Ap クラスの重みと
波動方程式の解がみたす評価式に関する考察
三重大学大学院教育学研究科教育科学専攻 理数・生活系教育領域
215M026 中村 勇太 2017年2月10日
序文
重み付き不等式は,解析学の様々な場面で用いられてきた.最近でも,例えば縮小写像の方法で 非線形波動方程式の初期値問題の解の一意存在を示す研究において,線形波動方程式の解が満たす 精密な重み付き不等式と,関数の合成及び積の分数階ソボレフ空間での精巧な重み付き不等式の役 割はますます重要になっている.
第1章では,主に[5]に従いAp クラスの重みについて定義などの基本事項と,Muckenhouptに よるAp条件の導入, 逆H¨older不等式とその応用について述べている.
第2章では, [3]に従い ,身のまわりの波動現象についていくつか述べ, 波動方程式の解の公式を
紹介している. 第3節ではKlainerman-Machedonの示した不等式の拡張を, Ap 重みの理論を使う ことで導くことに成功した.
大学院に入学して著者は[1], [2]で測度論とルベーグ積分論を深く学び,そこで得た知識を土台に して [5]でAp 重みの理論を学んだ.また,[3]で波動方程式に関する基本事項を学んだ.大学院で 研究を進めてきた二年間, 熱心に指導や助言をしてくださった肥田野 久二男教授をはじめとする理 数・生活系教育領域数学教育部門の先生方に心より感謝いたします.
2017年2月10日 著者
目次
1 Apクラスの重み 3
1.1 Apクラスの定義と基本性質 . . . . 3 1.2 Ap 条件のための動機づけ . . . . 4 1.3 逆H¨olderの不等式 . . . 26
2 波動現象と双曲型方程式 33
2.1 波動現象の方程式 . . . 33 2.2 波動方程式の初期値問題の解の公式 . . . 42 2.3 球対称な解がみたす評価式 . . . 50
1 Apクラスの重み
1.1 Apクラスの定義と基本性質
重みとは, ほとんどすべての点で正の値をとる,Rn上の局所的に可積分な関数のことをいう. よっ て重みは,ルベーグ測度が0である集合上でのみ, 0か+∞を取り得る. したがって,wが重みで, も し1/wが局所的可積分関数なら, 1/wも重みである.
重みw, 可測集合E に対して, 集合Eのw測度w(E)を, w(E) =
∫
E
w(x)dx
で定義する. 重みは局所的に可積分な関数だから, もしE が有界閉集合なら, w(E)<∞である. 重みつきLp 空間は, Lp(Rn, w)またはLp(w)とかく.
また, f ∈L1loc(Rn)と立方体Qに対して, fQは f のQ上での積分平均 fQ = 1
|Q|
∫
Q
f(x)dx を表す.
定義 1.1 0< p <∞とする. f ∈Lploc(Rn)に対して, Mpf(x) := sup
x∈Q
( 1
|Q|
∫
Q
|f(y)|pdy )1/p
を, p次Hardy-Littlewoodの極大関数(Hardy-Littlewood’s maximal function)と呼ぶ. 以下, M1f をM f と書く.
定理 1.2 (M f のLp 有界性) 1< p <∞ なら,
∫
Rn
(M f(x))p
dx≤ {Cp(n)}p
∫
Rn|f(x)|pdx, f ∈Lp(Rn) となる定数Cp(n)が存在する.
1.2 Ap 条件のための動機づけ
(問題) 1 < p < ∞ とする. 次のような重みつき Lp 不等式を満たす重みw(x)は存在するかど うか.
∫
Rn
(M f(x))p
w(x)dx≤Cpp
∫
Rn|f(x)|pw(x)dx, f ∈Lp(w) (1.2.1)
(解答) 存在する. それをMuckenhouptのAp条件という. 以下, この条件を探していく.
ある重みwに対して, (1.2.1) が成り立つとする. このとき, 任意の立方体Qと, 任意のx ∈Qに 対して,
1
|Q|
∫
Q
|f(y)|dy = 1
|Q|
∫
Q
|f(y)χQ(y)|dy ≤ sup
x∈Q˜
1
|Q˜|
∫
Q˜
|f(y)χQ(y)|dy =M(f χQ)(x).
