波動方程式に対する初期値問題
∂2u
∂t2 −v2∆u =f(t, x), u(0, x) =φ(x), ∂u
∂t(0, x) =ψ(x) (2.2.1)
の解表示について考える. vは正の定数とする.
波動方程式は双曲型作用素の中でも, もっとも代表的な作用素であり, その解の諸性質は双曲型方 程式のもつ基本性質を明確に示している. したがって, まずはこの問題の解の表示を行い, それより 導かれる解の性質を調べてみる. なお, 空間次元は2または3の場合のみを考察することにする. 定理 2.1 (2.2.1) において, f ≡ 0 の場合, 解 u(t, x) は次によって与えられる. ただし, φ ∈ C3(Rn), ψ ∈C2(Rn)とする.
空間次元が3の場合. t >0に対し, (2.2.2) u(t, x) = ∂
∂t (
1 4πv2t
∫
|y−x|=vt
φ(y)dSy )
+ 1
4πv2t
∫
|y−x|=vt
ψ(y)dSy. 空間次元が2の場合.
(2.2.3)
u(t, x) = ∂
∂t (
1 2πv
∫
|x−y|<vt
√ φ(y)
v2t2− |y−x|2dy )
+ 1
2πv
∫
|x−y|<vt
√ ψ(y)
v2t2− |y−x|2dy.
(2.2.2)は Kirchhoffの解, (2.2.3) はPoissonの解と呼ばれる. t 変数に変数変換を施すことで, v = 1の場合に帰着できることを示しておく. 偏微分作用素 ∂t2−∆ は, しばしば □ で表され, d’Alembert 作用素(d’Alembertian)と呼ばれる.
u(t, x)を(2.2.1)の解とする. ˜u(t, x) =u(t/v, x)とおく. すると,
∂˜u
∂t(t, x) = 1 v
(∂u
∂t ) (t
v, x )
,
∂2u˜
∂t2(t, x) = 1 v2
(∂2u
∂t2 ) (t
v, x )
が従う. よって,
∂2u˜
∂t2(t, x)−∆˜u(t, x) = ( 1
v2
∂2u
∂t2 −∆u ) (t
v, x )
= 1 v2f
(t v, x
)
を得る. また, t →0 のとき,
˜
u(t, x) =u (t
v, x )
→φ(x),
∂u˜
∂t(t, x) = 1 v
(∂u
∂t ) (t
v, x )
→ 1 vψ(x)
が成り立つ. 以上より,
( ∂2
∂t2 −∆ )
˜
u(t, x) = 1 v2f
(t v, x
) ,
˜
u(0, x) =φ(x), ∂u˜
∂t(0, x) = 1 vψ(x)
を満たす解を作ることができれば, u(t, x) = ˜u(vt, x)は求める解になっている. 空間の次元が3の場合(v = 1で考える)
まず, φ≡0の場合を考える.
y=x+tξ, ξ∈S2 ={ξ ∈R3; |ξ|= 1}と変数変換を行うと, dSy =t2dSξで,
(2.2.4) u(t, x) = 1
4πt
∫
S2
ψ(x+tξ)dSξ となる. (2.2.4)をxj に関して偏微分を行うと,
∂u
∂xj(t, x) = 1 4πt
∫
S2
∂ψ
∂xj(x+tξ)dSξ,
∂2u
∂x2j(t, x) = 1 4πt
∫
S2
∂2ψ
∂x2j(x+tξ)dSξ
を得る. したがって,
∆u(t, x) = 1 4πt
∫
S2
(∆ψ)(x+tξ)dSξ
= 1 4πt
∫
|y−x|=t(∆ψ)(y)dSy
(2.2.5)
となる. 一方, (2.2.4)をtで偏微分すると,
(2.2.6) ∂u
∂t(t, x) = 1 4π
∫
S2
ψ(x+tξ)dSξ+ 1 4πt
∫
S2
∑3 j=1
∂ψ
∂xj(x+tξ)ξjdSξ.
