第 18 位)、ついで北京の5千人(第 28 位)

となっていた。このように、日本への入国者と日本人の出国先を比較してみただけでも、日本に求 められているものと、日本が求めているものとの間には、大きな開きのあることが見えてくる。

話題を日本語教育に戻そう。日本経済の成長速度が鈍ったとはいうが、しかしそれでも、日本政 府が提供しているODAへの拠出金は今も世界第1位であるし、国民総生産が世界第2位(世界銀行 調べ)という経済力、あるいは日本の国連への分担率がアメリカを除く常任理事国4カ国(英・

仏・中・露)の分担率の合計よりも高く、実質世界第1位であることなどを考えれば、日本の国際 社会への経済的影響力はいまもって大きいことは紛れもない事実である。アジアの国々からは、そ の経済力が羨望のまなざしで見られているし、アジアの人々にとっては、その経済力がとても大き な魅力となっている。

日本への入国者や日本語学習者の増加は、こういった経済力を背景にしたものであり、言い換え れば、言語の問題はそれぞれの国の経済力と密接に関係しているということがわかる。

日本語の課題:期待された役割

このような現実の中で、国内外における日本語と外国語の関係や日本語へ期待された国際的役割、

その貢献性といったことについての議論は、日本国内においてまだなされずにいる。本稿では、日 本が自らの経済力に見合った国際的役割と責任を果たそうとするとき、日本語にできることは何か、

日本語に期待された役割とは何かについて、とくに日本への関心を強く示している中国という大き な隣国を通して考えてゆきたい。より具体的には

・中国において日本経済と日本語の関係はどう見られているか

・日中合弁企業での日本語と通訳の役割は何か

・日本語が「国際化する」といったときの意味をどう考えるべきか

・中国から期待されている日本語の国際的役割とその問題点は何か

・旧満州地区との関係において、中国東北部における日本語をどう考えるべきか

といったことについて、哈爾濱師範大学との共同研究によって得られた中国での調査結果7)から考え てゆく。

(3)

中国の日本語

改革・開放政策は中国に急速な民主化をもたらした。たとえば海外資本への優遇政策は外国企業 の中国進出を活発にし、多くの合弁企業を設立させた。日系企業を調査した日本インターナショナ ルフレイトフォワーダーズ協会8)および日本貿易振興会9)によれば、97 年末における日系企業の数 は 1489 社あり、99 年現在の対中国への貿易額は輸出入額共に過去最高となったことを報告してい る。このような外国企業との合弁は、中国の人たちの外国語熱に火をつけることとなった。それは、

同一企業に就職しても日本語や英語が話せれば給料が格段に違うというメリットであり、成功する 鍵は一流大学を出ることよりも、外国語を使いこなせるということにあった。

さらに企業側にしてみれば、合弁企業を中国で展開するためにはどうしても中国人通訳が必要に なるという事情がある。それはたとえば、外国系企業が中国人従業員や現地諸機関と交渉をもつに 際して求められることは、情報を伝えるだけのことばの使い手でなく、外国企業の制度や事情を中 国側に理解してもらえる表現で伝えたり、中国の文化的背景を企業側に説明できるスタッフでなけ ればならないということである。あるときには、従業員や雇用者の不満を回避させられるトラブル シューターであり、またときには中国では当然でありながらも、企業の本国ではタブーとされてい る理念を双方にうまく伝えられるコミュニケーターとなる必要があるということでもある。このよ うな役割を担える通訳は、もちろん企業の籍がある国の文化に精通した中国人であることが望まし く、合弁企業を中国で成功させるためには、能力の高い現地通訳をいかに確保するかが大きな鍵を 握るとさえ言われている。そしてその結果として、通訳には厚遇が約束されることになる。

さてさきに、中国における日本語学習者の順位は英語に次ぐ第2位であることに触れたが、しか し実際には、第1位と第2位の差は歴然としたものであった。もちろんそこには英語がもつ情報量 や広域性といったメリットがあるからであるが、もっとも大きな個人レベルでのメリットとして回 答されたものは「英語を話した方が就職のための選択肢が広がって有利。なぜなら、日本語が話せ ても就職できるのは日系企業だけだが、英語が話せればすべての国の英語系企業が対象となる」と いうものであった。