よって, |f|Q ≤M(f χQ)(x)だから,
∫
Q
(|f|Q)pw(x)dx≤
∫
Q
(M(f χQ))p
(x)w(x)dx となる. ここで, 左辺は∫
Q(|f|Q)pw(x)dx= (|f|Q)pw(Q) であることに注意すると,
(|f|Q)pw(Q)≤
∫
Q
(M(f χQ))p
(x)w(x)dx
≤
∫
Rn
(M(f χQ))p
(x)w(x)dx
≤Cpp
∫
Rn|f(x)χQ(x)|pw(x)dx
=Cpp
∫
Q
|f(x)|pw(x)dx.
各辺をw(Q)で割ると, ( 1
|Q|
∫
Q
|f(x)|dx )p
≤ Cpp w(Q)
∫
Q
|f(x)|pw(x)dx, f ∈Lp(w).
(1.2.2)
任意のε >0 に対して, f(x) =χQ·(w(x) +ε)−p′/pととると, (w(x) +ε)−p′/p ≤ε−p′/p より,
∫
Q
(w(x) +ε)−p′/pdx≤
∫
Q
ε−p′/pdx=|Q|ε−p′/p <∞ だから, −p′/p=−p′+ 1と(1.2.2),
(w(x) +ε)−p′+1 = (w(x) +ε)−p′(w(x) +ε)≥(w(x) +ε)−p′w(x),
に注意すると, ( 1
|Q|
∫
Q
(w(x) +ε)−p′/pdx )p
≤ Cpp w(Q)
∫
Q
(w(x) +ε)−(p′/p)·pw(x)dx, ( 1
|Q| )p(∫
Q
(w(x) +ε)−p′+1dx )p
·w(Q) (∫
Q
(w(x) +ε)−p′w(x)dx )−1
≤Cpp, 1
|Q|w(Q) ( 1
|Q|
)p−1(∫
Q
(w(x) +ε)−p′w(x)dx )p−1
≤Cpp.
よって,
( 1
|Q|
∫
Q
w(x)dx ) ( 1
|Q|
∫
Q
(w(x) +ε)−p′w(x)dx )p−1
≤Cpp
を得る. ここで, ε→0とすると, (w(x) +ε)−p′ ↗w(x)−p′ だから, 単調収束定理より, ( 1
|Q|
∫
Q
w(x)dx ) ( 1
|Q|
∫
Q
(w(x))1−p′
dx )p−1
≤Cpp. (1.2.3)
特に, ∫
Qw(x)−p′/pdx <∞である.
(1.2.1)を満たす重み wは, (1.2.3)を満たす. 逆に(1.2.1)は(1.2.3)から導かれることを後で示 す. そこで, (1.2.3)をAp条件の定義として採用する.
次にp= 1の場合を考える. ある重みwに対して, w({x∈Rn;M f(x)> λ})≤ C1
λ
∫
Rn|f(x)|w(x)dx, f ∈L1(w) (1.2.4)
が成り立つとする.
任意のλ < |f|Q に対して, x ∈Qなら,
M f(x)≥ |f|Q > λ
が成り立つので, Q⊂ {x∈Rn;M f(x)> λ}となる. よって, (1.2.4)と合わせて, w(Q)≤w({x∈Rn;M f(x)> λ} ≤ C1
λ
∫
Rn|f(x)|w(x)dx (1.2.5)
を得る. (1.2.5)のf として, f χQ をとり, |f χQ|Q =|f|Qに注意して今の議論を繰り返すと, λ ≤ C1
w(Q)
∫
Q
|f(x)|w(x)dx となる. ここで, λ→ |f|Q = (1/|Q|)∫
Q|f(x)|dxとすると, 1
|Q|
∫
Q
|f(x)|dx≤ C1 w(Q)
∫
Q
|f(x)|w(x)dx, f ∈L1(w).
(1.2.6)
(1.2.6)で, f =χS, S ⊂Q とすると, 定義から,
|S|
|Q| ≤C1
w(S) (1.2.7) w(Q)
となる.
ほとんど全ての x∈Q に対して, w(x)≥ess inf
x∈Q (w) := inf{b >0 ; m(
{x∈Q; w(x)< b})
>0} である.
各a > ess inf
x∈Q (w)に対して,Sa :={x∈Q; w(x)< a}とおけば, Saは可測集合で, a >inf{b >0 ; m({x∈Q; w(x)< b})>0}
より, 下限の定義から, m({x ∈Q; w(x)< a})>0であるから,
|Sa|>0, w(x)< a, x∈Sa. (1.2.7)で, S として Saをとると,
|Sa|
|Q| ≤C1
w(Sa) w(Q) だから,
w(Q)
|Q| ≤C1
w(Sa)
|Sa| . よって,
1
|Q|
∫
Q
w(x)dx≤ C1
|Sa|
∫
Sa
w(x)dx≤ C1
|Sa|a
∫
Sa
dx=C1·a.
