Financial Services Architect Vol.39
2015
年秋号 金融サービス本部
ペイメントの未来
デジタルがもたらす証券リテールビジネスの変革
保険ビジネスの商品・サービス連携の方向性
ビジネスプロセスの高度化を実現する
Pega
目次
Financial Services Architect
1
. ペイメントの未来
∼「創造的破壊」を生き抜くために
マネジング・ディレクター 粟倉 万統
2
. デジタルがもたらす証券リテールビジネスの変革
∼「デジタル世代」獲得に向けた新時代の幕開け
シニア・マネジャー 武藤 惣一郎
3
. 保険ビジネスの商品・サービス連携の方向性
∼カスタマータッチポイント掌握に向けて
シニア・マネジャー 大喜多 雄志
4
. ビジネスプロセスの高度化を実現する
Pega
∼その有効性と弊社の支援
シニア・マネジャー 石河 賢
5
. 最近話題のプロジェクト
6
. アライアンスおよびパッケージ・システム
7
. 弊社外部講演およびレポートのご紹介
8
. 会社概要
ペイメントの将来展望
デジタル化の進展に伴い、リアル世界と バーチャル世界の垣根はなくなる。この 潮流の中で起こりうるペイメントの3つ の変容について解説する(図表1)。 変容1.
デジタル決済エージェント 現在様々な決済手段が市場に投入されて いる。代表的な決済手段は以下のもので ある。 · コンタクトレス・カード 欧州で急速に拡大 · モバイルペイメントApple Pay
ユーザは米国で80
万人を突破 · ID決済 オンラインからリアルへ進出 決済代行会社による情報集約 ·P2P
決済 個人間やアカウント間の送金 銀行による開発が盛ん · デジタルカレンシーBitCoinやRippleによる決済トランザク
ションコストの低減や種類の異なる電 子マネー・ポイントの自由交換の可能 性あり このように新たな決済手段が次々と登場 する中、複数の決済手段を統合する動き もある。イギリスのZapp
は、オンライ ン決済時にモバイル認証を活用する等、 シーンに応じて決済手段(NFC/QR/
オン ライン)を使い分けることができる。こ のような取組みは加速し、最終的には決 済手段をワンストップで提供し、顧客が 自由に選択できるデジタル決済エージェ ントと呼ばれる存在が登場するだろう。 デジタル決済エージェントは、複数の決 済手段のハブとなり顧客のシェアオブ ウォレット(顧客の推定総決済額に占め る自社での決済額の割合)を集約する。 デジタル決済エージェントにより消費者 は以下のような利便性を享受できる。例 えば、ア)複数のデジタルバリューの交 換、イ)セキュリティを気にせず、オン ライン・リアルとも一つのアカウントに 決済を集約、ウ)リワードやコストな ど、様々な条件を比較し最も有利な決済 手段を選択、等だ。 しかしながら、デジタル決済エージェン トの登場は、決済自体の利便性は高める ものの、消費者に乗換えを促進するには 不十分だ。そこで、次に紹介する購買体 験そのものを変えるデジタルコンバー ジェンスが重要になってくる。 変容2.
デジタルコンバージェンス デジタルコンバージェンスとは、異業種 とのエコシステム(生態系)により、決 済の川上の商流と結びつくことで、従来 にないサービスを提供することだ。ペイ メ ン ト 企 業 に と っ て は 、 自 社 決 済 ソ リューションへの集約と、異業種に顧客 を送客することによる新たな収益源の確 保(あるいは消費者への還元)という意 味を持つ。 デジタルの世界では、情報を集約し個客 の文脈を捉えた提案ができれば、直接の モノやサービスの提供者でなくとも、顧 客に価値ある情報提供が可能だ。これま で の 決 済 だ け で な く 、 決 済 前 後 の バ リューチェーンにおいて幅広いサービス が提供可能になる。例えば、ア)店舗に 行く前にタイミングよく自分にあったお 得情報が得られる、イ)買い物中はリッ チな商品情報や口コミを確認しながらお 店(・商品)を選べる、ウ)買い物後は 気に入ったお店(・商品)のお気に入り 登録や、買い逃した関連商品をオンライ ンで簡単に購入できる、等だ。このよう にデジタルの力を最大限活用すれば、こ れまでにない購買体験を生み出し、それ に決済(あるいは他の金融サービス)を 紐付けることができる。 Eコマース事業者や流通業者は、自ら販 売するモノやサービスと紐づけて独自の 経済圏を作るモデルを展開している。金 融に置き換えれば、カード利用と連動し た銀行の各種手数料割引やグループ優良 顧客への付帯サービス提供だ。しかし、 これらの経済圏はクローズドモデルであ る。様々なニーズを持つ顧客を魅了して シェアオブウォレットを向上させるに は、消費者に関わるライフシーンを面で 捉えたオープンなプラットフォームが必 要だ。これには、個客が自分の好みに あった受けたいサービスの種類を選択で きること、信頼感のあるAIコンシェル ジュが適正な情報を提供すること、顧客 が自身の優良度や貢献に応じた十分なメ リットを認識できること、また加盟店が プラットフォームを活用し自ら主体的に マーケティングに参加できることが重要だ。 ポーランドのm-Bank
は、独自のマーケ ティングプラットフォームを構築してい る。加盟店は顧客の位置情報をもとにリ アルタイムリコメンデーションを送信で きる。また30
秒ワンクリックローンも 提供しており、買い物時のローンニーズ を取り込んでいる。立上げ後1
年で60
万 ユーザーを獲得した。 デジタルコンバージェンスの取組みは、 我が国の重要アジェンダである地方創生 やインバウンド戦略の文脈に盛り込んで も面白い。例えば物量では大手に後塵を 拝するが地元に愛される地場優良加盟店 を巻き込んだエコシステムや、不慣れな 土地でもストレスなく特別な体験がした い外国人をターゲットとしたエコシステ ム構築などである。 変容3.
