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Academic year: 2021

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論文内容の要旨

氏名:阿部 竜典

博士の専攻分野の名称:博士(生物資源科学)

論文題目:陽イオン交換樹脂により脱アミド化した小麦グリアジンのアレルゲン性に関する研

1. 緒論

食物に対してアレルギー症状を呈する罹患者の数は増加の一途をたどり、その主要な食品は鶏卵、

乳製品に次いで小麦が挙げられる。食物アレルギーのうち、鶏卵や乳製品に対するアレルギー症状 は、有症者も年齢が増すとともに軽減する場合が多いが、小麦を代表とする穀物アレルギーにおいて は大人になってもその症状が寛解しにくい。さらに、小麦アレルギー患者は、小麦素材としての幅広 い利用性により、一般食品として小麦が使用されるケースが多いことに加え、多種類の穀物アレルゲ ンに対しても交差反応を起こしやすいことから、食事制限のため栄養不足になりがちである。

小麦の主要タンパク質であるグルテンは、小麦の主要アレルゲンとされており、特徴的なグルタミ ン残基の連続配列で構成されている。また、小麦アレルギー患者血清中のIgE結合エピトープにもグ ルタミン残基の連続配列が含まれる事が既に明らかとなっている。そのため、このグルタミン残基の 一部をグルタミン酸残基に変換することができれば、小麦のアレルゲン性低下が期待できる。

脱アミド化は食品タンパク質中のグルタミンやアスパラギン残基をグルタミン酸やアスパラギン酸 残基に変換する反応である。脱アミド化による小麦アレルギー低減化の研究として、酸によるグルテ ンの脱アミド化が報告されているが、酸による脱アミド化は、同時にペプチド結合の加水分解を引き 起こすことから、グルテン特有の加工特性が失われることが問題であった。一方、本学食品化学研究 室で開発したカルボキシレートタイプの陽イオン交換樹脂を用いた脱アミド化法では、ペプチド結合 の加水分解は起こらず、本法を用いて、様々な食品タンパク質を脱アミド化し、その機能改善を行っ てきている。小麦グリアジンでは、脱アミド化することで、小麦アレルギー患者血清との反応性が低 下することを明らかとしている。さらに、グリアジンは脱アミド化により水への溶解性が向上するこ とから、酵素の作用を受けやすくなり、その消化性が向上することを報告した。そのため、脱アミド 化グリアジンを経口摂取させることで、さらなるアレルゲン性の低下が期待できる。

そこで本研究では、まず、小麦グリアジンに対してアレルギー反応を示すアレルギーモデルマウス を作成し、脱アミド化グリアジンによる小麦アレルギー症状の発症の有無について検討した。次に、

脱アミド化グリアジンが経口免疫寛容を誘導する有効な素材であるか否かを検討するため、上述のモ デルマウスを用いて、脱アミド化グリアジンによる経口免疫寛容誘導能について検討した。さらに、

近年報告された新たな感作経路である皮膚感作において、脱アミド化グリアジンのアレルゲン性の評 価を行った。

2. 脱アミド化グリアジンのアレルゲン性評価

BALB/c マウスに未処理小麦グリアジンを腹腔内に2 回投与することで、小麦グリアジンアレルギ

ーモデルマウスを作製した。このマウスに未処理グリアジンまたは脱アミド化グリアジンを経口胃内 投与した後、腹腔内のマスト細胞、血液、小腸を採取した。アレルゲンを経口摂取したマウスは小腸 内でアレルギー反応を誘発し、ヒスタミン等により炎症が起き、小腸の透過性が増大する。その結 果、血中のアレルゲン量が増加し、B細胞よりアレルゲン特異的なIgEが放出される。放出された IgEによりマスト細胞上のIgEレセプターである FcεRⅠ発現量が増加し、このレセプターに結合し IgEにアレルゲンが結合することによってマスト細胞が脱顆粒を引き起こし、ヒスタミンが放出さ れることで全身性のアレルギー症状を誘発する。そのため本研究では、採取した小腸組織を用いて、