しかしそれでも日本語学習者が増加している理由はなんであろうか。日本語学習者の多くがあげ たものは次のような理由であった。英語を使える人はたくさんいるが、日本語を話せる人は少なく、

結果的に就職が容易になる。日本語通訳になることは、英語を話す人々の中で競争するよりも、同 じ労力でより重要な地位につけたり経済的に裕福になれる可能性が高い、ということであった。

日本語学習の目的と日本理解

ここ数年、中国国内で話題になっている英語の学習法がある。映画にもなった「瘋狂英語」であ る。3億の中国人に英語を話させることを目標にした英語教師、李揚の講演には 2 年間で 1300 万人 以上の観客が集まったという10)。李は、英語を学ぶ直接的目的は

Make money internationally

にあ ると説く。「金儲け」は恥ずかしいことではなく、親孝行の手段であり国を豊かにする術であると続

(4)

ける。そしてその理由を次のように説明する。愛国心の最高の表現は英語を話すことである。3億 の中国人が英語を話すことによって、中国人は国際慣行を理解し、世界のルールで仕事をするよう になる。中国の企業に国際競争力をつけさせ、中国人の声を世界に響かせることができる。中国の 伝統や文化を世界に輸出する。世界の3大市場は、アメリカ、日本、ヨーロッパである。英語を制 し、国を興すことで、やがては世界中の3億の人間が中国語を話すようになる、と。いわゆる興国 英雄譚である。たとえ李の講演が英語教材の宣伝活動であったとしても、中国人にとって、英語は それほどまでに魅力的なことばとなっている。それと同時に私たちは、彼の英語使用の目的に日本 が必ず出てくるように、中国にとって日本は明らかな目標国になっていることに気付く必要がある。

上海で文化振興に携わっている日本人は、現在の日中関係や中国人の日本観を次のように説明し た。「中国での日本語熱は明らかに経済に対するものであり、日本文化に対する興味ではない」「日 中関係は密接に経済と結び付いている」、「日本の文化は中国が分け与えたもので日本に学ぶところ はない」との考えが強かったり、「戦争の傷跡が未だ残っているだけに、日本に対する誤解が多い」

という。このことについてさらに言い及ぶと、『環球』2000 年 10 月号は、次のような論文を掲載し た。

日本は経済的実力の面でアメリカについで世界第2位であることより、国際的貢献という意 味でもっと大きな役割を果たすような政治大国になりたがったり、あるいはまた国連安全保障 理事会の常任理事国になろうとしても不思議ではない。しかし、歴史を思い出すときや日本の 一部の有力者がいまでも歴史に対して誤った認識を持っているのを思うと、日本が政治大国に なるには時期尚早の感がある ー中略ー 人々が日本に対していくぶんかの警戒心を持ってい るのは理解しやすいことである。

(王樹柏:夢と現実ー日本が安保理常任理事国になろうとしていることから)

一方、改革開放が進むこのような中国で、日本語を学ぶことは成功へのパスポートを手にするの と同義であった。たとえばこのことは、次のような事例によって裏付けられる。日本の航空会社に 勤務する中国人スチュワーデスは、日本語を「就職のためのことば」と表現した。中国との日系合 弁企業に勤める中国人通訳もまた、初期の動機を同じく表現する。中国で日本語を学んでいる学生 305 人に「なぜ日本語を学んでいるのか」を尋ねたところ、答(複数回答)は次のようなものであ った。

①良い職につけるから・・・・・47%(143人)

②日本の文化を理解するため・・42%(129人)

③日本が好きだから・・・・・・28%(84人)

④面白そうだから・・・・・・・27%(83人)

やはり1位は「良い職につけるから」であり、日本や日本文化に対する興味よりも経済的魅力によ るものであった。しかし上述二人の被調査者は、「日本語を話すようになって、茶道に対する興味が 生まれたり、日本に住み、日本語を母語に持ちたいと考えるようになった」ことを内省する。最初