プロセッシング発展と非競争領域 のシェアード化 川下から川上へ進出していくデジタルコ ンバージェンスに対し、川上から川下に 進出する異業種を下支えしていく動きも 活発化すると考えられる。企業のマーケ ティング競争の結果、自ら決済まで行う プレイヤーがいる一方、既存のプロセッ サーを活用するケースも増加していくだ ろう。これまで委託企業は独立したサー ビスとしての決済サービスを利用してい たがこれからは、アドオンで外部API
化 されたペイメントの必要な機能を簡単に 組み込み、企業の戦略的意図が働くエコ システムが実現する形に変わっていくと 考えられる。即ち、如何に簡単に組み込 み可能かが勝敗を決める。 さらに、低価格にサービスを展開するた めには、労働集約的なペイメントのオペ レーションをデジタル化し効率化を推し 進める必要がある。また、スケールメ リットを享受するため、非競争領域は一 層の集約が必要ではないかと考えられ る。例えば、加盟店管理領域などは、加 盟店がカード会社ごとに重複しているた め、同じ加盟店に対し、複数のカード会 社が同じことを行っている。この非効率 を解消するためにはシェアードサービス 化が有効だ。例えば、加盟店の基礎情報 を管理しメンテナンスする加盟店版CIC
や、カード会社間の紛争を一定のルール に従って精算するチャージバック精算セ ンターなどの誕生が考えられる。 また長期的にはペイメントネットワーク やペイメント企業のコア精算システム は、BitCoinやRippleの根幹をなすブ ロックチェーン技術により刷新される可 能性がある。今後必要となる取組み
前述したペイメントの3つの変容の荒波 を生き残るために、従来のペイメント企 業にとっては、どのような取組みが求め られるのであろうか。 取組み1.
デジタル企業のケイパビリティ 獲得 自ら「創造的破壊」を引き起こしていく 側になるためには、まずはデジタル企業 に学ぶ必要がある。徹底的なカスタマー エクスペリエンス追求や、アイデアを形 にするためのアプローチやチーミングが 重要だ(図表2
)。簡単なものは即座に 市場の審判を仰ぎ、経営は反応の良いも のを後押しすればいい。市場を変える大 きな取組みは、徹底的なリサーチ、プロ トタイプ制作とユーザによる検証を経て 市場に投入することである。サービスデ ザインは、ビジネス・アーキテクト、カ スタマー・エクスペリエンス・デザイ ナー、エンジニア、ユーザを巻き込ん で、右脳系、左脳系をフル活用して行 う。これらの活動は、イノベーション専 門のラボを設立し、一定の予算キャップ のもと進められる。このラボへの投資 は、既存事業の舵取りの誤りによる損失 と比べれば、微々たるものだ。失敗を恐 れていては、「創造的破壊」は起らな い。例え失敗続きでも、カスタマーエク スペリエンスに関わる文化や、Fintech等 が持つ技術を形にしていくための目利き の能力が蓄積されるだろう。 取組み2.
事業の非最適化領域の洗い出し スクエアによる「創造的破壊」とは何で あったか。それまで、中小加盟店にとっ ては端末コストの高さや、導入までの時 間が長いという問題があった。これをス クエアは、端末無料や途上中心の加盟店 審査等、これまでの常識を覆すことによ り市場参入を果たした。テクノロジーを 起点とした着想はデジタル企業の専売特 許かもしれないが、事業起点の着想はペ イメント企業にしかできない。ゲーム チェンジャーとなるためには、今一度、 これまでの常識を疑って自身の事業の非 最適化領域を洗い出す必要があろう。リ スクに連動しない料率設定、顧客の希望 を反映しないリワード、自由に交換でき ないポイント等、ペイメント企業だから こそ理解している非最適化領域を見つけ ることで、顧客の潜在ニーズや新たなバ リューチェーン上のマネタイズ余地を見つ けることができるのではないか。まとめ
テクノロジーの発展を背景としたFintech
企業など新たな「創造的破壊」者が次々 と登場する中では、本稿で上げた3つの 変容以外にも様々な変化が起こりうる。 あくまでペイメント事業の中枢に位置し ビジネスを深く理解する既存プレイヤー は、デジタル企業に学ぶことで不足して いるケイパビリティを獲得し、「創造的 破壊」を取り込むことなしに、大きな成 長は得られないだろう。 最後に、弊社は世界中でペイメントの革 新を支援している。我が国においても、 世界に通用する日本発の決済サービス構 築を目指すペイメント企業を支援できれ ば、この上ない喜びである。Financial Services Architect
(
FS
アーキテクト)は、
金融業界のトレンド、最新の
IT
情報、
弊社サービスおよび貴重なユーザ事例を紹介する、
日本オフィス発のビジネス季刊誌です。
2 敬具 拝啓、仲秋の候、貴社におかれましてはますますご清栄のことと、お慶び申し上げます。 平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。 異業種による金融ビジネスへの参入により、これまでの金融自由化の枠を超えた大き な変化が起きています。そもそもの金融ビジネスのあり方、金融機関のあり方も含め た大きな議論に発展する兆しもある一方、金融機関に対する規制のあり方も論じられ るようになってきました。これまでのビジネスの枠にとらわれず、顧客ニーズの変化 に応じて求められるサービスをどう展開するかがカギになります。その変化の背景に ある、IT技術、特にデジタル技術の進展に対するビジネスサイドの柔軟性、能動性が 試されているのかもしれません。 一方で、変化を先取るべく経営資源の優先順位を大きくシフトさせたい中で、足元の ビジネスを支える人材不足も顕著であり、現実的に難しいという事情もあります。金 融機関やIT業界に限らず、日本全体での人材不足への対応が今後のビジネスを大きく 左右する可能性も高くなっています。そのため、既存ビジネスを如何に効率的にする かということも、また新たに重要性を帯びてきています。これまでのコスト削減の文 脈だけではなく、限られた人材有効活用のためにも、さらなる業務、システムの見直 しが急務となるでしょう。 弊社では、以前から「デジタルによる創造的な破壊における勝者」となるための様々 なご支援をさせていただいております。また、業務効率化についても、新しいテクノ ロジーを活用したソリューションが成果を収め始めています。 本号では、デジタル技術の波から大きな変化に直面しているペイメント領域での未 来、デジタル世代におけるリテール証券の今後、デジタルによって生み出される保険 ビジネスにおける顧客接点の新たな可能性、それらに加えて、業務効率化を生み出す
Pega
ソリューションを紹介しています。 ご一読いただき、貴社の取組みの一助になれば幸いです。 今後ともご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。2015
年10
月吉日 アクセンチュア株式会社 金融サービス本部 統括本部長 中野 将志ペイメントの将来展望
デジタル化の進展に伴い、リアル世界と バーチャル世界の垣根はなくなる。この 潮流の中で起こりうるペイメントの3つ の変容について解説する(図表1)。 変容1.