よって, a →ess inf
x∈Q
(w(x))
とすると,
1
|Q|
∫
Q
w(t)dt≤C1ess inf
x∈Q
(w(x))
≤C1w(x), a.e. x∈Q.
(1.2.8)
さて, 各Qに対して, (1.2.8)がすべてのx ∈Q\N(Q)に対して成り立つような零集合N(Q)が 存在する. 中心がQn の点で, 辺長が有理数の立方体QについてのN(Q)の和集合をN とする. も ちろんN は零集合である. そこで, x∈Rn\N とする. このとき, Qnの点yとQの点r に対して, xがx ∈Q(y, r)を満たすときは
1
|Q(y, r)|
∫
Q(y,r)
w(t)dt≤C1w(x) である.
また, 任意のε > 0とxを含む任意の立方体Qに対して, ある点 y =yε ∈Qn, r = rε ∈Qが存 在して, Q(y, r)⊂Qかつ,
1
|Q|
∫
Q
w(t)dt− 1
|Q(y, r)|
∫
Q(y,r)
w(t)dt
≤ 1
|Q|
∫
Q
w(t)dt− 1
|Q(y, r)|
∫
Q
w(t)dt +
1
|Q(y, r)|
∫
Q
w(t)dt− 1
|Q(y, r)|
∫
Q(y,r)
w(t)dt <2ε
が積分の強絶対連続性より可能なので結局 1
|Q|
∫
Q
w(t)dt≤C1w(x) を得る. したがって, x∈Rn\N に対して,
M w(x) = sup
x∈Q
1
|Q|
∫
Q
w(t)dt≤C1w(x).
よって,
M w(x)≤C1w(x), a.e. x∈Rn (C1 :定数) (1.2.9)
を得る.
MuckenhouptによるAp 重みの定義にうつる. 定義 1.3
M w(x)≤C1w(x), a.e. x∈Rn (C1 :定数) が成り立つとき, w(x)をA1 重みと呼び, w ∈A1 と表す.
wがA1 重みなら, (1.2.9)の上の式から, x∈Qであるとき 1
|Q|
∫
Q
w(t)dt 1
w(x) ≤C1
を得る. xに関してQ上で上限をとると 1
|Q|
∫
Q
w(t)dt 1
w
L∞(Q)
≤C1
を得て, さらにQに関して上限をとることにより sup
Q:立方体
( 1
|Q|
∫
Q
w(t)dt) 1
w
L∞(Q)
≤C1 <∞ が分かる.
[w]cubeA1 = [w]A1 := sup
Q:立方体
( 1
|Q|
∫
Q
w(t)dt) 1
w
L∞(Q)
は, wのA1 ノルムといわれる. A1の重みのwは,
1
|Q|
∫
Q
w(t)dt≤[w]cubeA1 ess inf
y∈Q w(y) (Q:立方体) を満たす.
注意 1.4
[w]ballA
1 := sup
B:球
( 1
|B|
∫
B
w(t)dt) 1
w
L∞(B)
と定義する. そのとき,
vn 2n[w]ballA
1 ≤[w]cubeA
1 ≤vn (√
n 2
)n
[w]ballA
1
である.
ただし, vnはRn での単位球の体積を表すものとする. したがって, A1 重みを立方体で定義して も, 球で定義しても, 実質的には同じである.
(注意1.4の証明)
まず, Q(x0, r)⊂B(x0,√
nr)より,
∥w1∥L∞(Q(x0,r))
|Q(x0, r)|
∫
Q(x0,r)
w(t)dt≤ ∥w1∥L∞(B(x0,√
nr))|B(x0,√ nr)|
|Q(x0, r)||B(x0,√ nr)|
∫
B(x0,√ nr)
w(t)dt
≤ vn(√ nr)n (2r)n sup
x0∈B:球
∥w1∥L∞(B)
|B|
∫
B
w(t)dt
≤vn (√
n 2
)n
[w]ballA
1 . よって, Qについて上限をとると,
[w]cubeA
1 ≤vn (√
n 2
)n
[w]ballA
1 . また, B(x0, r)⊂Q(x0, r)より,
∥w1∥L∞(B(x0,r))
|B(x0, r)|
∫
B(x0,r)
w(t)dt≤ ∥w1∥L∞(Q(x0,r))|Q(x0, r)|
|Q(x0, r)||B(x0, r)|
∫
Q(x0,r)
w(t)dt
≤ (2r)n
vnrn sup
x0∈Q:立方体
∥w1∥L∞(Q)
|Q|
∫
Q
w(t)dt.
