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糖尿病性腎症への TGF-β1 抑制ペプチド化合物 PI ポリアミドの効果の検討(要約)

日本大学大学院医学研究科博士課程 内科系腎臓内科学専攻

堀越 周

修了年 2018 年 指導教員 阿部 雅紀

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【背景】

1. 末期腎不全における糖尿性腎症

現在の日本の高度医療を持ってしても、進行性腎障害を根治する有効な治療 法が無く、現在全国で32万人が末期腎不全で透析療法を受け、毎年37千人 が新たに透析導入となっており、透析療法で年間2兆円の医療費がかかり、年 間医療予算の8%を占めている。透析療法は単に血液浄化であり、慢性腎不全を 起こす腎症の根治的治療の開発が僅々の課題である。糖尿病性腎症は糖尿病に おける三大合併症の一つであり、1998 年に慢性糸球体腎炎と入れ替わり、透析 導入となる原疾患の首位の座について以来、増加の一途を示していたが、2008 年以降は導入患者の 44%前後で推移している。日本透析医学会による全国調査 では,2014 年の透析導入36,377名のうち糖尿病性は15,809名と43.5%を占 める(1)。糖尿病では、比較的早期から糸球体基底膜の肥厚が出現し、高血糖によ る細胞障害のため足突起の機能異常やアポトーシスによるポドサイトの脱落、

血管内皮障害が生じ、糸球体バリア機能が障害される。また、メサンジウム細 胞の機能異常により、メサンジウム細胞は細胞外基質産生を増加させる。この メサンジウム基質の蓄積から糸球体毛細血管が閉塞し、糖尿病に特徴的な結節 性病変を形成し、糸球体硬化に至る。糖尿病性腎症の病変の主体は糸球体障害 であるが、糖尿病性腎症による蛋白尿と腎機能障害は、糸球体病変の進展だけ でなく、尿細管障害の進行、及び細動脈硬化症の進展によって増悪する。尿細 管障害は糸球体硬化に伴う二次的な変化に加え、高血糖や多量の蛋白尿にさら されることによる直接的な障害によっても惹起され、腎機能低下につながって いく。(2)。1型糖尿病における糖尿病性腎症の典型的な臨床経過は、微量アルブ ミン尿の出現により発症し、未治療であれば年間10~20%程度のアルブミン排泄 量の増加を生じる。その後、10~15年で蛋白尿が陽性となる顕性腎症に移行す

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る。顕性腎症まで病期が進行するとGFRが年間2~20ml/分低下し、半数以上の 症例で10年以内に末期腎不全に陥ると考えられている。一方、2型糖尿病では 糖尿病の発症時期が不明であることが多く、糖尿病診断時にすでにアルブミン 尿や蛋白尿が出現していること症例もあるが、臨床経過は1型糖尿病とほぼ同 様と考えられている(3)

2.糖尿病性腎症の組織学的変化

腎生検による糖尿病性腎症の組織像では,糸球体のびまん性病変としてメサ ンギウム基質の増生・拡大と糸球体毛細血管壁の肥厚が認められる。結節性病 変は本症に特異性の高い病変であり、典型的な結節は,円形で糸球体毛細血管 係蹄の中心部に形成され、結節の大きさは様々である。同部位の細胞は結節の 周辺に局在する。進行例では,結節は大型となり糸球体毛細血管を閉塞する。

浸出性病変では,糸球体内,ボウマン嚢内ならびに輸出・輸入細動脈壁の硝子 様沈着が認められる。糸球体毛細血管あるいは糸球体外小血管内に血漿蛋白,

脂質およびムコ蛋白からなる成分の浸出がみられる。浸出性病変は,比較的少 ないが糖尿病の早い時期から認められる(4)。糖尿病性腎症早期に糸球体過剰濾 過・肥大を認めるが、このとき糸球体係蹄にて新たな毛細血管の形成、既存の 血管の伸長等の血管新生が観察される。代表的血管新生因子である Vascular endothelial growth factor (VEGF) は血管内皮細胞増殖・遊走を促進し、血管 透過性を亢進させる。糸球体にてVEGFは主に足細胞にて発現するが、高血糖、