デジタル決済エージェント 現在様々な決済手段が市場に投入されて いる。代表的な決済手段は以下のもので ある。 · コンタクトレス・カード 欧州で急速に拡大 · モバイルペイメントApple Pay
ユーザは米国で80
万人を突破 · ID決済 オンラインからリアルへ進出 決済代行会社による情報集約 ·P2P
決済 個人間やアカウント間の送金 銀行による開発が盛ん · デジタルカレンシーBitCoinやRippleによる決済トランザク
ションコストの低減や種類の異なる電 子マネー・ポイントの自由交換の可能 性あり このように新たな決済手段が次々と登場 する中、複数の決済手段を統合する動き もある。イギリスのZapp
は、オンライ ン決済時にモバイル認証を活用する等、 シーンに応じて決済手段(NFC/QR/
オン ライン)を使い分けることができる。こ のような取組みは加速し、最終的には決 済手段をワンストップで提供し、顧客が 自由に選択できるデジタル決済エージェ ントと呼ばれる存在が登場するだろう。 デジタル決済エージェントは、複数の決 済手段のハブとなり顧客のシェアオブ ウォレット(顧客の推定総決済額に占め る自社での決済額の割合)を集約する。 デジタル決済エージェントにより消費者 は以下のような利便性を享受できる。例 えば、ア)複数のデジタルバリューの交 換、イ)セキュリティを気にせず、オン ライン・リアルとも一つのアカウントに 決済を集約、ウ)リワードやコストな ど、様々な条件を比較し最も有利な決済 手段を選択、等だ。 しかしながら、デジタル決済エージェン トの登場は、決済自体の利便性は高める ものの、消費者に乗換えを促進するには 不十分だ。そこで、次に紹介する購買体 験そのものを変えるデジタルコンバー ジェンスが重要になってくる。 変容2.
デジタルコンバージェンス デジタルコンバージェンスとは、異業種 とのエコシステム(生態系)により、決 済の川上の商流と結びつくことで、従来 にないサービスを提供することだ。ペイ メ ン ト 企 業 に と っ て は 、 自 社 決 済 ソ リューションへの集約と、異業種に顧客 を送客することによる新たな収益源の確 保(あるいは消費者への還元)という意 味を持つ。 デジタルの世界では、情報を集約し個客 の文脈を捉えた提案ができれば、直接の モノやサービスの提供者でなくとも、顧 客に価値ある情報提供が可能だ。これま で の 決 済 だ け で な く 、 決 済 前 後 の バ リューチェーンにおいて幅広いサービス が提供可能になる。例えば、ア)店舗に 行く前にタイミングよく自分にあったお 得情報が得られる、イ)買い物中はリッ チな商品情報や口コミを確認しながらお 店(・商品)を選べる、ウ)買い物後は 気に入ったお店(・商品)のお気に入り 登録や、買い逃した関連商品をオンライ ンで簡単に購入できる、等だ。このよう にデジタルの力を最大限活用すれば、こ れまでにない購買体験を生み出し、それ に決済(あるいは他の金融サービス)を 紐付けることができる。 Eコマース事業者や流通業者は、自ら販 売するモノやサービスと紐づけて独自の 経済圏を作るモデルを展開している。金 融に置き換えれば、カード利用と連動し た銀行の各種手数料割引やグループ優良 顧客への付帯サービス提供だ。しかし、 これらの経済圏はクローズドモデルであ る。様々なニーズを持つ顧客を魅了して シェアオブウォレットを向上させるに は、消費者に関わるライフシーンを面で 捉えたオープンなプラットフォームが必 要だ。これには、個客が自分の好みに あった受けたいサービスの種類を選択で きること、信頼感のあるAIコンシェル ジュが適正な情報を提供すること、顧客 が自身の優良度や貢献に応じた十分なメ リットを認識できること、また加盟店が プラットフォームを活用し自ら主体的に マーケティングに参加できることが重要だ。 ポーランドのm-Bank
は、独自のマーケ ティングプラットフォームを構築してい る。加盟店は顧客の位置情報をもとにリ アルタイムリコメンデーションを送信で きる。また30
秒ワンクリックローンも 提供しており、買い物時のローンニーズ を取り込んでいる。立上げ後1
年で60
万 ユーザーを獲得した。 デジタルコンバージェンスの取組みは、 我が国の重要アジェンダである地方創生 やインバウンド戦略の文脈に盛り込んで も面白い。例えば物量では大手に後塵を 拝するが地元に愛される地場優良加盟店 を巻き込んだエコシステムや、不慣れな 土地でもストレスなく特別な体験がした い外国人をターゲットとしたエコシステ ム構築などである。 変容3.
プロセッシング発展と非競争領域 のシェアード化 川下から川上へ進出していくデジタルコ ンバージェンスに対し、川上から川下に 進出する異業種を下支えしていく動きも 活発化すると考えられる。企業のマーケ ティング競争の結果、自ら決済まで行う プレイヤーがいる一方、既存のプロセッ サーを活用するケースも増加していくだ ろう。これまで委託企業は独立したサー ビスとしての決済サービスを利用してい たがこれからは、アドオンで外部API
化 されたペイメントの必要な機能を簡単に 組み込み、企業の戦略的意図が働くエコ システムが実現する形に変わっていくと 考えられる。即ち、如何に簡単に組み込 み可能かが勝敗を決める。 さらに、低価格にサービスを展開するた めには、労働集約的なペイメントのオペ レーションをデジタル化し効率化を推し 進める必要がある。また、スケールメ リットを享受するため、非競争領域は一 層の集約が必要ではないかと考えられ る。例えば、加盟店管理領域などは、加 盟店がカード会社ごとに重複しているた め、同じ加盟店に対し、複数のカード会 社が同じことを行っている。この非効率 を解消するためにはシェアードサービス 化が有効だ。例えば、加盟店の基礎情報 を管理しメンテナンスする加盟店版CIC
や、カード会社間の紛争を一定のルール に従って精算するチャージバック精算セ ンターなどの誕生が考えられる。 また長期的にはペイメントネットワーク やペイメント企業のコア精算システム は、BitCoinやRippleの根幹をなすブ
ロックチェーン技術により刷新される可 能性がある。今後必要となる取組み
前述したペイメントの3つの変容の荒波 を生き残るために、従来のペイメント企 業にとっては、どのような取組みが求め られるのであろうか。 取組み1.