(5)

は経済的魅力からの日本語学習であっても、日本語を理解することによって、しだいに日本文化の 理解者になっていくこともまた事実である。

日系企業の異文化理解と通訳者の役割

それでは、中国に住む日本人たち は、日本語にどのような意見を持ち、

どのように評価しているのだろうか。

彼らの意見を通して、日本語は国外 にどう自己主張すべきかを考えてみ る。図1は「日本は日本理解者を広 めるために、もっと日本語教育に力 を入れるべき」という意見への賛否 を尋ねた結果である。「とても賛成

(36%)」と「やや賛成(32%)」を合わ

せると約7割が「賛成」と答えてい る。また、「日本語の世界的地位をも っと高めるべきだ」という意見への 賛否を尋ねた結果(図2)でも、約 6割が「賛成」(とても賛成 21%、や や賛成 34%)と答えており、日本語 がより広く理解されることを支持す る意見が多くなっている。

こういった、日本理解者を増やすための努力を中国で事業展開する日系企業はどのように果たし ているのかを尋ねたところ、多くの日本人管理職が異口同音に言うことは「日中間に共通のことば を持てるようにしている」であり、そのためには「まずは良い通訳をいかに採用するかが課題とな る」であった。合弁企業内では、通訳を介してしか意思の疎通ができないことを補うため、言い換 えるなら、互いの共通理解や異文化理解を助け、日系企業としての商慣習を理解してもらうため、

また、日本の文化に興味をもってもらうための日本語教育や企業研修を行っているということであ った。そして実際に、そのことによって企業内の文化摩擦は軽減され、日本理解者が増えているこ とを中国人通訳たちは報告する。

中国でのインタビューに答えてくれたインフォーマントのすべてが「日本がなすべきこと」とし てあげることは「日本語を学んだ外国人からのアドバイスは重要である」ことと、「海外における日 本語教育の充実」であった。

3%

10% 10%

1% 8%

32%

36%

とても賛成 

やや賛成  どちらかといえば反対 

まったく反対 

わからない  どちらでもよい  無回答 

3%

10% 10%

1% 8%

32%

36%

とても賛成 

やや賛成  どちらかといえば反対 

まったく反対 

わからない  どちらでもよい  無回答 

図1 「日本理解者を増やしたり日本文化を広めるために、 

もっと日本語教育に力を入れるべきだ」という意見への賛否 

12%

3% 11%

3%

16% 21%

34%

とても賛成 

やや賛成 

どちらかといえば反対  まったく反対 

わからない  どちらでもよい 

無回答 

図2 日本語の世界的地位を高めるべきことへの賛否 

12%

3% 11%

3%

16% 21%

34%

とても賛成 

やや賛成 

どちらかといえば反対  まったく反対 

わからない  どちらでもよい 

無回答 

(6)

日本語教育の問題点:英語との対比

中国における日本語教育の現状を調べてゆくと、日本語通訳の多くは独学によっているという現 状が見えてくる。もちろんこのことは日本語だけに限らないのであるが、何よりも大きいことは、

英語の学習教材や語学番組、教育施設は豊富に整っているのに、日本語についてのそれらは格段に 少ないとの指摘である。日本語科を持つ大学にあってさえ、使い古しのものでいいから国語辞典が 欲しいという。とくに「日本語講座が少ない(28%)」「使う機会がない(25%)」「先生が不足している

(24%)」という意見が、日本語を学ぶうえで障害になること、としてあげられている。先に「瘋狂英

語」の話題でも触れたが、英語に比べて日本語には能動的な広報活動が少ないこともあり、今後は インターネットを活用した日本語教育の充実や、政策としての日本語教育の展開が強く求められる。