TGF-β、アンジオテンシンⅡにより促進されることが報告されている(5)。また、

VEGFは糸球体基底膜 (Glomerular basement membrane: GBM)の構成要素で あるⅣ型コラーゲンα3鎖の足細胞における発現をTGF-β1 の下流にて促進す ることが報告された。糖尿病性腎症において観察される GBM の肥厚ならびに

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糸球体濾過障壁障害にVEGFが関与する可能性が示唆される(6)

3. 糖尿病性腎症へのTGF-βの関与の報告

糖尿病性腎症において、TGF-βは高グルコースにより誘導されてECMを産

生し、線維化を促進するマスター制御因子である。TGF-βは糖尿病性腎症の腎 臓に蓄積するタンパク質の合成を促進することが知られている(7)。糸球体細胞中 の高グルコースによってTGF-βが過剰に発現すると、マトリックスタンパク質 の沈着が増加し、糸球体硬化につながる。また、このような過剰発現が起こる と、ポドサイトのアポトーシスが起こり、フィルターとしての腎臓の機能が低 下してしまう。

4. 腎線維化および糖尿病性腎症に於けるmicro RNAの関与

腎線維化および糖尿病性腎症の病態において糸球体内内皮細胞が間葉化する Endothelial mesenchymal transition (EndMT)と尿細管上皮が間葉化する EMTが報告されている。このEndMTEMTには遺伝子発現を制御するmicro RNAの関与が最近報告され(8)、これら EMTおよび EndMTに糖尿病腎症で発 現亢進している TGF-β1 が関与していると考えられる。EndMT に関与する microRNA の 中 で EndMT を 促 進 す る 方 向 に 働 く microRNA と し て microRNA21microRNA23aが挙げられる。

5. 糖尿病性腎症に於ける、糸球体内皮細胞とポドサイトのクロストークの破綻 最近、糸球体内皮細胞とポドサイトがお互いクロストークしているとの報告(9) がある。ポドサイトは元来多くのサイトカインを含めた分子を産生し、VEGF, CXC chemokine receptor 4(CXCR4), Tie-2などに作用し、糸球体内皮細胞機能

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を維持する。 糸球体内皮細胞はActivated protein Cを産生して糸球体内皮機 能を維持している。つまり糸球体内皮細胞に EndMT が起こるとポドサイト傷 害がおこり、アルブミン尿や蛋白尿が生じる。

6. ピロール・イミダゾール(Pyrrole Imidazole: PI)ポリアミド

PIポリアミドは、1996年にカルフォルニア工科大学のPeter B. Dervanらに よりDNA認識抗生物質より見いだされたDNA配列特異的に結合する中分子ペ プチド化合物である。同時期に京都大学杉山はデュオカルマイシン A とディス タマイシン A が協同的な DNA のアルキル化能を有していることを発見し、そ れに基づいてこれまでPIポリアミドを基盤とした様々な機能分子が設計されて いる。合成されたDNA 結合PIポリアミドは、Py/ImペアがCG、Py/Py ペア

ATまたはTA、Im/PyペアはGCを認識し、これにより任意のDNAに塩基

特異的に結合し、ターゲット遺伝子プロモーターに結合するよう設計すると、

転写因子の結合を阻害し遺伝子発現を抑制する。

PI ポリアミドの特徴としてi) 転写因子より強力に2 本鎖DNA の結合し、遺 伝子発現を抑制する遺伝子制御薬である。ii)有機化合物であるため核酸医薬と 違い核酸分解酵素に分解されず細胞や生体内で安定である。iii)Drug delivery

systemなしに細胞の核に取り込まれ、様々な遺伝子をターゲットとして自由に

分子設計できる。このようにPIポリアミドは遺伝子制御薬であり、これまで治 療薬の無かった疾患の責任因子に対しても自由に設計でき、核酸医薬の分解性 の欠点がなく、疾病で活性化した転写活性を抑制するため病変のみを抑制し、

副作用の少ない転写活性抑制遺伝子制御薬として期待できる(10-12)

日本大学ではこれまで TGF-β1 に対する PI ポリアミドを分子設計し、ラッ

トの腎症(13,14)、血管再狭窄(15)、腹膜硬化症(16)、角膜損傷(17)、皮膚瘢痕(18)を著明

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に抑制する事を報告した。

【目的】

本研究では高糖刺激ラットメサンジウム細胞に対するTGF-β1のプロモータ ーを制御する遺伝子制御薬 PI ポリアミド効果及び、ストレプトゾトシン惹起性 糖尿病性腎症モデルでの腎症の進展に対する作用につき検討した。