この式の右辺の第二項において, ξ = (ξ1, ξ2, ξ3)∈ S2は, 球面{y; |y−x| =t}のy =x+tξ にお ける単位外法線となっている. したがって,
1 4πt
∫
S2
∑3 j=1
∂ψ
∂xj
(x+tξ)ξjdSξ = 1 4πt
∫
|y−x|=t
∑3 j=1
∂ψ
∂xj
(y)νj(y)dSy
と書くことができる. ただし, ν(y) = (
ν1(y), ν2(y), ν3(y))
は球面の yにおける単位外法線を表す. 右辺に発散公式を用いると,
(2.2.7) 1
4πt
∫
S2
∑3 j=1
∂ψ
∂xj
(x+tξ)ξjdSξ = 1 4πt
∫
|y−x|<t
(∆ψ)(y)dy がいえる. 以上より,
∂u
∂t(t, x) = 1 4π
∫
S2
ψ(x+tξ)dSξ+ 1 4πt
∫
|y−x|<t
(∆ψ)(y)dy
と変形できた. 上の右辺第2項は 1 4πt
∫ t 0
∫
S2
(∆ψ)(x+rω)r2dSωdr とも表されることに注意して,この式の両辺を再びtで偏微分すると,
∂2u
∂t2(t, x) = 1 4π
∫
S2
∑3 j=1
∂ψ
∂xj
(x+tξ)ξjdSξ
− 1 4πt2
∫
|y−x|<t(∆ψ)(y)dy+ 1 4πt
∫
|y−x|=t(∆ψ)(y)dSy. (2.2.7)を代入すると,
∂2u
∂t2(t, x) = 1 4πt
∫
|y−x|=t
(∆ψ)(y)dSy を得る. (2.2.5)より,
∂2u
∂t2(t, x) = ∆u(t, x) を得る.
次に初期条件を調べる.
(2.2.4)で, t→0とすると, u(t, x)→0. (2.2.6)において, t →0 とすると,
∂u
∂t(t, x)→ 1 4π
∫
S2
ψ(x)dSξ =ψ(x) が従う. 以上より,初期条件を満たしていることが分かった.
φ̸≡0 の場合を考える.
R3 で定義された関数gに対し,
(2.2.8) M[g](t, x) = t
4π
∫
S2
g(x+tξ)dSξ (t >0) とおく.
定義から分かるとおり, g ∈ Cm(R3) ならば, M[g] ∈ Cm((0,∞)×R3) がいえる. もし, φ ∈ C3(R3)ならば, M[φ]∈C3((0,∞)×R3)である.
先に示したことより,
( ∂2
∂t2 −∆ )
M[φ] = 0, M[φ](t, x)→0, ∂
∂tM[φ](t, x)→φ(x) (2.2.9)
である. ここでの収束はR3で広義一様である. M[φ]∈C3((0,∞)×R3) を用いると, (∂2
∂t2 −∆ ) ∂
∂tM[φ] = ∂
∂t (∂2
∂t2 −∆ )
M[φ] = 0
が成り立つ. よって, v= ∂t∂M[φ]も波動方程式を満たしていることが分かる. (2.2.9)より, t >0で ,
∂2
∂t2M[φ](t, x) = ∆M[φ](t, x) =M[∆φ](t, x)
が成り立ち, M[∆φ](t, x)→0 (t→0)であることより,
∂v
∂t(t, x) = ∂2
∂t2M[φ](t, x)→0 (t→0) が言える.
以上より, v(t, x)は波動方程式を満たし, 初期条件 v(t, x)→φ(x), ∂v
∂t(t, x)→0, (t →0)
も満たしていることが分かる. よって, (2.2.2)は求める解を与えることが分かる. 次に, f ∈C2([0,∞]×R3)の場合において, 問題
□u=f in (0,∞)×R3, u(0, x) = 0, ∂u
∂t(0, x) = 0 の解の表示を Duhamel の原理を用いて導いていく.
(2.2.10) u(t, x) =
∫ t 0
M[f(s,·)](t−s, x)ds とおけばよい. u∈C2([0,∞)×R3)は従う.