政策としての展開とは、たとえば次のような事例で説明することができる。日本人や中国人がア メリカを憧憬の地と見るには、相応の努力がアメリカにはあったことを日本通のアメリカ人新聞記 者は指摘した。日本に住む、多くの日本人のアメリカイメージは豊かな物資と開かれた考え方によ って支えられていたし、事実、アメリカに住む日本人は、自分たちが抱いたそうした憧憬を現実の ものとして感じていた。そして、それら憧憬の表現形式である英語は、彼らにとってアメリカ文化 と同じように魅力的なことばであると説明した。アメリカに住む日本人を対象にした調査では次の ような結果が得られている11)。「アメリカに対するイメージ」の上位3評価語は「自由 86 %」「発展 50 %」「友好 48 %」であり、「英語に対するイメージ」のそれは「明るい 65 %」「軽快 54 %」「友好 的46%」というものであった。明らかにプラスのイメージで構成されていることがわかる。

先述のアメリカ人新聞記者は、日本人が抱くこうしたイメージを、それは国家としてのアメリカ の努力の成果であると強調する。アメリカは日本に「優しくした。友人になろうとした。平和憲法 を書いてあげた。市場経済の原理を教えてあげた」と。

そういったアメリカや英語に対する憧憬は、中国においてもまた同じであった。それは、東南ア ジアにおいての経済的バックアップをドルが、また難民の受け入れをアメリカが、そしてそのさま ざまな便宜供与をしたことばが英語であったと内省する。自分たちにとっての大事な国のことばが 英語であるという。

日本語教育の方法と国事情の違い

中国や東南アジアにとっての日本は「金だけくれる国」のイメージが強く、日本と真剣に話そう とする熱意は低い。これは、人的・文化的援助が見えないためであり、そのことと同じで、日本人 の顔が見えないからだというのである。そこで、「21 世紀に中国が友好的にすべき国はどこ」と考 えているのかを尋ねてみたところ、次のような順位となった。

問 21世紀に中国が友好的にすべき国はどこですか?(515人)

①アメリカ・・・・・72%(370人)

②日  本・・・・・63%(324人)

(7)

③ロ シ ア・・・・・58%(299人)

図3は中国人を対象に「日本語 を学ぶとして、それはどれくらい 役にたつ」と考えているのかを尋 ねた結果である。「非常に役にたつ」

と「まあまあ役に立つ」をあわせ て、「役に立つ」と考えている人は 86 %にものぼる。逆に「役に立た ない(あまり役に立たない・まっ たく役にたたない)」と考えている 人は 12 %であった。潜在的にいる 日本や日本社会、日本文化に触れ

てみたい人々を日本理解者に育てあげられる政策的な視点と教育投資が必要である。そのための需 要が相当にあることは明らかである。中国をはじめとしたアジアに向けた日本語教育の方法論の確 立は、21世紀の日本にとって大切な事業となっていることをこの数が裏付ける。

同じことをアメリカでの例と比較してみる。アメリカで日本語を学んでいる人たちに、日本語を 学んでいる理由を尋ねた結果は次のようなものであった(複数回答)。

①日本の文化を理解するため・・・・・77%(143人)

②日本が好きだから・・・・・・・・・71%(133人)

③面白そうだから・・・・・・・・・・67%(126人)

④重要なことばだから・・・・・・・・53%( 99人)

④日本を旅行するときに役立つから・・53%( 99人)

中国人が第一位にあげた「いい職につけるから」を選んだアメリカ人は 47 %で、第7位であった。

また、日本語を学ぶうえでの障害を尋ねると、もっとも多い回答は「習っても使う機会がない(38%)」

であり、中国であげられた「日本語講座が少ない」や「先生が不足している」といった回答は、そ れぞれ 10 %、5 %と、少数であった。このように、中国などアジアでなされるべき日本語教育は、

欧米でのそれとは違ったものとして考えられるべきであり、それぞれの国事情に合わせた教育方法 を日本は考案し採用していく必要がある。

たとえばこのことは、ハードの面においての説明がわかりやすい。21 世紀の日本語教育はインタ ーネットやパソコンを使ったものが主流となるはずである。当然のこととして、漢字圏と非漢字圏 とでのそれは開発の段階から違ったコンセプトで作り上げられねばならない。同じように、ソフト としての日本語教育の手法も、欧米型をアジア型にアレンジするのではなく、先に見たように、学 習者の文化的背景や日本語に求めるものが違っているのであるから、また、日本語学習者の多くが アジアの人たちであるのだから、まずはそのことを意識して考えるべきである。そしてそれを、政

9%  3%

45% 41%

非常に役にたつ  まあまあ役にたつ 

あまり役にたたない 

まったく役にたたない  9%  3%

45% 41%

0 20 40 60 80 100

役  に  立  つ 

役に立たない 

無   回  答 

図3 日本語を学ぶとして、あなたにとって  どのくらい役に立ちますか? 