デジタル企業のケイパビリティ 獲得 自ら「創造的破壊」を引き起こしていく 側になるためには、まずはデジタル企業 に学ぶ必要がある。徹底的なカスタマー エクスペリエンス追求や、アイデアを形 にするためのアプローチやチーミングが 重要だ(図表2
)。簡単なものは即座に 市場の審判を仰ぎ、経営は反応の良いも のを後押しすればいい。市場を変える大 きな取組みは、徹底的なリサーチ、プロ トタイプ制作とユーザによる検証を経て 市場に投入することである。サービスデ ザインは、ビジネス・アーキテクト、カ スタマー・エクスペリエンス・デザイ ナー、エンジニア、ユーザを巻き込ん で、右脳系、左脳系をフル活用して行 う。これらの活動は、イノベーション専 門のラボを設立し、一定の予算キャップ のもと進められる。このラボへの投資 は、既存事業の舵取りの誤りによる損失 と比べれば、微々たるものだ。失敗を恐 れていては、「創造的破壊」は起らな い。例え失敗続きでも、カスタマーエク スペリエンスに関わる文化や、Fintech等 が持つ技術を形にしていくための目利き の能力が蓄積されるだろう。 取組み2.
事業の非最適化領域の洗い出し スクエアによる「創造的破壊」とは何で あったか。それまで、中小加盟店にとっ ては端末コストの高さや、導入までの時 間が長いという問題があった。これをス クエアは、端末無料や途上中心の加盟店 審査等、これまでの常識を覆すことによ り市場参入を果たした。テクノロジーを 起点とした着想はデジタル企業の専売特 許かもしれないが、事業起点の着想はペ イメント企業にしかできない。ゲーム チェンジャーとなるためには、今一度、 これまでの常識を疑って自身の事業の非 最適化領域を洗い出す必要があろう。リ スクに連動しない料率設定、顧客の希望 を反映しないリワード、自由に交換でき ないポイント等、ペイメント企業だから こそ理解している非最適化領域を見つけ ることで、顧客の潜在ニーズや新たなバ リューチェーン上のマネタイズ余地を見つ けることができるのではないか。まとめ
テクノロジーの発展を背景としたFintech
企業など新たな「創造的破壊」者が次々 と登場する中では、本稿で上げた3つの 変容以外にも様々な変化が起こりうる。 あくまでペイメント事業の中枢に位置し ビジネスを深く理解する既存プレイヤー は、デジタル企業に学ぶことで不足して いるケイパビリティを獲得し、「創造的 破壊」を取り込むことなしに、大きな成 長は得られないだろう。 最後に、弊社は世界中でペイメントの革 新を支援している。我が国においても、 世界に通用する日本発の決済サービス構 築を目指すペイメント企業を支援できれ ば、この上ない喜びである。3
ペイメントの未来
∼「創造的破壊」を生き抜くために
ペイメント市場が活況を呈している。
弊社とニューヨーク市パートナーシップ基金の最新調査によると、米国における
2014
年の
Fintech
に対する投資額は
98
億
9000
ドルに達し、
2013
年の約
3
倍に膨
らんでいる。この
Fintech
投資額の内訳を見るに、案件数の
29%
、投資額の
54%
が、なんとペイメントに関するものである。
E
コマース拡大など、キャッシュレス化の進展により、ペイメント市場は年率
8%
強
の成長という恩恵を受けている。その一方で、デジタル企業や異業種の参入によ
り、競争は一層激化の様相を呈している。成長を享受する一方で、これまで装置
産業として高い参入障壁に守られてきたペイメント産業が「創造的破壊」という
脅威にさらされているのだ。
本稿では、ペイメントの未来と今後必要となる取組みを解説したい。
粟倉 万統 2002年 アクセンチュア㈱入社 金融サービス本部 マネジング・ディレクターペイメントの将来展望
デジタル化の進展に伴い、リアル世界と バーチャル世界の垣根はなくなる。この 潮流の中で起こりうるペイメントの3つ の変容について解説する(図表1)。 変容1.
デジタル決済エージェント 現在様々な決済手段が市場に投入されて いる。代表的な決済手段は以下のもので ある。 · コンタクトレス・カード 欧州で急速に拡大 · モバイルペイメントApple Pay
ユーザは米国で80
万人を突破 · ID決済 オンラインからリアルへ進出 決済代行会社による情報集約 ·P2P
決済 個人間やアカウント間の送金 銀行による開発が盛ん · デジタルカレンシーBitCoinやRippleによる決済トランザク
ションコストの低減や種類の異なる電 子マネー・ポイントの自由交換の可能 性あり このように新たな決済手段が次々と登場 する中、複数の決済手段を統合する動き もある。イギリスのZapp
は、オンライ ン決済時にモバイル認証を活用する等、 シーンに応じて決済手段(NFC/QR/
オン ライン)を使い分けることができる。こ のような取組みは加速し、最終的には決 済手段をワンストップで提供し、顧客が 自由に選択できるデジタル決済エージェ ントと呼ばれる存在が登場するだろう。 デジタル決済エージェントは、複数の決 済手段のハブとなり顧客のシェアオブ ウォレット(顧客の推定総決済額に占め る自社での決済額の割合)を集約する。 デジタル決済エージェントにより消費者 は以下のような利便性を享受できる。例 えば、ア)複数のデジタルバリューの交 換、イ)セキュリティを気にせず、オン ライン・リアルとも一つのアカウントに 決済を集約、ウ)リワードやコストな ど、様々な条件を比較し最も有利な決済 手段を選択、等だ。 しかしながら、デジタル決済エージェン トの登場は、決済自体の利便性は高める ものの、消費者に乗換えを促進するには 不十分だ。そこで、次に紹介する購買体 験そのものを変えるデジタルコンバー ジェンスが重要になってくる。 変容2.
