論文審査の結果の要旨
氏名:鳥 越 剛
博士の専攻分野の名称:博士(歯学)
論文題名:BzATP induces extracellular matrix proteins synthesis via the PYK2-ERK pathway (BzATPはPYK2-ERK経路を介して細胞外マトリックスタンパク合成を促進する)
審査委員:(主 査) 教授 髙 橋 富 久
(副 査) 教授 清 水 典 佳 教授 白 川 哲 夫
教授 鈴 木 直 人
メカニカルストレスは成人において骨量の維持や骨の強度に影響を及ぼす主要な因子であり,医科 及び歯科領域で骨折の治療や矯正歯科治療に応用されている。アデノシン三リン酸 (ATP) は,伸展,
流水剪断,培地交換あるいは浸透圧等のメカニカルストレスによって様々な細胞で細胞外に放出され,
Gタンパク共役型受容体のP2Yファミリーやリガンド依存性チャネル型受容体であるP2Xファミリー の ATP 結合 プリ ン作 動性 受 容体 に結 合し ,様 々な 生 物活 性を 誘導 する こと が 知ら れて いる 。 2′(3)-O-(4-Benzoylbenzoyl)adenosine-5′-triphosphate (BzATP) はチャネル型受容体であるP2X7受 容体の特異的アゴニストであり,BzATP がマウス由来骨芽細胞において骨形成を誘導することが報告 されている。マウス頭蓋冠由来株化骨芽細胞様細胞 (MC3T3-E1細胞) を用いた in vitroの実験で,
伸展力や低出力超音波が P2X7 受容体を介して細胞外マトリックスタンパク (ECMP) の発現及び骨形 成を促進することが報告されている。また,proline-rich tyrosine kinase2 (PYK2) はインテグリン のシグナル伝達に関与し,またインテグリンはメカニカルストレス誘導性ERKによって活性化される。
しかしながら,骨芽細胞のECMP発現におけるBzATPとPYK2との相互作用については明らかにされて いない。そこで本研究は, BzATPによって誘導される骨芽細胞のECMP産生に対するPYK2の影響を細 胞生物学的及び分子生物学的に検討した。
MC3T3-E1細胞を6ウェルプレートに播種した後,BzATPおよびPYK2阻害剤PF431396の存在または 非存在下で,最大14日間培養した。培地は3日おきに交換した。ECMPであるtype I collagen (Col I),
bone sialoprotein (BSP),osteopontin (OPN),osteocalcin (OCN) の遺伝子発現は real-time PCR 法で,またこれらのECMPのタンパク発現とPYK2およびERKのリン酸化 (p-PYK2とp-ERK) はWestern blotting法で調べた。
その結果以下の結果を得た。
1. 培養3,7日目においてBzATPはコントロールと比較してp-PYK2の発現を有意に増加させた 2. BzATPはコントロールと比較してp-ERKを有意に増加させる一方で,PYK2阻害剤PF431396の添加
はp-ERK2発現に対するBzATPの影響を抑制した。
3. BzATPはコントロールと比較してCol I,BSP,OPNおよびOCNのmRNA発現を有意に増加させた。
一方で,PYK2阻害剤PF431396はCol I,BSP,OCNのmRNA発現に対するBzATPの影響を抑制した。
また,タンパク発現も同様の結果が得られた。
以上のことから,メカニカルストレスによって産生されるATPはPYK2-ERK経路を介してECMPの発 現を誘導する可能性が考えられた。また,この経路にインテグリンが関与していることが示唆された。
本論文は矯正治療における歯の移動のメカニズムを明らかにする上で重要な基礎的知見を提供す るものである。
よって本論文は,博士(歯学)の学位を授与されるに値するものと認められる。
以 上 平成30年3月7日