非常に役にたつ  まあまあ役にたつ 

あまり役にたたない 

まったく役にたたない 

(8)

策的に展開することが強く求められているということである。

中国東北部からの意見

それでは、中国の事情を考慮した日本語教育や文化広報活動のやり方とはどのようなものであろ うか。たとえば中国東北部(旧満州地区)に対する視点や中国東北部からの要求を大切にするとい う姿勢を示すことである。これには次のような理由がある。先にも記したように、大連市教育学院 の調査によると、初等教育で日本語教育を実施している機関は遼寧省大連市に集中していること、

あるいはまた、日本語を第一外国語としている中等教育の普通校は東北三省(遼寧・吉林・黒竜江)

に多いこと、さらに、1930 年代から 40 年代にかけての中国では抗日戦争の影響から日本語教育は 停滞する12)が、東北地方(旧満州地区)でだけは続けられていたという歴史的経緯があるためであ る。北京日本学研究センターの徐は中国の日本語教育について次のように記す12)

30 年代後半に入り、抗日戦争が勃発したため、中国における日本語研究と日本語学習も低調 期に入った。それにしても、抗日軍隊に「抗日戦士読本」「抗敵テキスト」「抗戦日本語読本」

のようなテキストが出版された。ここから、抗日戦争年代にあっても、われわれ中国人は日本 語の学習と日本への関心を中断したことがないことがよくわかろう。

長春にある東北師範大学には日本に留学生を送り出すことを目的とした「赴日留学生予備学校」が 日中政府間の文化教育交流協議によって日中平和友好条約調印(1978)直後の 1979 年に設置されて おり、「これまで 3200 人以上を日本に送り出している」13)といったように、中国東北地方は間断な く日本語教育を行ってきた地域である。こういった現実を日本はもっと知る必要があるし、押しつ けととられない日本語教育が行われること、そしてなによりも、より広い意味で日本の情報をさま ざまに伝えることのできる文化広報施設や将来の日本理解者を増やすことを目的とした文化広報機 関の必要性を痛感する。北京や上海だけでなく、中国東北部からの要求や情報に耳を傾ける必要が ある。

日本語に期待された役割と日本語にできること

本稿で考えようとした課題は5点であった。それら課題に対して見えてきたことを整理すると次 のようになる。

第一の課題「中国において日本経済と日本語の関係はどう見られているか」についてまとめてみ る。日本は中国にとっての明らかな目標国の一つであり、日中関係は経済と密接に結びついている。

中国での日本語熱は、明らかにこのような経済的魅力からくるもので、日本文化や日本理解といっ た文化的背景への興味からではなかった。これらは、インタビューで回答された「就職のためのこ とば」や「日本語が話せると重要な地位につける」、あるいはまた「経済的に裕福になれる」といっ た表現からも裏付けることができる。

第2番目の課題は「日中合弁企業での日本語と通訳の役割は何か」であった。改革開放政策をと

(9)

る中国で合弁企業を立ち上げ、成功させる秘訣は、能力の高い現地通訳を雇用することであった。

通訳は日中間の共通のことばとなるだけでなく、「日本企業の制度や事情を中国側に理解してもらえ る表現をもつ人材」であり、「中国の文化的背景を企業側に説明できる信頼できる中国人」である必 用があった。またときには「従業員や雇用者の不満を回避させられるトラブルシューター」であり

「理念を双方にうまく伝えられるコミュニケーター」としての役割も果たさなければならなかった。

そこで合弁企業では、従業員との相互理解を深めたり異文化理解を助けるための術として、日本語 教育を取り入れていた。まずは日本語を通じて会社を理解してもらったり、日本文化への興味を育 てようという考え方である。