各グリアジンの小腸透過性を腸管ループ法により測定し、組織中のヒスタミン量を測定した。採取し た血液は、血中グリアジン特異的IgE量、血中のアレルゲン量、血中ヒスタミン量を測定し、腹腔内

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マスト細胞は細胞膜表面の FcεRⅠの発現量をフローサイトメーターにより測定した。その結果、小 麦アレルギーモデルマウスに脱アミド化グリアジンを経口胃内投与した場合、FcεRⅠの発現量は、

未処理グリアジンに比べ抑制された。小腸透過性は、未処理グリアジンで増加したが、脱アミド化グ リアジンでは、未処理グリアジンと比較し有意に低下した。また、脱アミド化グリアジンの血中アレ ルゲン量は、未処理グリアジンに比べ低下した。これらの結果より、脱アミド化グリアジンは、in vivoの実験系においてもアレルゲン性が低いことが明らかとなった。

3. 脱アミド化グリアジンの経口免疫寛容誘導能の検討

アレルギー患者に対する治療法として、少量のアレルゲンを長期間摂取させることで経口免疫寛容 を誘導する経口免疫療法が注目されている。しかしながら、小麦アレルギー患者の症状は重篤である ことから、経口免疫療法を行う上でアレルゲンを直接投与することは、アナフィラキシーショックな どの副作用が懸念される。そのため、重篤なアレルギー症状を有する患者に対しての予防・治療に は、摂取した際にアレルギー症状を呈さず、かつ経口免疫寛容誘導能を有する低アレルゲン化食品の 開発が必要である。前章の検討において、in vivoで脱アミド化グリアジンはアレルギー症状を抑制 したことから、この脱アミド化グリアジンの経口免疫寛容誘導能について検討した。

前章と同様に、BALB/c マウスを用いて小麦グリアジンアレルギーモデルマウスを作製した。この マウスに未処理グリアジン、または脱アミド化グリアジンを4週間、2日おきに経口胃内投与した。

最終投与から1週間後に、未処理グリアジンを経口胃内投与し、投与40分後に血液、小腸を採取 し、小腸については小腸透過性を腸管ループ法により測定した。また、血液に関しては血中の各種抗 体、サイトカイン量を測定した。さらに、フローサイトメーターにより末梢血単核球で発現される regulatory T(Treg)細胞比率を測定した。

アレルギーモデルマウスに脱アミド化グリアジンを経口摂取させることで、未処理グリアジン摂取 後の小腸の透過性、血中のアレルゲン量、小腸組織・血中のヒスタミン量が低下し、アレルギー症状 の発症を抑制した。また、アレルギー発症時に活性化されるTh2細胞のマーカータンパク質である

IL-4、IgE、IgG1の産生を抑制した。さらに、Treg細胞の発現が、未処理グリアジン群と比較し有意

に増加した。また、Treg細胞から産生され、免疫細胞の抑制に関与するTGF-βの量が血中で増加し た。これらの結果より、脱アミド化グリアジンの経口投与が、経口免疫寛容を誘導することが示唆さ れた。

4. 脱アミド化グリアジンの経皮感作性評価

近年、腸管感作による小麦アレルギーを発症していなかった人が、塩酸処理小麦タンパク質を含む 洗顔石鹸を継続的に使用した後、小麦を含む食品を摂取することによりアレルギー症状を引き起こす 新しい症例が報告された。この小麦アレルギーは、塩酸処理小麦タンパク質を含む石鹸で洗顔するこ とにより、経皮的あるいは粘膜的にアレルゲンが吸収され、感作が成立したと言われているが、未だ 詳細な発症原因については解明されていない。

皮膚は、体の中と外を隔てる重要な構造物であり、外界からの刺激や異物の侵入を防いでいる。そ して近年、皮膚を介したアレルギー感作成立のメカニズムが徐々に明らかにされつつある。経皮感作 による食物アレルギーは腸管感作とは異なり、消化を受けていない食物タンパク質が経皮的に吸収さ れた後、直接免疫担当細胞に認識される。そのため、アレルゲンの構造的特性が感作強度に関与する ことが推察される。