【方法と結果】

糖尿病性腎症の病態形成にはTransforming growth factor-β1(TGF-β1)の 関与が知られている。本研究では、TGF-β1 のプロモータである Activator protein-1(AP-1)の結合領域に結合しTGF-β1の発現を抑制するTGF-β1 Pyrrole Imidazole( PI)ポリアミド使用し糖尿病性腎症の抑制効果の検討を行った。In

vitroの実験としてラット腎メサンジウム細胞に対し25mMの高糖刺激を6〜48

時間行いリアルタイムRT-PCR法にて TGF-β1の増加を検討した。その結果刺 激後6時間で最もTGF-β1の発現が増加した。同時に、合成型マーカーである Osteopontinの発現も6時間以降に増加していた。そこでTGF-β1 PIポリアミ ドの作用を検討した結果、10-8M TGF-β1 PI ポリアミドは高糖刺激による

TGF-β1 mRNA発現増加を有意に抑制した。また、Osteopontin発現に関して

は同濃度にて抑制傾向を示した。次に、高糖刺激におけるラットメサンジウム 細胞の増殖能をPremix WST-1 Cell Proliferation Assay Systemを使用し検討 した結果、有意な増殖能の増加認め、 TGF-β1PIポリアミドは高糖刺激による 増殖能の増加を有意に制御した。

In vivo の 実 験 に お い て は 、Wistar ラ ッ ト に ス ト レ プ ト ゾ ト シ ン (Streptozotocin: STZ)を投与し、1型糖尿病モデルラットを作製した。糖尿病性

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腎症の指標として尿蛋白、尿中アルブミン(Albumen: Alb)の定量を行った結 果、コントロール群と比較し5 週経過時に尿蛋白、尿中 Alb 共に上昇を認め、

11週後には有意な上昇を認めた。そこで、腎臓組織変化をHematoxylin Eosin

染色・Masson Trichrome染色で確認したところ、明らかな線維化や結節像は認

められなかったが、糸球体障害指数( Glomerular injury scores: GIS) ・尿細管 間質障害指数( Tubular injury scores: TIS) にて有意な障害が認められた。また、

腎臓組織中の TGF-β1 の発現及び Endothelial Mesenchymal Transition (EndMT)の指標となるmicroRNA21・23aの有意な上昇も認めた。そこで、STZ ラットに対し1.5×10-6M/body/週2回のTGF-β1 PIポリアミドの腹腔内投与を 行った。その結果、尿蛋白・尿中 Alb は有意な変化は認めなかった。腎組織の

GIS・TIS の比較においてはポリアミド群で有意な抑制効果を認め、Western

blot法にて腎臓組織中TGF-β1の蛋白の発現も抑制された。microRNA2123a においては腎組織中の発現量はミスマッチ群に比べポリアミド群で抑制傾向で あったが有意差は認められなかった。電子顕微鏡でのポドサイトの障害を比較 したところ、 ポリアミド群で足突起の融合やスリット構造の消失の程度が軽度 であった。以上の結果より、高糖刺激によるメサンジウム細胞からの TGF-β1 発現増加およびメサンジウム細胞増殖促進をTGF-β1PIポリアミドは抑制した。

また、STZ 投与による糖尿病モデルラットにおいて誘導された糸球体病変およ び尿細管間質病変をTGF-β1PIポリアミドは抑制した。TGF-β1PIポリアミド は将来糖尿病性腎症の治療薬となりうる事が示唆された。

【まとめ】

本研究において高糖刺激によるメサンジウム細胞からのTGF-β1発現増加お よびメサンジウム細胞増殖促進をTGF-β1PIポリアミドは抑制した。またSTZ

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投与による糖尿病モデルラットにおおいて誘導された糸球体病変および尿細管 間質病変をTGF-β1PIポリアミドは抑制した。これらの所見によりTGF-β1PI ポリアミドは将来糖尿病性腎症の治療薬となりうる可能性があると考えられる。

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