3番目の課題である「日本語が『国際化する』といったときの意味をどう考えるべきか」につい ては、次のようなまとめ方ができそうである。中国での日本語熱は成功へのパスポートを手にしよ うとする人たちに支えられたものであり、じっさい、日本語学習の理由を尋ねてみても、約半数の 人たちは「良い職につけるから」と答えている。上述、課題1や2の結果からも明らかなように、

中国での日本語熱は日本の経済力と密接に関連したもので、日本文化に対する興味からではないこ とをまずは認識しておく必要がある。

日本や日本語に期待された役割を果たそうとするとき、アメリカでの日本語学習の理由と違って いることからもわかるように、私たちがこういったことを認識しているか否かはとても重要である。

なぜなら、誤った認識や現実を勘違いした解決の方法は、互いの協調関係を不幸なものにしてしま うことがよくあるからである。すなわち、学習者の目的はさまざまであり、さらに日本語学習者の 多くーこのことは入国者数と入国目的から判断できるーは、ジャパンマネーへの興味が強い人たち であり、そういった人たちに日本語を開放することは、彼らにとって使いやすいように変容されて ゆく日本語を日本人はどこまで許容できるかという問題となるからである。日本語の国際化とは、

じつは、ピジン化していく日本語を許容するということであり、日本の国内外で使われるそういっ た日本語や日本語の使い手に対する差別意識とどう日本人は戦えるのかという、いわゆる文化論的 な問題となる。

もちろん先にみたように、最初は経済的魅力からの日本への興味であっても、日本語を理解する ことによって、しだいに日本文化理解者になっていったという例は意外に多く、日本語教育にはそ ういった度量の大きい方法論が強く求められている。

つぎの課題である「中国から期待されている日本語の国際的役割とその問題点は何か」について 見えてきたことは以下の通り。まずはじめに認識しておくべきこととして、中国人の半数以上が、

日本理解者が増えるように日本語教育に力をいれたり、日本語の地位を高めるための政策を支持し ているということである。「21 世紀に中国が友好的にすべき国」として 63 %の中国人が日本(第2 位)をあげているということもある。さらにまた、日本語を学ぶことは「役に立つ」と考えている 人が86%もいたことも把握しておくべきである。

しかし一方で、現実の日本語教育の状況を調べてゆくと、そこには「日本語講座が少ない・学習

(10)

教材や先生が不足している・教育施設がない」といった惨憺たる現実があった。中国をはじめとし たアジア用の日本語教育の方法論を確立することは、21 世紀の日本にとってとても大切な事業であ り、欧米でのそれとは明らかに違ったものとして考えられるべきである。このことについては、す でに3番目の課題で触れたところである。いずれにしても、将来の日本理解者を増やすことを目的 とした文化広報施設や言語政策機関の設置が急務である。

もちろん、日本語教育の充実という表現の中には、日本理解者を育てあげられるような政策的な 視点と教育投資が必要という意味合いが強く含まれている。ただし中国にはまだ、「日本に対しての 警戒心」があったり「日本が政治大国になるには時期尚早」という意見も根強いだけに、誤解され ないような日本語教育の展開が求められることは言うまでもない。

さて、最後の課題である「中国東北部の日本語をどう考えるべきか」については、次のような整 理が可能である。まず、なぜ東北地方なのかという点について言及すれば、「初等教育で日本語教育 を実施している機関は遼寧省大連市に集中していること」や「日本語を第一外国語としている中等 教育の普通校は東北三省に多い」という点にある。さらに、なによりも重要なことは、このような 一大日本語教育地を生み出した背景には、抗日戦争中でも東北地方でだけは日本語教育が続けられ ていたという歴史的な経緯がある、ということである。すなわち多くの人が指摘した「日本語を学 んだ外国人からのアドバイスは重要である」という意見に代表されるように、間断なく日本語教育 を行ってきた中国東北部からの要求や情報、意見に耳を傾けることは、21 世紀の成熟した日本語教 育を中国で展開していく上でとても重要ということである。