であるから, Bについて上限をとると,
[w]ballA1 ≤ 2n vn
[w]cubeA1 .
定義 1.5 1< p <∞とする. 重みw(x)が, [w]cubeA
p := sup
Q:立方体
( 1
|Q|
∫
Q
w(x)dx ) ( 1
|Q|
∫
Q
w(x)−p−11 dx )p−1
<∞ を満たすとき, wをAp 重みと呼ぶ.
このとき, w ∈Ap と表し, [w]Ap := [w]cubeA
p をwのAp ノルムと呼ぶ.
注意 1.6
[w]ballAp := sup
B:球
( 1
|B|
∫
B
w(x)dx ) ( 1
|B|
∫
B
w(x)−p−11dx )p−1
とすると,
(vn 2n
)p
[w]ballAp ≤[w]cubeAp ≤ (
vn
√nn 2n
)p
[w]ballAp が成り立つ.
(注意1.6の証明) Q(x0, r)⊂B(x0,√
nr)より, 1
|Q(x0, r)|
∫
Q(x0,r)
w(t)dt≤ |B(x0,√ nr)|
|Q(x0, r)||B(x0,√ nr)|
∫
B(x0,√ nr)
w(t)dt
= vn(√ nr)n (2r)n
1
|B(x0,√ nr)|
∫
B(x0,√ nr)
w(t)dt
が成り立つ. よって, (
1
|Q(x0, r)|
∫
Q(x0,r)
w(t)dt ) (
1
|Q(x0, r)|
∫
Q(x0,r)
w(t)−p−11dt )p−1
≤ (
vn
(√ n 2
)n
1
|B(x0,√ nr)|
∫
B(x0,√ nr)
w(t)dt )
× (
vn
(√ n 2
)n
1
|B(x0,√ nr)|
∫
B(x0,√ nr)
w(t)−p−11dt )p−1
=vnp
(√ n 2
)np(
1
|B(x0,√ nr)|
∫
B(x0,√ nr)
w(t)dt )
× (
1
|B(x0,√ nr)|
∫
B(x0,√ nr)
w(t)−p−11 dt )p−1
≤vnp (√
n 2
)np
sup
B:球
( 1
|B|
∫
B
w(t)dt ) ( 1
|B|
∫
B
w(t)−p−11dt )p−1
=vnp (√
n 2
)np
[w]ballA
p ,
と変形できる. 左辺でQ(x0, r)について上限をとると,
[w]cubeAp ≤(n−n/2vn2−n)p[w]ballAp . また, B(x0, r)⊂Q(x0, r)より,
1
|B(x0, r)|
∫
B(x0,r)
w(t)dt≤ |(Q(x0, r)|
|Q(x0, r)||B(x0, r)|
∫
Q(x0,r)
w(t)dt
= (2r)n vnrn
1
|Q(x0, r)|
∫
Q(x0,r)
w(t)dt
= 2n vn
1
|Q(x0, r)|
∫
Q(x0,r)
w(t)dt
が成り立つ. よって, (
1
|B(x0, r)|
∫
B(x0,r)
w(t)dt ) (
1
|B(x0, r)|
∫
B(x0,r)
w(t)−p−11 dt )p−1
≤ (
vn
(2n vn
)n
1
|Q(x0, r)|
∫
Q(x0,r)
w(t)dt ) (
2n vn
1
|Q(x0, r)|
∫
Q(x0,r)
w(t)−p−11dt )p−1
= 2np vnp
( 1
|Q(x0, r)|
∫
Q(x0,r)
w(t)dt ) (
1
|Q(x0, r)|
∫
Q(x0,r)
w(t)−p−11 dt )p−1
≤ 2np vnp sup
Q:立方体
( 1
|Q|
∫
Q
w(t)dt ) ( 1
|Q|
∫
Q
w(t)−p−11dt )p−1
= 2np
vnp[w]cubeAp .
左辺でB(x0, r)について上限をとると, [w]ballA
p ≤(vn2−n)−p[w]cubeA
p
よって,
(vn2−n)p ≤ [w]cubeA
p
[w]ballA
p
≤(n−n/2vn2−n)p が成り立つ.