また,
∆u(t, x) =
∫ t 0
∆(M[f(s,·)])(t−s, x)ds である.
t変数に関する偏微分は,
∂u
∂t(t, x) =M[f(t,·)](t−t, x) +
∫ t 0
∂
∂t(M[f(s,·)])(t−s, x)ds (2.2.11)
=
∫ t 0
∂
∂t(M[f(s,·)])(t−s, x)ds となる. これをさらにtで偏微分すると,
∂2u
∂t2(t, x) = ( ∂
∂tM[f(s,·)]
)
(t−s, x)
s=t +
∫ t 0
∂2
∂t2(M[f(s,·)])(t−s, x)ds である. ここで, (∂
∂tM[f(s,·)])
(0, x) =f(s, x)となることを用いると, (2.2.12) □u(t, x) =f(t, x) +
∫ t 0
□(M[f(s,·)])(t−s, x)dx=f(t, x) となり, u(t, x)は方程式を満たしている.
(2.2.10)および(2.2.11)においてt→0とすると, 右辺はいずれも0に収束するので, 初期条件も 確認できた.
空間の次元が2の場合
ψ ∈ C2(R2) とする. R2 の点を, x = (x1, x2)で表すことにする. また, p = (x, z) = (x1, x2, z) でR3の点を表すことにする.
ψ˜∈C2(R3)をψ(x, z) =˜ ψ(x)で定義する.
˜
u(t, p) =M[ ˜ψ](t, p) とおく. すでに(2.2.11)で示したように,
∂
∂zu(t, p) =˜ M [∂ψ˜
∂z ]
(t, p), ∀(t, p)∈(0,∞)×R3
が成り立ち, ∂∂zψ˜ ≡0であることより, ˜u(t, p)はzに独立な関数であることがわかる. 一方,
( ∂2
∂t2 −
∑2 j=1
∂2
∂x2j )
˜
u(t, p) = (∂2u˜
∂t2 −
∑2 j=1
∂2u˜
∂x2j − ∂2u˜
∂z2 )
(t, p) = 0 であり,
˜
u(t, p)→0, ∂˜u
∂t(t, p)→ψ(p) =˜ ψ(x), (t→0) が言える.
以上より,
u(t, x) = ˜u(t, x,0) で, u(t, x)∈C2((0,∞)×R2)を定義すると, uは,
(∂2
∂t2 −
∑2 j=1
∂2
∂x2j )
u = 0, u(t, x)→0, ∂u
∂t(t, x)→ψ(x) (t→0) を満たしていることがわかる.
さて, u(t, x)は
u(t, x) =M[ ˜ψ](t, x,0) = 1 4πt
∫
|(y,z)−(x,0)|=t
ψ(y, z)dS˜ y,z
と表されるが, (x,0)を中心とする半径tの球面のz > 0の部分は, {(
x1+S1, x2+S2,
√
t2−S12−S22 )
; S12+S22 < t2 }
と表せるから, 上半球面上での積分をI+とおくと, dSy,z = t
√t2−S12−S22dS1dS2
より,
I+ = 1 4π
∫
S12+S22<t2
ψ(x1+S1, x2+S2)
√t2−S12−S22 dS1dS2
と表せる. 下半球面上での積分をI− としたとき, それもψ˜はz に独立であるので, I+ と同じに なる.
以上より, I++I−は,
M2[ψ](t, x) = 1 2π
∫
|y−x|<t
√ ψ(y)
t2− |x−y|2dy として表せる. これが求める式であった.
(2.2.3)の第一項については,
∂
∂tM[ ˜φ](t, x,0) = ∂
∂tM2[φ](t, x) より, 求める性質は直ちに従う.
定理2.1からわかることは, n= 3の場合
supp φ∪supp ψ⊂ {x; |x−x0|< ε} (ε > 0)とする. なお, supp f ={x∈Rn|f(x)̸= 0} で ある.
u(t, x) = ∂
∂t (
1 4πv2t
∫
|y−x|=vt
φ(y)dSy
)
+ 1
4πv2t
∫
|y−x|=vt
ψ(y)dSy
であった. ここで, vt−ε > |x−x0|または,|x−x0|> vt+εとする. このとき, φ,ψ ともに値は0 となる. このため u(t, x) も値は 0 となる. この対偶から,
u(t, x)̸= 0⇒vt−ε ≤ |x−x0| ≤vt+ε.
