ドイツにおける上告制限
1許可上告と受理上告ー
片野 区良
一二
三
四 はじめに
許可上告制と受理上告制
手続上告
まとめ
は じ め にi
プリュッティングは︑彼の著書﹃許可上告﹄において︑許可上告に対する肯定および否定の数多くの観点を概
観し︑許可上告制の可否の問題は︑許可上告制の採用によってもたらされる新たな短所を回避するための上告不
許抗告と許可を要しない手続上告を認める許可上告制が従来の金額上告制よりも上告審の負担を軽減する方向に
作用するのか︑あるいは︑許可上告制によってもたらされた負担軽減の効果が上告不許抗告と手続上告によって
ドイッにおける上告制限天一(1)
天二(2)
減殺されてしまうのかの問題に還元されうると述べている︒そこで︑本稿においても︑許可上告制を採用する場
合に問題となる上告不許抗告と特別の許可を要しない手続上告の可否を検討したいと思う︒
注(1)本稿は︑一九九五年五月二一日の民事訴訟法学会大会における筆者の報告﹁ドイッにおける上告制限﹂に
注を加え︑かつ加筆・訂正したものである︒
(2)Printing,DieZulassungderRevision,(1977),S.82f.
二許可上告制と受理上告制
ドイッ民訴法においては︑一八七七年に財産権上の請求に関する訴訟の上告を上告金額一︑五〇〇マルク以上
に制限する金額上告(Wertrevision)から出発し︑一九五〇年の統一回復法により︑上告額六︑○○ODMの金額
ヨ 上告と許可上告の併用が行われていたが︑その後︑一九七五年の改正により︑金額上告は廃止され︑受理上告と
許可上告が併用されることとなり︑それが現在まで続いている︒一九七五年の改正の際︑政府草案は︑高等裁判
所が上告許可について裁判を行い︑上告不許に対して連邦通常裁判所へ抗告を認める許可上告制を定めていた
が︑これを受けた法務委員会では︑上告不許抗告による上告審の負担過重をおそれ︑不服額四〇︑○○○万DMを
越える財産権上の請求に関する訴訟については︑原則的重要性を有する訴訟のほか︑法令違背の重大性と上告審
の負担を考慮して上告を受理しうるとする受理上告制が採用され︑連邦議会でもこのような受理上告制が制定さ
れた︒政府草案と法務委員会報告は︑上告不許抗告に対してそれぞれ反対の評価を下しことになる︒以下では︑
政府草案と法務委員会報告の内容をみていきたい︒
注(3)この改正法については︑小室直人﹁西ドイッ民事上告法の基本的改正﹂ジュリスト六四六号(昭五二)一
三八頁︑拙稿﹁西ドイッ民事上告法の展開(上)(下)﹂愛大一一二号(昭六一)一〇九頁︑一一四号(昭六
二)七三頁を参照︒
1一九七五年民事上告法改正法律
る (1)政府草案の見解
政府草案は︑最初に︑上告許容性の新しい規律は第一に上告の目的に従ってなされなければならないとして︑
上告の目的について︑次のように述べてる︒
判例・学説の一致した見解によれば︑上告は二つの目的︑すなわち法の統一・形成と誤った判決の是正に奉仕
するものである︒現行法においても︑両目的は織り合わさっており︑法の統一を目的とする上告(ZPO五四六
条二項)も個々の事件の正しい判決にいたらねばならないし︑逆に︑金額上告として主に当事者の利益のために
認められる上告(ZPO五四六条一項)も時々法の統一または法の形成の効果を有している︒それゆえ︑両目的
は完全には一致しないが︑両者の間に概念上の対立があるとはいえない︒上告を純粋に目的論的に考察するとき︑
両目的はそれぞれ上告を認ある十分の理由を提示しうるし︑一方の上告が同時に他の目的を促進しうることも稀
ではない︒したがって︑個々の場合に︑両目的が上告手続の実施を要請する限り︑上告許容性は制限されるべき
ではないが︑上告許容性に関して法の統一の維持と正しい判決の要請とが衝突する場合(すなわち上告を無制限
ドイツにおける上告制限l:≫1Cam)
天四(4)
に認めると全ての事件を処理することが不可能となる場合)には︑法の統一の維持が正しい判決の要請に優先さ
れるときだけ︑その範囲においては正しい判決の目的も達成されるので︑両者の関係は切断されることがない︒
原則的重要性を有する訴訟や判例抵触に基づいた上告においては︑二つの上告目的が達成されうるが︑金額上告
の場合︑個々の事件の正しい判決には常に奉仕しうるが︑従来の経験によれば︑法の統一にはしばしば役立つこ
ら とができなかったからであると︑述べている︒
次に︑政府草案によれば︑高等裁判所が上告許可についての裁判をするべきであるとされている︒その理由と
して以下の点があげられている︒
①高等裁判所は既に上告許可の裁判をすべき事件について︑その訴訟資料および法的問題を熟知しているこ
と︒上告審が上告許可について裁判すべきであるとすると︑上告審はそのために調書における事実的観点および