本稿は哈爾濱師範大学(中国)との共同研究によってなされた研究の一部であり、中国での調査 結果は同大学日文系副主任の王宗傑氏との共同調査によって得られたものである。また本研究は、

平成 10~12 年度の文部省科学研究費(基盤研究B「現代化のなかの中国東北部の変動課程」研究代 表者・丹野正)により行われたものである。

1)法務省当該ホームページ http://www.moj.go.jp/

2)在留資格(入国目的)のうち、「留学」とは日本国内の大学などで教育を受けることを目的としたものであり、

日本語教育施設などで教育を受けることを目的とした「就学」と区別されている。

3)文化庁当該ホームページ http://www.bunka.go.jp/1/2/2E/H11.html 4)国際交流基金当該ホームページ 

http://www.jpf.go.jp/j/urawa/world/kunibetsu/1999/china.html

5)「中国の日本語教育」『人民日報(日文版)』

http://j.peopledaily.com.cn/2000/11/03/jp20001103_43843.html

6)法務省当該ホームページ http://www.moj.go.jp/TOUKEI/t_n01.html

外務省当該ホームページ http://www.mofa.go.jp/fofaj/toko/toke/hojin00

7)1999 年 11 月と 2000 年 9 月に行った調査。中国東北部(哈爾濱・長春・大連)と北京に住む中国人 515 人

(日本語学習者305人を含む)と日系企業で働く在中日本人145人を対象にしている。

(11)

8)財団法人日本インターナショナルフレイトフォワーダーズ協会『中国の物流事情と通関制度に関する調査報告 書』(1999)

9)日本貿易振興会(2001)「中国概況」

http://www.jetro.go.jp/re/j/gaikyo/asia/pdf/china.pdf

10)チャン・ユアン監督『瘋狂英語』(2001)UPLINK,http://www.uplink.co.jp/

11)1999 年2月にアメリカに居住する日本人を対象に、ロサンゼルス、ニューヨーク、ワシントンDCで行った 調査。10代から70代までの179人からの回答による。性別比率は男39%、女58%、無回答3%であった。

12)徐一平「中国の日本語教育」

http://j.peopledaily.com.cn/2000/11/03/jp20001103_43843.html

13)東北師範大学(1999)『中国赴日本国留学生予備学校』

参考文献

奥田道大(1994)『外国人居住者と日本の地域社会』明石書店 川村湊(1994)『海を渡った日本語』青土社

北村富治(1996)『上海とどうつきあうか』マガジンハウス 駒井洋(1995)『定住化する外国人』明石書店

佐藤和之(1995)「日本語使用者の言語意識と言語行動」『国際社会における日本語についての総合的研究予稿集』

国立国語研究所

――――(1996)「アメリカの日本語・中国の日本語ー国際社会における日本語の立場を考えるー」『国際社会に おける日本語についての総合的研究予稿集』国立国語研究所

――――(1998)「日本語の国連公用語化問題について考える」『国際社会と日本語』国立国語研究所 園田茂人(1998)『証言・日中合弁』大修館書店

多仁安代(2000)『大東亜共栄圏と日本語』勁草書房

丹野正・他(2001)科研費補助金研究成果報告書『現代化のなかの中国東北部の変動過程』弘前大学人文学部 中嶋嶺雄(1982)『中国』中央公論新社

参照

関連したドキュメント

早稲田大学 日本語教 育研究... 早稲田大学

高等教育機関の日本語教育に関しては、まず、その代表となる「ドイツ語圏大学日本語 教育研究会( Japanisch an Hochschulen :以下 JaH ) 」 2 を紹介する。

その結果、 「ことばの力」の付く場とは、実は外(日本語教室外)の世界なのではないだろ

以上のような点から,〈読む〉 ことは今後も日本におけるドイツ語教育の目  

 日本語教育現場における音声教育が困難な原因は、いつ、何を、どのように指

1、研究の目的 本研究の目的は、開発教育の主体形成の理論的構造を明らかにし、今日の日本における

男役を目指したのは中学2年生の秋。部活でバレ

2回目の接種を受けて7日程度経ってからで、接