が従う. ε >0は任意に選べることに注意すると, n= 3のとき, 点x0 における初期データの影響 は, 時刻t >0においては, 球面 {x; |x−x0|= vt}の上にのみある. すなわち, 影響は速度vで伝 播してゆく. ということがわかった.
n= 2の場合
vt−ε >|x| ⇒u(t, x)≡0とはならない. どうしても初期データを含んでしまう. つまり, n= 2 のとき, 初期データの x0 における値の影響は, 球{x; |x−x0| = vt}の中にあり, 時間がいくら
たっても(t > 0がどんなに大きくなっても), x0 の近くにその影響は残っている. ということがわ
かった.
n = 3 の場合のように, t = 0 における点 x0 での初期データの影響が, (t, x)空間の中で, 錐 t2 =|x−x0|2 の上にのみ限られる場合, Huygens の原理が成り立つという.
命題 2.2 空間次元1の波動方程式
□u(t, x) = ∂2u
∂t2(t, x)− ∂2u
∂x2(t, x) = 0 の解は, R上定義されたある2つの関数f, gが存在して,
u(t, x) =f(x−t) +g(x+t) と書ける.
(証明)
u(t, x) が□u = 0 を満たすと仮定し,ξ = x − t, τ = x + t とする. このとき, u(t, x) = u(
(τ −ξ)/2,(τ +ξ)/2)
=v(τ, ξ)とおく. このvをτ で偏微分すると,
∂τv(τ, ξ) = 1
2(∂tu) + 1 2(∂xu).
さらに, ξ で偏微分して,
∂ξ∂τv(τ, ξ) = 1 2
(
∂t2u· (
−1 2
)
+∂x∂tu· 1 2
) + 1
2 (
∂t∂xu· (
−1 2
)
+∂x2u· 1 2
)
=−1 4
(∂t2u−∂x2u)
= 0.
よって,
∂ξ∂τv(τ, ξ) = 0.
これはつまり, ∂τv(τ, ξ)はξ によらない関数であるということ. それをh(τ)とおく. 微分積分学の 基本定理より,
∫ τ 0
∂sv(s, ξ)ds= [v(s, ξ)]τ0 =v(τ, ξ)−v(0, ξ).
一方で,
∫ τ 0
∂sv(s, ξ)ds=
∫ τ 0
h(s)ds.
よって,
v(τ, ξ) =v(0, ξ) +
∫ τ 0
h(s)ds.
以上のことから,
u(t, x) =v(0, x−t) +
∫ x+t 0
h(s)ds
=f(x−t) +g(x+t).
命題 2.3 初期値問題
{□u(t, x) = 0 (
(t, x)∈(0,∞)×R) , u(0, x) =φ(x), ut(0, x) =ψ(x) の解は,
u(t, x) = 1 2
{
φ(x−t) +φ(x+t) +
∫ x+t x−t
ψ(s)ds } で与えられる. (ストークスの公式の一部)
(証明)
命題2.2より, u(t, x) =f(x−t) +g(x+t)と書ける. このとき, 初期条件よりf, gは u(0, x) =f(x) +g(x) =φ(x),
ut(0, x) =−(f′)(x−t) + (g′)(x+t)
t=0
=−f′(x) +g′(x) =ψ(x) を満たす.よって, ∫ x
0
ψ(y)dy=−(f(x)−f(0)) + (g(x)−g(0)).
これを整理して,
−f(x) +g(x) =−f(0) +g(0) +
∫ x 0
ψ(y)dy を得て,またf(x) +g(x) =φ(x) より,
2g(x) =−f(0) +g(0) +
∫ x 0
ψ(y)dy+φ(x),
−2f(x) =−f(0) +g(0) +
∫ x 0
ψ(y)dy−φ(x) を得る.よって,
f(x) = 1
2φ(x) + 1 2
∫ x 0
ψ(y)dy+ f(0)−g(0)
2 ,
g(x) = 1
2φ(x) + 1 2
∫ x 0
ψ(y)dy+ −f(0) +g(0)
2 .
これらのことより,
u(t, x) =f(x−t) +g(x+t)
= 1
2φ(x−t) + 1 2
∫ 0 x−t
ψ(y)dy+ 1
2φ(x+t) + 1 2
∫ x+t 0
ψ(y)dy
= 1 2
{
φ(x−t) +φ(x+t) +
∫ x+t x−t
ψ(s)ds }
.