デジタルコンバージェンス デジタルコンバージェンスとは、異業種 とのエコシステム(生態系)により、決 済の川上の商流と結びつくことで、従来 にないサービスを提供することだ。ペイ メ ン ト 企 業 に と っ て は 、 自 社 決 済 ソ リューションへの集約と、異業種に顧客 を送客することによる新たな収益源の確 保(あるいは消費者への還元)という意 味を持つ。 デジタルの世界では、情報を集約し個客 の文脈を捉えた提案ができれば、直接の モノやサービスの提供者でなくとも、顧 客に価値ある情報提供が可能だ。これま で の 決 済 だ け で な く 、 決 済 前 後 の バ リューチェーンにおいて幅広いサービス が提供可能になる。例えば、ア)店舗に 行く前にタイミングよく自分にあったお 得情報が得られる、イ)買い物中はリッ チな商品情報や口コミを確認しながらお 店(・商品)を選べる、ウ)買い物後は 気に入ったお店(・商品)のお気に入り 登録や、買い逃した関連商品をオンライ ンで簡単に購入できる、等だ。このよう にデジタルの力を最大限活用すれば、こ れまでにない購買体験を生み出し、それ に決済(あるいは他の金融サービス)を 紐付けることができる。 Eコマース事業者や流通業者は、自ら販 売するモノやサービスと紐づけて独自の 経済圏を作るモデルを展開している。金 融に置き換えれば、カード利用と連動し た銀行の各種手数料割引やグループ優良 顧客への付帯サービス提供だ。しかし、 これらの経済圏はクローズドモデルであ る。様々なニーズを持つ顧客を魅了して シェアオブウォレットを向上させるに は、消費者に関わるライフシーンを面で 捉えたオープンなプラットフォームが必 要だ。これには、個客が自分の好みに あった受けたいサービスの種類を選択で きること、信頼感のあるAIコンシェル ジュが適正な情報を提供すること、顧客 が自身の優良度や貢献に応じた十分なメ リットを認識できること、また加盟店が プラットフォームを活用し自ら主体的に マーケティングに参加できることが重要だ。 ポーランドのm-Bank
は、独自のマーケ ティングプラットフォームを構築してい る。加盟店は顧客の位置情報をもとにリ アルタイムリコメンデーションを送信で きる。また30
秒ワンクリックローンも 提供しており、買い物時のローンニーズ を取り込んでいる。立上げ後1
年で60
万 ユーザーを獲得した。 デジタルコンバージェンスの取組みは、 我が国の重要アジェンダである地方創生 やインバウンド戦略の文脈に盛り込んで も面白い。例えば物量では大手に後塵を 拝するが地元に愛される地場優良加盟店 を巻き込んだエコシステムや、不慣れな 土地でもストレスなく特別な体験がした い外国人をターゲットとしたエコシステ ム構築などである。 変容3.
プロセッシング発展と非競争領域 のシェアード化 川下から川上へ進出していくデジタルコ ンバージェンスに対し、川上から川下に 進出する異業種を下支えしていく動きも 活発化すると考えられる。企業のマーケ ティング競争の結果、自ら決済まで行う プレイヤーがいる一方、既存のプロセッ サーを活用するケースも増加していくだ ろう。これまで委託企業は独立したサー ビスとしての決済サービスを利用してい たがこれからは、アドオンで外部API
化 されたペイメントの必要な機能を簡単に 組み込み、企業の戦略的意図が働くエコ システムが実現する形に変わっていくと 考えられる。即ち、如何に簡単に組み込 み可能かが勝敗を決める。 さらに、低価格にサービスを展開するた めには、労働集約的なペイメントのオペ レーションをデジタル化し効率化を推し 進める必要がある。また、スケールメ リットを享受するため、非競争領域は一 層の集約が必要ではないかと考えられ る。例えば、加盟店管理領域などは、加 盟店がカード会社ごとに重複しているた め、同じ加盟店に対し、複数のカード会 社が同じことを行っている。この非効率 を解消するためにはシェアードサービス 化が有効だ。例えば、加盟店の基礎情報 を管理しメンテナンスする加盟店版CIC
や、カード会社間の紛争を一定のルール に従って精算するチャージバック精算セ ンターなどの誕生が考えられる。 また長期的にはペイメントネットワーク やペイメント企業のコア精算システム は、BitCoinやRippleの根幹をなすブ ロックチェーン技術により刷新される可 能性がある。今後必要となる取組み
前述したペイメントの3つの変容の荒波 を生き残るために、従来のペイメント企 業にとっては、どのような取組みが求め られるのであろうか。 取組み1.
デジタル企業のケイパビリティ 獲得 自ら「創造的破壊」を引き起こしていく 側になるためには、まずはデジタル企業 に学ぶ必要がある。徹底的なカスタマー エクスペリエンス追求や、アイデアを形 にするためのアプローチやチーミングが 重要だ(図表2
)。簡単なものは即座に 市場の審判を仰ぎ、経営は反応の良いも のを後押しすればいい。市場を変える大 きな取組みは、徹底的なリサーチ、プロ トタイプ制作とユーザによる検証を経て 市場に投入することである。サービスデ ザインは、ビジネス・アーキテクト、カ スタマー・エクスペリエンス・デザイ ナー、エンジニア、ユーザを巻き込ん で、右脳系、左脳系をフル活用して行 う。これらの活動は、イノベーション専 門のラボを設立し、一定の予算キャップ のもと進められる。このラボへの投資 は、既存事業の舵取りの誤りによる損失 と比べれば、微々たるものだ。失敗を恐 れていては、「創造的破壊」は起らな い。例え失敗続きでも、カスタマーエク スペリエンスに関わる文化や、Fintech等 が持つ技術を形にしていくための目利き の能力が蓄積されるだろう。 取組み2.
事業の非最適化領域の洗い出し スクエアによる「創造的破壊」とは何で あったか。それまで、中小加盟店にとっ ては端末コストの高さや、導入までの時 間が長いという問題があった。これをス クエアは、端末無料や途上中心の加盟店 審査等、これまでの常識を覆すことによ り市場参入を果たした。テクノロジーを 起点とした着想はデジタル企業の専売特 許かもしれないが、事業起点の着想はペ イメント企業にしかできない。ゲーム チェンジャーとなるためには、今一度、 これまでの常識を疑って自身の事業の非 最適化領域を洗い出す必要があろう。リ スクに連動しない料率設定、顧客の希望 を反映しないリワード、自由に交換でき ないポイント等、ペイメント企業だから こそ理解している非最適化領域を見つけ ることで、顧客の潜在ニーズや新たなバ リューチェーン上のマネタイズ余地を見つ けることができるのではないか。まとめ
テクノロジーの発展を背景としたFintech
企業など新たな「創造的破壊」者が次々 と登場する中では、本稿で上げた3つの 変容以外にも様々な変化が起こりうる。 あくまでペイメント事業の中枢に位置し ビジネスを深く理解する既存プレイヤー は、デジタル企業に学ぶことで不足して いるケイパビリティを獲得し、「創造的 破壊」を取り込むことなしに、大きな成 長は得られないだろう。 最後に、弊社は世界中でペイメントの革 新を支援している。我が国においても、 世界に通用する日本発の決済サービス構 築を目指すペイメント企業を支援できれ ば、この上ない喜びである。 たかつな4
ペイメントの将来展望
デジタル化の進展に伴い、リアル世界と バーチャル世界の垣根はなくなる。この 潮流の中で起こりうるペイメントの3つ の変容について解説する(図表1)。 変容1.