一方、小麦タンパク質は、高い起泡性等の物理化学的特性を有するが、水に溶けにくく扱いづらい ため、塩酸により加水分解することで界面活性を改善し、シャンプーやリンスといった生活用品に用 いられてきた。塩酸処理により界面活性が改善されるのは、ペプチド結合の加水分解と、グルタミン やアスパラギンの酸アミドの脱アミド化が起こるためである。加水分解による低分子化は、皮膚吸収 性を増加させ、脱アミド化は、タンパク質/ペプチドの親水性−疎水性バランスを変化させ、界面活性 を改善させる。従って、塩酸によるタンパク質の構造変化が、経皮感作成立に関与したことが推察さ れる。

そこで本章では、陽イオン交換樹脂により脱アミド化のみを行った小麦タンパク質の経皮感作性

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を、塩酸処理後により脱アミド化と加水分解を同時に起こした小麦タンパク質、および、プロテアー ゼ分解により加水分解のみ行った小麦タンパク質の経皮感作性と比較することで評価した。

まず、前章までと同様に、未処理グリアジンおよび脱アミド化グリアジンを調製した。本検討では これに加え、ペプシン処理により低分子化のみ起こしたペプシン処理グリアジン、塩酸により低分子 化と脱アミド化の両方を起こした塩酸処理グリアジンを作製した。各種グリアジンの経皮感作性の評 価は、以下の手順で実施した。まず、BALB/cマウスの背部を剃毛し、各処理グリアジンを皮膚に塗布 する経皮免疫を1週間に1回ずつ、4週間行った。免疫終了後に各処理グリアジンの腹腔内負荷試験 を実施し、アレルギー症状の観察及び直腸温度の測定を行った。その後、得られた血清を用いて、グ リアジン特異的IgE量、遊離ヒスタミン量の測定を行い、食物アレルギー発症の程度を比較した。さ らに、経皮感作に関わる免疫細胞である好塩基球の遊走と樹状細胞の活性化についても評価を行っ た。

その結果、塩酸処理グリアジン感作群で著しいアレルギー症状、直腸温度の低下、グリアジン特異 IgE量の上昇、遊離ヒスタミン量の上昇が確認された。また、上皮中の好塩基球の遊走は、塩酸処 理グリアジンおよびペプシン処理グリアジンで見られた。一方、樹状細胞の活性化は塩酸処理グリア ジンのみで見られた。以上の結果より、塩酸処理による低分子化および脱アミド化の両方が同時に起 こったグリアジンの経皮感作性が著しく高いことが明らかとなった。さらに経皮感作は好塩基球と樹 状細胞が相互に活性化することで起こることが報告されており、本検討により塩酸処理グリアジンの みで両方の活性化が見られたことから、経皮感作には加水分解と脱アミド化の両方が起こることで増 強されることが示唆された。

5. 総括

本研究では、陽イオン交換樹脂により小麦グリアジン脱アミド化することで、そのアレルゲン性が 低減化することを、小麦アレルギーモデルマウスに脱アミド化グリアジンを経口摂取させることによ り示した。さらに、この脱アミド化グリアジンを連続的に経口摂取させることで、経口免疫寛容が誘 導され、未処理グリアジンを経口摂取しても、アレルギー症状が抑制されることを明らかとした。ま た、近年新たに報告された小麦タンパク質による経皮感作においても、この脱アミド化グリアジンは アレルギーを誘発しないことを明らかとした。これらのことから、小麦グリアジンの陽イオン交換樹 脂による脱アミド化は、水への溶解性向上や起泡性向上などの加工特性の改善に加え、より安全性の 高い経口免疫寛容を誘導する低アレルゲン化食品の開発に有効な手段であると考えられる。本研究の 成果は、小麦アレルギー患者において、アレルギーを誘発せず、減感作療法にも利用できる製品開発 に対して大きく寄与するものである。

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