法的観点を熟知しなければならない︒
②上告不許抗告によって上告審は上告許可について調査しなければならないが︑かかる場合は︑上告審が最
初から裁判するときに比べ︑数量的に少ないこと︒草案五四五条二項によれば︑高等裁判所の上告許可の裁判は
上告審を拘束するので︑高等裁判所が上告を許可した場合︑上告審は上告許可について裁判をする必要はない︒
高等裁判所が上告を許可しなかった場合でも︑全く上告許可に関する裁判がなく︑当事者が上告を直接上告審に
提起する場合に比べ︑敗訴当事者が上告不許抗告を提起する数は少ないであろう︒当事者が高等裁判所の上告不
許を考慮し︑上告提起を思いとどまることも稀ではないであろう︒
③上訴について予測が可能となること(上訴明確性があること)︒控訴審判決の際に︑既に上告が許可される
ものか否かの裁判が存在するからである︒上告審が最初に上告許可について裁判するとき︑当事者は上告許容性
を知ることなく︑上告を提起しなければならない︒長い間待たされた後︑結局上告は許容性を欠くと判断された
場合︑それは当事者にとって不当なことである︒高等裁判所によって上告許容性が否定され上告不許抗告が提起
された場合︑上告審が上告許容性を認めることがありうるが︑行政訴訟における従来の経験によれば︑このよう
なことは極あて稀に生じるだけである︒
④その他︑他の手続法においても高等裁判所が上告許可の裁判をすることになっていること︑および連邦通
常裁判所が上告不許抗告について裁判することになるので︑上告許容性の要件について統一的な基準を展開しう
ることが︑指摘されている︒
以上のような理由から︑上告許可に関する裁判は高等裁判所がすべきであるとし︑そして上告審の監督的機能
を十分果たす必要があること︑および第一次的な上告目的(すなわち︑法の統一・形成)を達成するたあに︑上
告審自身が上告資格を有する事件を決定すべき機会を有するべきであることから︑上告不許の裁判に対して抗告
ア を認めるべきであるとしている︒(2)法務委員会報告の見解
委員会報告は︑委員会において︑上告許容性を決定する最もよい方法について種種の観点が考慮されたが︑そ
れらは必ずしも相互に調和できるものではなかった︑しかしながら︑上告審の負担能力には限界がありかつ手続
期間を短縮する必要があることについては争いがなかったとしている︒そして︑そのたあには上告審の事件数を
減少させることが必要であり︑上告に適した事件を選抜する場合︑法の統一・形成が前面に立つべきであるとし
ている︒それらの目的と並んで︑上告審の監督的機能および正しい判決の維持も考慮されねばならないともして
いる︒
ドイッにおける上告制限天五(5)
天六(6)
このように︑法の統一・形成の目的が重視されるべきであり︑そして法の統一・形成に役立つ選抜基準として
原則的重要性および判例抵触が妥当であるとするが︑上告不許抗告を認ある上告許可制については賛成できない
としている︒すなわち︑上告不許抗告の裁判のために上告審の負担能力の三分の一強が使用されるが︑それだけ
上告審の本案判決の数が少なくなることになる︒むしろ︑そのような作業の代わりに本案判決を下し︑法の統
一.形成︑監督的機能および個々の事件の正しい解決のために負担能力が利用されるべきであるとしている︒他
方︑高等裁判所のみが上告許可の裁判をすることも妥当でないとしている︒高等裁判所がもっぱら上告許可につ
いて裁判するとき︑上告許可手続に対する上告審の監督的機能が侵害されるし︑区々の許可実務によって法の統
一が維持できなくなるし︑さらに許可されるべき上告事件の数を上告審の負担能力に合わせることができなくな
るからであると述べている︒
以上の理由から︑法務委員会は中間の道を採用することにしたとしている︒すなわち︑不服額が四〇︑○○O
DMを越えない財産権上の請求に関する訴訟と非財産権上の請求に関する訴訟においては︑高等裁判所が上告許
可について裁判を行い︑上告審はその裁判に拘束される︒不服額が四〇︑○○ODMを越える財産権上の請求に関
する訴訟においては︑上告審自身が上告を受理するか否かを裁判する︒このように上告許容性の判断を分けるこ
とは︑現行法︑すなわち一九六九年の負担軽減法および政府草案よりも妥当な結果をもたらすとしている︒まず
現行法(負担軽減法)に対する長所として︑一定の金額を越えているということだけで上告が認められるわけで
はなく︑法の統一・形成に役立つ訴訟に上告審が集中できることが指摘されている︒次に︑政府草案に対する長
所として︑上告審は︑訴訟が原則的重要性を有しない場合でも手続違背やその他の法令違背が判明したとき︑そ
れらの重大性と自己の負担量を考慮して上告を受理することができる︒このことにより︑上告審の監督的機能は