デジタル決済エージェント 現在様々な決済手段が市場に投入されて いる。代表的な決済手段は以下のもので ある。 · コンタクトレス・カード 欧州で急速に拡大 · モバイルペイメントApple Pay
ユーザは米国で80
万人を突破 · ID決済 オンラインからリアルへ進出 決済代行会社による情報集約 ·P2P
決済 個人間やアカウント間の送金 銀行による開発が盛ん · デジタルカレンシーBitCoinやRippleによる決済トランザク
ションコストの低減や種類の異なる電 子マネー・ポイントの自由交換の可能 性あり このように新たな決済手段が次々と登場 する中、複数の決済手段を統合する動き もある。イギリスのZapp
は、オンライ ン決済時にモバイル認証を活用する等、 シーンに応じて決済手段(NFC/QR/
オン ライン)を使い分けることができる。こ のような取組みは加速し、最終的には決 済手段をワンストップで提供し、顧客が 自由に選択できるデジタル決済エージェ ントと呼ばれる存在が登場するだろう。 デジタル決済エージェントは、複数の決 済手段のハブとなり顧客のシェアオブ ウォレット(顧客の推定総決済額に占め る自社での決済額の割合)を集約する。 デジタル決済エージェントにより消費者 は以下のような利便性を享受できる。例 えば、ア)複数のデジタルバリューの交 換、イ)セキュリティを気にせず、オン ライン・リアルとも一つのアカウントに 決済を集約、ウ)リワードやコストな ど、様々な条件を比較し最も有利な決済 手段を選択、等だ。 しかしながら、デジタル決済エージェン トの登場は、決済自体の利便性は高める ものの、消費者に乗換えを促進するには 不十分だ。そこで、次に紹介する購買体 験そのものを変えるデジタルコンバー ジェンスが重要になってくる。 変容2.
デジタルコンバージェンス デジタルコンバージェンスとは、異業種 とのエコシステム(生態系)により、決 済の川上の商流と結びつくことで、従来 にないサービスを提供することだ。ペイ メ ン ト 企 業 に と っ て は 、 自 社 決 済 ソ リューションへの集約と、異業種に顧客 を送客することによる新たな収益源の確 保(あるいは消費者への還元)という意 味を持つ。 デジタルの世界では、情報を集約し個客 の文脈を捉えた提案ができれば、直接の モノやサービスの提供者でなくとも、顧 客に価値ある情報提供が可能だ。これま で の 決 済 だ け で な く 、 決 済 前 後 の バ リューチェーンにおいて幅広いサービス が提供可能になる。例えば、ア)店舗に 行く前にタイミングよく自分にあったお 得情報が得られる、イ)買い物中はリッ チな商品情報や口コミを確認しながらお 店(・商品)を選べる、ウ)買い物後は 気に入ったお店(・商品)のお気に入り 登録や、買い逃した関連商品をオンライ ンで簡単に購入できる、等だ。このよう にデジタルの力を最大限活用すれば、こ れまでにない購買体験を生み出し、それ に決済(あるいは他の金融サービス)を 紐付けることができる。 Eコマース事業者や流通業者は、自ら販 売するモノやサービスと紐づけて独自の 経済圏を作るモデルを展開している。金 融に置き換えれば、カード利用と連動し た銀行の各種手数料割引やグループ優良 顧客への付帯サービス提供だ。しかし、 これらの経済圏はクローズドモデルであ る。様々なニーズを持つ顧客を魅了して シェアオブウォレットを向上させるに は、消費者に関わるライフシーンを面で 捉えたオープンなプラットフォームが必 要だ。これには、個客が自分の好みに あった受けたいサービスの種類を選択で きること、信頼感のあるAIコンシェル ジュが適正な情報を提供すること、顧客 が自身の優良度や貢献に応じた十分なメ リットを認識できること、また加盟店が プラットフォームを活用し自ら主体的に マーケティングに参加できることが重要だ。 ポーランドのm-Bank
は、独自のマーケ ティングプラットフォームを構築してい る。加盟店は顧客の位置情報をもとにリ アルタイムリコメンデーションを送信で きる。また30
秒ワンクリックローンも 提供しており、買い物時のローンニーズ を取り込んでいる。立上げ後1
年で60
万 ユーザーを獲得した。 デジタルコンバージェンスの取組みは、 我が国の重要アジェンダである地方創生 やインバウンド戦略の文脈に盛り込んで も面白い。例えば物量では大手に後塵を 拝するが地元に愛される地場優良加盟店 を巻き込んだエコシステムや、不慣れな 土地でもストレスなく特別な体験がした い外国人をターゲットとしたエコシステ ム構築などである。 変容3.
プロセッシング発展と非競争領域 のシェアード化 川下から川上へ進出していくデジタルコ ンバージェンスに対し、川上から川下に 進出する異業種を下支えしていく動きも 活発化すると考えられる。企業のマーケ ティング競争の結果、自ら決済まで行う プレイヤーがいる一方、既存のプロセッ サーを活用するケースも増加していくだ ろう。これまで委託企業は独立したサー ビスとしての決済サービスを利用してい たがこれからは、アドオンで外部API
化 されたペイメントの必要な機能を簡単に 組み込み、企業の戦略的意図が働くエコ システムが実現する形に変わっていくと 考えられる。即ち、如何に簡単に組み込 み可能かが勝敗を決める。 さらに、低価格にサービスを展開するた めには、労働集約的なペイメントのオペ レーションをデジタル化し効率化を推し 進める必要がある。また、スケールメ リットを享受するため、非競争領域は一 層の集約が必要ではないかと考えられ る。例えば、加盟店管理領域などは、加 盟店がカード会社ごとに重複しているた め、同じ加盟店に対し、複数のカード会 社が同じことを行っている。この非効率 を解消するためにはシェアードサービス 化が有効だ。例えば、加盟店の基礎情報 を管理しメンテナンスする加盟店版CIC
や、カード会社間の紛争を一定のルール に従って精算するチャージバック精算セ ンターなどの誕生が考えられる。 また長期的にはペイメントネットワーク やペイメント企業のコア精算システム は、BitCoinやRippleの根幹をなすブ ロックチェーン技術により刷新される可 能性がある。今後必要となる取組み
前述したペイメントの3つの変容の荒波 を生き残るために、従来のペイメント企 業にとっては、どのような取組みが求め られるのであろうか。 取組み1.
デジタル企業のケイパビリティ 獲得 自ら「創造的破壊」を引き起こしていく 側になるためには、まずはデジタル企業 に学ぶ必要がある。徹底的なカスタマー エクスペリエンス追求や、アイデアを形 にするためのアプローチやチーミングが 重要だ(図表2
)。簡単なものは即座に 市場の審判を仰ぎ、経営は反応の良いも のを後押しすればいい。市場を変える大 きな取組みは、徹底的なリサーチ、プロ トタイプ制作とユーザによる検証を経て 市場に投入することである。サービスデ ザインは、ビジネス・アーキテクト、カ スタマー・エクスペリエンス・デザイ ナー、エンジニア、ユーザを巻き込ん で、右脳系、左脳系をフル活用して行 う。これらの活動は、イノベーション専 門のラボを設立し、一定の予算キャップ のもと進められる。このラボへの投資 は、既存事業の舵取りの誤りによる損失 と比べれば、微々たるものだ。失敗を恐 れていては、「創造的破壊」は起らな い。例え失敗続きでも、カスタマーエク スペリエンスに関わる文化や、Fintech等 が持つ技術を形にしていくための目利き の能力が蓄積されるだろう。 取組み2.
事業の非最適化領域の洗い出し スクエアによる「創造的破壊」とは何で あったか。それまで、中小加盟店にとっ ては端末コストの高さや、導入までの時 間が長いという問題があった。これをス クエアは、端末無料や途上中心の加盟店 審査等、これまでの常識を覆すことによ り市場参入を果たした。テクノロジーを 起点とした着想はデジタル企業の専売特 許かもしれないが、事業起点の着想はペ イメント企業にしかできない。ゲーム チェンジャーとなるためには、今一度、 これまでの常識を疑って自身の事業の非 最適化領域を洗い出す必要があろう。リ スクに連動しない料率設定、顧客の希望 を反映しないリワード、自由に交換でき ないポイント等、ペイメント企業だから こそ理解している非最適化領域を見つけ ることで、顧客の潜在ニーズや新たなバ リューチェーン上のマネタイズ余地を見つ けることができるのではないか。まとめ
テクノロジーの発展を背景としたFintech
企業など新たな「創造的破壊」者が次々 と登場する中では、本稿で上げた3つの 変容以外にも様々な変化が起こりうる。 あくまでペイメント事業の中枢に位置し ビジネスを深く理解する既存プレイヤー は、デジタル企業に学ぶことで不足して いるケイパビリティを獲得し、「創造的 破壊」を取り込むことなしに、大きな成 長は得られないだろう。 最後に、弊社は世界中でペイメントの革 新を支援している。我が国においても、 世界に通用する日本発の決済サービス構 築を目指すペイメント企業を支援できれ ば、この上ない喜びである。 図表1 デジタル化に伴うペイメント市場の3つの変容 デジタル化の進展によるリアル世界とバーチャル世界の融合 ペイメント市場の変容デジタル決済エージェント
デジタル・コンバージェンス
プロセシング発展と
非競争領域のシェアード化
複数の決済手段をワンストップで提供し、 顧客が自由に選択 異業種とのエコシステム(生態系)により、 決済の川上の商流と結びつき、これまで にない購買体験を実現 外部API化された機能提供とパーコスト 低減を志向したプロセスのデジタル化、 及び非競争領域のシェアード化 クレジッ トカード 電子 マネー 統合的に管理 最適手段を選択 P2P 決済 交通 金融 不動産 通信 流通 スーパー 外食 旅行 レジャー 教育 プロセッサー 異業種 ・・・ ・・・5
ペイメントの将来展望
デジタル化の進展に伴い、リアル世界と バーチャル世界の垣根はなくなる。この 潮流の中で起こりうるペイメントの3
つ の変容について解説する(図表1
)。 変容1.
デジタル決済エージェント 現在様々な決済手段が市場に投入されて いる。代表的な決済手段は以下のもので ある。 · コンタクトレス・カード 欧州で急速に拡大 · モバイルペイメントApple Payユーザは米国で80万人を突破
·ID
決済 オンラインからリアルへ進出 決済代行会社による情報集約 · P2P決済 個人間やアカウント間の送金 銀行による開発が盛ん · デジタルカレンシーBitCoin
やRipple
による決済トランザク ションコストの低減や種類の異なる電 子マネー・ポイントの自由交換の可能 性あり このように新たな決済手段が次々と登場 する中、複数の決済手段を統合する動き もある。イギリスのZappは、オンライ ン決済時にモバイル認証を活用する等、 シーンに応じて決済手段(NFC/QR/オン ライン)を使い分けることができる。こ のような取組みは加速し、最終的には決 済手段をワンストップで提供し、顧客が 自由に選択できるデジタル決済エージェ ントと呼ばれる存在が登場するだろう。 デジタル決済エージェントは、複数の決 済手段のハブとなり顧客のシェアオブ ウォレット(顧客の推定総決済額に占め る自社での決済額の割合)を集約する。 デジタル決済エージェントにより消費者 は以下のような利便性を享受できる。例 えば、ア)複数のデジタルバリューの交 換、イ)セキュリティを気にせず、オン ライン・リアルとも一つのアカウントに 決済を集約、ウ)リワードやコストな ど、様々な条件を比較し最も有利な決済 手段を選択、等だ。 しかしながら、デジタル決済エージェン トの登場は、決済自体の利便性は高める ものの、消費者に乗換えを促進するには 不十分だ。そこで、次に紹介する購買体 験そのものを変えるデジタルコンバー ジェンスが重要になってくる。 変容2.
デジタルコンバージェンス デジタルコンバージェンスとは、異業種 とのエコシステム(生態系)により、決 済の川上の商流と結びつくことで、従来 にないサービスを提供することだ。ペイ メ ン ト 企 業 に と っ て は 、 自 社 決 済 ソ リューションへの集約と、異業種に顧客 を送客することによる新たな収益源の確 保(あるいは消費者への還元)という意 味を持つ。 デジタルの世界では、情報を集約し個客 の文脈を捉えた提案ができれば、直接の モノやサービスの提供者でなくとも、顧 客に価値ある情報提供が可能だ。これま で の 決 済 だ け で な く 、 決 済 前 後 の バ リューチェーンにおいて幅広いサービス が提供可能になる。例えば、ア)店舗に 行く前にタイミングよく自分にあったお 得情報が得られる、イ)買い物中はリッ チな商品情報や口コミを確認しながらお 店(・商品)を選べる、ウ)買い物後は 気に入ったお店(・商品)のお気に入り 登録や、買い逃した関連商品をオンライ ンで簡単に購入できる、等だ。このよう にデジタルの力を最大限活用すれば、こ れまでにない購買体験を生み出し、それ に決済(あるいは他の金融サービス)を 紐付けることができる。 Eコマース事業者や流通業者は、自ら販 売するモノやサービスと紐づけて独自の 経済圏を作るモデルを展開している。金 融に置き換えれば、カード利用と連動し た銀行の各種手数料割引やグループ優良 顧客への付帯サービス提供だ。しかし、 これらの経済圏はクローズドモデルであ る。様々なニーズを持つ顧客を魅了して シェアオブウォレットを向上させるに は、消費者に関わるライフシーンを面で 捉えたオープンなプラットフォームが必 要だ。これには、個客が自分の好みに あった受けたいサービスの種類を選択で きること、信頼感のあるAIコンシェル ジュが適正な情報を提供すること、顧客 が自身の優良度や貢献に応じた十分なメ リットを認識できること、また加盟店が プラットフォームを活用し自ら主体的に マーケティングに参加できることが重要だ。 ポーランドのm-Bankは、独自のマーケ ティングプラットフォームを構築してい る。加盟店は顧客の位置情報をもとにリ アルタイムリコメンデーションを送信で きる。また30秒ワンクリックローンも 提供しており、買い物時のローンニーズ を取り込んでいる。立上げ後1年で60万 ユーザーを獲得した。 デジタルコンバージェンスの取組みは、 我が国の重要アジェンダである地方創生 やインバウンド戦略の文脈に盛り込んで も面白い。例えば物量では大手に後塵を 拝するが地元に愛される地場優良加盟店 を巻き込んだエコシステムや、不慣れな 土地でもストレスなく特別な体験がした い外国人をターゲットとしたエコシステ ム構築などである。 変容3.
プロセッシング発展と非競争領域 のシェアード化 川下から川上へ進出していくデジタルコ ンバージェンスに対し、川上から川下に 進出する異業種を下支えしていく動きも 活発化すると考えられる。企業のマーケ ティング競争の結果、自ら決済まで行う プレイヤーがいる一方、既存のプロセッ サーを活用するケースも増加していくだ ろう。これまで委託企業は独立したサー ビスとしての決済サービスを利用してい たがこれからは、アドオンで外部API化 されたペイメントの必要な機能を簡単に 組み込み、企業の戦略的意図が働くエコ システムが実現する形に変わっていくと 考えられる。即ち、如何に簡単に組み込 み可能かが勝敗を決める。 さらに、低価格にサービスを展開するた めには、労働集約的なペイメントのオペ レーションをデジタル化し効率化を推し 進める必要がある。また、スケールメ リットを享受するため、非競争領域は一 層の集約が必要ではないかと考えられ る。例えば、加盟店管理領域などは、加 盟店がカード会社ごとに重複しているた め、同じ加盟店に対し、複数のカード会 社が同じことを行っている。この非効率 を解消するためにはシェアードサービス 化が有効だ。例えば、加盟店の基礎情報 を管理しメンテナンスする加盟店版CIC や、カード会社間の紛争を一定のルール に従って精算するチャージバック精算セ ンターなどの誕生が考えられる。 また長期的にはペイメントネットワーク やペイメント企業のコア精算システム は、BitCoinやRippleの根幹をなすブ ロックチェーン技術により刷新される可 能性がある。今後必要となる取組み
前述したペイメントの3つの変容の荒波 を生き残るために、従来のペイメント企 業にとっては、どのような取組みが求め られるのであろうか。 取組み1.
デジタル企業のケイパビリティ 獲得 自ら「創造的破壊」を引き起こしていく 側になるためには、まずはデジタル企業 に学ぶ必要がある。徹底的なカスタマー エクスペリエンス追求や、アイデアを形 にするためのアプローチやチーミングが 重要だ(図表2
)。簡単なものは即座に 市場の審判を仰ぎ、経営は反応の良いも のを後押しすればいい。市場を変える大 きな取組みは、徹底的なリサーチ、プロ トタイプ制作とユーザによる検証を経て 市場に投入することである。サービスデ ザインは、ビジネス・アーキテクト、カ スタマー・エクスペリエンス・デザイ ナー、エンジニア、ユーザを巻き込ん で、右脳系、左脳系をフル活用して行 う。これらの活動は、イノベーション専 門のラボを設立し、一定の予算キャップ のもと進められる。このラボへの投資 は、既存事業の舵取りの誤りによる損失 と比べれば、微々たるものだ。失敗を恐 れていては、「創造的破壊」は起らな い。例え失敗続きでも、カスタマーエク スペリエンスに関わる文化や、Fintech等 が持つ技術を形にしていくための目利き の能力が蓄積されるだろう。 取組み2.
事業の非最適化領域の洗い出し スクエアによる「創造的破壊」とは何で あったか。それまで、中小加盟店にとっ ては端末コストの高さや、導入までの時 間が長いという問題があった。これをス クエアは、端末無料や途上中心の加盟店 審査等、これまでの常識を覆すことによ り市場参入を果たした。テクノロジーを 起点とした着想はデジタル企業の専売特 許かもしれないが、事業起点の着想はペ イメント企業にしかできない。ゲーム チェンジャーとなるためには、今一度、 これまでの常識を疑って自身の事業の非 最適化領域を洗い出す必要があろう。リ スクに連動しない料率設定、顧客の希望 を反映しないリワード、自由に交換でき ないポイント等、ペイメント企業だから こそ理解している非最適化領域を見つけ ることで、顧客の潜在ニーズや新たなバ リューチェーン上のマネタイズ余地を見つ けることができるのではないか。まとめ
テクノロジーの発展を背景としたFintech
企業など新たな「創造的破壊」者が次々 と登場する中では、本稿で上げた3つの 変容以外にも様々な変化が起こりうる。 あくまでペイメント事業の中枢に位置し ビジネスを深く理解する既存プレイヤー は、デジタル企業に学ぶことで不足して いるケイパビリティを獲得し、「創造的 破壊」を取り込むことなしに、大きな成 長は得られないだろう。 最後に、弊社は世界中でペイメントの革 新を支援している。我が国においても、 世界に通用する日本発の決済サービス構 築を目指すペイメント企業を支援できれ ば、この上ない喜びである。 図表2 デジタル企業のアプローチとチーミング
Research & Analytics
Ideation
Prototyping
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